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復元されてゆく世界

第十三話 とらわれのおひめさま


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 1/ 1

  
「何かしら・・・?」
「何かの部品のようだが・・・」

 美神と唐巣神父がつぶやく。
 彼らの前には、鉄製の針のようなものが置かれていた。中央部はふくらんでおり大きな穴があいている。片方の先端は尖っており、反対側には装飾があった。
 ここは、唐巣神父の教会。いつもは唐巣とピートしかいないここに、今、美神たち三人が呼び出されていた。
 昨夜、ここが何者かに襲撃されたからだ。
 襲撃者は、不気味な仮面をつけた女だった。何かを探していたらしい。そこへ唐巣とピートが帰宅したのだが、賊は、霧となったピートにまでダメージを与えるほどの強者だった。
 賊は何者なのか。何を探していたのか。
 その手がかりを探す上で、唐巣は、美神たちにも助けてもらうことにしたのだ。そこへ、ちょうど、

「ごめんくださーい。
 となりの者ですけど、
 昨日お留守のあいだに届いた荷物をあずかってまして・・・」

 と渡されたのが、この鉄針だった。

「あて名は僕になってる・・・!?
 誰からだろう・・・?」

 ピートがつぶやいたとき、

「俺さ!」

 と言いながら、一人の男が入ってきた。
 帽子を深めにかぶったトレンチコートの男。

「おっ・・・おまえは・・・!!!」

 それは、この場の誰もが知る人物だった。

「伊達雪之丞!!」



    第十三話 とらわれのおひめさま



「ちょいとワケありでな、
 おまえなら、奴らにそいつを
 渡すようなヘマはしないと踏んだのさ」

 雪之丞はそう言ったのだが、

「問題は俺が・・・、
 ヘマだって事・・・だ・・・!」

 突然、その場に倒れてしまった。
 そして、その後ろから複数の人影が姿をあらわす。

「昨夜のヤツ・・・!!」
「しかも・・・今日は団体さんでおこしだよ」

 ピートと唐巣が言うとおり、それは、不気味な仮面をつけた女の集団だった。
 さらに、その集団の背後から、

「・・・やっぱりブツはここだったのね?
 手間どらせてくれるんだから!」
「つまんないことにまきこんで、悪かったね。
 これはあたしたちの問題なのさ」

 聞き覚えのある声が二つ、飛んできた。
 
「かっ・・・、鎌田勘九郎!!」
「グーラー!!」

 唐巣たち一同が身構える中、勘九郎が平然と話を続けた。背広とコートを着こなし、ビジネスマンのような姿だが、相変わらずのオカマ口調である。

「ブツをちょうだいな!
 あんたたちには用のないシロモノよ!」

 横では、グーラーがウンウンとうなづいている。
 しかし、唐巣は、

「・・・事情はわからんが、
 メドーサの手下の言うことはきけないね。
 我々を頼って来た以上、雪之丞くんは友人だ!
 おひきとり願おう!」

 鋭い目付きで、拒絶した。

「すると、おじさんと吸血鬼のボーヤは、
 私の敵にまわるのね?
 美神令子さんはどうする?
 そいつをかばっても、一文にもならないわよ」

 勘九郎が、美神に問いかけた。
 メドーサたちは、美神ではなく横島を危険視しているのだが、勘九郎は少し違う。GS資格試験の決勝戦にて美神の実力を認識し、その名をシッカリ覚えていた。さらに時間の許す範囲で、美神の噂についても調べあげ、弱点がお金であることまで把握していたのだ。
 一方、グーラーも、

「ボウヤはどうするの?
 また、あたしと遊びたい?」

 横島に参戦するかどうか尋ねていた。

「神宮ラン・・・、いや、グーラー・・・。
 おまえ、やっぱり・・・」

 横島の言葉は、直接の返答にはなっていなかった。
 GS試験の『神宮ラン』という女性が、実はメドーサの配下のグーラーであったこと。それ自体は、横島も聞かされていた。しかし、自分が対戦した感触として、グーラーのことを悪い奴だとは思えなかったのだ。

(最後には、勝ちを譲ってくれたし・・・。
 それに、戦い自体も、気持ちよかったな。
 やわらかい・・・)

 横島は、つい、グーラーとの試合に思いを馳せてしまった。直接手を触れたグーラーの体。横島に密着してきたグーラーの体。その感触を思い出してしまったのだ。
 これが、思わぬ影響を及ぼした。横島の霊力は、煩悩エネルギーをもとにしている。女体の感触を考えてしまったが故に、横島の手に、霊力が集まり始めたのだ。

