「遅くなっちゃったわね。
早く戻って明日の準備をしなきゃいけないのに・・・」
最近購入した愛車を運転しながら、美神がつぶやいた。
助手席では、横島が不満をもらしている。
「やっぱおキヌちゃんがいないと・・・」
「それはもう言うなって言ってるでしょ!?」
「・・・そんなこと言ったって・・・」
横島は、顔の腫れを美神に見せつけた。
「見てくださいよ、このアザ!!
全部美神さんになぐられたあとっスよ!?
いつもならおキヌちゃんが
『まーまー』ってとめてくれるのに・・・!!」
「・・・悪かったわよ!
私も、おキヌちゃんがとめるのを
期待するクセがついちゃってて加減が・・・」
横島のセクハラに、美神が鉄拳で応える。それは、もはや美神除霊事務所の風物詩のようなものだ。ただし、これは、ストッパー役のおキヌがいてこそ成り立っていたのだ。
「・・・拙者には、
おキヌどのの代わりは無理でござるよ」
後部座席で、シロがポツリと言葉をもらした。
「誰もシロにそんな期待してないわよ。
やっぱり誰か雇わないとな・・・」
と言いながら、ゆっくりと美神はブレーキを踏んだ。
信号が赤になったからなのだが・・・。
ゴン!!
後ろから来た車が、美神たちに追突する。
「うわっ!?」
「あーっ!!
ちょっとあんた!!
どこ見て運転してるのよっ!?
この車いくらしたと思ってんの!?」
美神に怒鳴られて、
「す・・・すみません!!
おケガはありませんか!?」
ショートカットの女性が降りてきた。
「どうしましょう・・・。
今、保険切らしてて・・・。
失業中だし・・・」
その女性、春桐魔奈美がオロオロする。
美神たちは、とりあえず彼女を事務所に連れていくことにしたのだが・・・。
第二十話 困ったときの神頼み
『ここを失せろ!! 二度と顔を見せるな!!』
翌日、美神が仕事で不在の間に、横島とシロは事務所から叩き出されていた。
それをしたのは、すっかり態度が変わった春桐である。いや態度だけではない、その姿まで変わっていた。
頬には刺青のような模様が入り、目はつり上がり、耳は尖っていた。頭には髑髏マークのベレー帽をかぶり、体も色々と変化していたが、特徴的なのは背中に翼があることだ。
春桐は実は人間ではなく、その正体は、ワルキューレという魔族だった。
『貴様らがいては美神令子を守りきれん!』
ワルキューレは、魔界第二軍所属特殊部隊大尉という肩書きをもち、美神の身辺警護を任務としていた。
『私は任務の障害となるものには容赦せん!
今すぐここを去ればよし、
もし、この後この近辺に近づいたり
美神令子に接触しようとしたら
その時は・・・』
ワルキューレは、ここでいっそう凄んでみせながら、
『殺す!!』
と告げた。
しかも、『他のGSや関係者に情報が漏れた場合には、横島とシロを原因とみなして殺す』とまで宣言したのだ。
そこまで言われれば、二人としても、逃げ出すしかなかったのである。
___________
「拙者、悔しいでござる・・・!!」
トボトボと歩きながら、シロが嘆いた。
「・・・完敗だったからなあ」
そう言いながら、横島は、事務所での一幕を思い出していた。
ワルキューレが魔族と知って、最初は刺客だと思ってしまった横島である。自慢のハンズ・オブ・グローリーで斬り掛かったのだ。だが、簡単にあしらわれてしまった。
シロも、それを思い出したのだろう。
「先生は、犬飼をも退け、
花のバケモノにもトドメをさした程だったのに・・・」
と、つぶやいている。
言われてみれば、確かに最近、強敵相手に活躍してきた横島だ。だが、ワルキューレはレベルが格段に違っていた。
(こういうのを強さのインフレって言うのかな)
そんなことまで思ってしまう横島だ。
「まー、もともとただのバイトだし、
仕方ないっていや仕方ないんだが・・・」
「先生は、それでいいのでござるか!?」
自分に言い聞かせようとした横島だったが、シロに詰め寄られてしまう。
何かを訴えかけるように下から覗きこんでくるシロを見て、
「とりあえずアイツがいたら美神さんは安全みたいだからな。
今は、それで良しとしておこう。
・・・な!!」
と言ってみた。
すでにワルキューレは、横島とシロの目の前で、敵の魔族を一人返り討ちにしていたのだ。人間相手ではなく魔族相手であっても、彼女は、十分強いのだった。
遠くから事務所の様子をうかがっていた敵を長距離射撃で仕留めたので、相手の力は分からなかったが・・・。きっと、横島やシロならば苦労するくらいの実力はあったのだろう。
「しかも、アイツただ強いだけじゃないみたいだ・・・」
おキヌがいなくなって、有能な事務員を欲していた美神除霊事務所である。そこへ、事故を装って接近。家事や事務に長けたところを見せて、一日で中に入り込んでしまったのだ。
(そう言えば『特殊部隊』って言ってたっけ?
スパイみたいなものなんだろうな。
魔族のジェームズ・ボンドか・・・)
考えながら歩いていた横島は、いつのまにか、アパートの前まで来ていた。
ここで、ふと、
「そう言えば、おまえ・・・。
これからどこへ行くんだ?
やっぱ人狼の里に帰るのか?」
シロの今後が気になった。
「・・・何言ってるでござる?
