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まりちゃんとかおりちゃん

エピローグ こんにちは……!


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 3/ 9

 
 一度は脱出の機会があった横島が、わざわざ魔族三姉妹のところに戻ったのは、密偵という任務を帯びていたからである。
 オカルトGメン内に対アシュタロス特捜部が設置され、時間を跳躍してやってきた美神美智恵がリーダーとなっていた。横島は、奈室安美江襲撃の際に美智恵と出会う。そこで連絡用の通信鬼も渡されて、以後、彼女の命令で人類のためにスパイ活動を行っていたのだ。だから、クワガタ投手が襲われた際、西条が待ち受けていたのも偶然ではない。あらかじめ知らされていたからだった。
 しかし、横島にとっては、任務なんて小さな理由でしかない。彼が三姉妹の部下として留まった最大の理由は、やはり、おキヌである。彼女を守るためにこそ、横島は敵戦艦に残ったのだった。
 だから。
 おキヌも一緒に解放してもらえるというのであれば、もはや、留まる必要はなかった。美智恵の命令など無視して、二人で脱出してしまう。
 そして、都庁地下に用意された対策本部へと駆け込むのだった……。




    エピローグ こんにちは……!




「ごめんなさい、美神さん!
 横島さん、本当は美神さんと
 結婚するはずだったんです。
 でも、私のおなかの中には、
 もう赤ちゃんもいるんです!!
 だから……私にください!!」

 出迎えた美神たちを前にして、おキヌが最初に口にした言葉が、これであった。
 一同、大騒ぎである。
 まず、美神たちと横島が連絡を取り合っていたとはいえ、交わされたのは、必要最小限の情報のみ。言うのを躊躇する気持ちもあって、横島は、おキヌを孕ませたことを、皆に告げていなかった。
 だから、『赤ちゃん』の件だけでも十分に爆弾発言なのだ。
 それに加えて、『横島と美神が結婚するはずだった』と言ったのだから、もう無茶苦茶である。

「いっ!? おキヌちゃん……!?」
「横島クン!! あんた、まさか……!?」
「令子ちゃんと横島クンが結婚!?」
「ちょっと……! みんな落ち着いて!!」

 とりあえず、この場を静めるために一喝する美智恵。彼女だって全く状況を把握していないが、まずは、冷静に話をすることが必要だった。

「私……本当は、この時代の私じゃないんです。
 未来からきたんです……!!」

 美神に対して頭を下げながら、おキヌは、正直に全てを告白し始めた。


___________


「どう思う、ママ……!?」

 話し疲れたおキヌを休ませてから、美神は、母親と二人で、聞かされた内容を検討していた。
 二人の前にはコーヒーが出ているが、間違っても、くつろぎのティータイムなどではない。

「どうって……?」
「ママは信じられるの、おキヌちゃんの話?」
「……令子は!?」

 実は、美神自身は、おキヌが語ったことを完全に信じたのだった。

(私たちの本来のおキヌちゃんじゃなくて、
 未来からやってきた別のおキヌちゃん。
 ……違和感の正体は、これだったのね)

 おキヌが事務所に復帰後、どうも以前とは違うと感じていた美神である。しかし、約十年分の知識と経験がおキヌに備わっているのだとしたら、その違和感も解消するのだ。むしろ、全てがピタッと符合する気分になっていた。
 娘の表情を見て、美智恵にも、美神の気持ちが分かったらしい。だから、うなずいただけで、話を続けた。

「……私もそう思うわ。
 それで……どうする?
 令子……
 きちんと、おキヌちゃんを受け入れられるかしら?」

 これは、少し厳しい質問であった。
 美神から見れば、今、同じ建物で休んでいるおキヌは、自分たちのおキヌではないのである。おキヌの肉体を、別のおキヌが乗っ取った形なのだ。
 再び娘の思考を察したらしく、美智恵が、軽くアドバイスする。

「令子にとって……私はママよね?」
「……えっ!?」
「私は、この時間軸の『美智恵』ではないけれど、
 でも、あなたの母親です。
 令子も、そう接してくれているわね……?」
「……うん」

 美智恵が時間移動してきたのは、これが初めてではない。そして、今回も前回も、過去からきた美智恵は、美神にとって『ママ』だった。

(でも、それは事情が違う……)

 と、美神は内心で反論する。
 美智恵は、この時代の本来の美智恵に憑依したわけではない。おキヌのケースとは別なのだ。そう考えた美神だったが、ここで、ハッとする。

(あ! 私だって、
 前に同じことやってるんだわ……!!)

