椎名作品二次創作小説投稿広場


復活

宴の始まり(2)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/10/21

メドーサvsシロタマ

横島を救うべく急上昇するアルテミス形態のシロをのせた金毛九尾狐。
捕まえた横島とルシオラに気をとられていた隙にメドーサの上空をとった。
もちろんタマモの幻術も使い気配をわかりにくくもしている。

もはや正真正銘の伝説の九尾狐と化したタマモは変化で飛んでいるわけではない。
その豊かな九本の尾をたなびかせた上昇からくるりと下を向く。

腕でのど頸をがっしり捕まれ、メドーサの真正面に掲げられている横島が二人の眼下に映る。

髪が変化したビッグイーターに巻かれているだけで見られているわけでもないルシオラなら隙がありそうだ。


「タマモ、まずルシオラどのを助けるでござる!」
シロもそれぐらいの判断はできるようになった。

「承知!」

シロの口調がちょっと移ったタマモが意を受けて急降下。



「デャアアアァァァァ――――――」



垂直逆落としに急降下するタマモに跨ったシロが最強出力しかし限界まで絞りきった霊波刀を振りかぶる。

「なにぃっ」
メドーサが異様な気配にあわてて空を見る。

獣族特有の動体視力と運動能力、かつ不意打ちに近い角度からふところに飛び込まれたのでさすがのメドーサも反応が間に合わない。
それほどタマモの飛ぶスピードは速い。それに最大限放射された幻術。

メドーサもそのような大妖怪が2体も付近に居るとは思っていなかったのだ。


刺叉を出して防ごうとするも、タマモの火炎放射を正面から浴び一時的に視界を奪われる。
それにシロ&タマモの狙いは本体ではない.


ザシュッ!


ルシオラを締め上げていたビッグイーターが見事に本体から切り離される。

本体から切り離されたビッグイーターは弱い。ルシオラがほんの僅か力を入れただけで引き裂かれ消失。

「助かったわ! ありが―――」
ルシオラが礼を言おうとするが,シロタマには聞こえていなかった。


「タマモーっ! 少しは手加減するでござる! 先生が丸焦げでござるっ」
「あんなバケモノ相手だとあのくらいは出力上げないと目くらましにもならないわ!」


見ればメドーサにぶら下げられた横島からはぷすぷすと煙が上がって,断末魔の痙攣をしている。
メドーサそのものには当然ながらさほどのダメージはないようだ。

「おや、九尾とはいえ妖狐と人狼ごときが」

振り向いたメドーサには焦げ目一本ついていない。


「先生の敵! 覚悟するでござる!!」

シロの戦闘時の集中力は凄まじい。
文句は一瞬で済ませ次の瞬間には大弓を引き絞って連射。
矢を避けるなり落とすなりしてくれればルシオラが横島を取り返す隙ができよう。

「チッ」

メドーサはじゃまな横島の手を離しながら刺叉でそれをたたき落とす。
横島が地面へ落ちてゆく。

地上ではそれを見た冥子がメキラを放出。

シロの計算どおり。
矢の後ろから霊波刀を構えて飛び込む。
次はほんのしばらく時間を稼げば勝利である。

しかしメドーサはシロタマを見もしなかった。

「獣如きが……このメドーサ様に正面から楯突こうってのかい!」

矢をたたき落とした姿のまま、憤怒の表情でいきなり3人の視界から消える。
その後をシロの霊波刀とタマモの火炎が通り過ぎる。

「どこでござる!」
「どこッ!」

シロタマがその鋭敏な感覚で四方八方を探るも気配がつかめない。
いや、探る閑すらなかった。
開放されたルシオラの頭にメドーサのスペックが流れる。

(やばい!!)

落ちつつある横島を取り返しに行っている閑はない。シロタマに体当たり。
その後をメドーサの刺叉が通り過ぎる。
まともに当たれば二人とも胴と首が生き別れになっていたであろう。

間一髪。

タマモの尻尾の先が少し持って行かれるが気にしている余裕はない。
ルシオラは本物の超加速はできないが超高速で演算することにより何とか追随できる知覚と運動性能を発揮することはできる。

学者肌のアシュタロスが土偶羅の演算力を借りて造り上げた、3姉妹。
個人戦闘力のポテンシャルは数千年の劫を経た龍神にも負けない。

しかし。

「たかが人間の霊力に頼る式神がやるねぇ」
(キツイ!!)

