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復元されてゆく世界

第二十三話 前世の私と共同作戦


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 1/27

 
「そんな・・・。
 私が・・・魔族・・・!?」

 メフィストが飛んでいるところを一目見ただけで、自分と似ているとは思っていた。
 ここに着いたときにも、『やっぱり』と言ってしまったくらいだ。
 だが、ヒャクメにまで断言されてしまうと・・・。
 美神としては、心穏やかではないのであった。

『何者なの、この女は!?
 どうして私に似てるの・・・!?』

 メフィストも苛立つ。彼女の本能が、目の前の人間は危険だと告げていた。それに従い、美神に向かって突撃した。
 美神も、メフィストの突進を見て動き出す。

「そんなはず・・・
 そんなはずないわっ・・・!!」

 心の動揺を口に出しつつも、鞭にした神通棍をメフィストに叩き付けた。

「一ッ!!」

 しかし、メフィストの手で払いのけられてしまう。
 続いて、

「二ッ!!」

 精霊石を投げつけて光らせた。だが、これは単なる目くらましである。いつもは精霊石を切り札とする美神であるが、今回は、そうではなかった。
 突然ヒャクメによって平安時代へ飛ばされてしまったわけだが、美神は、たまたま一枚だけ封魔のふだを身につけていたのだ。
 相手の視界が回復しないうちに、

「三ッ!!」

 美神は、そのおふだをメフィストの目前に突き出した。
 メフィストが美神の前世だというなら、ある意味、今回の調査対象である。倒すのはいいが、殺してしまうわけにはいかない。破魔札に封じることが出来るのであれば、それが一番よかったのだ。
 この二人の攻防に、美神の仲間たちは手を出せない。二人の因縁を理解しているが故なのだが、そんなことは高島には関係なかった。

「キュウ急如律令!
 霊符の力を散らしめよっ!!」

 高島の言葉と共に、美神の破魔札が無力化され、小さな爆発が生じた。

「しまった!!」

 美神としては、そこから我が身を守るのに手一杯である。
 その間に、

「逃げるぞ!
 飛べるか!?」
『え・・・ええ!
 なんとか・・・!』

 メフィストのもとへ駆けつけた高島だったが・・・。

「な・・・なに!?
 このものすごい波動は!?」
『怨念!?
 すぐ近くだわ!?』
「バカな・・・!!
 俺たちに気配をさとられず
 こんなに接近を・・・!?」

 美神やヒャクメや雪之丞が驚いたように、強烈なプレッシャーが一同を襲ったのだ。
 その正体がわからぬうちは、下手に動くに動けない。それほど強力なものだった。
 一瞬、敵味方とも全ての者が硬直していた中。

 スパッ!!

 雪之丞の近くで、鋭利な音が聞こえた。

 ドバシューッ!!

 続いて、雪之丞の首から、盛大に血が噴き出す。

「お・・・おい!?
 動脈・・・!?
 切れ・・・痛くない!?
 ママーッ!!」

 彼の後ろには、強大な怨霊が立っていた。右手の指の爪から血をしたたらせている。

『よくわからんが・・・
 確かに二人いるな、メフィスト・・・。
 おまえらもすぐに・・・始末してやる』



    第二十三話 前世の私と共同作戦



「ママ・・・。
 今そっちにいくよ・・・!!」

 と、錯乱している雪之丞。
 その周りに仲間が駆け寄り、

「押さえて!」
『動いちゃダメよ!!』
「シロ、ヒーリングだ!!」
「焼け石に水でござる!!
 とにかく血をとめないと!!
 しゃべってはいけないでござる!!」

 なんとか介抱しようと務めている。
 一方、メフィストと高島も逃げそびれていた。

『メフィスト・・・
 おまえには原因不明の不良要素があるようだ。
 気配が突然二つに増えたことを
 アシュタロス様は訝しく思われておる。
 神族やほかの魔族どもに
 かぎつけられたのではないか、とな・・・。
 アシュタロス様には今が大事な時期・・・。
 おまえを抹消する』