「フーン、そうかい」
「・・・いっ!?
 あ、これは・・・」

 グーラーが、それを参加の意志とみなした。慌てて否定しようとした横島だが、もう遅い。

「横島クンまでそのつもりなら・・・。
 しょーがないわねっ!!」

 勘九郎の言葉に半ば納得していた美神も、唐巣に加勢することを決意した。

「あーら、そう・・・!
 でも誰にも私たちの目的を
 ジャマさせるわけにはいかないわよ・・・!!
 行け!!」

 勘九郎の合図とともに、仮面の女たちが襲いかかった。


___________


「草よ木よ花よ虫よ、我が友たる精霊たちよ!!
 邪をくだく力をわけ与えたまえ・・・!!
 アーメン!!」

 唐巣の攻撃が、仮面の女たちを迎え撃った。
 直撃にもひるまない彼女たちだったが、唐巣の一撃は、女の仮面を吹き飛ばすには十分だった。
 仮面の下からあらわれた顔を見て、

「こいつらゾンビか!!」
「こりゃあやっかいだぞ・・・!!」

 ピートと唐巣が、女たちの正体を悟った。
 神通棍を振るっていた美神も、

「先生!!」

 一瞬、そちらへ目を向けた。
 横島は、美神と背中を合わせるようにして戦っていたが、

「チクショー!!
 期待させやがって・・・!!」

 と嘆いている。
 その様子を見て、

「クスクス・・・。
 やっぱりボウヤの弱点は女なのね」

 と笑っているのはグーラーだ。そもそも、ゾンビ兵が女性型なのは、グーラーの報告に基づいているのだ。GS試験においてグーラーは、メドーサに命じられて、横島の様子を詳しく観察していたのだった。
 一方、勘九郎も、グーラー同様この乱戦には手を出していない。彼は、頃合いを見計らって、

「このあいだのケリをつけてもいいんだけど、
 今はちょっと急いでるのよね」

 将棋のコマのようなものをいくつか投げつける。その表面には『土』という文字が書かれていた。それは、唐巣や美神たちを囲むように着弾する。

「しまった・・・!!」
「足下が固められて・・・!!」

 美神たちを束縛するかのように、それぞれの立っている場所から、土の板がせり上がってきた。

「メドーサさまにいただいた結界兵器、土角結界よ!
 じゃあね・・・!」

 勘九郎の手元にも、土の柱があらわれた。勘九郎は、スイッチを押すかのように、その上に手を置く。
 
「ブツは手に入れたよ」

 いつのまにか、鉄針はグーラーの手に渡っていた。

「引きあげよ!」

 勘九郎の合図とともに、女ゾンビが退却していく。
 グーラーも、

「バーイ、ボウヤ!!
 全部終わったら、そこから解放してあげるわ!!」

 そう言い残して、勘九郎に続いて去っていった。
 残された美神たちは、全く身動き出来なかった。

「どんどん固められていく・・・!!
 早く脱出しないと全員置物にされちゃう!!」

 すでに土角結界は、腰のあたりまで覆っていた。

「美神くん、精霊石を私に!!
 早く!!」

 唐巣が、かろうじて自由になる手を伸ばしながら叫ぶ。
 美神は、アクセサリーとして身につけていた精霊石を外し、唐巣に投げ渡そうとしたのだが、

「どうする気・・・」

 と言いかけて、その手を止めてしまう。
 美神の頭の中に、まるで一度経験したかのように、ハッキリとした光景が浮かんできたのだ。
 それは、皆を解放するために、一人、土角結界に塗り込められた唐巣の姿。

(先生は、自分を犠牲にするつもりなんだわ・・・!!)

 その思いが、一瞬美神を躊躇させてしまったのだ。

「美神くん!!」

 唐巣の声に、ハッと我に返る美神だったが、もう遅い。すでに美神の肘まで土角結界に埋もれてしまっていた。精霊石を握り込んだ手は、まだ土の外にある。しかし、これでは、上手く唐巣へ投げることは出来ない。

(私のミスだわ・・・!!)

 後悔している暇はなかった。

(自分のミスは、自分で取り返す!!)

 決然とした表情で、美神は唱える。

「精霊石よ!! 私に力を貸せ!!」

 美神の手の中で、精霊石が強く輝いた。

「・・・あとを頼んだわ、先生!」

 美神がささやく。
 同時に、美神以外の土角結界が、消え始めた。

「すぐにここから離れるんだ!!」

 唐巣の叫び声とともに、全員が飛び退いた。

 キンッ!!

