椎名作品二次創作小説投稿広場


復活

宴の始まり(1)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/10/14

「神無、二日酔いは覚めたようね?」

横で月神族に囲まれて横島がヒーリングを受けるのを横目で見ながら朧が小声で声を掛ける。
「今日が日本は最後よ?」

薄赤くなった神無が頷く。

「すまん。昨日は迷惑を掛けた」
「たいちょ。ガンバ!」

夕顔も小声で応援してくれる。
「不甲斐ないな。みな同じ条件なのにな」

神無が横島の側によると他の月神族も、くす と笑って少し引いてくれる。

「横島どの、回復したら他の模擬店を案内してくれないか?」

神無が助け起こしながら微笑む。
「おう、まかしとけ。この高校なら隅から隅まで知ってるわい」

横島が神無の肩を抱いて立ち上がる。観客に囲まれた令子とエミ、
それにシロとおキヌと話しているルシオラをチラ、とみて決断する。

「幸い、美神さんはエミさんとのドンパチでこっちに注意が向いてないしな。今の内に逃げる!!」

あんな折檻を学祭中やられてはたまらない。

「レッツゴー! まずは喫茶店で清いつきあいからだな! お化け屋敷もいーかな?」
「やっぱり……まだ少し頭が痛いんだ。そこの静かな木陰で休んでもいいかな」
「おおっ! 誰も来ない静かな穴場を知ってるぞ!」

神無の手を取ってダッシュ!!

「隊長ガンバレ!」

月警官だろう月神族が数人小さく手を振っている。





「学祭かぁ」
「高校のころを思い出すなぁ」
「知り合った子が、今、中にいるんだよな〜」

こっちは校外でのんびりと警戒していたオカルトGメンの隊員たち。
校庭からきっとなんかの試合の声援かなんかだろう。歓声が聞こえてくる。

どこーん。

歓声の中に出し物の効果音だろうか。派手な爆発音。

「ちょっとさぼって俺も覗いてくるかな?」

立ち上がった同僚に通信機に向かっていた通信係が注意。

「さっきの爆発音で隊長と副長が念のため見に行ったそうだ。鉢合わせすっぞ」
「ち、俺が先行けば良かったな」

立ち上がりかけてまた座ったとき、ふ、と翳った太陽。
いぶかしげに空を眺める。

「なんだありゃ?」

太陽の周りの青空に妙に存在感のある薄雲。
いや、雲ではない。太陽の周りにチリメンジャコをぶちまけたように無数の長虫が蠢いているのだ。

「ガッ!!」

それが何か確かめようとしたしたとたんに遙か上空から凶悪な意識が叩き付けられ、
その圧倒的な霊圧に霊能力を持つ者のみならず、ごく一般人までが上空を仰ぎ見る。




――――――――――― 平和な祭典は一瞬にして暗転する ――――――――――――――



「ははははっ! どうやらワレ奇襲ニ成功セリってとこだね」


雲の中心の一点に紫水晶の美しい髪を誇る絶世の美女。石化能力をもつ神話の怪物。
アシュタロスが抜ければ、宇宙意志は神魔のバランスの崩れを取り戻そうと既存の魔族を強化する。
事前にちょいと呪をかけておけば、その強化比率を重点的に頂くことは難しくない。
もはや下賤なクソ女に年増とののしられることもないであろう。

これこそが旧主にして盟友、アシュタロスとの契約の真の成果。
主の真の意図も知らされていなかった使い捨ての道具どもとは違うのだ。

「神と人間ども、それに尻尾を振る月神族ども。まとめて死んで貰うよ!」

その流れる絹を思わせる、細やかな紫水晶の髪の一本一本が離れ、無数の眷属と化して下の下賤な人間どもに向かう。
手始めは、今までさんざんからかってくれたGSどもに報いを。

晴れ渡った空から無数のチリメンジャコ、もとい、たてがみをもつ大蛇。
甲殻類じみた目をもつ魔竜が主の意志を受け、人間どもを懲罰すべく大口を開け、乱杭歯を剥いて降りかかってくる。