 と語る怨霊。
 高島は、その外見に見覚えがあった。昨年死んだはずの菅原道真だ。

「道真公・・・!? そんな・・・!!」
『道真!! どうして・・・!?』

 メフィストは、その正体をさらに詳しく知っていた。
 目の前の道真は、メフィスト同様、アシュタロスという上級の悪魔によって創造されたものだ。いわばメフィストの同僚である。
 菅原道真は太宰府で死んだが、単純に死んだのではなく、『学問と雷の神』に生まれ変わっていた。ただし、神になるにあたって、負の部分を切り捨てる必要があった。それは、自分を追放した者たちへの怨念である。うまく取り除いたのだが・・・。
 アシュタロスに拾われて、悪鬼を作るための核として利用されているのだ。
 そうした全てを知っていたわけではないが、それでもメフィストにとって、道真が仲間であることは確かなはずだった。

『どのみち、おまえは使い捨ての働きバチにすぎんのだ。
 不良品は捨てる・・・。
 それだけよ』
『不良品・・・!?
 私の「気」が原因不明で二つに増えたから・・・?
 たったそれだけの理由で!?』

 何も知らずに死んでいくのも、かわいそうだろう。
 理由を説明したのは、道真としては、せめてもの情けだった。
 チラリともう一人の『メフィスト』に目をやると、そちらは、まだ死にかけの人間一人にかかりっきりのようだ。

(それならば・・・)

 道真は、視線をもとに戻した。

(やはり、こちらのメフィストから始末してやろうぞ)


___________


『雪之丞さん!?
 まずいわ・・・!
 もう意識がない!
 このままだと出血多量で死んじゃう・・・!』

 美神たちの仲間内で、一番的確に状況を把握していたのは、ヒャクメであった。さすがに、『全身の100の感覚器官』はダテじゃない。

『こーなったら!!』

 そもそも、雪之丞まで過去へ連れてきてしまったのはヒャクメのミスだった。神族として、何とかする義務を感じていた。
 さらに、隠れ家を検非違使に踏み込まれたときの負債もある。『私をおいてかないでねー』を聞きとめて一緒に逃げてくれたのは、他でもない、この雪之丞なのだ。個人的にも、彼を救いたいと思っていた。
 だから・・・。

「ヒャクメ!?」
「おい・・・!?」
「・・・ヒャクメどのが消えたでござる!!
 自分の命を雪之丞どのに与えて・・・。
 うっうっ・・・」

 突然のヒャクメ消滅に泣き出したシロだったが、それは勘違いだった。

『一時的に彼に入りました!
 出血はくいとめるからしばらくは・・・』

 言いかけたヒャクメだったが、その言葉が止まる。そして、メフィストたちの方を振り向いた。
 強力なエネルギー攻撃を感知したからだ。


___________


『消えろ!! ゴミめ!!』

 状況まで説明してやったのだ。もう十分だろう。
 そう思った道真は、

『貴様のパワーなどわしの10分の一にも
 満たぬであろう!!』

 と宣告しながら、メフィストを攻撃した。
 ここで、

「避雷!!
 存思の念、災いを禁ず!!
 雷よしりぞけ!!」

 高島がメフィストを守るために立ちふさがった。しかし、いかに有力な陰陽師といえども、彼一人で何とかなるはずがない。

「うわっ!!」
『高島どの・・・!
 きゃっ!!』

 メフィストともども、はじき飛ばされてしまう。それでも死なずにすんだのは、高島が呪を唱えたからこそだ。

『高島どの!!』

 倒れた彼のもとへ、慌ててメフィストが駆け寄った。まだ高島は息をしているが、吹き飛ばされた衝撃のせいか、完全に気を失っていた。

『ふむ・・・。
 人間にしてはやるな・・・。
 だが、二度目はないぞ!!』
 
 道真の両手に、今の攻撃よりもさらに大きなエネルギーが集まる・・・。


___________


『美神さん!
 雪之丞さんの身体、
 失血が多くて長くは保ちそうもないわ!
 現代に戻って輸血しないと・・・』
「わかってる!!
 でも・・・」

 美神は、横島に目を向けた。
 時間移動のエネルギーとして文珠をあてにしていたのだが、間に合わなかった。この場で急に出せるものでもないだろう。
 
「美神さん、あれを!!」

 説明していたわけでもないのに、横島は、美神の意図を理解したらしい。
 美神が、横島の示す方向に視線を動かすと、今まさに道真がメフィストに第二撃を加えるところであった。

(そうか!!
 菅原道真は『学問と雷の神』!!
 さっきも横島クンの前世が
 『避雷』とか言って攻撃を抑えていたわ!!)