先生の部屋に厄介になるでござるよっ!!」
「そうか、先生の部屋か。
何にせよ・・・」
シロにも行き先があって良かった。
そう思った横島だったが、一瞬の後、その言葉の意味を理解した。
「・・・いっ!? 俺の部屋!?」
「もちろん!!
里には帰れないのだから、他に行く場所はないでござろう!?」
シロの居候に関しては、人狼の長老と美神との間で、正式に話が決まっている(第十七話「逃げる狼、残る狼」参照)。情報がバレたら殺すとワルキューレに脅された以上、誰にも事情説明も出来ないのだから・・・。
(そうか・・・。
隠れ里に戻るなら、
それなりの理由を捻り出さないといけないよな。
うまい嘘を考えるのは、シロには無理か・・・)
ようやく状況を理解した横島だが、彼の前では、
「今晩から、ずっと御世話になるでござる。
ふつつか者ですが、よろしく・・・!!」
シロが何か間違った挨拶をしながら、無邪気にシッポを振っている。
横島は、その場で頭を抱え込むのだった。
___________
その晩。
(まずい・・・!!
これは絶対にまずい・・・!!)
横島は、アパートの部屋で、眠れぬ夜を過ごしていた。
彼の横では、
「むにゃむにゃ・・・。
肉・・・。ホネ・・・。ちくわ・・・」
シロが幸せそうに眠っている。
(こんな現場を誰かに見られたら、
絶対勘違いされるぞ・・・!!)
シロは、以前に、『超回復』のせいで急成長しているのだ。今の外見は、中学生か高校生くらい。
これでは、少し年下の女の子を横島が部屋に連れ込んだように見えるだろう。
(・・・小鳩ちゃんには、見られたよな?)
帰宅した時、ちょうど、隣人の小鳩が銭湯へ行くところだった。
横島がドアを開けてシロを中に放り込んだのと、小鳩が部屋から出てきたのは同時だったはずだ。だが、あの瞬間の小鳩は、何かに気が付いたような表情をしていた。
(小鳩ちゃんって結構スルドイんだよな・・・)
もしも今日バレてないとしても、知られてしまうのは時間の問題だろう。
(・・・いっそ、事情を打ち明けるか?
小鳩ちゃんなら関係者のうちに入らないよな?)
とも考える横島だが、それも危険だ。どこからどう話が伝わるか、分かったもんじゃない。たとえ隠そうとしても、仕草や態度からバレる可能性はあるのだ。
自分の命をチップにして、そんな賭けに出るつもりはなかった。
(何しろ、相手は魔族だからな・・・。
それも、今までの相手とは比較にならないくらい・・・。
・・・ん?
『魔族』・・・?
『今までの相手』・・・?)
そこまで考えたとき、横島の中で、ある名前が浮かんできた。
ワルキューレとメドーサって、どっちが強いだろう?
そして、メドーサと言えば・・・。
(そうだ!!
魔族を相手にするなら、
神族に助けてもらえるじゃないか!!
・・・小竜姫さま!!)
そうと決まれば、『善は急げ』である。
「・・・おい、シロ!!」
「・・・ん!?
もう朝でござるか・・・!?」
横島は、かわいそうだとは思いながらも、シロを起こした。
「ワルキューレの奴、
『情報がもれたら殺す』って脅かしやがったが、もう大丈夫。
あいつでも手を出せないような隠れ家を、俺は知ってる!!」
「・・・どこ・・・!?」
シロは目をこすっているし、まだ眠いようで少し舌っ足らずだ。だが横島は、そんなことは気にしていなかった。
「シロ・・・。
『困ったときの神頼み』って言葉、知ってるか?」
そう言って、横島はニヤリと笑った。
彼は、妙神山に逃げ込んで、小竜姫に何とかしてもらうつもりなのだ。
実は現在、魔族と神族はハルマゲドン回避のために和平への道を模索中である。そのデタントの流れを守るためには、妙神山で神魔が争うことは御法度なのだが・・・。
横島は、それを知らなかった。
___________
「横島さん!!
久しぶりですねえ!!」
妙神山の門前で、小竜姫が横島を出迎えた。彼女は、なんだか嬉しそうな表情をしている。
その笑顔のままで、
「美神さんやおキヌちゃんは、元気ですか?」
と尋ねた。
今日の横島は、小竜姫の見知らぬ少女を連れてきている。
美神やおキヌはいっしょではないが、だからといって、不思議がる必要もなかった。以前に横島が一人で来たこともあるのだ(第十二話「遅れてきたヒーロー」参照)。ただ挨拶のつもりで尋ねただけなのだが・・・。
「うっ、ううう・・・!!」
小竜姫の目の前で、横島は、その場に座り込んでしまった。背中を丸めて、地面に『の』の字を書いている。
「な・・・何があったんです?」
「・・・今は、二人の名前は禁句でござる」
小竜姫に返事したのは、横島の同行者だった。
一見すると人間の少女のようだが、お尻から生えたシッポが、それを否定している。彼女が人狼であることを、小竜姫は見抜いた。
「あなたは・・・!?」
すると、人狼の少女は、その場に土下座し始めた。
「大先生!!」
「・・・『大先生』?」
慣れない呼称に戸惑う小竜姫の前で、少女は、地面から顔を上げて懇願した。
「それがしは横島先生の一番弟子、
犬塚シロと申します!!
先生は小竜姫大先生から剣を授けられたそうで。
ことわざにもあるように、
師の師は我が師も同然!!
