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復元されてゆく世界

第十四話 復活のおひめさま


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 1/ 1

    
「んーむにゃむにゃ。
 マーくん・・・、やめて〜〜」 

 冥子の口から、そんな言葉が飛び出した。

『・・・冥子さん、眠ってるようですね』
「・・・そうだね」
『夢の中でも、怖い思いをしてるみたい・・・』
「こんな状況だからな・・・」

 おキヌと横島は、小竜姫とメドーサが対峙している間に、冥子の近くへと歩み寄っていた。
 冥子は大きな土の板に塗り込められているので、眠っているとは言っても、全く色気のない寝姿である。しかし、横島は、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。冥子の寝言から、色々と妄想してしまったのだ。

   マーくんこと鬼道政樹が、冥子の前に立っている。

  「冥子はん・・・、
   掟はご存知でっしゃろ」
  
   冥子の洋服は既にボロボロで、
   隙間から下着や生肌を覗かせていた。

  「ええ〜〜。
   『戦いに負ければ〜〜
    自分の式神を〜〜相手にさしだす』
   だったわね〜〜!?」

   オドオドした冥子の声に対し、

  「くっくっく・・・。
   少し違うやろ、冥子はん!?
   『自分の式神を』じゃない、
   『自分と式神を』だ!!
   『自分と式神を相手にさしだす』だ!!」

   残忍な笑いを浮かべる鬼道。
   その後ろには、彼の式神の夜叉丸だけでなく、
   冥子の十二神将が全て並んでいた。

  「君の話はきいとるよ、
   すごい肉体を
   そのお嬢様衣装の下に
   持ってはるんやろ?
   欲しいんや、そいつが」

   そして冥子に襲いかかる・・・。

 もちろん、実際の冥子の夢は、こんな卑猥なものではない。鬼道との式神デスマッチのことを思い出しているのは確かだが、それは、横島の妄想のようなイヤラシイ内容ではなかった。
 
(ううっ、冥子ちゃん・・・!!)

 煩悩が高まった横島の手に、霊力が集まる。
 横島の表情からその心中を察したおキヌが、顔をしかめた。そして、

『横島さん、こっち・・・!!』

 ギュウッと横島の耳をつかんで、引っぱっていく。

「あ、こいつが結界の鍵・・・!!」

 すぐ横に土の柱があったのだ。唐巣神父の教会でみたものと、良く似ている。だからおキヌや横島にも分かったのだった。

 ビシッ!!

 霊力を込めて、その上に手を置いた。
 横島が作動させた結界ではないので、もし雪之丞の説明通りならば、これでは意味がない。
 しかし、雪之丞の解釈が間違っていたのだろうか。あるいは、これは通常の土角結界とは異なるものであったのだろうか。あるいは、そうした理屈を超えるくらい、横島の霊力が高まっていたのだろうか。
 今、パキンと音を立てて、冥子を束縛していた土板が壊れ始めた。