百では効かない。二百か五百か千か。
放出も1回ではない。
出し惜しみなど全くしない様子で波状に髪をビッグイーターにしてばらまき続ける。


「ビッグイーター!!」
「メドーサ!!」
「垂れチチオバハン!!」

その姿と霊波を知る数人が思わず声を上げる。

「お姉様の召喚した魔族……、スゴイけどものすごく嫌な予感がする……」
「エミ!! なんてものを召還するのよっ!! それでもGS!!」

六女の子も不安げに空を見上げ、令子も猛然と抗議する。
GSとしてはやってはいけないことをエミがやはりやってやっていたのだ。

「私じゃないわよっ! 令子こそ恨み辛みに他人を巻き込むんじゃないわよ!! 責任とるワケ!!」

確かにエミが召喚、いや力を解放しようとした左手の鱗模様の玉っころにはなにも起きていない。
事態を真っ先に悟ったエミが一瞬にしてお祭り喧嘩モードからGSに戻る。

こうなれば切り札は後に温存して様子見をすべき。

召喚した魔族が冥約13項でフルパワーが引き出せる期間はごく短い。
開放呪文中断し、あらかじめ張ってあった校舎を包む簡易防御結界を起動。

「こんなんじゃ気休めにもならないわ。数十秒ぐらい稼げれば上等よ。さっさと校舎の本結界を起動させるワケ」

その行動で悟った令子も簡易結界を少しでも持たせるべく霊力を流し込む。

「みんな! 急いで建物に避難して! すぐに魔竜が降りてくるわ!」
「アレは本物の悪魔よ! 訓練でも私が召喚したわけでもないのよ!!」

そのエミと令子の声に周りの観客が慌て出す。
美智恵と西条が慌ただしく状況を確認し出す頃には皆がパニックを起こす。



一方、神無の膝枕で寝っ転がっていた横島も跳ね起きて空を観る。
そこにいたのは令子以上の爆乳。令子以上に引き締まった腰。令子以上のフトモモが剥きだし。

しかも乳はタレて居ない。年増臭もない。
邪悪な神々しさも男心をそそる完熟美女な蛇神様。


「あ、あれがメドーサかっ!! コギャルでもなく年増でもないメドーサはあそこまで美人のねーちゃんなのかっ!!!」

逃げるのも構えるのも忘れて、見上げ、見とれている。横に神無が居る。なにおかいわんや。

「スタイルも抜群! なんと言ってもあのちち!! ルシオラの10倍はあるぞ!!」
服から半分はみ出した芸術的な胸と、蠱惑的なフトモモに目が釘づけ。
その妖艶さに酔ったような表情で見上げている。

「おお〜〜〜〜っ 見えそうで見えないスカートの中が何とも!!」
視力はなにげに50.0だ。その時さらに上空へと向かいスカートがふわ、と風に舞う。

「意外!? 白か? 白なのか!!」

令子、エミ以上に余裕な態度。
緊急事態にマスターの元にすっ飛んで戻ったルシオラがぶち切れ。

「ヨコシマ!! なにみとれてんのよっ!! なにが10倍よっ!!」
「おお? ルシオラ居たのか?!」

そういってから涎を垂らさんばかりに、見上げ、今度は体育座りで鑑賞を再開。

「おおきいけれども、乳首は上向きと見た!! ううっ、ちちの下のウエストの細さよっ!!」
「なにが‘居たのか’よ!! ヨ〜コ〜シ〜マ〜〜〜〜!!!」
「ルシオラっ! 心配するな!! ぺたんこでもズンドウでもそれはそれでボーイッシュでかわいいんだ!!」

沸騰しつつある横のお人形をちらと見て、真顔。
チチシリフトモモのとしかほざかないおっぱい星人が言ってもマッタク説得力がないわけで。

それを聞いたとたんに、水蒸気爆発。
「誰のおかげでこんな体になったと思ってるのよっ!! そういうこと言うのはこの口かっ!!」

メドーサを目にしても痴話ゲンカをおっ始めた両者に神無が引く。
「おーい。そーいう場面じゃなかろー」

今までの喧嘩は祭りの華! な場面とは違うわけで。

神無のセリフは聞こえていないのかルシオラはマスターのほっぺたに足をかけておもっきり口を両手でむっぎゅ〜〜〜っと引っ張る。

「ひでっ! ひででででっ!! 胸がないのは生まれつきだろっ!! 戦闘中になんてことすんだよっ!!」
「戻れば育つわよ!! ビッグイーターが降りてくるまで後、5秒はかかるわ!!」
「ふちびるふぁちひれる!!! 千切れる!!」
「このぐらいで千切れるような上等な体かっ!!」
「あ、あふぃぉ、はにはひぇふな!!はふぁほれりゅ!!(足を歯にかけるな 歯が折れる)」

