椎名作品二次創作小説投稿広場


復活

宴の始まり(3)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/10/29

チチ。

ワルキューレの魔族のライフルの照準機がかすかな音を立てる。
人間の単位で30kmを越える超遠距離射撃だ。

小竜姫と対峙するメドーサにはまず感知できていまい。

「自動追尾モードOK」

照準鬼が発するかすかな霊波がメドーサの額のチャクラを捉える。

「って!!」

チュイーン

スコープの中で物の見事に精霊石弾が弾かれる。天然のドラゴンメイル。
メドーサも気がついたようだがこちらを見ようともしない。

人間の物とはいえ百キログラムの精霊石弾頭何発もにも耐えたんだから当然かもしれない。

「くそ!! やはりか! あのメドーサ凄まじく強力だぞ!
 小竜姫、一筋縄ではいかんぞ」

歯ぎしりしながら次弾を装填する。
「足手まといにしかならんこの身がふがいないわ」

歯ぎしりしていたのはワルキューレだけではなかった。
その少し前から地上では意識を取り戻した美神令子もはね回りおキヌを困らせていた。

「クソ!! この美神令子がなんでこんなとこで寝ころんでなきゃならないのよ!!」
「美神さん! 傷に障ります!! 右手動かないんですよ!!」
「右手の一本や二本なによ!! あのクソ蛇ババァにぶん殴ってやらなきゃ気が収まらないわ!!」

おキヌがむりやり毛布に寝かしつけるもすぐに体を起こそうとしてひっくり返り、更に歯がみする。

「おキヌちゃん!! ミラー呼んできて!彼女ならこのぐらいの傷は治せるはずよ!」
「ミラーさんはここで一番強力なヒーラーなんで順番待ちです! あっちの方が重傷者だらけなんです!」
「冥子はッ!!」
「おんなじです!」


そこになんとかコメリカ空軍に助けられた3姉妹が横島を抱えて戻ってくる。
元の大きさに戻ったルシオラとSDベスパそれに護衛のパピリオ。

「じゃ、パピはメドーサのおばちゃんをけっ飛ばしてくるでちゅ!」
パピリオは横島を抱えたルシオラが結界内にはいるのと同時にきびすを返す。

「パピリオ! やめな! 1人じゃ敵わないよ!」
「そういう寝言は寝て言うでちゅ! ほら、人間の戦闘機がやられまちたよ!」

パピリオが親指で見もせずに指した空には今し方助けられた2機のナイトオウルがステルスを破られ煙を噴いていた。

「せめて私がもう一回冥約13項を解除するまでまちなって!!」
「そんなヒマはありまちぇん!」

スカートの裾を引っ張るベスパにパピリオは言い捨てると飛び出してしまう。

「ちょっと待てと言うのに!! ダァッ! マスターは小笠原エミマスターはどこだい!」

はじき飛ばされたSDベスパがおキヌにエミの場所を聞くとそっちへすっ飛ぶ。

「おキヌちゃん。ヨコシマをお願い。私も行くから…パピリオはほっとけないから」
横島の呼吸が落ち着いたのを見るやルシオラも立ち上がる。

「横島さんが気がついてからでもいいと思いますよ。ほら小竜姫様が」

ルシオラが横島をヒーリングしながら心眼を少し開いたおキヌに言われて見上げると小竜姫がメドーサを押さえ込んでいる。
パピリオが引き返してくるのも目に映る。

「じゃあ少しだけ…」

横島の頭をやさしく抱えて再び膝枕。

「わかっててもちょっと妬けちゃいますね」

横島を膝枕する久々の等身大ルシオラ。
おキヌが自分から言い出したくせにヒーリングしながらも少しふくれる。

それらを見て令子がますます暴れ出す。
「このままだと私の出番がなくなっちゃうじゃない! 何が何でもメドーサは一発ぶん殴るのよ!!」

そこにミラーがやてくる。どうやら横島のためにこの介護所の優先順位が上がったのか、向こうが一段落したのか。
ミラーがヒーリングすると横島が一発で気がつく。

「ヨコシマ! 良かった!!」
ルシオラが思わず頭を抱きしめる。

「ここは? それにルシオラ!どうしたんだ!その姿? アダダダ―――――ダッ!!」

久しぶりのルシオラの膝枕。横島の頭を抱えたルシオラは無言で撫でている。
思わず上体を起こそうとした横島がちら、と体を動かしただけで悲鳴を上げてひっくり返る。

「動いちゃダメですよ。お腹に開いた穴は1回2回のヒーリングぐらいじゃどうしようもないですから」

もう一度横島をヒールしようとしたミラーに令子ががなる。

「ミラー! そんなボケナスはどうでもいいから私を戦えるようにして!」
「ひどい! 守銭奴、身勝手や〜〜〜!!」

いつも通りにわめくがいつもと違いルシオラとおキヌにたしなめられる。

「横島さん! 美神さんは横島さんを助けようとしてそんな傷を負ったんですよ!」
「ヨコシマ……私がここまで大きくなるほど霊力をくれたの。それで電気で火傷したのよ」


ミラーがとまどっているとおキヌとルシオラの両者が美神さんを先にヒーリングしてくれとの言葉。

「わかりました。でも元通りにはなりませんよ?」
「歩けて右手がうごきゃじゅうぶんよ! ルシオラ!」
「ハッ」

ミラーが傷にヒーリング魔法陣を描く間にもルシオラに命じる。
ルシオラも令子の命令に横島を放り出して片膝をつく。

「まだ霊力残ってるわね」
「ハッ」

「あれをここへ持ってきてモンスター化して」

平然と上を指すと轟音と共に半ばコントロールも光学迷彩も失った巨大な影が海に低空を墜落しつつあった。
そう。先ほどやられた‘ナイトオウル’のうち一機が校庭上空をかすめてきたのだ。

