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復元されてゆく世界

第十五話 魔女と剣士とモンスター


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 1/ 5

  
「どーもー、
 やっぱり来ちゃいましたー!」

 元気よく挨拶しながら、横島が事務所の広間のドアを開けた。
 今日は、雪之丞とマリアが手伝うので、横島は休んでよいと言われていた。しかし、ここへ来ればメシにありつけるだろうと思って、横島は美神の事務所に来たのだった。

「あれ?」

 横島に答えるものは誰もいない。
 今この瞬間、おキヌは別の部屋へ行っていた。除霊仕事の荷物を準備するようにと美神に言われたからだ。美神も、突然思いついて神通棍を新しいものに取り替えようと、やはり別の部屋へ行っていた。雪之丞は遅刻で、まだ事務所に来ていない。
 マリアがポツンと椅子に座っているだけだった。そのマリアも、充電中でスリープしていたから横島には反応しないのだ。

「何やってんだ・・・?」

 何も知らない横島は、マリアに近づいた。恐る恐る手を伸ばしたところで、

「よう! おまえも来たのか!」

 後ろから雪之丞に肩をたたかれた。ちょうど雪之丞も今、事務所に着いたのだ。

「うわっ!!」

 雪之丞に押される形で、上体を倒してしまう横島。彼の前には充電中のマリアが鎮座しているわけだが・・・。

 バチバチッ!!
 バチバチバチバチッ!!

 マリアに触れた横島は感電してしまった。横島の肩に手を置いたままだった雪之丞も同様である。

「のわーっ!?」

 そんな状況のところに、

「よ・・・、横島クン!? 雪之丞!?」

 美神が顔を出した。うっかり近づいてしまったところ、

「だずげでっ・・・!!」

 横島と雪之丞に手を伸ばされて、美神まで感電してしまう。

 カッ!!

 この瞬間、美神の中で眠っていた能力が目覚めた。

『どうしたんですかっ!?
 美神さん!?』

 騒ぎを聞きつけて部屋に入ってきたおキヌが見たものは・・・。
 時空の彼方へと消えていく、美神たちの姿であった。



    第十五話 魔女と剣士とモンスター



「な・・・何が起きたの!?
 ここはどこ・・・!?」

 さっきまで事務所の中にいたはずなのに、今、美神は暗い森の中にいた。

「うぐが・・・」
「ががが・・・」

 横島と雪之丞は、まだ感電のショックから立ち直っていないようだ。

「マリア・・・!!」

 美神に呼ばれてマリアは起き上がり、

「現在地・および・時刻測定・します」

 星の位置を観測する。データと照合した結果、答えが出た。

「北緯・46度22分17秒、東経・10度41分03秒、
 スイス・イタリア国境付近!」
「す・・・すいすいたりあ
 こっきょおお・・・!?」

 美神が絶叫し、横島と雪之丞がようやく起き上がった。
 マリアの解析は続く。

「時刻は22時28分56秒・・・
 11月2日・・・
 ・・・西暦1242年・・・!!」

 彼らは、時間移動してしまったのである。


___________


「マリア、大丈夫!?」

 神通棍を杖代わりにして森の中を歩く美神は、後続に声をかける。

「電圧・・・低下・・・!
 バッテリー警報・・・!!」

 横島と雪之丞がマリアに肩を貸しているのだが、マリアはもう限界だ。

「電圧・危険値まで・低下・・・!!
 スリープ・モードに・強制移行!
 ・・・すみません・マリア・眠ります・・・!
 グッド・ラック・・・!!」

 ついにその場に倒れ込んでしまった。
 こうなると、マリアは重たい鉄の塊である。もはや、その場に置いていくしかなかった。

「寒い・・・!」
 
 美神は、いつものボディコン姿である。冬の夜の森林を歩けば、寒いのも当然だ。美神の愚痴は続く。

「お金も道具もない、おキヌちゃんはいない、
 マリアは動かない・・・、
 こんなとこでバカ二人と三人っきりなんて・・・!!」
「バカとはなんだ!!
 だいたいタイムスリップしたのは・・・」

 言い返そうとした雪之丞だったが、何かの気配に気がついた。そちらへ目も向けずに、

「フン、そこか!!」

 と、いきなり霊波砲を放つ雪之丞。
 それに応えるように、

『ギョアアアーッ!!』

 木々の間から、一体のモンスターが飛び出してきた。


___________


「こいつは・・・」
「『動く怪物の石像(ガーゴイル)』だわ・・・!?」
「ひえええっ!?」

 それは、大きな翼をもつ鳥型のモンスターだった。美神の言うとおり、その表面は石で覆われている。

「いくら中世ったって 
 こんなのがそこらへんをウロついてるなんて・・・!」
「面白い・・・。
 俺好みの展開になってきたじゃねーか!!」

 不審がる美神とは対照的に、バトルマニアの血をたぎらせる雪之丞。
 彼は魔装術を展開させて、殴り掛かっていく。だが、

「何っ!?」

 表面を削ることしか出来なかった。
 美神や横島が攻撃しても、

「こいつ、装甲がぶ厚くて、
 神通棍じゃ歯がたたない!!」
「俺のハンズ・オブ・グローリーも!!」

 やはり効果がない。

「なんて装甲だ!!
 ええい、この時代のモンスターはバケモノか!?」

 雪之丞が驚愕している中、

「新手・・・!?」

 さらにもう一体、出現した。今度のはサイズも小さく、雰囲気もガーゴイルとは全く違う。ロボット犬のようだった。

「グルルルッ!!」

 ロボット犬は、美神たちではなくガーゴイルへと飛びかかり、口から強烈なエネルギー波を放った。

 ズバッ!!