そうこうするうちにビッグイーターが大挙して押し寄せてくる。
簡易結界が起動。しばらく押し戻すも、すぐにひびが入り出す。

さすがにこうなると痴話ゲンカはしていられない。

「さすがにまずいわね」
「なにをメドーサ相手に呑気な!」
「ヨコシマ! さっさとメドーサ倒しに行くわよ!」
「わかった! わかったから耳を引っ張るな!!」

神無が邪魔な私服を脱ぎ捨てると下から戦闘服。

「そっちは頼む! 朧! 姫様の側から動くな!」

神無が遊びモードから軍隊の長の顔に戻る。通信機を引き出すと片っ端から指令を下してゆく。

「夕顔! 手近なヤツを纏めて姫を守れ。竜胆! みなに姫様の居場所を伝えよ」
『『ハッ!』』

あわてふためく一同を尻目に横島とルシオラは平然としている。
メドーサなどはオールドドッグ。倒し方もわかった中ボスキャラに過ぎない。

「例の手で一発で倒して美神さんの鼻をあかすのよ!」
「はっはは。お嬢さん達心配しなくてもあんな再生怪人はこの魔神殺しの横島様にかかれば『滅』一発。
 The end is coming. さ」

微妙に間違った英語で周りに集まってきた月警官のお姉ちゃん達にサムズアップしながら横島が消えてゆく。




まもなくビッグイーターの大群が簡易結界をぶち破り校庭に満ちあふれる。
平和な式典は一瞬にして阿鼻叫喚の巷と化した。

「朧!! 月警官!! 一般人から離れろ! 円陣を組め!! 奴のねらいは我々だ!」

周りの部下をかき集めながら迦具夜の元に駆け戻った月警官の長、神無。
が襲いくるビッグイーターを切って捨てながら、次々に部下に命令を下してゆく。
その部下達も戦いに邪魔な普段着を捨て、果敢に迎撃してゆく。さいわいここには大半の月神族が集結していた。

「姫!! 早くこちらの中に!」

円陣を組み終わったところで一般人から離れる方向に待避を始める月神族達とそれを囲むオカルトGメン。
戦闘部隊の直接指揮は西条。てきぱきと事前に飽きるほどシミュレートした危機管理マニュアルに従って指示を下す。

その合間におキヌに問いかける。

「おキヌちゃん! 前のパピリオの眷属みたいに何とかならない?」
「ちょっと無理だと思います。さすがに隙がないし、パピリオより遙かに強大です」

心眼で霊波の隙を探っていたおキヌが西条に即答する。
じゃれあいでほたえている生まれて数年の子供と、数千年の劫を経た伝説に残る魔物とはさすがに一緒にならない。

それでもおキヌやタイガーがビッグイーター動きを鈍らせ、令子や弓や一文字が次々と仕留めてゆく。
周りにいた令子やおキヌはもちろん、弓や一文字といったある程度戦闘力のある霊能力者も逃げずに集合してくる。

