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横島、逝きま〜す!

GTOで逝こう!(後編)


投稿者名:担当V
投稿日時:07/11/16

「じゃあ、みんなそれぞれにつくり始めてね〜。怪我なんかしちゃだめよ?」

『はーい。』

オカマの開始の声を受けて生徒が元気良く返事をする。

学校の冷蔵庫に新鮮な野菜や魚が入っていたことにも驚きだが一番驚いたのは、

「ほら、横島くん。キノコを洗うわよ。」

意外と愛子の手際が良いことだ。

テキパキと見る見るうちにキノコを捌いていく。・・・切られるキノコを見ると何か複雑ではあるが。

「先生は、お手本を造るから・・・。」

と、オカマ。ご自分も凄いスピードで料理を仕上げていく。しかし、手を抜いてはいない。

(おいおい。逃げるんじゃなかったのかよ?)

そう考えながらも愛子の指示に従って(同じ班なんだよ。)下拵えを中心に料理を作っている俺。

料理に一息付いたのか、各班の様子を見に回っていたオカマがこっちに歩いてくる。

「あらぁ!愛子ちゃんは凄く上手ね。手際が良いわ〜。」

「え!本当ですか!」

「良いお嫁さんに慣れるわよぉ。」

いやん。いやん。と、旅立ってしまった愛子を尻目にオカマが俺に振り向く。

「あら?横島君!!指切れてるんじゃない?」

「え?」

俺の右手を取って声を上げる。

「大変!すぐに手当しなきゃ。横島くんは大丈夫だから。みんなは、お料理を続けててね?特にお味噌汁は、煮立てちゃったら美味しくなくなっちゃうわよ?」

保健委員・・・と発言した生徒に「私が連れて行く。」と言い放ち、有無を言わさず俺を引っ張って家庭科室から出るオカマ。

「怪我なんてしてないぞ?俺。」

「何言ってるのよ?逃げるための口実じゃない。」

ああ。なるほど。





第10話 GTOで逝こう!(後編)





☆★☆★



でりでりり〜ん!!

家庭科室を抜け出して廊下を走り出した俺達だったが、校舎の壁や床が不気味な緑色の不定形物質になって溶け出していく。

「うわぁ!な、なんだこれっ!?」

「でろでろねー。逃げ出したのばれちゃったかしら?」

「まいったわね〜。」と、こちらに跳び掛かって来た緑色のデロデロを霊力を込めた拳で叩き落とすオカマ。

俺達は走って階段に差し掛かる。

「どっちに逃げるんだ?」

そうオカマに問い掛けて階段の下を・・・ってなんじゃこりゃ〜!

覗き込んだ階段は下まで無限に続いていた。一体何階建てなんだよ?この校舎。

「どこに逃げても妖怪の手の中よ。霊的な迷路になってるんだわ。」

なるほど。探索班があった頃に迷路みたくなったっつー話はこれか。

と、言うことは妖怪がこちらを逃がさないようにしてるってことで・・・。

何とかして校舎から出ても・・・駄目だよな?

「どうするんだよ?どこに逃げれば良いんだ?」

「さぁ?ただ闇雲に逃げてるだけだからねぇ。解らないわよ。」

なに!?闇雲にって何だよ!?

「それじゃあどうしようにもないやんかー!それでもオカマかぁ!!」

「解んないものは解らないわよっ!大体、なんの情報も無いんだから推測のしようが無いじゃないっ!」

困った。信じてたのに・・・。僕を裏切ったな。オカマのくせに!

こいつの除霊関係の知識とかは信用してたんだけどなぁ。そうだよな。情報が無ければ・・・って。

(俺、こいつが来るまで聞いた話を教えてねーんじゃ?)



☆★☆★



「ねえ。忠夫。聞いた話と精神の支配関係を総合すると・・・妖怪は、私たちをこの学校の一員にしたい様に見えるわよね?」

「そうみたいだな。」

オカマが来るまでに愛子達から聞いた話や、俺の体験した精神支配の様なものの事を説明する。

もちろん、行く手を遮るデロデロを蹴散らしながらだが。

・・・と言っても蹴散らしているのはオカマ。

実際、聞くところによると、オカマも先生をやらなくてはならないと言う衝動に駆られて居たそうだ。

料理をしながら男子生徒を見ていて、ムラムラとした時に正気に返ったらしいが・・・。すまん。俺も詳しく聞く勇気が無い。

「なんでかしら?」

人差し指を唇に当てて考えるオカマ。

そのポーズを崩さないままデロデロに蹴りを食らわせている。う〜ん。シュールな光景だ。

え?俺?・・・俺は何も出来ないからオカマの背中に隠れてギャーギャー騒いでいるのだっ!えっへん!