 美神たちが苦労したガーゴイルを、なんと一撃で破壊してしまった。
 それを見た雪之丞が、

「攻撃力はスゲーようだが・・・。
 防御の方はどうだ!?」

 霊波砲をロボット犬に向けて打ち出す。
 ロボット犬はガーゴイルを攻撃した直後で、回避出来ない。
 雪之丞の攻撃がロボット犬の腹部を貫いて、ロボット犬は地面に倒れ伏した。

「フン、もろいもんだぜ。
 ・・・ん?」

 勝ち誇る雪之丞だったが、

「・・・囲まれてるぜ」

 自分たちを取り囲んでいる小さな気配に気付き、美神に進言する。

「えっ!?」

 言われて、美神が周囲に目を向けた時。

「カオス様のバロンがやられた!!」
「姫さまに知らせるんだ!!」
「逃げろーっ!!」

 周りの茂みの中からあらわれた人々が、クモの子を散らすように逃走していった。
 
「あれって、ここの村人なんじゃないっスか!?」

 横島は、彼らの服装から、そう判断していた。彼らが手にしていた武器も、鍬や鎌や手斧など、生活用具の範囲内だった。

「そうね」

 美神の肯定を受けて、

「そりゃあマズイんじゃねーか!?
 現地の人間の協力がないと・・・」

 と言う雪之丞だったが、ロボット犬を攻撃したのは彼である。雪之丞のせいで、彼らと敵対してしまったのだ。

「そんなことより、
 『カオス様のバロン』って言ってたわね?
 ここにドクター・カオスがいるんだわ・・・」

 美神は、ロボット犬にチラッと目をやった。その雰囲気から、ガーゴイルではなくこちらがカオス作だと感じていた。

「どうします・・・?」
「『カオス様』と呼ばれてたくらいだから、
 お偉いさんと通じてるんでしょ、カオスが。
 ここの領主と面会しましょう」
「そうだな。
 領主くらいだったら、
 そこらへんの村人とは違って、
 俺たちを誤解することもないだろう」

 雪之丞は、美神の意見に全面的に賛成したわけではなかった。
 ドクター・カオスが領主のところにいるとは限らない。村人から慕われているだけで、支配者層とは仲が悪いかもしれないのだ。だが、その場合でも、領主のところへ行けば何らかの助けが得られるだろう。
 そう考えて、雪之丞は美神の言葉に従うことにしたのだった。
 横島は美神の考えに異存はなく、こうして三人は、城を探して歩き始めた。
 マリアほどではないがバロンも重量があったので、その場に放置することに決まった。
 この時バロンのアンテナから信号が送られていたことに、彼らは気付いていないのであった。


___________


「!!
 緊急コールサイン!!
 バロンからか!?」

 ドクター・カオスが、バロンからの信号をキャッチした。
 すでに三百歳近いはずのドクター・カオスだが、その外見は、青年のようだ。
 彼は、今、地中海の上空を飛んでいた。エイのような形状の航空機『カオスフライヤー』を操り、ここで猛威をふるう吸血鬼を退治しようとしていたのだ。
 ちょうど銀の機銃弾を撃ち込んだところだったのだが、

「とどめはまた今度だな・・・!!」

 緊急信号を優先して、反転。その場をあとにした。
 そのまま、しばらく飛び続ける。
 サインの発信源に近づいたところで、
 
「そろそろだな・・・」

 カオスは、眼下に注意を向けた。そして、

「ん? あれは・・・!?」

 カオスフライヤーの高度を下げた。
 森の中の道を歩く三人に気付いたのである。
 先頭は女性のようだが、その格好は、村人のものとも貴族階級のものとも異なっていた。異常なほど脚や腕を露出させている。
 右後ろの男の服装も少し妙だったが、何より彼の特徴は、手にしている剣と盾だ。金属の光沢とは全く異なる輝きをはなっていた。
 そして、左後ろの人物が一番奇妙だった。その上半身は甲殻類の殻らしき物に覆われていたのだ。

「面妖な・・・。
 魔女と剣士と・・・エビ男?
 捕獲したモンスターを仲間にしているのか!?」

 この一党こそが、バロンの緊急コールサインの原因であろう。そう察知したカオスは、カオスフライヤーの高度をさらに下げた。


___________


「また・・・!?」
「来たぞ!!」

 一方、地上を歩く美神たちも、上空から迫り来る存在に気がついていた。

「今度はエイの化物っスか!?」

 横島は、サイキック・ソーサーを投げつけた。ハンズ・オブ・グローリーを伸ばすには、まだ距離がありすぎたからだ。

「くらえ!! 連続霊波砲!!」

 横島の攻撃に併せるように、雪之丞も、エネルギー弾を空へ放った。
 しかし、サイキック・ソーサーは機銃で迎撃され、霊波砲は全て回避されてしまった。上空の飛行物体は、その巨体にも関わらず、高い旋回性能を持っていたのだ。
 その様子を見て、

「横島クン!! 雪之丞!!
 やめなさい!! あれは・・・」

 美神が気付いた。あれはガーゴイルの仲間のモンスターではない。バロン同様、カオスの作品だ。
 しかし、一度攻撃の意志を向けてしまった以上、もう遅かった。

 ズガガッ!! ガガガ!!