 その場が大きく輝く。

 シュウウウウウッ。

 光が消えた跡には、土像と化した美神がたたずんでいた。

「・・・どうなったんですか!?」
「精霊石のエネルギーで攻撃を
 全部自分に集中させたんだ!
 私がやるつもりだったのに・・・」

 ピートの疑問に、唐巣が答える。

『美神さんが・・・!!』
「あのひとが、自分を犠牲にするなんて・・・」

 おキヌと横島は、唖然としていた。
 そんな中、

「あ・・・あわてるな・・・。
 元に・・・戻す方法はある・・・」

 雪之丞が意識を取り戻した。

「どうやるんだ!?
 早く言え!!」
『横島さん、
 この人ケガしてるみたいだから・・・!』
「あのチチが尻がフトモモが
 元に戻らない時は
 貴様を殺してやる!!」

 横島は雪之丞の胸ぐらをつかみ、おキヌの制止も聞かない。
 そんな横島に対する雪之丞の答えは、一言だけだった。

「は・・・腹へった・・・!」

 何日も何も食べていない雪之丞は、ケガをしていたわけではなく、空腹で倒れていたのであった。


___________


 香港。
 その空港に、今、日本のGSたちが降り立った。
 横島、おキヌ、唐巣神父、ピート、雪之丞。さらに、六道冥子、小笠原エミ、タイガー、ドクター・カオス、マリアまでいる。
 メドーサたちが香港にいることを雪之丞から聞かされた唐巣は、知己のGSたちを招集し、ここへやってきたのだ。冷静な唐巣は、メドーサたちを相手にするには十分な戦力が必要だと判断したからだ。
 だが、実は、もう一つ理由があった。美神が土角結界に固められた以上、あの場に残されたメンバーでは、誰も香港へ行く旅費が出せなかったのだ。
 
(これは美神くんを救出するミッションでもあるのだから、
 後で必要経費くらいは出してくれるよな?)

 と唐巣が考えていることは内緒だが、皆、薄々感づいている。

「雪之丞!
 これからどーするワケ!?」
「とりあえずどっかに宿をとって、
 作戦会議といこう!」
「本当に美神くんは元に戻るんだろうね!?」
「土角結界は作動すると解除は不可能だが、
 仕かけた奴をおさえりゃ別だ。
 生きてよーが死んでよーがかまわんから、
 勘九郎の手をもう一度あそこに置けばいいのさ。
 そーすりゃ息を吹きかえす」
「あら〜〜雪之丞クンって〜〜、
 勘九郎さんとは〜〜仲間だったんじゃないの〜〜?」
「メドーサは裏切り者をいつまでも
 生かしとくほど甘くはないんでな。
 こっちも遊びじゃないんだ」

 エミ、唐巣、冥子の言葉にきちんと答える雪之丞だったが、彼は空港のロビーだというのにラーメンを立ち食いしている。
 しかも、この後、土地勘のある雪之丞が『作戦会議』と称して一同を連れて行ったところも、中華飯店だった。

「ガツガツガツガツいつまで食ってるワケ、
 おたくたちっ!!」
「話が〜〜進まないわね〜〜」

 女性陣の叱責も、男どもには通用しない。
 雪之丞は黙々と食べ続けているし、

「おかわり四つくれーっ!!」
「二つで十分ですよ、横島さん・・・。
 あ、先生、今のうちにシッカリ食べてくださいね」
「すまないね、ピート君」
「タンパク質ー!!」
「こらうまいっ、こらうまいっ!!」

 横島もピートも唐巣もタイガーもドクター・カオスも、この調子である。
 ここの食事代もどうせ必要経費で落ちるということで食べまくっていたのだ。彼らが満腹になった頃、ようやく雪之丞が説明を始めた。
 
「メドーサの配下を辞めた俺は、
 香港にズラかることに決めた。
 こっちにゃモグリのGSも多くてな、
 俺にとっちゃ色々と好都合だったんだ」

 しかし、妙な事件が起きた。香港の有力な風水師が次々と行方不明になったのだ。
 風水とは、大地の気の流れを利用する技術である。西洋の環境生理学と中国の地理地相学を融合したもので、香港が一番さかんだ。企業が業績を上げるために、ビルのデザインにも取り入れているほどだ。

「・・・で、俺はある人物に
 行方不明事件の調査を依頼された。
 ヤバイ事件なのはわかってたが
 断れない事情もあってな」

 そして雪之丞は、勘九郎たちがあの『針』を作っている現場に行き当たったのだった。
 彼らは、風水師の生き血を鉄針に吸わせていたのだ。それも大量に必要とするために、次々と誘拐していたのである。

