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復元されてゆく世界

第十話 三回戦、そして特訓


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:07/12/27

  
「勝者、ピエトロ・ド・ブラドー!!」

 ピートも二回戦を勝ち抜き、GS資格を取得した。
 
「きゃーっ!!
 ピートー!!」

 ピートに対してあからさまに好意を示しているエミは、今日も、応援席から黄色い声を飛ばしていた。
 おキヌも同席しているが、彼女はピートに対して個人的な思い入れはない。
 そこへ、

「エ・・・エミさん・・・」

 傷だらけの男がやってきた。タイガーである。

「ま、負けてしもーたです・・・!!」
「タフなだけがとりえのおたくが・・・!?」

 タイガーは自分の助手なのだが、彼の試合など全く見ていないエミであった。

「つ・・・次の横島さんの相手・・・、
 神宮ランって女性・・・。
 ありゃあとんでもないですケン・・・!!」



    第十話 三回戦、そして特訓



 治療を受けたタイガーは、おキヌとエミに対して、神宮ランとの対戦を物語った。

「彼女には、わっしの精神感応が
 全く通用しなかったですケエ!」

 ジャングルの幻覚を見せて、自分の姿も消したはずだったのに、神宮ランは、まっすぐタイガーへ向かってきたのである。
 しかし、それでも、タイガーが慌てることはなかった。
 実はタイガーは、神宮ランの一回戦をちゃんと観戦していたのだ。女性と対戦するのであれば、心の準備も必要だったからだ。
 一回戦の彼女の相手は、タイガー以上の大男だった。パワー志向の蛮玄人である。10%の力で勝負するなどと蛮玄人が大言壮語している間に、神宮ランはスタスタと歩みより、霊力を込めたショールで払いのけた。弾き飛ばされた蛮玄人は、この一撃でノックアウトだった。

「わっしも大男ということで、
 同じ戦法でくるだろうと予想しとりましたんジャー!!」

 予想通りショールの一撃をくらったタイガーだったが、蛮玄人などとは鍛え方が違う。叩き飛ばされることもなく、その場に踏みとどまった。
 耐えきる自信があったからこそ、敢えて一発受けてから反撃しようと考えたのだ。攻撃の直後ならば隙も出来るだろうと思っていた。
 しかし、反撃する余裕などなかった。
 霊力をこめて叩き付けられたはずのショールは、直後、その硬度を失う。ショール特有の柔らかさで、ふわりとタイガーの体に巻き付く。顔まで覆われて、視界も体の自由も奪われてしまった。
 そして、霊力を込めた膝蹴りがタイガーのみぞおちにぶち込まれた。それでも倒れずに、こらえたタイガーだったが・・・。
 体をくの字に曲げたところで、背中への肘うち! 
 顔が上がり気味になったところで、顔面へのパンチ!
 体がよろめいたところで、再び、みぞおちへの膝蹴り!
 タイガーが倒れるまでずっと、霊力を乗せた打撃が、体のあちこちに連続して打ち込まれたのだった。

『そんな・・・』

 タイガーの話を聞き終えて、茫然とするおキヌ。彼女が試合場へ目を向けると、

「次は三回戦、横島選手対神宮選手!!」

 ちょうど、二人の試合が始まるところだった。
 

___________


「ううう・・・。
 ハダカのネーチャン・・・」

 タイガーの敗戦など知らない横島にとって、神宮ランは、単なるえっちなねーちゃんに過ぎなかった。
 二回戦の九能市氷雅も色っぽかったが、神宮ランは、その比ではない。上半身など裸同然、これはもうフェロモンのかたまりだ。

(オイシイ!!
 こんなオイシイ思いをして、いいのだろうか!?)

 横島がそう考えているところへ、

「ふふ・・・。
 おいしそうね、ボウヤ」

 神宮ランが、ますます横島をその気にさせるような言葉を投げかけた。

「うおーっ!!」
「試合開始!!」

 横島は、ややフライング気味に、神宮ランへと飛びかかっていく。

『横島さーん!!
 ダメー!!』

 観客席からおキヌが叫ぶが、今の横島の耳には全く届かない。
 横島が神宮ランへ抱きつこうとした瞬間、

「ハーイ!!」

 神宮ランは、横に一歩飛んでかわす。しかも、ショールを闘牛士のマントのように使って、それで横島を包み込んでしまっていた。

「お!?」

 二回戦のタイガー同様、視界を奪われた横島。それでも、本能で神宮ランの方へ向かい、彼女に抱きついた。

「ふーん、やるねえ!!」

 密着する横島を引きはがそうともせず、神宮ランは、横島のみぞおちに膝蹴りを叩き込む。
 それでも横島は倒れない。神宮ランから体を離そうともしない。

「ふふ・・・。
 それでこそ、あたしの獲物だよ!!」

 嬉しそうな表情のまま、横島に打撃を加える神宮ラン。みぞおちへの膝蹴りに加えて、背中への肘うち、顔面へのパンチなど、タイガーにしたのと同様のパターンだ。
 しかし、横島には全く効果がない。それどころか、

