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GS六道親子 天国大作戦!

ボクらの1時間戦争!


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:07/12/17








 今日は唐巣神父の下で修行なので、横島はいつもの様に制服姿のまま教会に入った。
 すると、いつもは何がしか内職をしている唐巣神父が何もせずに机の前で座っていた。
 横島に気付いた神父が横島を招く。同じく腰をかける横島の前にスっと重そうな封筒が差し出された。

「俺に仕事っスか?」

 横島は怪訝に尋ねると、唐巣神父は真面目な顔でうなずいた。

「そう、君指名の依頼だよ。依頼人は…GS協会だから、断りにくい内容だろうね」

 横島が封筒を受け取るのを見ながら、渋い顔で神父がうなずく。

「あれ、神父は見てないんですか?」
「ああ、まずは横島君に見せてくれと言われて渡されただけでね」

 横島が中身を切らない様に、ゆっくり封筒を開けているとピートが2人の前に湯のみを置いた。
中身は白湯である。

「でも、横島さん。すごいですね! 見習いなのに、もう指名のお仕事ですか!」

 ピートのキラキラ輝く瞳に、神父が視線をそらす。

 しばらく依頼内容に見入った横島だったが、内容を把握して一言、絶叫した。
 「なんじゃコリャ―――?!」と。








 GS 六道親子 天国大作戦!! 20 〜 ボクらの1時間戦争! 〜









 横島に依頼という名の命令書が下った内容は、簡単かつデンジャラスなモノだった。

 事の起こりは、アシュタロス戦争の英雄に対する肖像権がらみの物だった。

 あの戦いの後、英雄達の写真等は未成年以外をマスコミに紹介されていた。使われる写真等は
GS協会と本人了承済みの物には限られていたが。

 当初、日本どころか世界がその写真をこぞって求めた為、処理係は午前様は当たり前、本人もあまりの
量にGS協会に禁止事項だけを連絡し、3日とかからずGS協会丸抱えのお仕事と変わり果てていた。

 日がたち、マスコミ対応も一段落し、やれやれと処理係がお茶をすすっていた時に嵐が到来したのだった。

 その日、有休をやっともらった20代の男性職員が息を切らせて職場へと現れたのがきっかけであった。
 彼の上司は、息をきらせているその職員に水を飲ませ、とにかく落ち着かせようとした。
 すると、彼は肩を上下させながら手に持っていたビデオを差し出した。

 それを見て上司はあっさり、頭から床にダイブを決行した。

「ちょ、課長?! 柊、何見せたのよ?」

 上司の命令で疲れた彼、柊に水を持ってきた女性職員が首をかしげながら、まだ彼が掲げている
ビデオを見やる。

 それは、冥子っぽい人物が12神将っぽいのを連れて微笑んでいるパッケージ写真だった。下に視線を
降ろすと題名が刷られていた。

『GS名門お嬢様とのイ・ケ・ナ・イ関係(ハート)』

 もう一度でかでかと載っている女性を見る。肩辺りに黒髪を切りそろえた、ナイスボディをワンピースに
包んだ冥子に似ているが違う人物が載っている。
 絶句した女性職員の前で、柊がとある一部を指差す。そこにはシールが貼ってあった。

『GS協会認定』

 GS協会認定シール。それは自分達、処理係が認定した証である。偽造されにくい銀色っぽいシールが
職員達の疲れた目には眩しい。ついでに倒れて現実逃避している課長がにくい。

「なんなのよコレ〜?!」

 思わず上げた悲鳴に、皆一様に頭を抱えた。

 


 その後、GS協会の涙ぐましい努力で、問題のビデオは大部分が回収された。
 問題は既に出回ってしまったビデオである。
 元々、販売用ではなく、レンタル用に作られ売られたものなのだが、巧妙に転売され、隠され今だ
百近い数が日本国内のレンタル店にあるだろうと推論が出て、それ以上の進展が得られなかった。

 そう、がっくり肩を落としながら報告する課長にGS協会首脳陣が頭をかかえた。

 ブルーな空気を発散する中、なぜかいる六道幽子女史は朗らかに笑っていた。しかし、目は笑って
いない。ついでに後ろになぜかいる12神将達が威嚇のジェスチャーをしている。