「わかったわ!」

飛び出したルシオラが一瞬で縮め、自転車大になったものをぶら下げてくる。
あたりで顔を引きつらせていた一般人が胸をなで下ろしているがそれは些細な副産物だ。
それを結界内の空き地におろしながら大声を張り上げる。

「念の為に聞くけど美神さんが乗るのよね?」
「もちろんよ! コイツ5億ドルはするのよ。ちょっと壊れたからって捨てることはないわ!」

にんまりと笑った令子の顔が金と復讐心で歪んでいる。
聞いたルシオラが即座に術式に入る。

「さあ、ナイトオウル、ナイトオウル! お前は美神さんの僕よ!」

ルシオラが莫大な霊力をナイトオウルに注ぎ込む。

「再び闘うために目を覚ませ!! ちょちょいのちょいっと」

ふざけた呪文が終わると膨大な光と共に大破戦闘機に再び生命が宿る。
しかしそこにルシオラは居なかった。

「ルシオラ!? どこ?」
「ルシオラどこに行った! あた―――――っ!」

ミラーのヒーリングを終わらせた令子が戦闘機付近に駆け寄り、
横島が体を起こしたとたんに腹の激痛に再びひっくりがえる。


「私はここよ」


ナイトオウルのコクピットから声。令子がのぞき込むと蛍が一匹。霊力を使い果たしたのだろう。
それが計器の一つにはまっている。

「セントラルコンピュータがやられてるのよ。適当に置き換えても良かったけど私が代わりをしたほうが性能が上がるわ」
「えらくサービスがいいじゃない」
「お詫びとお礼よ。おキヌちゃん、ヨコシマをよろしく」

早速乗り込む令子はギロと横島を一瞥するも目も合わせない。

射出された座席のかわりに妙な材質の席やらキャノピーが付いていたり、エアインテイクに歯のようなモノが付いていたりするが問題はない。

令子が乗るとナイトオウルはギョロリと目を剥き、ルシオラに操られて離陸を始める。
その強力なベクタードスラストエンジンがぐにゃりと生き物のように下へ曲がり炎と霊力が噴射される。

 「AGM−117 ユニコーンミサイル 使用可能 残弾 1
  AIM−9X サイドワインダーミサイル 使用可能 残弾 4
  M61GSh30mm機関砲 使用可能 残弾 900」

ルシオラの音声による使用可能兵装報告。

 「アクティブ光学迷彩、アクティブ霊波迷彩起動。パッシブ電波迷彩オールグリーン」

空中に浮き始めた巨体の表面が背景を模倣しはじめ、ゆっくりと見えにくくなってゆく。
やがてルシオラのプログラムにより見えにくいから見えないへ。

「さぁクソ蛇ババァ! 奥歯をガタガタに言わしてやるわ!」

消えた戦闘機が爆風を後に残して気配を絶つ。



一方その少し前からメドーサは小竜姫と対峙していた。

「メドーサ。仏法の名においてお縄に……,

神剣を構えた小竜姫が睨む。
シロとタマモが地上で満身創痍で横たわり,気息奄々とした横島がおキヌにヒールされている。

それを見た小竜姫の目がすうっと冷たくなる。

 ―――いや,こんどこそこの神剣の錆にします」


「はん。あいかわらずだね.そういうことはできてから言いな」
小馬鹿にしたメドーサが刺叉の構えを解いて鼻で嗤う。

「ここは日本。香港でのようにはいきません」

括られた妙神山に近い日本では小竜姫はフルパワーが出せる。
しかも、

「人々の防御も終わったようです。今度は人質も取れませんよ」

美智恵・西条の指揮、および新たに急行してきた結界車、結界へりなどによる十重二十重の防御陣が眼下の街全体を覆っている。
アシュタロスクラスの攻撃(究極の魔体ではない)をも数回はしのぐことを想定したもので、メドーサに破れるはずはない。

それにメドーサの眷属はGS,陸自、パピリオ、ベスパとその眷属がほぼ制圧し終えたようだ。
そここにビッグイーターの死骸が転がって消えかけている。
三姉妹、ナイトオウル、小竜姫と立て続けに対峙しているおかげでビッグーイーターの放出は止まって久しい。



「パピリオやベスパさんのおかげで横島さんも奪回できました」
「それがどうしたと言うんだい?」

あいかわらず小馬鹿にした物言い。
ポーズなのかメドーサは横島を取り返されたことなど気にしたふうもない.

確かにメドーサが直接手の届きそうなところは結界で覆われている。
しかしその他の地域の被害は大きかった。関東全域であちこちに様々な石像が転がっている。
大量に放たれたビッグイーターの戦果である。

抱き合う母子、逃げようとしたポーズそのままで固まっている男、アサルトライフルや拳銃を構えたままあるいは仁王立ちあるいは横たわる陸自や警官。
主人を守ろうとでも言うのか牙を剥きだした犬、車ごと石化された家族。
あちらでは運転手を石化され転覆した電車。皮肉なことに乗客も全て石化されたおかげで生命は保っている。

もちろん、破魔札を握ったGSや月神族の兵も混ざっている。
おそわれた中心である横島の高校は戦闘車や結界車が集中したため返って被害が少ない。

それでも集中的に襲われたため、対処能力を超えて襲われ石化された戦車や装甲車が高校の外周に累々と擱座している。
校舎の結界を外に広げるまでに一両が数十、あるいは数百を葬ったが2回目の大量放出時にはそれでも防ぎきれない者が続出したのだ。
おかげでとてもメドーサ本体に第2撃はほとんど加えられなかった。


