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復元されてゆく世界

エピローグ 復元された世界


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 2/24

   
『早く美神さんたちのところへ行かないと・・・』

 小竜姫は、東京の空を飛んでいた。ワルキューレも一緒である。
 彼女たちは、仲間とともに、地中に隠れることで生きながらえていた。アシュタロスの妨害霊波は突然なくなったのだが、まだ終わりではないという予感がして、ここまでやってきたのだった。
 まだエネルギーも完全に回復したわけではなく、もちろん、瞬間移動なんて出来なかった。東京に入ったところで皆疲れきってしまい、仲間のエネルギーをかき集めて、かろうじて二人が飛行できる程度だ。

『おい、あれはヒャクメじゃないか!?』

 ワルキューレに言われて、小竜姫が視線の向きを変える。確かに、向こうから飛んで来るのはヒャクメだった。

『もう大丈夫なのねー!
 アシュタロスは完全に滅んだのねー!』
『ええっ!?
 まだ第二ラウンドがあるのではないのですか!?』

 小竜姫が聞き返すが、ヒャクメはニコニコしながら、地上を指さした。

『全部終わったのねー!
 あの三人が頑張ってくれたから・・・!!』

 ヒャクメの示した場所では、三人の男女が歩いていた。

『あれは・・・!?
 美神さんたちですね!!
 でも・・・なんで横島さんを連行してるのでしょう!?』
『いや・・・あれは違うぞ。私でもわかる』
『小竜姫はもっと俗界のこと勉強すべきなのねー』
 
 小竜姫は眼下の光景を正しく認識できず、他の二人から苦笑される。堅物の軍人であるはずのワルキューレと、俗界に来過ぎかもしれないヒャクメから。
 三者三様の神魔だったが、もはや事態は解決したのだということは、共通して理解していた。
 一方、地上を歩く三人は・・・。

「・・・ホントに、このまま事務所まで歩くんスか!?」

 慣れない状態に戸惑う横島に、

「そうよ!! ・・・イヤなの!?」
「あら・・・!? ふふふ・・・」

 美神とおキヌが笑顔で応えていた。

「え・・・。
 もちろん嫌じゃないですけど・・・」
「だって・・・約束しちゃったもんね。
 『両手に花』な御褒美って」
「あ・・・そういうことか!」

 美神の説明で、横島は、ようやく納得していた。

(なんだ・・・『両手に花』ってこの程度か。
 まあ・・・でも・・・
 これはこれで・・・気持ちいいかも)

 ガッカリすると同時に、ニンマリともしてしまう。
 なにしろ、『両手に花』ならぬ『両腕にバスト』だった。
 左腕は、美神の豊かな胸に半ば埋もれており、右腕も、おキヌの着やせする胸にしっかり押し付けられている。
 三人は、ずっと腕を組んだまま歩いていたのだった。

(へへへ・・・)

 心地よさをなるべく顔に出さずに、ふと、気になっていたことを聞いてみた。

「ところで・・・美神さん、
 逆行してきた三人って・・・
 美神さんとおキヌちゃんと・・・もう一人は誰なんスか?」
「ええっ・・・!?」
「アシュタロスとの話の最初に、
 そんなようなこと言ってましたよね?
 俺、口を挟むなって言われてたし、
 そこは自分にも関係ないと思って
 スルーしてましたけど・・・。
 隊長は・・・
 過去から来たんだから逆行ではないっスよね!?」

 横島と同じく、こちらも表情を変えない美神。だが、内心では焦っていた。おキヌも同様である。

(しまった・・・!!
 口すべらしちゃったっけ!?)
(もう、美神さんったら・・・!!)