「う〜〜ん。
 あれ〜〜、横島クン?
 何やってるの〜〜?」

 眠っていた冥子も、ようやく目を覚ました。寝ぼけマナコをこすっているが、まだ頭がハッキリしないようだ。

「何って・・・。
 冥子ちゃんを助けに来たんスけど・・・」

 苦笑する横島だったが、その表情には、どこかホッとした感じがあった。

『冥子さん・・・』

 そして、横島の後ろに浮いているおキヌも、安堵の表情を見せていた。



    第十四話 復活のおひめさま



 一方、横島たちのすぐ横で向き合っている小竜姫とメドーサ。二人は、横島たちとは全く別の空気をただよわせていた。

「おまえの顔を見るのは、もうたくさんだわ!
 今日でケリをつけます!!」
「フン・・・!
 威勢がいいねえ!
 香港じゃロクに活動できないクセにさ!」

 そんな二人の様子を見て、冥子は、

「あれ〜〜、小竜姫さま?」

 だんだんハッキリしてきた頭を、また混乱させてしまったらしい。
 確かに、冥子が捕まる前には、小竜姫は全く表に出てきていなかったのだ。

「ああ、冥子ちゃん!!
 とにかく、ここは小竜姫さまの言うとおりに!!」

 横島が声をかけると同時に、小竜姫も声をかけた。

「冥子さん、これを!!
 予備の武器です!」

 そう言って小竜姫が投げ渡したのは、神通ヌンチャク。しかし、

「ええ〜〜!?
 私、こんなもの〜〜使えないわ〜〜」

 当然の反応である。

「・・・。
 じゃあ、使える誰かに渡して!!
 急いでみんなを助けに行ってください!
 頼みましたよ!」
「は〜〜い!!」

 今度は冥子も素直に頷き、

「こっちです、冥子ちゃん!!」
『早く!!』 

 横島とおキヌに連れられて、その場を後にした。
 このやりとりの間、黙って見ていたメドーサは、

「いいこと思いついたわ・・・」

 と、小さくつぶやいていた。


___________


 雪之丞とピート。
 勘九郎を前にした二人は、すでに肩で息をしていた。
 しかし、それはこの二人だけではない。

『・・・この・・・
 くたばりぞこないどもが・・・!!』

 口では威勢のいい勘九郎にも、すでに疲労の色が見え始めていた。何しろ、彼は右腕の先を失って、そのまま戦っていたのだ。
 
「あんまりねばってると魔装術が
 おまえに残ってる最後の理性まで
 うばっちまうぜ・・・!」

 雪之丞が、勘九郎の異変に気付いて声をかけた。

「ここらへんで手を引け、勘九郎!!
 魂まで化物になって強くなっても意味はねえ!!」

 しかし、その理屈は勘九郎には通じない。

『そういうセリフは・・・。
 勝ってる方が言うもんよ!!』

 勘九郎は、強力なエネルギー波を二人に向けて発射した。

「くー!
 これはもう防げな・・・」

 あきらめの言葉がピートの口からこぼれた時。

 キンッ!!

 二人の前に差し出されたヌンチャクが、勘九郎の攻撃を防いだ。

「お待たせ・・・!!
 ピートをいじめる奴は、私が許さないワケ!!」
「エミさん!!」

 神通ヌンチャクを構えるエミ。
 その後ろに、唐巣、タイガー、冥子、横島、おキヌも続いている。
 一同は、勘九郎を取り囲む。
 そして、唐巣が叫んだ。

「勘九郎くん!!
 もう観念したまえ!!」


___________


 小竜姫とメドーサは、戦いの舞台を空へと移していた。
 アジトの上にあった屋敷の屋根をも突き破って、大空へ飛び出したのだ。
 ちょうどその時、『針』を手にしたグーラーが屋敷の玄関に入るところだった。

「おや、ブツが届いたようだね!
 そいつを風水盤にセットしちまいな!」
「ハーイ」

 メドーサの指示を受けて、グーラーが地下へと向かう。
 小竜姫もそれを目にしたのだが、今はメドーサと戦うのが先決だった。

「このッ・・・!!」
「ほほほほほっ!!
 あと何分動けるんだい!?
 その間逃げまわってりゃー
 あたしの勝ちさね!!」

 小竜姫は神剣をブンブン振り回すのだが、メドーサはそれをヒョイとかわしてしまう。

「さあ・・・、
 それはどうかしらねっ!!」

 ここで小竜姫は、『超加速』という術を発動させた。誰にも見えないくらいのスピードでメドーサへ向かう。しかし、

「おそれいったね!
 『超加速』は本来、韋駄天の技なのに・・・。
 私以外にも使える竜神がいたとはね!」
「な・・・。
 メドーサも超加速が使えるの・・・!?
 そんな・・・!!」

 メドーサも同じ術を使ってみせた。ただし、メドーサは、

「ちったあまじめに相手して・・・
 やると思ったら大マチガイよっ!!
 おほほほほっ!!
 勝負は勝った者の勝ちだもんねっ!!」

 これを逃げに用いる。
 小竜姫をからかって、逃げる自分を追わせれば、やがて小竜姫の行動時間が尽きる。そうなれば自分を止められる者はもういない。それが、さきほどメドーサが思いついた作戦だった。


___________


『くそ・・・!
 体力さえ十分なら、おまえらごときに・・・!!』

 勢揃いしたGSたちの猛攻にさらされた勘九郎は、ついにその場から逃げ出した。

「あッ!
 逃げる気なワケ!?
 させるかッ!!」

 勘九郎を追おうとしたエミだったが、

「ま、待ってくれ・・・!!」

 それを雪之丞が制止する。

「もう十分だ!!
 あとは俺にまかせてくれ!
 奴は必ず捕まえる!!」

 雪之丞は、エミの前に立ちふさがるようにして懇願した。

「あんな奴でも昔は仲間だったんだ!
 これだけ屈辱を味わえばあいつだって・・・」
「甘いわ!
 勘九郎はもう魂まで魔物になってるワケ!
 何をするかわかったもんじゃないわ!」