 銀の機銃弾が美神たちを襲う。

「きゃあっ!!」

 慌てて飛び退く美神たち。

「・・・仕方ないわね。
 とりあえず隠れるわよ!!」
「え? 隠れるって、どこへ!?」
「こっちだ・・・!!」

 三人は、木々の中へと飛び込んだ。


___________


「ふっ、逃げおったか・・・。
 まあよい」

 カオスは、敢えて三人を追撃しようとは思わなかった。さきほどの銃撃も、牽制程度に過ぎなかった。

「あの剣士の盾は、武器にもなるのだな・・・。
 それに、エビ男には光線砲があるわけか」

 それだけ分かっただけで十分だ。所詮、小手調べだったのだから。
 本格的に戦うというのであれば、絨毯爆撃のようなことも出来る。しかし、カオスには、近辺の森林を破壊する意図はなかった。
 
「奴らの探索は、明日になってからでもよかろう。
 まずはバロンを回収する方が先だ」

 三人にはこだわらず、その場を離脱するカオスであった。


___________


 その頃、近くの村では、

「姫さま!! 大変です!
 カオス様のバロンがやられてしまいました!!」
「なんですって!?」

 村人が一軒の家に駆け込んでいた。
 報告を受けた女性は、辺り一帯の領主の娘、マリア姫である。彼女は、この村で生活していた。

「相手は誰ですか、
 プロフェッサー・ヌルの人造モンスターですか!?」

 マリア姫の質問にあるプロフェッサー・ヌルというのは、最近現れた邪悪な錬金術師である。彼は、マリア姫の父である領主を妖術でたぶらかし、利用しているのだ。その要求に応じて、領主は、マリア姫をヌルの妻にと差し出そうとしたくらいだった。さらに、城に居座ったヌルが、そこを人造モンスター製造のための工場としてしまったため、マリア姫は城から逃げ出したのだった。

「・・・わかりません」

 村人が答えたが、要領を得ない。
 彼を補足するように、続いて入ってきた人々も、口々に説明する。

「一人は人間のようにも見えるモンスターで、
 今までの人造モンスターとは雰囲気が違いました」
「他に二人、魔女と剣士がいっしょです」
「ヌルの人造モンスターに襲われていました」

 マリア姫は、考え込んでしまう。

(では、プロフェッサー・ヌルの他にも、
 邪悪な輩が現れたというのか・・・?)

 そこへ、さらに別の者たちが報告にきた。

「その近くで、おかしなものを見つけました。
 こちらへ・・・」

 村人に案内されて、マリア姫は、村の広場へ向かう。
 木製の台車でそこに運ばれてきたのは、鉄でできた機械人形だった。若い女性を模しているのだが、髪型や顔立ちなど、どこかマリア姫と似た雰囲気があった。
 
「これは・・・!!」

 類似に気付いて驚くマリア姫だったが、そんな彼女に、遠くから声をかける者がいた。

「私が少し留守にした間に、
 色々とあったようですな」

 ドクター・カオスである。
 彼は、今、村へ歩いて入ってくるところだった。

「カオス様!!」

 マリア姫が、そちらへ走っていく。

「戻ってきてくれると・・・。
 戻ってくれると信じていたぞ・・・!!」

 そう言いながら、彼女は、カオスの胸に飛び込んだ。


___________


「ガーゴイルTFC02577の反応が
 西の村で消えた・・・」

 城の広間に、一人の男が立っている。
 彼は、大画面に映し出した地図を眺めながら、つぶやいていた。
 顎から耳まで続くヒゲを生やした禿頭の男、彼こそが、プロフェッサー・ヌルであった。

「どうやらネズミたちは
 あのあたりのようですね」

 そう言いながら、ヌルは後ろへ振り返る。彼から離れたところで、部下の一人が命令を待っていた。

「ドクター・カオスも
 戻ってきているかもしれません。
 行って捕えてきなさい」
「はッ!!」

 部下が退室した後で、ヌルは、ドクター・カオスのことを考えていた。

「・・・ぜひ会ってみたい。
 彼なら『我々』の野望にも理解を
 示してくれると思うのですが・・・。
 できれば良い友になりたいものです。
 天才は天才としか
 解りあえないものですからね・・・!」


___________


「ひどい奴らだ・・・!!
 中枢機能が無事だったのは幸いだったな、バロン!」

 ドクター・カオスは、修理のためにバロンを台の上に寝かせた。
 ここは、ドクター・カオス秘密研究所。その入り口は、滝の裏に隠されている。
 今、彼は、ここにバロンとアンドロイドを運び込んでいた。マリア姫も同行している。

「・・・にしても驚くことばかりだ!
 私以上の天才が城を乗っ取って
 モンスターを作っているだと!?
 で、さらに例の三人組か!!」

 マリア姫が一通り説明したので、ドクター・カオスも、マリア姫をとりまく状況を把握していた。
 マリア姫は、さらに、

「まずはヌルの方だ!!
 ヌルは父上をあやつり、領地を乗っ取るつもりだ!!
 村人はモンスター造りの資金をしぼりとられ、
 私の身も危うい・・・」

 と迫ったが、カオスはマリア姫の言葉を制した。

「それより・・・。
 姫は、こちらには興味ないかな!?」

 カオスが指さしたのは、アンドロイドのマリアだった。
 それを見て、マリア姫も黙り込んでしまう。それから、ゆっくりと口を開いた。

「私と似ているようにも見えるが・・・」
「さよう」
「これもヌルが作ったものだろうか・・・!?」

 彼女は、おぞましいと感じて、体を震わせた。ヌルが自分を欲しているのを知っていたからだ。執着のあまり、身代わりの機械人形を作り上げるとは、正気の沙汰ではない。

「いや、違いますな。
 これをご覧ください・・・!!」

 そう言いながら、カオスが奥の引き戸を開けた。

「あっ!!」

 マリア姫が驚く。
 中には、作りかけのアンドロイドがあった。

「カオス様も機械人形を!?」
「人造人間試作M-666です!」

 カオスの人造人間には、まだハッキリとした顔はなかったが、他の部分はほぼ完成しているようだった。マリア姫にも、それが捕まえたアンドロイドと酷似していることは理解出来た。