 母親同様、美神も、時間移動能力者だ。そして、中世ヨーロッパの事件において、少々変わった時間移動をしている。少し前の時間へジャンプし、過去の自分になってしまったことがあったのだ。

(あれも……その時間軸の私の魂を
 追い出しちゃったことになるのかしら?)

 美神は、頭を横に振った。
 当時のことを思い出しても、そこに罪悪感は無い。

(私は私だった……。
 だから、おキヌちゃんもおキヌちゃんなのね……)

 それでも、美神としては、まだ釈然としない感情が残る。

「だけど、私たち……
 おキヌちゃんに、だまされてきたことになるのよね?」
「令子……」

 美神の目の前で、美智恵が苦笑している。いかにも美神らしい発言だと思ったのだろう。

「そりゃあ簡単に言える話じゃなかったんでしょう?
 ……未来では、ずいぶんと
 令子に追いつめられたみたいだしね」
「……そ、それは私じゃないわよ!?」

 美智恵の言葉は、一見、おキヌに肩入れしているようでもある。だが、そうではない。事態をこれ以上混乱させることなく、なんとか上手くまとめようとしているだけだ。
 美神は、そう考えた。
 だから、母親の言葉を、なるべく素直に受け入れようとする。

「……だって、おキヌちゃんに『忘』文珠を渡したのよ!?
 いったい何考えてたのかしら、その『私』って!?
 ……そんなの、どう見たって私じゃないわ。
 きっと、横島クンと結婚することになって、
 頭がヘンになっちゃったのね。
 いや、そもそもおかしくなってたからこそ、
 横島クンなんかと結婚する気になったのかしら……?」
「令子……。
 横島クンのことを、そんなに悪く言ってはダメよ?
 あなただって、今まで
 色々と助けてもらってきたんでしょう?」

 美智恵は、理解している。美神は、ワザと横島の悪口を言っているのだ。心の中に深くしまってきた横島への想いを、今、あきらめないといけないから。
 しかし、美神自身は、案外分かっていなかった。あまりに深い奥底に隠しすぎたのだ。ただし、母親が想像していることは、決して間違ってはいない。こうして、美神の中のメフィストの残思は、千年の想いにケリをつけようとしていた。

「それはそうなんだけど……。
 でも、やっぱりシャクに触るのよねえ。
 だって……
 これじゃ私、全く別の『未来の私』の
 尻拭いをしているようなもんじゃない?」

 とりあえず、美神は、おキヌを受け入れることに決めたようだ。そう感じて、美智恵は安心する。
 一方、美神は、

(はあ……。
 横島クンが父親になるのか……。
 いつまでも安いバイト代で
 見習いとしてコキ使うわけにもいかないわね)