それらを感じ取った小竜姫の胸に新たに冷たい炎が燃え上がる。
地上にたどり着き満身創痍で横たわった横島とその横で介抱するミラーと冥子が改めて目に入る。


「私も手加減せずに済む、ということです」

一瞬、目を細め押し殺した声で言い放つや小竜姫の2つの角が光る。

光が収まるや本性出現。巨大な白龍がメドーサに襲いかかる。
逆鱗に触れたわけでもなく、自分の意志での竜変化である。

逆鱗に触れ理性を失って竜化したときの獣の目ではなく、人型の時と同じ澄んだ瞳。
白磁のごとき巨体の艶やかな鱗が美しく虹色に光る。


その強力な竜神力と仏力を秘めた顎がメドーサを咬み裂こうと。

「フン、手加減てのは強い方がするもんだよ。こんなことが」

ブン!!
おそってきた白龍の顎をその鋭い爪の白魚のような指と手でひっつかむや、片腕の一振りで隣の山の山麓まで投げ飛ばす。

「切り札だとでも言うのかい?」
「メドーサ! 魔族拠点もない日本でなぜおまえがこれほどの力を出せるのです!?」
「アシュ様のおかげ、かもね。 ま、あそびには付き合って差し上げるよ」

杉檜をなぎ倒し,土埃を巻き上げながら再び飛び上がった小竜姫が今度は全力のブレス。

「はん? なんかしたかい? ぬるいよ」

爆炎ともに急激に膨張した空気がキノコ雲となって上昇するが、
人型のまま何の防御もせずに浴びたメドーサに堪えた気配はない。





「美神さん! あんなメドーサにどうするの?」

計器に張り付いたルシオラ蛍。

「ルシオラも見てたでしょう。真正面からだと小竜姫のブレスに耐えれても思わぬ方向からだと霊波防御が手薄になるわ。
 このバカでっかいミサイルなら起爆すれば仕留めれないまでも相当ダメージを与えられる。
 幸いコイツはスティルス機でメドーサはまだ気がついてない」

とりあえず上をとるわよ、と上昇。

「さっきミサイルで張ってったような縛龍陣をコイツだけで張れる? 小さくてもいいわ」
「何とかなると思うわ」

それを聞いて令子がニヤリと笑ったところで英語で通信が入る。

『チャーリー,応答せよ』

墜落したはずの機体が認識されたので疑心暗鬼で通信を試みてきたのだ。

「ルシオラ、メンドーだから適当にごまかして」
「OK」

向こうからつなげてきたのを幸い通信回線から管制機をハッキング。
偽のデータやら命令やらをぶち込んで令子の乗る‘ナイトオウル’を無かったことにしてしまう。

『おや識別信号が消えたぞ』
『墜落した機が復活するはずないな。なんかのミスだろう。コイツはまだ試作機だ』
『ナイトオウルはレーダーにはほとんど映らんからな。こういうときはやっかいだ』

疑問ながらも納得したクルー。

「ついでに管制機から米軍の駆逐艦2つがデータリンクしてたから潜り込んで乗っ取ったわ。ミサイル発射させてこっちで誘導できるだけだけど」
「ナイスよ!」
「1回きりよ。対魔ミサイルそのものが数がないみたい」



二人の眼下で白竜=小竜姫の姿がふっと消える。次の瞬間にはメドーサの姿も消え霊体レーダー上からも消失する。
両龍が超加速に入り激しく動き出したので捉えられなくなったと言うことだ。

「これでまずこっちには注意は向いてないわね。ルシオラ見えてんでしょ?」
「ええ、動いてる範囲は狭いわ直径500mってところかしら」
「それを覆えるぐらいの縛鎖を造って。その後にギリギリまで近づいてこのミサイルぶち込んでやるわ」
「仕留められなくても後は小竜姫様に任せればいいわね」

美智恵のやった縛龍陣+大型ミサイルぶち込みだと思いルシオラが頷く。

「フン、馬鹿なこと言わないでよ。きっちりこの手でしばいて落とし前付けてやるわ!
 私がママの劣化版しか思いつかないとでも思うの?」



超加速下でやり合う巨竜小竜姫と人型メドーサ。
実時間で十数秒、やり合っている本人達の主観的経過時間で数十分が経過。

やり合うと言うよりメドーサがおちょくっていると言った方が正しいのかもしれない。

小さな本体を利用して攻撃をことごとくかわされあせった小竜姫の猛攻。
それをメドーサは霊波砲の一発、刺叉を一発喰らわせるわけでもなく軽くいなし続ける。
さすがに人型では振るえる力に限りがあることもある。

「もうそろそろ終わりにしようかね?」

ひらひらおちょくりながらよけるのにも飽きたのか、言うなりメドーサの姿も変形しみるみるふくれあがる。

「いかん!」

うめいたのは、妙神山でヒャクメ経由でそれを見ていた猿神である。

「引けっ 小竜姫! おまえでは敵わん」
伝わるはずもないが思わず叫ぶ。

「なぜメドーサが現代の人界で竜化できるのじゃ!」
「竜化に使われた魔力の源はよくわかりません〜〜」

ヒャクメは必死で目をこらすも妨害を掛けられていることもありよくわからない。

「少なくとも外部から流れ込んでる気配はないですね〜〜〜」
「ヒャクメ。ワシも出る。後を頼むぞ。上へすぐ報告を上げよ」

それを聞いた猿神はいうなり,着のみ着のままで霊雲を召喚。
無許可人界干渉の懲罰を覚悟して、そくざに風を巻きおこして見えなくなる.