校舎ではエミが驚くべくスピードで魔法陣を展開して結界を積み上げてゆく。

美智恵が神通棍片手に切りとばしながら、エミを防御。
そして校舎内から結界を強化すべく部下のみならず多数来ていた六道の生徒を片っ端から捕まえて指示。

しかし。

降りかかるビッグイーターはみるみるうちに増えてゆく。
本体のメドーサを目標とするなどとてもできない。

「妙神山、出ました。20分持ちこたえて下さい」
通信に出た小竜姫に簡潔に事情を伝えた美智恵が月神族に伝える。

「に、20分!!」
「神族の装備も無しにこんな化け物の相手を!!」
それを横で聞いたGメン達が思わず叫ぶ。

それでも隊員達が破魔札マシンガンで降りかかるビッグイーターを片端から射落としていく。
が、落とす数よりも新たに降りかかる奴らの方が遙かに多い。

「自衛隊および在日コメリカ軍にも応援を要請しました。即応してくれるはずよ! 今日は万一に備えて待機してくれてるのよ!」

美智恵がさらに皆を鼓舞する。そうほんの少し持ちこたえれば!
西条もそれに併せて叫ぶ。

「やったわ! とりあえずここは安全よ!!」

校舎はエミがあらかじめ仕掛けていた結界が起動、とりあえずの避難場所となる。
しかし、想定していたよりも大規模な攻撃。結界が持たない。

「オカルトGメンのメンツにかけて小竜姫様が来るまで持ちこたえるんだ!!」
「一般人は校舎内へ!! オカルトの心得のある者は校舎の結界を強化するのよ!!」

「一般人には校舎に構築した結界陣地へ逃げ込むように指示してくれ」

頷いた西条が改めてタイガーに指示を重ねる。
タイガーの広域精神感応で伝える方が校内放送より遙かに正確に素早く伝わる。

「ワハハハ〜〜〜!! 見せ場ジャーッ!! 明日から‘GSタイガー 幻惑大作戦’じゃ〜〜〜」

タイガーが意味不明なことをわめきながら喜色満面で校内参加者に西条と美智恵の指示を伝えてゆく。
瞬く間にパニックが治まり皆が一斉に校舎へと向かう。

そこで一段落し西条が反撃に転じるべく新たな指示。

「タイガー。おキヌちゃん。南極でパピリオの相手をした奴を使う。マリアと雪之丞の代わりは横島くんと令子ちゃんだ!」

西条は浮き足立つGメンを何とかまとめ、雲霞のごときビッグイーターの群れをつぶしながら結界外にメンバー達が集まれる空間の確保に掛かる。

「タイガーさん! タマモちゃんはおでん屋模擬店、冥子さんは校庭のベンチでソフトクリーム片手に、
 ピートさんは2−Aの模擬喫茶店の中で個別に応戦してます!!」

冥子は伝令途中でサボり、エミから逃げ出したピートはサテンで鋭気を養っていたところを襲われたらしい。

「ガッテン承知ジャッ!」 

頷いた二人が西条の具体的な指示を待たずに行動を起こす。
おキヌの指示した地点を読んだタイガーがテレパシーで冥子に伝え、冥子がメキラでメンバーをかき集めはじめる。

「ところで横島くんは?」

さっきなかった人間の所在をおキヌに聞く。
おキヌが言いにくそうに首を傾げる。

「それが見あたらないんです。さっきまでそこで月神族さんたちに囲まれてたはずなんですが」

それを聞いた西条、事前に取り決めたフォーメーションか崩れたことに舌打ちをする。

「仕方がない。だれか代わりを」といって周りを見渡す。

その間にも戦力になりそうなピートなどが集合してくる。
しかし打撃力が足らない。

「冥子、ミラーも連れてきて。神父が居ないからホーリーマジックの使い手が要るわ」

冥子がくるなり、防御魔法陣を展開していたエミが言う。

「あれ、そう言えば横島のヤツは?」