「ぐふふ・・・」

 ショールの中から聞こえる横島の声は、むしろ満足しているかのようだった。

(やわらかい・・・。
 気持ちいい・・・)

 ショールで包まれた横島だったが、何とか両手だけは外へ抜け出させている。左手は、神宮ランの尻へと伸びていた。右手は、背中から回すような形で、バストのすそに少し触れていた。この両手に伝わる感触が横島を満足させ、また、煩悩エネルギーを高めているのだった。

(これくらいの痛み、
 いつもの美神さんのに比べれば・・・)

 両手の感触だけではない。神宮ランの攻撃までも、横島は楽しんでいた。攻撃のたびに密着する手、膝、肘。それらの感触もまた、どこか心地よかったのである。
 いつも美神にシバかれているから自分は打撃に慣れているのだ。だから大丈夫なのだ。
 横島は、そう思っていた。
 だが、もちろん、そんなわけはない。日頃いくら美神が霊力をこめてシバいているとはいえ、さすがに100%の力を入れているわけではない。今の神宮ランの霊打のほうが断然レベルは高いのだ。
 それでも横島が耐えられてしまうのは、攻撃を受ける場所に意識を集中するからであった。『心地よい』と思ってしまうが故に、そこに意識を向けてしまう。そして、煩悩エネルギーにより霊力が十分高まった横島が意識を向けたところには・・・。
 霊力が集まって、そこに、うっすらとした盾を形成しているのであった。
 つまり、横島は、無自覚の霊的防御をしていたのである。
 しかも、美人と体を密着させていることで、そのエネルギー源は無限に近い。さらに、この状態を続けたいからこそ、倒れて終わりになってしまうのは避けたいからこそ、無意識の防御も的確に発揮されつづけているのだ。

「えーい、面倒だね!!」

 このままではラチがあかないと思ったのか、神宮ランは、戦法を変えた。
 抱きついている横島の両手を引きはがし、横島を蹴り飛ばしながら、その反動で後ろへ飛ぶ。
 距離をとったのである。

(ええ・・・!?
 もうサービスタイム終わり!?)

 はたから見れば攻撃から解放された立場の横島なのだが、その表情は暗かった。残念なのである。
 横島は、体に巻き付いていたショールを投げ捨てた。ここで、

『よく耐えきったな』

 額のバンダナが、目を開いた。

「あ、おまえ、いたのか」
『なんだ、その態度は!!
 わしは今まで、前の戦いで
 おぬしが放出したエネルギーを
 たくわえておいたのだぞ』
 
 すでに、エネルギーは十分たまっている。

『タイミングを見計らえ!!
 こちらから行くぞ!!』
「え!? あ、うん」

 バンダナに言われるがまま、神宮ランへ向かって駆け出す横島。

『ショールがなければ、
 さっきのような戦い方は出来まい!!』

 バンダナの意思にあわせて、横島は、殴るかの素振りで右の拳を振りかざした。だが、これは牽制。拳には霊力はこもっていない。
 神宮ランが、それに対処しようと身構えた瞬間、

『今だ!!』

 横島のバンダナから、強力な霊波が放射された。
 直撃すればタダではすまない威力だったが、

「フン!!」

 神宮ランは、踊るようにして腰をくねらせ、最小限の動きでかわしてしまった。
 そして、向かってくる横島に対して、霊力をのせたパンチを叩き込む。

「うわっ!!」

 横島自身も勢いがついている。避けられない。
 横島は、咄嗟に、大きく開いた左手を前に突き出した。霊力がそこへ集中する。

 ギン!

