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復活

宴の始まり(顛末)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/11/ 6

シロやタマモはソファで寝っ転がって、それにおキヌも少し遠くから無言で見つめている。



「こんバカ! ゴーストスイーパーなんて止めてしまえ!!」



大声で怒鳴っているのは美神令子。

叱られた高校生は所長机の前で式神と共にうなだれている。
その横島もどてっぱらに開いた大穴をはじめとした傷は完治にはほど遠い状況だ。


「し、しかし「しかしもへったくれもあるかッ!!」


平手打ちの一つも飛んでこないことが返ってその怒りの激しさをよく表している。

「メドーサ相手にアンタが後先考えずに飛び出したおかげでシロやタマモはもうちょっとで死ぬとこだったのよ!!」

シロは胸にギプスをはめ、タマモも眼帯を巻き腕をつっている。
それ以外にもそこここに巻かれた白い包帯が痛々しい。

二人ともあれから散歩にすら行かず、いや行けずに建物に閉じこもっている。
シロもタマモも一応人型は取っているものの野生動物の習いからか傷が治るまでひたすらじっとしている。


そこまでな大怪我はしなかったものの、おキヌも所々に絆創膏や包帯を巻いている。

「神無の護衛にひっついとけって言ったでしょ! 非常事態に神無おっぽって勝手に前へ出るな!
 アンタが勝手にメドーサにつっかかったおかげで途中で神無は石になって指揮官を失った月警官の被害が増えるわ、
 危機用のフォーメーションは組めないわ!!」


ガン!! と、テーブールを叩いた右手には醜いケロイド跡がついている。

そう、先日の6600ボルトの高圧電流の吸収し残しでやけどをした跡だ。
この跡を文珠で直すという横島の申し出を令子は剣もほろろに一蹴した。


「おまけに、自衛隊や米軍の攻撃までできなくなるところだったのよ!!!」


再びテーブルを殴る。
その衝撃で筆立てが転がり落ち,ペンやペーパーナイフなどが床にぶちまけられるが拾う者は居ない.


「アンタ、文珠にルシオラで思い上がってるからそういうことになるのよ!!」
「ルシオラは道具じゃ「黙れ!!」

各社の新聞を投げてよこす。

そこに踊る見出しは


  「魔龍・魔鳥来襲。首都圏を覆い尽くす爪痕」「月神族は予定を切り上げ帰還か」
  「自衛隊・コメリカ軍も魔族と戦闘。今度は勝利」「オカG大手柄。素早い連絡と避難」
  「奇跡か!? 死者なし。重傷者は10万を超える。主に石化被害」「首都に戦後初の戒厳令。本日解除」
  「被害総額少なくとも25兆。関西大震災を越える」「ECU、コメ、華、炉など108カ国・地域が復興支援を表明」

度重なる心霊被害を受け、耐霊補強が並の100倍はある本除霊事務所は無傷だった。



事務所の窓のからの風景は新聞見出しそのままであった。
そこここで並木がへし折れ、屋根が吹き飛んでいる。
道にはほとんど車もない。いや道そのものが瓦礫や倒木でまともに通れるかどうかも怪しい。


「あのときルシオラとベスパやパピリオがアンタを取り戻してくれなかったら、今頃死んでたわよ!!」
 下手したら、月神族、アンタの高校と周りの住民全部道連れにね! もちろんルシオラもよ! わかってんの!」
「ハイ………」
「ルシオラをもう一回おちゃらけで殺そうってヤツが、ルシオラは道具じゃない? ハン! 笑わせるな!」
「ハ……」
「GSは命のやりとりするのよ! 高い金貰ってパフォーマンスする商売じゃないのよ!」
「……」
「死はある程度覚悟してっけど、あんなおちゃらけで道連れにされたらたまらないわ!!」
「‥」
「ミスとか手違いならまだしも、事前取り決めも無視して相手を舐めて突出。
 返り討ちで人質に取られるなんてどこの安物アクション映画よ!」