矛先をシロタマからルシオラに換えてくれたのは僥倖だが、
膨大な霊力を使用するそれは横島が無事でも長期間続けられる物ではない。
ましてや今はマスターが白目を剥いている。

(あと実時間で1秒ほど!)

超加速メドーサとアドバンスドモードに入ったルシオラからみれば、
シロタマや空中に置き捨てられて落ちつつある横島は停止しているに等しい。

(ヨコシマ!)
のんびりとおちてゆく空中に置き捨てられたそれには届きそうもない。

メドーサが常にルシオラとの間に割り込むようにいやらしく機動してくる。

「これを抑えられちゃあと2秒ぐらいかい」

絶対に楽しんでいる。
こちらの霊力切れをまってまとめて潰す気だ。

ぶぅん!

またもや嘲笑と共に刺叉が目の前を通り過ぎる。

(くっ!)

二人でしばらく余人には見えない機動をしていたがパワーが違いすぎる。
自由落下する横島はその間にゆっくりと,だが数十メートル落ちた。

(せめてシロちゃんとタマモちゃんを!)

このままでは二人も道連れになる。
超加速ではやられたことにすら気がつかずに死ぬだろう。


(人間が張った下の結界まで戻せれば!)
決心したルシオラは最後の霊力を振り絞った幻術で一瞬メドーサの目をくらませる。
同時にすぐ横でゆっくりとまっすぐ進んでいたシロタマをひっつかんで急降下する。


ごうっ!


霊体が皮をかぶったようなルシオラやメドーサと違いシロタマには実体がある。
それを超加速に近いスピードで引っ張ればどうなるか。

(ゴメン!! これしか思いつかなかったの)

みるみる空気摩擦で二人の衣服や毛皮が剥げてゆく。
急な加速で二人の肋骨が折れてゆく感触が伝わってくる。

(あと0.1秒!)


霊力切れ。
「ルシオラッ!!」「シロちゃん」「タマモ!」

メドーサと今闘っているはずの三人が結界外側の上空ギリギリにいきなり現れ、令子やエミが驚愕する。
心眼でとらえて理解していたおキヌがすぐに結界を一瞬解いて舞い上がる。

本性を現した3人を抱えて戻るやすぐに結界再起動。

そしてヒーリング。

上空千メートル以上から0.1秒で地上まで引きずり降ろされた衝撃は犬神といえども軽いものではない。

「ルシオラどの・・・・何が起こったのでござるか?」
ヒーリングで気の付いたシロがかろうじて人型に戻るやうっすらと目を開け、頭の上のおキヌにつぶやく。

「しゃべらないで」

霊力を使い果たしたルシオラは蛍。
ヒーリングしていたおキヌが代わりにかいつまんで説明する。

「超加速‥そんな技があったのでござるか……」
上を向いたままのシロが悔しそうにつぶやく。

乗っていたタマモが多少空気摩擦の盾になりまた月の加護もあった。
それで被害が少なかったのだ。
タマモは満身創痍で子狐に戻り気を失ったままだ。


「結局先生は救えなかったのでござるな…」
かすれた声をたてる。

「あんの馬鹿は自分の勝手な判断で突っ込んで足ひっぱったのよ! 気にする必要はないの!」
令子がシロを汚れるのもかまわず抱きしめる。
「シロ! あんたもタマモもかんばったわ。おかげで防御陣地を作る時間が稼げた」

横では冥子のショウトラがタマモにヒーリング。こちらはもっとひどい。

「あとは任せときなさい! この美神令子があのクソヘビババァをしばいてやるから」

それを聞いて安心したのか
「美神どのの保証なら確実…それに美神どのに……ほめて頂いたのは初めてでござるな…」

そこまで言うと令子の手の中でシロはニコと笑ってがっくりと気を失ってしまう。
再び子オオカミ状態に。



一方で美智恵が唇をかんでいる。横島がおさえられたままなのだ。
シロタマが横島をメドーサからホンの少しでも引きはがせばその瞬間に全方位からぶち込む気だったのだ。

シロとタマモがやられたことでまたぞろビッグイーターの群れが増えだす。

周りで盛んに自衛隊の霊能戦闘車両が応戦しだした。まだ、結界まで到達する物は居ないがこのままではじり貧である。

(まずい)

