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GS六道親子 天国大作戦!

呪いのサンダーロード!


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:07/11/17








 いつもの様に晴れ渡った青空が広がっていた。

「さぁ〜 今日もよろしくね〜」
「はい〜 おまかせください〜」

 六道冥子が、最近自分の荷物持ち・昼食限定になったエンゲージ娘・メイメイに声をかけると、舌
足らずな返事が返ってきてお重弁当を軽々と持ち上げられた。

 今は30センチ程の身長なメイメイだが、フヨフヨ浮くのでお重弁当を引きずる事もない。結構な
重さが両手にかかっているハズだか軽々と持つ仕草は、魔族なだけある。

 メイメイを引きつれ、いつもの様にベンツに乗り込むと、車は滑る様に動き出す。目指すは横島がいる高校へ。

 それはいつもの光景だった。
 しかし、いつもと違い、冥子の乗ったベンツの後ろに、これまたベンツがこっそりと後を追っていた
のだけは別であったが。






 GS六道親子 天国大作戦! 19  〜 呪いのサンダーロード! 〜






 高校生活で一番バテるのはいつだと聞かれたら横島はすぐこう応える。

「4時間目だ」

 なぜと聞かれたらこう応える。

「腹が空くからに決まっているだろう」

 貧乏生活からの習慣か、はたまた単なる生物学的特徴か。とにかく朝食を食べても4時間目には
腹が空く。それなら3時間目の休憩時間になにか食べれば良いのかもしれないが、それは金銭的に
アウトだった。美神令子からもらった退職金が多少ある今は、余裕があるはずだがそうではない。

 彼には余裕はない。

 なぜなら、余裕な資金は彼の三大欲望のとある部分につぎ込まれてしまうからだ。
 救いがあるとしたら、犯罪には手を染めていないと胸を張って言える事だけだろう。

 という理由から、今日も横島は空腹の腹をさすりながら、運動靴に履き替えた。
 今日は、いつも以上に腹が空きそうだと思いながら。

 同じく余裕がない同士・タイガーも腹をさすりながら横島の横へと歩いて来た。

「あ〜、晴れ渡った空が憎かぁ〜 せめて雨なら体育館じゃけんノ〜」
「そうだなぁ〜〜」
 
 お互い、空腹の為に口調が淡白になりがちだ。
 教師の点呼で集まる生徒達も同じ年齢の男子なので、横島達と同じ理由で動きが緩慢である。

「今日は千メートル走ノ〜」
「走っている最中に倒れるかも」
「だ、大丈夫ですか? 横島さん」

 既にふらふらになっている横島にピートが心配そうに覗き込む。

「今日の朝抜いてきたからなぁ」
「ワッシも今日はパン耳が手に入らなかったジャケン…」

 2人ともブルーになっているのでピートが不思議そうに首を傾ける。

「そ、それくらいだったらいつもの事じゃぁ」
「昨日の昼から何も食べとらん」
「そういえば、ワッシも…」
「だ、大丈夫ですか? なんでしたら今日の夜、うちでスパゲティをご馳走しますよ」
「「ありがたく遠慮する(ケン)」」

 更に青ざめて首を振る横島・タイガーの耳に冥子の応援が届いた。

「みんな〜〜 がんばってね〜〜 運動の〜 後の食事は〜 格別よ〜〜」

 既に屋上にいたらしい冥子が手すりごしに手を振っている。その姿に横島とタイガーは女神の
後光を見た。勿論食の女神である。

「冥子ちゃんの食事が俺の生命線じゃぁー!」
「頑張るジャー! タンパク質ー!」
「…すっかり冥子さんに頼りきった食生活なんですね」

 いきなり復活した2人に引きながらもピートも千メートル走をするためにスタートラインへと
歩き出す。スタートラインでは教師がストップウォッチを見ながら集まるように号令をかけていた。

「用意…スタート!」

 教師の号令を皮切りに、生徒達が走り出した。
 タイムでそれなりの評価に割り振られ、遅すぎれば放課後に更に追加で千メートルを走らされる
ので、限りなく本気モードに走り始めた。それは地獄へのスタートラインだと気付かずに。









「走り始めたわね〜〜 やっぱりピートくん〜 早いわね〜」
「そうですねぇ」

 屋上から眺めていた冥子は走り出した横島達にほんわか笑う。
 上から眺めると全体像が良く見える。先頭集団のなかで苦しさを見せないピートが目立った。
なにせヴァンパイアーハーフ、体力もそこらの高校生ぶっちぎりなのは当然だ。
 体力は普通な横島は真ん中あたり、巨体のタイガーはビリ集団を形成している。それを楽しそうに
見ている。