そこまで言って、書類を投げ出す。


「ホレ、免許返上と廃業手続き。ここにサインとハンコ」

廃業手続きの署名欄を指し示しながら続ける。


廃業書類。


役所的書類の形態をとるものの中身は攻撃的な霊能一切を封じる呪符。
霊能犯罪を犯した者も署名させられるものだ。

符やアイテム作り,占い等ならともかくGS稼業は一切できなくなる。

廃業手続きに括られているのは最強かつ無慈悲なエンゲージ。
文珠は作れても、使うための霊力を発動すれば一瞬後にはその大鎌で首が飛ばされているだろう。

「とっととここにサインしてでてけ!
 普通の学生としてルシオラの魂を養生してろ!」

冷たく言い放ち、署名欄に横島の手を引きずりだす。

「文珠売りゃ、食うにゃ困らないわよ。さっさとサイン!」
「美神さん、メドーサに「私は横島クンにいってんの! 付録の式神に話してるんじゃない!!」
「ハィ」

なにか言いかけたルシオラを怒鳴りつけたあと、金庫を開けて札束を取り出してテーブルの上にドサとぶちまける。

「ほら、5700万円。アンタが事務所に入って以来稼いだ金よ。GS助手の相場でね。
 欲しけりゃ退職金もあげるわ」

そう言ってさらに札束をぶちまける。
「これでしばらく遊んで暮らせるでしょ」


札束を取り出した右手の手のひらから二の腕にかけて、のたくるみみず腫れ。
おもわず横島の目がそこに吸い寄せられる。

広範囲にケロイドになり肉が引きつっている。おそらく胸まで達しているだろう。
右手は動かすのが少しぎこちない。
もはや令子はボディコンもビキニも着れまい。

令子もその目に気がついた。

「こんなに醜くなっちゃセクハラする気も失せるでしょ!これで、もうアンタがここにいる理由はないはずよ!」

札束の山とケロイドになった令子の腕を交互に見比べ、それでもうなだれたまま動かない。
いや動けない。

「勘違いしないでよ! あのときはこうするのが最善だっただけよ」

書類を再びぶったたく。

「そして最後に……、これが私がとれる責任よ! アンタに営業免許交付の許可出した私のね!
 サインするまで事務所から出さないわよ!」
「スンマセン…もう少し」
「もう少しってなにがよ?」
「もう少しここにいさせて下さい。時給250円でもいいッス」

それを聞いて令子がフンと鼻を鳴らす。

「却下。単なる荷物持ちのバイトでもいらんわ」
「すみません。私ももう少し慎重に動きますから。おいといてください美神さん」

頭を下げたルシオラに令子が幾分表情を和らげた顔を向ける。

「ルシオラ、アンタは式神よ。いくらアンタでもいざになったらマスターに動かされるわ。だから横島クン」

今回の件でもルシオラが式神ではなく同僚なら起こっておるまい。
情熱家だが元は3姉妹の司令塔、戦いに当たっては冷静かつ論理的だ。
自らの死までを冷徹に計算しきれるほどに。

現に今回も横島が倒れてからのルシオラは精密機械のように大過なく闘った、いや戦いの流れを2度も変えたのだ。
ルシオラ無くしてはメドーサを退けられなかったと言って良い。

ここまでマスターに影響されていたというのが令子の予想外、大ミスの元だった。

そうこれは横島のためでもあるのだ。半端な覚悟と突出した力ではオカルト関係においとくのは危険すぎる。
GSをやめさせてこっそり裏で見守っておくほうが問題が少ない。

それにいざになったらエンゲージならばすぐに解除できる。
いや、コイツの霊力ならばイザの時はエンゲージ程度は簡単に自ら粉砕しよう。



再び横島に顔を向ける。

「このエンゲージは、ルシオラを出しても動かしても発動はしないわ。
 だからさっさとサインおし!!」

「ウ…」

机を立った令子がグイと横島の胸元の包帯をつかむ。
いつもならでるおちゃらけも米つきバッタのような謝罪もない。

令子の手に締め上げられたまま両手をわずかに動かしている。



その指の動きが止まる。
だまってうなだれた横島の手の中で膨大な光。


キーイィィイィ――――ィイィ――――ン


「一体何を……」

べったりと膏薬が塗られた手の中で霊力がどんどん共鳴してゆく音。


「ちょっと! 止めなさい! 今のアンタの状態で複数文字が操れるはずがないでしょ!」
今の横島は令子によるドーピングはおろか、自前の霊力まで傷の治療に向かってスッカラカンのはずだ。
今でも一般人なら動けないほどの大ケガなのだ。