 言い争う二人に、唐巣が割って入った。

「勘九郎くんが
 本当に魔物になってしまったかどうか、
 それは定かではないが・・・」

 そして、優しい目を雪之丞に向けて、

「雪之丞くん・・・。
 気持ちはわかるが、君一人で
 勘九郎くんを捕まえるのは無理だろう。
 今はみんなで彼を止めに行くべきではないかね?
 この奥には風水盤もあるからね」

 と説いて聞かせる。
 その時だった。

 ドガッ!!
 
 奥の方から、大きな音が鳴り響いた。


___________


「何!?
 今の音は・・・!?」

 メドーサと戦闘中の小竜姫の耳にも、その音は届いた。
 しかし、それは前兆でしかなかった。

 ドッ、ドガガシャアアッ!!

 再度の轟音とともに、巨大な光の柱が立ちのぼった。
 原始風水盤が作動し始めたのだ。

「いよいよだね!
 人間どもの文明とやらも
 月の出とともに終わる・・・!!」

 メドーサが、光柱を見ながらつぶやいていた頃。
 風水盤のもとでは、

『死ね!!
 人も神もひとり残らず死ぬといいわ!!
 わーっはははは!!』

 勘九郎が高笑いを上げていた。
 その様子は、

「かっ、勘九郎・・・」

 傍らのグーラーも引いてしまうほどであった。


___________


「・・・なんてこった!!
 あの野郎、本当にやりやがった・・・!!」

 洞窟をゆるがす音響から、雪之丞は、風水盤が起動したことを感じとった。

「言ったでしょう!?
 勘九郎はもう人間じゃないワケ!!」
「これで〜〜世界も終わり〜〜!?」

 そんな中で、横島は、

「ちくしょう・・・!!
 ここに美神さんがいたら・・・!!」

 と叫んでいた。
 その頭を

『もうっ!!』

 おキヌがポカリと叩いた。

「おキヌちゃん・・・。
 な・・・なぜなぐる・・・!?」
『そろそろ私にもわかります。
 美神さんがいたら、
 「どーせ死ぬんやあ、せめて一発!!」
 とか言って飛びかかるつもりだったんでしょう!?』

 ついにおキヌにまで言われてしまった横島である。

「なんてこと言うんだ!!
 俺はただ、あの人なら反則ワザでも何でも使って、
 きっと何とかしてくれるに違いないと思って・・・」
『え・・・。
 そうだったんですか!?
 今までが今までだったから、てっきり・・・。
 ううっ、ごめんなさい!!』

 手で顔を覆うようにしながら、しおらしく謝るおキヌ。
 それを見た横島は、

「こーなったらもー
 おキヌちゃんで・・・」

 とおキヌに抱きついてしまう。
 しかし、

『「こーなったらもー」!?
 「で」!?』
「あ・・・、ごめん!!」

 ブルブル震えているおキヌの表情を見て、慌てて離れた。
 そんな二人のやり取りを、

「おたく幽霊にも発情しちゃうワケ!?」
「さすが横島さんジャノー」
「『一発』って〜〜何〜〜?」

 呆れながら眺める面々。
 一瞬惚けてしまった空気を、

「・・・って、バカやってないで急ぐんだ!!」

 唐巣が引き締めて、その場を取りまとめるのであった。


___________


 唐巣たちは、奥へと急いだ。
 彼らの前に、一度は蹴散らしたはずのゾンビたちが再び湧いて出て来たが、その数は以前よりも少ない。

「ここは私にまかせたまえ!!」
「先生!! 僕も残ります!!」

 唐巣とピートが叫ぶ。
 一瞬、自分も残ろうかと考えて足を止めたエミだったが、

「わかったわ!!」

 先導するかのように走り出した。
 他のメンバーは、冥子、雪之丞、横島、おキヌ、タイガーである。

(私がまとめ役になるしかないワケ!!)