 一方横にいるメイメイは、冥子と違い、高校生達に向いていなかった。
 彼女の意識は、床に置かれたお重弁当に90%向けられている。
 なんとかお弁当を食べられないだろうかとうんうん唸っていたメイメイは肩を叩かれて冥子に顔を向けた。

「メイメイちゃん〜〜 お弁当は〜 みんなで食べるものなのよ〜」
「ハ、ハイ!!」
「あと少し〜 待ちましょうね〜〜」
「もちろんです!!」

 口調は穏やかだが、その裏に本気をにじませる冥子の声にメイメイが背中に冷や汗をかく。
 魔力は自分の方が上だが、どうも冥子に勝てる気がしないのだ。勿論、冥子の母・幽子にも勝てる
気がしないが。

 本気であせるメイメイの耳が不快な音を拾った。
 冥子も困った顔で首をかしげる。どうやら放送室で誰かがマイクをテストしているらしい。

『あーテステス…うぉっほん! では諸君、これから呪いの爆走ゲームを始めようじゃないか!!』

 急に電波の入った宣言に、メイメイと冥子の目が点になったのは言うまでも無い。






「なんのこっちゃ?」

 横島も勿論、その電波宣言を聞いていた。周りの生徒も同様だ。
 彼等は疑問に思いながらも走るのはやめない。このタイムの結果で放課後がつぶれるのは勘弁だった
からだ。それが彼等の未来を救ったのだが。
 とにかく、聞いた生徒達全員がハテナ顔をするのを無視して電波な放送は続いた。

『ウォッホン! 我がキサラギハートは画期的呪いアイテムを開発した!
  その名も サンダーシューズ!!』

 しばらく間が空いたが、生徒達は反応を返さない。
 生徒達とは別に、輝く笑顔で冥子は手を叩いた。

「あ〜〜、キサラギハートさんね〜〜 GS御用達の〜 霊能グッズ製造販売会社の〜〜」

 と、そこまではわかったが、それ以上はわからず、再び冥子も首をかしげる。
 その間をどう勘違いしたのか、電波の声は喜びに満ちていた。

『このサンダーシューズは、走り始めて速度が落ちたら呪いが発動する。今回は特別に山の男
バージョンを用意してみた!』

 やはり、わからず生徒達は顔をしかめる。呪いグッズの宣伝に来たのだろうか。と半ば納得した
横島の耳に最後の電波が届く。

『では、校庭を走っている生徒諸君! 存分に山男を味わいたまえ!!』

 は?

 電波男に指名された生徒、横島達は疑問を顔に出してしまった。
 ついでに1人、走ることを止めてしまった生徒がいた。その瞬間

「ギャァァ―――?!」

 絶叫に驚き、そちらを見ると転がっている1人の生徒の足元から幽霊が襲い掛かっていた。

「だ、大丈夫ですかぁ?!」

 近くにいたピートがその悪霊に切りかかろうとするが、なにせ転がった生徒とピートの間は離れている。
 横島も何かしようと足を速めた。が、次の瞬間ピートも横島も恐怖に顔を引きつらせる。
 なんとこの山男幽霊、男子生徒の体操服に手を突っ込んでいたのだ。

『山は冷たいっス―――! いざ、肌を温めあおうっス―――!!』
「ギャァァ?!」

 それを見て悲鳴を上げ、逃げ惑う友人達。横島とピートも成す術がない。
 というより、自分達も足を止めてはいけないのだと悟ってしまった。そのままトップスピードで横を
走りぬける。

「どどどど、どうしたらいいんでしょう?!」
「とにかく走れ! 走れメロスぅぅぅ!!」

 友人を見捨てて逃げてるくせにメロスを絶叫する横島だが、あせりと走りを別にできない生徒達は足を
緩めてしまい、山男の幽霊達に襲われる阿鼻叫喚な地獄が始まりつつある。

「まぁ〜 あのヒトたち〜 なにしてるのかしら〜 みんなをなでなでしているわよね〜〜」
「あ〜、スキンシップっていうのじゃありませんか?」
「まぁ〜 そうなの〜〜 でも〜 洋服とられているけど〜〜」
「過激なスキンシップですねぇ」

 暢気な声が屋上から降り注いでいるが、それ以外、大抵の人物はパニックになっていた。
 校舎で勉強していた生徒達も、騒ぎに気付いて窓に駆け寄り、頬を染めていたり悲鳴をあげたりしている。
中にはGSを呼ぶ冷静な教師もいるが、屋上に現役GSがいる事に気付いていないらしい。