このままではコメリカ軍も自衛隊もメドーサ本体は攻撃すらできない。

その美智恵にひょろひょろと蛍が飛んできてつぶやく。

『何か方法があるならやって』
(でも横島クンが)
『私たちのミスよ。なめすぎた』
(あなた達ばかりに犠牲は強いれないわ)
『大丈夫。霊力を分けてくれたら何とかする』

それを聞いた美智恵は蛍をぎゅっと握った後、指揮官としての冷たい鉄の声で令子に命じる。
「令子。ルシオラさんに霊力補給。めいっぱい」

結界外側に配置された87式自走高射連装霊体ボウガン、93式近接地対空精霊石ミサイル発射機などが次々に石化擱座し出す。
その搭乗員が次々と結界内に転げ込んできている。
そんな情報が流れる端末を横目で見ながらをくってかかった令子に暖かみを全く感じさせない声で説明。

「ママッ! まだルシオラを使う気!? マスターの横島クンもぼろぼろなのよ!」
「そう。いまメドーサ攻撃の準備が整ったわ。そのために横島クンを保護に行って貰うわ」
「あの状態でメドーサを攻撃する気?! 横島クンはどうなるのよ!」

外陣を突破した無数のビッグイーターが火花を散らしながら最後の結界に体当たりをかけている。
美智恵は周りをぐるりと見渡すと烈火のような娘に液体窒素を流し込むような冷え冷えとした声。

「空にいるメドーサを倒さない限り事態は改善しません」
「ママッ」
「幸い、結界ができたのでここはしばらく持ちます。このスキにメドーサを祓います」

母親をギリギリと睨む娘に宣告する。

「空も飛べないあなたは合体するか竜神の装備をしない限りメドーサとは戦えません。
 あなたの今の価値は電気から無限に霊力を供給する補給能力です。
 ルシオラさんに霊力を供給することを命じます」

そこにGメンの1人がとんできて耳打ち。月神族に付いていたはずだ。

(隊長!! 結界の一部が一時的に破られ月警官の長が石化されました!)
(何ですって!)
(迦具夜姫をかばって……。幸い、副官の方と迦具夜姫は無事です)
(なんとか現有戦力であと5分持ちこたえて)
(……努力します。重力と空気で月神族の消耗が激しいため。どう見てもあと10分が限度です。
 ミラー氏とピート氏の活躍で撃退および結界修復はできましたので5分ならなんとか)

もはや一刻の猶予もなさそうだ。
母親の顔を夜叉のごとく睨む令子に冷たく申し渡す。

「彼1人とここの人全員を、いえこの街を引き替えにできないわ。従わないなら即座に攻撃します」
「ママッ!!」

そこに蛍がふらふら飛んでくる。僅かに残る霊力で自身の幻影を出して懇願する。
『美神さんお願い。行かせて。必ずヨコシマの命は守るから』

それを聞いた美智恵が通信端末に攻撃許可とタイミングをのべてゆく。
「わかりました。今からきっかり4分後に攻撃します。それまでに保護しなさい」
もはや令子もルシオラも見てはいない。

ギリと唇をかんだ令子が蛍を握る。
「!! ルシオラッ! もってけっ」

いうなり蛍に両手をかざし霊力を供給する。
その奔流のような霊力にみるみるうちに蛍から人形に戻る。

しかし、まだ令子は供給をやめない。
「おキヌちゃん!! 高圧線ここへ!! 早く!!」

おキヌがタイガーと太い高圧電線を持ってくるとそれをいきなりつかむ。

「美神さん!!」
てっきり幽体離脱でやると思ったおキヌが叫ぶ。


バチバチバチ


3相6600V高圧線と令子の肉体の間にまばゆい火花が散る

生きていた.


「幽体離脱なんかしたらこんな重い電線もてないわ! チンタラやってやってらんないわよ!」


片手で高圧線をつかみ片手でルシオラに霊力供給。
吸収しきれない電気が肉を焦がす臭いが漂う。


その代償としてルシオラが。

少しずつ成長してゆく。
今まで着ていた服を脱ぎ、コスプレ人形からバイザーのついた赤と黒の戦闘服を着た魔族に戻る。
人間と変わらぬ大きさに。

 132
 451
1027
2017
3509
4577
5289
6400マイト


霊力が満タンになったのろうか。
バイザがー緑色に光る。

アシュタロスに人界専用の魔族として創造された
戦闘用魔族‘ルシオラ’