 その手の平には、ハッキリとした形の盾が浮かび上がり、神宮ランの攻撃を防いでいた。
 横島の必殺技の一つ、サイキック・ソーサーの誕生である。

「横島選手、タテのようなもので攻撃を防いだーっ!!」
「煩悩エネルギーを一点に集中して
 小さなバリアーをつくったあるよ!!
 さっきまでの攻撃も、あれで食い止めていたあるな!!」

 ショールに隠された攻防の際も、横島はこれを使っていたのだろう。
 実況席や観客たちは、そう勘違いしていた。
 神宮ランも、横島のサイキック・ソーサーを警戒し、後ろへ飛び下がる。

「フフフ・・・。
 いくら攻撃しても、
 それで弾いちまうってわけかい!?」
 じゃあ、これはどうかな?」

 横島から距離をとった神宮ランは、突然、腰をくねらせて踊り始めた。軽やかなステップをふみ、腕もリズミカルに動かす。体を回転させることまでしている。音楽こそなかったが、かなり本格的なベリーダンスだった。

「今なら・・・。
 隙だらけ・・・かな?」

 苦笑するような口調で呟く横島だが、表情は違っていた。神宮ランのダンスに魅了されて、目をギンギンとさせている。

『気をつけろ!!
 奴のエネルギーが上がっておるぞ!!』

 バンダナの言うとおりだ。踊っている間に、神宮ランの霊力はグングン高まっていた。
 しかし、彼女だけではない。横島の霊力も上昇している。悩殺されればされるほど、煩悩エネルギーもアップするからだ。

「神宮選手と横島選手、すごい霊力です!!」
「こりゃあ、次の一撃で勝負が決まるある!!」

 実況席も観客も、二人に注目している。

「ハーッ!!」

 突然、神宮ランの踊りが止まり、そのエネルギーが一気に全身から放射された。

「あんなカッコで踊って、チャージした霊力を・・・。
 何あれ? 霊体撃滅波のパクリなワケ?」
『肌の色まで似てますね』
「エミさん、キャラ被ってますノー。
 しかも、あっちの方が色っぽ・・・」

 観客席では、余計な発言をしたタイガーがエミに殴られたりしている。
 一方、そんな騒ぎとは無関係に、横島も、

「うおーっ!!」

 額のバンダナから霊力を打ち出していた。
 二人のエネルギーが中央でぶつかり合い、相殺される。
 飛び散る余波を、横島はサイキック・ソーサーで、神宮ランは素手ではねのけた。
 激突の後の短い静寂。
 その間に、神宮ランは、

(もう十分だろうねえ。
 ここいらが潮時なんじゃないかい!?)

 内心の思いをのせて、視線を二階の応援席へ向けた。
 応援席の一番奥で壁を背にして立っている女性が、それに応えて小さく頷く。
 了承を確認した神宮ランが笑い出した。

「ハハハ・・・、やってらんないね。
 もう疲れたよ、あたしゃ」

 その場に倒れ込み、きれいな大の字になった。

「え・・・!?」

 そんな神宮ランを見て、横島は戸惑ってしまう。
 神宮ランの行動はギブアップに近いのだが、本来、三回戦以降はギブアップは認められない。
 それでも、審判は、これをノックアウトとみなしてくれた。

「勝者、横島!!」

 横島の勝利が確定した後で、神宮ランがヒョイと起き上がる。

「なかなか楽しかったよ、ボウヤ。
 今度また、遊ぼうね」

 彼女は、横島に投げキッスをしてから、その場を立ち去った。
 出口へ向かう途中で、神宮ランは、ふと顔を上げた。

「色々とわかったよ。
 フフフ・・・」

 その視線を、再び、二階の応戦席の奥へと向けたのである。
 壁際でこれを受け止めていた女性は・・・。
 メドーサだった。


___________


「・・・試合は!?」
「どうやら三回戦のようですね・・・」

 小竜姫と唐巣神父が、応援席へと入ってきた。白龍会などの調査を終わらせてきたのだ。
 入り口近くに立ちすくむ二人に、左手から声がかかる。

「遅かったわね、小竜姫」

 小竜姫には聞き覚えのある声だった。

「メ・・・、メドーサ!?」
「ふふふ・・・。
 そんなに怖がることなくてよ。
 私は試合の見物に来ただけなんだから」

 平然と言ってのけるメドーサだが、もちろん小竜姫は信じない。

「お前がGSに手下を送りこもうと
 してるのはわかってるのよ!
 白龍会の会長を石に変えたわね!?」

 小竜姫がメドーサに迫った。二人は対照的な表情を浮かべている。

「何のことかしら?
 GSが妖怪にやられるのは
 よくあること・・・。
 なんの証拠になるの?」
「お前を斬るのに証拠など必要ありません・・・!!
 御仏の裁きを受けなさい!!
 メドーサ!!」

 小竜姫の手が、腰の神剣へと伸びる。
 しかし、

「いかん!!
 ここでは・・・!!
 小竜姫さまっ!!」

 常識人の唐巣神父が、冷静に状況を把握して、小竜姫を制止した。
 唐巣の想定通りの言葉が、メドーサの口から紡ぎ出される。

「くっくっくっ・・・。
 ここでやるなら相手になるわよ。
 ただし・・・、何人死ぬかしらね?
 私は人間をタテにすることなんか
 何とも思っちゃいないのよ」
「ぐ・・・!!」