「フイをうって『針』を奪ったまではよかったが、
 こっちも油断してあとは知っての通りだ。
 ま、そんなわけで、
 早いとこもう一度奪い返したい!」

 雪之丞が一通りの説明を終わらせたところで、唐巣がゆっくりと顔を上げた。

「雪之丞くん・・・。
 まさか、あの鉄針の正体は・・・」

 唐巣の知識の中に、思い当たるものがあったのだ。

「さすが察しがいいな!
 あれは『原始風水盤』のためのものだ」

 雪之丞が唐巣に頷いてみせた。

「原始風水盤!?
 奴ら、あれを使うつもりなワケ・・・!?」

 エミも、その名前には聞き覚えがあった。
 
「風水盤って〜〜風水師さんが使う磁石よね〜〜?
 原始風水盤っていうのは何〜〜?」
「普通のとは違って、こいつは地脈の流れを
 思い通りに変えることができるワケ!
 大地の『気』の流れを自由に
 動かせるってことはつまり・・・」

 冥子の質問に、エミが説明する。
 原始風水盤を使えば、地上のバランスを意のままに出来るのだ。地震はもちろん、世界中を霊的混乱に陥れることが可能だ。いや、神と人間を駆逐して魔族の世界を作ることさえ無理ではないだろう。

「もしかして〜〜、
 令子ちゃんが針を手にしたら〜〜
 世界中のお金を支配することも出来るのかしら〜〜?」

 冥子の言葉に、一瞬、美神が来てなくてよかったと思ってしまう唐巣たちであった。


___________


「メドーサの居所は・・・?」
「もうわかってる!
 あれだけ強力な霊的要素がそろってんだ、
 すぐわかったぜ!
 ここさ・・・!」

 マイクロバスをレンタルした一同は、雪之丞の案内で、香港島と九龍をつなぐ海底トンネルの中に来ていた。
 壁の裂け目を前にして、

「見な、霊気がもれてる!
 香港島の地下にアジトがあるらしいんだが、
 地盤の中にいくつかキレツが走ってるのさ!」

 と説明する雪之丞。
 それを見て、

「そうか・・・!!
 僕なら身体を霧にして侵入出来る・・・!!」

 と、ピートが気付いた。

「ひとりで行くワケ!?」
「・・・もうひとりだけなら
 僕の能力で一緒に連れて行けますが・・・」

 エミの問いかけに答えて、ピートは面々を見渡す。
 エミがピートの肩に手をかけ、

「ピート・・・。
 もちろん私を・・・」

 と言いかけたが、ピートの視線は、エミには向けられていなかった。

「私が行こう」
「はい、先生!!」

 師弟コンビの間に、熱い空気が流れる。

「決まりじゃな」

 と、ドクター・カオスがつぶやいた時。

「冥子ちゃん・・・。
 確かテレポートできる式神があったよね?」

 横島が、冥子に尋ねた。
 冥子の式神の一つに、メキラがある。短距離ならば瞬間移動出来るし、誰かを乗せていくことも可能だ。

「え〜〜、でも〜〜、
 行ったことない場所は無理だと思うわ〜〜」
「一度行けば大丈夫なワケ!?」
「たぶん〜〜」

 これで計画変更となった。
 ピートは、冥子とともに霧化して、壁の中へと消えていった。
 それを見送った後で、

「・・・冥子ちゃんって、
 透視とか遠視とかできる式神も持ってたような・・・」
「あ・・・!!」

 横島がクビラのことを思い出した。それが有効なのかどうか定かではないが、どちらにせよ、すでに遅かった。


___________


『身体が霧になるって〜〜変な感じ〜〜』
『もう少しで通り抜けますから
 心をおちつけてください・・・!』
『冥子、こわい〜〜。
 うっ、うっ〜〜』
『ちょっと冥子さん!!
 こんなところで暴走しないでくださいよ!!』

