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GS六道親子 天国大作戦!

史上最大の臨海学校!! 3


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:07/11/14




 西条、五条院、ピート、横島、タマモの順で駆け出しながらピートは期待した顔で前にいる2人に声をかけた。

「ところで、どうやってあの悪霊を退治するんですか?」

 自分達が散々だった為にピートは何か秘策があるに違いないと瞳を輝かせている。
 横島・タマモも耳をすませていた。

 西条はニヤリと歯を輝かせてサムズアップする。

「決まっているだろう」
「決まっていますわ!」

 五条院もにこりと笑う。

「「最大戦力を全力投入だよ(ですわ)」」

「………」
「アイツラに前を任せて、俺らは後ろに回ってズドンで決まりだよな」
「良い囮ができたってものよ」

 横島とタマモのひそひそ声を聞きながら、ピートはこの事件が終ったら自分の将来を良く考えようと
密かに誓うのだった。






 GS六道親子 天国大作戦! 18  〜 史上最大の臨海学校!! 3 〜






 平知盛はさびれた小さな祠の前で足を止めた。
 小さな扉を開けると、そこには小さな水晶珠が置かれていた。それは知盛の後ろから射す太陽の輝き
を受け、知盛の瞳をまぶしく照らす。

 小さくため息をついた。

 思えばここまでニセモノを幾数掴まされ、壊してきたことか。
 これも本物とは限らないのだが。知盛は刀を振り上げる。

「願わくば、これが我が主君の魂を封印したる術具であらんことを…!」

 振り向き様、刀をひらめかせた。

 金属同士がぶつかる音が数度、数メートル先で男と女が一組、何かを構えて睨んでいた。

「常識外れな運動神経だな」
「では今度はこちらですわ!」

 五条院が背に背負ったライフルを構えて撃ち始める。
 今度も刀で応戦するが、みるみる刀に刃こぼれが生じ始める。

「オホホホ。精霊石機関銃のお味はいかがです?」
「ついでに破魔札の味も味わいたまえ」

 五条院と連動して西条が破魔札を連弾してくる。
 知盛は小刀も抜いて応戦するが、見る間に刀が刃こぼれしていき、体に当たる攻撃も徐々に増えていく。

 それを横目に横島チームは迂回していた。ピートの目がうつろになっているのがチャームポイントである。

「科学の勝利だな」
「さ、西条さん…! いつもなら騎士道精神とか、フェアプレイとか言いそうなのに…!」
「よっぽど頭にきてるんでしょ」

 ヒソヒソ話し合いながら隠れる仕草は、「これから観戦するぜ! 手出しはしないでおくんなまし」
という感じだ。

 何気に2人で勇戦していたGメンだったが、五条院の機関銃に弾切れが起こってしまった。
 いつもなら、後ろにいる田部に放り投げて弾を補充してもらい、自分はもう一つの機関銃をすぐさま撃ち始める
のだが、今は田部がいない。後ろに放り投げ、腰に下げていた破魔札機関銃を構える。

 その間に西条は左手で器用に破魔札を投げながら右手で小型爆弾を放り投げ始めた。
 とことん遠距離で片をつける方法を採るらしい。おそらく、横島達の苦戦を上空から観察していたのだろう。

 しかし、この方法は横島達に最悪の状況を作り上げた。

 爆弾が知盛の刀で横島達の方へと弾き返されたのだ。

「何すんのよ!」
「西条ぉぉぉ!!」

 咄嗟にタマモが出した狐火に、弾が爆発してコロコロと転がる2人。
 ピートは身体を霧に変え爆発を避け、ついでにこっそり社前に姿を現していた。

「とにかくこれを…!」

 社に鎮座している水晶珠を手に取り、また霧に姿を変えようとしたが、そこにパンチが飛んできた。

「グァ?!」
「盗まれてはかなわん。返してもらうぞ」

 片方だけを異様に長くしてピートをパンチして転がせた知盛は、妖気を高めて近づいて来た。
 ピートは青ざめながら、恐怖を押しのけ、何かを叫ぼうとしたが何も浮かばない。思わず脳裏に
浮かんだ横島なら言うだろう言葉を吐いてみた。