「では、誰かがカオス様の設計図を盗んで・・・」
「いや、こいつの設計図は、私の頭の中です。
 まだ、紙に起してはいない。
 誰にも真似されるはずがないのです」

 説明しながら、カオスは、アンドロイドのマリアを解析する。同時に、その充電まで始めていた。

「しかも、これから私が加えようという装備まで、
 こいつには既に備わっている。
 私の考えを先取りしたかのようです」
「では、いったい・・・」
「これは未来の私が作ったもののようですな・・・。
 つまり、こいつは未来から来たのです!!」
「未来から!?
 そんなことが・・・!?」

 驚くマリア姫だったが、内心では、

(では、この機械人形を私に似せたのも、カオス様なのか!?)

 と、そちらが気になっていた。
 しかし、それをヌルにされたと思ったときには嫌悪を感じたのに、同じことをカオスがしたと聞かされると、むしろ嬉しく思ってしまうのだった。
 そんなマリア姫の内心には気付かず、カオスは作業を続けていた。

「・・・どうやら充電完了のようだ。
 これで、こいつも起動するでしょう」

 カオスの言葉と同時に、アンドロイドのマリアが動き出す。そして、

「ドクター・カオス・・・!!
 マリア・会いたかった・・・!」

 人間に害がない程度の力で、カオスの手をキュッと握るのであった。


___________


「・・・と・いうわけ・です」

 カオスは、アンドロイドのマリアから、美神たちに関する説明を聞かされていた。

「ふむ・・・。
 やはり未来から来たのか。
 すると、あの三人組は敵ではないのだな?」
「イエス・ドクター・カオス!
 みんな・マリアの・友だち」

 これで、カオスとマリア姫は、ようやく全貌が理解出来たのだった。
 もちろん、理屈としては、このアンドロイドが嘘をついている可能性もある。アンドロイド自体に嘘をついている自覚はなくても、敵に捕まって再プログラムされてしまい、間違った情報をインプットされたかもしれないのだ。
 しかし、カオスの心情として、それはないだろうと考えていた。再起動直後のアンドロイド・マリアの様子を見て、このマリアを信じていいと直感したのである。

「バロンへの攻撃も
 お互いの誤解として水に流して・・・。
 彼らと協力してヌルと戦うのが得策でしょうな」

 カオスは、美神たちの戦力を思い出しながら、頭の中でプランを練っていた。カオスの想像が正しければ、彼らが未来へ帰るためにはカオスの協力が必要なはずだ。お互いさまだろう。
 こうして、ようやく話がまとまったところへ、

「姫さま!! 大変です!
 プロフェッサー・ヌルの部下どもが村を・・・!!」

 村人が走り込んできた。


___________


 村を襲ったのは、ヌルの親衛隊『暗黒騎士団』だった。しかし、名前は仰々しいものの、隊長のゲソバルスキー男爵以外は、ザコソルジャーの集団にすぎなかった。
 人造モンスターの火竜も連れていたが、それでも、カオスと戦うには十分な戦力ではなかった。
 何しろ、カオス側は、まだカオスフライヤーも健在だ。さらにアンドロイドのマリアと、修理を済ませたバロンを擁していたのだ。
 ヌルの手下たちは、

「い・・・一時退避だ!!
 ヌル様に知らせろ!!」

 ほうほうの体で逃げ帰っていった。それ見て、

「口ほどにもない奴らでしたな・・・。
 これならば、例の三人組と合流するまでもない。
 この機に一気に叩きましょう!!
 姫の城を取り戻すのです!!」
「カオス様・・・!!」

 カオスたちは、ヌルの居城へ乗り込むことを決意した。


___________


「・・・ここが領主のお城よね?」

 美神たちは、ようやく目的地に辿り着いていた。森の中から高台の城が目に入ったので、そこを目指して歩き続けた結果だった。
 ここは今やヌルの城なのだが、美神たちは現状を知らない。正当な領主が治めていると信じきっていた。

「・・・それにしても、すいぶん物騒だな!?」
「モンスターやら何やらの世界だからね。
 当然なんじゃないかしら!?」

 城の正面にズラリと並んだザコソルジャーを見て、雪之丞が警戒したが、それを美神は流してしまう。また雪之丞が戦端を開いてしまうのではないかと心配したからだ。
 美神が、ズイッと一歩前に出る。そして、

「領主様に会いにきたの。
 取り次いでくれない?」
「何者だ・・・!!」
「そうねえ・・・。
 あんたたちじゃわかんないだろうから、
 『遠い遠いところから来ました』
 とだけ伝えてくれる?」

 いつもの高圧的な態度で、接見を要求した。
 後ろで聞いていた横島や雪之丞は、

(そんな言い方ないっスよ、美神さん)
(これじゃあダメだな)

 と思ったのだが、美神の要請は通じてしまった。兵士たちが命令されることに慣れていたせいかもしれない。
 兵士の一人が、伝達のために城の中へ入っていった。彼は、そのままヌルのもとまで進み、
 
「ヌル様!!」
「何事です!?」
「それが・・・」

 出来る限り詳しく、事情を告げた。
 しかし、その説明では、おかしな格好の三人組が領主に面会に来たことしかわからない。

「都からの勅使か何かでしょうか・・・?
 あるいは、ドクター・カオスの使い・・・?」

 好奇心を刺激されたヌルは、三人と会うことにした。


___________


 美神たち三人がヌルの面前まで案内された。
 美神は単刀直入に、

「領主様・・・、
 ドクター・カオスをご存知ですよね?
 彼の助けを借りたいのですが・・・」

 と要望した。
 ヌルは、それに対して正直に答えてみせる。

「ドクター・カオス・・・!?
 もちろん、その名は存じております。
 彼は私と同じ種類の人間、いわば同志だ。
 二人で共同研究をすることになるでしょう」
「共同研究・・・?
 あんた、ここの領主じゃないの?」

