『怪奇!!これで三件目』
『GS連続襲撃事件!!』
『オカルトGメン、GS協会に抗議殺到!!』
「まったく。世も末よね」
東京の一角。GS事務所で、事務所の主、美神令子は新聞を机に投げ置く。
「GSとはいえ、生身の人間ですからね」
少女が主の机にお茶を置きながら話す。
「まあ、私は大丈夫よ、おキヌちゃん。これでも、一流のGSだからね」
実際に被害に遭っているGSは資格こそ持っているが、レベル的にはまだまだ下っ端だ。
「あ、そういえば横島クンは?」
「横島さんですか?えーっと」
何故か、口を濁す。その視線の先には、美神と同じく新聞を読む横島の姿がある。
「あー、やっぱり、ええ女や」
横島が読んでいる新聞。それには、
『GSミラー大活躍!!』
『GS協会会長、特例で彼女に免許を!!』
と、大きく書かれている。
GSミラー。ここ一ヶ月の間に現れたGS。本名等は一切不明。しかし、その圧倒的な美貌に加え、極安料金、仕事の確実性が評判となり、一気に大ブレークした。しかし、彼女自身にはGS免許が無いため、一応は非合法である。
「でも、GS免許なんてあって無い物でしょう?」
その一言も物議をかもした。事実、彼女の実力は一流のGSと比べても遜色ないものであり、特例として先日彼女に免許が渡されることになった。その授与式が明日に控えていた。
「まあ、強いGSが多い越したことは無いけど。気に食わないわね」
彼女の活躍とともに、美神の所に来る仕事の量は減少している。
「やっぱり、値段ですかね?」
そう呟いた男に思いっきりスリッパを投げつけた。
「まったく!安ければいいって物じゃないでしょう!!」
その時、呼び鈴が鳴った。
「はーい」
おキヌが扉を開けると、一人の少女が立っていた。茶色い長い髪を横で二つに束ね、高校指定のブレザー姿をした彼女は、横島達と同年齢だろう。
「初めまして」
一礼し、顔を上げる。眼鏡をかけているのが印象的だ。
「あの、この度隣のビルに越してきたものですが」
と、名刺を渡す。そこには、
『オフィス・ミラー』
と書かれていた。
「ミラー?まさか、GSミラー?」
「はい。私は先生の秘書を務めています、玉城と申します」
よりによって、隣に越してきたのがライバル業者。それも、美神とは対照的な安さを売りにした。
「じゃあ、よろしくお願いします」
玉城はそのまま帰っていった。
「ど、どうしましょう!!」
「よりによって、隣に来るとは」
美神はしばらく考え、引出しより一台のビデオカメラを出す。
「横島クン」
と、そのカメラを渡す。
「そのカメラで、GSミラーとかいう小娘を撮影してきなさい」
「は、まあ、いいですけど。これがスイッチですか?」
スイッチを押すと、弾丸が飛び出し、壁に穴を空ける。
「ち、気づいたか?」
「勝手に人をヒットマンにしないでください。っていうか、この方法は前にも使わせようとしたでしょう?」
横島が抗議を上げている声を横に、おキヌは台所へと向かう。手には、横島が先ほどまで読んでいた新聞を持つ。
「GSミラーか」
年のころはあまり変わらない。20歳はいっていないだろう。
しかし、彼女がこうしてスターへの道を登っているのも美貌だけではないことはわかる。突如彗星のごとく現れ、圧倒的な力を見せ付ける。まるで、ドラマのようだ。
お茶を入れるついでに、ポストを覗くと数枚の広告と二枚の封書が入っていた。広告はいつもと大した違いはない。しかし、封書は少し違っていた。どちらも同じ封筒で宛名が『美神令子様』『横島忠夫様』となっていた。差出人はどちらも同じ。『GS協会』からであった。
「ふーん。GS協会からね」
一通りやり取りが終わったのか、おキヌが入れたお茶を飲みながら封筒を開ける。
「出頭命令っすか?」
