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復元されてゆく世界

第十八話 おキヌちゃん・・・


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 1/20

  
「こんなガケの真ん中に、ほこらがあるのか・・・」

 雪之丞は、今、洞窟の入り口に立っていた。
 美神の事務所に頻繁に立ち寄るようになったことが、彼が一人で請け負う仕事にも影響を与えていた。もともとは遠地の仕事も厭わなかった雪之丞だったが、最近では、関東近辺の仕事を好むようになっていたのだ。
 その関係で築かれた人脈を通して、雪之丞は、地脈異常の調査を頼まれていた。彼としては、面白みのない仕事である。だが、少し前に大ケガをしたこともあって(第十七話「逃げる狼、残る狼」参照)、療養がてら引き受けたのだった。
 そして異常の原因を探るうちに、ここ人骨温泉に辿り着いたのである。

「いやに寒いな・・・!」

 雪之丞は、ほこらの中に入っていく。
 温泉の中心地からは離れた山奥であるが、それにしても冷気が強すぎる気がした。
 
「ここに何かあるようだな・・・?」

 岩の隙間から寒さがただよってくる。この奥に原因があるのだろう。
 雪之丞は、軽く霊波をぶつけて、岩を崩してみた。

「な・・・!?」

 大きな氷の塊があらわれた。
 しかも、中には女性の遺体が保存されている。
 
「これは・・・!!」

 雪之丞が驚いたのも無理はない。
 彼は、その女性の姿に見覚えがあったのだから。



    第十八話 おキヌちゃん・・・



「なんですって!!」

 事務所で電話を受けていた美神が、大きく叫んだ。
 
「どうしたんスか、そんな大声出して!?」
「びっくりするでござる」
『誰からの電話ですか・・・!?』

 他の部屋にいた横島、シロ、おキヌが、美神の声を聞きつけて集まるくらいだ。
 美神は、受話器を手にしたまま、ゆっくりと顔を三人の方へ向けた。

「今日の仕事はキャンセルよ。
 これから人骨温泉へ行くわ!!
 雪之丞が・・・、
 おキヌちゃんの遺体を見つけたんだって!!」


___________


「すまないな。
 呼びつけるような形になって」

 山の麓の駐車場で、雪之丞が美神たち四人を出迎えた。
 雪之丞の傍らには、美神たちの知らない女性が立っている。おキヌと同様の巫女装束だが、おキヌとは違って髪は短めだった。

「わたすは氷室早苗。
 あの仏さまのほこらは、
 わたすの家が管理してる場所だあ!」
 
 彼女は、ちょうど雪之丞が遺体を見つけたところへ通りかかり、最初は、死体遺棄現場だと勘違いしたのだった。その誤解を謝罪する意味もあって、早苗は、雪之丞を手助けしているようだ。

「うわあ・・・。
 ほんとに、あの仏さまの幽霊だあ!!」

 早苗は、おキヌを見て驚いている。
 美神としては、ここで事情を聞くことも出来るのだが、

「詳しい話は後でいいわ。
 まず、その場へ案内してちょうだい」

 おキヌの遺体を見に行くことを優先させた。


___________


 ほこらで、おキヌの遺体と対面した後。
 美神たちは、早苗の神社へと向かっていた。
 横島もおキヌも、色々と思うところはあるだろうが、それを口には出さなかった。
 そんな二人を見ていると、シロは、

(拙者は、新参者でござる・・・)

 と感じてしまう。
 一方、先頭を歩く美神は、

「地下水脈が凍りついて
 中の遺体を保存したらしいわね・・・」

 さきほどの光景を思い出していたが、ここで、ふと意識を周囲へと切り替えた。

「こんな山奥にずいぶん広いお屋敷ね。
 この辺の地主か何か?」
「300年ほど前、
 ほこらと社を子々孫々守るという条件で
 土地が与えられたんだあ」
『300年・・・!』

 早苗の言葉に真っ先に反応したのは、おキヌだった。
 その顔を見た雪之丞が、

「まあ、そう慌てるな。
 ここの神主が詳しく語ってくれるさ」

 と声をかける。雪之丞はすでに話を聞いているのだが、自分の口を通すよりも、直接のほうがいいだろうと考えていた。
 そして、彼らは鳥居をくぐり、早苗の父と対面した。

「そちらのおキヌさんの話、
 古文書に記されている神社の由来と符合します」

 美神たちを屋敷に案内した彼は、古文書を手にしながら、その内容を語り始めた・・・。


___________


 300年前の元禄の頃。
 この土地には、他に例を見ないほど強力な地霊が棲んでいた。地脈からエネルギーを吸い取って生きる妖怪であり、その名を『死津喪比女』という。
 そのため、地震や噴火が続いていた。困った藩主は、高名な道士を招いて死津喪比女の退治を依頼した。しかし・・・。

「退治は不可能ではありませんが・・・。
 敵は強い・・・!
 退けるには大きな代償が必要です」

 道士は人身御供を要求し、藩主は、それを受け入れる。
 怪物を封じる装置が作られ、一人の巫女を地脈に捧げることで、装置は稼働した。

「この装置は彼女の意志と霊力で永久に作動する。
 本来なら人の命をこのように使うべきではないが、
 この地にはどうしても新しい神が必要だ。
 いずれ娘は地脈とひとつとなり、山の神となる。
 そうすれば邪悪な地霊は・・・」


