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復元されてゆく世界

第八話 予測不可能な要素


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:07/12/23

  
 横島とのデートではカラオケには入らなかったおキヌだが、今、美神や横島や冥子といっしょに四人でカラオケに来ていた。
 ここ数日の間、この四人は、眠れなくなってしまったために連日徹夜で遊び倒しているのだ。
 不眠の原因は、ナイトメアという悪魔を除霊するために美神の夢の中へ入ったことである。美神の夢の中へ入っている間、美神以外の三人も昏睡状態となり、それが三日も続いたのだ。それだけ眠れば、眠くなくなってもおかしくはない。

「おキヌちゃん、次デュエットしましょ〜〜」
『あ、私これ好き!! 『ウインク』の曲」

 冥子に言われて選曲をすませたおキヌは、ステージに目を向けた。美神が横島とデュエットしている。
 それを見ながら、

(美神さん・・・)

 おキヌは、ナイトメア事件のことを思い出していた。
 ・・・美神の夢の中に入った三人の目の前に現れたのは、大きな城だった。美神の精神構造をイメージ化したものであり、中に入ると、たくさんのドアがあった。美神の記憶や思考へと通じる扉だ。

『関係者以外
 絶対立入禁止』

 と書かれたドアもあって、開けようとした横島などは、美神から日頃以上の制裁を受けていた。
 また、鎖でがんじがらめになっている扉もあったのだが、その鎖には、四つの光る球がぶら下がっていた。横島が近づくと輝きを増したが、冥子が近づいても何も反応しないので、

「横島くんには〜〜
 絶対見せたくないって意味じゃないかしら〜〜?」
「・・・そんなに嫌われてるんっスか、俺」

 という言葉のやり取りもあったのだが・・・。
 実は、立ち去る際、こっそりとおキヌも近づいてみたのだ。それでも光は強くなったのである。

(・・・違いますよね、美神さん?)

 冥子の解釈が正しいとは思わない。それでも、あの四つの光る球のことが妙に気になるおキヌであった。



    第八話 予測不可能な要素



 それから半月ほど経過した、ある日のこと。

「竜神の小竜姫が
 こんなとこに来るなんて・・・」

 ドアの隙間から、美神が自分の事務所の応接室を覗いている。中では、小竜姫が一人ソファに座って、キョトキョトと室内を見回していた。
 しかし、美神は、小竜姫の落ち着かない様子にも気づいていない。

「どうしよう・・・!
 きっと、修業の際に
 本当は横島クンが倒したんだって
 バレたんだわっ・・・!!」

 と勝手に決めつけて、焦っていた。

「ほほほほっ、
 どーもお待たせしちゃって・・・!
 あいにく、お神酒が切れてまして・・・」

 美神は、おキヌが煎れたお茶を手に、部屋へ入っていった。
 おキヌも、その後ろからついていく。初対面の際に予知したビジョンがビジョンなだけに(第六話「ホタルの力」参照)、違うかもしないと思いながらも、まだ小竜姫のことが気になるのだ。

「おかまいなく!
 今日は忍びの用で来たのですから・・・。
 実は・・・」

 小竜姫は、最初は冷静に対応していたのだが、すぐに取り乱してしまう。

「私はとても困っているのですっ!!」
「ああっ!!
 ごめんなさいっ!!
 何でもするから許してっ!!」   
「よかった・・・!!
 唐巣さんが外国に行ってて、
 あなたしか頼れる人がいなかったんです!」

 少し落ち着いた小竜姫だが、まだ平静ではない。
 その耳に、

「え? あれ?
 修業でズルした話じゃ・・・?」

 美神の言葉は全く入っていなかった。


___________


「竜神の王子が行方不明!?」

 美神の手には、小竜姫から渡された一枚の写真。おキヌも、美神の後ろから覗き込んでいる。
 その写真には、竜神族らしき子供が写っていた。

「ええ。
 竜神王さまは今、
 地上の竜族たちとの会議のため、
 こちらに来ているのですが、その間、
 ご子息を私にあずけて行かれたのです。
 それが、ちょっと目をはなしたスキに、
 出て行かれてしまい・・・」