 美神が眉をしかめた。何か話がおかしいと気が付いたのだ。

「ほっほっほっほっ。
 申し遅れましたが、私の名はヌル。
 プロフェッサー・ヌルとお呼びください。
 領主様は私の仕事に大変興味と理解を示して、
 この城を私にまかされました。
 ですから私は領主代理とでも言いましょうか。
 もっとも、領主様は
 娘を私の妻にともおっしゃっているので、
 次期領主と言うことも出来るでしょう」

 ヌルは、さらに、聞かれてもいないことまで話してしまう。

「私はここで人造モンスターを製造しています。
 大量生産して世界中に
 売りさばきたいと考えているのです。
 どこの国も喜んで買ってくれることでしょう。
 あっという間に私は巨万の富を得る!
 この土地も、すぐに豊かになりましょう!」

 そこまで話を聞いたところで、美神がヌルをにらんだ。

「ペラペラと喋っちゃって・・・。
 自分の悪事を自分で暴露するなんて、
 あんた典型的な悪役ね」
「悪事・・・?
 巧みな商売で国を豊かにすることが、
 悪事だというのですか・・・?」

 意外そうな表情を見せるヌルに対して、美神は、呆れたように返した。

「あのさあ・・・。
 なんでモンスターなわけ?
 この時代、武器を売るなら
 別にモンスターでなくても、
 銃や爆弾でも十分とんでもない
 新兵器になると思うんだけど?」

 美神の言いたいことを察知して、ここで雪之丞が口を挟む。

「なるほど、そりゃそうだな。
 人造モンスターと言やあ、
 技術も工程もはるかにデリケート、
 材料も特殊なものが必要だもんな。
 普通の人間なら、モンスターは作らんだろう。
 普通の人間なら、な」
「そういうこと。
 さてはあんた魔族ね!?」

 自分の直感をズバリと口にした美神に、一瞬ヌルも怯んでしまった。
 その反応を見て、

「・・・やっぱりね。
 そのくせカオスと共同研究なんて言ってたの?
 バカね、いくらカオスでも
 魔族と手を組むわけないでしょう!!」
「それに、世界が人造モンスターで
 あふれたなんて歴史もないからな」

 美神と雪之丞が言葉を投げつけた。
 ようやく横島も事情を理解したのだが、彼は気の利いた言葉は何も思いつかなかった。
 一方、彼らの言葉の端々から、ヌルも一つの事実に気が付いていた。

「『この時代』・・・!?
 『歴史』・・・!?
 そうか、未来から来たのか!!」

 魔族上層部からは、時間移動能力者は始末するようにという通達が出ている。だからヌルは、そうした者たちの存在も、彼らが来る可能性も分かっていたのだった。
 しかも、自分の正体を知られてしまったというのであれば・・・。

「あなたたちには、
 ここで死んでもらいましょう!!」

 ヌルの言葉とともに、その場の兵士たちが、美神たち三人に襲いかかった。
 しかし、ザコソルジャーなど、美神たちの敵ではない。

「だああっ!!」

 美神の神通棍が、横島の霊波刀が、雪之丞の魔装術が、次々と兵士たちを薙ぎ倒す。

「ええい・・・!
 ザコソルジャーを何体呼んでも
 役には立たないようですね・・・!
 ならば!」

 ヌルがそこまで叫んだ時、慌ててその場に駆け込んでくる兵士があった。

「ヌル様!!
 ドクター・カオスの襲撃です!!」


___________


 城門では激戦が繰り広げられていた。
 元々そこを守護していた兵士たちに、ゲソバルスキー男爵以下、敗走してきた一団が加わっていた。彼らが、バロン並びにカオスフライヤーを迎え撃っているのだった。
 しかし、このカオスフライヤーは自動操縦で動かされていた。

「あれだけの化物を量産する以上、ヌルには
 おそろしく強力なエネルギー源があるはずだ!!
 それを取り上げん限り奴は倒せん!」

 カオス自身は、空飛ぶ絨毯に乗って反対側から城に迫っていた。バロンとカオスフライヤーの攻撃は、警備の注意を引きつけるための囮だったのだ。
 カオスの横には、マリア姫もいる。そして、二人を守るように、アンドロイドのマリアが後ろを飛んでいた。

「中庭へ降りて!
 秘密の通路があるのじゃ!
 地下のモンスター工場へ直行できる!」

 マリア姫の言葉にしたがって城に潜入したカオスたちは、攻撃を受けることもなく、巨大な地下工場にたどり着いた。

「これが・・・人造モンスター工場!!
 素晴らしい・・・!!」

 カオスが感嘆するように、そこには、大小さまざまなモンスターがズラリと並んでいた。

「M-666・・・いやマリア!
 この工場の魔力供給源の位置は!?」
「イエス!
 スキャン・します!」

 マリアが認識した一つの扉を、カオスが開ける。

「な・・・これは・・・!!」

 そこには巨大なエネルギー炉があった。丸ガラスを通して中を覗くと、この世のものとは思えぬ光景が目に入った。

「ま・・・まさか・・・!!」
「なんなのです、これは!?」

 姫の問いに、カオスが答える。

「『地獄炉』です!!
 ヌルの奴、地獄からパイプラインをひいて、
 直接魔力の源にしていたのだ!
 文字どおり、この城には
 地獄へ通じる穴が開いていたのですよ!」

 姫の質問に答えながら、カオスは考えていた。

(いくらヌルが天才とはいえ、
 こんなものを作り上げるとは・・・。
 それに人造モンスター・・・。
 もしかすると、奴は人間ではない!?
 ・・・魔族か!?)