___________


「ちょ・・・ちょいまちっ!!」

 美神が話を遮った。
 おキヌとの出会いを思い出したのだ。
 才能がなくて神さまになれないと嘆いていたおキヌ。そのおキヌを地脈から切り離した美神・・・。
 では、今、怪物を封じる装置とやらは、どうなっているのだ?
 美神が、そこに思い至ったところで、

「ああ・・・。
 俺からも一言いいかな?
 そもそも、俺がここに辿り着いたのは・・・」

 と、雪之丞が口を挟んだ。
 そして、別の場所で地脈異常が発生していること、並びに、それがここへ繋がっていることを説明する。

「まさか・・・!?」
『その地霊が復活・・・!?』
「美神さんがおキヌちゃんと地脈を
 切り離しちゃったせいで・・・!?」

 美神とおキヌと横島の顔が青ざめた。シロは事情が分からぬようで、キョトンとしている。

(・・・ありうる!!
 おキヌちゃんがただの地縛霊じゃなく
 呪的メカニズムの一部だったとしたら・・・。
 ほかの幽霊と入れ替えたせいで
 作動不良をひきおこしたかも・・・)

 立場を理解していなかったおキヌにも非はあろう。だが美神は、おキヌを非難するより前に、自分がしたことの意味を考えこんでいた。
 そこへ、タイミングを見計らったかのように、雪之丞が声をかける。

「・・・そういうわけなんで、
 この仕事、手伝ってくれるよな?
 助っ人料は出せないが・・・」


___________


「へえ・・・!
 いいなー。
 家の裏にこんな温泉が湧いてるなんて・・・!」

 その夜。
 美神は、早苗とともに温泉につかっていた。自然の中の露天風呂である。

「あの横島とかいう人には内緒だけどな!
 東京の男はスケベで好かん!」

 早苗には特にセクハラ行為をしなかった横島だったが、なぜか、その本性を見抜かれていた。

「東京でもあいつは特殊な部類だけど・・・」
「わかってるだべ。
 同じ東京もんでも、
 雪之丞さんは違うようだから・・・」

 少し頬を赤くした早苗を見て、

「え・・・?
 あんた、雪之丞のことを・・・?」
「そんなんじゃねえだぞ!!
 ちょっとカッコいいなと思っただけで・・・。
 ああ、わたすには山田君がいるというのに・・・!!」

 美神が少し追求するのだが、早苗は、一人で頭を振っている。
 これがいわゆるイヤンイヤン状態だろうか。
 呆れてしまう美神だったが、早苗が我に返るのも早かった。突然、別人のようになって質問する。

「社では何も見つからなかっただべか?」
「え!? ええ・・・!
 あそこに何かあるのは
 まちがいないと思うんだけど・・・」

 美神は考える。
 早苗は『祠と社を子々孫々守るという条件で土地を与えられた』と言っていたのだ。だから、社も、遺体が保管されている祠と同じくらい重要なはずだ。

「とにかく徹底的に調べるしかないわ!
 死津喪比女とやらが本当に復活しているのか、
 まずはそれを確かめないと・・・」

 おキヌの代わりにした幽霊がどうなったか、それも調べないといけないだろう。
 そして、呪的メカニズムを解明するためには、おキヌ自身を探査することも必要かもしれない。

「全部片づくまで東京には帰れないわ」
「したら、その間、家に泊まるといいべ!
 父っちゃも母っちゃも遠慮はいらねって言ってるがら!」
「悪いわね。
 結構な人数で来てるのに・・・」

 美神としては、そんな言葉も出て来る。
 美神、横島、おキヌ、シロ、それに雪之丞。五人も泊めてもらうのだから。
 だが、早苗としてみれば、それくらい大したことではなかった。何しろ、おキヌこそ、その身を犠牲にしてこの地を救った功労者なのだ。

「それに・・・。
 たまには都会の人がいてくれるのも、嬉しいだべ・・・!」
「早苗ちゃん・・・」

 再び顔を赤くした早苗と、その心中を察する美神。
 平和な女同士の入浴である。
 しかし、その平穏も長くは続かなかった。

「!!」
「!? どうしたの!?」
「そこで何か動いた・・・!!」

 早苗の視線を美神が追う。
 オケラを人間大にしたような化物が、土の中から何体もボコボコと出現するところだった。
 最後に、別の形の化物も現れる。

『匂うな・・・。
 あの巫女と同じ匂いがする・・・。
 300年間わしを封じた、あの小娘・・・!!』

 それは、人間の女性に近い姿をしていた。しかし、脚の代わりに、植物の根のようなものが地中へと続いている。胸部はふくらんでいるが、腹は節々に別れていて全く人間らしくない。また、頭には髪の毛ではなく、植物の葉を長くしたようなものが付随していた。

「こ・・・
 こいつが・・・
 死津喪比女!?」

 美神の言葉を聞きとめて、その化物が問いかける。

『わしを知っておいでかえ?
 おまえの名は?』

 美神は、それに答える代わりに、

「横島クン!!
 服と武器を!!」

 と指示をとばした。しかし・・・。

 シーン。

 何の返事もなく、辺りに寒い空気がただよう。

「・・・あれ?
 横島クン・・・?
 デバガメしてると思ったんだけど・・・」

 横島は、ここにはいなかった。シロに引きずられて、散歩につきあわされていたのだった。

(・・・すべっちゃっみたいだけど、
 これはこれでいいわ。
 少しでも時間稼ぎをしないと・・・)

 いつものように精霊石のアクセサリーは身につけているが、それは最後の切り札である。今は、誰かが死津喪比女の妖気を察知して駆けつけてくるまで、武器なしで切り抜けるしかなかった。