 しかし、二人とも冷静に対処した。

「何それ?
 私、そんなこと言ってないわよ?」
「そうですよ!?
 美神さん、ちゃんと『二人』って言ってました。
 横島さん、何か他の言葉と聞き違えたんじゃないですか?」
「そうだっけ・・・?」

 少し釈然としないものの、横島の意識は、

(あっ・・・!?
 でへへへ・・・)

 すぐに別の方向へ行ってしまう。両腕に押し付けられていた二人の胸の位置が少し動いて、より気持ちいい状態になったのだ。
 もちろん、歩いているうちに偶然起きたことなどではない。そう装った上での、女性たちの意図的な行動である。
 こうして、美神の失言は、大事に至ることもなく、横島の頭から消し流されたのであった。実はもう一つ、『精神に傷』の詳細を聞いてみたい気持ちもあったのだが、それも一緒に頭の中から押し出されてしまった。それほど心地良かったのである。
 ちょうどその時、三人の前を知りあいが通りかかった。

「あっ、小鳩ちゃん!!」
「横島さん!? それに・・・!?」

 今の状態を少し恥ずかしく思う横島だったが、美神とおキヌは平然としている。

「あら、小鳩ちゃん。
 もう学校も始まってる時間でしょう、どうしたの!?」
「ええ、バイトが長引いちゃって・・・。
 今日は遅刻なんです」

 小鳩は、学校へ向かうところらしい。

「私たち・・・徹夜仕事でしたから、
 今日は学校は休んじゃいます。
 横島さんの欠席、伝えといてもらえますか?」
「ええ、わかりました・・・。
 でも・・・!?」

 おキヌの頼みを了承する小鳩だが、今の三人の姿は、気になるようだった。

「ああ、これ!?
 ・・・ここだけの話、私たち、
 例の『核ジャック事件』の悪魔を倒してきたとこなの。
 しかも、トドメをさしたのは、横島クン!!」
「・・・これ、横島さんに約束してた御褒美なんですよ!!」
「ははは・・・」

 微妙に嘘も混じっているが、横島も適当に頷いておいた。

(・・・でも、こんな『御褒美』もらうのって、
 はたから見たら、なんだか情けなくないか!?)

 とも思ったが、口にはしない。
 そのまま、三人は小鳩と別れた。
 小鳩のほうは、急いでいたはずなのに、少し足をとめて彼らの背中を見送ってしまう。

(やっぱり、あの二人・・・。
 あれじゃ入りこめないな、今は・・・)

 今の三人を見ていると、『小鳩は負けません』とも言えないのであった。



    エピローグ 復元された世界



 アシュタロスとの戦いが終わり、美智恵も元の時代へ帰っていった。
 彼女は、実は、美神が中学生の頃に死んだわけではない。『歴史』を色々と知ってしまったが故に、死んだフリをして世間から隠遁していたのだ。アシュタロスとの戦いという火急の時には美神の『未来』情報を使ってしまった美智恵だが、あれは、良くないことである。こうして大事件も無事解決した今、美智恵は、そう判断していた。
 彼女が過去へ旅立った直後に、この時空の美智恵、つまり、五年間隠れていた美智恵が現れた。ジャングルの奥地、フィールドワークに励んでいた夫のところで、暮らしていたらしい。美智恵は、平和だった五年間で性格が少し丸くなっただけでなく、おなかも丸くなっていた。美神の妹が生まれるのである。母親や妹とともに過ごす日々が、美神にも訪れるのであった。
 そして・・・。
 『歴史』の中で三人が過去へと逆行した時点が、そろそろ近づいていた。


___________


 美神除霊事務所の一室。
 椅子に座った美神の前に、横島とおキヌが立っている。
 笑顔を取り繕った美神は、

「さー・・・ってっと!!」

 と口を開き始めた。
 同時に、心の中で、

(変わってしまった部分もあったわね)

 彼女は、色々と回想する・・・。


___________


(おキヌちゃん・・・、
 本当は『巫女の神託』なんて能力なかったのに。
 あれこそ、未来の記憶だったのよね・・・)