そこっ!!格好悪いとか言わないっ!俺だって、霊力が使えればなぁ!

・・・う。情けねぇ。

っと、話を戻そう。

「なんでって・・・なんでだろ?」

そうだな。もしオカマの推測通りに俺達をこの学校の一員にしてもこの妖怪にメリットがない。

「こんな特殊な空間に閉じ込めて、栄養にするでもなし。」

(つまり、精気を吸い取るとか、殺したりしないってことだな。)

これ程の妖怪なら必ず何らかの活動エネルギーを必要とするはずだ。

この学校が精気を吸収する妖怪なら・・・亜空間への扉として現実世界に机を具現化し、吸い込んだ生徒をこの学校に閉じ込め精気を吸収するだろう。

なにせ、亜空間の構築・維持、それに生徒達への精神支配。それだけでも相当のエネルギーを必要とするだろう。

それを精気以外の何らかの方法で確保し、使用するとは・・・。

つまり、かなりの力を持った妖怪であるはずだ。

これ程の妖怪なら、まず間違いなく高度な知能を有しているはず。

ならば、妖怪のこの学校での行動も、何らかの目的があると見る事が出来る。

問題は、その目的がなんなのか?って事なんだけど・・・。

「ふ〜ん。ああ。そう言うこと。」

オカマが何やら一人で頷いている。無論、デロデロを蹴り飛ばしながら。

いや。だからそのポーズのまま戦うって・・・。意外と凄いんだか変なんだか。

「で?何か解ったのか!?」

「まず。今の状況に疑問を覚えない?」

オカマからの質問。

今の状況?

この変なデロデロに行く手を遮られているだけじゃ?

そう思い周りを見回す。・・・?後ろの方は元に戻ってる!?

「気付いたみたいね?私達が走っている周りの壁だけが変化してるのよ。まるで私達の居場所を教えるかのようにね。」

す、凄い。俺は走るだけで周りを気にする余裕なんて全然無かったのに。

「もしも、この学校自体が妖怪であった場合。こんなまどろっこしい手段を使うかしら?」

オカマの言いたいことが解った!そうか!!

「もし学校自体が妖怪なら・・・俺達をこのデロデロで拘束して元の教室に返す。んで、もっと強力な精神支配を掛ける!!」

その方が合理的だし、何より学校生活を送らせようとする妖怪の都合が良いのだから。

「その通りよ。その方が合理的だわ。なら何故?こんな方法を執るのかしら?」

この方法と執る理由?何故だ?・・・こんな時は師匠の講義を思い出せっ!

『よいかっ!横島!相手の出方が解らない時は、相手の気持ちになって考えるんじゃ!!・・・しかし、考えるのが面倒なら逃げるのじゃ!』

相手の気持ちになって・・・か。

こんな事をしても俺達は捕まえられないし・・・。

オカマはこの学校自体が妖怪って説を否定している様だ。

学校が妖怪じゃないとして。

じゃあ。妖怪はどこだ?

どうやって俺達を捕まえる気だ?

俺達の行く手を遮るだけで・・・さっきオカマは何て言った!?

『居場所を教えるかの様』そうだ、そう言ったんだ。

確かに。俺達の周りだけをデロデロに変化するようにしていれば、それをオカマが攻撃することで妖怪が俺達の居場所を知ることが出来る。

ん?つまり、相手からは知覚出来ても視認出来てないってことになるのか!?

ああ。だから学校自体が妖怪じゃないって推測かっ!

今までの事を思い出しながら考えて見る。

突然現れたブルマー。

冷蔵庫に入っているメニュー通りの食材。

余りにもタイミングが良すぎる。特に調理実習は、メニューを決めてから家庭科室に行ったのに、ピッタリそれ用の食材が有る方がおかしいんだ!

それらから総合的に判断すると・・・妖怪は俺達をリアルタイムで視認出来て、尚かつ学校自体ではない。

ってことは・・・。

「クラスメートの中にいるのかっ!!?」

「その通りよ。忠夫ちゃん。良く出来ましたっ(ハート)」

俺の回答に満足げに頷いたオカマであった。



☆★☆★



(しかしなぁ。)

オカマの提唱するクラスメート妖怪説について考えてみる。

(辻褄は合うんだけどな・・・。)

そうなのだ。よくよく考えてみれば、今回この学校で起こったことの一つ一つが、オカマの説を裏付ける状況証拠でもある。

「それだけで、あいつらの誰かを妖怪扱いってのは・・・。」

と問い掛ける俺にオカマは更なる爆弾を投下した!