 ようやく落ち着いた小竜姫は、事情を説明し始めた。
 地上の竜神族の中には、仏道に帰依した竜神王に対して、よからぬ感情を抱いている者もいる。俗界に降りてきたのを好機とみなし、子供である天龍童子の命を狙う計画まであるらしい。

「私のところならば、
 結界に守られているから大丈夫だと思われたのですが・・・。
 殿下はなぜか強力な結界破りを持っておられて、
 自ら結界を破って出て行ってしまったのです。
 あわててあとを追ったのですが、
 人間の都は勝手がわからず・・・」
「ふーん。
 で、どこ行ったか、心当たりはあんの?」
「はい。
 てれびじょんを見て、
 『余も東京デジャブーランドに行きたい!!』
 と騒いでおられたので、おそらく、そちらへ・・・」

 ここで、ふと小竜姫が尋ねる。

「そういえば、横島さんは?
 あの方の力も借りようと思っていたのですが・・・」

 本当に天龍童子が襲われた場合、横島のシャドウの能力は役に立つ。
 小竜姫は、そう考えていたのだ。
 横島のシャドウに幻を作らせて、襲撃者にはそれを追わせることも可能だろう。
 何しろ、あの幻には自分も惑わされたくらいである。あれならば、誰が相手でも十分通用するはずだ。
 小竜姫が、そんな意向を伝えたところ、

「え?
 シャドウって、あの修業場以外でも使えるの?」

 美神が驚いてしまった。
 妙神山では修業場の異界空間から出なかった美神達である。シャドウが使えるのは、あそこだけだと考えていたのだ。
 その後、美神の夢の中でナイトメアと戦う際にもシャドウは活躍した。だが、それはあくまでも精神世界の中という特殊な環境、例外中の例外だと思っていた。

「ええ、使えますよ?
 もちろん、普通は、わざわざ外で
 シャドウを引き出したりはしませんが」

 シャドウは、霊的なエッセンスそのものだ。本人の霊能力以上のものを持ってはいない。そして、本人が特殊な霊能力を持つ場合、シャドウを通してそれを発揮するより、自分で直接出した方がコントロールしやすいはずなのだ。
 逆に、シャドウには大きなデメリットがある。シャドウが攻撃されたら自分もダメージを食らうのだ。何もわざわざ攻撃される的を増やすこともない。だから、修業でもないのにシャドウを使おうなんて、普通は考えないのだが・・・。

「横島さんの場合、なぜか、シャドウの方が・・・」

 こめかみに軽く手をあてて、小竜姫が呟いた。
 小竜姫の説明を聞きながら、美神は考えこむ。

(あのシャドウさえ発現させちゃえば、
 いつもの除霊でも、かなりラクできるかも。
 精神世界じゃなくてもシャドウを引き出せるかどうか、
 今度、冥子に相談してみなきゃ)

 ナイトメアの一件では、冥子の式神が横島のシャドウを引き出したのだ。美神は、それを思い出していた。
 しかし、そうした考えはおくびにも出さない。

「横島クンなら、今日は休みよ。
 でも、あいつのことだから、
 特に用事がなければ、
 そのうちメシたかりに来るんじゃないかしら」
『近くまで来てるかもしれませんね。
 私、探しに行ってきまーす』

 美神の言葉を受けて、おキヌが窓から飛び出していった。

「ちょっと待って、おキヌちゃん!」

 美神は止めようとしたのだが、それはおキヌの耳には届かなかった。
 

___________


 その頃、話題にされていた横島は・・・。
 近くのデパートの屋上にいた。なんと天龍童子もいっしょである。
 童子は、子供向けの乗り物で遊んでいた。コイン式電動遊具とか電動ライドと呼ばれるシロモノだが、乗っている本人は満足していなかった。