それを見てガクリと膝をついた令子が所長として命じる。

「おいき、ルシオラ。あのバカをここまで引きずってくるのよ!」
いうなり崩れ落ちる。が、すぐに肩肘をついて続ける。

「すぐにひっぱたいて教育し直してやるから」

崩れ落ちた。
今度こそ本当に気を失ったようだ。
慌てておキヌがヒーリング。

「わかった、いえわかりました。美神所長」

ルシオラが気を失った令子に膝をついて敬礼する。
その目に光る物が。


それを横目で見ながら結界の強化をしていたエミが例の玉っころを放る。

「持って行くワケ。呪文は―――に括られてる魔族の名を唱えるワケ」

寝っ転がった令子を顎でしゃくる。

「魔族の名前は契約で他人には言えないけどわかるわね。切り札は令子に使うはずだったけど。あのざまじゃね」


紙でできたようなそれを受け取ったとたんにわかった。
懐かしい波動が漂っている。
妨害が一切無い今、はっきりわかる間違えようのないこの波動。

「あ、ありがとう!」
「全権委任は1回だけなワケ。それに冥約条項第13項で開放できるのは666秒だけよ」

深々とエミに頭を下げるやアドバンスドモードに入ったのだろう。
姿が消える。


彼女が消えてしばらくすると、美智恵が見詰める端末にはコメリカ軍や自衛隊の攻撃過程が次々と映し出される。
さっきの指示によりとうとう攻撃が始まったのだ。

『コメリカ空軍‘ナイトオウル’から散弾型精霊石弾頭ミサイルAIM−120 16発発射。ターゲットへの予想着弾98秒後』
『空自ペトリオットPACW直撃型精霊石弾頭ミサイル10発 発射。予想着弾72秒後』
『陸自06式中距離地対空散弾型精霊石弾頭ミサイル8発 発射。予想着弾66秒後』
『コメリカ海軍太平洋艦隊 チャイローおよびクリッドレイからESSM対魔破魔符集積弾頭ミサイル12発 発射。予想着弾42秒後』
『……」
『…」

四方八方から同時に着弾することを目指し長距離から順番にミサイルが発射されてゆく。東西南北上下左右からメドーサに殺到してゆく。


上の間にメドーサは動かなかったわけではない。
手を離した横島をメキラにとられる前に回収し再びビッグイーターを無数にばらまくのに専念していたのである。

おかげで結界にたかっている物以外にも外側の人間を襲うヤツが激増していた。
いや、ここを中心に関東全域が無数のビッグイーターで充ち満ちたと言って良い。


キャイン! ひぃっ 助けてくれえ!! みぃぎゃー!!

人々も犬も猫も生きとし生けるものが片っ端から次々に石にされて行く。
高校にはられた結界を少しでも拡張すべく自衛隊やオカルトGメンが奮闘するが焼け石に水だった。
結界も端から浸食されていたと言った方が正確だろう。

もちろん結界中央部は月神族の為にあらかじめ張ってあった結界に+結界車の結界、
それにGSや戦闘車両が集中して配備されているがその他の地域はメドーサの眷属の蹂躙するままになっていた。

美智恵は歯ぎしりするも今のところは黙ってみているしかない。
メドーサがまた戦闘し出せばビッグイーターは祓うこともできよう。
今はまずメドーサだ。
ミサイルが到着するまであと1分12秒。


美智恵が見上げる目の前で結界が莫大な数のビッグイーターに埋め尽くされ盛大に悲鳴を上げている。
アレが破れれば真っ先にここは石像の集合と化そう。
最大の打撃力である令子と横島を失ったここはもはやフォーメーションを取ろうとも抵抗する力はない。
エミも魔力源を手放した。



その大将のメドーサそのものは殺すでもなく喰うでもなく横島を左手でぶら下げたまま下を見ていた。


「そろそろ反撃が来るかねぇ」


ギュイ――――ィン!! ズドッ!