 会場に視線を向ける小竜姫。
 悔しいが、ここはこらえるしかない。

「ほーほほほ!!
 私はよくても、あんたは困るわよねー!?
 私を目の前にしても
 お前には何もできないのよー!!」

 憤怒の表情を見せながらも自重している小竜姫。その様子が面白いのであろう、ここぞとばかりにからかうメドーサである。
 そこへ、もう一人の人物が現れた。

「オネエサンたち、楽しそうね。
 あたしもまぜてくれる?」

 試合を終わらせてきた神宮ランである。
 彼女に対して、

「危ないから下がっ・・・」

 と口にしかけた唐巣神父だったが、すぐに、その目を細めた。

「君は・・・。
 メドーサの知りあいかね?」

 言いながら、神宮ランとメドーサの両方を見るが、その表情は読めなかった。

「メドーサ?
 あたしには『芽堂サー』って名乗ったじゃない。
 偽名だったの?」
「偽名じゃないよ。
 源氏名ってやつさ」

 二人は冗談を交わしている。
 その様子を見て、少し冷静になった小竜姫が何かに気づいた。

「あなたも人間ではないですね?
 うまく化けているようですが、
 私の目はごまかせませんよ?」
「ええ!?
 この女性も!?」

 唐巣でさえも気づかなかった事実を指摘してみせた。

「あいつらの『変化のコロモ』とやらも、
 小竜姫には通用しないか・・・」

 メドーサがポツリともらした横で、

「正体を見せなさい!!」

 小竜姫が神宮ランに詰め寄った。

「フフフ・・・」

 ポンッという音と同時に、神宮ランの周りに煙が立ちこめた。
 煙が晴れたとき、中に立っていた彼女の姿は、あまり変わっていなかった。
 ショールやヒップスカーフなど、アクセサリーの一部が消え去っただけだ。肌の色も若干変わったが、露出度は変わらない。胸を申しわけ程度に隠していたアクセサリーは消えたが、刺青のような模様が肩からのびてバストトップを覆っていた。
 しかし、顔には明らかな変化が見られた。髪型は同じだが、その間から、額に生えた二本のツノが小さく姿をのぞかせている。少し尖った耳も、あからさまに人外のものであった。

「食人鬼女!! グーラーか!!」

 唐巣神父は、その姿を知っていた。直接会ったことはないが、書物の上での知識も豊富な唐巣である。

「ご名答。
 これでGS資格も取り消しだね。
 でもいいさ。
 そんなもん、あたしゃいらない。
 ちょっと遊んでみたかっただけだよ、
 うわさの横島ってボウヤと、さ。
 ・・・ね?」

 グーラーは、メドーサに向かってウインクしてみせる。

(GS資格もいらない・・・?
 メドーサが送り込んだわけではないのか?
 いや、白龍会の三人をサポートするため?)

 色々考えてしまう唐巣神父だったが、とりあえず、この場をおさめることが先決だ。

「あっそーだ、
 飲みもの勝ってきましょう!!
 何がいーですかっ!?」

 と言ったところ、

「オレンジ!!」
「ウーロン茶!!」
「コーヒー!!」

 三人から注文されて、廊下へと消えていく唐巣神父であった。


___________


「げっ・・・!? メドーサ・・・!?
 な・・・何がどーしちゃったの!?」

 応援席の奥を見やった美神は、ピリピリした雰囲気の小竜姫たちに気がついた。

「私たちは奴の計略にはまったよーだ。
 白龍会がメドーサの手下だとはわかったが、
 何ひとつ証拠がない」

 唐巣神父が応える。彼は、飲み物を買いにいく途中で、美神のもとへ立ち寄っていたのだ。
 唐巣神父は、まず、美神に白龍会の様子を報告した。道場の寺には妖気が立ちこめており、メドーサの使い魔であるビッグイーターがたむろしていた。しかも、中では白龍会の会長が石にされていたのだ。
 殺すのではなく、記憶を消した後で石にする。それこそ、小竜姫たちを引きつけて時間を浪費させるための罠だった。それを察知して会場へ飛んできたところまでは、小竜姫も冴えていたのだが・・・。
 今では、完全にメドーサに翻弄されている。