どうか、それがしにも修業をつけてくだされ!!」
小竜姫は、シロに好感をもった。その態度から、武士としての礼儀正しさを感じ取ったのだ。
(横島さんの弟子・・・?
まあ実力は私がテストしてあげるとして・・・)
もとより、修業の面倒をみるために、小竜姫はここにいるのだ。断るいわれはなかった。
「・・・いいでしょう。
で、どのようなコースを?
あなたも霊波刀の修練を希望しますか?」
しかし、この提案に対してシロは首を横に振る。
「・・・それでは足りないでござる。
拙者と先生を、美神どのより強くしてくだされ!!」
「・・・それは無茶じゃないかしら」
小竜姫は顔をしかめた。
かつて美神がここでした修業は、人間が受ける最高レベルのものだったのだ。もちろん、それ以上の修業も物理的には可能であり、最難関コースも存在するのだが・・・。
「それが必要なのでござる!!
今、美神どのは・・・」
シロが、現在の状況を説明し始めた。
魔族が複雑に関係しているという話を聞き、小竜姫も考えを改める。
(美神さん、また大変なことに巻き込まれたようですね・・・)
これは、神族上層部へも報告する必要があるかもしれない。それほどの重大事のようだった。
小竜姫は、あらためて自分の前の少女に視線を向けた。彼女は人狼だ。人間以上の力を持っているはずだ。
そして、座り込んでいる横島に目を動かした。今は情けない姿だが、その実力は分かっている。さらに、それ以上の力を秘めているだろうと小竜姫は感じていた。
「・・・それなら、最難関にチャレンジしますか?
まだ人間は誰も試したことがないコースですが、
なまじ経験をつんでいる美神さんたちより、
あなた方の方が向いているかも・・・」
「ぜひ!!
御願いするでござる!!」
目を輝かせるシロを見て、小竜姫は微笑みながら、
「それじゃここにサインを・・・」
一枚の紙を差し出した。
そして、同じものをもう一つ用意する。
「はい、横島さんも・・・」
地面に『の』の字を書いていた横島は、その指を、差し出された書類の上にも走らせてしまった。
「ウルトラスペシャル
デンジャラス&ハード修業コース二人前!
契約完了ですね!!
このコースには私の上司が参加します。
その前に、まずは私がテストすることになりますが・・・」
「・・・へ?」
横島が顔を上げた。自分の世界に入り込んでいたのだが、ようやく戻ってきたらしい。
ただし、少し遅かった。すでに小竜姫とシロとの間では、『横島も修業しに来た』ということで話は決まっていたのだから。
___________
一方、横島のアパートでは・・・。
コンコンコン!
ドン! ドンドンッ! ガン!!
美神がドアをノックしていた。
「いない・・・みたいね」
昨日の夜、除霊仕事を終わらせて事務所に戻った美神は、横島とシロがいないことに驚いた。春桐の話では、シロは急用で里に帰ることになり、また、横島もしばらく休むらしいのだが・・・。
美神は、なんだか気になったのだ。それで、こうして一人で、アパートまで訪ねてきたのである。
そこへ、
「あら、美神さん」
部屋に帰ってきた小鳩が通りかかった。
「どうしたんですか?
横島さんなら、
まだ暗いうちにでかけたみたいですけど・・・」
「でかけた!? どこへ?」
「さあ・・・。
私も、出発するところを見たわけじゃないですから・・・」
「どういうこと・・・!?」
小鳩は、少し躊躇した後、正直に話し始めた。
「昨日の夜、女の人が泊まったみたいなんです。
それが今朝になったら、もう二人の気配がなくて・・・」
「・・・横島クンが部屋に女を連れ込んだの!?」
美神の目が吊り上がるが、それに怯えることもなく、小鳩は話を続ける。
「後ろ姿をチラッとみただけなんですけど・・・」
どうやら昨晩の女の子はシロであるらしいと気付いていた。
小鳩も、シロとは一応の面識がある。シロが頻繁に横島のところに来るからだ。
シロは最近加わった美神除霊事務所のメンバーであり、自分の趣味に横島をつきあわせているのだ。
それくらいは、小鳩も理解していた。
だが、しかし、あれがシロであるなら・・・。
なぜ、コソコソと隠す必要があるのだろう?
なぜ、部屋に泊めたのだろう?
なぜ、誰も起き出さないうちに二人で姿を消したのだろう?
「まさか・・・。
駆け落ちじゃないですよね・・・?」
「横島クンとシロが!?
そんなわけないでしょ!!」
口では否定する美神だが、その顔は引きつっていた。
___________
「駆け落ち・・・ですか?
さあ・・・?
会ったばかりでしたから、
お二人の関係も私にはわかりませんし・・・。
何とも言えませんね・・・」
トレーにのせた紅茶を美神の前に置きながら、春桐が首を傾げている。
事務所に戻ってきた美神は、昨日の横島とシロの様子を、もう一度春桐に尋ねたのだ。しかし、その答えは要領を得なかった。
「そう・・・。
ごめんね、変なこと聞いちゃって。
ただ、横島クンのお隣さんが、
そんなこと言い出したもんだから・・・」
そう言って笑う美神だったが、
「お知り合いの方々がそう言うのでしたら、
そうなのかもしれませんね・・・」
春桐の一言が、胸に深く突き刺さった。
もちろん、美神は、春桐の正体がワルキューレという魔族であるとは知らない。
だから、ワルキューレの
(あの二人、駆け落ちしたと思われたのか。
その設定なら、突然姿を消しても自然だな。
そう思わせておいたほうが良さそうだ)
という考えにも、当然気が付かない。
美神は、座っている椅子を回転させて、春桐に背を向けた。
「春桐さん・・・!