 慌てるピートだったが、それほど長い時間を必要とはしなかった。

『ようし、外へ出・・・』

 しかし、壁を通り抜けて洞窟らしき場所にたどり着いた瞬間、

「たっ!?」

 何かに捕まったような感触とともに、強制的に実体化させられてしまった。

「・・・来ると思ってたわ。
 結界に気づかなかったの?」

 勘九郎が、その場に立っていた。

「ちょっとメンツが予想と違うね?」

 勘九郎の後ろから、グーラーも姿をあらわす。

「まあいいわ!」

 言うとともに、勘九郎は魔装術を展開させた。

『かかってらっしゃい!』
「先へは行かせないし、逃げることも許さないよ!」

 勘九郎とグーラーの言葉に、ピートも熱血する。

「二対二か、ちょうどいい!!
 勘九郎!
 美神さんのために殺してでも
 貴様を連れて行く!」
「令子ちゃんを〜〜救うのよ〜〜。
 みんな〜〜、お願い〜〜!!」

 珍しく冥子も怖がることなく、やる気満々だ。十二匹の式神を全部繰り出してコントロールする。
 しかし、これを見て勘九郎が不敵に笑った。

『あら・・・。
 そちらは大勢さんね?
 じゃあ、こっちも・・・。
 ゾンビ軍団のみなさーん!!』

 勘九郎の合図とともに、女ゾンビ軍団が出現した。
 すでに仮面が外れて、その不気味な顔をあらわにしている者までいる。
 冥子には、刺激がキツすぎた。

「き、きゃ〜〜〜〜っ!!」

 冥子がプッツンし、式神が暴走する。

『わっ、何!?』
「ちょっと、何よコレ!?」

 初めて目にするその勢いに、勘九郎やグーラーまでもが驚く中、

「すいません、冥子さん。
 ここはおまかせします。」

 ピートは、奥へ向かって駆け出した。


___________


「うまいっ、こらうまい!」
「うむっ、なかなかこれは・・・」
「タンパク質ジャー!!」

 横島、雪之丞、タイガーは、再び中華料理を楽しんでいた。
 少し早いが夕食である。

『あの・・・』

 彼らに意見する者も、ここにはおキヌしかいない。
 ピートと冥子が潜入した、あの後。
 残されたメンバーは、他にも入り口がないか調べようということになったのだが、そこで、

「二つに分かれて、手分けして探そう」

 と唐巣が提案したのだった。
 一つは、唐巣、エミ、ドクター・カオス、マリアの大人グループ。
 もう一つは、雪之丞、タイガー、横島、おキヌの若者グループ。
 唐巣としては、土地勘のある雪之丞に先導させたかったのだが、自分がいなければエミが素直に雪之丞の指図に従うとは思えなかった。それならば雪之丞をリーダーとして若者だけで一グループ作ってしまえばいい。彼らの修業にもなるかもしれない。
 そういう意図で班分けしたのだったが・・・。
 雪之丞に率いられたグループは、どこを調査するわけでもなく、真っ先にレストランに入ってしまったのだ。

『いーんですか、こんなことしてて・・・。
 冥子さんたちを助けるためにできることは・・・』
「ない!
 ま、せいぜい神さまにでも祈るこったな!」

 おキヌの言葉を、雪之丞がキッパリ否定する。

「ほへはほはへ
 はふひょーひゃはいは!?」

 モグモグと食べながら意見する横島の言葉は、意味をなさない。
 それはおまえ薄情じゃないかと言っているのだと理解したおキヌは、

『・・・説得力ないですよ・・・!』
 
 と苦笑したが、ここで雪之丞が口元に笑いを浮かべた。

「ピートにはこっそりお守りを持たせといた。
 心配はいらねーさ」


___________


「こ、これが・・・!!
 原始風水盤・・・!!」

 今、ピートの目の前には、白と黒の二色で描かれた大きな円盤があった。中央には、すでに問題の鉄針がセットされていた。

「こいつをはずして・・・」

 ピートが鉄針に手をかけたとき、警報が鳴り響いた。そして、

「うわあああっ!!」

 エネルギー波が飛来し、ピートを襲う。
 衝撃とともに、ピートは身体の自由を奪われた。
 続いて、

「・・・おーやおや、吸血鬼のボウヤ?
 勘九郎もグーラーも遊んでくれなかったの?」

 メドーサがあらわれた。

「メ・・・、メドーサ!!」
「あのコたちにも困ったもんねえ・・・。
 ま、私が相手してあげることを
 光栄に思いなさい・・・!!」

 メドーサの手に、魔力が集まる。その時、

『そうはいきませんよ、メドーサ!!』

 もうひとつ別の声が飛んできた。

「!?」
「誰だっ!?」

 ピートもメドーサもわからなかったが、直後、ピートは声の主に気がついた。その瞬間、

「呪縛がとけた!?」
『逃げるのよ、ピートさん!!
 早く!!』
「は、はいっ!!」

 声に促されるまま、ピートは体を霧と化し、近くの岩肌の隙間へと逃げ込んだ。
 一方、メドーサも、

「そうだったのか・・・!!
 どうもジャマが多いと思ったら
 奴のせいだったのね・・・!!
 おのれ・・・!!」

 ようやく、声の正体を理解していた。


___________


 その頃、冥子は、

「うーん〜〜。
 令子ちゃん・・・」

 すでに意識を失って、うわごとを呟いていた。
 その体には、重度のダメージが蓄積している。
 何体かの女ゾンビは、式神の暴走にも怯まずに冥子自身へ突撃したのだった。そして、冥子が気絶するまで殴る蹴るの暴行を加えたのだ。