一番手はメドーサの1000倍は居ようかという雲霞のごとく眷属を引き連れたパピリオが上空から衝撃波と共に。

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜〜ん。メドーサのおばちゃんヨコシマをかえして覚悟するでちゅッ」

ほぼ同時にこちらも超音速で下から昇ってきたルシオラ。
攻撃範囲に入る前にエミに教えられた呪を操る。

「我はルシオラ。小笠原エミに全権委任されたもの。
 冥王の契約条項2条13項に従いかりそめの自由を!!」

その手の玉が黒い光と共に裂ける。

「いでよ!! ベスパ! 蜂力招来!」

バリバリッ

裂けめから手と触覚。
外郭を破って出てきたのは黄と黒がイメージカラーの豊満な美女。

「ベスパちゃん!」
ルシオラはともかくベスパにまさかこんなところで会えるとは思ってなかったパピリオがすっ飛んでくる。

「パピリオ」
「ルシオラちゃんもなんでそんなにおっきいでちゅか?」
「久しぶりの3姉妹そろい踏みだねぇ」

ベスパが玉、すなわち、スズメバチの巣の残骸から飛び出すと共に、元の大きさに戻る。

「こんな仕事は想定外だよ。姉さんを驚かして美神令子とポチに意趣返しをしてやろうと思ったんだが。
 全く。やっぱり契約料安すぎたかね」


ぐおぉぉぉぉん!!


続いて眷属の巨大なスズメバチの群れが噴出。
それを見たルシオラが人間の結界がぎりぎりであることを告げ、
ぺスパとパピリオに懇願する。

「お願い。眷属はビッグイーターを祓わせて」


「さあお前達ヘビをやるんだよ!!」
「やってしまうでちゅ!! 3人そろえば眷属なしでもヘビおばちゃんなんか一撃でちゅ!」

『ガッテン』『わかったでちょー!!』

獰猛な巨蜂と毒蝶の群れが逆落としに地上へ向かいビッグイーターに襲いかかってゆく。


ざざざざっ――――――!!


地上では至る所で蜂,蝶,蛇,人間の4つどもえの闘いが繰り広げられる。


「舐められたもんだね? はん! 虫けら如きが何ができる!」


気を失った横島を蠢く髪の毛で巻き込む。どうやら今殺す気も取り返される気も全くないらしい。
喰らって吸収するのに相当執着しているようだ。髪の毛で包み終わると超加速再び発動。
3方から囲んだ3姉妹もアドバンスドモード。

横島争奪戦第2ラウンド開始。



ガンッガガガガッ!!

中空で盛大に連続で爆発と閃光がきらめく。

『チッ。メドーサの方が早いね』
『これだとポチは取り返せないでちゅ』

ルシオラの幻影のサポートでベスパが直接攻撃、パピリオが霊波砲を撃ちまくるが掠りもしない。
メドーサの方は1:3でも余裕なのか薄笑いを止める気配すらない。
後ろにも目があるかのようにパピリオ霊波砲を避け、ベスパに刺叉を繰り出す。
隙あらば麻酔を叩き込もうとするルシオラを後ろ髪のビッグイーターが火炎を放って追い払う。

しばらくの後、パピリオは帽子を持って行かれ、ルシオラのスカートやセラー服の衿やネクタイは裂け、ベスパも何カ所か擦過傷負っていた。

『このままじゃまずいよ』

ベスパがテレパシーでつぶやく。自分はタイムリミット、姉は魔力が事実上持ちきりだ。
まともに動けるのは末妹のパピリオのみ。
そのつぶやきを引き取ってルシオラが新たな作戦を伝えてくる。

『ベスパ、パピリオ。あと実時間5秒で人間の飽和攻撃がくるわ。一旦引いて』
『ルシオラちゃんは?』
『一旦ヨコシマの中に戻って護るわ』

これは賭けだ。ルシオラが一旦影に戻れば横島ごと拘束されてしまい次はまず出てこれまい。
人間の攻撃が無効で拘束されてしまう可能性も、効き過ぎてメドーサごと粉砕される可能性も双方ある。

『メドーサを傷つけるような攻撃からまもれるのか!』
『なにもしなければ私もヨコシマも消えるわ。
 幸い美神さんに貰った霊力がだいぶ残ってるし、ヨコシマの中には文珠もある!』
『わかったでちゅ』