 エミは、そう考えたのだった。
 
「遅れるなよ!!」

 と言いながら雪之丞がエミに続き、残りもそれに従う。
 そして、彼らは、ついに風水盤のもとへ辿り着いた。
 
「いらっしゃい、ボウヤたち!!」

 風水盤の左側にはグーラーが、そして右側には勘九郎が立っていた。
 グーラーはこちらを向いているが、勘九郎は背を向けている。

「勘九郎!!」

 雪之丞の呼びかけを受けて、

『月の出が近いわ・・・!
 臨界まではまだ少しかかるけど、
 風水盤はすでに低い出力で作動している・・・』

 勘九郎がゆっくりと振り向いた。

『感じない!?
 魔界から邪悪なエネルギーが流れ込んでくるのを・・・!
 とても・・・いい気分だわ!!』

 勘九郎の顔を見て、誰かがつぶやいた。

「あれはもう魔装術じゃない・・・!」
「魔物そのものだわ・・・!!」

 魔装術のときはシャドウのマスク状だったのだが、今ではそれが顔と一体化し、鬼のような形相となっていたのだ。
 もはや、勘九郎が完全に魔族になってしまったことは、誰の目にも明らかだった。


___________


『ウオオオッ!!
 オオオオン!!』

 魔物と化した勘九郎が咆哮する。それだけで、その場の空気が震えた。

「な・・・なんて霊圧だ・・・!!」
「ひっ、ひええっ!!」

 GSたちが怯むだけでなく、

「こいつ、変化したての新米妖怪のクセに・・・。
 オネエサンに匹敵するくらいのパワーね!!」

 グーラーまでもが感心している。
 勘九郎は、今、自分の力に酔いしれていた。

『いい気分よ、雪之丞・・・!
 思ったよりずっといい・・・!
 とてもいいわ・・・!!』

 そう言ったかと思うと、口から強烈な魔力を発射した。
 
「いかん!!」

 慌てて飛び退ける雪之丞たちだったが、勘九郎は、逃がすつもりはなかった。
 口からエネルギー波を放射したまま、ゆっくりと体を回転させて行く。
 まるで周囲のすべてをなぎ倒すかのような勢いだ。

「ちょっと、勘九郎・・・!!」

 それは、味方のはずのグーラーにまで向けられてしまう。

「危ねえっ!!」

 咄嗟に飛び込んで、その場からグーラーを救い出したのは、横島だった。

『横島さん・・・!?』
「おたく、どういうつもりなワケ!?」
「横島・・・!!」

 おキヌ、エミ、雪之丞が問いただすような視線を投げ掛ける中、

(どういうつもりも何も・・・)

 横島は動揺していた。
 別に理由があったわけではない。何も考えずに体が動いてしまっただけである。
 横島にとっては、グーラーは、GS資格試験でオイシイ思いをさせてくれた美人のネーチャンなのだ。いまだにグーラーを敵と割り切ることの出来ない横島であった。
 しかし、それを正直には言いづらかった。代わりに、

「こいつは、GS試験で拳を交えた
 戦友(とも)ですからね・・・」

 と言ってのける。

「すまないね、ボウヤ・・・」

 感謝の視線を向けるグーラーに対しても、

「いいってことさ。
 試合で勝ちを譲ってくれたろ?
 そのお返しさ」

 と言いきってみせた。

(・・・決まった!!
 今のはカッコ良かったんじゃないか!?)

 内心で自画自賛する横島。
 そこへ、

「おや?
 グーラーは裏切ったのかい!?」

 メドーサがやってきた。


___________


 グーラーは、メドーサと横島とを見比べた。その視線には、哀しみの色すらただよわせていた。

「すまないね、ボウヤ・・・」

 さきほどと同じ言葉を、別のニュアンスでつぶやくグーラー。
 彼女は、メドーサのもとへと走り寄り、その横にたたずんだ。
 それを見て、メドーサが笑い出す。

「はっはははっ!!
 それが賢い選択ってものさ」

 そして、その場のGSたちを見渡しながら、

「勘九郎がここまで使える魔族に化けるとは、
 正直思ってなかったわ。
 クズとはいえ人間も結構便利ね。
 そっちのみんなもお仲間になれば
 素敵だと思うんだけど・・・?」

 と続けた。
 メドーサは、本来、人間を見下しているタイプだ。
 かつて、天龍童子誘拐事件で横島の特殊能力にしてやられたときには、横島という人間を警戒するようにもなった(第八話「予測不可能な要素」参照)。しかし、その対策としてGS試験に送り込んだグーラーからの報告や、ここまでの戦いを通して、自分の反応は過剰だったと悟っていた。あの特殊能力は、いつでも使えるわけではないようだ。
 やはり、人間なんて恐れるに足らない。クズの集まりなのだ。
 今またメドーサは、そう思っていた。
 しかし、