 三人で時間を逆行する際、イメージを統一させるために、美神は、脳の記憶を過去にとばすのだと定義付けした。
 しかし、おキヌの行き先は幽霊時代だったのだ。魂そのものであるはずの幽霊に、『魂』ではなく『記憶』を逆行させるというのは、無理があったのだろう。美神や横島同様、脳内の『記憶』を逆行させたはずだったのに、むしろ『魂』の要素が、魂に付随した『記憶』が逆行したのかもしれない。
 だから、『脳の記憶』が逆行したつもりでそれを封印しようとイメージしても、横島や美神よりも『記憶』のプロテクトが甘くなってしまったのだ。
 時々、『記憶』が映像の形で漏れ出していた。何か『初めて』の時は、特に印象深かったようで、よく『神託』が発動してしまった。
 初めての除霊仕事(第二話「巫女の神託」参照)、初めてのパソコン操作(第二話「巫女の神託」参照)、初めての冥子の式神暴走(第三話「おキヌの決意」参照)・・・。『神託』が最初の頃しか出なかったのも、美神たちと行動をともにするうちに、新しい事態の発生にも慣れてしまったからだろう。
 また、後で聞いた話では、アシュタロスの『究極の二択』も、早い段階で予知していたらしい(第二話「巫女の神託」参照)。横島に関しての一番重要な記憶だったからに違いない。それを避けるために横島に恋人を作らせまいとしていたそうだが(第三話「おキヌの決意」参照)、今となってみれば笑い話である。
 さらに、月のメドーサの事件では、おキヌはキスの件を予知した(第二十六話「月の女王に導かれ」参照)。久しぶりの『神託』ということは、あれはおキヌにとってそれだけ強烈な印象の出来事だったという証だ。
 しかも、月旅行に関する『神託』がキスだったというのも興味深い。『本来の歴史』では、最後に横島は生身での大気圏突入という暴挙を成し遂げた。それが一番の大事であり、おキヌも『知識』としては知っている。しかし、彼女は、その場面自体は見ていなかった。『記憶』から溢れ出てきているのが『知識』ではなく『光景』の形だったからこそ、あのような『神託』となったのだ。
 そして、この『光景』というポイントは、美神にも実感できた。なにしろ、記憶をプロテクトしていたはずの美神自身、『光景』の形で『本来の歴史』の一場面を瞬間的に思い出し、それが微妙な変化につながることもあったのだ(第十三話「とらわれのおひめさま」参照)。

(でも、もう大丈夫だわ・・・)

 おキヌが未来予知をすることは、もう二度とないのだ。
 逆行した時点まで時間が進んだ以上、もう、これより先の記憶は、おキヌにはないのだから。
 これで、『本来の歴史』にはなかった『巫女の神託』という特殊能力も、完全に消えるのである。


___________


(横島クンの霊能力も、色々変わってたわ・・・)

 最初の大きな変化は、シャドウだった。『本来の歴史』では、あんな特殊能力など持っていなかった。

(あのシャドウは、ルシオラの霊基構造だったのね)

 美神は、記憶を開封した後で、それに気が付いた。開かれた記憶の中で、横島に関係して、ルシオラも重要な位置を占めていた。そして、ルシオラについて知った上で、自分たちが経験してきことを『本来の歴史』と比べてみた。そうすると、シャドウの正体も容易に推測されたのだった。
 実は、逆行後の横島がルシオラの霊基構造を持つだなんて、美神の計画には含まれていなかった。
 彼らの逆行の定義では、『魂』ではなく『記憶』を運んできたはずなのだ。霊基構造は『魂』に付帯していたはず。いくら僅かだったとはいえ、『記憶』と一緒にやってくるというのは、理屈に合っていなかった。

(横島クンがキチンと話を聞いていなかったせいで、
 ほんの部分的に『魂』の逆行をやってしまったのか・・・)

 それが一つの可能性だ。

(あるいは、文珠という横島クンの霊力を
 使った時間逆行だったから、霊基構造も
 横島クンの霊力に引きずられてしまったのか・・・)