 と、自分のモヤモヤとした不快感の正体を、『お金』ということで説明しようとしていた。


___________


「横島さん……!?」

 しゃべり疲れて少し眠ってしまったおキヌだったが、ふと目を覚ますと、傍らに愛しい彼が座っていた。

「あっ。
 ごめん、おこしちゃったかな?
 ……今は、ゆっくり寝てていいよ」

 おキヌに対して、やさしく微笑みかける横島。
 そんな彼を見て、おキヌは、胸がチクッと痛んだ。

「あの……ごめんなさい」
「えっ!?」
「今まで黙っていて。
 私……私……」

 おキヌは、言葉を続けられない。横島を正視することも出来なかったのだが、

「おキヌちゃん……」
「横島さん……!?」

 彼がソッと手を握ってくれたので、顔を上げた。
 おキヌに伝わる、横島の手の温もり。そこに、憤慨や拒絶といった否定的感情はなかった。

「……許してくれるんですか?
 でも、私は……本当は……」
「……?
 許すも何も……。
 おキヌちゃんはおキヌちゃんだろ?」

 おキヌの言いたいことを察知して、横島が答えた。しかし、これだけでは不十分である。横島にも分かっていたので、精一杯の言葉で補足する。

「それにさ……」
「……?」
「幽霊時代の記憶が戻った時点で、
 今のおキヌちゃんだったんだろ?」
「そうですけど?」
「だったら、幽霊屋敷の事件で
 『大好き』って言ってくれたのは
 ……今のおキヌちゃんだよな?」
「はい」

 おキヌには、まだ横島の意図は伝わっていない。だから、ただ、素直に返事をするだけだ。

「俺……たしかに、幽霊だった頃の
 おキヌちゃんも好きだったよ?
 だけど……。
 俺が惚れたのは……あの館の中の……
 あの時のおキヌちゃんだから!
 だから……」
「ありがとう、横島さん……!!」

 これでおキヌにも、横島の気持ちが理解出来た。それ以上聞く必要はなかった。
 自分の発言に照れた男と、うれし涙をポロポロこぼす女は、ごく自然に口づけを交わす。

「横島さん……」
「……?」

 しばらくして、ゆっくりと唇を離したおキヌは、再び口を開いた。

「でも……私、やっぱり謝らなきゃ。
 ごめんなさい、長い間、隠しごとしてて……」
「いいさ、それは、もう。
 ほら、恋人同士だって、
 秘密の一つや二つくらい……な?」

 と、横島が笑顔で対応した時。
 バタンとドアが開いた。

「聞こえたぞ、今の発言!」

 西条である。

「おキヌちゃん、
 ここでウンと言ってはいけないよ?
 秘密OKにしてしまうと、
 彼は、絶対浮気に走るからね!」
「ええっ、そんな!?」
「おいっ、西条!?」

 そして、西条は、横島に近寄って耳打ちした。

「ちゃんとおキヌちゃんを幸せにするんだぞ?
 そのかわり……
 令子ちゃんのことは僕に任せたまえ!!」


___________


 一方、美神母娘は、まだ二人で相談していた。

「おキヌちゃんから得た『歴史』の情報、
 うまく使わないとね……」

 おキヌの干渉で、歴史も色々と変わってしまったらしい。それでも、一度アシュタロスの最終計画がスタートした後は、大まかな流れは記憶どおりだったようだ。
 美神も美智恵も、時間移動能力者である。歴史が持つ復元力のことは、ある程度、理解していた。

「アシュタロスの侵攻が早まっても、
 それでもママが適切な時期に来られたのって……
 歴史の復元力なのよね?」
「そうでしょうね。
 だから、この先も……
 おそらく『歴史』どおりになるのでしょう」

 南極まで出かけることになり、そこで一度はアシュタロスを退ける。しかし実は死んでいなかったアシュタロスが、『宇宙のタマゴ』を利用して美神の魂を獲得。『コスモ・プロセッサ』を稼働させるが、世界全体を改変させることには『宇宙意志』が干渉する。一方、美神も、うまく復活する。そして、アシュタロスは、『究極の魔体』まで持ち出したものの、最終的には滅び去る。
 それが、おキヌが語ったストーリーだった。

「でも、イヤね。
 魂とられちゃうというのは、ちょっと……」

 娘の言葉に、美智恵も、うなずいた。
 どこまで『歴史』どおりになるのか、定かではないのだ。美神の魂を奪われた後で取り返せる保証がない以上、そうした事態は避けたかった。