「大丈夫〜〜  ケルベロス式神で〜〜 問題のビデオを〜〜 探して〜 ことごとく噛み砕くよう〜〜
しつけている〜 ところだから〜〜〜」

 あと1ヶ月で問題なしよ〜と笑顔の幽子に、GS協会はあせった。
 あの六道謹製である。ビデオと一緒にその場にいた持ち主もバックリする事は、未来決定図だ。
 そして、黒幕が幽子である場合、犯人も手抜かりなく用意しているだろう。そう、GS協会首脳陣を
スケープゴートにするのは目に見えている。

 そこで、GS協会は決断した。

 全国津々浦々の、これはと認めた選りすぐりのGS達に。

『パチもんエロGSビデオを奪取せよ!』と。






 の、栄えある(?)ビデオ捜索人員(多数)に抜擢された横島である。
 彼が未成年である事は、協会にとってはどーでもいい事だったらしい。

 横島は自分の指定された範囲を描かれた地図を片手に、真面目に捜査した。
 捜査はしたが見つからない。

 増援としてピート・タイガーにも頼んでおいたので、自分が探せた分だけチェックして待ち合わせ
場所のレストランへと急いだ。
 そこには既に捜査を終えたピートとタイガーがやや疲れた表情で待っていてくれた。

 腰を下ろした横島にピートとタイガーの表情は暗い。
 それに苦笑いして手を振った。

「そんなに気にしないでくれ。簡単に見つかっていたら俺らの前にこんな仕事は来なかっただろうし、
無駄足使わせて悪かったな。なんかおごらせてく…」
「イヤー悪いけんノー、ジャケンお言葉に甘えて!」
「助かります、横島さん!」

 横島の言葉が終る前に、多分テーブルの下に隠してあったセットメニューをテーブルへと出してきた。
どちらも高そうなメニューである。

「お前等には水じゃぁ! 水がお似合いじゃぁ―――!」
「まぁまぁ、血圧上がりますよ?」

 ニコニコしながらタッパにつめるピートに横島はがっくりうなだれる。この若さで血圧うんぬん言われたく
ないのだ。だが、この見た目青年・実は御歳100歳オーバーなヴァンパイアーハーフはわかってくれない
だろう。

 そのがっくりきた横島の横に黒ずくめの誰かが座った。
 目を上げると、そこにはラーメンを食べている雪之丞がいた。

「なるほど、お前等もアレ、探しているのか」
「雪之丞、お前、アレ、見たのか?」

 恐る恐る訊くと、雪之丞が胸を張る。

「見るわけねぇだろ。金ねぇし」
「威張って言うことか―――!!」
「しかし、俺なら情報を持っていそうな奴の目星はつくぞ?」
「うっ?!」

 引いた横島に雪之丞はニヤリと笑い、伝票を横島達のテーブルの伝票いれに入れた。

「すごいですね、さすがはモグリのGS!」
「…もうモグリじゃないんだが」
「きっと今まで僕達が知らないような世間の荒波やドブ水や汚水に揉まれて成長なさったんですね!」
「………ピート、ケンカ売るつもりじゃないんなら、お口チャックな」

 辛口なピートの誉め言葉(?)に、どんよりしてきた雪之丞を見て、慌てて横島が「黙」の文珠を
取り出してピートに押し当てる。アニメの様に口がチャック状態になってモグモグしているピートから
目を逸らして雪之丞を促した。

「ふ、情報料にあと味噌ラーメン大盛り2杯追加な」
「な?! お前、ギャル木根か?!」
「コレ位当たり前だろ。3日は食ってねぇし」
「せめてカレーライスにしろ! ここはレストランだぞ!!」

 横島としては、腹が減っているのにカレーでなくラーメンを食べるのが許せないらしい。

「レストランでラーメンはラーメン店でおでんと同じ位失礼だろ!」

 いや、レストランでラーメンが許せなかったらしい。しかし、雪之丞は首を振る。

「ふ、甘いな。レストランの裏メニューを開発すれば、自ずとラーメンに行き着くモンなのさ」
「ウソこけ!! ラーメンは堂々とメニューに載っているじゃねぇか!」

 メニューを掲げて熱血する横島に雪之丞も懇々と己の踏破した道筋を延々と語り始める。
 それを横目に、タイガーが3メニュー完食したのに気付くのは会計の時だったりする。