「それが見あたらないの〜〜〜〜〜〜〜」
「こんな時に何やってるのよ!?」

みなが、なんだかんだで最強の戦力?を探す。しかし見つからない。

「仕方がない。僕が前に出よう。先生、指揮の方お願いします」
西条が決心してジャスティスを抜く。

「悔しいが力不足は否めないな……」

年齢もあり霊力の減ってきた西条は雪之丞や横島の打撃力と一緒にはならない。

「大丈夫よ。私があのボケの分まで働くわ」
令子がつぶやく。
「従業員の不始末だかんね」

「お姉様! 私も出ますわ」
「俺もいくぜ!」

弓や一文字も出ようとするが即座に令子がニコと笑って振り向いて押さえる。

「ありがとう。でもビッグイーター以外は相手にしちゃダメよ。メドーサが出たら私たち3人が相手をするわ」
一歩結界の外はビッグイーターが吹き荒れている。

ビッグイーターのおおよその場所を把握したおキヌからタイガー経由でリアルタイムに情報が流れ始める。
準備完了。

ピートも霧化し、令子、西条が得物を改めて握り直す。

「でるぞ!! まずはビッグイーターを全て蹴散らして一般人を全て救いだす!」

3人を中心としてGメンや六女の生徒までがフォーメーションを取り、出撃。






その時、空から大音声が響き渡る。



「正義のヒーロー、横島忠夫見参!!」



メドーサの真後ろに現れた横島が大見得を切って叫んでいる。

いや、カッコよく大見得を切っているつもりだが、
その実、ルシオラに首筋でぶら下げられているので大陸ディープな料理屋の看板代わりの豚の丸焼きと変わらない。
しかも、相手の正面には出ずに背中から、直前までルシオラの幻術で隠れて、である。


「爆乳美人は少し、いや、だ一いぶ勿体ないがっ!!!
 喰らえ〜〜いいっ!! ヨコシマ・ワンダフリャ・サイキック・レター・ジュエリー・デストロイ!!」


――――――『死』『滅』―――――!!!


最高コンディションで制御できた。発動した文珠二ツをメドーサの背中に押しつける。


文珠の光芒がメドーサを音もなく包み込む。
その中で蛇が苦悶してのたうち回っている。

「すげぇっ!! あんな魔物を一撃で?!」
「あ、あれが横島さんの本気の力ですの!?」
「はぁ〜〜っ、やっぱりスゲーよな」
「あれが文珠使い横島か・・・・」

それを見たGメンの隊員や六道の生徒達がビッグーイーターと応戦しながら賞賛の声を送る。

そんな賞賛の声に胸を張りつつさらに見得を切る。

「ワーハッッハァツッ!! 再生怪人は弱いのがお約束!! しかも、前に一回この方法で倒してるしな!!」
文珠を2個もおごったので確実だろう。


腰に手を当て胸を張った横島(ぶら下がってます)が
「どーです!! 美神さん!! この頼りになる横島に・・・「バカッ!! 横島!! 左!!」」




ずむ。


「グワッァ?!!」


脇腹の右からのぞくメドーサの鋭い右手。
身代わりを残して文珠の光芒を隠れ蓑に死角に回っていたのだ。
左手は慌てて反撃しようとしたルシオラを鷲掴みにする。


     ケホッ……


横島の口から鮮血がしたたり落ち、メドーサの腕をつかんだ両手を真っ赤に染め上げる。
その両手がメドーサの二の腕を力なくひっかいている。

「そっちこそ、一回見せた手が、このメドーサ様に通じると思ったのかい?」

冷笑と共にじゅぶり、と血まみれの手を抜き、拭いもせずに横島ののど元をつかんで顔までさし上げる。
若返った、匂い立つような妖艶な美貌も、首筋から覗く豊満な胸乳も、甘やかな息も横島の意識を回復させることはない。