「実現して欲しくない部分も多いわね。
 少しずつ『歴史』に抵抗していきましょう」

 アシュタロスがチャンネル遮断出来るのは、せいぜい一年。だから、時間切れ勝利を狙えるならば、それが一番よかった。
 まずは南極戦である。そこへ行かないようにするために、二人は、すでに策を取り始めていた。
 妖蜂の襲撃に備えて、除霊スプレー『魔族コロリ』を用意。また、核ジャック対策として、核保有国にあらかじめ警告した。
 この二つが、美神が南極まで行くハメになる理由なのだ。これで上手くいけばいいのだが……。

「一応、ダメだった場合のことも考えておくべきね」

 南極へ行くならば、そこでアシュタロスを倒してしまいたい。
 しかし、おキヌの話を聞いた上でも、まだ有効策は浮かばなかった。彼女の知る歴史の中で最終的にアシュタロスを倒せたのは、宇宙意志の助けがあってこそなのだ。

「とりあえず……。
 おキヌちゃんの記憶どおり、
 横島クンと令子が同期合体すること。
 これは必須ね……。
 それから、三姉妹程度は抑えられるように、
 仲間を集めて、そのための戦法を訓練しておくこと。
 ……今は、それくらいかしら?」


___________


「あ……あ、
 あの女どもはどこだ……!?」
「今度はやっつけてやりますノ〜〜!!」
「お……おまえら……。
 ナンパの恨みはらすために、ここまで来たのか?」

 防寒服を着た男三人、雪之丞とタイガーと横島が、そんな会話を交わす。

「そんなこと〜〜どうでもいいの!!
 こんなところでウロウロしてたら〜〜
 死んじゃう〜〜!!」

 と言う六道冥子も、同じ服装である。
 ここにやって来たのは、他に、美神、小笠原エミ、西条、唐巣神父、ピート、マリア、ドクター・カオス、そして美智恵だった。妊娠中のおキヌは残してきたが、他のメンバーは勢揃いである。なお、アンドロイドのマリア以外、皆、同じ格好だ。
 妖蜂は防ぐことが出来たが、核は奪取されてしまい、結局、南極まで誘い出されたのだった。

 キィィィィン!!

 道案内の蝶が輝き、異界空間への入り口が出現する。
 その蝶が中に入ると、蜂とホタルもやってきて、魔族三姉妹の姿に変わった。

『この先は、私とベスパが案内します。
 じゃ、パピリオ!
 しっかり役目、果たすのよ?』
『大丈夫でちゅよ、ルシオラちゃん』

 パピリオの口調には、生来の陽気さは伴われていなかった。


___________


 異界空間にそびえ立つ巨大な塔。
 その中で、アシュタロスは待っているのだ。
 呼び出された美神だけでなく、なんとか横島も押し込むことに成功したGSたち。出来れば自分たちも突入したかったが、彼らの前に、パピリオが立ちはだかった。

「あなたのことは、おキヌちゃんから聞いています。
 なんとか助けたいの。だから……」

 美智恵が説得を試みるが、パピリオは、首を横に振る。

『モモちゃんの名前を……出さないで下さい』

 パピリオは、少し悲しげな表情を見せた。

『黙って通すわけには、いかないんでちゅ……。
 でも、おまえたちの気持ちもわかるんでちゅよ?
 だから……戦って、この私を倒して下さい!』


___________


(やっぱり人間って凄いんでちゅね……)

 今、パピリオは、手足を大の字に広げて、空を見上げていた。
 彼女は、負けたのである。
 GSたちは、強力な敵を相手にするために、それぞれが役割を分担して戦った。
 唐巣が聖なる力を借りて、エミが呪法を利用して、そして、冥子が式神を駆使して。これで、三重の複合バリアが出来上がる。
 そして、攻撃力も尋常ではなかった。まず、ヒャクメから借り出した『心眼』を西条が使い、パピリオの動きを観察。タイガーの精神感応力が全員をテレパシーでつなげたため、情報は即座に美智恵へと転送される。美智恵が頭脳となり、攻撃役の三人、マリアと雪之丞とピートを使う。彼女の豊富な経験も活かされて、隙のない攻撃となったのだった。