 それも考えられるかもしれない。

(もしかすると、ルシオラと離れたくない気持ちから、
 逆行の定義云々を乗り越えて、少しでも
 持ってきてしまったのかも・・・)

 最後の可能性は、横島の想いの強さを示すことになるので、美神としては否定したいのだが・・・。
 
(たぶん・・・どれも正解ね。
 複合的な理由だったんだわ。
 だからこそ起こった奇跡・・・)

 そう結論付けるしかなかった。

(まあ、ともかく・・・。
 それも、もう消えたわ・・・)

 最終作戦に関して詳細を煮詰めた際に、ルシオラが『自分が取り除く』と言ってくれたのだった。
 それを聞いた時、美神もおキヌも、最初は驚いた。そんなことが可能なら、『本来の歴史』の中で横島から霊基構造を抜き出して、ベスパがかき集めた霊破片と併せて、ルシオラ復活も出来るはずだった。
 『本来の歴史』の中では、無理だった理由として、土偶羅魔具羅が『何度も霊体をちぎったりくっつけたりしては人間の魂は原形を維持出来なくなる』と説明していた。土偶羅魔具羅は、『本来の歴史』でもこの世界でも、最後の爆発の中を生き残り、コンピューター扱いで神魔に引き取られていった存在だ。その情報には信憑性があった。
 しかし、今の横島と『本来の歴史』の横島とは違う。そもそも、『本来の歴史』の横島のように大量に他者の霊体を注ぎ込まれているわけではなかった。この世界の彼には、横島自身を形成する霊体は十分ある。ルシオラのそれは付随していたに過ぎない。
 横島の魂のメインな部分を『何度も霊体をちぎったりくっつけたり』するわけではないのだ。だから、キスで取り除くなんてことも可能なのだとルシオラは主張した。しかも、ルシオラは、ただの『ルシオラ』ではなく、新魔神となるのだから。

(彼女の霊基構造が消えた以上、
 シャドウも文珠も元に戻った・・・)

 特殊な文珠は、『本来の歴史』でも、数日で消えてしまうシロモノだったらしい。『本来の歴史』の横島は、心の中のルシオラから、そう説明されたそうだ。これで、『歴史』どおりになったわけである。
 
(細かいことだけど・・・
 横島クンの霊能力が発現するのも早かったわね)

 GS資格試験でも、それぞれの技を閃くのが僅かに早かったようだし(第九話「シャドウぬきの実力」〜第十一話「美神令子の悪運」参照)、妙神山に修業に出してしまったせいで、霊波刀を習得するのも早くなった(第十二話「遅れてきたヒーロー」参照)。

(でも・・・)

 しかし、その後の斉天大聖との修業や、アシュタロスとの戦いの時期の彼の成長と比べれば、それらは微々たるものだ。
 今の横島の霊能力は、逆行前と比べて高すぎることもない。ほぼ同じだろう。

(もう大丈夫だわ・・・)


___________


 『本来の歴史』以上に事務所に密接に関わった人物もいた。
 一人は、伊達雪之丞である。香港での些細な変化が影響して、一時は事務所メンバーのような扱いになっていた。
 しかし、最近は、以前ほど事務所に頻繁に来ることはなくなった。関東周辺に訪れても、事務所に顔を出さない時もあるくらいだ。ガールフレンドができて、美神たちにかまう余裕も減ったのだろう。

(『歴史』と変わったときもあったけど、
 今の状態は『歴史』どおりに戻ったわよね?
 もう大丈夫だわ・・・!!
 結局ガールフレンドも『歴史』どおりだし・・・)

 氷室早苗が雪之丞を気にいったというイレギュラーも思い出して、内心で苦笑する美神であった。


___________


 美神たちに対して、『本来の歴史』よりも深く結びついた者は、もう一人いる。
 シロだ。
 犬飼の再襲撃が遅れたために、シロは、かなり長い間、美神の事務所に居候していた。しかし、最後の犬飼との戦いで、『本来の歴史』以上に疲労してしまい、部分的な記憶喪失に陥った(第二十八話「女神たちの競演」参照)。
 そのため、死津喪比女との戦い、斉天大聖との修業、平安京での事件、おキヌの復帰、月旅行など、いくつかのイベントをゴッソリ忘れてしまったのだ。