「蘇ったら、まずお前を殺す、と思ってたけど割と簡単に果たせたかもねぇ」


血があふれ出る横島の唇にチョンと唇をかさねると、再びつぶやく。

「このまま、殺しちまうのもいいが、今度はお前が私の腹の中にはいるのはどうだい?
 美人に食われるなら本望だろ?」


唇に付いた横島の血をぺろと舐める。
それから改めて髪から生えたビッグイーターの一匹で締め上げたルシオラを目の前に持ってくる。

「ボウヤの魂を取り込めば文珠の力が手に入る上に、アシュ様の造ったお前が眷属になるんだ。形見に精々こき使ってやるよ」

「だ、だれがっ!! お前なんかに!!」
力一杯振りほどこうとするが、尖った牙を持つビッグイーターはビクともしない。

「なぜだい? このボウヤよりはずっと長いつきあいだろう?
 私の眷属になれば魔力不足で苦しむこともなくなるよ。復活も早いだろうねぇ」

ねっとりと嗤うメドーサの手の中で横島の力が抜けてゆく。

「もっと魔力があれば私の髪一本ぐらい軽ーく引き千切れるのにねぇ?
 アシュタロス様の秘蔵の人界用チューンナップ魔族殿」

ぶらぶらとビッグイーターごとルシオラを振り回すが、確かにその根本は髪一本分のようだ。
そのたった一本の髪をふりほどけない。

今まで緩慢に動いていた横島の両腕がガクと垂れ下がり痙攣。
「よ、ヨコシマ‥」

ルシオラは手を伸ばすももちろん届かない。影に戻って霊力の無駄遣いを止めることすらできないのだ。

「だいぶご主人様の霊力も弱ってきたようだねぇ」
「くそっ!」
「決着付けてから、ゆっくり呑んでやるから精々がんばって苦しみな!」


クァ―――――ハッハッハッハッ―――――


鋭い牙を覗かせばながらメドーサが中空で哄笑する。




少し時間を戻してシロ。もちろん月の魔力での強化も怠りない。

結界外で一般人が逃げ込むのをGメンに混ざって援護していると
メドーサが文珠の光芒に紛れて超高速移動で文珠の攻撃範囲から逃れたのが見えた。

「先生!! 先生!! ルシオラどの!!」

横島の背後に気配を消して忍び寄っている。近すぎ、横島の背後へ回ったからかルシオラですらが気が付いていない。

「空が飛べれば!! せめて一太刀いれれば!!」

降りかかるビッグイーターを薙ぎ払いながら、グラウンド中を無駄に駆け回る。
朧にもらった髪飾りを使い大幅に強化しているが空は飛べない。
弓が届くような距離でもない。

と、ひらひらスカートを翻しながら空中を飛んでビッグイーターに応戦しているタマモが目に。
こちらも盛んにキツネ火で焼き落としては、手刀で腹を割り、止めを刺している。


「そうだタマモなら!! タマモ!!」


また一匹ビッグイーターを仕留めたタマモがふりむく。なんか、とろんとした顔でもぐもぐと口を動かしている。
それを見たシロぶち切れ。

「くぉの非常事態に何を食べながら、闘ってるでござるか!!」
「食べなきゃどうするのよ!! 毒蛇の群れよ毒蛇の!! とびっきりの生き肝食べ放題よ!!
 京都のお揚げのより上物なのよ!! 妲己だったときもこんな贅沢は出来なかったのよ!!」

大声で噛みついたシロにタマモが口に物を入れたまま、次のエサを仕留めながら言い返す。

見れば肝を抜かれたビッグイーターがそこここに散らかって、消えかかっている。
そういえば、群れをなしていた奴らが相当減っている。かなりがタマモに食べられたらしい。
腹にもたれず霊力は食える、という夢の食べ物なのだ。


横島に気を取られたメドーサは気が付いていない&新たな眷属を放っていない。
シロと話している間にもビッグイーターは次々にGメンらに仕留められて減ってゆく。

「ああっ、私が仕留めるから殺さないで〜〜、すぐ食べないと消えちゃうのよ〜〜〜!!」


焦ったタマモはシロを放り出して、十数個のキツネ火を放つ。
ふらふら漂うってるようだが、一つ一つが正確にビッグイーターを直撃。

弱って墜落した奴らに、サササッとばかりにタマモが近寄って手刀で腹を割き、そのまま肝を掴んで口に入れる。

あまりに素早いので傍目には手刀で止めを刺し、その後、口意で、手刀に力を込めているようにしか見えない。

タマモにしてみれば早く口に入れないと消えてしまうからなのだが。
肉体があるわけではないビッグイーターは、死体も肝も血も残らないのだ。
おかげで血が口元や手を汚すこともない。

ぴょんぴょん,ひらひら跳びまわりながら次々とビッグイータを仕留めてゆくタマモ。
みるみるあたりの蛇が減ってゆく。ある程度減るとその数の多いところへ。

端から見ればきついところへやってきてピンチを救うや次のピンチの所に、という涙の出るほどありがたい行動だ。
一般人が感謝の目で、Gメン隊員や六女霊能科の女生徒が尊敬の目で見ている。

「はぁっ! さすが幼くてもゴーストスィーパーじゃ! ありがたやありがたや!」
「あの子、確か美神さんの所の助手よ」
「さっすが違うわね〜〜!! 普通の免許保持者より強いんじゃない?」

見かけ女子中生のタマモが気持ち悪い化け蛇を食べているとは想像もしない。


(こ、こやつ、たっぷり食べたせいでかーなり霊力があがってるでござるな・・・・
 女狐に頼るのは業腹でござるが、今のこやつなら先生とルシオラどのを助けれるかもしれないでござるな)