「・・・・・。どれがばれたのかしら?」
今の一言は聞かなかったことにしよう。うちは健全なGS事務所です。
「違うわね。今度GSミラーに免許を授与する式典への案内状よ」
そこには、ホテルの場所と日時が記されていた。そして、ご丁寧にホテルの受付の場所まで明記されていた。
「どうします?行きますか?」
「行ってお金がでるわけではないでしょうけど」
美神は数秒考える。
「面白そうね。一度お話してみたかったのよ」
式典当日。
美神と横島は定刻より30分早めに会場に到着した。おキヌには案内状が来なかったため、事務所で留守番をしている。もっとも、大々的にTVでも中継されることから、様子を見ることはできる。
「こんにちは」
受付に案内状を渡す。定刻より早かったせいか、周りには誰もいない。受付も一人の少年が座っているだけだ。
「はい、美神様と横島様ですね」
「ええ。でも、あなた受け付けの案内くらい机に貼っておいたら?これじゃあ、誰も解らないわよ?」
少年が酷く暗そうだという意外は、結婚式の受付と大した違いはない。横島は、その少年を不思議そうに眺める。年は横島と同じくらいであろう。もしかしたら、同級生なのかと思い、受付から離れたところでたずねる。
「知り合い?」
「いえ。ただ・・・」
後方を振り返っても、受付の周りには誰もいない。
「さすがGS協会だと思って」
「?」
「あいつ、俺と大して年の差もないだろうし、前回の大戦にも参加していなかったのに・・・」
アシュタロスとの戦いが思い出される。しかし、そこで美神たちは思考を止めた。いや、止めざるを得なかった。
「ああ、令子ちゃん!!
前方から冥子がやってきた。
「令子ちゃんも興味があるんだ。GSミラーちゃん」
「興味はないわよ、あんな小娘自体には!」
誰も好き好んでは来ない。そう言いたかったが、言ったら負けなような気がして、その先は飲み込んだ。
「やあ、横島クン」
この声は、
「西条!!」
思わず身構える。
「まあまあ、そう警戒しなさんな」
そういう西条の手には、霊剣ジャスティスが握られている。
「まあ、今回は特例中の特例で、試験も未受験のモグリのGSに免許を与えるわけだからね。僕はその式典に潜り込んだ怪しい奴を取り締まるパトロール中さ」
しかし、その目は確実に横島をロックオンしている。
「何だよ、その目は」
目線に気づいて、問いかける。
「一番怪しいのは、君だからな」
小声でつぶやいたつもりだろうが、丸聞こえだ。
「聞こえているぞ!!」
横島が切りかかろうと(本人は正当防衛として処理するつもりだった)した時、アナウンスが流れる。
『まもなく定刻となります。GSミラーに対するGS免許授与式を開始します』
「命拾いしたな」
「それは、君だろ?」
いつの間にか拳銃も構えていた西条はその言葉を最後に、後方へと歩き出す。その先には、メタボリック一直線の男性が立っていた。
「あれ?あの人って?」
「知らないの?令子ちゃん。今のGS協会会長の、佐藤博さんよ」
そういえばどこかで見たことあると思ったら、最近ワイドショーなんかにもよく出ている人だ。GSミラーへの免許授与に関して、熱く語っていた。
「今は変革期です。悪霊を退治するのに必要なのは免許ではない、力です」
「力を持っているからこそ、試験に受かるのです。力を持った者がGSになれなくて、何のための制度ですか?」
「私は彼女に免許を与えることは、正しいと信じています。たとえ、どんな反対があろうとも」
しかし、それが彼の本音のすべてではないだろう。彼は最近失墜し気味な自分への求心力を取り戻したいのだろう。その旗印に彼女を利用する気だろう。
ふと振り返ると、先ほどまであった受付は撤去されていた。
「お早いことで」
いかにもお役所仕事だと感じた、