「あいつめ、我々をからかって楽しんでるんだ」
「もう一人いるみたいね?
 あれって、ひょっとして・・・」

 メドーサの傍らに控えている女性。この距離からでも、見覚えのある姿だと認識出来た。

「ああ、白龍会の三人以外にも、
 手下を送り込んでいたらしい。
 グーラーを人間に化けさせて、
 潜り込ませていたんだ」

 唐巣神父の言葉に、その場にいたエミも驚く。

「グーラー!?
 そんなのが紛れこんでたワケ!?
 タイガーがやられるのも、無理ないわね・・・」
「フン。
 うちの横島クンは、あれに勝ったわよ!?
 やっぱり師匠の実力は弟子にも反映するわねっ!!」
「何ですって!?
 あんなの、向こうの試合放棄なワケ!!
 弱すぎて見逃してもらったくせにっ!!」

 いつもの口喧嘩を始める二人。
 ここでも唐巣神父が仲裁役に回る。

「二人ともやめたまえ!!
 そんな場合じゃないだろう」

 そして三人は相談を始めた。
 いくらここには霊能者が大勢いるとしても、人間がメドーサと直接やりあったら、犠牲は大きいだろう。メドーサのことは小竜姫にまかせて、三人の資格を剥奪することに専念するべきだ。

「あの通り正体を見せたから、
 『神宮ラン』の資格は無効にできるだろう」
「ジンの一種のグーラー、
 だから『じんぐうらん』とは
 安直なネーミングね」
「そこはこだわるポイントなワケ!?」

 あらぬ方向に逸れそうになった会話を、

「まぜっかえさないでくれたまえ!!
 問題は白龍会の受験者だ。
 一人は美神くんのおかげで不合格となったからいいが、
 あとの二人、鎌田勘九郎と伊達雪之丞を何とかしないと」

 唐巣神父が軌道修正した。

「連中に自分の口からメドーサの手下だと
 自白させるしかないわね」
「自白!?
 そんなことできるのかね?」

 美神が、何やら策を練る。

「悪魔や妖怪と裏でつながってるGSなんかを、
 世の中に放すわけにはいかないわ!
 私にまかせて!」

 格好良く言いきった美神であったが・・・。
 美神の計画は、いきなり崩れてしまった。
 三回戦、ピエトロ・ド・ブラドー対伊達雪之丞。ここで雪之丞をコテンパンに叩きのめすはずだったのだが、ピートのほうが負けてしまったのだ!!


___________


「あんな嘘まで吹きこんだのに・・・」

 美神が、試合前の一コマを回想する。
 彼女はミカ・レイの姿でピートに接触し、

「唐巣先生があいつの不正を調査中、
 魔物に襲われて・・・。今夜が峠だそうよ。
 あなたには知らせるなって。
 ツノのある女のコが美神令子と
 話してるのを聞いちゃったの・・・」

 と、作り話を聞かせたのだった。ピートの怒りを煽るためだ。
 横島は横島で、その試合の勝者が自分の四回戦の対戦者だと知ったために、

「勝て、ピート!!
 男の約束をしろっ!!
 次の試合、お前と戦えるのを楽しみにしてるぜ!!」

 と、ピートの熱血心をくすぐっていた。もちろん本音は

(ピートが相手なら俺はケガせずに
 円満に負けさせてもらえる・・・!!)

 だったのだが。
 二人の言葉もあって、ピートは奮闘した。唐巣神父仕込みの神聖なエネルギーを用いた攻撃だけでなく、吸血鬼本来の能力に目覚めて、体を霧化させることまでしてみせたのだ。
 しかし、それでも伊達雪之丞の魔装術を圧倒することはできなかった。
 彼の魔装術は陰念のものとは違い、霊体をヨロイとしてほぼ完全に物質化していた。エビやザリガニを思わせるような硬質のヨロイ。至る所にトゲ状の小さな突起も付随していた。
 互角の戦いを繰り広げた二人だったが・・・。
 最後にはピートの敗北で幕を閉じたのである。

 そして、今。
 一同は、救護室に集まっていた。

「雪之丞をここへ送りこむはずが・・・。
 とんだことになっちゃったわね」
 
 ベッドに寝かされたピートを囲んでいるのは、美神、横島、唐巣神父、おキヌ、エミ、タイガー。さらに、救護班として待機していた六道冥子が、その式神に心霊治療(ヒーリング)をさせていた。

「ここだけ他のキズと違うわ・・・?
 雪之丞の攻撃とは質の違う霊力によるダメージ・・・!!」

 ピートの足に触れたエミが、異常に気がついた。
 それに反応して、

「そういえば、あんた・・・。
 結界に穴がどうしたとか・・・」
「い、いや、はっきりとは
 わかんなかったんですが・・・」

 美神が横島を振り返る。
 彼らは詳しく知らないが、この傷は、鎌田勘九郎が結界内へ投げ込んだイヤリングによるものだ。イヤリングは、その後すぐに自動消滅しているから、誰にも分からない。しかし、投げ込まれた瞬間、結界に開いた僅かな穴。その穴に、横島だけは気づいたのだった。