ちょっと厄珍堂へ行って、
おふだを買ってきてちょうだい」
「え?
でも、おふだなら十分・・・」
「いいから・・・おねがい!」
美神は、一人になりたかったのだ。
___________
(おキヌちゃんがいなくなって、今度は、
横島クンまで私からいなくなるなんて・・・)
春桐が出ていった後で、美神は考え込む。
(そんなはずないわ・・・!!)
確かにシロは横島を慕っていたようだが、男女の感情ではなかったはずだ。シロは、超回復で外見は急成長したが、中身は幼い子供なのだ。恋愛感情なんて・・・。
しかし、そこで美神は思い当たった。
(まさか・・・。
私にとっての西条さん!?)
美神だって、子供の頃に、身近にいた西条に憧れていたではないか。少し年上で、優秀でカッコ良かった西条・・・。
西条がイギリスに行くことになった際には、当時十歳の美神が、
「わ・・・私も・・・。
私も一緒に行きたいな」
と、子供心にプロポーズまでしたくらいだ。もちろん、そういう意味には受けとってもらえなかったのだが・・・。
(シロも同じなわけ・・・!?)
しかし、美神は、自分の考えを否定するかのように頭を振った。
シロの気持ちがどうあれ、横島は気付かないだろう。
横島は鈍感なのだ。半分は演技なのかもしれないが、だが、普通よりニブイことだけは確かだ。
そもそも、子供に手を出すような横島ではないはずだ。
それが突然・・・!?
(もしかして・・・。
おキヌちゃん一人が欠けたことが、
私たちの人間関係に
そこまで大きな影響を与えたというの・・・!?)
___________
『美神オーナー!!』
突然、美神は声をかけられた。事務所の建物全体に取り憑いている人工幽霊からである。
『雪之丞さんが来ましたが、どうしますか?』
「雪之丞!?
・・・こんなときに。
いいわ、通してちょうだい」
死津喪比女の事件が完全に片づいた後で、雪之丞は、美神たちの前から姿を消していた。
だが美神たちは、別に心配もしていなかった。一人で元気にしているだろうと思っていたのだ。なにしろ雪之丞は、一匹狼を自称しているくらいなのだから。
「よっ!!」
「どうしたの、突然・・・!?」
気軽に声をかけた雪之丞に対し、美神もいつも通りに対応する。雪之丞の場合は、突然来るのも普通の範囲内だった。
「小竜姫への紹介状を書いてくれ」
「・・・はあ!?」
「そろそろ力もついてきたし
妙神山に行こうと思ってる」
雪之丞は、白龍会の出身だ。そこでメドーサから魔装術を学んだ。
だが、彼自身、それは邪道だと分かっていた。邪道ばかりではいずれ限界が来るだろう。そろそろ正道を学ぶべき時なのだ。
美神のもとで働けば修業になるかと考えたこともあったが、思っていたほどではなかった。確かに強敵と出会う機会は多いが、だが、美神から直接多くを学ぶことは期待できなかった。
「・・・何言ってるの!?
あんた、小竜姫とは知りあいじゃない!?」
「ん? 紹介状なしでも修業頼めるのか!?
そういうもんが必要なシステムだと聞いてたんだが・・・」
「・・・いいから勝手に行きなさい。
こっちはそれどころじゃないの」
美神は、呆れたような表情をして、シッシッと手を振った。
ここで雪之丞は、事務所の静けさに気が付いた。
「・・・ん?
横島はどうしたんだ?
あの犬っころも今日はいないのか・・・」
その言葉にピクリと反応してしまう美神。
それを見て、雪之丞が苦笑する。
「横島とケンカでもしたのか?
それで機嫌が悪いのか・・・。
おい、おキヌがいない今こそ、チャンスじゃねーか。
もっと素直になれよ・・・」
雪之丞としては、珍しくアドバイスしたつもりだったのだが、いかんせんタイミングが悪すぎた。
火薬庫に火種を投げ入れてしまったのだ。
美神は黙って立ち上がり、引き出しから神通棍を引っ張り出した。そして、最大パワーで殴りつける!!
「うわっ、ちょっと待て!!
何するんだ・・・!?」
身をすくめながら、雪之丞が慌ててよけた。空をきったはずの神通棍だったが・・・。
ビシッ!!
手応えがあった。
「え?」
二人が床を見ると、何かが叩き落とされていた。蠅のようにも見えるが、普通の蠅ではない。
「何これ!?
小さいけど、でも・・・」
「・・・妖怪じゃねーか!?」
そこへ、窓を突き破って、ワルキューレが飛び込んできた。
『逃・・・げろ・・・美神令子!!
そいつ・・・は魔族の殺し屋・・・』
ワルキューレは、春桐魔奈美の姿ではなく、本来の姿をさらけ出していた。しかし、左の羽根を失っており、他にも怪我をしているようだった。
まともに立っていることも出来ず、膝をついたところで、
『・・・だ!?』
床の『蠅』が目に入った。
「あ・・・あんた春桐・・・」
「こいつ魔族か!?