 もともとメフィストは味方ではない。彼女が道真と戦っている間に逃げられるなら、それもアリだ。だが、道真が逃がしてくれるとは思えないし、もし仮に逃げられたとしても、この時代にいては雪之丞が助からない。
 それに、美神の前世である以上、可能ならばメフィストも助けたかった。
 
(『昨日の敵は今日の友』ね・・・。
 いや、昨日どころか、
 ついさっきまで敵だったんだけど)

 美神がフッとそんなことを考えてしまった瞬間、道真の攻撃がメフィストを襲った。
 だが、かろうじて両手で雷撃を押さえつけて、踏みとどまっているようだ。

「メフィスト!
 奴の雷を私に集めて!!」

 美神は、必死になっているメフィストに声をかけた。

(メフィストが私を信用してくれるかしら・・・!?
 しかも、タイミングが微妙な作業・・・)

 なにしろ、道真が現れるまでは戦っていた間柄である。
 これは、美神としても賭けだった。だが、美神はその賭けに勝ったようだ。

『行くわよ!
 早くー!!』
「了解っ!!」

 雷の軌道が曲げられ、美神に向かった。


___________


「みんなつかまってー!!」

 美神の言葉に応じて、一同が彼女に飛びかかった。
 シロが背中におぶさり、横島は美神の腰に抱きついた。平時ならばセクハラとして蹴落とされるところだが、美神としても、状況が状況なだけに許してしまう。

(・・・横島クンだって、
 そんなつもりじゃないわよね、今回は!?)

 少し気を散らした美神だったが、

『私をおいてかないでねー』

 ヒャクメの言葉を聞きつけて、意識を戻した。
 ヒャクメは、他人の体の中に入っていることと、その雪之丞の体力が低下していることが重なって、うまく急には動けないようだ。

「大丈夫!」

 美神が左手を伸ばして、雪之丞の服の端を握りしめる。
 反対側の腕には、すでにメフィストが左腕でしがみついていた。彼女もまた、美神同様、意識のない高島の服をつかんでいる。


___________


 これらは、全て、時間にして一瞬にも満たない間の出来事だった。
 道真も黙って指をくわえて見ていたわけではない。

『この波動・・・!!
 時空振かッ!!』

 脱出の意図を瞬時に理解し、

『時間移動する気かッ!!
 どこでそんな裏技を・・・』

 持っていた扇を開いて、ブーメランのように投げつけた。
 それは誰にも直撃こそしなかったものの・・・。

 ブチッ!!

 美神とメフィストが握っていた雪之丞と高島の服が断ち切られ、二人が地に落ちた。

『おいてかないでねって言ったのにー!』

 ヒャクメが喚く中、美神たちの姿が時空の彼方へと消えていく。
 しかし、

『殺さないで、道真・・・!!
 そいつは・・・そいつだけは・・・!!』

 去り際のメフィストの絶叫は、道真の心に残ったのだった。

『よかったな、おまえら・・・!
 あの様子なら
 あいつはすぐに戻ってきそうだ。
 それまで命だけは残しておいてやろう!』

 道真は、残された二人を見ながらニヤリと笑った。


___________


 美神と横島とシロは、無事、現代の事務所へと帰ってきた。
 メフィストもついてきたのだが、

『戻って!!
 今すぐ戻って!!』

 彼女は、美神の胸ぐらをつかみ、再び時間旅行することを強要している。

『しばらくは私をおびきだすエサにするでしょうけど
 そう長くは生かしておかないわ!』
「落ちつきなさい!!
 言われなくてもわかってるわ!!
 横島クン!!」

 美神は、横島に鍵を投げて渡し、

「場所はわかるわね!?
 文珠を持ってきて!!」
「はい・・・!!」

 文珠を取りに行かせた。
 魔族のメフィストから目を離したくなかったし、かといって、精霊石や文珠を保管してあるところへ連れて行く気にもなれなかった。
 だが、これが幸いした。横島には聞かせたくないことを、メフィストが話し始めたのだ。