「また観音様に頭の鏨を締められるのう」




上空でメドーサに一撃を加えるべくミサイルを発射しようとしていた令子とルシオラの目に怪物が映る。


「なによアレは…」


そこに出現したのは、

「き、キ○グギドラ??」

角を生やした三つ頭、鰐のごとく太い三本の尾、そして四肢には五本の鋭い爪。

アメジストでできた三尾三頭五爪龍。
その体は巨大な翼で空中に支えられ、氷のごとき爪先にはがっしと白龍の頭が鷲づかみにされている。

小竜姫を捉えたメドーサが超加速を解除したのだ。

紫水晶がきらきらと陽光をきらめかせる半透明の巨体。
それにとらわれた巨大な白龍が一回り以上小柄に見える。


龍は力に応じてまず爪を三爪、四爪と増やし、最後に全ての生き物共通の五爪となる。
そして更に力が増えれば尾と頭がそれに応じて増えてゆくのだ。

七尾七頭のいわゆる黙示録の獣や八尾八頭の八岐大蛇は地上で人間にも目撃され、畏怖の対象となった。
九尾九頭龍ともなるとその力は三界を覆うとされている。

対する小竜姫は龍族中最強の種族、白竜ではあるがまだ若く一尾一頭三爪龍。格が全く違うのだ。


「メド−サのやつ、力を相当に取り戻しておった! もはやメドーサではないわ。ゴルゴーンよ」

そう、神々に分離され封印されて失っていたステンノ、エウリュアレの左右の首を取り戻していたのだ。

「間に合えばよいが!」
猿神の必死の思いであるが、一跳び十万八千里(5〜4万キロ,現世の地球一周は3万キロ)の猿神の瑞雲と言えども瞬間移動とはいかない。



なんとか爪はふりほどいた小竜姫だが、力と首の数に劣る。みるみる動きがとれなくなってゆく。

「バイバイ。結構楽しかったよ。大甘のエリート嬢ちゃん」
「メドーサ!」

小竜姫が決死でつっこむもねらい定めたメドーサの一睨みで石化。

「でもね。人間の方が遙かに歯ごたえがあったよ。人間の守護竜神としては失格じゃないかい?」

あざ笑うメドーサ。



墜落。




「ふん、どこも欠けない、か。さすが白竜のエリートさんだね」

山腹に半ば以上めり込んだ小竜姫オブジェをちらりと見るや不満そうに鼻を鳴らす。
石化した人ならばこの高さから堕ちれば粉々であったろう。

が、それでいいのだ。神魔のバランスを保ったまま相手の勢力を減殺するには殺すより封じる。
もしくは力を分割する。殺してもほぼ同じ存在として蘇ってしまう。

封じて分割できれば言うことはない。
高位の神魔ではこれが基本だ。

メドーサの石化は相手を殺すわけではない。強力な金縛りと封印を同時にかけられるようなものだ。
もちろん石化中に重要な部分が破壊されればそれは「死」を意味する。



そこへ顕れたのは雲に乗った人民服姿の猿。


「間にあわなんだか・・・・」
小竜姫をちらりと見るがそちらに気をとられて勝てるほど甘い相手ではない。

「おやおや遅いご登場だねぇ」
メドーサもやっと真打ち登場かいとばかりに龍頭を3つとも向ける。

「また石にされに来たのかい? 今度は500年ではきかないよ」
「残念ながらおぬしにかけられた石化はまだ解けてないでな」

猿もみるみる巨大な姿にふくれあがる。
山をも片腕で動かし、天空を1人で支えるという伝説の巨猿。

全身が金剛石(ダイヤモンド)でできた巨大な石猿である。
観世音菩薩が猿神を開放するときに石化を解かずに動けるようにし防御力を上げたのだ。

「石猿を更に石化はできんよ」


その手のひらから1万トンはある神珍鉄の巨大な棍棒が現れる。


「なら、今度は粉々に砕いてばらまいてやるよ!」


巨大な三ツ首の龍の姿から大きさはそのままで紫水晶の鎧を纏う美女と化し、こちらも愛用の刺叉を大上段から振り下ろす。

今までのおちょくりモードとは違いメドーサも全力である。
飛びかかってきたメドーサに合わせ猿神も獰猛な姿のまま霊雲に乗って飛び上がる。


「二叉鉾のきさま程度に負くる気はない」

ダイヤモンドの巨大猿と紫水晶を鎧うこれまた巨大な美女。

「その軽口も今のうちさ!」


ガキィン!!
棍棒と刺叉が交叉。


打ち合った瞬間に稲妻が無数に走る。


ガシーンガラガラガラッ!!


その放たれた魔力と神通力で雷鳴が轟き、都内全域数十カ所に落雷する。まさに神鳴りである。


バリバリバリ!!!――――――――ピシャーン!


両者が打ち合うと共に連続して雲一つ無い空から巨大な炸轟音と閃光が連続して落ちてくる。




「なによ! あのメドーサの出鱈目ぶりは! 横島クンと合体しても勝てる気がかけらもしないわ!」

上空の令子が南極での戦いを思い出して言い切る。あのときはもう少しパワーと持続力それに反則技を使えば勝てる気がした。
今のメドーサではとても勝てない。

「少なくともこの機体の装備でできる縛鎖では1秒も保たないわ」

ミサイルや機関砲をプログラムしていたルシオラも同意する。




「―――――凄まじいんですジャー!!」
「な! あれがメドーサだってワケ?!」
「アシュタロス以上に見えますノー」

地上でもアシュタロスを直に見たことのあるGSたちすらもが絶句していた。

「アシュ様は全力じゃなかったんだよ。宇宙の卵にも逆転号の運行にも魔力をとられてたからね。
 もちろんアシュ様の本当の力はあの程度じゃない」

エミの肩に乗ったベスパが誰に言うともなくつぶやく。それ以上のことも言いたげだったが言葉は漏れてこない。

「伝説のメデューサだとすればメドーサもあの程度ではないはずよ」
「おばさまそれはどういういみなワケ?」
「……おねえさん。ギリシャ神話の元になった地中海の伝説にあるのよ。三つの頭を持つ蛇女神の伝説が。つまり魔に堕ちる前のメデューサの話」

エミの失言に美智恵がギロと睨んでから座り込んで言葉を続ける。もはや自分がなせることはないという表情と共に。
自分では雷を浴びても、打ち合うだけで雷を振りまくあの二人の戦いには割り込めない。
ここにはないが電力を変換する魔法陣を踏んでもだ。