今のハエ野郎はテメーの手先か!?」
美神と雪之丞が色めき立つが、それを意に介さず、ワルキューレは立ち上がった。
その際にシッカリ『蠅』を踏みつぶしているが、体はふらついている。
『・・・フン!
悪運の強さは筋金入りときいてはいたが・・・』
それだけ言ったところで、ワルキューレは倒れてしまい、意識を失った。
___________
都会のビルの地下に、つぶれたゲームセンターがあった。
その中央に、一人の子供が座っている。
『ベルゼブルの気も消えた・・・!』
半ズボンにパーカーを着たオカッパ頭の少年である。やけに目付きが鋭い以外は、ごく普通の子供なのだが・・・。
彼も魔族だった。
『なぜだ・・・!?
ワルキューレほどの者が警備にあたり
私ほどの者が直に手を下さねばならんとは・・・』
彼は、脚を組んで頬に手をあてながら、考え込んでいた。
ベルゼブルは、ワルキューレに大きなダメージを与えてから、もはや丸裸となったはずの人間に向かっていったのだ。人間からは小さな蠅にしか見えないベルゼブルなだけに、攻撃を防ぐのは不可能なはずなのだが・・・。
そこで返り討ちにあったらしい。
『あの美神という人間に何があるというのだ・・・?』
突然、壊れたゲーム機のモニターが光り出す。
『うまくいっておらんようだな、デミアン』
『ボス・・・!』
椅子からおりた少年は、モニターの中の人影に向かってひざまずいた。
『部下を二鬼も与えたのは万一の
失敗も許したくなかったからだ。
なぜ彼らだけで行かせた?
何が気に入らんのだ・・・?』
『・・・おそれながら、私の受けた命令は
「美神令子を殺し、その魂を持ち帰ること」です。
正規軍のワルキューレを相手にするなんてきいてませんよ』
デミアンは、従順な姿勢を示しているが、ボスを尊敬しているわけではなかった。言うべきことはハッキリ言うのだ。
これが裏の仕事であるということは承知している。だが、鉄砲玉になるつもりなどない。正規軍を相手にケンカを売るというのであれば、それでも無事でいられる保証が欲しかった。
それをキチンと述べたところ、
『そのような心配は無用だ。
なぜなら・・・。
あの女を殺し、その魂を手に入れれば・・・
次の魔王は私だからだ!!』
『な・・・!?』
思いもよらぬ言葉を返されて、デミアンは動揺した。
『あの女は前世で我々魔族と大きな因縁を持つ者・・・。
特に私とな・・・!!
わかったら行け!!』
『は・・・!!』
ボスは少し詳しい情報を語ってから、姿を消した。だが、デミアンにしてみれば、最後の部分は些細な話だ。
問題はボスの『次の魔王』という言葉である。このボスが言うだけに、重みがあるのだった。
魔族の中には、王や魔王を自称する者はたくさんいる。今回の仲間の一人ベルゼブルも、『蠅の王』と名乗っているくらいだ。
そして、このボス自身、すでに魔界トップクラスの実力をもち、周囲からは『魔王』として恐れられているのだ。その彼がいうところの『次の魔王』とは・・・。
(魔界の最高指導者にとってかわろうということか・・・!?
あいつが!? ・・・フン!)
デミアンとしては、ボスと一蓮托生になるつもりなどなかった。だが・・・。
『ここまできいた以上私もハラをくくるしかないか・・・!』
___________
「人狼に一度見た技は通じないでござる!!
もはやこれは常識!!」
「ウキキッ!?」
「・・・どこかで言ってみたかったでござるよ」
シロの圧勝だった。
・・・といっても、これは格闘ゲームの話である。しかも、シロといっしょになってテレビゲームに興じているのは、人間ではなくて猿だった。
シロは、横島とともに、中国の離宮のような建物に来ていた。その広間でゲームをしているのだ。
縁側では、横島が、
「今日で何日目だろ・・・?」
とつぶやきながら、ボーッと座り込んでいた。
これが、妙神山の最難関という言葉にビクビクしながら連れてこられた環境だった。ここは、確かに異空間である。だが、その中で行われているのは、ゲーム猿と戯れる日々だった。
この猿は、ただの猿ではない。服を着て眼鏡をかけ、キセルで煙草までふかしている。頭には特徴のある輪がのっており、見る者が見れば、それだけで正体を知ることができるであろう。
猿神ハヌマン。斉天大聖老師とも呼ばれる神族であった。
この空間も彼によって作られた仮想空間であり、それを維持するためにパワーのほとんどを使っているからこそ、猿そのものになっているのだった。
時間の流れも現世とは異なり、ここでの数ヶ月など、現実の一秒にも満たない。魂を加速状態にして過負荷を与えることで、その後の出力を一時的に増すことが出来る。いわば、これは修業のための準備運動なのだ。
だが、横島もシロも、そこまで理解しているわけではなかった。
本気でノンビリしている横島のもとに、
『ちょうど二ヶ月になりますね・・・』
と言いながらやって来たのは、ジークフリートだ。二人の案内役として、一緒にこの空間に入っているのだが、本来、彼は魔界軍情報士官である。
魔族と神族の間の緊張緩和ということで、相互の人材交流も始まっていた。そのテストケースとして、ジークフリートは、魔界から妙神山へ留学しているのだ。
実は彼はワルキューレの弟であり、容貌もよく似ている。横島などは、最初、ワルキューレだと誤認してしまったくらいだ。
「そうか・・・。
このままずっと遊び呆けていたいなあ・・・」
きれいな青空を眺めながら、横島はつぶやいた。
___________
「ふーん・・・。
さっきのハエ野郎のこともあるし・・・
信じるわ、あんたの話」
ケガをしているワルキューレをそのままには出来ず、美神は彼女の手当てをした。
雪之丞も気は進まないようだが、美神に従っていた。
ワルキューレは、もはや事情を隠すわけにもいかず、すっかり喋ったのだった。なお、今は人間の看護をうけるために、再び春桐魔奈美の姿になっている。
「でも何でなの!?