 紆余曲折があったにしろ、横島が折れて雪之丞が満足げに案内したのは皆が知る場所だった。

 どーんと出された看板に「厄珍堂」と書かれている。怪しげな商品を売る怪しげなオーナーの店だった。

「盲点ですジャー」
「怪しげな情報って言ったらココだろ」
「ここが噂の厄珍堂ですか」
「訊くだけは訊いてみっか」

 各々、思う言葉を口にして、自然に先頭の横島を盾にする陣形をとって店へと入る。
 暗い店内と所狭しと置かれている呪いの人形っぽいのやら、呪いの絵画っぽいのに睨まれながらも
店の奥へとゆっくり進むとカウンターが見えてきた。
 今日は珍しく、テレビを見ずにタバコを吸っている厄珍が座っていた。

 薄暗い店内で厄珍がニヤリと笑った。その笑みだけでUターンしたい気分になる。

「よく来たアルね。さすがに耳が早いネ」
「っていうコトはアレ、持ってるのか?」

 ハテナ顔をするピートを隠すようにしながら横島がニヒルに笑うと厄珍がうなずき、テーブルに
並べる。横島の予想通り、探していたビデオである。
 しかもあろうことか4本も。

 1つはGS協会でも話題になっているニセ冥子のもの。

「ほ〜、俺が聞いたのは冥子ちゃんのだったんだけど」

 横島の純粋な感嘆の声に厄珍が胸をはった。

「それは情報が遅いネ。冥子ちゃんのは最初のバージョンで、おキヌちゃん、エミちゃん、令子ちゃん
とシリーズで続いたネ。これで打ち止めとは寂しいアルよ」

 本当に寂しそうに呟く厄珍を余所に、皆で覗き込んだ。

 おキヌにとても似ているが、髪型がちょっとウェイブ気味。着物はちょっと着崩れている。キャッチコピーは
「一緒にお参りしませんか(ハート)」
 
 ピッタリとしたヒョウ柄のTシャツとミニスカ、長い黒髪と小麦色の肌をした、しかしメイクは
ヤマンバ・ニセ小笠原エミ。キャッチコピーは「私の黒魔術で貴方はと・り・こ(ハート)」

 栗色の長い髪にナイスバディーを強調する服を着た、どちらかと言えば大和ナデシコタイプの顔を
したニセ美神令子。キャッチコピーは「お金のためならどこまでも(ハート)」

 4本とも、GS協会認定シールが輝いている。目的のブツである。

 心中うなずく4人の前で厄珍は頭を振る。

「GS協会が六道財閥にお尻叩かれて、今GS達が慌てて回収してるネ。まぁ、未成年のボウズ共には
関係ない話しアルね」

 思わず曖昧なジャパニーズ・スマイルを展開する3人(雪之丞は無表情に腕を組んでいるだけ)に
ビデオを指差す。

「六道財閥が関わったからには、すぐ処分するネ。その前に見るのは男の道アルね」
「そうだよな! 男の道だよな!!」

 どこに男の道が見えるのか、横島は目を輝かせて同調した。それに慌ててピートが横に引っ張る。 

「ちょっと! 見つけたらすぐ届け出るんじゃなかったのですか?」
「ピート、アレが探していたモノか、パッケージだけじゃわからんだろうが」
「何言っているんですか、見ただけでわかるでしょう!」

 憤慨しているピートに横島がフっと自嘲する。

「パッケージだけで想像すると、痛い目見るぞ。実は筋肉ムキムキのおカマがダイエット体操する
ビデオだったってオチならごまんとあるからな…」
「横島さん…」

 しゃべりながら、あのイタイ内容のビデオが思い出されて目から汗が出てくる。ピートの憐れむ視線が痛い。
 ピートはごまかされているが、GS協会認定シールが貼られていたらソレで仕事は完了、中身を見なくても
良いのだが、それを知っている横島は、そのままピートを置いて厄珍へ顔を向ける。

 そこには、非常に珍しくシリアスに迷っている厄珍の顔があった。

「どれを見るか、非っ常―――に迷っているアルね」

 アホらしいが、横島にもわかる迷いである。何を最初に見るか、ソレが重要なのだ。勿論全て見るが。

「う〜ん、やっぱり一番に見るとしたら…なんちゅうか、おキヌちゃんは除外だよなぁ」
「そうですノー、なんか、悪い気がするケン」
「メシ作らせるのが悪すぎるよな」
「赤いハカマには惹かれるアル」