「連れている化物は凄いけど、
 お嬢さん自身は、強くなかったわね」

 魔装術を解いた勘九郎が、冥子を見下ろしていた。

「女をいたぶるのは趣味じゃないのよ、
 すぐ楽にしてあげるから安心なさい!」

 とどめをさすつもりの勘九郎だったが、

「お待ち!
 殺すのはまだよ!
 そいつは人質にするわ!」

 そこへやってきたメドーサが、勘九郎を止めた。


___________


「どうやら・・・。
 雪之丞の依頼人は
 小竜姫さまだったようだな・・・」

 なんとか脱出したピートは、香港の夜の街を駆けていた。
 体はボロボロだが、右手には、問題の鉄針をシッカリと抱えている。
 ポケットの中のものを左手で取り出し、

「ポケットに彼女のツノが・・・。
 雪之丞が入れたのか・・・。
 おかげで脱出はできたが・・・」

 それを見つめながらつぶやくピートだったが、もはや限界だった。
 その場に膝をついてしまう。

「冥子・・・さん・・・。
 早く・・・助けに戻らないと・・・」

 ついにピートは、意識を失い、倒れ込んでしまった。


___________


「ピート・・・!!」

 ベッドに寝かされたピートに、エミがすがりついた。
 場所は、唐巣たちが宿泊するホテルである。

「冥子さんは、メドーサに捕えられたようです。
 奴らは『針』と交換を要求するかもしれません。
 ・・・だとしたらしばらくは無事でしょう」

 ツノから実体化して説明する小竜姫だったが、一同は混乱してしまった。

「小竜姫様さま・・・!?」
「何で小竜姫さまが・・・!?」
「ちょっ・・・一体全体・・・」
「冥子が捕まったって・・・!?」

 小竜姫が落ち着いて答える。

「今回の依頼人は私なんです。
 あなた方をまきこんだのは偶然ですが・・・」
「そ・・・そうだったのか!?」
「まーな」

 小竜姫は、頷いた雪之丞に対して、厳しい視線を向けた。

「それにしてもまずいやり方ね、雪之丞さん!
 計画はいきあたりばったり、ミスも多いわ!
 あげくに、冥子さんとピートさんを
 こんな目にあわせてしまって・・・!!」
「俺はもともと一匹狼でな、
 団体行動は苦手なんだ」

 土地勘や能力を考慮した上で、小竜姫は、美神や唐巣ではなく雪之丞を選んだのだ。しかし、雪之丞の性格までは把握しきれていなかったのである。

『どうして今まで
 姿を現してくれなかったんです!?』
「私は妙神山にくくられている神なので、
 山から離れて長く活動できません。
 こんな外国ではなおさらです」

 小竜姫は、おキヌの質問に答えた。
 これまでの事件で小竜姫が美神たちと行動を共にすることが出来たのは、それが日本国内であったからだ。東京ならば、山から離れた影響も、さほど気にする必要がなかったのだ。

「・・・だから、今、私にできるのは
 これぐらいしか・・・」

 小竜姫は、手に霊力を集め、それでピートにヒーリングを施した。
 ピートの意識が回復し、ベッドから飛び起きる。

「たっ・・・大変です!!
 メドーサの冥子さんがっ・・・!!
 地下は針だけはなんとか
 勘九郎からゾンビだらけ・・・!!」
「落ち着きたまえ、ピート君!!」

 そんな騒ぎの横で、

「・・・!
 どうやら香港での活動限界時間がきたようです」
『小竜姫さま、大丈夫ですか?』
「安心しな、メドーサとケリをつけたいんだろう?
 時間がきたら起こしてやるさ。
 うまくいったら日本GS協会の
 プラックリストから俺をはずす件・・・」
「・・・わかってます」

 小竜姫は、再びツノになって眠ってしまった。


___________


 その頃、メドーサたちのアジトでは、

「針をもう一度作り直すには少し時間がかかるわ。
 でも、その間に小竜姫が妙神山管理人を辞めて、
 自由に動けるようになるかもしれない・・・。
 そんなわけであんたを使って時間を節約したいのよ」

 メドーサが、人質の冥子に話しかけていた。
 冥子は、大きな土の板に塗り込められている。唐巣の教会で使われた土角結界と似ているが、その効果は若干違う。完全に土像と化した美神とは異なり、冥子の場合、土板からはみ出た顔や両手は、生身のままだった。