「どどどど、どうするんですジャー?!」

 動揺しても足はしっかり動かしているタイガーに、横島も声を張り上げる。

「まままま、待て! 今文珠で除霊するから!!」

 横島は2つほど深呼吸してから手に意識を集中させた。
 六道女学院の臨海学校に付き合って、文珠のストックを空にして数日経っていた。日数的には1つ
文珠が出来ておかしくはない。

 が、霊力はあれど集中力できなかった。なにせ足を遅くしたら即、山男味である。元々落ち着きがない
横島に奇跡など起きようはずも無い。

 結果、プスプスと霊力の煙を指先に集めただけで終った。

「ああああ―――!」
「横島サ―――ん!!」

 失敗に終った横島にタイガーも絶叫する。
 絶望に染まる2人を、元凶を作った人物は爽やかに笑って見下げていた。屋上で。
 奇しくも冥子の横である。

「ワハハハハ! 叫べ! 転べ! 味わいたまえ!! そして空っぽになれば六道の娘もあきらめて
我が父を婿にするだろう! ハハハハ、そうしたら次の六道オーナーは僕になる!」

 再度、ワハハ笑いを繰り広げる男、名を如月士郎という。
 六道冥子の婿候補・如月信五郎45歳・バツイチの息子である。
 冥子の方は、首をかしげて士郎に話しかける。

「でも〜〜 六道の〜 オーナーは〜 女性しか〜 なれないのよ〜〜」

 正確には12神将を従える事ができた六道の人間がオーナーになるのだが、12神将達は今まで
六道の女性達にしか従わなかったので大差はない。その冥子の質問に士郎は自信満々にうなずいた。

「大丈夫さ。あのぽやっとした嬢ちゃんはオヤジが始末するから」

 ニヤけた顔を更に緩ませる士郎に冥子は顔をしかめる。
 冥子はしばらく士郎を眺め、そして判決を下した。

「バサラちゃ〜〜ん、ハグ〜〜〜」

 バサラ・ハグの刑に決めたらしい。
 冥子に呼びかけられたバサラは影から現れると躊躇なく士郎を大きな口で咥え、飲み込んだ。
 横島とハグをする時は、横島の足を外に出すがハグの刑は全てを飲み込むらしい。
 時折バサラの巨体が少し揺らぐので士郎は生きているらしいが冥子は気にしない。
 士郎が消えて、冥子はうなずくと改めて校庭へと顔を向けた。



「そうです、妙案を思い浮かびました!」
「よくやったピート!! で?!」

 走りながらピートの顔が晴れ渡り、横島も喜びに顔がほころぶ。
 うなずいたピートは体を霧に変える。途端に横島の顔がひきつった。

「………オイ」
「どうです! これなら呪いは無効ですよね!」
「俺らはどないせえっちゅうんじゃぁぁ!!」
「あ、そうでしたね」
「ピートォォォ!!」

 1人だけ呪いを逃れたピートに横島の絶叫が襲い掛かるが、数秒沈黙してからピートは妙案を思いついた。

「このまま、僕がエミさんを呼んでくるっていうのはどうでしょうか?」
「エミさんを?!」
「エミさんの霊体衝撃破なら一発ですよ」
「逃げるんか!? 逃げるつもりなんかぁ?!」
「…少しの間だけ、頑張ってくださいね!」
「卑怯者ぉぉ―――!」

 横島の血の叫びを無視して、ピートらしき霧は急いで校庭を飛び出した。そのままエミを呼びに行くのだろう。
 呪いの言葉を吐く横島だったが、前方を煙を立てて走り寄ってくる物体に驚いてそちらを向く。なぜか目を
血走らせて走るタイガーがいた。

「横島サん、ワッシは、ワッシは…もう体力が限界じゃケ―――ン!!」

 それは誰でも一緒である。横島だってギリギリいっぱいなのだ。
 口を開いた横島に、タイガーは更に叫んだ。

「ジャケン、一緒に自爆ジャァァ―――!!」
「ハァァ?!」

 ハテナ顔で叫ぶ横島にタイガーは滑り込みをかませた。横島の足目掛けて。

「一緒に山男と戦うジャケ―――!!」
「それは自爆というよりテロだろぉぉ―――!!」
 
 青ざめ、涙を流しながら間一髪でタイガーの足を避ける横島。その横をタイガーが滑り込んでいく。
 横島の後ろにいた運の悪い友人が2人巻き込まれて肉団子になって止まった。そして山男が足元から
ゆらりと現れる。