ィィイィ――――ィイィ――――ン


令子の言葉もむなしく共鳴が重なってゆく。


           4。

           5。

           6。


 ‥‥……―――― ひかりあれ ――――……‥‥


誰かがそうつぶやいたような気がした。

文珠が豊かな地脈からの霊気を纏め始める。
その膨大な光芒が地脈に沿って広がる。

そして

暖かな光が横島を中心に東京いや関東全土を覆い尽くす。



そのやわらかな光が収まった跡にはげっそりと頬のこけた横島がぐらりと倒れる。
見れば腹から服を超えて血がにじみ出している。

その隣でルシオラが薄くなって消滅。

「みかみ さ……やっぱ、俺これしか…思いつか……ったス。シロもタマモもゴメン……」
「ちょっ! なんて無茶するのよ!」


ことん、と横島の頭が力を失った。

予想外の事態に令子があわてて胸に抱え込む。
令子の胸の中で体温がどんどん失われていくのがわかる。
体内に残る霊気はほんの僅か。

「救急車! それに冥子にすぐ連絡!」
「先生!!」
「横島さん!!」
「早く! 布団!」
「すぐにヒーリングを!」
「誰か文珠持ってない?!」
「昨日全部使ってしまったでござる!」
「私も使ってしまいました!」
「チッ! ヒーリング符ありったけよ!」

全員がばたばたと走り回る。シロが布団を,おキヌが水を,タマモがヒーリング札の束を両手で抱えて運んでくる.

その間にも横島は真冬にエンジンを止めた車内よりも早く冷たくなってゆく。

抱え込んだ令子の膝の上に崩れ落ち、別人のごとく死相を表した横島に全員が抱えてヒーリング。
令子も必死で霊波を流し込む。

「心臓が…動いてないでござる」

シロが呆然とつぶやく。

「魂は抜けきってません! まだ間に合うはずです!!」
「限界を超えた文珠制御による霊力枯渇よ!! とにかく霊波を送り込むの!」



「さおり! 治ったのか」
「信じられん……崩れた首都高が」
「クロ!治った!」
「桔梗ちゃんよかった!!」
「工場が! これで不渡りを出さずに済む!」
「無くなったはずの手がいつの間にか!!」
「柏木1尉! 奇跡だ!!」
「首都高が!」
「お前!! 立てるのか!!」
「目が見える、見えるぞ…」
「石化が! 石化が消えたぞ!!」
「神無! 治ったの?」
「Oh! Henry!! God bless You!!」
「根こそぎになったご神木が!」
「家が、家が元に戻っているぞ……」
「乗り上げていた空母が……、油漏れも無くなってるぞ……」

被害のあった関東全域で歓喜の声。
人間人外を問わずもはやオカルトとは言えぬこと、そう、奇跡が起きていた。


『被』『害』『完』『全』『回』『復』


忽然と急激に高まった東京中のありとあらゆる霊波計を振り切らせた霊圧。オカルトGメンやGS協会では騒然となったが、
それが収まると先日怪我した者が全員完治していただけではなく、壊れた霊具までが元の状態に復帰していた。