 地獄炉を目の当たりにして、カオスもまた、ヌルの正体に気が付いたのだった。


___________


 一方、城の広間では。

「ドクター・カオスの襲撃だと!?
 ならば、おまえたちは、そちらへ向かいなさい!!
 こいつらは、私自ら相手しましょう!!」

 ヌルは、兵士たちに指示を飛ばし、

「本物の魔法の威力を見せてあげましょう!」

 美神たちに向き直った。

「何!? あの杖は・・・!?」

 美神たちが警戒したように、ヌルは特殊な杖を取り出し、それを手にしていた。

「魔族一、術に長けた私の前では・・・。
 貴様などカエルに等しい!!」

 ヌルの叫びとともに、杖から光が放たれた。

「美神さん!!」

 横島が、かばうかのように美神の前に立ち、サイキック・ソーサーを構えた。だが、サイキック・ソーサーでは耐えきれなかった。

「わっ!!」
「横島クン!!」
「横島!!」

 美神と雪之丞の目の前で、横島はカエルに姿を変えてしまった。

「あの杖、見たこともないパワーだわっ!!」
「それなら!!」

 雪之丞が、ヌルの手めがけて霊波砲をうった。

「しまった!!」

 ヌルの手から杖が弾き飛ばされる。サッと飛んで美神がそれをキャッチした。

「今度はこっちの番よ、
 プロフェッサー・ヌル!!
 ブタになれ!!」

 魔力の光が、ヌルへと向かった。しかし、

「フン!!
 私にはそんなものは効きません!!」

 杖の魔力を、ヌルは素手で弾き返してしまう。

「わっ!?
 反射した・・・!?」
「プギー!?」

 今度は雪之丞がブタになってしまった。
 仲間を変身させられた美神を、さらに追いつめるかのように、

「未来へは帰さん!!
 おまえらの命は私の知識を
 増やすために使わせてもらう!!」

 今、ヌル自身もその姿を変えつつあった。

『これが私の真の姿・・・!!
 我がおぞましき姿に
 おそれおののくがいい!!』

 巨大なタコの悪魔と化したヌルだが、ヌルのセリフは、日本人の美神にはピント外れだった。日本では、タコは食用である。

「おいしそう・・・!」

 森の中を延々歩いたせいで、空腹だったのだ。

「タコ焼きにしてやるわっ!!」

 美神は、アクセサリーの精霊石を投げつけた。

『フ・・・!』

 不敵に笑いながら、自らの足でカバーするヌル。
 何本かは消し飛び、一本は切り落とされた形となった。だが、全ての傷口から、すでに新しい足が生えようとしていた。しかも、

「何・・・これ!?」

 切り落とされた足の先端が形を変え、ゲソバルスキーがもう一人誕生していた。

『そうです。彼は我が分身!
 足を切れば数が増えるばかりですよ・・・!』

 すでに切り札の精霊石を使ってしまった美神に、なす術はない。

「戦略的撤退ーっ!!」

 彼女は、その場から逃げ出した。カエルとブタも、美神の後を追う。


___________


「元に戻れ!!」

 城の台所らしき場所に逃げ込んだ美神は、ようやく、横島と雪之丞を人間に戻すことが出来た。
 しかし、彼らがホッとする間はなかった。
 台所の壁を突き破って、

『逃がしません!!』

 大ダコのヌルが現れたのだ。足の一つをもたげて、美神たちを攻撃する。

「うわ!?」
「熱っ!!」

 ヌルは、余裕綽々で自分の特性を説明し始める。

『我が八本の足には八つの力が宿っている!
 今のは火炎の足!
 次は雷の足!!』

 その言葉どおり、美神たちに電撃が襲いかかった。
 美神は、

「こなくそっ!!」
 
 手近にあった四角いタンクを蹴り飛ばす。そこには油が入っていたようで、美神たちとヌルとの間で引火した。
 火炎が視界を遮っている間に、

「えいっ!!」
「美神さん、この穴へ!!」

 雪之丞が、霊波砲で床に脱出口を作っていた。横島に促されるまま、美神は二人に続いた。

「!!」

 しかし、台所の下は、美神たちの想像を超える巨大な空間だった。人造モンスター工場である。

「ふん!!」
「伸びろーっ!!」

 雪之丞は下に向かって霊波を放出、その反動で落下のスピードをゆるめた。横島は、ハンズ・オブ・グローリーを伸ばして床に突き立て、やはり落下の衝撃をやわらげる。

「助かった・・・!!」

 そして美神は、二人の背中の上に降り立ち、彼らをクッションとした。
 しかし、美神の言葉は少し早過ぎた。

『死ね!!』

 彼らを追うように降りてきたヌルが、三人を攻撃したのだ。

「わーっ!!」

 その勢いで、美神たちは、近くの小部屋へと押し込まれてしまう。
 室内では、ちょうどカオスが作業をしていた。

「おまえたち!? なんで・・・!!」

 ここに美神たちが来ていることなど知らなかったカオスである。アンドロイド・マリアの説明で敵ではないと分かっていたのだが、それでも一瞬、美神たちがヌルと手を組んだのだと思ってしまった。
 だが、美神たちの様子は、追手のものではない。カオスは、すぐに誤解だと気が付いた。
 一方、美神たちも最初は困惑していた。