「ねぼけてるワケ・・・!?」

 メドーサの提案など、到底受け入れられるものではなかった。
 代表してエミが反発したのだが、続くメドーサの言葉が、それを黙らせた。

「断れば死ぬ!
 それだけのことよ。
 ・・・言っておくけど
 小竜姫はもういないのよ」

 メドーサと小竜姫の空中戦は、小竜姫の敗走で幕を閉じたのだった。メドーサの策にはまってエネルギーを浪費した小竜姫は、妙神山へ瞬間移動して逃げるのが精一杯だったのだ。

「私の手下になるか、それとも死ぬか・・・!
 選びな!!」

 その場の空気が凍りつく。
 小竜姫ぬきでメドーサを倒せると思う者はいなかったのだ。
 しかし、その時、

『待てえええーい!!』

 洞窟内に、何かがテレポートしてきた。

『妙神山守護鬼門、右の鬼門!!』
『同じく左の鬼門!!』
『姫さまの命によりただ今見参!!』

 小竜姫からの援軍であった。

「小竜姫の手下だと!?」
『いかにも』

 メドーサの問いに、律儀に答える鬼門たち。
 援軍とは言え、彼らもここで長時間活動することは出来ない。

『あッ、いかん!!
 もう帰らんとエネルギーがっ・・・!!』
「おたくたち、何しに来たワケ!?」

 エミに突っ込まれるくらいだが、彼らの任務は戦闘ではなかった。

『小竜姫さまからの届け物を持ってきたのだ!!』

 荷物は、八つの三角形からなる立体だった。

『では御免!!』

 鬼門たちが消えると同時に、八面体の箱が開く。
 中からあらわれたのは・・・。

「お待たせ・・・!!
 真打ち登場ってヤツよ!!」
「わしもおるぞ」
「イエス・ドクター・カオス!」

 美神令子とドクター・カオス、そしてマリアだった。
 ドクター・カオスが持ち帰った勘九郎の右手により、美神の土角結界も解除されていたのだ。

「美神さん!!」

 美神に駆け寄る横島を見て、おキヌは、冥子を助けに行った際の言葉を思い出していた。
 あの場で横島は、冥子のことを、こっちの『おひめさま』と呼んだのだった。

(横島さん。
 これで、ようやく、
 もう一人の『おひめさま』も復活しましたね)


___________


 メドーサ、勘九郎、グーラーの前に、GSたちがズラリと並んでいた。
 美神、横島、おキヌ、エミ、冥子、雪之丞、タイガー、カオス、マリア。

『来たわね、美神令子・・・!!』
「フン!
 死ぬためにわざわざ集まってくるとは・・・」

 勘九郎とメドーサがつぶやく。グーラーは何も言わない。
 一方、美神は、

「このオカマ野郎にクソヘビばばあ・・・!!
 世話になった分、借りはキッチリ返すからね!!」

 と、啖呵を切っていた。
 だが、雪之丞がそれに水を差す。

「威勢がいいのはいいが・・・、
 後悔するぜ。
 月がもう昇る・・・!!」
「時間です、ドクター・カオス」
「わかっとる!
 原始風水盤が作動するぞ・・・!!」

 マリアとドクター・カオスも、現状を認識していた。

「あきれたわ!
 わかってて来るとはね!」

 メドーサの言葉とともに、外では月が姿を見せ始めていた。
 
 ブン!!
 
 そして、原始風水盤が音を立てて、香港は魔界に沈んだ。


___________


 彼らを取り囲む様相も一変していた。
 洞窟の岩肌は不気味な色を示し、その質感も変わってしまったようだった。
 地面には、見たこともないような植物が生えている。花も葉も持たぬだけではない。中には、小さな牙のある口を擁するものまであった。

「・・・これでもう私たちには後がない・・・!
 魔界に放り出された人間は
 陸にうちあげられた魚みたいなもんよ!
 今ある霊力と体力を使いきれば
 二度と回復せずに死ぬしかない!」
 
 美神の言葉を、

「そう、さっきまでは
 私たちが侵入者だったけど、今は逆!
 しかもどんどん魔界は広がっている」

 と、メドーサが肯定してみせた。
 彼女の言うとおり、ここを起点として魔界の浸食は広がっている。二、三日もすればアジア全域で人間と魔族の勢力が完全に入れかわるだろう。