「審判に抗議しよう!!
 こんなことが・・・!!」
「無駄よ、先生!
 証拠がないわ!」

 ピートは唐巣神父の弟子である。そのため、今の唐巣神父は、少し冷静さを欠いていた。美神が、なだめ役に回る。

「まだチャンスがなくなったわけじゃないわ。
 雪之丞か勘九郎のどっちかを叩きのめして
 ここへ連れて来るのよ!
 横島クンのシャドウで
 メドーサのこと白状させてみせるわ!」
「え? 俺っスか!?」

 話を振られて、焦る横島だが、

「あんたのシャドウなら、
 メドーサの幻を作ることもできるでしょ。
 ニセのメドーサ相手に喋らせれば、
 あいつらだって口をすべらせるはずよ」

 美神は、横島を落ち着かせるように、笑顔で説明した。
 
「いい?
 横島クンは計画の要になるんだから、ここで待機。
 雪之丞と戦う必要なんてないわ。
 棄権しなさい」
「え?」
「そうだね、その方がいい。
 もともと小竜姫さまの依頼で
 私たちが始めた仕事だ」

 美神の言葉に、唐巣神父も賛同する。

「GS資格は失っちゃうけど・・・。
 ここまでよくやったわ。
 『ある程度進んでくれないと』
 って言ったけど、私の期待以上に勝ち進んでくれた。
 正直、見直したわよ。もう十分でしょ?」

 美神が横島に向けた表情は、笑顔ではないものの、今まで見せたことがないような優しさにあふれていた。

「・・・!」

 美神の態度に少し戸惑う横島だったが、その耳に、

「先生・・・!
 横島さん・・・!
 すみ・・・ません・・・」

 ピートのうわごとが入ってくる。
 それが、横島に決意させるキッカケとなった。
 これまで、横島の心のなかでモヤモヤとたゆたっていたもの。それが、ピートの言葉で、形を成したのだ。

「美神さん・・・。
 俺、雪之丞と戦います」

 横島の一言に、その場の全員が凍りついた。中には、

(カッコよすぎる・・・。
 変なものでも食べたのでは・・・?)

 なんて思っている者までいた。
 その静寂を破ったのは、美神である。

「バカ言ってんじゃないのっ!!
 相手はメドーサの手下なのよ!?
 あんたみたいなドシロートじゃ
 ケガじゃすまないのよっ!?」

 堰を切ったように、他のみんなも美神に続いた。口々に横島を諌める。

「そうだ、美神くんの言うとおりだ。
 無理だ、やめたまえ」
「何!?
 グーラーに勝ったからって
 調子にのってるワケ!?」
『横島さん、死んじゃいますー!!』
「凄いわ〜〜。
 令子ちゃんに逆らうなんて〜〜」
「わっしだけ取り残さないでほしいノー。
 来年またいっしょに受験するんジャー!!」

 さらに美神がたたみかけた。

「もしかして、あの霊気の盾で戦うつもり!?
 あれこそ危険なのよ!!」

 霊力を小さく絞り込めば、どんな攻撃もかわせる硬いバリアーになるかもしれない。しかし、逆にほかの部分は、一般人以下の防御力すらなくなってしまう。誰しも体にいくらか霊的エネルギーを帯びているはずなのに、それをどこかに集めてしまえば、大部分が無防備となるのだ。

「あんな作戦じゃ本当に死ぬわっ!!」

 半ば取り乱すようにして、横島に詰め寄る美神である。
 しかし、横島は冷静に、

「美神さん・・・。
 ありがとうございます、心配してくれて。
 でも、カッコつけたいとか、
 勝算があるからだとか、そんなんじゃないんです」

 と返す。そして、フッと遠くを見上げるような表情を見せてから、言葉を続けた。

「戦って負けるならまだしも、
 こんなところで逃げちゃいけない。
 ただ、そう思っただけなんです。
 ここで逃げてたら、この先・・・」

 バシッ!!