「おい!
 余はデジャブーランドに行きたいのじゃ!
 こんなもんでごまかされると思っておるのか!」
「ガキのくせに
 なかなか目はしがきくじゃねーか・・・!」

 この二人が知り合ったのは、ついさっきだ。
 横島が不良にからまれていたところへ出くわした王子が、弱い者いじめは良くないということで助けに入ったのだ。だが、むしろ返り討ちにあいそうになってしまい、その場を引っかき回した横島に助けられたのだった。

「余はおまえの恩人なのじゃ!
 感謝のしるしに、
 ちゃんとデジャブーランドに連れてゆけ!」
「助けたのはお互いさまだろー!!
 さしひきで、ここがちょーど
 おりあうとは思わんか!?」
「小竜姫といい、おまえといい、
 余はちっとも家臣に恵まれんのう・・・!」
「誰がおまえの家臣・・・」

 ここで、横島がハッとする。

「小竜姫!?
 そういや、そのツノといい刀といい・・・。
 おまえ、小竜姫の知りあいか!?」

 言われてみれば、服装も小竜姫とそっくりだった。ヘアバンドやリストバンドまで同じだ。今まで気づかなかったのが、不思議なくらいである。

「おっ・・・おまえ、
 小竜姫を知っておるのか!?
 さてはおまえ、小竜姫のはなった追手かああっ!!
 近づくなー!!
 小竜姫のお仕置きは過激なのじゃっ!!
 近づけばこの場で自害するぞっ!!」

 よほど嫌な思い出でもあるのだろうか。
 王子は、体を震わせながら、刀の柄に手をかける。
 その時、

『横島さーん!』

 という声が、上空から飛んできた。


___________


 事務所を飛び出したおキヌは、かなり高いところをフワフワ漂っていた。その状態で近くを一回りしてみたが、横島の姿は見つからない。

『横島さん・・・』

 少しずつ探索範囲を広げるおキヌは、だんだん駅の方角へ向かっていた。横島とデートしたルートを、無意識のうちになぞっていたのかもしれない。そして、
 
(ここには来なかったなあ)

 駅前の百貨店へと目を向けたおキヌは、そちらへ何となく近づいていった。
 そこに横島がいると知っていたわけでも、期待していたわけでもない。だが、

(・・・あ!)

 探し人を見つけることができた。
 おキヌの表情がゆるむ。そして、朗らかな声を飛ばした。

『横島さーん!』


___________


 横島のもとへ降り立ったおキヌは、天龍童子に気がついた。

『あれ・・・。
 竜神の王子さまですよね?
 はじめまして』

 写真を見ていたから認識できたのである。

「・・・な!」

 おキヌのことも追手の一人だと思ったのだろうか。童子が身構えるのだが、後傾姿勢である。
 一方、横島は不思議そうな表情で疑問を投げかける。

「おキヌちゃん、なんで知ってるの?」
『ちょうど今、小竜姫さんが
 美神さんのところに来てるんです、
 こちらの方を探しに。
 横島さん、ここで待ってて下さいね。
 私、二人を連れてきますから』

 答えを返した後、おキヌはニッコリ笑って、また飛んでいってしまった。
 残された横島と童子。一瞬、沈黙したまま目を合わせた二人だったが、

「小竜姫のお仕置きは過激なのじゃー!!」

 先程と同じ言葉を叫びながら、童子が走り出した。

「こら、待て!」

 横島が追いかける。


___________


『あ! 美神さーん!』

 事務所まで戻る途中で、おキヌは、美神と小竜姫に出くわした。美神はいつものスタイルだが、小竜姫は違う。美神にアドバイスされて、ハーフジャケットにミニスカートという現代風の服装に変わっている。
 二人は、天龍童子を探しに、デジャブーランドへ行こうとしていたのだ。幸い横島たちがいたデパートが駅ビルだったため、そこへ美神たちも向かう形になっていたのである。さもなければ、行き違いになっていたかもしれない。