「メドーサ相手じゃ
 バラバラに攻めても効きめないわ!
 協力するしかないワケ!」
「OK!
 全員の霊力をひとつにたばねて相乗させる!」

 エミの提案に、美神が頷いた。
 それを合図にするかのように、

「やれ! マリア!!」
「イエス・ドクター・カオス!」

 マリアが、胸の前で両手をクロスさせる。六つの穴があき、そこから煙を噴射した。

「煙幕!?」

 全員の視界が奪われる。

「今よ!
 みんな私に波動を送って!!」

 美神が叫んだ。

「・・・あんたが一番体力満タンだからね」
「令子ちゃん、受けとって〜〜!!」

 エミと冥子が、美神の背にエネルギーを流し込んだ。

「こ・・・、こうか・・・!?」
「可能な限り出力を上げてツカサイ!!」
「すまん・・・!! 頼むぜ!!」

 横島、タイガー、雪之丞も美神に霊力を送りこむ。

「あんたは人間をクズよばわりするけど・・・。
 GSを・・・
 なめんじゃないわよ!!」

 みんなの霊力と美神の意志をのせて、今、強力なエネルギー波が美神の手から放たれた。
 
 ドッ!!

 それがメドーサに直撃する。
 まだメドーサを倒すには十分ではなかったが、

「人間に耐えられる限界近くまで
 出力が上がってる・・・!
 これが効かなきゃ・・・もう・・・」

 美神は、霊波を放射し続けていた。このまま押し切るしかないのだ。

「人間がこんなに高出力の攻撃を・・・!?」

 驚くメドーサだったが、まだこらえきれる。しかも、左右の勘九郎とグーラーに目配せする余裕もあった。
 そのアイコンタクトを受けて横にとんだ二人は、大きく回りこんで、GSたちの背後をとった。美神に供給されているエネルギー源を断つのだ。
 勘九郎が冥子とエミを、グーラーが横島たち三人を強襲しようとした時・・・。

「アーメン!!」
「ダンピールフラッシュ!!」

 唐巣とピートの攻撃が、勘九郎とグーラーの背を撃った。ようやくゾンビ軍団を蹴散らして、駆けつけてきたのだ。
 
『グッ!!』
「ぎゃあっ!!」

 不意打ちを食らった勘九郎とグーラーが倒れている間に、

「美神くん!!」
「僕たちのパワーも!!」

 唐巣とピートの霊力も、美神に加えられた。

「今度こそ・・・!!
 行っけーっ!!」

 美神のエネルギー波が、その勢いを増した。
 全員の思いが一つになったのだ。
 そして、それは、

「何ー!!」

 ついにメドーサを吹き飛ばした。


___________


 地面に叩き付けられたメドーサが顔を上げると、原始風水盤を解析するドクター・カオスの姿が目に入った。
 ドクター・カオスは、マリアに自分の身を守らせながら、原始風水盤を逆操作しようと試みていたのだ。

「ようし、わかった・・・!!」
「や・・・やめろー!!」

 メドーサの悲鳴を遮るかのように、今、ドクター・カオスがその手をスイッチに押し付けた。


___________


「元に戻った・・・!!」

 その場の光景は、最初の洞窟のものに戻っていた。
 宇宙空間へ行ったり原始時代へ行ったりという多少の間違いもあったものの、それでも、ついに逆操作に成功したのだ。

「これって・・・!?」
『体が急に重く・・・!?』

 起き上がったグーラーと勘九郎が異変に気がついた。
 ただ元に戻っただけではなかった。邪悪な気が一掃されて霊的に清められていたのだ。
 美神もそれに気付き、

「完全に形勢逆転!!
 ここでは私たちはパワーアップ、
 奴らはその逆・・・!!」

 皆に知らしめるように、声を張り上げた。

「この・・・クソ共がああ!!」

 メドーサが美神に突撃したが、

「スピードもパワーも半減してる!
 今のあんたなんか恐かないわ!」
「グワッ!!」
 
 それすらも軽くあしらってしまう美神である。

「降伏したまえ、メドーサ!!」
「おたくは負けたのよ!」

 唐巣とエミの言葉が、メドーサに追い打ちをかけた。


___________


「人・・・間・・・ごときに・・・!!」
『メドーサ様・・・!!』
「オネエサン・・・」

 膝をついたメドーサのもとに、勘九郎とグーラーが駆け寄った。
 メドーサは顔を上げて、もう一度全体を見渡した。
 美神、唐巣、エミ、横島、おキヌ、冥子、ピート、雪之丞、タイガー、カオス、マリア・・・。

(冷静に・・・!!)