「むにゃむにゃ〜〜。
 にんじんキライ・・・」

 冥子はメドーサの話を聞いていなかった。寝言をつぶやいている。

「この状況で寝るか・・・?」

 勘九郎は呆れているが、メドーサとしては面白くない。

「えーい、起きんかっ!!
 自分の置かれた立場がわかっているのかえ!?」

 ハイヒールをグリグリと顔に押し付けてみたが、それでも冥子は目を覚まさない。
 メドーサは、冥子を相手にするのを諦めて、

「勘九郎! グーラー!」
「はッ!」
「はいよ!」

 二人に指示をとばした。

「明日は満月よ!
 原始風水盤は月の力で作動する。
 それまでに『針』を手に入れなさい!
 連中、すぐにここへ戻ってくるでしょうから・・・」

 メドーサは、勘九郎とグーラーに、それぞれ別の命令を与えるのだった。


___________


「・・・まだ先なのかい、その抜け道というのは!?」
「もうそろそろのはずなんですが・・・」

 唐巣たちは、地下鉄の駅から線路へと降り、壁際を歩いていた。
 ピートが、脱出の際に見つけた抜け道を目指して、一行を先導している。

「ドクター・カオス!
 ここから・霊気の反応・します!」

 マリアのセンサーが、入り口をカバーする部分を発見し、

「どいてろ!」

 雪之丞が、霊波砲で強引にこじ開ける。

「行くぜ!!
 みんな十分気ィつけろよ!!」
「なんでおたくが仕切ってるワケ!?」
「くっくっくっ・・・。
 戦える・・・!!
 全力で戦えるぞ・・・!!」

 エミが注意をしても、バトルマニアの血が騒ぐ雪之丞を止めることは出来なかった。
 雪之丞を先頭にして、みんなでゾロゾロと洞窟らしき通路へ入っていく。

「おい、見ろ!!」

 入り口近くに、大きな石像が鎮座していた。

「三つの頭を持つ地獄の番犬・・・」
「ケルベロスってワケね」

 唐巣とエミが、言わずもがなの説明をする。

「ここにある以上、
 ただの像じゃなさそーだなー!!」

 と雪之丞がつぶやいた瞬間、ケルベロスの目が輝き、一行に襲いかかってきた。

「さけんじゃねーっ!!」

 こちらの攻撃の一番手は、雪之丞。
 だが、ケルベロスは、その霊波砲を弾き返してしまう。

「よく見たまえ!!
 表面を妙な素材で覆っているぞ!!」

 唐巣の指摘を受けて、

「じゃあ、これはどうだ!!」

 横島がハンズ・オブ・グローリーで斬りつけたが、それでも効果はなかった。

「あらゆる霊的ダメージをハネ返すってワケ!?」

 その時、

「下がっておれ!!
 やれ! マリア!!」
「イエス・ドクター・カオス!」

 ドクター・カオスの声と同時に、マリアのロケットアームがケルベロスを攻撃する。
 三つの首のうちの一つに直撃し、根元から吹き飛んだ。

「そうか、物理攻撃には弱いってワケ!!」

 ケルベロスの動きが鈍った。
 反射コーティングは表面だけだったようで、首がもげたあとの断面は、別の色をしている。

「今だ!! みんな、あそこを狙え!!」

 唐巣の指示にあわせて、そこへ打ち込まれる霊的エネルギー。
 ケルベロスは、あっけなく爆散した。

「さすがにこれだけのメンツがそろえば、
 何とかなりそうだな?」

 安心した横島の気が緩んだ時、一振りの大刀が横島の背中めがけて飛んできた。

『危ない!! 横島さん!!』

 おキヌが叫んだ。しかし、横島の回避は間に合わない。 
 その時、マリアが横島をかばうようにして飛び込んだ。

 ドッ!!

 大刀がマリアを貫いた。

「マ・・・、マリア・・・!!」

 横島が、腹から刀を生やしたマリアを心配したが、

「アンドロイド・だから・平気。
 マリア・トモダチ・守る・・・」
「うわーっ、大丈夫じゃないぞ!!
 どうしてくれるんだー!!」

 マリア自身よりも、ドクター・カオスが慌てふためいていた。
 そこへ、

『メドーサさまお気に入りの横島を
 先に片づけたかったんだけどね・・・』

 すでに魔装術を展開させた勘九郎が、ゆっくりと姿をあらわした。


___________


『雪之丞・・・!!
 あたしの魔装術はあんたのより
 はるかに完成されてるわ!
 たくさんお友達つれてきたようだけど、
 それでも勝てないわよ?』
「・・・そいつはどーかな。
 俺も一度てめーとは本気で
 やってみたかったぜ・・・!
 だが・・・」

 雪之丞の手に霊力が集まる。

「これくらいのハンデはあってもいいよなっ!?」

 雪之丞が、横島のサイキック・ソーサーの要領で、集めた霊力を投げつけた。
 魔装術で来ると予想していた勘九郎は、一瞬、対処が遅れてしまった。
 勘九郎の右腕に直撃し、肘から先がポトリと地面に落ちる。
 いち早くその意味に気付いた唐巣が、指示をとばした。