近世以来力を見せたことのない神魔の素の力がここまで凄まじいとは思わなかった。いや、素かどうかすらわからない。

今までは被害をできるだけ少なくするように指令を飛ばしていた。
それも終わった。結果はもはや見守るだけだ。

今は、今は猿神が勝利を収めることを祈るしかもう無い。しかしあきらめはしない。

「こないだ出土した遺跡に断片が残ってたんだけど海の龍王と夫婦であのあたり一帯を治めていたらしいの」
「ポセイドンとメデューサが夫婦だったってところは原ギリシャ神話と同じねですね。で、どんな感じなんですか?」

「西海龍王の奥さんってより、メデューサの方が主神だったようね。人頭蛇身でその胴体は青銅でいかなる攻撃も受け付けず、
 大きな山を十重二十重に締め上げることのできるほど。鎌首を持ち上げればその高さは30mを越える。
 その髪は全て火を吐くコブラ。
 三つある中央の首は不死で、その他の首をいくら切り落とそうが焼き払おうが再生する」

「ヒュドラやヤマタノオロチの言い伝えの元にもなってそうなワケ」

エミだけでなく弓やタイガーも聞き入っている。
周りのビッグイーターは小竜姫の出現以来追加されなくなったおかげでパピリオとベスパの眷属にさくさくと始末されていた。
並のGS、特に戦闘専門のようなタイプはもはや結界の中で首をすっこめて座り込んでる以外に出番はない。
あの戦いに割り込むにはパピリオとベスパですら荷が重いのだ。
その二人も眷属の操作に集中してビッグイーターの始末に専念してくれていた。
おかげで被害がかなり軽くて済む。

「ある日、巨大な猿が眷属を引き連れて挑んだ。詳しくは割愛するけどぶっちゃけ縄張り争いね。
 108日間の死闘の末、猿は一つの首を砕くことに成功するも、その隙に石にされてしまった。
 その戦いのとばっちりで、天は傾きあたりは石化して荒野になってしまったそうよ。そこが今のサハラや中近東の砂漠。
 その後、女神は石化した巨猿を天柱として傾いた天を支え直し、これはたぶんアトラス山系とかコンロン山脈のことね。
 傾いた土地には川を通し荒れ果てた土地を再生した。たぶんこれはナイルとチグリスユフラテスのこと。もしかすると黄河や長江も入ってるのかも。
 そうするとメド−サは中国の女堝(字が違います。土ではなく女ヘン)伝説の元にもなってることになるわね。
 しかし 一部しか元のように緑にはならなかった。それを嘆いた蛇女神は悩んだ隙に夫に殺されてしまった。これが要点ね」

「もしかしてメドーサの持つ刺叉って!」
「おそらくそうよ。刺叉じゃなくて二叉鉾。元は三叉鉾だとすれば平仄が合うわね」
「ポセイドンの象徴の三叉鉾か…、ってことはポセイドンを遙かに超える力?」

「でもそれなら孫悟空も四海龍王より強いはずだから〜〜〜〜〜武器なんかゆすり取ってたはずよ〜〜〜〜〜」
「あの時は争ってないのよ。平和に武器を進呈されているわ。中国民話が正しかったとしてだけど。
 それになにせ成立が宋代だから新し過ぎるわ。どの程度まともに伝わってるか。基本的に小説だからねあれは」

そこにベスパが口を出す。

「四龍王より猿神が強いはず無いよ。人間にはどう伝わってるのか知らないけど南海龍王が猿神の上司なんだからね」
「うそ…」「全然違うじゃない」
「うそどころか、全く頭上がらないはずだよ」

パピリオも負けじと脳内知識を披露し始める。

「南海龍王アヴァローキテーシュヴァラはアシュ様にかかったら一ひねりくらい弱い神でちゅよ。
 千の目と千の手を持つとも言われる技術屋・情報屋で別名‘ピーピングドラゴン’でちゅ。戦闘力は弱いけどなんでも見ていて侮れないでちゅ。
 今回のことも直接噛んでるでちゅよ? 美智恵や美神のおばちゃんも聞いたでちゅよ?」

おばちゃん、に引っかかったが今はそういう細かいことは、いや細かくないんだがどうでも良い。

「どういうこと?」
「南海…アヴァローキテーシュヴァラ…孫悟空の上司…千の目と千の手って! 観世音菩薩様のこと!?」 

慌てて手の神界魔界への直通の通信鬼を見る美智恵。そこに記された神界トップは観音菩薩だ。
観世音菩薩は南海海上の普陀落山におわすということで別名南海菩薩とも言う。

「知らなかったんでちゅか? そうでちゅ」
「確かにどっちもあとで仏教系になった神だけど龍王と菩薩が一緒なんて人間は思いもしないわ…」
「武闘派の仏族は凄まじいでちゅよ。特に薬師なんて普段…」

そこに飛んできた一頭の蝶から報告を受けパピリオが頷く。

「どうやら大口蛇は片付いたようでちゅ。パピはゲーム猿の援護に行ってきまちゅ」
「気をつけてな。無理するんじゃないよ。私は今日冥約を解除できるのはもう1回しかないからつきあえないよ」
「わかってまちゅ。力が違いすぎるでちゅ。ベスパちゃんこっちは頼むでちゅ」
「ああ」

学祭の喫茶店にあったレモネード用蜂蜜を一瓶一気飲みして舞い上がる。




GS達が思わぬ話に驚き、猿神と紫竜が関東上空をせましと暴れ回り、パピリオが申し訳程度に霊波砲なんかを乱射していた頃、
人界ではない某所。(拙SS 電撃クイーン!5 終盤あたり参照)

「御前。ハヌマンが山から離れたようです」

ラドウから報告を受けた主が即刻命じる。

「よし、ミラーのダミーに反乱を起こさせよ」
「了解しました」

300m級の純白の翼、純白の黄金律の体躯そして純白の長髪をもつミラーそっくりなもの。

それが広大な宮殿の上空を舞い、突然――知らない者からしたら全くの青天の霹靂―――――
巨大な霊波キャノンを全開にして辺りの防御設備や探知設備を撃って破壊を始める。