(それらは全て、『本来の歴史』では
 シロが経験しなかった事件ばかり・・・。
 『歴史』にはなかった超必殺技も忘れてしまった。
 私たちとの当時の日々が・・・
 一連の思い出がシロの記憶から消えたのは寂しいけど、
 これで『本来の歴史』どおりになったのね・・・)

 偶然とは思えない美神だったが、それでも、こんなところにまで『宇宙意志』が介入したとは考えたくはなかった。


___________


 続いて、美神は、魔族三姉妹にも思いを馳せる。

(新魔神となったパピリオ・・・)

 『歴史』では、彼女は妙神山預かりとなり、小竜姫の弟子となった。だから、妙神山へ行けば顔をあわすことになるはずだった。
 しかし、この世界の妙神山には、彼女はいない。

(これくらいの変化は・・・まあ、いいわよね?)

 妙神山へ行く機会なんて、滅多にないのだ。
 美神たちは、十分パワーアップした。修業に行くこともないだろう。あそこに関わることさえしなければ、影響のない変化だ。

(ベスパも同じようなものだわ・・・)

 『本来の歴史』では、魔族軍所属となって、魔界へ行くはずだった。
 新魔神となったのだから、彼女は、やっぱり魔界で暮らすのだろう。もちろん、その存在の仕方は大きく違う。
 しかし、美神たちが魔界へ赴くことなどないはずだ。美神たちとの関わりの範囲では、影響のない程度の変化だった。

(そしてルシオラ・・・)

 新魔神にしてしまったとはいえ、死ぬはずだった命を救うことができた。これで、横島が変わってしまうことを防げたのだ。
 しかし、美神たちの前から姿を消したという意味では、『本来の歴史』と同じだ。
 横島には慰めの意味で『遊びにくるかもしれない』と言ったが、美神は、信じていなかった。
 もう二度とルシオラと会うことはないだろう。美神は、そう思っていた。


___________


(そして・・・アシュタロス!!)

 『本来の歴史』でも彼は『魂の牢獄』から解放されていた。アシュタロスは、自身の計画どおり、悪魔としての成果を認めさせることが出来たのだ。
 しかし、それは、世界が大きな被害にあうことを意味していた。この逆行後の世界では、美神たちがそれを妨げ、アシュタロスの代わりを用意することで、彼を『牢獄』から追放した。
 
(適応不全の魔物・・・。
 そう言ってたわね・・・)

 どちらの世界でも、戦後の神魔のレポートでは、同じ結論が下されていた。
 アシュタロスは、自分が魔物であることに耐えられなかった。邪悪な存在であることを拒んでいたのだ。
 それが、皆の評価だった。

(だから・・・
 あんなに『悪魔』らしくない悪さもしたのよね)

 魔族らしくない魔族だったからこそ、魔の本能に従って短絡的な悪行に走るのではなく、根気強く、長期にわたった計画的行動が可能だったのだろう。
 究極の魔体にせよ、コスモ・プロセッサにせよ、他の悪魔には到底真似できないシロモノだったのだ。

(そのアシュタロスがいなくなった以上・・・
 大丈夫なのよね!?)

 アシュタロスが例外的な悪魔だとみなされたことは、美神にとって、安心できることだった。なにしろ、コスモ・プロセッサの稼働を防いだ以上、彼女の中にエネルギー結晶が残ってしまったからだ。だが、こんな膨大なエネルギーを悪用しようなどという異端児も、なかなか出てはこないだろう。美神は、そう考えることにしていた。

(それに・・・。
 万が一、そんな奴が現れても・・・
 また、はねのけてやるわ!!
 ・・・三人で力をあわせて、ね!!)