「来さらせ悪霊―――! 殲滅ジャァァ―――! フンガ―――!!」
『自分は、自分は、もうたまらないっス―――!』
「ぎゃぁぁ―――?!」

 


「ううむ〜 ちょっと阿鼻叫喚になっているのぉ」
「あ〜 Dr.カオス〜〜」

 冥子が先程とは反対方向に向くと、予想通りDr.カオスが顎に手を当てて校庭を見下ろしていた。
 カオスの登場にいぶかしむ冥子にカオスが笑う。
 
「うむ。あの男にちょっと発明品を売ってのぉ」

 チラリとバサラに視線を送ってから再度下を見下ろす。
 
「我ながら、とんでもない品を発明したもんじゃ」

 とんでもないと言うより、はた迷惑な発明品である。

「しかし、用意しておいて良かったのぉ」

 男として、この惨状は同情に値するらしく、少々顔をしかめながらもカオスは拡声器を口付近まで
持ってきた。学校にあったものを拝借したらしく、学校名が書かれている。

『あー、テステス、私はヨーロッパの魔王、Dr.カオスである!!』

 また痛い宣言に校舎にいる生徒達が騒然とカオスを指差し始める。
 カオスの方はそちらに向くことなく、腰に手を当て胸を張った。

『あー、その呪いのシューズだが、呪いを解くことができる。それは!』

 人差し指を天に向け、ビシリ! と校庭の真ん中辺りを指差した。
 つられて大勢の人間がそちらを見ると、いつの間に現れたのか、少女が花輪を持って佇んでいた。

「あ〜 マリアちゃんも〜 来てたのねぇ〜〜」
『わが最高傑作のアンドロイド・マリアが持った花輪を首にかければ、たちどころに呪いは消えよう!』

 ワハハハハ! と笑うカオスから、皆すぐに視線を逸らせる。
 一様にこの後の怒涛の状況を予想したからだ。

『って、無視か―――?!』
 
 カオスの予想ではここで拍手をされるハズだったのだが無いので叫んでみた。が、みな無視である。
屋上の隅でのの字を書き始めるカオスにも、みな無視だ。
 一方校庭では、皆の予想を裏切る事無く、男子生徒は動き出していた。
 かけるチップは己の貞操ならば、目が血走るのも無理は無い。
 マリアが持っている花輪が3個というのも問題だろう。

「ダッシャ―――! 邪魔するモノは熱帯ジャングルで体育座りジャ―――!!」

 突如、ブルトーザーの如くの猛攻を見せて山男を押しやりつつマリアに迫るタイガー。

「何ピトたりとも、俺の前を走るんじゃねぇぇ―――!!」

 いきなり走り屋に転向したらしい、綺麗なフォームと怒涛の走りを見せる横島。
 2人とも、さりげなく競争者に足をかけて転ばす所がお代官である。

 2人、お互いを見ながらマリアへと迫っていた。
 しかし、いかにマリアとて花輪を渡せるのは、同時に1人だけだろう。

 そうなれば、する事はただ一つ。

「横島さん、フンガ―――!!」

 タイガーは迷わず自分の近くにいた生徒を横島へと投げ飛ばした。

「甘い! 俺をなんだと思っている!」

 綺麗に生徒を避け、横島は手を振りかぶる。
 手から、小さな霊気の盾が放たれた。

「俺は美神令子除霊事務所の元メンバーだぞ!!」
「フギャ?!」
 
 盾にぶつかり、転んだタイガーに勝ち誇った笑みを送る。

「人間のなしうる悪行なんざ、年中行事じゃぁぁ―――! というわけでマリア―――!」

 最初にマリアの下にたどり着けた横島はそのまま走りつつ、頭をマリアに向けた。
 マリアの持つ花輪を首にささげてもらうために。
 
 花輪まであと1センチという所で。花輪が消滅した。
 そのままトップスピードでマリアの横を走りぬける。

「………おーれ」

 どうやらマリア、闘牛と戦う闘牛者の赤マントの様に花輪を振ったらしい。

「マリアぁぁ―――?!」
『うむ。この頃マリアはスペインに凝っていてのぉ』
「爺さん、ちゃんとしつけとけぇぇ―――!」

 天まで届けとばかりに、横島の悲鳴が青い空にはじけて消えた。









 
 数年後、東京のとあるオカマ繁華街である噂が流れた。

 東京の某高校を卒業するとオカマ傾向が強くなる、という笑えない噂だ。
 事実、なぜか3年程、その学校卒業生がオカマバーに就職する人数が増えたらしい。

 その噂が本当なのか、ウソなのか。その学校の卒業生達は黙して語らなかった。




 


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