「あれ・・・!?
 あんた、もしかしてドクター・カオス!?」
「こ・・・これがカオス・・・!?
 う、うわーマジ!?」

 この時代のカオスと顔を合わせるのは初めてなのだ。そのカオスの外見は、美神たちが知るものよりも遥かに若い。だが、その服装や雰囲気、かたわらのマリアの存在などから、美神は、カオスだと認識することが出来た。

「何してんのよ、こんなところで!?」
「俺たちは敵じゃないんだ。
 悪かったな、あの攻撃は・・・」

 美神の質問に続いて、雪之丞が謝ろうとしたが、

「わかっておる!!
 ヌルのエネルギー源を止めるところだ!!」

 カオスは、雪之丞の言葉を遮り、美神の質問に端的に答えた。そこへ、

『貴様ら、私の地獄炉に何をしている!?』

 ヌルも入ってきた。
 カオスが何をしようとしているのかを見抜いて、

「させるかーッ!!」

 氷の足から散弾を放つ。

「マリアの後ろに下がって・・・!!
 こんなの食らったら生身の人間は・・・」

 そう叫ぶ美神の前では、横島がサイキック・ソーサーを展開させて立っていた。

「え」

 しかし、横島のサイキック・ソーサーは、全身をカバーするには不十分だったらしい。彼の腹には、大きな氷塊が突き刺さっていた。

「な・・・、なんじゃあこりゃああ!!?」

 横島が、ゆっくりと倒れ込む。

「横島クン!!」
「横島!!」

 美神と雪之丞が慌てて駆け寄った。

「横島クン!!
 しっかりしなさい!!」

 横島を抱きかかえる美神に対し、返ってきた言葉は、ただ一言。

「美神さん・・・」

 美神の腕の中で、横島はその生気を失っていく。
 そして・・・。
 全く動かなくなった。
 カオスが近寄り、横島の脈を、瞳孔をチェックする。

「死んどる」

 そのカオスの言葉が、美神の頭の中で反響する。

「死・・・?」

 美神はブチ切れた。

「ヌルゥウウッ!!
 よくも・・・!!」

 逆上してヌルに突撃した美神に、

『ほほほほ!!
 そう怒らなくても、
 すぐにあなたも殺して上げます!
 くらえ!! 雷の足!!』

 ヌルの雷が直撃した。


___________


「美神さん!?
 どーかしたんスか!?」
「よ、横島クン!?」

 美神が気付いた瞬間、目の間には横島が立っていた。

「よかった、無事だったのね・・・!!」

 横島の胸に飛び込んでしまう美神。

「え!? あの・・・」

 しっかり美神を抱きしめる横島だったが、ありえないシチュエーションに困惑している。

「どうしたんだ!?
 普通、逆だろ・・・!?」

 雪之丞も不思議がっている。
 
「ここはどこ・・・!?」

 ゆっくりと横島の胸から顔を上げた美神は、辺りを見回した。
 そこは、少し前に美神たちがいた台所だった。

「・・・台所!?
 !! そうか・・・!!
 あの時、逆上してヌルに向かっていって・・・。
 たしか電撃を食らったわ・・・!!」

 ようやく気付いた美神は、唇を近づけてきた横島を蹴り飛ばし、体を離した。

「雪之丞!!
 かまどを撃って! 早く!!」

 美神は、かまどの後ろの壁をにらんだ。

「まちがいないわ!
 私は奴の攻撃を使って、
 とっさに時間を逆行したんだわ!!」

 美神が叫んでいる。
 雪之丞は、わけが分からないながらも、言われたとおり霊波砲を放った。それは、

『ぐわああっ!!』

 ちょうど現れたヌルに直撃する。

『な、なぜ私の位置が!?
 くそっ!!』

 位置だけではなく、今の美神には、ヌルの次の攻撃も分かるのだった。

「横島クン!!
 ダブル・サイキック・ソーサー!!」

 横島に両手で盾を展開させて、それで炎撃を防ぎ、

「変化の杖よ!
 己自身を鉄と変えよ!!」

 杖を避雷針として、雷撃をかわす。

「カオスたちと合流するわ!
 床に脱出口を開けて!!」 
「カオスが来てるんスか!?」
「なぜ分かる・・・!?」

 横島と雪之丞が疑問を投げかけてくるが、それに答えている暇はなかった。


___________


「まだ停められんのか、カオス様!?」
「そうせかさんでくれ、姫!
 うかつなことをすれば地獄炉が暴走する!!
 そうなったら一瞬で城は蒸発し・・・」

 マリア姫とカオスの会話を、

「そんなこと言ってる場合じゃないわ!!
 急いで!!
 今すぐ停めないと手遅れになるわ!!」

 駆け込んできた美神が遮った。

「こ・・・これがカオ・・・」
「俺たちは敵・・・」

 横島と雪之丞も何か言いかけるが、

「あんたたちは黙ってて!!」

 振り向いた美神の一喝で、口を閉ざした。
 美神はカオスへ向き直り、再び詰め寄る。

「さっきは偶然うまくいったけど、
 次も時間を逆行できるか自信がないの!」
「な、何を言っておるんだ!?」
「早く・・・!!
 急がないと横島クンが・・・!!
 横島クンがまた死んじゃう!!」

 この時代のカオスは、頭の回転も速い。
 美神と話をするのは初めてだった。だが、アンドロイドのマリアから聞かされていたので、美神が時間移動能力を持つことは既に知っている。そのため、すぐに美神の言葉を理解することが出来た。