それと同時に膨大な出力で通信霊波を発信し出す。
『御前。やはりこの腐った体制は我慢ならない。体制もそれに唯々諾々と従うあなたにも!
 作られたとはいえ私は自由です』

『ミラー! 早まるな! いくらお前が強力でも1人で何ができる!』
それに対し管制官が必死に説得を試みている。

『それは私が決めることね。死んでも元々よ。死ねたらラッキーなんじゃない?』

その間にも壮麗な宮殿の上部構造は軒並み吹き飛ばされ瓦礫と化してゆく。
内部から不意打ちを食った兵士が適切に対処できず逃げまどう。

『アシュタロスが単身でできたなら私にもできてもおかしくないわ!』

危機管理マニュアルに従って暴れ出したダミーミラーを押さえ込むべく同じクラスの巨大な天使が離床。ミラーの姉妹たち。

全身が陽光を反射してきらきら光る白銀の甲冑を翼まで纏ったシア。
ゆったりとした透き通った滴るような水色の裘を纏ったレイ。
膨大なパワーを持つようには見えない薄桜色の童女のような体に翼を付けたリン。

天使の名に恥じぬ優しげな表情とは裏腹にハルマゲドン級の荒事の為に造り出されたケルプ級高速重戦艦。
神魔のバランスをとるために両界に4艦づつしかない。

人界にはハルマゲドンのラッパを吹く天使、この世を燃やしつくすカルキ、断罪の天使等として言い伝えられるいわゆる破壊神達である。
戦闘力だけとれば神魔界の最高指導者にもひけはとらない存在。
両界の8天使(堕天使)がそろえば地上は7日で火の海になると言われている存在である。

しかし。

ダミーミラーも自分と同クラスの力を持つバケモノが動き出すまでじっとしているほど愚かではない。

一通り辺りの施設を破壊し尽くすと巨体がふわりと浮き上り高度をとる。ちょっと上がるとシフト。

 ひゅいん。かすかな音を残して巨体がかき消える。


『ミラー、人界へ逃亡です』
泡喰った管制官が御前に報告を送る。

御前の直接命令が下る。

「シア、レイ、リン直ちにミラーを追え。破壊をためらう必要はない」

ラドウも併せて皆の前で芝居を打つ。
「御前!! いけません!! 3人はミラーの姉妹。手加減の可能性が。それに破壊しては神魔のバランスが!」
御前も一喝する。

「バカモノ!! あの3人以外誰がミラーを止められるのだ!
 我やお前がここを動いて良いと思っているのか!! それにヤツを人界に野放しにしたらバランスもへたくれもない!」

ドスン!!テーブルを叩く。
その勢いで周りの部下が吹っ飛ぶ。

「管制官、かまわん3人を人界へ送れ!! 一刻が惜しいわ! 最悪ハルマゲドンが起こるぞ!」
「ハッ!」

「それと神魔双方の要所に全て通信を回せ! ことの子細を包み隠さず送れ! 誤解されるとハルマゲドン一直線じゃ!」
「ハハッ!!」

自我を持つ大型通信鬼が膨大な出力で「御前」の命令通り通信霊波発信し始める。

「第一級 緊急連絡!!緊急連絡!!・・・・・」





ほんのちょっと前。
横島の高校の救護所でヒーリングをしているオリジナルミラー。
あたりに累々と横たわるけが人に片端からヒーリングしてゆく。

「ふう。ピークは済んだみたいね」
聖水瓶を片手に額をぬぐう。

とりあえずけが人が運ばれてくるとおキヌのような弱いヒーラーが応急処置をし、
その後にミラーや冥子という強力なヒーラーが容態に従って癒している。
彼女の保つイージス結界のおかげでこの救護所は非常に安全な場所ともなっている。

「おキヌちゃん。ごめんなさい。ちょっとこの隙にトイレに」
「猿神様のおかげでメドーサさんも新たなビッグイーターを放たなくなりましたですしね」

おキヌの視界に残ったビッグイーターが蜂と蝶、それに各地のGメンや自衛隊やコメ軍霊戦部隊にやられて加速度的に数を減らしている。

おキヌもヒーリングの手を少し休めてヤモリ入りスナック菓子ゲッキーを浄水で流し込む。
「でも気をつけてくださいね」
「大丈夫ですよ。これでも一応GSですから」


にっこりほほえんで救護所を後にし校内のトイレに入り、扉を閉める。

今までとは全く異なる人間離れした表情で頭部からレーダーを展開。
あたりをざっとスキャンした後通信機を出す。


「ダイン! 猿神が本拠から離れたわよ! 今よ!!」
ジブラルタルに待機したダインに霊的拠点細工OKのタイミング指示を送る。

『了解。妙神山以外の猿神の拠点はすぐに細工するわ。妙神山はお願い』
「ラジャ」

ミラーが通信鬼を持ち替えて聞き耳を立てる。


ぴーん、ぴーん。信号音が入ってくる。

「きた来た。おいで! 私とダインのダミー達」

きーんきーん。別の信号音。
その音を確認すると最強の戦闘艦にふさわしい表情で校舎を屋上へと駆け上がる。

「ふふふっ。久しぶりね。シア、レイ、リン!! さあ一万年ぶりの戦闘よ!」




飛び上がったのは1人寂しく不安を抱えて留守番をしていたヒャクメだ。


「あ、あれは!」


自慢の感覚器にダミーミラーとそれを追う3鬼が捉えられる。

「なんで!! ウソッ! ケルプが4鬼も!! ちがう8鬼!!」

その時、通信鬼に緊急メッセージが入る。

「どうしてこう物事が群がり起こるのねー!!」

 
緊急発信音に半泣きでスイッチを入れると、

【神界魔界両界からケルプ級高速重戦艦ダインおよびミラーが脱走。
 現在同級鬼が3鬼×2が戦闘追跡中。捕獲に向かっている。向かった場所は不明。
 両者は神界魔界から同時に脱走したことから、示し合わせた可能性が極めて高い。
 人界出張諸神においては注意喚起。未確認情報にこだわらず報告を優先すること。以上】