 これはただのエネルギーの塊ではない。メフィストから受け継いだものだ。メフィストの転生体であるという証でもある。

(横島クンへの想いとともに・・・。
 大きくはないけど小さくもない気持ちとともに、
 一生、胸に秘めて生きていくわ・・・!!)


___________


(こうやって振り返ってみると・・・
 途中では色々と変わっちゃった部分もあったけど、
 最後には『歴史』どおりになったり、
 大きな影響無しで終わったことって、多いのね・・・)

 もしかすると、途中の変化も、『宇宙意志』にしてみれば、どうでもいい部分だったのかもしれない。
 美神は、ふと、そんな可能性を思ってしまった。

(『大きな改変には復元力が働く』と言われてきたのも、
 大きい小さいじゃあなくて・・・
 『宇宙意志』が変えたくないか、
 どうでもいいか、それが問題だったのかもね)

 だが、この解釈に確信があるわけでもなかった。いや、むしろ、これは嫌な考え方だった。
 彼らは、ルシオラの命を救ったのだ。
 誰かの生死が、どうでもいい部分だったというのは、悲しすぎる。
 だから、美神は、自分が思いついたことを自分で否定したかった。
 しかし・・・、美神は知らないのだ。
 まるでバランスをとられたかのように消えてしまった、別の魔物がいたことを。
 ルシオラほどではないが、やはり横島に好意的だった魔物が、この世界では死んでしまったということを。
 それも、大気圏突入のタイミングと位置関係のために、誰にも知られることもなく、ひっそりと死んでいったということを。

(でも・・・もう、いいわ。
 これ以上難しく考える必要もないでしょうね。
 『宇宙意志』とか『復元力』とか、
 そんなこと考えなきゃいけないような事件も
 二度と起こらないでしょうから・・・)


___________


 人の心を理解した新魔神は、魔界の奥に隠棲する。
 アシュタロスという特殊な悪魔、様々な事件の黒幕だった悪魔も滅んだのだ。これで、大きな災厄も、もう起こらないだろう。
 神魔のパワーバランスも保たれた。バランス補正のための大事件なんて心配する必要もない。

 こうして、ルシオラの悲劇は無くなり、アシュタロスとの戦い以降も、三人は元の三人としてやっていけるようになった。
 これは、『宇宙意思』が望んだ形そのものでは無いかもしれない。
 しかし、『宇宙意思』が復元したかった部分は、キチンと『復元』されている。
 そして、これこそが、美神やおキヌが望んだ世界。三人の本来の世界なのだ。


___________


「・・・通常業務復活ッ!!
 日常ってステキ・・・!!」

 多くの回想を一瞬のうちに終わらせ、美神は、言葉を締めくくった。
 今も美神の表情には笑顔が浮かんでいる。しかし、これは、口を開いた瞬間とは違う。あの時は作りものだったが、もはや、心からの満面の笑みとなっていた。

「もー気になる伏線もなくなって、
 これからは借金を全部返したよーな
 さわやかな気持ちで働けるのねっ!!」
「・・・ギリギリの発言ですね」
 
 美神の言葉を聞いて、横島が、おキヌとともに苦笑していた。


___________


 美神令子は、美神令子である。
 横島を認めつつ、彼に対して好意を持ちつつも、それを露骨な態度には出さないのだろう。

 おキヌは、おキヌである。
 横島に対して淡い恋心を抱き、彼に尽くしながらも、その乙女心でアタックすることはないのだろう。

 そして、みんなに優しい横島。
 周囲の女性から魅力的だと思われているのに、自分を過小評価する性格が災いして、それに気づかないのだろう。

 これが、彼らのあるべき姿、彼らを取り巻くこの世界のあるべき姿なのだ。

 現世利益最優先。
 そんな美神を中心に、今日も、三人の日常が繰り広げられる・・・。




       『復元されてゆく世界』 完
 
 
 


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