「・・・おキヌちゃん。
 横島クンと天龍童子を見つけてくれて、
 ありがとう。
 でも、二人を連れてきてくれた方が
 もっと良かったんだけど」

 おキヌの話を聞いて、美神は、ちょっと顔をしかめた。

『あ、そうですね。
 ごめんなさい・・・』
「まあ、いいわ。
 じゃあ、そこへ案内して!」
『はい!』

 人間の駆け足くらいのスピードで、おキヌが空をゆく。
 美神と小竜姫は、走ってついていく。

(別に先導してもらわなくても、
 『デパートの屋上』という話で、
 場所は十分特定できるんだけどね。
 でも責めるようなこと言っちゃった後だから、
 働かせてあげたほうが、
 おキヌちゃんも落ち込まなくていいでしょう)

 美神は、そんなことを考えていた。
 しかし、彼女は気づいていない。
 おキヌの誘導は、美神が思っている以上に重要な役割を果たしているのだ。
 なにしろ、飛んでいるおキヌを目印に追う形だからこそ、人込みの中でも小竜姫は迷子にならないのだ。もし、おキヌ抜きで百貨店に向かったら、小竜姫ははぐれてしまっていたであろう。


___________


 非常階段を駆け下りた天龍童子は、館内の通路を走っていた。
 どうやら従業員用通路のようで、今のところ、誰にも出会っていない。だが、それもここまでだった。
 
『い、い、いたんだな、アニキ・・・!』
『へっへっへ・・・!!
 つかまえるぞ・・・!!』 

 目の前に、二人組の男が立ちふさがった。
 大きな目をしたモヒカンの小男と、ノッポ姿に似合う帽子をかぶった長身の男である。

『キシャーッ!!』

 突然、二人の姿は人外のものへと変貌し、童子へ襲いかかった。

「え・・・」

 慌てた童子は、その場で反転。二人組から逃げるために、また走り出したのだが・・・。

「はあ、はあ・・・。
 ようやく追いつい・・・」

 今度は、横島が目の前に!

「・・・たぜ。
 え?」

 童子は、横島が肩で息をしているうちに、その横を走りぬけた。
 ちょうどその時、

『に、逃がさないんだな!』

 二人組のうちの片方、イームの腕が、童子へ向かって伸びた。

「わああっ!!」
『あ・・・。
 ま、まちがえたんだな』

 二人が交叉するタイミングだったこともあって、童子ではなく横島の方をつかんでしまった。
 そのドタバタの間に、童子はドンドン走っていってしまう。今の彼に、横島を救出しようという気はなかった。
 童子は勘違いしていたのである。この二人組も、小竜姫からの追手なのだ、と。
 そして、横島のことも同様だと思っていた。タイミング悪くおキヌが来てしまったせいで、横島は、『小竜姫のはなった追手か』という言葉を否定していなかったから。

『ど、どうしよう、こいつ?』

 イームの言葉を受けて、もう片方のヤームが、横島に目を向けた。

『・・・おめえ、殿下の行き先、知ってるか?』


___________


 脱兎のごとく走り続け、ようやくデパートの一階まで来た天龍童子。
 そのまま正面から外へ出たのだが、

「もう大丈夫かな・・・?」

 走りながら後ろを振り向いたのがいけなかった。

 ドンッ!!