「なんでよりによってこんな所にこんな時に2鬼共来るのね〜〜〜っ!!」

全身の目から液体を噴水のように垂れ流して妙神山中を走り回る。

「ケルプっていったら戦闘専門天使(堕天使)でハルマゲドン用のとんでもないバケモノなのね〜〜!!
 逆転号なんてメじゃなくって、3鬼も集まれば究極の魔体クラスの破壊力があるのね〜〜〜!!」


ちら、と外を見ると。音速は軽く超えてそうな勢い。もう人間でも見えるだろう。

「ひぃぃぃぃ〜〜〜〜!!こっちにまっすぐ突っ込んでくるですね〜〜〜〜」


目から涙を噴水のように垂れ流したまま卓袱台の下に潜り込む。
8鬼が存在するだけで放出される攻撃的霊波で卓袱台や花瓶がカタカタと揺れ出す。

「ひーん!! 猿神様ぁ〜〜早く帰ってきて―――!!」




「あれだけパニック起こしてたらまず見てないわね」

高校の屋上でミラーがニヤと笑い、地脈をたどって妙神山の麓の霊的拠点へ触手を伸ばす。

ちょちょいのちょいっと。
ダインからも作業完了の信号が入る。

「108つ全部小細工終了ね」

守護神たる猿神も管理人の小竜姫も動けば妙神山といえども霊的守護はないも等しい。
霊的拠点の細工などミラーにとっては赤子の手を捻るようなもの。


そこにダミーミラーがフライバイする。

「ふふふっ さすが私の分身! タイミングぴったりじゃない」

オリジナルミラーがダミーミラーに人型のまま飛びつく。
300mの巨体に人ひとり位の物が捉まってるわけで全くゴミみたいな物だ。

屋上にかけら程度の力を持つ分身を残すのも忘れない。
この分身は精々人間のヒーリングを続けてくれるだろう。

胸のあたりへ潜り込んで早速シンクロ開始。
ダミー、いや分身の一つとオリジナルが重なり合う。実体なき神魔でこそなせる技だ。

「んー きもちいい 5000年ぶりのフルパワーね」

久しく人界で、霊力切れ寸前だった体に霊的エネルギーが満ち渡る。
主の餞を堪能し相棒に指向性通信回路を開く。

「ダイン 行くわよ」
「おう!!」

一足早くヒマラヤから乗り込んでシンクロを果たしていたダインが頷く。

ミラーの両翼と一体となった腕から戦艦大和の砲塔よりも巨大な3連装霊波砲塔がせり上がる。
両翼だけではない髪の部分からも、両脚からも。

人間風に言うならば
 55口径75センチ3連装霊波砲×2
 65口径65センチ3連装精霊石砲×1
 70口径30センチ4連装破魔法陣機関砲×2

それが正面を向き霊力が集中し始める。

「11,52,97,910,1200 ロード完了」
「20,30,120,700,1400 ロード完了」
「1,5,10,90,120 ロード完了」

ちなみに単位は 億マイト。かつ一門一発あたり、である。
一斉謝では兆マイト単位となり、まさに島程度、東京23区程度は消し飛ぶ火力である。

後方ではダインが子鬼を放出。1鬼1鬼が竜化した小竜姫ほどもあろうかという霊圧を放っている。
そんなのが数百、母艦から射出される。

「反転反撃する?」
「その前にいちお被害抑えるために太平洋中央部に出ない?」
「そね、このままじゃこの島が沈んでしまうわ」

それは極めてまずい事態を引き起こす。

前を逃走する2鬼が武器を開放したのを受け、追撃6鬼も武器を開放し出す。




その少し前、睨み合い打ち合う猿神とメドーサ。

「なんかとんでもないのが近づいてるよ」

刺叉を引いたメドーサがにやっと嗤う。

「なんじゃと!!」

言われて猿神も感知する。見るまでもない。神魔4鬼づつ8鬼の重戦艦――翼を広げた300m級の天使&堕天使が超音速で複雑な戦闘機動。
妙神山の方向からバレルロールをしながら突っ込んできた。お互い展開した飛び道具はまだ使っていなかったのが不幸中の幸い。


在日米軍、自衛隊ともスクランブルをかけてくるがはっきり東宝の自衛隊より惨めな状態である。


「くそっ! オバハンに一発ぶち込むまで墜ちれるか!」
令子の乗るナイトオウルも8天使が巻き起こした霊力嵐に翻弄される。

「まかせて! このぐらいなら何とかなるわ。操縦桿から手を放して」
ルシオラの操縦で上空へと待避。


300mの空母並というか体積で原子力空母以上のデカ物が8個も超音速で複雑な激しい戦闘機動。
それに双方から放出された竜化小竜姫並みの艦載鬼 数千が入り乱れている。

ミサイルを撃つことも叶わず待避の遅れたモノはあおられるだけで堕ちてゆく。
動きの鈍い艦船は逃げることもできずに岸に乗り上げ、お互いが衝突しあっという間に座礁して全滅。