「おぬし、ひょっとして・・・
 時間を超えたのか・・・!?」
「お願い・・・!!」

 カオスは心を決めた。

「よかろう!!
 しょせん人間一度は死ぬ!!
 不老不死などと大口をたたいている私といえども、
 いずれ少しずつこの身は朽ちてゆく運命!!
 ならばホレた相手と共に死ぬのもまた一興!!」

 カオスの言葉の意味を悟ったマリア姫が、

「お供します!
 どうかご随意に!」

 と頷いた。


___________


『貴様ら、私の地獄炉で何をしている!?』

 ヌルが入ってきた。

「カオス!!」
「大丈夫!! まかせろ!!」
『させるかーッ!!』

 しかし、ヌルの攻撃は間に合わなかった。すでにカオスの指は、スイッチを押している。

『地獄炉を逆操作したのか・・・!?
 な・・・なんてことを・・・!!』

 炉の異常を感じ取ったヌルは、カオスが何をしたのか悟った。

「吸いこまれるー!!」
「炉に落ちたら最後だぞ!!
 こらえろっ!!」

 美神やカオスたちも余裕はないが、ヌルは彼ら以上だった。
 魔族は本来、人間界ではその力を一部しか使うことができない。それなのにヌルが強大なパワーを振るうことが出来たのは、地獄炉のおかげだったのだ。

『く・・・!!
 いかん! 力が抜けていく・・・!!』

 ヌルの悲鳴に、雪之丞が反応する。

「そういうことなら・・・。
 借りを返すには、いい機会のようだな」

 雪之丞と横島が、右手をヌルへと向けた。

「よくもブタにしてくれたな!!」
「これはカエルにされたお返しだ!!」
『グワアアアッ!!』

 雪之丞の霊波砲と横島のサイキック・ソーサーが炸裂。爆発とともに、ヌルは地獄炉へ吸い込まれていった。


___________


 一同は、村へ戻る。
 カオスとマリア姫は、今後、城を元通りに戻さなければならない。それには村人の手助けが必要だった。
 だが、彼らが村に着くと、お祭り騒ぎが待っていた。
 凱旋を祝う村人たちを遠巻きに見ながら、

「・・・現代に戻るために
 なんとか力を貸して欲しいのよ」

 美神は、カオスに協力を求めた。

「ふむ。
 確かに、おまえさんだけでは不可能だろうな」

 あらためて美神の口からその能力について説明されて、カオスは一つの結論に達していた。
 時間や空間を超えるには、ただジャンプする力があればよいわけではない。時空を見通し、座標を直感的に把握する感覚が必要だ。美神の母親にはそれが本能的に備わっていたようだが、美神自身は、そうしたイメージをすることが出来なかった。城で短い時間を逆行したのも、偶然に過ぎない。
 
「おまえたちをここへ導いた者は、あのマリアだな」

 カオスは、村人に混じって料理を手伝うアンドロイドを見ながら、つぶやいた。
 マリアに組み込まれた時間座標のために、美神たちは、ここへやってきたのだ。

「じゃあ、マリアといっしょなら帰れるわけね!?」
「ああ、間違いなかろう。
 私がマリアを解析すれば、確認も出来よう」

 嬉しそうな美神の問いかけに、カオスは頷いた。
 安心した美神は、自分の能力に思いを馳せる。

「時間移動か・・・。
 たしかに最強の力だと思うけど、
 危なっかしくて私には
 あつかいきれそうにないわ」
「小竜姫なら封印できるんじゃねーか?」

 いつのまにか横に来ていた雪之丞が意見を述べた。

「そうね、それがいいかも。
 もう二度と、
 あんなにうまくは使えそうもないから・・・」

 美神は賛成した。
 彼女の視線は、村人といっしょになって楽しんでいる横島のほうへ向いていた。
 そして、心の中でソッとつぶやく。

(横島クン・・・)


___________


 こうして美神たちは、カオスの秘密基地に一度も立ち寄ることなく、中世を後にしてしまった。
 あの時代のカオスの研究室に垂涎もののアイテムがあったとは知らず、また、それらをガメることもなく、現代へ戻ってしまったのだ。
 そして、現代の事務所に戻った美神たちを出迎えたのは・・・。


___________


『美神さん!! 横島さん!!
 へーん!! よかった・・・!!』

 おキヌが、泣きながら横島の胸に飛び込んでいく。

「ちょっと、これ・・・。
 どういうこと!?」

 周囲を見回した美神が驚く。その場にいたのは、おキヌだけではなかったのだ。
 唐巣神父、ピート、六道冥子、小笠原エミ、タイガー、現代のドクター・カオス・・・。
 そこには、知りあいのGSたちが勢揃いしていた。

「・・・このコに呼び出されたワケ」

 親指でおキヌを示しながら、エミが説明する。
 美神たちが消え去って、一人取り残されてしまったおキヌ。彼女は、相談しようと思って、仲間のGSたちに電話をかけまくったのだ。ちょうど全員が集まったところへ、美神たちが帰ってきたのだった。

「・・・なにはともあれ、
 無事でよかったじゃないか」

 と、唐巣が笑顔で言った時、

「令子ちゃん〜〜!!」

 冥子が美神に駆け寄って、抱きついた。そして、

「令子ちゃんが〜〜消えちゃったって〜〜!!
 うわ〜〜ん!! よかった〜〜!!
 ふえ〜〜ん!!」

 感極まって泣き出してしまい・・・。
 冥子の式神が暴走した。

「ちょっとーっ!!」

 中心にいた美神たちが最も被害を受けたことは、言うまでもない。
 せっかく時間旅行をのりきったのに、冥子の暴走のせいで三日間寝込むことになる彼らであった。



(第十六話「三人の花嫁」に続く)
 


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