姉の決心にまずはパピリオが首を縦に振る。
ベスパもやれやれと肩をすくめる。

『じゃぁ次に一斉に突っ込むから。その隙にヨコシマの影に戻るわ』
『慎重にしてくれよ。ねえさん。あと5秒だな』


テレパスで一瞬で作戦会議を終わらせると再びメドーサと打ち合う。
しばらくこれまでと同じく1対3の巴戦を行い、期を見て幻影を伴いながら三方から同時に突撃。

さすがのメドーサも三方同時ではあしらいきれず防御姿勢を取る。
それと共に真っ正面から突っ込んでくるベスパを潰すべく刺叉を突き出す。

「「「イヤァアァァアァ―――――ッ!!」」」


突撃するように見せかけ、直前に僅かに軌道を変えすれ違い様にメドーサから飛び去ってゆく。
ルシオラは横島の影ーメドーサの髪の中へ一気に飛び込む。


「貴様ら?」


去ってゆく3姉妹にあっけにとられたメドーサは思わず構えを解き目で追う。
その目に四方八方から飛来する何かが映る。


「なんだと!!」


気がついたときにはもう遅い。

マッハ3程度とゆっくりと飛んできたミサイルがプログラムに従って精霊石や破魔札を起爆し始める。
ただ爆発するだけではない。大きくメドーサを囲むように規則正しく複雑な模様。
個々のミサイルも仕掛け花火のように空中にカラフルな模様を描いてゆく。

超加速下でゆっくりと感じられる精霊石の起爆がメドーサの目にも映る。慌てて圏外に出ようとするが
半径十キロ以上にも及ぶそれの範囲からは超加速といえども不可能。

おまけに四方八方からルシオラの幻影も含め数十人のベスパ、パピリオ、ルシオラが盛大に霊波砲を撃ってくる。

線と模様が繋がって行き一つの巨大な3次元魔法陣を描き出した。

「縛龍陣だと!」

陣が光芒を発しメドーサに粘り着くような霊波。

「チィッ!!」

魔法陣に絡め取られたメドーサの超加速が強制的に解除され、
魔力が減ったメドーサの髪の毛から横島が慣性で放り出される。

「小癪な! この程度の陣数秒で!」

両手に魔力を集中して陣を引きちぎろうとする。だがしかし。

ダーツのような100kgの直撃型精霊石弾頭を持つPACWミサイル10発が上から突っ込んでくる。吸い込まれるように全弾命中。
各部を貫かれ思わずのけぞったメドーサに下から戦車の精霊石砲弾4発がさらに叩き込まれる。


「縛鎖形成から直撃までのタイムラグが大きいわ。70点ね。
 今回はそのタイムラグのおかげで横島クンが助かったからいいんだけどね」

様子を通信端末のモニターで見ながら美智恵がつぶやく。

「縛龍陣で縛った上で3000マイト相当×14発の同時着弾。
 ミサイルの即応プログラムもうまくできてたようね。
 これなら今までのデータからすれば、メドーサの二・三人は消し飛ぶはず。いい実験台になってくれたと喜ぶべきなのかしら」