『あいつ・・・
 あのバカ・・・!!
 私をかばったのよ・・・!』

 メフィストは、手で目をこする。

『クリエイターに捨てられた以上、
 私には存在価値がないのに・・・。
 あいつバカだから・・・
 それがわかんないのね・・・。
 願いなんかかなえるわけないじゃん!
 魂を持ってく意味ももうないのにさ・・・!!』
「メフィストあんた・・・」

 美神は高島の願いを知らなかったが、皮肉なことに、それは既にかなえられていた。

『あいつが死ぬかもって思ったら、
 胸が張り裂けそうだった!
 一人で死ぬのもイヤだった・・・!!
 あいつといたいの!!』

 メフィストの目から、涙が溢れる、

『あいつといると楽しいの・・・。
 生まれかわって人間になれるなら・・・
 あいつと・・・』
「や・・・やめてよっ!!
 それじゃ何!? 私が・・・」
「そういうことでござったか・・・。
 それで美神どのと先生は・・・」

 顔を真っ赤にする美神の横で、シロが訳知り顔で頷いている。
 当然、美神にギロリと睨まれてしまうのだが、そこへ、

「美神さん、文珠持ってきたっス!!
 ・・・あれ!?
 どうしたんです!?」

 横島が戻ってきた。すでに文珠をケースから取り出し、その一つに『雷』の字も込めている。

「・・・いいから!!」

 美神は、それをひったくるようにして、その場で『雷』を発動させた。

「いい!?
 あんたたちは、留守番よ!?
 これ以上話を複雑にしたくないの!!」
「・・・えっ!?」

 横島は、自分も行くものだと思っていたようで驚いている。
 一方、先ほど厳しく睨まれたせいか、シロは無言だった。
 二人は、言われたとおり、美神に近づくのを遠慮したのだが、

『何言ってるの!?
 あんたは美神と一緒じゃないと・・・!!』
「いっ!?」

 メフィストが横島をつかんでしまう。

「ちょっと!!
 勝手な事しないでよ!!」

 美神が止めようと試みるが、もう遅い。美神たち三人の姿は、もはや時の中へと消えるところだった。
 そんなタイミングで、

『ごめん!
 それがし、菅原道真と申すが・・・。
 邪魔してもよろしいか?』

 と言いながら、事務所のドアを開ける者がいた。

「いっ!?」

 その光景まで見届けて、三人は消えていった・・・。


___________


「早く戻りましょう、現代へ!!
 シロが危ないっスよ!!」

 横島が、美神に詰め寄るが、

「『早く戻る』・・・!?
 あんたバカァ!?」

 美神は、これをアッサリ受け流した。

「私たちは時間移動してるのよ!?
 ここで何年すごそうが、現代へ戻るときに、
 あの『瞬間』へ行けばいいだけのことでしょう?」

 理路整然と説明する美神だったが、横島は、まだ心配だった。

「そんなピンポイントで制御できるんスか!?
 今だって・・・」

 彼らは、平安時代には戻ったものの、少しずれていたのだ。
 場所は清水寺の上空だったし、時間も既に朝になっていた。
 戦っていた山寺へ急ぎ、その場の様子から、どうやら時間移動した夜が明けてすぐだと理解したところだった。

「そりゃあ私一人じゃ無理だろうけどね。
 ほら、帰りはヒャクメがいるわけだし。
 時空制御は彼女のコンピューターに任せるわ」

 これで、ようやく納得したらしい。

「へえ、さすが神さま。
 ただの役立たずじゃないんスね」
「・・・バチ当たるわよ?」

 冗談を言い合う余裕も出てきた。

「神さまと言えば、あの道真も
 神々しい波動を放っていたわね・・・。
 この時代の怨霊の道真とは全く別人だったわ」

 美神は、事務所に来た道真について考える。
 一瞬見ただけではあったが、そんな印象を感じていた。

「・・・どういうことです!?」
「あの悪魔の道真が神に変わるのかしら?
 それとも・・・」

 黙って二人の様子を見ていたメフィストが、ここで口をはさむ。

『ねえ、和むのもいいけどさ・・・。
 早く高島どのを助けに行かないと!!』
「・・・でも、どこへ?
 心当りあるの?」
『うーん・・・。
 アジトかしら・・・?』