「私は・・・。
 ゴーストスイーパー美神令子!!
 で、なんの用?
 おキヌちゃんを御探しかしら・・・?」
『おキヌ・・・。
 そういえばそんな名だったねえ。
 あいつが来たかと思ったんだが・・・。
 匂いに惹かれて来てみれば、
 ただの人間か・・・』
「おキヌちゃんでなくて、悪かったわね」
『「悪かった」・・・?
 何を言っておる?
 あの小娘はわしに地脈の養分を
 流れこませないようにする堰。
 どういうわけかここしばらくは
 地脈の門を開放しておくれなんだ。
 また意地悪を始められては、たまらないよ』

 死津喪比女の話から、美神は、その意図を容易に推測できた。

(こいつはまだ、
 おキヌちゃんが来ていることを知らない・・・!!
 おキヌちゃんが来たと考えて襲ってきたけど、
 今は、それが誤解だったと思ってる!!
 真相を知られたらヤバいわ・・・!!)

 おキヌが近くにいることを知れば、封印装置が再び稼働するのを防ぐために、おキヌを何とかしようと試みるだろう。

「・・・そう。
 おキヌちゃんなら、遠くで元気にしてるわ。
 もう二度とここへは帰りたくないって。
 というわけで、
 今日のところは御引き取り願おうかしら?」
『そーかえ?
 それなら、わしも助かるのだが・・・』

 一方、二人が会話している横では、虫型の化物達が早苗に迫っていた。

「きゃあああああああっ!!」

 と、早苗が悲鳴を上げた時。
 一条のエネルギー波が飛来して、虫達をまとめて薙ぎ倒した。

「スゲー妖気が現れたから来てみれば・・・。
 こいつが死津喪比女ってやつか!?」

 雪之丞が駆けつけたのだ。


___________


「雪之丞さんか!!」

 早苗は、タオルで前を隠すことも忘れて、雪之丞のもとへ走り寄る。そして、

「ありがとう!!
 助かっただべ・・・」

 抱きついて、その胸に顔をうずめた。
 雪之丞は既に魔装術を展開させており、ヒーローらしい外見ではないのだが、早苗には関係ないようだ。
 そんな二人の世界を邪魔するかのように、

「雪之丞!!
 武器と服を!!」

 美神が声をかけた。

「おおっ!!」

 雪之丞は神通棍を投げてよこしたが、それだけである。

「・・・服は!?」
「そんなもん持ってきてねえ!!」

 服にまで気が回る雪之丞ではなかった。

(横島クンじゃないから、仕方ないか・・・)

 美神は、左手で胸のタオルを押さえたまま、右手で神通棍を構えた。

『やる気かえ・・・!?』

 つぶやいた死津喪比女の指が、ピクリと動いた。

(来る・・・!!)

 それに反応したはずの美神だったが、

「な・・・!!
 に・・・!?」

 手にした神通棍ごと、首をガッシリとつかまれてしまった。
 もともと死津喪比女の腕は、植物のツル状のものを螺旋に巻くことで構成されていた。それが、バネを伸ばすかのように、一瞬のうちに美神のもとまで届いたのだった。
 死津喪比女が少し力をこめると、美神の神通棍は折れて、首から血も滲み出す。
 伸ばした腕を再び縮め、死津喪比女は、美神の体を引き寄せた。

『そなた・・・美しいのう。
 まるで花のようじゃ』

 と言いながら、顔を美神に近づける。
 この様子を見ていた雪之丞が、
 
「油断しすぎじゃねーか!?
 こんな一瞬で・・・!!」

 と叫ぶが、実は、彼自身にも分かっていた。
 美神は油断していたわけではない。左手は胸のタオルを押さえていたが、それでも、完全に戦闘体勢だった。死津喪比女の攻撃が、人間の反応速度を超えていたのだ。
 理解しているからこそ、雪之丞は手出し出来なかった。早苗を保護するかのように抱きしめるだけで、手一杯である。

『あの小娘がいなくなったおかげで
 わしは大きく花開いたのじゃ。
 今さら枯れとうない。
 そなたも、この気持ちわかるだろう?』

 そして、死津喪比女は、美神の頬に向かって舌をのばし、

『二度とあの小娘を連れてくるでないぞ!!
 そんなことをすれば、悲鳴どころではすまないぞえ!?』

 という言葉とともに、ベロリと舐めあげる。
 美神の体中に悪寒が走り、頭の中でブチッと音がした。

「ちょ・・・調子に乗りすぎよ、
 この、くされ妖怪がああっ!!」

 美神の身につけていた精霊石が、全て光った。

「三発同時は効いたでしょ!?
 セクハラするには相手が悪すぎたみたいね・・・!!」

 大爆発を前にして、勝ち誇る美神だったが、

『精霊石か・・・。
 人間とは進歩のない生き物よの。
 せっかく伸びたわしの身体をこんなにしおって・・・』

 死津喪比女は、右上半身と左腕を失い、腰も抉れていたが、それでも特にこたえていないようだった。

『殺すか・・・。
 いや・・・』

 相手は一流のゴーストスイーパーのようだが、それでも死津喪比女の敵ではなかった。ここで命を絶つことは簡単である。
 だが、死津喪比女にとって問題なのは、おキヌなのだ。おキヌが再びやってきて装置を作動させること、それだけを恐れていた。
 それを防ぐためには・・・?