シロのお思いとはよそにタマモはおやつに余念がない。

「火加減が難しいのよね〜〜。焼きすぎて殺すと消えちゃうし」

どうやら、強い魔力に当てられて多少酩酊状態にもなっているようだ。
あれよあれよという間に残りをあらかた食べ尽くしてしまった。

「ひっく。そこの蛇おねーさん〜〜〜、もっと出して〜〜〜」

上に向かって叫んでいる。まーず遙かなる上空のメドーサには聞こえないだろうが。

横島の脇腹からは血まみれの手が突き出し、血が滴っている。
シロが焦り、必死で知恵を絞って一計を案じる。

にっこり笑って肩を叩く。

「タマモ。あの親玉喰えば、きっとうまいでござるぞ〜〜」
「でも。すごく強そう」


その程度の理性は残っているらしい。
しかし、今にも涎を垂らしそうな顔で上を眺めている。

「拙者も手伝うから仕留めに行くでござる」
シロがニカッ、と笑ってかる〜〜く後押し。

タマモがガキッとシロの肩をつかんで揺さぶる。
「あ、アンタって・・・・なんて友達がいがあるの!!」

月の力を借りた人狼ならばなんとかなるのだろう。

「そう、狩りでござる!! 今度は拙者らだけでは足らないかもしれないから、
 先生とルシオラどのを取り返せば、恩が着せれて手伝って貰えるでござるよ!!」

シロがタマモをペテンに掛けるなどまずこれからもないであろう。
「それ!! それ!! 横島ならすっごく強いモンね!! シロ、あんた見かけによらずアッタマいい〜〜〜!!」

シロのこめかみから、ぶちいぃっ!という音が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。

「そうと決まればレッツゴー!!」
生き肝に目がくらんだタマモが、九尾の実体を現し、シロを背に飛び上がる。

「まず、先生達を助けるでござるよ!!」
井桁を張り付かせたシロが必死で感情を殺して注意する。

「わぁっ――かってるって!! 龍の生き肝〜〜〜っ!!」
「月の魔力! 拙者に力を貸すでござる!!」

タマモの背でを付けたシロも髪飾りに意識を集中。さらに膨大な月の魔力が流れ込んでくる。
狩りと純血を象徴する女神のごとき姿へと。

「「サァ! ヘビ狩りよ!」」






また少し時間をさかのぼる。


「ほー!! さすがに横島サンジャ。文珠で一撃ジャノー」
『死』『滅』の文珠の光芒であっさりメドーサがかき消えたのでタイガーが思わず安堵の声を上げる。

冥子もそれを見て次はシロちゃんとタマモちゃんをつれて来ようかしら〜〜〜〜〜、としていたメキラを止める。

「令子!! まだ、ビッグイーターが消えてないワケ!」
「美神さん!! まだです!」

その中でも少数は不吉な兆候を捉えていた。
横島の左にかすかな影が横切る。

「バカ!! 横島っ!! 左!!」
鞭でビッグイーターをまとめて数匹葬りながら、上を見上げた令子が怒鳴る!!

令子の注意もむなしく横島が串刺しになる。

「み、美神さん!!! 横島さんが!」
高空で横島の脇腹から流れ落ちる血。それを纏い付かせたメドーサの腕を心眼に捉えたおキヌが思わず悲鳴を上げる。
メドーサはどういうわけか、ワザとうまく急所は避けたらしく、血は噴出していない。

それでもどんどんメドーサの腕を伝って血が流れ落ち、それにつれて顔が青ざめてゆく。
この期に及んでまだルシオラを出し続けているのはさすがだが、それもいつまで持つか。

「あのバカっ!! 冥子っ! シンダラかメキラ貸してッ!!!」
まだイマイチ事態が飲み込めず、キョトンとしている冥子にがなる。

「令子。落ち着くワケ。 メドーサ相手じゃアンタ如きは一瞬で返り討ちよ!」

正論だ。竜神の装備があるわけでも竜の牙や魔族のライフルがあるわけでもないのだ。
ルシオラがメドーサの髪に締め付けられながらも、暴れているのが見る。
エミは横島が死ぬまでにはまだ余裕があると見切っている。