 前から来た人物にぶつかってしまった。

「いてて・・・」

 衝突した勢いで転んだ天龍童子が顔をあげると、目の前にいたのは、亜麻色の髪の女性。童子の知らない人だ。
 だが、その左側にいる者は知っている。『おキヌちゃん』と呼ばれていた先程の幽霊だ。そして、右側に立っているのは・・・。

「うわっー!
 小竜姫ぃっ!!」

 恐怖にまみれて、逃げ出そうとした童子だが、

「殿下!
 もう逃がしませんよ!」

 小竜姫に首根っこを掴まれてしまった。

「ところで・・・。
 横島クンは、どうしたの?」

 美神が、いまだにバタバタしている童子に質問した。

「何を言うておる!!
 おまえたちの仲間の二人といっしょであろう!」

 天龍童子は、イームもヤームも横島も、小竜姫の仲間だと思っているのだ。しかし、

「変ねえ・・・?」

 美神は眉をひそめて、小竜姫と顔を見合わせた。
 美神や小竜姫にしてみれば、『仲間の二人』と言われれば、鬼門のことなのだ。
 小竜姫は、下山する際、人間に化けた鬼門を二人とも連れてきていた。美神との会談時には事務所ビルの前で待たせていたが、今は、事務所の中で留守番をしているはずだった。
 美神と小竜姫が事務所を出た時点では、横島の居場所は分からなかったし、おキヌも彼を探しに出ていってしまった状態だった。二人が来たときのために、誰か事情を知る者が残っている必要があったのだ。
 
「そういうことなら、事務所に戻りましょうか」
 
 一行は、近くのタクシー乗り場で車をひろい、事務所へ向かった。


___________


「美神さん・・・!」

 事務所のドアの前で、小竜姫の表情が険しくなる。中の気配を察知したのだ。
 美神は、気配は読めなかったが、小竜姫の表情は読み取れた。無言で一つ頷く。

 バン!!

 勢いよくドアを開けて、小竜姫だけが入っていった。
 室内を見渡す。
 鬼門の二人は、ボロボロに打ちのめされて、床に倒れていた。
 ソファでは、
 
「しかたなかったんやああー!」

 横島が騒いでいる。
 その両側には、ノッポと小男の二人組。イームとヤームである。今は人間の姿をしているが、それが見せかけに過ぎないことを小竜姫は見抜いていた。

「人質・・・というわけですか?」
『そうだ。
 殿下を差し出してもらおう』

 小竜姫の問いに、ヤームが頷く。そして、さらに言葉を続けた。
 
『・・・お優しい竜神さまが、
 人間を見殺しにするんですかい?』
「だからといって、
 殿下のお命を危険にさらすわけには・・・」
『安心してくだせい!
 いくら俺たちでも、そんな大それたこたしやせんよ。
 竜神王陛下の竜宮での会談が終わるまで
 閉じこめるだけでさ』

 ここで、

「貴様ら!!
 こんなことをして、ただですむと思っておるのか」

 天龍童子が部屋へ入ってきた。美神とおキヌも、仕方がないといった表情でそれに続く。

「殿下!!
 なぜ・・・!?」

 小竜姫は、外で待っていることの出来ない童子を諌める。
 だが、童子は毅然とした態度で答えた。

「横島も余の家臣の一人じゃ」

 童子は、誤解していたことを反省しているのだった。
 二人組が敵だと知らなかったせいで、こんな事態を招いてしまった。ちゃんと分かっていれば、あの場で、すぐに横島を救出できた。
 童子は、そう思っている。
 一方、横島は、

(このバカ!!
 おまえが来たら、全部台無しじゃないか!)

 と、心の中で童子に叫んでいた。
 童子の行き先について心当たりを聞かれて、美神の事務所をあげた横島だったが、別に童子を売ったつもりはない。あの時点で、横島は、童子が美神たちと合流することを予測していなかったのだ。
 童子は一人で勝手にデジャブーランドへ行くであろう。その間、この魔物二人を事務所へ連れて行けば、美神や小竜姫が何とかしてくれるに違いない。
 それが横島の考えだった。
 小竜姫や美神が来てくれたのは計算通りだが、天龍童子まで来てしまっては、意味がないのだ。
 
『申しわけねえですな、殿下!
 俺たちにも事情ってもんがあるんでさ』
 
 童子や横島の思惑とは無関係に、ヤームが童子に答えた時。

 ビュンッ。

 突然、もう一人の人物が室内に現れた。瞬間移動してきたのだ。
 フードのついたマントで全身を覆い隠し、ご丁寧に口の部分も大きな布でマスクしている。

『! だんな・・・!?』
「ご苦労! イーム、ヤーム!」

 会話から察すると、二人組のボスのようなのだが、

(!! こいつ・・・、
 ただの魔物じゃない・・・!?
 少なくとも小竜姫クラスの霊格・・・!!)