(これでよかったんでちゅね……)

 もちろん、いくら策を練っても、人間は人間だ。一撃ごとのダメージそのものは小さかった。しかし、それが蓄積された結果、パピリオは、起き上がることも出来ない状態となったのだ。

(さようなら……モモちゃん……)

 パピリオは、最後に、おキヌのことを思う。
 そう、もう『最期』なのだろう。大きな注射器を持ったカオスが迫ってくるのが、パピリオには見えていた。

(ごめんなさい……
 今まで、ひどい扱いをしちゃったペットたち……)

 ブスゥッと注射されて、意識を失うパピリオ。
 しかし、彼女は知らなかったのだ。これが致死性の毒薬などではなく、眠り薬であるということを。


___________


 一方、ルシオラとベスパに案内されて、美神と横島は、アシュタロスのもとへと辿り着いていた。

『……神は自分の創ったものすべてを愛するというが
 低級魔族として最初に君の魂を作ったのは私だ』

 それが、アシュタロスの第一声だった。

『よく戻ってきてくれた、我が娘よ……!!
 信じないかもしれないが、愛しているよ』 
「み……美神さん!?」

 横島は、美神の異常に気づく。
 彼女の脚がガクガク震えているのだ。こんな美神、今まで見たことがない。

『おまえは私の作品だ。
 私は「道具」を作ってきたつもりだったが……
 おまえは「作品」なのだよ。
 このちがいがわかるか?』

 アシュタロスは、美神たちを見下ろす位置から問いかけた。
 そして、答を待たずに、一方的に話を続ける。

『道具はある目的のために必要な機能を備えている……
 ただそれだけのものだ。
 一方、「作品」には作者の心が反映される』

 黙ったままの美神と横島に向かって、アシュタロスは、階段を降り始めた。

『おまえは私が意図せず作った作品なのだよ』
「ふ……ふざけるな……」
「……横島クン!?」

 横島のつぶやきは、小さなものだった。隣の美神には聞こえたが、まだ距離があるアシュタロスの耳には入らない。だから、彼は、話を続けてしまう。

『おまえは私の子供……私の分身なのだ』

 ここで、横島が大声で叫ぶ。

「ふざけるなーッ!!」
『無粋なヤツだな……。
 父と娘の対話に口を挟まんで欲しいな?』

 アシュタロスが、気を悪くしたような表情を見せる。
 しかし、怒っているのは横島のほうだった。

「『父と娘の対話』だと……!?
 何言ってやがる!!
 おまえの言ってることは……違う!!
 うまくは言えないが……でも、
 違うってことだけは、わかるぜ!!」

 横島は、アシュタロスを睨みつける。その視線には、強固な意志がこめられていた。

「『道具』だと……!?
 『作品』だと……!?
 そんなこと言ってるヤツに、
 『娘』という言葉を使う資格はねえ!!」
『……なっ!?』
「よ……横島クン!?」

 横で聞いている美神が驚くほどの気勢だった。しかし、おかげで、美神の金縛りが解ける。
 一方、彼女に呼びかけられて少し落ち着いたのだろうか、彼の口調は、やや冷静なものに変わる。

「まだ若い俺だけど……
 今度、娘が生まれるんだ」
「あんた……
 決戦前にそんな話すると……」

 だが、美神のツッコミも、彼の言葉を止めることは出来ない。

「だから、俺にはわかる。
 娘を『道具』や『作品』あつかいするヤツなんて、
 許すわけにはいかないんだよ……。
 そんなヤツにだけは、負けられないんだよ!!」

 横島が、『同』と『期』の二つの文珠を用意した。

「だから……父親として!
 娘をもつ一人の男として!
 おまえは……
 アシュタロスは……俺が倒す!!」


___________


『ほう!! ……考えたな』

 同期合体。
 文珠で横島の霊波を調節、美神の波長に同期させ、共鳴を引き起こすのだ。そうすれば、相乗効果で、パワーも数十から数千倍にアップする。
 そういうシロモノである以上、合体しても、ベースは美神のはずなのだが……。