『クックック・・・。
 今日のところは見逃してやる。
 わしの力は身にしみたことだろう。
 あの小娘を連れてこようものならどうなるか・・・。
 よく覚えておくのだぞえ!!』

 警告のための恐怖を植えつけて、死津喪比女は去っていった。


___________


 古文書に書かれていた内容から、江戸時代の道士が死津喪比女を倒すために人身御供まで用意したことは理解していた。しかし、美神たちにしてみれば、それも『昔の道士だから』と思っていた部分があった。

「思った以上の化物だな・・・」
「私たちだけでは手に余るかも・・・」

 その実力を目の当たりにしたことで、雪之丞と美神は、認識をあらためていた。
 すでに夜も遅かったが、美神は東京の西条へ電話をかける。協力を要請したのだ。
 そして、深夜。

(隣の部屋で美神さんが眠っているというのに、
 男として、黙って寝ていられるだろうか?
 ・・・いや、ない!!)

 死津喪比女と直接戦わなかった横島は、まだ、どこかノンキだった。
 温泉でのバトルの件は聞いたのだが、

(露天風呂!!
 ちくしょう、俺がその場にいたら・・・!!)

 美神の裸体を拝み損なったという感覚しかない。

(こいつ・・・!!
 一人でいい思いしやがって!!)

 彼は、隣で寝ている雪之丞に目を向ける。
 雪之丞が裸の早苗に抱きつかれた話も、横島は聞いていたのだ。
 横島の内心など分からぬ雪之丞は、

「ママ・・・。
 いかないで・・・」

 と寝言をもらしている。
 日頃、美人を見るたびに『ママに似ている・・・!』などと口にする雪之丞だ。周囲の人間は、彼がマザコンであると知っていた。しかし、さすがに『ママいかないで』なんて言うのを聞いたことはない。

(こりゃあ、間違いなく寝てるな・・・)

 そう判断した横島は、そっと布団から抜け出した。
 音も立てずに障子戸を開け閉めし、廊下へ。
 そして、美神の部屋に潜り込んだ。

(美神さん・・・)

 横島としては、別に本気で夜這をする気はなかった。
 確かに、今、目の前で美神が眠っている。だが、同じ部屋で、

「むにゃむにゃ・・・。
 散歩・・・」

 シロも寝ているのだ。
 そして、おキヌもここで眠っていた。彼女は、死津喪比女の襲撃の頃には、一人でほこらへ行ってもう一度自分の遺体を見ていた。しかし今は神社へ戻っていたのだった。
 もちろん、おキヌは幽霊なので布団に横になるのではなく、空中にプカプカ浮いて眠っている。
 
(この状況じゃ何も出来ないよな・・・)

 それでも、つい、ここへ来てしまった横島である。
 いや、何も出来ないからこそ、来たのではないだろうか? 
 日頃セクハラをする横島ではあったが、美神の寝込みを実際に襲うような男ではないのだ。
 ただし、本人が、それをキチンと自覚しているかどうかは定かではない。
 そうして、ただ黙って美神の寝姿を見ていた横島は、

(なんだか・・・。
 これじゃ、俺、変態みたいだな?)

 少し冷静になって、自分でも恥ずかしくなった。
 サッサと帰ろうと思ったのだが、その時、視界の隅で異常が起こった。

(あれ・・・?)

 そちらに注目してみると、おキヌの姿が薄くなっていくのが見えた。
 まるで砂の彫像が強風で吹き飛ばされていくかのように、小さな粒子になって、どこかへ吸い込まれていく。

「おキヌちゃん・・・!?」

 横島は、現在の状況も忘れて叫んでしまった。
 しかし、おキヌは目を覚ますこともなく、消えてしまった。

「・・・ん!?
 先生・・・!?」
「・・・横島クン!?
 何やってるのよ、こんなところで!!」
「わっ、わっ!!
 それどころじゃないっスよ!!
 おキヌちゃんが・・・」

 叫び声で起きてしまったシロと美神が、横島に詰め寄る。おキヌ消失の件を話そうとした横島だったが、その瞬間。

 ゴゴゴゴゴ・・・!!

 地震が発生した。


___________


『・・・ここは!?』

 目を覚ましたおキヌは、そこが寝ていた場所とは違うことに気付いた。
 球体の中のようだ。小さな丸い窓があるが、外を覗いても、岩肌しか見えない。どこかの洞窟のようだった。

『・・・気がついたか。
 私がわかるか・・・!?』

 球体の外に、道士姿の人影があらわれた。

『あなたも・・・、
 昔の幽霊ですか?』
『・・・そうか、わからぬか。
 私はただの影、本人はとっくに成仏して、
 この世にはとどまっていない。
 万一のときは自分の人格をよみがえらせて
 不測の事態に対応することにしたのだ。
 もっともおまえが地脈から切り離されるとは
 予想もしなかったがな・・・!』

 その言葉で、おキヌにも、相手の正体が分かった。

『・・・では、あなたが300年前の道士さま?』
『そうだ。
 だが、まだ思い出したのではないようだな?
 よかろう、
 ここに残されている記憶の一部を見せよう』


___________


 300年前の御呂地村。
 湖のほとりに、着物姿のおキヌが立っていた。
 
「そこに誰かいるわね!?
 わかってるのよ、ちゃーんと!」

 小さな子供達が、わらわらと現れる。

「・・・おキヌねーちゃん、
 化物をやっつける寄り合いに行くんだべ!?」
「おらたちも行く!
 地震で死んだ父っちゃや母っちゃのカタキをうつだ!」
「だめよ!
 お寺で待ってなさいって言ったでしょ!」