何で私が特別に魔族に狙われたり
守られたりしなきゃならないわけ!?」
「知らんのだ、本当に。
私の任務はおまえを連中から守ること・・・
それだけだ」
ベッドに寝かされたワルキューレは、近くの椅子に座った美神に対し、正直に答えた。
ここで、壁にもたれていた雪之丞が口を挟む。
「・・・色々とやりすぎたんじゃねーか!?
香港のメドーサの事件もそうだし・・・。
ヌルのやつなんて、過去にまで行って倒したんだぜ?」
香港の風水盤事件は、もともと雪之丞が依頼されたものだった。だが、最後にメドーサを追い詰めたのは美神だ。遅れてきたわりに、オイシイところを持っていったのだ。
また、プロフェッサー・ヌルの計画を妨害したのは、中世ヨーロッパでの出来事である。美神が意図して過去へ飛んだわけではないが、時間移動能力を知るものから見れば、誤解されても仕方ないだろう。
「うーん・・・」
美神のカンは、何かもっと複雑な事情があるのではないかと告げていた。
「ま・・・、いずれにしてもさ・・・」
立ち上がった美神は、ワルキューレを見下ろしながら宣言する。
「私がおとなしく言いなりになってるなんて思わないでよ!
オモチャにされんのはゴメンだわ!」
「だから本人には特に秘密にしろと指示されていたのだ・・・!」
「それでこそ美神の大将だぜ!」
冷や汗を流すワルキューレとは対照的に、雪之丞は嬉しそうだ。強い敵と戦えると思ってワクワクしているのだろう。
「・・・すぐに出かけましょう!
雪之丞、ワルキューレをお願い!!」
「・・・ちょっと待て!
俺を置いてくつもりか!?」
「ど・・・どこへ!?
今動きまわるのは危険だと言っただろう!?」
美神の言葉に即座に反応した二人に対し、美神は諭すように答える。まずは雪之丞だ。
「・・・雪之丞。
あんたは絶対について来るでしょう?
分かってるわよ、ちゃんと。
ただワルキューレをここに
残しておくわけにはいかないから、
肩を貸してやって欲しいの」
「・・・そういうことか。
魔族を助けるのは気が進まないが、仕方ねーな」
美神は、雪之丞の言葉を聞いて、心の中で笑っていた。
ワルキューレの介抱を雪之丞が嫌がると思ったからこそ、もっとイヤな『置いていく』という可能性を示唆してみせたのだった。
そして、ワルキューレに向かって、
「知りあいに神さまがいるの!
あそこなら安全だし情報も手に入るわ」
と言ってから、雪之丞と目を見合わせて微笑んだ。
「神族だと!?
・・・やめろ!!
今は神魔が表立って争える情勢ではないのだ!!
神族と魔族は冷戦対立中ではあるが、
デタントへ向かっており・・・」
ワルキューレは慌てるが、美神は、それを制止するかのように手を突き出した。
「安心して。
『あそこなら安全』と言っても、
別に逃げ込むつもりじゃないから。
・・・神さまに丸投げして保護してもらうんじゃ、
あんたに守られてるのと同じじゃないの!?
私があそこへ行くのは・・・」
いったん言葉を切った美神は、窓から外を眺めた。まるで、遠くの妙神山が見えるかのように。
それから、
「・・・魔族に対抗できるパワーを手に入れたいからよ!」
と締めくくる。
(自分の身は・・・。
自分で守るわ!)