「ドクター・カオス!!
 あれを持って、ここから離脱してください!!
 私の教会へ行って、美神くんを・・・!」
「ようし、まかせておけ!
 マリア、飛べるか!?」
「イエス・ドクター・カオス!!」

 勘九郎の右手とドクター・カオスを抱えて、マリアが飛ぶ。来た道を逆に辿って、この場を脱出するのだ。 

『逃がさないわよ!!』

 それを追おうとした勘九郎だったが、

「てめーの相手は、この俺だ!!」

 魔装術を展開させた雪之丞が勘九郎に突撃していく。
 両者激突の後、

『・・・前のあんたより、
 はるかにマシになったようね・・・!!』

 と声をかける勘九郎は無視して、雪之丞は、一同を振り返った。

「ここは俺にまかせて、おまえたちは先に行けーっ!!」

 唐巣神父が、ゆっくりと頷いた。

「行こう、みんな!!」

 そして、奥へと向かって駆け出した。
 横島、おキヌ、エミ、タイガーもそれに続く。
 走りながら、唐巣は、

(頼んだよ、雪之丞くん。
 ・・・そしてピート君!!)

 心の中で声援を送っていた。
 ピートがついてきていないと、分かっていたのだ。
 一方、そのピートは、

「・・・さすがに一人では手に余るでしょう。
 僕も助太刀します」

 雪之丞の背後から、静かに声をかけていた。

「すまんな。
 ・・・試合のときは、悪かったな」
「・・・わかっています。
 あなたの意志ではなかったのでしょう?」

 そんな二人に対して、

『友情ゴッゴも、そこまでよ!!』

 勘九郎の霊波砲が襲いかかった。
 雪之丞とピートは、左右に飛んで、それをかわす。
 二人が飛んだ先は洞窟の壁だ。そのまま壁を蹴って、その勢いをのせて勘九郎を挟撃した。

「ダブルGS・・・キーック!!!」


___________


 一方、先へ進んだ唐巣たちは、地面から湧いて出た無数のゾンビに襲われていた。しかし、

「聖なる父、全能なる父、永遠の神よ!!
 ひとり子を与え、悩める我らを
 破滅と白昼の悪魔から放ちたもうた父!!
 ぶどう畑を荒らす者に恐怖の稲妻を下し、
 この悪魔を地獄の炎に落としたまえ!!」

 唐巣の攻撃で、一度に何体ものゾンビがダメージを受ける。

「唐巣のおっさんも意外とやるわね・・・」
「エミさんの霊体撃滅波なみジャノー」

 エミとタイガーが、唐巣の実力に感銘を受けている間に、唐巣が振り返って指示を出した。

「横島くん!!
 君は小竜姫さまのツノを持って、
 メドーサのところへ行きたまえ!!
 ここは私たちで食い止める!!」

 メドーサを何とか出来るのは小竜姫しかいない。唐巣は、そう考えたのだ。

「はい・・・!!」

 横島とおキヌが、奥へと走り出す。
 止めようとして横島へ向かうゾンビもいたが、

「唐巣のおっさんばっかり
 おいしいとこもってかせないわよ!!」
「わっしも頑張りますジャー」
「・・・その調子だよ、君たち!!」

 エミ、タイガー、唐巣の三人が、それを迎え撃った。


___________


 その頃・・・。

『例のモノ見つけたよ、
 オネエサン!!』

 メドーサは、グーラーからの電話を受けていた。
 勘九郎には侵入者の迎撃を命令していたが、同時に、グーラーには、彼らの宿泊先を調べるように指示しておいたのだ。メドーサの作戦通り、今、グーラーがホテルで『針』を見つけたのだった。

「よくやったわ!
 すぐに戻りなさい!!
 『勝手口』は今とりこんでるから
 『表口』から入ってきてちょうだい!」

 月が昇るまでには、まだ時間がある。間に合ったのだ。

「ハハハ・・・。
 これで私の勝ちだね!!」

 と、メドーサが勝ち誇った時。

 ビュッ!!
 
 何者かの拳が、メドーサの顔をかすめた。

「え・・・!?」
「まだよ、メドーサ!!
 おまえのしたこと、私が裁いてやるわ!!」

 小竜姫が、そこに立っていた。

「しょ、小竜姫・・・!?
 どうしてここまで・・・」

 一瞬、動揺するメドーサだったが、すぐに、小竜姫の背後の人影に気がついた。

「やはり貴様か・・・。横島!!」
「へ・・・へへ・・・。
 助けに来ました・・・!
 まずは、こっちの『おひめさま』っスね!」



(第十四話「復活のおひめさま」に続く)
 


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