空を見上げて首をかしげる美智恵。
一方、四方八方から精霊石の鏃いや杭に貫かれたメドーサ。

「ぐぁぁぁっっ!!」

次の瞬間にはメドーサの内部と表面で爆発した精霊石の爆煙と閃光に包まれ見えなくなる。

「やったでちゅか!」
「ああ、あんなのにやられりゃ私らなら霊破片も残らないよ。
 あのクラスの竜神でもひとたまりもあるまい。人間も侮れないねぇ」

爆炎を見ながら憮然とつぶやく。
複雑な顔のベスパの横でパピリオは単純に喜んでいる。

「それに、あれならヨコシマもルシオラちゃんも無事でちゅね」

ミサイルや砲弾はいずれもメドーサを直撃。
少し離れた横島は文珠を使ったらしい丸い光芒に包まれている。
その光芒がふわり、と動き始めベスパとパピリオに合流。

中ではルシオラが気を失った横島をいとおしそうに抱きかかえている。

「ベスパ、パピリオありがとう。なんとか取り返せたわ」
「あいかわらず、ポチ命でちゅね。やけるでちゅ」

ベスパの触角がぴこぴこ光り出す。冥約での力の解放期限切れが迫っているのだ。
「まったくだね。あーもう3分ないよ。時間切れだ」

ベスパも肩をすくめて同意。その後で顎をしゃくる。

「じゃ人間の所へ引き上げるかい?」
「そうでちゅね。これで小竜姫よりパピリオの方が遙かに役に立つことが証明できましたちね」

お気楽なことをしゃべる二人と違いルシオラは横島を抱きかかえてすぐに降下し出す。
急激な加速を避けてふんわりと。

「ヨコシマも早く治療を受けさせないと。私の操った文珠では血止めが精一杯なの」
「ニンゲンのくせに超加速で振り回されて生きてる方が不思議でちゅ」

並んだパピリオが苦笑して横島をつつく。

しかし、安心するのは早かったようだ。

「よくも……やってくれたね」

爆炎が収まり、3人が引き返そうとしたところに現れたのはあちこち服が破れ、半透明の紫色の血を流すメドーサ。

「あれで封じられないのか!」
「きさまらだけだと油断してたよ! 人間が侮れないのはわかってたつもりだったんだけどね」

雄叫びを上げるとどこからか大量に魔力が流れ込み、みるみるうちに回復してゆく。

「う、嘘だろう? キサマ、魔界ならともかく、なぜ人間界でそんなことができる?」
「ルシオラちゃん! 解析できまちゅか?」

パピリオが演算の得意な長姉に聞いてみるがその閑はなかった。
ベスパが数発の霊波砲を放つも霊力が急激に減衰。

時間切れだ。

「チクショウ!」

ベスパが40cm、SD体型になってしまう。

冥約条項13条は神と魔の協定で最大666秒。
SDベスパは上等の式神ケント紙程度の力しかない。

「ベスパちゃん! ルシオラちゃん早く人間の結界へ逃げ込むでちゅ! ここはパピリオが足止めするでちゅ!」
「頼んだよ! すぐにマスターにもう一度解除して貰うから」
「ゴメン! 私もヨコシマ渡したらすぐ来るわ!」

パピリオが表に立つが超加速で一瞬でルシオラの正面に出るメドーサ。

「させると思うかい?」

その憤怒の表情はそれだけで石化されそうだ。

「横島を吸収しようなんて余裕がないことはよくわかったよ!! 死ねいッ!!」

言うなり、横島を抱え急激な運動ができないルシオラに刺叉を突き出す。
幻影で隠れるが場所と移動ベクトルがわかっている以上ほとんど無意味。

「グフッ!」

横島をかばって背中をやられた。
当たる寸前に霊波を集中したので真っ二つになるのは避けられた。
それでもダメージが伝わったのか、文珠で塞いでいた傷口が開き横島の脇腹から再び血が噴き出してくる。

「それもう一度!!」
(2回は保たない! やられる!)

ルシオラ、少しでも守ろうと横島を抱え込み背を丸め霊波を集中。

(ヨコシマ!)

ゴメン! せめて二人仲良く転生しよ…


さらなる衝撃が…

こない。



ズドォ!!


メドーサが再び精霊石のミサイルで串刺しになっている。ただし今度は杭なんてモノではない。鋭い電柱がぶっささっている。


「グッグォッ?」


戦車の砲撃やミサイルには注意を払っていたはず。

自分の胸から突き出る電柱ほどもある鏃を信じられない表情で見つめるメドーサ。
精霊石を中心としてレアメタルと複雑な術式が併用されたそれ。


AGM−117ユニコーン対魔ミサイル。ミサイルと言うよりロケットアシストのついた誘導爆弾である。
射程は短いがその弾頭重量は1.5トンに達する上、更に複雑な術式が込められ実質威力は精霊石4トン分。

元は小型のバンカーバスター(要塞破砕弾)で静止目標がターゲット。
おかげで2発発射したうち1発しか当たらなかったようだ。

「人間はどこにいる?」

メドーサがミサイルの発射方向とおぼしき方を見るがわからない。

「あ、あそこでちゅ!!」

1機がメインウエポンベイを開放して光学迷彩が乱れていたのでなんとかわかった。それと編隊を組む残り3機のFGS−23‘ナイトオウル’。
その1機もすぐにベイを閉じてしまい、アクティブ光学迷彩によりスカイブルーの空に再び溶け込む。