おキヌも横島もいない今、美神は、そう思うのであった。
(第二十一話「神は自ら助くる者を助く」に続く)
この「復元されてゆく世界」の主人公は三人で、その意味では、横島もメインキャラなのですが・・・。
これまで、横島単独の修業シーンをカットしたり、横島シャドウのパワーダウンイベントを挿入したりしたのは、一つには『横島が第一主人公ではない』からです。敢えて三人に順位をつけると、横島は『第三主人公』となります。
だから、ある程度は横島を目立たせたいものの、横島一人を強くし過ぎたり、横島の成長にスポットを当て過ぎたり、横島を原作以上の二枚目にしてしまったり、そうした事態は避けたいのです。また、読者に『そうした事態』を期待させるような書き方をしてもいけないと思っています。
しかし、バトルなどでは、横島のワザが使いやすく、(『ある程度は横島を目立たせたい』というのもあって)ついつい横島を活躍させてしまいます。ですが、それだけでは、バランスが悪い。
そんなわけで、今回は、『かっこよくない横島』を書いてみました。横島の両面のうちの、今まで描写し難かった片側を表現してみたのです。
原作では、ここで、そこそこ自発的に修業に赴く横島ですが、
「あれだって、雪之丞に触発された上、おキヌちゃんの夢を見たからだろう」
と考え、
「そうしたキッカケがなければ、ワザワザ自分から修業には行かないかもしれない」
と解釈してみました。
もちろん、この作品では、『(封印はされているけれども)未来の記憶』があって、そのせいで今まで「突然、一瞬のみだけど、強くなろうという気になった」ということも時々ありました。ですが、それも、あくまでも『時々』です。そうした影響も今回はなく、完全に『巻き込まれ型』にしてみました。
特に横島というキャラクターは、人によって『原作の横島』のイメージが大きく別れるキャラでしょう。アシュタロスとの戦いで急成長したかのように描かれている部分を重視している方々の中には、『ファイヤースターター』以降の横島に違和感を抱き、それを否定したくなる人々もいるかもしれません。
しかし、私は、最終的に描かれたものが『描かれたもの』だと思いますし、それが原作だと考えています。だから、『ファイヤースターター』以降の横島が、それ以前の横島と違うのだとしたら、『ファイヤースターター』以降の横島こそが本物の横島だと認識しています。もしも両者の間に違和感があるならば、どちらかを否定するのではなく、どちらをも肯定できるような脳内解釈を捻り出し、表現してみる。それが『二次創作』の醍醐味の一つだと思っています。
・・・こうした立場は、後書きなどではなく、作品中で示していくべきなのですが、何せ私もこの「復元されてゆく世界」という作品で二次創作に始めてチャレンジする身です。どこまで読者に伝えることが出来ているのか、わかりません。
自分の立場を強調する意味でも、今回は、『かっこよくない横島』を書いてみました。
なお、『横島は第三主人公』と書いてしまうと、第一主人公は美神かおキヌということになるですが・・・。
読者の皆様の印象としては、どちらが第一でしょうか?
実は、最終的には、美神が第一主人公になるように想定しています。
この「復元されてゆく世界」全体は、最初に『最後の数話』を考えた上で書き始めているので、私としては、推理小説を書く時と同じ感覚の部分があります。推理小説で例えるならば、最終的な『探偵役』は、おキヌでもなければ横島でもなく、美神なのです。
ただし、推理小説の探偵役って、解決編ではオイシイところをゴッソリ持っていくのに、それまでにはたいして目立った活躍をしない場合もあります(安楽椅子探偵という用語もあるくらいです)。それが推理小説であるならば、読者もそうしたフォーマットを認識しているから、唐突感も少ないでしょう。しかし、この作品は、私の書作上の感覚がどうあれ、決して推理小説ではありません。それまで目立っていない人物が、最後にいきなりしゃしゃり出ては不自然でしょう。だから、そこに至るまでに、美神にそれなりの活躍をさせないといけないのですが・・・。
ここまで、ちょっとおキヌをプッシュし過ぎているのではないかと、心配しています。
今後、美神が最後に目立ってもおかしくないように、だんだん美神の活躍の比重を大きくしていくつもりです。それでも、美神一色ではなく、三人うまくバランスを取りたいので、横島が活躍する機会には横島を、おキヌが活躍する機会にはおキヌを活躍させると思いますが。
さて、原作ではこのエピソードで雪之丞をアパートに泊めた横島でしたが、この作品では、シロを泊めることになりました。前編のミソですね。
シロの宿泊を構想した際には、駆け落ち疑惑なんて考えてもいなかったのですが、書いているうちに、そうなっちゃいました。
実は、シロの宿泊のポイントは、
「横島が寝てられないので、朝を待たずに妙神山へGO!」
というところにあります。
原作よりも早く妙神山へ行ったことはハッキリ示しておきたかったので、小鳩のセリフも『横島さんなら今朝』から『まだ暗いうちに』と変わっていますし、原作では横島の出発を目撃しているのに対して、『出発するところを見たわけじゃない』『今朝になったら、もう二人の気配がなくて』と変更してあります。
なお、原作では紹介状もなく直接妙神山へ向かう雪之丞ですが、ここでは、
「原作よりも美神たちと過ごす時間が長くなったため、横島や美神から、かつての修業の話も(原作以上に)聞いている」
という設定だと思ってください。そのため『紹介状がないといけない』と考えて、美神の事務所へ行っています。
もしかすると、
「なんで原作では横島のアパートへ行く雪之丞が、美神の事務所へ行くの?」
と気になる方々がいるかもしれないので、ここで先に言いわけしておきました。
さて、次回は妙神山修業編の後編です。ご期待ください。
なお、今回の話を書くにあたって、『今、そこにある危機!!』の他に、『エピローグ:長いお別れ』『犬を追う!!』『清く貧しく美しく!!』『バトル・ウィズ・ウルブス!!』『嵐を呼ぶ男!!』『ドラゴンへの道!!』『そして船は行く!!』を参考にしました。 (あらすじキミヒコ)
ここの横島は原作の同時点よりも強いんでしょうがワルQよりは弱いでしょうか。