光が収まった次の瞬間にはPTSDまでもが抹消されていた。



一方美神事務所ではその奇跡をもたらした主の命を引き留めようと、
駆けつけた冥子も合わせて全員が必死に霊波を流し込んでいた。

「横島クン!」「先生!!」「横島!」「横島さん!!」
「横島くん〜〜〜〜〜」

膝枕された横島に全員が連呼するも、ぴくりとも動かない。

「勝手に死ぬな!! 死なないでっ」

令子がいや、全員が必死で横島を揺さぶる。


‥‥……―――― とくん。

ぺちょ。すりすり。



いつの間にやら令子の右手をつかんで横島が頬摺りをしている。
その令子の手にはしみ一つ無い。
もう片手はもちろん胸を触り、後頭部で令子の股間をまさぐっている。

「こ、こらなにすんのよ!!」
「んーいい香り」

いいながら、確かめるかのように胸元にも手をねじ込む。
令子は突然のことにいつものようには反応できない。
しばらくされるがままだ。

「おおっきれいに治ってる。やっぱ、ここも確認せんと!!」

んでさらに露出した双丘の上から顔をねじ込む。

「んー完璧! 俺ってもしかして天才? すべすべのふーわふわ。やーらかいなーあったかいなー 天国天国」
「おのれは!!」


我に返った令子はその言葉と共に膝蹴り。跳ね上がった頭に容赦なくエルボー。お次はピンヒールの踵。
折檻の嵐は普段のセクハラの時の比ではない。

「この馬鹿野郎!! おキヌちゃんもシロも置き捨てて、ルシオラも道連れで死ぬ気!?」

「ほへ?」

間抜け顔で?マークを貼り付けた横島をシロが胸をつかんでガクガク揺さぶる。

「せんせー!! 死にかけてたんでござるよ!!」

まっすぐに顔を見詰める目にじわ,そしてぶわっと涙があふれる。

「母上や父上だけでなく先生まで拙者をおいて逝くのでござるか!!」
「おいおい大げさな」

シロの背中を撫でてやりながらのんびりと コイツは大げさなんだからなー
とかつぶやいて皆の同意を求めようとしたが。

そういえばなんで俺の周りにみんな集まってるんですか?
下には布団もあるし。

「アンタ 自覚無かったの? 心臓止まって瞳孔開いてたのよ?」
「魂も少し抜けかかってたんですよ」
「死臭がし始めてたんだけど」
「全員でヒーリングしてたのよ〜〜〜〜〜〜」

シロや令子だけではない皆が横島に詰めよりここぞと言いつのる。
いつもは我関せずのタマモ、のほほーんとした冥子まで横島の顔を睨む。

エト,シンゾウガトマッテ,タマシイガヌケタラ,シンデシマイマスヨ?
タマモサンシシュウッテシノニオイデスカ? フクノモヨウジャナクッテ?


「マジ?」

「「「「マジ!!」」」」

言われてしばらく呆然とし、その後で凄まじいプレッシャーを感じて米つきバッタのように土下座を繰り返す。



「すんまへん!すんまへ〜〜〜ん! まさか心臓とまるとは思ってなかったんです〜〜〜!!」


決死?で術を成功させて誉められずに非難され、土下座を繰り返さざるを得ないのは横島一流である。
土下座を見つめていた令子の目が潤んでいるように見えるのは気のせいだろう。


しばらくコメツキバッタを見つめていた令子が決心したように宣告。

「やっぱりアンタみたいな短絡思考のスットコドッコイは野放しにできないわ。
 アンタはエンゲージ程度何とかするかもしれないから意味なかったわ。
 責任上未来永劫この事務所で監視してあげるわ。感謝しなさい!!!」

「未来永劫って……」

とりあえずここには居れそうだとほっとしたのか米つきバッタは止めて令子の口を見上げる。

「おおまけにまけて荷物もちとして雇ってあげるわ。要求通り時給換算で250円でいいわね」

「グヘッ!! あれはナシ!! まじ勘弁して!!」

横島は思わず口を滑らした前言を撤回しようとするが全く効果はなさそうだ。

「ダメ!」
「どーしてそうなるんです!! 勘弁してくださいよ!!」
「うっさい!! 文句あるなら時給200円! 月給として5万円固定!!」
「安サラリーマンの小遣いですか〜〜〜!!」
「要監視対象に給料やろうってのよ? 感謝して欲しいわ」
「小遣いならともかくそんなんで飯が食えるかい!! 家賃も出んわ!!」