 美神は、この人物に対して、並々ならぬ警戒心を抱いた。

『ご苦労?
 だんな、まだ殿下は手に入れてませんが・・・』

 ヤームが少し不思議そうな表情で尋ねた。まだ終わってないことを責められるのも嫌なので、恐る恐るといった態度でもある。

「いや、これで十分だ
 しかも、小竜姫というオマケまで。
 フフフ・・・」
「私を知っているところを見ると、
 おまえも竜族かっ!?
 何者です!! 名乗りなさい!!」
「死にゆく者に名乗る名前はない」

 突然、部屋の中に黒い板が何枚も出現した。
 一同を囲むように配置されている。囲みの外側にいるのは、フードの人物だけだった。

「これは!! 火角結界!!」
『だんなっ!! これはいったい!?』

 小竜姫とヤームが叫ぶが、

「知る必要はない!
 おとなしく死ね!」

 フード姿は、捨てゼリフを残して消え去った。

『ア・・・アア、アニキ!!
 どっ、どどど、どーいうことなんだな!?』
『あの野郎ハナっから俺たちごと
 殿下を消す気だったんだ・・・!!』

 騙されていたことに気づいたイームとヤーム。

「なんなの、この頑丈な結界は!?」

 攻撃してみる美神だが、全く効果がない。

「カウントダウンしてるみたいっスけど・・・!?」

 横島が指摘した。板に浮かぶ数字が一秒ごとに小さくなっているのだ。もはや『八』となっている。

「これは中に閉じこめた物を吹きとばす超強力な結界です!!」

 小竜姫が説明し、さらに、

「でも大丈・・・」

 続きを言いかけたのだが、

「なに!?
 私までまきぞえで死ぬわけっ!?」
『大丈夫! 死んでも生きられます!』
「ひええっ、あと3秒ー!!
 3秒でやれることを精一杯やりましょー!!」

 その場の喧噪に埋もれてしまった。


___________


「う・・・、うーん・・・。
 あ、あれ!? ここは・・・?
 俺たち死んだっスか・・・!?」

 横島が意識を取り戻したとき、そこは、もはや美神の事務所ではなかった。
 もうすぐ爆発するというところで、美神に飛びかかって、しばかれて・・・。
 そこまでしか記憶がない。
 気づいたら薄暗いジメジメした場所へ来ていたのだから、これでは、縁起でもない想像をしても不思議ではなかった。

「なんですか、ここは・・・!?」
「ビルの真下に通ってる下水道よ!
 こんなこともあろーかと、
 緊急脱出用のシューターを、
 ビルのオーナーに内緒で作っといたの!」

 と、美神は自慢げに説明する。

「・・・よく間にあいましたねー」
「運よく余が天界の結界破りを
 持っておったからな!」

 と、天龍童子も自慢げに答える。
 そもそも、その『結界破り』で童子が妙神山から抜け出したせいで、こんな状況に陥ったのだが・・・。ケロッと忘れているようだ。

「・・・よく3秒でそこまでやれたなー」
「私の霊波で、少しの間、
 カウントダウンを止められましたから」
 と、小竜姫も胸をはる。
 確かに、彼女がいなければギリギリだっただろう。小竜姫が誇るのは間違いではない。
 とりあえず脱出の状況を理解した横島は、