 おキヌは、子供達と同じ孤児だった。身寄りを失い、近くの寺にひきとられている。だから彼女にとって、この子供達は、本当の弟や妹のようなものだった。

「わーっ!!
 おろせーっ!!
 おキヌねーちゃんのバカーッ!!」
「言うとおりなさい!」

 子供達を縛り上げて、木にぶら下げたおキヌ。彼女は、

「江戸から来た道士さまが欲しがってるのは
 ただの助手じゃないのよ・・・!」

 とつぶやいてから、城へ向かう。
 そこでは、領地内の15になる未婚の娘が、全て集められていた。

「皆の者、よく聞いてくれ!」
 
 殿様が説明する。
 この地を襲う災害の原因は、死津喪比女という妖怪だ。このところ特に力をつけ、地脈を伝わって江戸にまで害をなすようになった。
 早急に妖怪を鎮めよと公儀からも命じられている。領民のためにも、そうしたいのだが・・・。

「しかし・・・。
 それにはここにいる誰かの手助けが要る。
 何をするかは、もう伝わっておるだろう」

 道士が話を締めくくったが、娘たちは、誰も何も言わなかった。
 そこへ、

「人身御供を選ぶなら、わらわもまぜてくださいませ!」
「め・・・女華姫・・・!!」

 この城の姫がやって来た。顔は男のようにゴツイのだが、性格は外見とは異なり、

「姫も15!!
 この者たちも15!!
 命に何の違いがあろうぞっ!!」

 泣いて懇願している。
 そして、周囲が止めるのも聞かず、くじ箱の中に手を突っ込んだ。
 引き出した棒にはハッキリと『当たり』と書かれていた。

「・・・というよーりょーでやるのじゃ!!
 わかったな、皆の者!!
 では次からが本番っ!!」
「お待ちをっ!!
 父上っ!!
 それは卑怯に・・・」
「うるさいっ!!」

 なかったことにしたい殿様が、姫と言い合っている中、

「お・・・おそれながら・・・!
 私が志願いたしますっ!!」

 おキヌが、声を上げるのだった。

 その夜。
 井戸水で身を清めるおキヌのところへ、
 
「・・・おキヌ・・・!!」
「姫さま・・・!!
 こんな時間に・・・」

 女華姫が訪れた。
 二人は、身分こそ違えど、小さな頃からよく一緒に遊んだ仲だった。

「今からでも遅くない!
 わらわとかわれ!
 おまえはわらわと違ってきりょうも良い!
 これから先、いくらでも幸せが見つけられる!
 それを捨てたいはずがあるまい!?」
「姫・・・!
 姫には、あんなに愛してくださる
 家族がいるじゃありませんか・・・!
 もう・・・終わりにしたいんです。
 誰かが・・・肉親を失って悲しむのは・・・!」

 両親の顔もほとんど覚えていないおキヌである。覚えているのは、ただ一つ、子守歌だけだった。
 泣き出した女華姫を慰めるかのように、おキヌは、それを歌い始めた・・・。

 そして、儀式の日。
 御輿に乗せられて、おキヌは、洞窟へやって来た。
 警備の侍を入り口に残し、おキヌと道士が、中に入る。

「こ・・・これは・・・?」
「死津喪比女を枯らすため、私が作った地脈の堰だ」

 二人の目の前には、地下水脈の上に作られた球体があった。

「地中深くに根をはり広がっている奴を滅ぼすには
 こうするよりほかない。
 そして・・・。
 これを動かすにはどうしても
 おまえの生命が要るのだ」

 おキヌは、水面を覗き込む。

「こ・・・ここに身を投げて・・・。
 死ぬんでしょうか・・・」
「そうだ・・・!」
「深い・・・。
 それに・・・寒そう・・・。
 そうか・・・死ぬのかあ・・・」

 そんなおキヌを見て、

「よいか、おキヌ!
 今から話すことを心して聞くのだ!
 おまえは死ぬが反魂の術を使って・・・」

 と、道士が説明し始めた時。

『頼りにならない番犬どもだねえ。
 全員殺すのに1分とかからなかったえ』

 入り口を守っていた武士の肉片を手にして、死津喪比女がやって来た。

「こ・・・ここは結界の中のはず・・・!!
 どうやって・・・!!」
『簡単さ・・・!
 結界を張る前から中にいたんぞえ』

 死津喪比女の本体は、地中深く埋もれた球根である。ここに出現した死津喪比女は、その『花』の一つに過ぎなかった。地脈の養分さえ豊富なら、球根から切り離しても、しばらくは生きていられるのだ。

「・・・ということは、
 ここにいるのはおまえ一輪だけ・・・!
 ならば防ぐのはそう難しくはないな」

 突然、火炎玉の爆発ともに、忍者装束の女性たちが現れた。

「女華姫さま直属くノ一部隊参上!!」
「わらわは姫じゃ!!
 村娘にばかり、いいかっこうはさせぬ!!」

 女華姫本人も登場したが、

『こざかしいっ!!』
「ひ・・・!!」

 死津喪比女の攻撃の、最初のターゲットにされてしまう。
 これを見たおキヌが、その攻撃が届く前に、水脈へと身を投げた。

「お・・・おキヌーっ!!」

 女華姫の絶叫が響き渡る中、

(私の生命を!!
 どうか・・・、
 どうかみんなのために!!)