「ふん。わかったわよ」

家賃も出んという言葉に令子も少し納得はしたのか?
横島は見込み有りと倍以上ふっかける。

「せめて500円換算で」

これならさっきの月給換算率なら12万円にはなるので何とかなる。

が、現実は厳しかった。

「200円つってるでしょ」
「どこがわかったんっスか!!!!せめて480円!」
「200円たら200円!」
「まーまーまー、美神さん」

二人の日本労働市場の常識からもGSの常識からも乖離した攻防に事務所の良心が介入開始。
こっちも目をこすっている。

しかし、今回の令子は斜め上。

「シロ。地下の武器庫にこの布団ほりこんできて」

よこで涙目で見つめていたシロに命令。
足下の今の今まで横島が寝ていた布団を示す。

「美神さん?!―――――まさか」

その意味するところを察しておキヌが絶句。
そんなおキヌに令子が当然じゃない、とばかり。

「危険物は鍵のかかる安全なところで保管しなきゃね。
 武器庫の鍵は中から開かないし、防爆対霊仕様だから中で霊能は使えないわ。使わないときは閉じ込めときゃ一安心よ」
「俺は破魔札や精霊石じゃねーっ!!」
「うっさい。おふだや精霊石は勝手に飛び出したり自爆したりはしないからそれ以下よ」

あんまりな扱い。
横島でなくともというか横島でも抗議するのは当然であるが、令子に一切の斟酌はない。

「家賃が出ないっていうから部屋を無料で‘貸して’やろうってんじゃない」
「武器庫なんて空きスペースは2畳ぐらいやないか!!」
「どうせ寝るだけでしょ? 三食付きでバストイレもあるのよ? どこに問題があるの?
 今の下宿、トイレは共同だし風呂は付いてないでしょ。武器庫は空調も完璧だしずっと良いじゃない」

横島の抗議など何回でも一撃で粉砕されてゆく。

「俺を事務所に住まわせたりしたら、ますますハーレム扱いされますよ?!」
「それも一万歩譲って我慢するわ。アンタを野放しにしてたら私まで免許取り消されかねないし。
 師匠の連帯責任は重いの。金は名誉より重いのよ」

これなら切り札として出した‘ハーレム疑惑’も屁の突っ張りにもならなかった。
瞬時に切り替えされた。

「とにかく私が悪霊しばいてボロ儲けできなくなったら、即刻絞め殺すわ」

こーなったらもー最後のつっぱり! 自身を否定する!!

「おキヌちゃんやシロにタマモが居るところに俺を住まわせるんですか?
 自慢じゃないッスけど俺、煩悩霊力源のよこしまッスよ? 俺でも俺は一番信用しませんよ?」

「それもそうねぇ」

矛先を変えた横島のまっとうな?抗議に考え込む。

「でしょ!? まだ犯罪者になりたくないッス!! そうだ!!
 管理責任者が管理すれば! 美神さんの億ションなら部屋も余ってるし―――――!! ぶべらッ!!」

当然の右ストレート。
なぜか殴るまでに一呼吸間が開き、込められた霊力もホンの少し弱かった。
おキヌには令子が少し赤くなったように見えた。

「なぜ殴る!!」「私なら犯罪でないのか!!」
「健康な男女が一つ屋根の下でなら犯罪には「やかましい!! 」

横島の乙女心を解さぬ軽口。
今度はマジ威力の神通棍を即座に1発叩き込んで黙らせた後、残り3人に振り向いて結論を申し渡す。

「やっぱ私もここで寝泊まりすることにするわ。さすがにコレを同じ屋根においとくんじゃ安心できないわ。
 部屋足らないしちょっと建て増さなきゃね。
 非常脱出口の近くに地下室増設して書庫なんかをそこに移せば人工幽霊も損傷しないか。
 できるまではどうすっか……。そうだ鍵の管理はおキヌちゃんにお願いするわ」

いうなりおキヌに鍵を放ってよこす。

「私の寝床ができるまではこの歩く爆弾は倉庫に保管してから帰るから、朝は開けてやって」
「なんでそうなる!!!」
「開けるときはなるべく冥子、いなければシロ,タマモ同伴でね。絶対1人で開けに行っちゃダメよ。それとこれが霊力漏れ感知警報で……」

抗議する横島など全く無視しておキヌに注意事項を垂れてゆく。
その後に人工幽霊に横島が不穏な動きをしたら即座に通報するように命じる。

「お任せ下さい」
「俺の自由と人権!」
「うっさい。歩く危険物、歩く短絡思考にんなものはない。とにかく今日の晩からここで監視するからね」
「勝手に決めるなー!! 明日の宿題が!」
「普段やっていっとるんかい。師匠として管理責任。不肖の弟子は野放しにできないのよ。
 おキヌちゃん今日明日は様子見るから部屋に泊めて?」