「30数年もここに居るって言うのがそもそもおかしいんじゃない?」

30数年って。

そんなに長く学校に居るのは、

「って、愛子が?」

あんなに可愛い子が妖怪だって!?

(いくらオカマでも、あの可愛さに嫉妬するのは・・・。」

ごつん!!!!

「!!!!!!い、いてええええええ!!」

「声に出てるわよぉ?た・だ・お・ちゃん。」

にっこり良い笑顔で俺に拳骨をくれたオカマ。

額に青筋を浮かべながら説明を続ける。

「こんなに入り組んで、妖怪の気分次第で構造が変化する建物よ?・・・いくら大きな音が聞こえたからって、普通に考えて単独行動はしないんじゃない?」

それは、俺がこの学校に落ちてきた時のことだと、すぐに解った。

「そうだな。(確かにその後に高松さんに注意されていたんだよな・・・。)」

「でも、忠夫がこの学校に来た時に居たのは彼女だけ。いくら、長い間この学校に居るって言っても、一人であちこち歩けるかしら?」

信じたくは無かったが・・・。オカマの言うことには何故か凄い説得力があって・・・。

「カマ、かけてみましょう?」

「・・・・・・。」

そう言ってくるオカマに俺は、反論出来ずに従うのだった。



☆★☆★



不定形デロデロから逃げ回り・・・手近な教室、そこは化学室だった・・・に入る。

すぐさま、オカマは自分の髪の毛を一本抜き取り、それに霊力を込めて、出入り口のドアの下にセロハンテープで固定する。

「これで、とっても簡易だけど、結界の完成よ。」

オカマが人差し指を上げて説明してくる。

「妖怪なら、この霊気に何らかの反応をしてくれるはずよ。」

なるほど、一般人なら何ともないだろうけど・・・妖怪なら、オカマの霊気に接触して反応するってことか!!

「せんせぇ!」

「授業の時間・・・。」

そうこうしている間に、廊下の遠くから俺達(主にオカマ先生)を呼ぶ声が聞こえてくる。

「うふふふふふふふ。」

その声を聞いて不気味な笑い声を上げるオカマ・・・。はっきり言って怖い!


ガラガラガラ〜!!


俺達の隠れていた化学室の扉が開かれる!

先頭に立っていたのは・・・予想通り愛子だった。

「あらぁ。ずいぶんと早いのねぇ。まるでここに私達がいるって解っていたみたいよ?」

オカマの声を無視して、愛子が教室に入ろうとして・・・。


バチッ!!!


オカマの髪の毛が光を放って切れる。

「〜!!!」

痛かったのか、顔を顰めて踞る愛子。・・・やっぱり、そうなのか。

他のクラスメートは何が起こったのか理解出来ずに固まっているようだ。

「そこには、私の髪の毛が置いてあったのよ。痛くなかった?妖怪さん。」

オカマの問い掛けに、愛子は、キッと俺達を睨み付けて、

「ここは私の学校よ!!私の青春なのよ!誰にも邪魔はさせないわっ!!!!」

怒りの声と共に、愛子が床に吸い込まれる様に沈み込んで・・・教室中の備品(標本とか色々だ)が、廊下のようにデロデロ〜と溶け出す。

「うわわぁぁぁ!」

クラスメート達が恐慌状態に陥って、

「逃げるわよっ!ほらっ!」

オカマが叫んで俺を引っ張り逃げ出す。クラスメートも俺達に付いて逃げ出して・・・。

「どこに逃げても無駄よ!ここは私の『机』の中なんだから!」

逃げ出す俺達の背中に愛子の声が聞こえてきたのだった。



☆★☆★



結局、俺達は家庭科室に戻ってきてしまった。

何処をどの様に走ったかは解らない。気が付いて逃げ込んだ先は、調理実習をしていた家庭科室だった。

・・・造りかけの料理が虚しさを誘う。

「やめろよ愛子。なんで、こんなことするんだよ!」

愛子の姿は見えない。だけど、俺の声は聞こえているはずだ。

高松さん達も、虚空に向かって叫ぶ。

「愛子君!君が、僕たちと学校生活を送ろうとしていたのは本心だって解っている。」

「怒ってないから!」

「俺達は、君のクラスメートだから!」

全員が愛子に呼び掛ける。それは、此処に閉じ込められた恨みや怒りなどでは無かった。

純粋に、愛子を心配して・・思いやっている呼び掛けだったのだ!