「へ、平安チックなくせに、せめて、ロボパンチしてみろ! マリアさんを見習って!」
「置いていけ」

 動揺が激しすぎて脈絡の無いピートの抗議をも一刀両断して、Gメン2人を背後に社の方へと歩みだす。

 一方無視された西条と五条院の攻撃は、知盛の背に当たっているのだが、知盛の表情に堪えた様子は見られ
ない。正に魔族級の耐久力だ。

「…チ! 精霊機関銃の方に替えた方が良かったのかしら」
「大丈夫だ!全弾撃ち尽くすぞ」

 良く見れば、知盛の体が少しずつではあるが壊れかけている。このまま壊していき”核”まで到達すれば
知盛とて弱体・封印はできるだろう。このまま攻撃を続けるしかなかった。ピートには悪いが死ぬまで頑張って
ひきつけて欲しい。ピートの助けを呼ぶ視線に歯を輝かせる。

「安心したまえ、焼香代ははずむさ」
「安心できません!!」

 勿論、ピートはこのまま西条達の思惑通りにはなりたくなかった。近づく知盛に死を感じながら、左右を
見渡し、横島と目が合った。

「ええっと、横島さん! パス!」

 素早いモーションで手に持った水晶珠を横島に投げた。

「え…」
「渡すか!!」

 横島は呆然としたが、珠と一緒に知盛パンチも飛んできたのを確認すると、思わず体を大ぶりに半回転させる。 
 有体に言えば、パンチつき珠を避けたのだ。

「横島さぁぁん!」
「どないせえっちゅうんじゃぁぁ!!」

 ピートが批難するが、横島としては抗議する気満々だ。
 横島がいなくなり、知盛の手はそのまま珠を掴み取るのかと思われたが、そこまで器用に動けない
らしくパンチそのままの形で珠諸共地面にぶつかった。

 突如、地面が大揺れを起した。

 Gメン2人は攻撃を一端中止し、体勢をキープさせる。ピートと横島、タマモは片手を地面につけ、
なんとか倒れるのを防いだ。

「ハハ…ハハハハ! やっと、やっと!」

 知盛は幽霊なので、地面から少し浮いて天に向かって狂った様に笑い出していた。

 知盛の伸びた手の先、地面に陥没した場所から輝く霊体が浮き上がってくる。
 ゆれの納まりつつある中、目を凝らして見るとそれは小さな子供…の様に見える。

 が、これが知盛のスキになった。このスキを逃すほど、西条はお人好しではない。全力で駆け出し
愛剣を気合一閃で突き入れる。

「ハ…」

 笑っていた知盛が己の胸を覗き込む。胸には剣先が突き出していた。血走った目で首を後ろに向けると
先程まで遠くから攻撃していた男の顔があった。

「き、貴様…!」
「これで終わりだ、無となり、塵となれ!」
「ギ!!」

 中核が壊れてゆき、知盛は悲鳴をあげる前にその身体を散らした。
 あたりには知盛が残した瘴気にも似た霊気が漂う。

 西条はため息をついて、己の剣を見やり力なく地面に落とす。
 乾いた音をたてながら地面に転がったその愛剣は、先程とは違い刀身が黒く染まっていた。

<まったく…武器は減る一方なのに、相手は増えるは霊力があるわ…>

 内心グチりながら、目だけで五条院を見ると彼女は放り投げた精霊機関銃の補充を行っていた。
 この新たな敵に精霊機関銃をブチ込む気らしい。
 西条は五条院の近くでフォローができるよう、札を構えつつ敵を観察する、


 一方、見た目は子供、中身は御歳うん才の幽霊は天に向かって叫んでいた。
 声は聞こえずとも、発する霊気に横島達は攻撃態勢を緩めない。
 緩めないが横島は気弱に笑いながらタマモに話しかける。

「こ、これで、このガキがそのまま、泣きながら天に向かって成仏していくなんて」
「あるわけないでしょ!」

 横島の希望的感想を一刀両断したタマモの叫びに子供は叫ぶのは止めて彼女を見つめる―――と同時に
こちらへ向かってきた。
 手を広げて、歓喜の表情で口を開く。

「母上―――!」
「誰が母上よ?!」

 俊敏に避けつつツッコムタマモの横を通り過ぎ、子供は後方の地面に転がった。野球なら見事な滑り
込みと賞賛されたことだろう。

「ちょっと! 私は母とも思えないほど女らしく見えないとでもおっしゃるのですか!」

 離れた所では、五条院が違う方向に怒りを見せ、西条に止められている。
 油断なく、睨むタマモの目の前で子供はゆらりと立ち上がる。霊気が冷たく、重く変化していく。

「母上…そんなに、現世に思いを抱きますか…」
「私は子供なんて産んでないわよ!」

 悲しげに俯きながら言い募る子供に、タマモが目を吊り上げて抗議する。が、相手は悪霊。悪霊とは
大体自分以外の意見に耳を傾けないが、この子供もそうだった。
 虚ろな瞳をタマモを庇う横島に向ける。その瞳に宿る暗い炎に横島が身を固まらせる。