「あんなモノ間近に来られないと見えないぞ……」
「ルシオラちゃんばりの迷彩でちゅか。とにかくこの隙に地上まで逃げるでちゅ!」



「グフッ! またしても人間かい!!」

今度は弾頭を爆発させるようなヘマはしない。
一瞬で霊波信管を叩き壊しミサイルを体から叩きだそうとする所に30mm機関砲弾が突き刺さる。

下からは動きが鈍くなったメドーサに再び戦車砲や近接ミサイルが飛んでくる。


「まだじゃまをしてくれるのかい?」


片手で刺叉を振り回して突進してきたサイドワインダーミサイル3基と93式対空ミサイル2基を払う。
そのとたんに近接信管が作動して爆発。

「グッ!!」

鋭い精霊石の破片や退魔護符がメドーサの肌に降り注ぐ。


『ヘイ、ジャック。アルファはめちゃくちゃしぶといぞ!』
『ユニコーンは基本対地爆弾だ。信管が少し鈍かったようだな』
『もっと機関砲とサイドワインダーを叩き込め! ユニコーンが起爆すればフィニッシュだ!』

2機がもはや迷彩の意味がないほどに間近にまで突っ込んできて30mm機関砲を浴びせかける。
メドーサの目を眩ませるべく残り2機は強烈な霊体レーダー波を浴びせてくる。

『上を取ったぞ! もう一発ユニコーンをぶち込んでやる!』


「ナメルナァッ!!」


全身に精霊石のうす緑色の破片が突き刺さり胸に爆弾を抱えたままメドーサが超加速。
機関砲の発射炎とエンジン噴射炎を頼りにナイトオウルへぶっとぶ。



『管制機! アルファはどこだ! こっちのレーダーには映ってない』
『こちらにも映ってない。敵の超能力超加速だ! 全速離脱せよ』

「もう遅いよ!!」

管制機の返答を聞くヒマもなかった。
実時間1秒で絡んできていた隊長機、2.5秒で僚機がつぶされる。

「グフッ」

さすがのメドーサもそこまで。累積ダメージに超加速が解ける

残り2機は遠かったこともありアフターバーナーを焚いてマッハ3で逃げ切った。

『なんてばけもんだ!』
『隊長もチャーリーも無事ベイルアウトしたようです。何とか海に堕ちそうですが』
『どうしようもない。ちょっとでも被害が少ないことを願うぜ』
『あっちはユニコーンがまだ入ってるんですよ!』

安全装置がかかっているとはいえ市街地にでも堕ちれば大惨事になるか可能性は否定できない。

『仕方がない。それにこっちにはもう有効な武器がない。引き上げて出直しだ!』

管制機も再び離脱を命じてくる。



「クソッ! 人間め!」


逃げる2機をそのまま追いかけている余裕はなかった。
姉たちを送り届けたパピリオが急上昇してくるのが目に入る。

「こっちはひつこいね」

大急ぎで体に残った精霊石の破片をたたき出してまたもや魔力を吸収して再生する。

「コイツがなかったら本気でやられたね。アシュ様とバアル大王には大感謝だね」

ポンと胸を叩く。そこにはごく小さな八芒星いや蛸の形をしたブースター魔が張り付いている。

それはアシュタロスが完成までは持ち込めなかった発明の一つ。
人界でも魔族がフルパワーで動くためのいわば無限の酸素ボンベ。
ヌルに原理を研究させ、ここ十年で小型化にやっと成功したものだ。
これの試作品はルシオラ、ベスパ、パピリオにも組み込まれ彼女らが冥界チャンネルを閉じた後でも全力で動けた原動力だ。
幸いというか不幸というか反乱までには低出力なものしか完成せず、アシュタロス自身には使えなかった。

メドーサの再生が終わったところにパピリオが霊波砲を乱射しながら突っ込んでくる。


「覚悟ォ!」
「試作品の蝶一匹にやられるか!」

メドーサとパピリオの一対一では力量に差がありすぎた。
本気になったメドーサがパピリオの予想の数倍の速度で突っ込む。

「ヒッ?」

すぐそこまで刺叉が迫り、パピリオが思わず目をつぶってしまう。

(やられたでちゅ!)



ガチリ。




「小竜姫ちゃま!」
「なんとか間に合ったようですね」

刺叉を神剣で押さえ込んだ小竜姫が微笑みかける。

「さ、ここは私に任せてパピリオ。あなたはメドーサの眷属の始末をお願いします」


そしてメドーサを正面に見据え正眼に構えて言い放つ。

「メドーサ! この小竜姫が来たからには往くことも引くこともかなわぬと心得よ!!」
「言うねぇ」


こちらは楽しげに刺叉を構え直す。
連戦と体中に傷を負ったそぶりも見せない。



パワーアップしたメドーサか?
それとも本願たる日本で全力の出せる小竜姫か。

巨竜の戦いがまもなく始まる。




to be continued


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