 おキヌの願いを受けて、地脈の堰である球体が光る。
 同時に、死津喪比女が苦しみ出した。

『おのれ・・・人間ども・・・!!
 だが・・・本体はもう冬眠に入ったえ・・・!
 たとえ地脈をせきとめても
 数百年は生き続けるぞえ・・・!!』


___________


『・・・そういうことだったんですか』

 記録映像を見せられても、すぐには実感出来ないおキヌである。しかし、事情は理解できた。

『今見せたように、おまえは、
 私の説明の途中で飛び込んでしまったのだ』

 道士の影は、300年前に出来なかった説明を補足する。
 水脈には装置から地脈のエネルギーが一部流れ込むようになっていた。おキヌ本人が中で溺れても、肉体だけは保存するためだ。
 もともとおキヌは、生命力にあふれた若い女性である。その遺体がキチンと維持され、邪霊を近づけない結界も地脈の巨大なエネルギーもあり、そこに霊もくくられていれば・・・。
 反魂の術によって、死体を生き返らせることが出来るのだ。それもゾンビなどではなく、正常な一人の人間として。
 それだけの条件を、道士は整えていたのだった。

『ごめんなさい。
 勝手にいなくなって・・・』

 話を聞いたおキヌは、道士の影に対して、謝った。

『まったく・・・。
 どうしてこんなことになったのだ・・・?』
『それは・・・』

 聞かれたおキヌは、横島や美神と出会ってからの出来事を語り始めた。
 現在へ至る、長い物語を・・・。


___________


 一夜明けて。

「本日未明に発生した地震は
 東京都では震度2が観測された。
 しかし軽震にもかかわらず、
 局地的に不可解な被害が発生している」

 オカルトGメンのビルで、西条は、会議の座長を務めていた。

「住宅などにはほとんど被害がないのに、
 神社、仏閣だけがなぜか壊滅的な打撃をうけている。
 この問題の調査が僕に命じられたわけだが・・・。
 ぜひともみなさんの協力を・・・!」

 西条は、その場の面々を見渡した。
 唐巣神父、ピート、六道冥子、ドクター・カオス、マリア、タイガー。
 以前の人狼事件で手伝ったGSたちが、今回も集まっていた。

「実は、すでに敵の正体は見当がついている」

 西条の言葉に、唐巣が顔を上げた。

「なんだって!?
 それならば、こんなところで
 悠長に話をしている場合ではないだろう!?」

 唐巣は、目に涙を浮かべている。
 神社や仏閣だけでなく、地震によって教会も全滅していた。当然、唐巣の教会も含まれているのだ。

「・・・落ち着いてください。
 実は令子ちゃんたちが、たまたま昨日から
 震源地の近辺に行っていたのですが、
 すでに敵と一戦交えたそうです。
 敵の正体は、死津喪比女。
 江戸時代に猛威を振るった怪物です。
 誰か、この名前に聞き覚えは・・・?」

 西条の問いかけに、最初に口を開いたのは冥子だった。

「あれ〜〜!?
 そおいえばエミちゃんは〜〜?」

 質問とは無関係な発言だったが、西条は、これに律儀に答えた。

「彼女には、
 対死津喪比女用の特殊兵器を作ってもらっている。
 令子ちゃんの発案でね・・・」

 古文書からの知識と直接戦った印象をあわせて、美神は、死津喪比女という妖怪の本性に薄々気が付いていた。襲ってきた死津喪比女は、手下の虫の化物も含めて、すべて、地面に根を下ろしていた。つまり死津喪比女は、動物よりも、むしろ植物に近いのだ。
 それならば、植物を枯らせる細菌兵器が効果的なはずだ。植物の根は地下で繋がっているのが普通だから、地上の一部分が感染するだけで、丸ごと倒すことが出来る。もちろん生態系への影響も考えて、妖怪だけを殺すような呪いをかける必要はあるだろう・・・。
 それが美神のプランだった。これに西条も賛成し、今、別室でエミが『呪い』をかけているのだ。

(令子ちゃんのおかげだな・・・)

 西条は、美神に感謝する。
 彼女が先行して現地入りしていたからこそ、ある程度の対策も立ったのだ。そうでなければ、今頃まだ相手の手がかりすらつかめず、ここで長々と会議をしていたことだろう・・・。


___________


 西条たちが東京で会議をしていた頃。
 美神は、横島とシロと雪之丞を連れて、再びほこらに来ていた。

「中は地震でだいぶ崩れたみたいね」

 入り口の小さな鳥居も傾き、ほこらの中も岩がゴロゴロしていたが、

「おキヌどのは、変わってないでござる」

 おキヌの遺体は、昨日と全く同じだった。
 これは、美神や横島にしてみれば、単純に喜べる話ではない。
 おキヌの遺体のもとへ来た夜に、幽霊のおキヌが消えたのだ。魂が肉体に吸い込まれて、おキヌが復活する・・・。
 そんな奇跡のようなストーリーも、期待してしまっていた。

「ここに吸い込まれたわけじゃないんだな、
 おキヌちゃん・・・」

 横島がつぶやく。
 おキヌが消えていくのを目の当たりにした彼は、最初、おキヌが突然成仏したのだと心配してしまった。だが、その時の状況を詳しく美神に説明したところ、