「わかりました。―――その男ですね」
「オ、俺?!」
「母上を…離しなさい。間男」
「ま…なんかえらい誤解してない?!」
 
 キレるタマモを余所に、子供は袖から石の様な物を出して子供らしくそれを横島へと投げ放った。
 仕草は可愛いが、ソレは悪霊の技。ビー玉らしく見えるそれは、超極悪な気の塊であり、当たれば
横島であろうと一球で逝けるであろう代物だった。

 横島は反応できなかった。出来ることは、手を顔にかざし―――

「許しませ―――ん!!」

 横島に当たるハズであったビー玉を弾いたモノがいた。
 横島と同じ位の身長を持ち、童顔だが平凡な顔立ち、背にはおさげが揺れている。普通に見えてそうは
見えないのはその手に持つ身の丈より大きなカマのせいだ。それが彼女を非凡人へ格上げしている。
 どこからともなく現れたその少女は瞳をうるませながら

「ここここ、この人が殺されちゃったらノルマ不足で、ケケケケ、ケルベロスのエサにされるのは
私なんです! お、お願いですから! この人以外にしてくださいぃぃ!」

 泣き言を吐いた。いつぞやの、不憫なエンゲージ娘だろう。
 
 さすがは魔族、その姿と口調は相変わらずだが、人間達は微妙な顔だがピートとタマモは眉をしかめ、
子供は警戒して後方へと飛んで逃げる。エンゲージ娘の魔力に警戒したのだろう。
 唐突な登場に固まる人間達を余所に、エンゲージ娘は意味もなく胸を張る。
 すると、子供は悲しそうにイヤイヤ顔を振りながら、懇願し始めた。

「貴方は邪魔です。わたしは母上を返してもらいたいだけです。邪魔しないで下さい」

 子供は顔を振りながら涙をぽろぽろ流している。
 普通のの子供にこうされたら、普通の大人なら退散しただろう。しかし悪霊の言う言葉に耳を貸すGSはいない。
 言われたエンゲージ娘もイヤイヤとおさげを振りながら涙ながらに訴え始めた。

「きょ、今日調べたら銀行残高が500円切っちゃったんですよぉぉぉ!
こここ、これ以上の失態は給料振込みに差し障りがありまくりです! 貴方は私にカスミを食べて
生きろと言うのですかぁ?! ムリムリ無理です! 私、仙人じゃないんですからぁぁ!!」

 聞くも涙の主張である。特に横島は同情の涙がにじみ出そうで居たたまれない。
 子供もエンゲージ娘も一瞬黙り込んでからお互いイヤイヤ身振り手振りを始める。

「邪魔邪魔邪魔邪魔」
「ムリムリムリムリ」

 いきなり子供のワガママ空間に移転した雰囲気を醸しだしている。
 横島は呆然として事の成り行きを見守るが、西条は何やら地面に魔方陣を描き始めている。

 困ったなぁ、と思いながら上を見上げると、何かが落ちてきている事に気付いた。

「―――危な」

 い、の言葉と同時に「何か」が地面に激突した。エンゲージ娘を下敷きに。普段ならこの役目は
横島になるのだが、エンゲージ娘の方が不運度が高かったらしい。

「ピギャ?!」

 犠牲者の悲鳴の原因は、大きな黒いマリモの様な物体だった。
 そして、当然ながらその物体が跳ねた。

「きゃぁ〜〜?!」
「冥子ちゃん?!」

 聞こえるはずの無い人物の悲鳴に横島が慌てて見渡すと、マリモもとい式神バサラが消え、宙に跳ね
飛ばされた冥子が不安定は格好で宙に浮いていた。バサラと一緒に落下して跳ね飛ばされたらしい。
 バサラの巨体が消えると、冥子以外の人物も見えた。おキヌだ。
 冥子とは違い、おキヌはなんとか着地体勢を整えて地面に落下を始めている。