 横島の言葉を阻むかのように、美神の平手打ちの音が鳴り響いた。

「勝算はない!?
 逃げちゃいけない!?
 むざむざ負けると分かってるイクサに、
 うちの人間を送り込めるわけないでしょう!!
 そんなの美神流の戦いじゃないわ!!」

 美神に叩かれた横島は、ハッとしたような顔をしていた。
 別に美神の言葉に感銘を受けたわけではない。美神に叩かれたことそのもので、いつもの自分を取り戻したのである。

「えっ!? 
 あの、俺・・・。
 うわーっ!!」

 取り戻し過ぎた。
 ふと気がついてみると、目の前には、もの凄い形相の美神が立っているのだ。もはや、その迫力に勝てる横島ではなかった。

「ごめんなさーいっ!!」

 走って逃げ出してしまった。

「・・・バカ。
 私は試合があるから、誰か、
 あのバカを捕まえてきてくんない!?
 あんなバカでも、作戦には必要なんだから」

 ヤレヤレといった態度を見せる美神。彼女は、最後に横島の表情が変わったことに気づいていた。

(いつもの横島クンに戻ったわね。
 もう大丈夫だわ・・・)

 美神は安堵していたのだ。
 そんな美神を見て、おキヌも安心している。

『じゃあ、私が・・・』

 横島を探しに行こうと立候補したのだが、エミに遮られた。

「私が行くワケ!!
 冥子、ピートをお願い!!」
「まかせて〜〜」

 冥子の返事を背にうけて、エミは救護室をあとにした。


___________


「ああ怖かった。
 俺、なんであんなこと言っちゃったんだろ?」

 横島は、近くの公園まで走ってきていた。
 金網にもたれかかって、誰にとはなく問いかけたのだが、答えが返ってきた。

『立派だったぞ、おぬし。
 わしも手伝ったかいがある』
「うわっ!!
 おまえ、あれ聞いてたのか」

 さきほどの自分の言葉を思い出し、少し恥ずかしくなった横島だが、ふと違和感を抱いた。

「・・・ん!?
 『手伝ったかいがある』って、
 もしかして、あれ、
 おまえが言わせたのか!!
 コンニャロー!!
 きさまのせいで、美神さんに・・・!!」
「勘違いするな!!
 わしが手伝っているのは、
 おぬしの戦いだけだ。
 わしはそなたの精神エネルギーをコントロールし、
 100%活用するためのアイテムだ!
 それ以上でも以下でもない。
 そなたの感情や意思に干渉する力はないぞ」

 即座にバンダナに否定されて、横島は、再び考え込む。

「そうか・・・。
 じゃあ、あれが本当の俺!?
 結構カッコいいこと考えてるんだな」

 冗談半分、口にしたのだが、

「うむ。
 おぬし、表面ではチャラチャラしているが、
 内心ではシッカリとした意思をもっておるのであろう」

 バンダナに肯定されてしまい、かえってテレが増す。そこへ、

「そうよ。
 ちょっとカッコ良かったワケ」

 エミが追いついてきた。

「う・・・、エミさん!?」

 美神からの追手だ。そう思って焦る横島だが、エミは笑顔を浮かべている。

「安心していいワケ。
 私はおたくのミ・カ・タ」

 エミは、横島の背中に回り、その肩に手をかけた。自らの豊かな胸を横島の背中に押し付け、さらに耳に息を吹きかける。

「あああっ!
 まただー!!
 おっぱいが背中ああ。
 いや耳に息ああああ」
『うむ。いいぞ。
 こやつの霊力が上昇しておる』

 横島は、以前の経験(第五話「きずな」参照)を思い出し、嫌な予感にとらわれた。一方、バンダナは、横島の霊力が上がったことを純粋に喜んでいる。

「・・・難しいことは言わないわ。
 ただ、おたくのしたいようにして欲しいワケ」

 横島の耳に、エミの誘惑がささやかれる。

「嘘だー!!
 絶対ウソだー!!
 なんか企んでるんだーっ!!」

 口では否定する横島だったが、頭の中では、色々と妄想してしまう。

   ベッドに横たわるエミ。すでに下着姿だ。

  「ピートじゃだめなワケ。
   やっぱり人間じゃないと・・・」

   色っぽい目付きを横島に向ける。

  「お願い・・・。
   早くして、早く・・・」

   そう言って、ブラジャーに手をかける・・・。

「うおーっ!!
 エミさーん!!」

 くるりと反転し、エミに飛びかかったのだが、サッと避けられてしまった。

「・・・あれ!?」
「もう煩悩エネルギーも十分たまったでしょう?
 これで雪之丞との戦いも大丈夫なワケ」
「・・・え?」
「雪之丞と戦いたいのよね、
 それが『おたくのしたいこと』でしょ?」
「そんなこったろーと思ったよチクショー!」