 厄珍の反対意見には耳を貸さずにニセおキヌのビデオを横に外す。

「そうすると、成人組みか?」
「どれも程々似てないケンのぉ。特にエミさん」
「そうですか? 美神さんが一番似てないような…」
「イヤ、顔は置いておくとして、乳尻ふとももは美神さんのサイズに限りなく近い!」
「やっぱ、令子ちゃんアルね! 最初はやっぱり!」

 嬉々としてニセ令子のビデオをビデオデッキに入れようとした所で、鋭い電話の呼び出し音が店内に
響く。舌打ちしながらも素早く出る厄珍は、オカルトグッズ販売のプロの姿勢が垣間見られる。

 その厄珍の電話から聞こえてきたのは、ドスの効いた低い女の声だった。

『厄珍―――今、何かしようとしなかったかしら?』
「れ、令子ちゃん?!」

 紛れも無い美神令子の声に、厄珍は硬直した。

「な、なにもしてないアルね、令子ちゃんとワタシの仲アルよ」
『そう…でも、証拠がつかめたら―――覚悟しなさいね』

 プツン。ツーツーツー…

 一連の騒動を見ていた横島達は無言で令子のビデオを脇に置いた。あまりにも危険なビデオだ。

「っていうか、すごいですね。美神さん」
「人外な霊感じゃノー」

 感心する2人を置いて、選定に入る。

「って言う事は安全性で六道のお嬢か?」
「冥子ちゃんアルか…なんだか内容が怖いアルね」
「外れっぽい感じが一番するけんノー」
「内容はともかく、無難かもしれませんね」

 特に反対意見が出なかったので厄珍がゆっくりした動作でデッキへと動いていく。
 それまで、なぜか口を曲げて発言をしなかった横島が急に動いた。

「やっぱりダメだ―――! 冥子ちゃ―――ん!!」
「…なぁに〜〜? 横島く〜〜ん」

 皆いっせいに声の方へ振り向いた。
 そこには、逆光を背にした本物の冥子が佇んでいた。

 呼ばれた横島がグルリンと向きを変えると冥子は嬉しそうに寄ってきた。

「なにか〜〜 ご用〜〜〜?」
「あ、いや、ええっと、ノドがおかしかったから声を出しただけっスよ。あはははは〜」
「まぁ〜〜 そうなの〜〜 うふふふふ〜〜」

 何か隠している素振り満々な横島だったが、冥子は特に探る事無く一緒に笑う。
 それに、ピート・タイガー・雪之丞が安堵の息をもらす。良かった、バレてない。と

「冥子ちゃん、頼まれた物アルね」
「いつも〜〜 ありがとうね〜〜」

 いつの間にか、ビデオ全てを隠し、かつ冥子に頼まれたオカルトグッズを包んだ風呂敷を無造作に
置いた厄珍に、冥子は朗らかにお礼をする。

「いやいや、なんなら朝日が昇るまでお付き合いするアルね」
「? ありがと〜〜?」

 冥子は意味がわからず、疑問形のお礼を言ったが冥子の影にいた式神には意味が通じたらしく、
目にも止まらない速さで出現・体当たり・離脱を繰り広げた。
 見る間にボロボロになっていく厄珍を珍しそうに見つめる雪之丞以外は目を逸らす。
 冥子は己の式神が繰り広げる仁義無き戦いに気付かず、横島へと振り向く。
 
「最近〜〜 ちっともこっちに寄ってくれなくて〜〜 タマモちゃんも〜 寂しがってたわ〜」
「いや、あと少しで神父からの仕事も終るから」
「そう〜〜 じゃぁ〜 終ったらお祝いしなきゃね〜〜」

 なぜお祝いなのか、と突っ込みを入れたいがお祝い=豪華な弁当なので、横島はにこやかに肯くと
冥子も嬉しそうに笑って風呂敷を片手に手を振りながら店を出て行く。
 表から車のエンジン音が響いて去っていくと、皆一様にため息をついた。

「どこが安全ジャー! 一瞬走馬灯が見えたケン!」
「これから見ようとしたら『忘れ物したわ〜』って言って現れそうですね」
「アレはちょっと戦いたいとは思わんなー」
「…油断ならないアルね」