「冥子ちゃん!」

 二者択一で自身に跳ね返るモノを想像…もとい、よりケガを追いそうな冥子をキャッチする為にダイブ
すると間一髪、冥子の身体の下には滑り込めた。
 そして、当然のごとく冥子につぶされた。

「グェ!」
「ごめんなさ〜い〜〜!」

 涙目で慌てて横島の上から退く冥子をチラリと見てから、おキヌは前方の悪霊に顔を戻した。

 悪霊の子供は、迷い猫の様に警戒しながら、おキヌと冥子を観察している様子だ。
 相手が迷っている間に少しずつ、じりじりと後ろへと移動する。

「あああ〜! なんだかとっても最前線〜?!」

 ぼやきながらおキヌが後退する程、悪霊は近づいてくる。
 手を振って見せるが子供は警戒はするが歩みは止めない。おキヌが今、攻撃する術がないのを
悟っているのかもしれない。
 はっきり言って、やられに来たとしか言えない状況だ。

 相手の瞳に迷いが消え、こちらへと踏み込んできた。
 おキヌは見よう見まねで空手のポーズを決めてみた。

「邪魔、どけ」
「きゃあ!」

 子供の手振りの霊波攻撃におキヌが吹き飛ぶ。地面に落ちると目を閉じたが、全身を誰かが抱きとめてくれた。

「よ、横島さん?」
「いえ、すいません。僕です」

 慌てて振り向くと、そこには苦笑するピートがいた。

「ご、ごめんなさい」

 顔を赤らめて身を離すおキヌを置き、ピートが子供に肉薄する。
 子供はチラリとこちらを見てから、ピートの攻撃を片手でいなしてしまう。
 魔力は子供の方が上回っていた。ピートの目が険しくなる。

<ああ、これじゃぁ本当に役立たず…! ヒ、ヒーリング効果を歌に託すとか…れ、霊力差が厳しいかも>

 そもそも、おキヌはヒーリングやネクロマンサー能力を歌に託すなどというシャレたまねをした事は無い。
 ピートの後ろであせりながら、戦力を模索する。
 彼女の頭はヒートアップしていた。かつて無い以上に考えた。

<歌、子守唄、子供…そうよ、子供よ!>

 おキヌは某CMを思い出した。愛は世界を救うのだ。愛・アイ・あいがあれば!

「坊や、いらっしゃい!!」

 さぁ、と手を広げてみた。子供は怪訝そうに小首をかしげ、ピートは驚愕して固まってしまった。
 しばらく考えた子供はトテトテとおキヌへと向かってくる。

<こ、このまま抱きしめて、そのままホールドして全霊力を愛のヒーリングに変えて叩き込んだら…>

 想像してみる。
 ヒーリング効果でクテリと寝込む悪霊の子供。

 オッケーだ。ばっちりだ。全て帳消しだ。

 未来予想図に微笑むおキヌの胸に飛び込んだ子供は…ピートの予想通り、魔力ををおキヌに叩き込み
数メートルおキヌを空中遊泳へと参加させた。
 目を回して沈黙するおキヌを見てから振り向いた時には、既に3着目の敵が目の前にいた。

 大きな獣の背にまたがる女性。
 彼女が掲げた破魔札に自然と視線が向いた。

「大いなる災いよ〜〜」

 妙に間延びした言葉と裏腹に、彼女の影から飛び出した式神達は凶悪だった。

「このゴーストスイーパぁ〜六道冥子が〜」

 クビラの霊視を元に、シュトラ、ビカラ、マコラが子供を拘束し、他の式神達が全力で攻撃する。
 空気さえも焦がせながら、子供は悲鳴をあげる事もできずに姿を崩していく。

「天国に〜」

 天まで伸ばした破魔札を持った手が振り下ろされる。
 
 最後の決め台詞を言う前に子供が消滅した。
 式神達の攻撃で破魔札を使う前に除霊されてしまった模様だ。冥子は対応できずに消えた子供の
額のあった辺りを虚しく破魔札が通り過ぎる。