「横島クン……!?
 オーバーフローして入れ替わった……!?」

 いつのまにか、横島がメインとなっていた。

「行きます、美神さんッ!!
 『竜の牙』『ニーベルンゲンの指輪』をひとつの武器に!!」
「……もう、あんたにまかせるわ。
 横島クンの……娘を想う気持ち!
 存分にぶつけなさいッ!!」
「はいッ!!」

 今は主役ではなく、サポートに回ることを決意した美神。その気持ちをシッカリ受け止める横島。
 一方、アシュタロスも、二人の攻撃を受けて立つ。

『……面白い。やってみろ!!
 もし、おまえが私を倒すほどのものなら……
 私は……おまえの言い分を認めてやろうじゃないか!』

 神魔のパワーを併せた武器に、人類の意志と希望を重ねて!
 横島が突撃する。

「いくでェーッ!!」

 そして。
 横島の一撃が……奇跡の一撃が、アシュタロスを貫いた。

『きさま……!
 なぜ……そこを!?』
「……!?」
『なぜ……私の霊的中枢がわかったのだ!?』

 さすがのアシュタロスも、霊的中枢を破壊されては、霊力のコントロールが難しくなる。冥界チャンネルの妨害や三姉妹の規制など、大量の霊波を外へ出してきたアシュタロスなだけに、その制御が出来なくなるのは致命的だった。

「……!?
 たまたま弱点にあたったのか!?
 そりゃあ好都合だ!
 くたばれーっ!!」

 横島は、そのまま剣を動かし、アシュタロスを真っ二つに切り裂いた。

『……まさか、偶然だったというのか!?』

 崩れ落ちた半身が、つぶやく。
 それを見ながら、二人は合体を解いた。
 そして、美神がアシュタロスの疑問に答える。

「偶然じゃないわ、これが奇跡……!!
 神にも悪魔にも許されない、
 人間だけがもっている力よ!!」

 ……得意のハッタリである。

『そ……そんな……!!』

 美神の気迫を信じて、アシュタロスがボロボロと崩れていく。

『フフフ……。
 ……おまえたちに免じて、
 今日のところは、滅んでおいてやろう。
 究極の魔体を動かしてもいいが……それで、
 また『奇跡』とやらにやられるのもシャクだからな。
 しばらくは魔界の奥で……
 人間の『奇跡』について勉強し、
 十分学習してから……
 再び人界に攻め込むことにしようじゃないか!!』

 アシュタロスの言葉に、横島が過敏に反応した。

「『今日のところは』……!?
 『再び』……!?」
「気にすることないわ、横島クン!!
 負け犬の遠吠えよ……!!」

 美神は、そう決めつけてしまう。
 二人は『魂の牢獄』のことなど知らないからだ。おキヌが持つ『歴史』の知識に含まれていない以上、『魂の牢獄』について理解している人類はいないのだ。

『フフフ……。
 これで終わりではないぞ……私は必ず蘇る!
 そして、いつの日か……必ず……
 また人間の世界に来るであろう!
 そのとき……まだ、おまえたちが生きていたら
 また遊んでやろうじゃないか……!!』

 それが彼の最期の言葉だった。

 ボッ!! シュウウウ……ッ。

 アシュタロスは消滅したのである。

「不吉なこと言ってましたね……」
「大丈夫よ!!
 どんな敵が来ても、またやっつければいいのよ!!
 私たち、強いんだから……!!」
「でも……」
「自信を持ちなさい!!
 あんた父親になるんでしょ!?
 しっかりしなきゃ……!!」
「……そうっスね!! はい!!」