 そんな彼らのところに、

『おねえちゃん、おねえちゃん!』

 突然、一人の子供がやってきた。
 ここは東山の廃寺である。普通に人が訪れる場所ではないだけに、あからさまに怪しい。

『道真さまからの伝言だよ。
 二人の命はとりあえずあずかっておく。
 今夜丑の刻までに老ノ坂まで来い!』

 そう伝言すると、子供は木の人形に変わってしまった。道真の式神だったのだ。

「・・・なんか都合よく場所が判明したっスね」
「丑の刻・・・。
 えらいのんびりしてるじゃない」
『まっぴるまから動いたんじゃ目立ちすぎるからね』

 美神の疑問に答えを返したメフィストは、フワッと空へ飛んだ。

『あなたは先に老ノ坂へ!』
「あんたはどうする気?」
『道真を倒すだけじゃ私たち助からない・・・!
 問題はそのあと・・・
 逃げきる方法を確保しないと・・・!』


___________


「メフィストの奴なにしてんのよ・・・!
 もう時間切れよ・・・!?」
「ほんとにここでいいんスか!?」
「そのはずよ・・・?
 『老ノ坂』って地名はここなんだから」

 美神と横島は、夜の森の中を彷徨っていた。

「美神さん!!
 あれ・・・!!」
「ほら見なさい、
 やっぱりここであってるじゃないの」

 横島が見つけたのは、木の上に置かれた球体だった。握りこぶしほどの大きさで、ボウッと光っている。

「雪之丞・・・!!」
「ヒャクメ・・・!?」

 中には、二人の人影が見える。一人は高島、もう一人はヒャクメが取り憑いた雪之丞だ。
 二人は、こちらに向かって何か喋りかけているようだが、美神たちには聞こえなかった。

「え? 何?」

 その時、突然、

『まず一人・・・!』

 美神の背後に、道真が現れた。

「美神さん!!」
「・・・!!」

 横島の声に、美神が慌てて振り向くが間に合わない。
 二人が何も出来ないうちに、

『死ね!!』

 道真の爪が、美神の首に向かった。
 しかし、その兇爪が届く前に、

『な・・・なんだと・・・!?』

 一条の魔力波が飛来し、道真を真っ二つに切り裂いた。

『ワナってのは
 相手の裏の裏まで読んで仕かけないとね・・・!
 私たちの勝ちよ、道真!』

 土の中に潜んでいたメフィストである。

『バ・・・カな・・・。
 それにしても貴様ごときが
 私を一太刀で・・・!?
 そんなはずが・・・』

 そう言い遺して、道真は倒れた。


___________


『う・・・奪われただと・・・!?』

 異界空間のアジトに戻ったアシュタロスは、信じられない報告を受けていた。
 そこでは、土偶の形をした部下が、エネルギー結晶を究極の魔体にくべているはずだった。
 究極の魔体。
 それこそが、アシュタロスが全てを賭けて造っているものだ。
 将来アシュタロスは新たな魔王として君臨し、全ての世界を統一する。その時のためのボディであった。
 魂を集めていたのも、これを育てるためだ。
 特別な方法で精製されたエネルギー結晶は、指でつまめるほどの大きさの中に、二、三万人分の魂が込められている。それを養分にして、究極の魔体は、ようやく60%の完成度になっていた。まだ千年はかかりそうなのだが・・・。

『メフィストの奴・・・
 あれが何か知っておるのか!?
 よりによって・・・おのれ・・・!!』

 そんな貴重なエネルギー結晶を、自分が留守の間にメフィストに盗まれたというのだ。
 アシュタロスにしてみれば、これは、とても許せる状況ではなかった。


___________


「・・・えらいあっさり片づけたわね・・・!
 その結晶とかゆーやつ、
 ちょっとわけて欲しいわ・・・!」

 急激なパワーアップの理由を美神に説明したメフィストだったが、この言葉には、応じることは出来なかった。
 すでに、結晶は飲み込んでしまっている。メフィストの体の中なのだ。
 そんなメフィストは、
 