 中途半端な姿勢で固まった冥子にピートが恐る恐る、背後から声をかける。

「あ、あのぉ、じょ、除霊終りましたね。お疲れさまで…」
「…だったのにぃ〜」
「ハ、ハイ?」

 冥子の呟きにピートは怪訝に思ってそっと冥子の顔をうかがった。そして後悔した。
 冥子の頬は赤くなっていた。羞恥で。

「初めて決め言葉が言えると思ったのにぃ〜」

 その後の事をピートは覚えていない。
 気がついたら、横島と小さなおさげ少女と自分が黒こげになって地面を転がっており、辺りは隕石が
落ちたのか、という風景に変わっていた事以外は。









「ああ〜、ありがとうございますぅ〜! これで今日餓死する危機は避けられましたぁ〜」
「うふふ〜、ほら〜 良く噛んで〜 食べないとねぇ〜」
「………」

 ガツガツ食べるエンゲージ娘をにこにこ笑いながらおキヌを見てから、六道幽子はゆっくり
紅茶を口に含んだ。それを見ておキヌはソワソワと視線を泳がせる。

 あの後、気付いたら部屋に寝かされ、隣のベッドでシクシク泣くエンゲージ娘がいた。事情を聞き、
誰かに相談しようと、一緒にラウンジに下りてきた所を幽子に捕獲され今に至る。

 幽子が連れてきてくれたレストランは海が見渡せる場所だった。

「でも便利ねぇ〜。小さくなれるなんて〜」
「いえ、大きくなれるっていうのが正解なんですよぉ。大きい姿は3分だけしかできないんですぅ。
でも食事の時は小さいほうがお得ですよね」
「そうねぇ〜、その背丈なら〜 お子様ランチも〜 堂々頼めるものねぇ〜」
「そうなんですよ〜」
「うふふふ〜」

 にこにこ笑いあう2人におキヌは微笑を浮かべる。少々口元を引きつらせているが。
 人間、つっこみたい時につっこめない時、笑いを浮かべるものである。それも少々口元を引きつらせながら。
 おキヌは心の中でつっこんでいた。

<『お子様』ランチを頼む年じゃないでしょ!> と。

 正面に座る幽子の年はもとより、横に座る背丈30センチ位のエンゲージ娘の正体を考えれば『お子様』
ランチの名が泣く。幽子など、高級レストランで平然と注文しそうだ。

「ええっと〜、じゃぁ、このお子様ランチ〜 よろしくね〜」

 固まるウェイターに、冥子も平然とのたまう。

「あ〜 冥子も〜」
「まぁ〜冥子〜、いくつになったの〜。お子様ランチは〜 もう卒業しなさい〜」
「え〜〜〜」

 ありありと浮かぶ。というか、やっているだろう。こんな風に。
 現実拒否と言う名の妄想(現実度高し)をしていたおキヌの目がふらふらと彷徨い、窓の外のある一点で
ピタリと止まった。瞳は次第に見開かれていき、あせりの色が浮かび上がっていく。

「あ〜 おキヌちゃんの〜 ケーキが届いたわよ〜」
「あ、あの、私用事が!」
「大丈夫〜 オバサンが後で口聞いてあげるから〜 今はケーキ食べましょう〜〜」
「あううう〜〜〜」

 席を立とうとしたおキヌを幽子がのんびりと押さえる。口調こそ穏やかだが、いつの間にか現れた式神・マコラ
がおキヌの後ろから肩を押さえている所が幽子の意思の表れだろう。

 それならばせめて、とおキヌが勢い良くケーキを口に入れ込んでいく。
 すると、ボーイが恭しくジャンボチョコパフェをテーブルに置いた。

「あら〜〜 コレ、どうしたのかしら〜〜」
「はい、ケーキのお客様が我がレストランの記念すべき1万人目のお客様となりましたので、サービスで
運ばせていただきました」