 横島が泣き叫ぶ中、バンダナがエミと会話する。

『すまん、エミどの。
 おかげで煩悩エネルギーは満タンだ!
 これでも雪之丞とやらに
 勝てる保証はないがな』
「それくらい私にもわかってるワケ。
 エネルギー補充だけなら、
 そのこらへんでノゾキでもさせておけば十分。
 何のために私が来たと思ってるワケ?」
『・・・どういうことかな?』

 答える代わりに、エミは、横島を引きずって歩き始めた。
 人のいない広場まで来たところで、宣言する。

「特訓よ!!」

 同時に、横島に向かってブーメランを投げつける。エミが常用している武器だ。

「ひえー!!」

 かろうじて避けた横島に対して、エミは語りかけた。

「私としては、ピートのカタキをとって欲しいワケ!!
 そのための特訓として、ここで私と戦ってもらうわ!!」

 エミの意図を理解し、バンダナが補足する。

『なるほど・・・。
 戦うことで力を引き出すつもりか。
 こやつの力試しも兼ねているのだな』
「そういうワケ!!」
『ならば、わしも協力する。
 霊波のエネルギー砲は、
 ほどほどに抑えよう。
 その方が、こやつの力を見定める上でも
 潜在能力を引き出す上でも
 都合がよかろう』

 エミとバンダナが勝手に話を進めている。

「ちょ・・・、ちょっと待ってください!!」

 横島の制止など全く通じなかった。

「行くわよ!!」
『来るぞ!!』

 エミとバンダナによる特訓が、今、始まった。


___________


「鎌田勘九郎選手、ベスト16進出!!」
「ベスト16はこれで全員出そろったあるな!」

 三回戦が終了した。
 試合を終わらせたばかりの勘九郎は、

「弱い奴ばっかでつまんないわ」
「話しかけるな!
 俺はもう仲間じゃない!」

 雪之丞に話しかけ、拒絶されている。
 彼らは仲違いしたのだ。ピートとの戦いでの不正が、雪之丞にとっては、手助けではなく横槍であったからだ。
 事情を知らない美神は、

(メドーサの手下ども・・・!
 今にみてらっしゃい!!)

 二人を横目で見ながら、奥へと引っ込んだ
 美神の試合は、四回戦も後半だ。急いで試合場に戻る必要はない。白龍会の選手の試合が始まってからでいいのだ。
 美神は、しばらく通路を歩く。そして、おキヌに出会った。

「あ、おキヌちゃん!
 横島クン、見つかった?」

 エミが出て行った後、それを追うようにして、おキヌも横島を探しに行っていたのだ。

『はい・・・』

 頷くおキヌだったが、うなだれている。
 それを心配する美神だったが、とりあえず何も気づかないフリをして、会話を続けた。

「そう。よかったわ。
 もう小竜姫さまのところへ連れていった?
 シャドウは引き出してもらった?」

 美神の問いかけに対し、おキヌは、頭を深く下げた。

『・・・ごめんなさい』

 謝罪の意思を示したのである。

「へ?
 どうしたの、おキヌちゃん?」

 おキヌの態度に、美神は深刻な印象を受けたが、敢えて軽い口調を続けた。
 それを聞いたおキヌの心の中で、こらえきれない感情が溢れる。顔を上げたおキヌの目には、涙が浮かんでいた。

『横島さんは・・・。
 試合へ向かいました』

 美神の表情が変わる。

「もう・・・!! あのバカ!!」

 ただ、そう言って歩き出す。
 会場へ行って、横島を棄権させるのだ。
 だが、

『美神さん!!』

 おキヌの大声が、美神の足を止めた。
 立ち止まった美神の背に、さらに言葉が投げかけられる。

『横島さん、大丈夫ですから!!
 死んだりしませんから!!
 絶対に勝ちますから!!』

 泣きながら懇願するおキヌは、最後に、

『・・・横島さんを信じて下さい』

 ポツリと付け足した。
 美神は振り向いて、おキヌの顔を見る。
 その目には、涙とともに、横島に対する信頼の情が浮かんでいた。

「おキヌちゃん、
 そこまであなたが言うんだったら・・・。
 おキヌちゃんに免じて、今回は許してあげる。
 でも、ここまでした以上、
 負けたら承知しないわよ?
 事務所の看板に泥ぬったら、許さないんだから!」

 『事務所の看板に泥』という意味では、たとえ負けたとしても、逃げ出すよりはマシであろう。だが、そういう話ではないのだ。
 理屈ではなく、こういう言い方をするのが、いつもの美神なのだ。
 美神の表情を見て、おキヌの顔にも笑顔が浮かんだ。

『はい!!』

 おキヌが力強く頷いた時、

「試合開始!!」

 ちょうど、横島の戦いがスタートした。



(第十一話「美神令子の悪運」に続く)
 


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