文珠なしで横島が純粋魔族に勝てる力が有るのかは確かに疑問です。
ただ原作でも美神が中級魔族のガルーダを倒しているので原作後の横島ならワルQに勝てる気もするんですが。
記憶封印だけでは霊力が下がるとは思えないのでどんなもんでしょう。
ヘタレな横島ですが切羽詰まった時かやらせてくれる女が出来た時位しか本気にならないので良いのではないかと思います。
GS美神の中では矢張りアシュ編が特殊だった気がします。
横島とルシオラに焦点が集まって横島が異常に成長してしまったのが問題なのでしょう。
その所為で「ファイヤースターター」以降で作品をアシュ編前の雰囲気に戻そうとして横島に違和感を感じる原因になってる気がします。
ルシオラの事で何時までもメソメソする横島と言うのも変な気がしますが、「ファイヤースターター」以降の横島は矢っ張りおかしい気がします。
アシュ編をドラ○もんの劇場版としてとらえれば良いと言う意見も有る様ですがもう少し何とかならなかったのかと思います。 (白川正)
>シロ大活躍ですね、お陰でユッキーがいらない子な感じに。
第十七話で
>シロは、仇を討つまでという条件付きで、
>美神の事務所の屋根裏部屋に居候することになった。
と書いたように、シロは、退場時期が決まっているキャラクターです。そのため、まるで期間限定商品のように、特別に活躍してもらっています(『活躍させています』ではなく『活躍してもらっています』という感じです。シロのおかげで、今回の駆け落ち騒動のように、考えてもいなかった小ネタをボンボン放り込むことができますので)。
雪之丞は雪之丞で、作品中の美神たちの認識がどうあれ、作品としては決して『いらない子』にはなりません。原作にない展開を描くための、大事な大事なキャラクターです。
雪之丞の経歴には影があってもおかしくないので、そういうキャラ独特の言動が欲しいときにも、重宝します。
>ここの横島は原作の同時点よりも強いんでしょうがワルQよりは弱いでしょうか。
これに関してなのですが、
>記憶封印だけでは霊力が下がるとは思えないのでどんなもんでしょう。
もしかすると、逆行の概念が、私と白川正さんとでは違うかもしれません。
逆行ものでも『魂の逆行』と『記憶のみの逆行』という分類があるようですが、私が考えている逆行は後者になります。
例えば、二十歳の人間が突然十五歳に若返った場合。
それまでの五年間の記憶はあっても、体力や筋力などは、二十歳の力ではなく、十五歳の力になってしまうと思うのです。
だから、この作品で逆行している三人は、出発した時点の霊力などは、過去へは持ってきていません。未来の知識や経験がある分、若干強く見えることはあっても、その程度です(しかも、その記憶そのものも、基本的には封印されちゃってますし)。
原則として霊力は、原作と同じように修業する限りは、原作と同じです。GS試験編で横島の能力発現が原作よりも早まりましたが、あれも「『技』を(方法を)原作より早く思いついた」だけであり、霊力という『力』そのものは原作と同じです。
そういうスタンスでなければ、今までに、美神や横島は、話のパワーバランスを完全に壊すほどの力を発揮していたことでしょう(霊力まで伴って逆行していたら、そもそも最初の美神の修業が大変なことになります)。
横島に限って言えば、原作にはない『妙神山単独修業』があったので、そこで、原作以上に霊力がアップしていても不思議はありませんが、それでも逆行前には遠く及びません。
また、横島に関してはややこしい部分があって、『魂の逆行』ではなく『記憶のみの逆行』のはずなのに、なぜかルシオラの霊基構造がいっしょに逆行してきています。
ただし、普通に魂ごと逆行しているなら、その影響もゴッソリ出るはずですが、そうはなっていません。
>横島の霊基構造に僅かに含まれる不純物に
>由来するものだった。 (第十二話より)
>記憶とともに霊体も僅かに引きずられてきており
(第四話より)
などと書いてきたのは、『わずか』ということを作中で触れておきたかったからでした。
さらに第十二話では、
>以前の横島は、本人の霊能力自体が
>少なかったからこそ、シャドウ化した際に
>その不純物の影響が強く出ていたのだ。
>だが、本来の霊能力が上がるにしたがい、
>その割合も薄くなってしまったのである。
という形で、イレギュラーだったことを示唆しています。
では、なぜそのような、部分的な『魂の逆行』が起こったのか。
これに関しては、後々、きちんと作中で説明します(『解決編』の中のどこで示すか、すでに考えています)ので、お待ち下さい。
現段階でハッキリ示すよりも、『謎』として残しておきたい部分だったので、紛らわしい表現になってしまいました。ですが、『謎』は『謎』のままでも、もう少し立場をキチンと表明するべきだったと反省しています。
例えば・・・。
早い段階で、上記のような二つの逆行の概念の違いを地の文として書いてしまい、「それなのに、なぜ、霊基構造が・・・」と直接的に謎を提示する。
今にして思えば、そのほうが良かった気がします。
>ヘタレな横島ですが切羽詰まった時かやらせてくれる女が出来た時位しか本気にならないので良いのではないかと思います。
ヘタレな側面を肯定していただけたようで、安心しました。
>GS美神の中では矢張りアシュ編が特殊だった気がします。
>横島とルシオラに焦点が集まって横島が異常に成長してしまったのが問題なのでしょう。
原作を『問題なのでしょう』と言ってしまうのは、それこそ問題な気がしますが・・・。
>アシュ編をドラ○もんの劇場版としてとらえれば良いと言う意見も有る様ですが
これは原作を一つの連続した壮大なストーリーと捉えるか、半ば独立した単発エピソードと捉えるかの違いですね。
原作のサブタイトルの付け方から見て、後者の見方も意識されていると思われます。
>もう少し何とかならなかったのかと思います。
程度の差こそあれ同じように思う人々が多いが故に、横島が逆行する二次創作が多く書かれているのかもしれません。
完結後にどのようなコメントがいただけるか、楽しみにしています。
それでは、今後もよろしくお願いします。 (あらすじキミヒコ)