 メドーサは自分に言い聞かせる。

(私はプロだ・・・!!
 こんなところで人間ごときに
 除霊されるわけにはいかない!!
 頭を冷やすんだ・・・!!)

 そして、二人の手下の方へ顔を向けた。

「勘九郎! グーラー!
 計画は失敗だわ!
 撤退します!!」

 メドーサの口から『失敗』及び『撤退』という言葉が出たのを聞いて、二人がハッとする。
 しかし、それにも構わず、メドーサは続けた。

「プロとして私は致命的なミスを犯したわ!
 人間を軽蔑するあまり、
 連中を過小評価しすぎたのよ」

 途中までは横島一人を警戒し、その後は、やはり人間は皆クズだと見下していたメドーサである。勘九郎が横島よりもむしろ美神を気にしているのは分かっていたが、メドーサは、部下のセンスを信用していなかった。

(勘九郎・・・。
 おまえのほうが正しかったようだね。
 横島よりも、むしろ美神令子こそ・・・!!)

 今、メドーサは己の間違いを悟った。決して人間を侮ってはいけないのだ。この失敗を次への教訓とするためにも、この場を脱出しなければならない。

「しかし・・・。
 上級魔族の私がただ引きさがるのでは
 あまりにも屈辱的だわ!」

 メドーサは、勘九郎に決然とした視線を向けた。

「魔族の一員として、
 主のために何をすればいいのか、
 おまえはわかっているね?」

 勘九郎は、その意を汲み取った。

『・・・はい、
 おまかせください、メドーサ様!』


___________


 勘九郎が、GSたちの方へと向き直る。メドーサを守るかのように、大きく立ちはだかった。

「警報!!
 目標02に霊的エネルギー急速増大!」
「ムダなあがきはよせ!!
 ブッ殺されてーのか!!」

 マリアの感知と同時に、雪之丞が勘九郎を諌める。しかし、

『クックックッ・・・。
 教えてあげる・・・!
 魔族であることの喜びが
 いかに大きいかを・・・!!』

 勘九郎は、刀を地面に突き立て、自身のエネルギーを流し込んだ。
 大地が割れ、美神たちの足場が崩れる。

「頼んだよ、勘九郎!!」

 その間に、メドーサはグーラーを連れて、そこから飛び去っていった。

『それじゃカタをつけましょうか・・・!!』

 勘九郎の手に魔力が集まった。

『クックックックックッ・・・!
 今回は逃げられないわよ・・・!!』

 一瞬、意味がわからない一同だったが、

「令子ちゃん〜〜!!
 外におっきい火角結界が〜〜!!」
「またか・・・!!
 バカのひとつおぼえね・・・!!」

 式神の霊視能力により、冥子が事態を察知した。
 アジトを上の屋敷ごと取り囲むようにして、巨大な火角結界が出現したのだ。
 高さ十メートルはある。大きい分だけ時間がかかるようで、『九九九』という数字が表示されていた。

「・・・15分あれば・・・」
『横島さん・・・!!』

 同じくバカの一つ覚えで美神に飛びかかろうとした横島は、おキヌに押さえつけられていた。

「エミくん・・・!?」
「・・・状況を打開するには
 もう選択の余地はないわ!」

 呪いのプロとしての意見を唐巣から求められて、エミが答えた。
 それだけで、唐巣と美神には十分だった。

「結界は大きすぎて手に負えない。
 ただし・・・」
「起動させた勘九郎が死ねば結界は消滅する!!」


___________


『フン・・・!!
 貴様たちにはわからないさ!
 永遠にね!』

 勘九郎が、洞窟の壁にエネルギー波をぶつけた。
 ここに抜け道があるのだ。
 それで結界から脱出できるわけではないが、逃げ出す必要はなかった。勘九郎は、ここでGSたちと心中するつもりなのだ。それが、メドーサが勘九郎に命じたことだった。
 だから、爆発までの時間さえ稼げればよい。
 そう思って抜け道に飛び込もうとした勘九郎だったが・・・。