さっきの化学室での愛子の行動の結果・・・。みんなの精神は元に戻っていた。

だからこそ、愛子にみんなの言葉が本心だって事が届いたんだろう。

「私・・・私・・・!」

愛子が家庭科室の中心、みんなの真ん中に現れる。

その姿は、さっきまでのセーラー服の愛子で泣きじゃくっていた。

「私はっ!『机』に『念』が宿って生まれた妖怪なの!」

「だけど、私は所詮妖怪。普通の学校では受け入れられる筈もない。私は、私はただ、みんなと一緒に学校生活を・・・青春をしたかっただけなのよ〜!」

愛子の泣き声が響く。

その泣き声は寂しそうで・・・。俺達は何も言うことが出来なくて・・・。


ずずずずず〜!


緊張感の欠片もない音が響く。

何事かとそちらを見やれば、行儀良く床に正座して、美味しそうに味噌汁を啜るオカマの姿。

「美味しいわね。」

「え?」

突然のことに付いていけない俺達を尻目に、オカマは続ける。

「愛子さんのお味噌汁よ。」

確かに、オカマの座っている場所は、さっきまで愛子が調理していた場所だな。

「こんなに美味しいお味噌汁初めてよ。」

「うむ。ホントだ。美味い。」

「おお!美味い!」

「美味いよ!」

オカマから味噌汁を受け取って食べる俺達。

クラス全員が今の状況を忘れて、口々に愛子の味噌汁を褒め称える。

・・・確かにそれは不思議な優しさと、温かさを感じさせる味噌汁だった。

「でもね?みんなにとって一番なのは、自分の家で、家族と食べる御飯じゃないのかしら?」

「そ、それは!」

愛子が弾かれたように立ち上がる!

高松さん達も、沈んだ顔で視線を落としている。

「あなたは、此処で学校生活『ごっこ』をしていれば良いかもしれないわ。だけど、『外』の世界に残された、みんなの家族は何て思うでしょうね?」

「・・・きっと、寂しい思いをしていると思うの。ねえ?愛子さん。あなたが支配してるんじゃ・・・みんな本当の意味で生徒じゃないわ」

オカマの静かだが、力強い声が教室に響いた。

そして・・・。


キ〜ンコ〜ン・カ〜ン・コ〜〜ン・・・・


偽りの学校生活に、今、終業のチャイムが鳴り響いた・・・。

物悲しい音色を、亜空間全てに響かせようと・・・。



☆★☆★



「・・・と言うわけで、教室の隅で構いません。備品としてでも何でも良いですから・・・。私をこの学校に置いてください!!」

愛子が机から上半身を出した状態で校長に頭を下げる。

「・・・・・・・・。」

(駄目か?)

重い沈黙の後、校長が、口を開く。

「こんな生徒を待っていたーーー!!!!!」

「君は、立派なこの学校の生徒だ!!」

校長の一声と共に、愛子の・・・机妖怪のクラスへの編入が認められたのだった!

「横島の机として・・ああ、そこの男は授業中殆ど寝ているから、空いてるようなものだ。」

こうして、突っ込み所は有るものの・・・俺の机兼クラスメートとして愛子は学校で生活することが決まった。

もちろん、妖怪と言うことでの責任とか何とか・・・難しいことは師匠に連絡をしていたオカマが話をつけたらしい。



☆★☆★



「あいつ。学校に溶け込めるかな?」

寺に向かう道をオカマと並んで歩きながら、独り言の様に問い掛ける。

「大丈夫でしょ?彼女は強い子だから。・・・でも、ちゃんと気に掛けてあげなさいよ。」

オカマが、俺の目を覗き込みながら念押しして来た。

俺も男の子だ。妖怪だろうが何であろうが可愛い子を悲しませるつもりはない。

「もちろんだよ。しっかし、今日のオカマは先生してたな!!」

これは俺の偽らざる感想。

まさか、あんな方法で、退治しないで説得してしまうとは!

しかし、俺の賞賛も何処吹く風。やっぱりオカマはオカマだったわけで・・・。

「あら?そう?じゃあ、帰ったら、色々手取り足取り腰取り教えちゃおうかしら?」

「いらんわーーー!!!」

俺の絶叫が夕焼けのオレンジ色の空に吸い込まれていったのだった・・・。









でも、勘九朗。

あんたは、本当に偉大なオカマ先生だぜ。


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