「・・・それは成仏とは違うわね」

 と言ってもらえたのだ。

「ここじゃないとすると・・・」

 横島は、美神のほうを振り向いた。美神が頷く。

「もう一つの可能性は、例の『装置』ってやつね。
 何とか、その場所を探さないと・・・」


___________


「やっぱり、ここに何かあるのね・・・!!」
「ああ。
 昨日までは、こんなもん無かったしな・・・」

 神社に戻った美神たちは、社を調査しようと思ったのだが・・・。
 鳥居をくぐろうとしたところで、強力な結界に阻まれたのだった。
 しかし、

『やめて!!
 その人たちは私のお友達よ・・・!!』

 どこからか聞こえてきた声とともに、結界が美神たちを受け入れた。
 石段をのぼりながら、

「昨日は何も見つからなかったけど、
 もう一度徹底的に探すのよ!」

 と号令をかけた美神だったが、ここで、ふと昨日の死津喪比女の言葉を思い出した。

「そういえば、
 『あの巫女と同じ匂いがする』
 って言ってたわね・・・」 

 美神は、シロに目を向けた。

「幽霊のおキヌちゃんに
 物理的な意味での『匂い』があるとは思えないけど・・・。
 あんただったら、霊気のようなものでも追えるわね?」
「そうか!! シロなら・・・!!」

 期待のこもった視線を横島から向けられ、

「・・・まかせるでござる!!」

 自信以上の言葉を口するシロであった。


___________


「ここでござる!!」

 時間はかかったが、シロは正解に辿り着いた。
 彼女が示しているのは、社の床の一部分だった。
 
「・・・なるほどね」

 そこを美神が叩いてみると、コンコンと軽い音がする。下に空間があることは確かだった。

「・・・俺が開けます!!」

 横島が霊波刀で切り開くと、地下へと続く穴が見えた。斜めに伸びているので、落ちてケガをすることもなさそうだ。

「行きましょう!!」

 美神に言われるまでもなかった。
 全員が、穴を滑り降りていく。
 そして・・・。

「ここは・・・!?」

 洞窟らしき場所にたどり着いた。
 そこには、大きな球体が設置されていた。その窓から、

『美神さん・・・、
 横島さん・・・!』

 おキヌが姿を現した。

「おキヌちゃん・・・!!
 心配してたのよ!」
「さあ、早く帰ろう!!」

 美神と横島が声をかけたが、おキヌは首を横に振った。

『ごめんなさい。
 私・・・もう戻れません。
 私・・・私・・・。
 何も知らなかったから・・・
 みんなに迷惑かけて・・・
 自分の命をムダにするとこでした』

 美神にも横島にも、敢えて口を挟まない雪之丞にもシロにも、もう分かっていた。
 この球体こそが江戸時代に作られた装置であり、おキヌの本来の居場所なのだ。

「ちょ・・・ちょっと待って、おキヌちゃん!
 おキヌちゃんを地脈から切り離したのは私よ!
 だから今回も何とかするわ!
 もう心配いらないのよ!」
「そーだよ、おキヌちゃん!
 全部美神さんのせいだから。
 あとはまかせよう!」

 おキヌを安心させるために、そこまで言う横島だったが、

『そうはいかん・・・!!』

 道士の影がボウッと現れた。

「早苗ちゃんの父親にそっくり・・・!!
 御先祖さま・・・!?」
「それじゃコイツが
 おキヌちゃんを人身御供に使ったオヤジかっ!!」

 表情を変えた美神と横島に対し、

『まあ待て!!
 私の話を聞いてください・・・』 

 道士の影は、おキヌに見せたのと同じ映像を、美神たちにも見せ始めた・・・。


___________


『・・・というわけで、
 おキヌは無事に生き返るはずだったのです』

 道士は、300年前の記録に続き、反魂の術の説明まで終わらせた。
 全てを聞き終わって、

「おキヌちゃんの代わりに地脈に
 別の幽霊をくくっといたんだけど・・・?」
『知らんな。
 私が起動したときにはもういなかったぞ』

 美神が質問したが、返事はそっけなかった。

「やれやれ、わかったわよ・・・!
 知らなかったとはいえ私のミスね・・・!」

 チラッと雪之丞の方を見てから、美神は言葉を続けた。

「雪之丞が持ち込んだ事件だけど、
 今回は私のおごりで奴を退治してあげるわ!
 だからおキヌちゃんを返して!
 生き返らせるなら今すぐにやってちょうだい!」

 言い切った美神に対し、道士は表情を曇らせた。

『それが・・・そうもいかんのだ・・・!!
 死津喪の奴、復活するとき根を
 ほかの地脈にまでのばしおった・・・!
 もはや直接本体を攻撃しなければ・・・!!』

 その言葉で、美神は道士の意図を察した。

「さてはあんた・・・、
 おキヌちゃんの霊体を
 直接武器に使うつもりだったわね・・・!?」

 死津喪比女は地底深くに潜んでいる。位置を突き止めることも難しいが、霊体ならば地中でも自由に追跡できる。養分を断って枯れさせる計画が失敗した以上、地脈で増幅させた霊体をミサイルとして使うしかないのだ。
 それが道士の作戦だった。
 だが・・・。

「死津喪比女の特徴くらい、
 こっちだってわかってるわ。
 人類の技術は日々進歩してんのよ!
 わざわざ地中にもぐんなくてもケリがつくわ」

 ここで美神は、西条に頼んでおいた細菌兵器のことを説明した。

「・・・というわけよ!
 これでおキヌちゃんを解放してくれるわね!?」
『いや・・・まだだ・・・!
 死津喪比女を甘くみてはいかん!』

 江戸時代の道士に、美神のプランの是非は判別できない。必ず成功するという保証がなければ、おキヌを手放すことは出来なかった。


___________


 その頃、東京では、西条たちを乗せた飛行艇が飛び立っていた。オカルトGメンのパイロットや会議のメンバーのほかに、エミも加わっている。

(令子ちゃんの情報のおかげで、
 丸々半日以上、行動を早めることが出来たな)