 それに、美神のハッタリを信じていたら、かりに蘇ったとしても、魔界の奥で勉強し続けることになるのだ。
 それを笑顔で指摘する横島に、美神は、同じ表情を返した。

「そうよ!
 そんなもんないんだから、
 ずっと引きこもることになるんだわ!!」
 
 そして、少し表情を引き締めてから、ルシオラとベスパに向き直った。

「で……あんたたちはどうすんの?
 ここで……アシュタロスの仇討ち?
 そっちがその気なら……相手になるわよ!」


___________


 ルシオラは、もともと横島に好意的だったこともあり、もちろん人間側に協力する。
 意外な態度を見せたのは、ベスパだった。

『私は……アシュ様の言葉を……
 アシュ様の復活を信じているから、
 ここは一時投降する。
 ……そうすれば
 延命措置もしてもらえるのだろう!?』

 彼女は、人間たちの脱出を手助けしたのだ。
 その後、ベスパは、

『アシュ様が蘇る時まで……
 私は魔界で過ごすよ。
 ……魔族の軍隊に入ってな』

 と言い残して、去っていった。
 そもそも、彼女は、他の二人とは違う。ルシオラやパピリオが人間たちと遊んでいた頃、ベスパは、アシュタロスと直通で話をしていた。だから、彼女は『魂の牢獄』のことも知っているのだ。アシュタロスが強制的に復活させられると承知している彼女は、魔界で、それを待つのである。
 彼の復活後、きっとベスパは、彼の傍らから離れないだろう。人間の『奇跡』について二人で勉強しながら、ゆっくりと新しい計画を練るのだ。
 ゆっくり、ゆっくり。いつまでも、いつまでも……。


___________


 生き残ったパピリオは、妙神山預かりで、小竜姫の弟子となった。ルシオラも妹の世話のために、そこで暮らしている。
 彼女たちは、時々、鬼門たちの代わりに、訪問者の通行テストまでやってしまうそうだ。もちろん、この姉妹にかなう人間などいるわけがなく、

『これじゃ誰も来てくれないじゃないですか!』

 と、小竜姫は嘆いているらしい。
 しかし、パピリオなどは、

『いいんでちゅよ。
 ルシオラちゃんが相手すると
 喜ぶ男もいるんでちゅから。
 ほら、また来た……!!』

 と言い張っている。
 確かに、すでに最難関コースをクリアしたはずの雪之丞が、最近、頻繁に足を運んでいるのだ。
 彼にとっては、門番が強力であればあるほど、倒しがいがあるのだろう。

『あのひと、戦闘狂みたいでちゅからね。
 戦いを通じて、友情とか……
 愛情とか育てちゃうんでちゅよ!
 ルシオラちゃんも、
 そろそろ気付くといいんだけど……』
『どういう意味ですか……?』

 小竜姫としても、雪之丞がバトルマニアだという評価には賛成である。しかし、その先のパピリオの言葉には、首を傾げるしかなかった。


___________


 そして、少し時は流れ……。

「ほわあッ! ほわあッ!」

 今日、この病院で、また新たなる命が誕生した。
 新しく父親となった男を、友人が冷やかす。

「……十八歳で父親とはねえ。
 あんたと会った時には
 想像も出来なかった状況ね」
「ははは……」

 彼女は、ただの友人ではない。上司でもあり、師匠でもあり、また、仲間でもあった。
 彼らが見守る中、双子の赤ちゃんが、病室に運ばれてくる。
 母親となったばかりの女性は、まだベッドに横になっていた。それでも、双子をその腕に抱く。
 幸せそうな母子。そんな微笑ましい光景を見ながら、友人が声をかける。

「もう名前は決まってるの?」
「はい……。
 この子たちの名前は……
 私のわがままで決めちゃいました。
 横島さんも、
 それでいいって言ってくれましたから」

 彼女は、大切な人物から、名前を拝借することにしたのだった。
 この世界では出会うことのなかった……別の世界での大切な親友の名前を、子供に与えたのだ。
 そして、おキヌは、二人の愛娘に向かって呼びかける。

「こんにちは……!
 まりちゃん、かおりちゃん!!」




       『まりちゃんとかおりちゃん』 完
 
  


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