 ブフゥ、と拭き出したおキヌを余所に、幽子は満面の笑みでボーイにお礼を言ってパフェを差し出した。
勿論おキヌの前に。

「すごいわね〜〜 はい、おキヌちゃん〜〜 お祝いですって〜〜」

 総カロリーを考えたくも無いパフェを目にしてから2人に目を向ける。

「お祝いですねぇぇ〜〜 ふわわわ、おめでとうございます!!」

 エンゲージ娘はパフェがおキヌの物と認識して手を出す気はない模様だ。

「大丈夫よ〜 おキヌちゃんなら〜 コレくらい〜 へっちゃらよ〜〜 おばさんが若い頃なんて〜〜」

 こちらはパフェを見ながら若い頃のノロケに突入して、こちらの言葉には耳も傾けちゃくれない。

 おキヌは悟った。
 この目の前のパフェを片付けないことには、窓の外にいる、横島の元へと行けないという事を。

<冥子さ〜〜〜ん! お願いですから、そのまま、何もしないでそこにいて下さい〜〜!!>

 泣き言を心の中で叫んでから、おキヌは目の前のジャンボチョコパフェにスプーンを差し入れた。










 一方、おキヌに発見された横島はというと、彼は座って波間に浮かぶ夕日を見ていた。
 ボーっと見ていたからか、いつ横に冥子が来て同じく座ったのにも気付かなかった。

 いつもだったら、冥子は何がしかしゃべりだす位の時間は流れていたのが、冥子は何も話さない。
ただ、横島と一緒に夕日を眺めている。穏やかな表情で。

 ちょっとあせって、横島から話しかける。関西人の血に負けたとも言う。

「そういえば、今日の朝日も眺めたけど、おいし…いや、きれいな朝焼けだったな」
<アイツが好きだと言うのも、今ならわかる>

 心の呟きと同時にニコリと笑う冥子に更にあせる。

「そいうや、今日の朝、おキヌちゃんにふられちゃったんだなぁ〜」

 ふと、朝焼けと共に今日消えた友情以上・恋人未満の終末を思い出してしまった。
 同時にヘコんだ。
 気遣う色を見せる冥子に横島が更にグチめいた説明をはじめる。

「良い人です。って言われちゃ〜な〜…この前、乙姫が変身したのもおキヌちゃんだったし」

 ちょっと固まる冥子に気付きもせずにため息をつく。

「アイツとおキヌちゃんと、失恋立て続けなんだなぁ〜」

 横島の呟きと同時に夕日が海から消えた。
 太陽は沈んだが、その光りは辺りをまだ赤く染め、その存在を空に残している。

「でも、乙姫は最後にアイツにも変身してくれたし。さすがは神様、なのかなぁ」

 ゴッツイ乙姫の顔を思い出し、悪寒が走り抜けたので慌てて頭を振る。すると、手に暖かさを感じた。
冥子が横島の手の上に手を重ねていた。

 自然に冥子の顔に視線を向ける。
 冥子の瞳には同情も怒りもない。あるのは優しい輝き。
 その瞳に横島は胸の中にストンと何かが落ち着いた音を聞いた。

 悔いても、怒っても、愛おしいんでも、ありのままの自分を受け入れる事と受け入れられる事。

 元気良く立ち上がって、冥子に手を向けると、黙って冥子も立ち上がった。その手をつかんで。

「さぁ、そろそろ夕飯だな。行こう、冥子ちゃん」
「…うん〜 でもね〜 その前に〜〜」
「ん?」

 頭を下げた冥子に横島が首をかしげるのと同時に、冥子が横島の胸を突いた。
 数歩、よろけたと同時に足元が消滅して背中から砂浜に転がった。
 起き上がると冥子との間に砂の壁が存在していた。
 なぜだか、横島は2メートル位掘られた落とし穴にはまったらしい。

 覗きこむ冥子に横島は顔を上げる。

「なぜに落とし穴が―――?!」
「………」
「落ちキャラだって言うのかぁ―――?! 責任者出て来い―――!!」

 冥子に落とされたのだから、責任者は冥子のハズだ。だが、横島は断じて認めなかった。
 更に暴言を吐く横島に冥子はにこりと笑う。 

「……… だから〜」
「ナニ? ナンか言った? それより冥子ちゃん、ロープか何か持ってきて!」

 冥子の言葉が聞こえなかった横島だったが、我に返ってヘルプを出すと輝く笑顔が出迎える。

「じゃぁ〜、みんな〜 横島くんを〜 助けてあげて〜〜」
「ちょ、式神じゃなくて、縄でいいんだけどぉぉ?!」

 横島の反論を余所に、冥子の式神達が影から出てきて、そのまま落とし穴にダイブしていった。
 ハイラはまだ良いにしても、シンダラ、シュウトラ、ビカラ他皆が落ちてくる。最後の仕上げバサラの
ボディアタックは強烈だった。

「ぐえぇぇ――――――?!」
「まぁ〜 みんなも〜 よっぽど横島さんが〜 心配だったのね〜〜」
「心配なんていらないから、縄持ってきてぇぇ!!」

 悲痛な叫びと鈴の様な笑い声がいつまでも、波間に浮かんでは消えていった。


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