辺り一帯に突風と衝撃波が吹き荒れ、海には高波が押し寄せる。
山は砕け高速道路や線路の高架が将棋倒しに倒れてゆく。

出鱈目な直接被害を後に残して8天使が太平洋上に飛び去ってゆく。
しかし、本当の恐怖はその後にあった。




「おお怖。黙示録の8天使が神魔双方全鬼お出ましだよ? 巻き込まれたらけがじゃすまないね」

メドーサはあたりの凄惨な有様をわざとらしく見回して首をすくめるが猿神と打ち合うのを止める気配は全くない。


「ほらほら、さっさと帰って、地脈を安定させないととんでもないことになるんじゃないのかい?」


黙示録の8天使が通り過ぎただけで放たれた膨大な魔力が神通力が地脈を揺るがせている。
初期微動が関東全域、いや日本列島全体を揺るがせ始める。


「イカン!! このままでは!!」
まさにThe end is coming(終末は来たれり)であろう。


しかし、いかな猿神とはいえ今背を向けては帰還はおぼつかない。

ゴゴゴゴゴ―――――ッ

「ハハッハハハハッ! どうするんだい。8000年前のようにここら一帯も不毛の砂漠、いやここなら海だね。――にしちまうのかい」

不気味な地鳴りに焦る猿神に絡みついて離れない。





「バカ笑いは止めなさい! そういう悪役は滅びるって決まってんのよっ!!」


その言葉(正確には念波)と共に真上から割り込んできたのは貧弱な十数基のミサイル。


「はん! こんなもの2番煎じが通じると思ったのかい?」


ちょろちょろと追尾し、小さな縛龍陣を形作ろうとするそれ。
猿神をあしらうついでに超加速を発動することもなく髪の毛で片端から払いのけてゆく。

「陣を構えなきゃ、どうってことないんだよ」

払うたびに精霊石の爆発がメドーサを襲うが気にしたふうもない。

が、

あるミサイルを払ったとたん。
とたんに爆薬でも精霊石でもない光が輝く。
それでも、メドーサは顔をしかめるものの動じない。

文珠使いはもはや戦闘には参加できていないはずだ。

「フン。ド素人の操った文珠の一つ二つごときが効…… これは!」
「かかったわね」

メドーサが驚き令子が機内でニヤと嗤う。


――――――――――――『模』―――――――――――――――



「ほーっほっほっほっ!! さすがにアンタでもアシュタロス以下でしょ?」
「……美神さん。ホンットにえっげつないわね」
「『爆』とか『縛』じゃ効きそうにないもの。私やアンタじゃ複数操るのは無理でしょ?」

機内でルシオラが蛍姿のままでっかい脂汗を複眼あたりに貼り付けている。
たしかに唯の人間でもアシュタロスの力を『模』せる以上、逆も真だ。


その辺のてきとーな一般人の能力を一時的に移されたメドーサの巨体がみるみるうちに縮む。

その保無 尾卓とかいう人物はたまたま令子に除霊を依頼したことがあり、たまたま金を持ってて、たまたまあまりにもむさいので鮮明に記憶が残っていただけの哀れな一般人だ。

はじめは憂さ晴らしをかねてエミのパーソナルでも使ってやろうかと思った。
「万が一黒魔術で反撃されるたらやっかいだしねー。別にエミ如き怖くないけどね」

そいつのパーソナルデーター、たとえばまんがとビデオを数千本もってて、親譲りの小金があるにもかかわらず彼女いない歴37年。
お見合いは74回振られ、しかも趣味はまんがの二次小説書きと美少女フィギュア収集。
などというどーでもいいデータがメドーサの頭に流れ込んでくる。

急速に下腹がぼこんと出て、ほおに吹き出物がブツブツと噴出してくる。


「くらえッ!!!!!!」
「キサマァ!! どこだぁっ!!」


縮みながらわめいて墜落するメドーサ、いやヒッキーのネットオタに容赦なくロックオン。
ウエポンベイが開いたとたんにステルス機能が弱り、直上から急降下してくる数百メートル上空のナイトオウルがメドーサの目に映る。

「いつの間にそんなところに潜り込んだ!!」

最新の科学とオカルトの結晶にルシオラの能力を+。警戒していたメドーサにも気づかれずにすんだようだ。

ロケットアシストユニコーン誘導爆弾:実質威力精霊石4トン分−が至近距離でウエポンベイからせり出してくる。

発射。 ロケットモーターが傲然と唸り急降下する爆弾にさらに加速度を与える。

レーザー誘導されたそれはまだ猿神の半分はあるメドーサの大きさと近さでははずしっこない。


命中。


急降下の勢いにロケットの加速が+されたバンカーバスターがまだ残るドラゴンメイルをぶち割り、メドーサの体の中に弾頭が潜りこむ。
一瞬後に凄まじい閃光と共にメドーサが人間大に縮む。


さらに機関砲をロック。


「これはオマケよ!!!」


人間大に縮んだメドーサに30mm機関砲弾が襲いかかる。一般人なら一発当たれば体が真っ二つである。
そんな精霊石と劣化ウランの複合弾頭、しかもルシオラにモンスター化されて強化されたそれ。
数十発をぶち込まれメドーサは一瞬にして原形を留めぬミンチになる。


「礼を言うぞ」


肉塊となって墜落したメドーサに猿神が鉄棒を叩きつける。
しかし、横島が操作したわけでもない、たかが一個の文珠で押さえ込めたのはそこまで、たった数秒だった。
魔力ブースターの機能は文珠で損なわれていなかったのも幸いしたのだろう。


「美神令子に文珠!! ま゛だも゛や゛ギザマら゛ガッ!」


肉塊から人型になんとか再生し、全身から紫色の血を吹き出すメドーサ。
かろうじて刺叉で鉄棒を受け止めるが、魔力が充分通わぬゆえはぼっきり折れ、はじき飛ばされる。

「よごじまを動げなぐじだので油断じだよ! やばり、真っ先゛に゛げじどぐべきだっだな゛!」

猿神が目の前に迫る今、無限の魔力があろうとも体を回復するヒマはさすがにない。
こんな体で猿神の一撃を受ければ魔力ブースターごと粉砕されてしまう。

血まみれな震える手で亜空間を開き、多少は回復しかかった体をねじ込む。

「覚えてな!!」

ピシッ! というかすかな音がして亜空間が閉じる。

「次は必ず殺してやるよ!」

捨て台詞の後に機関砲弾と鉄棒が通り過ぎる。遅かったようだ。


「逃げおったか」
「クソ! あれじゃせいぜいシロ1人分よ!! 神通棍でしばいてチリにしてやるつもりだったのにッ!!」

令子が戦闘機の中で地団駄踏むがいかんともしようがない。




to be continued


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