多少の下着や服は常備されてるので問題はない。

おキヌのこめかみにでっかい汗。

「あは…あははは……」

令子の壮絶・強引・場違い・意地っ張りなプロポーズに引きつった声で笑う。
令子と横島のやりとりに一言しか口を挟めなかった。
令子は最初から最後の結論に到達していたに違いない。
令子にはやはり敵わない。

でも。


あくまで監視という建前で張り通した意地も大きかろうがおキヌにもありがたいものであった。
その手のさっき渡された横島の部屋の鍵をぎゅっと握りしめる。
シロも何か思うところがあったらしい。
いきなり横島の髪の毛をつかむ。


「先生。さんぽ、散歩に行くでござるよ! 快気祝いでござる!!
 美神どの、いいでござるな?」

わざわざ令子に声をかけると
胸のギプスをもぎ取って、我が身からほどいた包帯を何重にも横島の首にかけ、引きずってゆく。

「やめんか!! グヘッ!!」
「マァ、細かいことはいいではござらんか?」

横島の抗議にシロは凄絶な笑いを向けると無言で包帯を引き絞る。

「晩ご飯までには帰ってきなさいよ?」
「あ〜〜〜冥子もいく〜〜〜〜〜。シロちゃん、おもっきり引っ張りましょ〜〜〜〜〜」
「承知!!」

一言で二人に返事しインダラの首に横島付きの包帯をかける。

「なぜ俺を引きずる〜〜〜!!」
「2度も本気で心配させたお仕置きでござるよ。サァ、インダラ、勝負!」
「かんべんしろー!! 病み上がりなんだぞーっ!!」
「神無どののお見舞いにも行くでござるよ」

横島はじたばたして逃れようとするが、シロの片手に余裕で制圧され動けない。
しょせんは人間。女性とはいえ大人のワーウルフにパワーで敵うはずはない。

「どうせ自分の命などなにも考えていないでござろう?」

「ヒヒーン!!」

包帯をかけられたとたんインダラが一声いなないて駆け出す.

「あー、それと帰りに‘元’横島クンの下宿に行って必要そうなもの持って来ちゃって。
 どうせ服ぐらいしかいらないんだろうけど。一応教科書やノートもね」

令子の声を聞いたタマモも肩をすくめて眼帯や包帯を捨て去る。

「私もつきあってくるわ。帰りは荷物持ちもあるし。それにいかがわしい本やらDVDはうざいから全部燃やしてくるわ。
 おキヌちゃん、晩はお揚げ大目にお願い」
「ハイハイ。たっぷりつくっときますね。骨付き肉も」

振り返ったタマモの姿をみておキヌはよくわかってる、とばかりに返事を返す。
今夜はいつにもまして大量に食べるに違いない。
それはおキヌも一度経験していることゆえ予想がついている。


玄関から出たタマモが長いナインテールをなびかせ、あっと言う間にシロに並ぶ。
並んで走る二人の犬神の完全回復した姿は今までのものではなかった。





超回復。




併走するルームメイトを眺めてタマモがつぶやく。

「あのバカ犬も結構いい線行ってるじゃない。他の3人とまともに争えそうね。
 さて誰が勝つ? このままだと勝者はあの大馬鹿野郎の煩悩魔かもね」

タマモの目に映るのはすらりと伸びた白い足に充分くびれた腰。
八頭身のそれは間違いなく最も輝く年頃の華やかな美少女。
もちろんタマモももはや中学生のそれではない。


横島がそれに気がつくのは近い将来であろう。


「タマモもやるでござるな」
「バカ犬より遅いはずないでしょ?」
「インダラちゃ〜〜〜ん もっと早く〜〜〜」


騎馬を先頭にした美少女集団が加速する。


整然と並ぶ燃えるような紅葉の並木の横、車道を走る砂塵の上には太陽が馥郁とした光を投げかけていた。
まもなく車も増えてくるに違いない。

晩秋の昼間のひとときの全力疾走。



「気持ちいいでござるな――――――――」



遠くから救急車のサイレンが事務所に近づいてくるが、それはどうでもいいことだろう。











to be continued


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