「・・・これもやっぱ、
 こんなこともあろーかと用意しといたんスか?」

 目の前のものを見ながら、美神に質問した。

「まーね。
 ギャラ払えない客の持ち物を差しおさえたりとかは、
 たまにあるから」

 それは、個人用のモーターボートだった。
 いつのまにか仲間になっているイームとヤームが、鬼門二人とともに出航準備をしている。

「さーて、これで
 エンジンが動くよーになったと思うんだけど・・・」

 美神は、一同を見渡した。
 美神自身の他に、横島とおキヌ、小竜姫、天龍童子、鬼門二人、イームとヤーム。
 全部で九人いるのだが、ボートは六人乗りだ。最後列のロングシートに三人座らせても、それでも七人しか乗れない。

「全員は無理ね。
 ちょっと作戦会議が必要だわ」

 美神の言葉を聞いて、

「あ、それなら、今のうちに・・・」
 
 小竜姫が横島に歩み寄った。


___________


「おろか者め・・・!
 逃げられると思うか!!」

 フード姿は、今、河口の空に浮いていた。
 火角結界はきちんと爆発したが、小竜姫もいたのだ。彼らが脱出できたことくらい、分かっていた。だから、眷族のビッグ・イーターを彼らにけしかけていた。
 それに追われる形で、一台のボートがやってきた。

「・・・ん?
 もっと大勢だったんじゃないのかい?」

 ボートを運転しているのは横島で、中列のシートに小竜姫と美神が、後列に天龍童子と鬼門の二人が座っている。そして、横島の隣には、見覚えのない者がいた。横島のシャドウである。
 
「まあ、いい。
 問題は、天龍童子だ。
 死ね!」

 ボートに向かって魔力を放つ!
 だが、それはボートには届かなかった。

「仏道を乱し、殿下に仇なす者は
 この小竜姫が許しません!!」

 小竜姫に神剣で遮られたのだ。鬼門の二人を従えて、こちらへ向かって飛んでくる。

「やはり来たな、小竜姫!
 ならば本気で相手をせねばなるまいな」
 
 ここで、フードもマントもマスクも脱ぎ去った。
 中から現れた姿を見て、

「女・・・!?」
「しかも、ええちちしとるやないかっ!!
 意外だった・・・!!」
「大丈夫よ、
 小竜姫が勝つでしょう」
「ええ、
 なんぼええちちしとっても年増は年増!!
 若く明るい小竜姫さまのミニスカにはかなうまいっ!!」
「なんの勝ち負けを解説しとるかっ!!」

 ボート上では、美神と横島が掛け合いをしていた。
 一方、小竜姫は、真剣な表情を見せていた。

「おまえは・・・!!
 竜族危険人物ブラックリスト『は』の5番!!
 全国指名手配中、メドーサ!!」
「ほう、あたしを知っておいでかい!!」

 からかうような口調で応じたメドーサ。そこへ小竜姫が斬り掛かってくる。

 ガッ!!

 小竜姫の神剣を、メドーサは、自分の刺又で受けとめた。
 
 ギン!! ババッ!!

 二人が互いの得物を打ち合うたびに、霊力が飛び散る。
 
「小竜姫様!!」

 鬼門の二人も加勢に入ろうするのだが、

「フン!!」

 メドーサに魔力を放たれると、近づくことすら出来ない。
 しかし、メドーサが鬼門に注意を向けた僅かな隙、それを小竜姫を見逃さなかった。

「もらった・・・!!」

 勢いをつけて、斬りかかる!

 バシッ!!