「メフィスト!!
 きっと来てくれると思ってたぞー!!」

 助け出した高島に、さっそく抱きつかれていた。

『あ・・・あた・・・あたし・・・』

 顔は火照るし、言葉もしどろもどろである。
 どうしていいか分からなくて、

『き・・・
 気やすくさわるんじゃないわよっ!!』

 と、高島を殴ってしまった。

「ふーん。
 やっぱ前世だけあって美神さんにそっく・・・」

 横島は、『高島がセクハラして鉄拳制裁をくらった』と認識してコメントしたのだが、

「どこがじゃー!!
 チョームカツク!!」

 美神を怒らせてしまい、自分が殴られてしまう。
 美神にしてみれば、メフィストのやっていることは、小学生が好きなコに意地悪しているようなものなのだ。それを自分と同じだと言われては、しかも横島から言われては、たまったもんじゃない。

『・・・これでいいわけ!?
 あんたそーしてんの!?
 横島クンと普段!?』

 メフィストはメフィストで、美神が自分と同じように、いや自分以上に暴力を振るうのを見て、これが正しい愛情表現なのだと思い始めていた。

「私の男じゃないって・・・」

 言いかけた美神だったが、思い詰めたようなメフィストの表情を見て、気が変わった。
 素直にアドバイスするとしたら、横島がノビている今しかないだろう。

「ま・・・その、なんだ・・・。
 自分は自分なんだからさ。
 自分なりにやるしかないよ。
 不器用な女は不器用なりに・・・ね」

 頬をかきながら語る美神を見て、

『誰の話です?』

 雪之丞の中のヒャクメが笑う。

「う・・・うるさいわねっ・・・!!
 帰るわよっ!!」

 美神は、横島に持たせておいた文珠を取り出し、その一つに『雷』と入れた。

(ごめんね、横島クン・・・。
 ちょっとやりすぎちゃったわね)

 いまだに倒れている横島を見て、さすがに反省する美神である。
 状況が状況だっただけに、つい、いつも以上の力でいつもよりも長く殴りつけてしまったのだが、それは自分の側の都合でしかなかった。

(お詫びと言っちゃなんだけど・・・)

 美神は、右手で『雷』を握ったまま、両腕を横島にまわした。そして、

(ゆっくり寝てなさい。
 これで、いい夢見れるでしょ?)

 正面から抱きつくような姿勢で、さらに自慢のバストを横島の体に押し付ける。

『あらあら・・・』
「シーッ!!
 黙って、ヒャクメ!!」

 美神は、人差し指を口にあてた。

「・・・メフィストに教えるために、やってるのよ」

 そんな言いわけまでしてしまう。それから、
 
「じゃ、またねー」

 敢えて軽い口調で、メフィストに挨拶する美神。
 とりあえず雪之丞に輸血するために現代へ戻らないといけないが、まだ問題は解決していないのだ。もう一度来る必要があるだろう。
 そう思ったのだが・・・。

 ズンッ!!

 時空震をも押さえつけるような、そんな強力なプレッシャーがその場を襲った。

『時間移動か・・・。
 面白い特技を持っているのだな。
 だがもうそれもあきらめろ!
 私が許さん!』

 空から聞こえてきた声の主を知るのは、メフィストだけだった。

『ア・・・アシュタロス・・・!!』

 月をバックにして、一人の男が浮かんでいた。フードのあるマントで全身を包んでいる。逆光でもあるため、ほとんど見えないが、カリスマのありそうな精悍な顔立ちをしていた。

(こいつが・・・)

 メフィストが叫んだ『アシュタロス』という名前は、彼女の説明に、また、彼女と道真の会話の中に何度も出てきていた。
 だから、美神も理解することができた。
 
(・・・私たちの敵!!
 それも・・・最後の大ボス!!)

 横島をギュッと抱きしめたまま、美神は、空に浮かぶ存在を凝視していた。



(第二十四話「前世の私にさようなら」に続く)
 


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