「なに・・・、これ・・・!?」

 足を前に進めることが出来なかった。
 目線を落とすと、腹から細い霊波刀が突き出ているのが見えた。

「これが本当の使い方さ、
 ハンズ・オブ・グローリーの!!」

 首を後ろに回すと、勝ち誇ったような横島の姿が目に入った。
 横島は、右手を前に突き出し、そこから霊波刀を勘九郎まで伸ばしていた。
 長くなった分だけ通常よりは細くなったそれが、勘九郎を背中から貫いていたのだった。

「横島クン、それ・・・!?」

 美神ですら知らなかったことだが、横島のハンズ・オブ・グローリーは、形が自在に変わる霊波刀なのだ。
 別に、今まで隠していたわけではない。ただ、そうした特殊な使い方をする機会がなかっただけだ。いつもの除霊仕事では、普通の霊波刀の形で十分だった。
 今回は強敵相手だったが、それでも洞窟内では『先に行け』と言われる立場だったため機会は少なかった。それに、その時には美神もいなかったのだ。美神が合流してからの戦いは、美神にエネルギーを集めてまかせる形だったので、そこでも、ハンズ・オブ・グローリーを見せることはなかったのだ。
 一方、横島にしてやられた形になった勘九郎は、

『メドーサ様の言うとおりだったわね・・・』

 横島を危険視していたメドーサのことを思い出していた。
 そこへ、エミが声をかける。

「あきらめなさい!
 おとなしく火角結界をひっこめたら?」

 横島も、勘九郎が降参するものだと思って、ハンズ・オブ・グローリーを引き抜いた。
 もはや勘九郎としても、終わりだと悟っていた。
 それでも、最後の虚勢をはって、

『ふざけるなクソ共が!!
 死ね・・・!!』

 左手に魔力を集めた。
 しかし、それを放つことは出来なかった。

「この・・・バカヤローが・・・!!」

 雪之丞の強力な霊波砲が、横島の霊波刀による傷跡を押し広げるようにして、勘九郎の体を貫いたのだった。

「・・・てめーだって本当は
 わかってたんだろーによ・・・!」

 雪之丞がつぶやいた頃、外では、火角結界がそのカウントを停止させていた。


___________


「はあ!?
 今回の仕事は私を救出するためだったから、
 必要経費は私が出すんですって!?」

 事件が解決し、安心して帰路についた一同だったが、美神の一言がまた物議をかもし出した。

「食事代も私が出す!?
 誰がそんなこと言い出したのよ!?」

 美神に言われて、全員が視線を唐巣に向けた。

「え・・・!?
 いや、私はそんなこと言ってないぞ!?
 だが美神くん、
 ここは感謝の気持ちをこめてだね・・・」

 唐巣の弁明は通じなかった。

「そんなわけないでしょ!!」
「じゃあ自分が食べた分は自分で払うワケ」
「私は〜〜それでいいわよ〜〜
 令子ちゃん〜〜」

 美神の言葉を、エミと冥子はあっさり受け入れる。
 貧乏人集団も、それほど問題にはならないだろう。これだけの大仕事に関わったのだから、雪之丞以外にも、小竜姫がそれなりに払ってくれるはずだ。
 しかし、ここでドクター・カオスが、

「マリアの補強費と修理費、それに家賃・・・
 これだけで、わしは手一杯じゃ。
 何とかならんかの!?
 以前のようにマリアを貸し出すということで、
 手を打たんか!?」

 と食い下がった。

「OK!! じゃあ時々貸してね」

 実は美神としても、食費請求の件は半ば冗談だった。だから、これで十分である。
 そして、このカオスの交渉を見ていて、雪之丞が何か思いついた。

「そういうことなら・・・。
 俺も時々仕事を手伝う、
 ってことでどーだ!?」

 雪之丞は、日本に住居を構えているわけではない。しかし、日本に立ち寄ることもある。その際、美神のところで一時的に働くというのは、修業のタシになるかもしれなかった。
 一匹狼を自称する雪之丞としては、横島のように美神の事務所で常時アルバイトすることは出来ない。だが、横島の働きぶりを見るのも悪くはないはずだ。
 美神としても、これは悪い提案ではなかった。もし戦闘の要素の大きい仕事であれば、雪之丞は貴重な戦力になるだろう。

「・・・そう!?
 ま、雪之丞がそう言うんだったら、
 あんたにも手伝ってもらおうかしら」

 こうして、臨時ではあるものの、雪之丞も美神の事務所で働くことになったのだった。



(第十五話「魔女と剣士とモンスター」に続く)
 


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