 グチをこぼす男達に、横島はただ静かに拳を握って前に出した。

「だがしかし! これで乳尻ふとももを逃せば男の恥! 死して屍拾うものなし!!」
「そうだ! 火中の栗を拾うのが男ってもんだ!」
「焼肉定食ジャ―――!」
「み、みなさん落ち着いて…!」
「しかし、これしかもう残ってないアル」

 横島にあおられた男達が厄珍が差し出したビデオを見た。ニセエミビデオである。
 しかし、どう見てもエミを知っている身であるからこそ、ニセ具合が目立つ。

「しっかし、これを見て世の男共はエミの旦那を思い浮かべるのか?」
「似ているのは色だけだよな」
「まぁ、衣装は似てるケン」
「そうですよね、あの綺麗な匂う肌も綺麗なボリュームも可愛く笑う仕草も似ていませんよね」
「「「「………」」」」

 ピートの発言に、店内に重い沈黙が流れた。
 いや、ピート以外の者達が暗い表情と輝く怪しい瞳にチェンジしたのだ。

「ピートさん、どーしてエミさんの部分的な所にそんな詳しい突っ込みができるんジャ?」
「ピート…お前、超えてはならない山を越えちまったな…?」

 激しい剣幕で声を震わすタイガーと雪之丞。特にタイガーにとって、エミは憧れのひと。4人の
中で一番暗い霊気を発している。

「やっぱソコまでいってたんか? いってたんだなコンチクショ―――!!」
「GS業界の高嶺の花になんてことするアルか?!」

 横島と厄珍はテーブルを叩きまくっている。こう見ると2人は兄弟の様に良く似ている。

「えっと、その…エヘ!」

 4人に詰め寄られたピートは最近覚えた照れ笑いを披露してみた。これをエミが見たら大抵は追求の
矛先が反れるのだが、勿論4人の怒りに油を注いだ結果にしかならなかった。

「タイガー、押さえてろ!!」
「了解ジャ―――!」
「ボウズ、霧化はダメあるネ」

 羽交い絞めされたピートの額に厄珍が呪符をピタリと貼り付ける。

「フフフフ、裏切り者には制裁じゃぁぁ!!」
「さっさと見るべ」

 額から鼻から、久々に噴水の様に血を出す横島の後ろでは、比較的冷めた雪之丞がニセエミのビデオを
セットしてスタートボタンを押す。

 制作会社のテロップが流れ始めた。

「ちょ! そんな、ニセ具合が凄まじいエミさんのを見なくてもいいじゃないですか?!」
「これは社会勉強じゃぁ―――!!」
「しゃ、社会勉強ってどこが社会勉強なんですか?!」
「人類の半分は女ジャケー、女性を知るのは社会勉強ジャー!」
「タイガー、それって単なるセクハラですよ?!」
「ボウズ共、うるさいアル、そろそろ始まるアルね」

 ギャーギャー言いながら、つい画面を見る男達は、だから気付かなかった。
 店に客が来たことを。

「う〜ん、やっぱエミさんと似ても似つかぬ…」
「「そこ! そこで押し倒す(アル)!!」」
「世間はこういったイメージじゃケンノ〜」

「…へ〜、そう。で、それはどういったビデオなワケ?」

 背後からかけられた言葉に皆、固まる。
 そして、壊れたオモチャの様にギギッと振り向いた。

 そこには想像通り、壮絶な笑顔を見せる、腰に手を当てた小笠原エミが逆光の中立っていた―――






 数日後、高校生達の間で一つのうわさが静かに広がった。

 それは『呪いのビデオ』と題されるうわさ。

 そのビデオを見ていると、画面から黒魔術師の格好をしてブーメランを背負った悪霊が現れ、見ていた
人物を呪い殺すと言う、モノだ。
 何気にとある小説の亜流っぽいが、見た場合、誰かにビデオを見せても殺されてしまうという、ちょっと
シビアな怪談である。

 それを聞きつけたマスコミがGS協会に話を持ち込んだが、うわさ話という事で協会は重い腰を上げなかった
事だけは確かである。

 その後、ケルベロス式神も姿を見せる事無く、噂話だけが細々と語り継がれていった。


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