 と思う西条であったが、実は、それだけではない。

「うまく呪いがかかったワケ!
 人間やほかの動物には無害だけど、
 これを食らった妖怪はひとたまりもないわ!」

 とエミが推奨する細菌弾の数も、予想以上に多く用意することが出来たのだ。
 この飛行艇にも、細菌弾をこめた連発式の特殊ライフルが幾つも積み込まれていた。これを持って、死津喪比女のもとへ向かうのだ。

「美神くんの話の通りなら、
 これで何とか、なりそうだね・・・!!」

 唐巣もライフルを手にしている。教会を壊された恨みだろうか、眼鏡の奥で、その目は鋭く光っていた。
 こうして、万全の備えをしたはずだったのだが・・・。


___________


『あの小娘・・・。
 わしの警告を無視しおって・・・!
 やはりあの巫女を連れてきていたのだな!』

 美神が一日早く現地入りしたことは、死津喪比女の行動にも影響を与えていた。

『あれだけ恐怖を与えても従わぬとは・・・。
 こうなったら江戸の町全てを人質としてくれよう!!』

 大規模な地震を仕掛けた直後である。もう一日くらいは、おとなしくエネルギー回復に努める予定だった。だが、それを変更して、東京へ花粉攻撃を始めたのだった。
 都会の濁った空気とは別の意味で、空が霞む。
 そして、都市の道路を突き破って、死津喪比女の『花』が幾つも出現した。

『はははははッ!!
 思ったとおり、よう花粉が飛びよるえ・・・!
 江戸の町を霊的に守るものは
 もう何もないからな!!』


___________


「な・・・!?
 なんだ、あれは!?」

 すでに東京から少し離れていた飛行艇だったが、その中からも異変を見ることが出来た。

「死津喪比女の攻撃か・・・!?」
「引き返すんだ・・・!!」
「何言ってるワケ!!
 元凶を叩かないと・・・!!」

 艇内でも、意見が割れている。
 決断を下すのは、西条だった。

「オカルトGメンとして、
 東京を見捨てるわけにはいかない。
 だが、令子ちゃんのところに
 ライフルを届ける必要もある・・・」

 そして、西条は冥子の方を向く。

「亜音速での飛行が可能な式神があると聞いたが・・・?」
「シンダラのことね〜〜?」
「それでライフルを運んでもらえれば、
 僕たちが行くよりも早いだろう。
 その間、僕たちは東京へ戻って戦うんだ!」
「わかったわ〜〜、
 やってみる〜〜!!」

 西条の頼みを受け入れ、冥子は、シンダラを飛ばした。

「・・・というわけだ!!
 ライフルを二丁送ったから、
 ちゃんと受けとってくれ!!」

 西条は、美神の宿泊先へも、携帯から連絡を入れた。
 そして、飛行艇は東京へとターンする。

「地上に何かがタケノコみたいに生えてるぞ!」

 近づいたところで、死津喪比女の『花』も目視できるようになった。だが、同時に、

「粉・・・!!
 奴の花粉か!?」
「中まで入ってきた・・・!?」
「う・・・!!
 この粉、霊的な毒を帯びてる・・・!!」
「身体がマヒして・・・」
「ああっ、マリアのモーターまで!?」

 花粉の攻撃にもさらされてしまった。

「パイロット!!
 緊急着陸を・・・!!」

 地上に降りた一同は、動きが鈍った体で、それでもライフルを手にしていた。
 射撃に自信のある西条が、 

「こいつか・・・!!」

 最初に『花』を一輪、撃ちぬいた。

『鉄砲ごときで・・・。
 な!?
 ぐわアアッ!?』

 その『花』が、ボロボロと崩れていく。

『貴様ら・・・何をした!?』

 別の『花』が叫ぶ。被弾していない『花』なのに、体が崩壊し始めていた。

「いけるぞ・・・!!」

 その効果を見て、唐巣も撃ち始めた。他の皆も続く。

『どういうことだ・・・!?』

 西条以外のGSたちの射撃の腕前は、決して良くはない。花粉で痺れていることも重なって、命中率は高くなかった。だが、それでも死津喪比女のダメージは大きかった。

「その弾丸には
 植物を枯らせる細菌が仕込んであったワケ!」
「君だけを殺すように、
 エミくんの強力な呪いをかけてある・・・!!」

 花粉で朦朧となりながらも、エミと唐巣は、勝ち誇っていた。

『くそ・・・!!』

 悔しがる死津喪比女だったが、実は、冷静に対処していた。
 細菌に感染させられたというのなら、本体に届く前に『花』を切り離してしまえばいい。これだけ距離があるのだ。この辺りの『花』が全滅したとしても、本体に被害が及ぶことはあるまい。
 学習した死津喪比女の『花』が次々と崩れていく前で、力尽きたGSたちも、その場に倒れこんでいた。
 ある程度の『花』は倒したが、それでも、東京から花粉を一掃することは出来なかったのだ。
 
(ちゃんと令子ちゃんのところへ飛ばしたんだ。
 正確な場所も電話で伝えた。
 後は頼んだぞ・・・)
 
 ライフルが美神のもとへ無事に届いたことを祈って。
 西条は、意識を失っていった。



(第十九話「おわかれ」に続く)
 


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