 そのまま、小竜姫は駆け抜けた。後には、

「ウッ!!」

 メドーサが腹をおさえていた。
 勝機と見て、左右から鬼門も迫って来る。

「・・・なんてね」

 小竜姫の一撃は、確かに当りはしたものの、浅く薙いだだけ。
 実際以上にダメージを食らったかのような演技に騙され、鬼門たちは、半ば無防備に攻め込んでしまっていた。彼らに対し、メドーサは、強大な魔力を左右の手から放った。

「直撃・・・じゃない!?」

 だが、それは鬼門の体を通り過ぎていく。
 戸惑うメドーサだが、これに構っている場合ではない。小竜姫に背後へ回られた形になっているので、その身を反転させ、再び小竜姫と対峙する。
 しかし、

「何!?」

 ここでメドーサの困惑は増大した。
 今、目の前に、二人の小竜姫が浮かんでいたのだ。

「どういうことだー!!」

 メドーサの咆哮とともに、魔力が放たれる。それは両方の小竜姫に直撃したはずなのだが、爆発もなく透過してしまう。

「こういうことです!!」

 耳元で小竜姫の声が聞こえると同時に、メドーサは、背中からバッサリ斬りつけられていた。

「ウッ!!」

 今度は演技ではない。本当に、浅くはないダメージを受けてしまった。

「大馬鹿ヘビ女ーっ!!
 バストに栄養全部行っちゃって、
 頭に回ってないんじゃないのっ!?」

 眼下では、逃げたはずのボートが戻ってきて、美神が叫んでいた。

「・・・小竜姫に、
 こんな能力があったとは」

 自分が幻を見ていたのだと理解したメドーサは、実物の小竜姫を睨みつけた。

「ええ。
 二人の鬼門は、最初から幻です。
 私の姿は、最初は本物。
 あなたの横を駆け抜けて、
 背後に回ってからは二人ともニセモノでした」

 小竜姫は、メドーサがカラクリに気づいたことを悟り、頷いてみせた。
 だが、これでは質問に肯定したことになってしまうので、あわてて付け足す。

「でも、これは私の力じゃありませんよ?
 あそこにいる横島さんの能力です」

 小竜姫は、誇らしげな表情のまま、ボートの上の横島を指さした。

「人間ふぜいが、こんなことを・・・。
 あ、まさか?」

 突然、メドーサは気がついた。こんな幻影を作り出せるということは!
 メドーサの視線が、横島にではなく天龍童子に向かう。
 それを見て、小竜姫が、

「あら、ようやく気づいたんですか?
 ええ、あの殿下もニセモノです。
 今頃、本物の殿下は鬼門たちにエスコートされて
 妙神山へ向かっています」

 メドーサの想像を裏付けた。
 ボート部隊は完全に囮であり、本隊は、下水道のマンホールから地上へ出ていたのだ。

「完全にしてやられたね。
 しかも、人間ごときに・・・。
 横島ッ!!
 その名前、覚えておくよ!!」

 怒号とともに、メドーサが魔力弾を乱射した。
 小竜姫たちが対応している間に、それを煙幕として、メドーサは逃げていってしまった。

「・・・逃がしちゃったわね」
「私のミスですね。
 最後にワザワザ会話したのは、
 ダメージから回復するための時間稼ぎだったようです。
 ・・・気づいてませんでした」
「あの・・・。俺、
 なんだかトンデモナイ奴に目を付けられたのでは?」

 美神と小竜姫が、横島に目を向ける。
 その視線には、同情やら謝罪やらがこもっていたのだが、
 
「そうね。
 あれは、しつこそうね」
「逃走したのも、ダメージのせいだけじゃないですね。
 戦いに予測不可能な要素が加わったので
 無理を避けたんでしょう。
 横島さんのおかげです」

 二人の言葉は、全く慰めになっていなかった。

 ここで横島自身も見落としていたことがある。
 小竜姫はメドーサにキチンと説明していなかった。『横島さんの能力』と言ってしまっていたのだ。
 だから、あれがシャドウの能力であることも、横島が自分でシャドウを出せるわけではないことも、メドーサは知らない。当然、メドーサは横島を過大評価してしまう。

 こうして、かなり早い時点で・・・。
 横島は、メドーサから、実力以上に注目されてしまったのである。



(第九話「シャドウぬきの実力」に続く)


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