「アンタに指示されるいわれはないわよ!!」
焦った令子ががなりかえす。

「こっちは弱小戦力。あっちは強大。戦力の逐次投入は敗北一直線よ。それもわからないなんて・・・
 令子、おたく……もしかして…… アノ横島に惚れてるワケェ?!!」

ざーとらしく、大げさに口に手を当てて驚いている。

「は〜〜っ 惚れた相手が生きるか死ぬかだと見境は付かなくなるか。
 あのイケイケバカ女でも男に惚れる?」
エミがここぞとばかりに惚れる惚れるを連発する。

「だ、だれがっ!! それに今は関係ないでしょ!!」

冥子からいまにもシンダラひたくって飛ぼうとしていた令子が
一瞬にして真っ赤に凍り付く。

「こっちがフォーメーション崩して戦力の逐次投入すれば一瞬で負けよ。
 それにアノ横島があのくらいで死ぬわけないわ。雇用主で師匠のくせにそれもわからないワケ?
 もうちょっとで結界が仕上がるから全員で出ればいいワケ。そのうち小竜姫様も来るわ」

真っ赤になりながらも何か言い返そうとした令子の目に、
九尾狐がその雄大な九本の尾をなびかせながら飛び上がるのが映る。
変化で翼を作って、などという情けない姿ではない。四肢に雲と焔をふまえたまさに金毛白面九尾である。

それを見たエミが今度は本当に驚愕の声を上げる。


「ああぁぁぁっ アレはなに!! なんで伝説のアレがあんな所にいるワケっ!!
 アレだけでもアレなのに!! アレまで相手にできないわよ!!」
うまく言葉が選べず、アレ、アレの連発である。

エミが振るえる手で指さすのは、もはや尻尾が多いだけの子狐の姿ではない。

炎を帯び雲を踏んだ四肢。玉と輝く白玉の鼻筋。
そして天の半分をも覆わんばかりに広がる、流れるが如くきらきらと陽光を反射する金毛の九尾。
躰と後ろには霊炎がたなびき、炎の翼の如く。

ファイアーフォックス、アコール、華陽婦人、妲己、玉面公主、白蔵主、白面の者、etc.、etc.……‥ そして玉藻ノ前。
ユーラシア大陸を股に掛けたいくつもの二ツ名を持つ四千年の大妖怪、金毛白面九尾一頭狐の姿である。


背には月の魔力を吸収し、横島なら飛びかかりそうな肢体のシロ。
その姿はさながら月の女神アルテミスが九尾のフェンリルウルフに乗って天に昇るよう。


心眼でしらべたおキヌも思わず声を漏らす.
「あれはタマモちゃん? うん間違いないわ! でも何でこんなに強力な妖力が?」

二人の声で冷静になった令子があたらめて周りを見渡すと

「そういえば・・・・、あらかたビッグイーターがいないわ。そうか、タマモね。タマモで間違いがないわね。
 毒蛇や蛇妖は妖狐の大好物よ。荼枳尼は蛇の生き肝が大好物だし、
 妲己が紂王に毒蛇を集めさせてそれを喰ってたのは伝説にも残ってるしね。
 それこそお揚げなんて近世から出てきた代用品に過ぎないはずよ」

最近タマモとシロの狩りが激しくていつも服が泥だらけ、こないだは物干し竿に蝮とお揚げが一杯ぶら下がってましたぁ、
とか言ってたおキヌの泣き言が脳裏に蘇る。


「つまり、タマモくんがメドーサの眷属を喰って、一気に本性を復活させた、と」

横島に気を取られたメドーサが新たに放たなくなった。
おかげでビッグイーターが居なくなったので、おキヌ=タイガー型フォーメーションの組上げを中止。
令子や西条も結界の増築に切り替える。
治まらないのはエミだ。

「なにそれ!! 令子!! おたく九尾狐を飼ってたワケ!!
 退治したってのは聞いたけど、マタ、なんかやらかしたのね!
 しかも、西条さんがそれを知ってるってどーいうこと!!」

「ええいっ!! 今は細かいことは後回しよ!! メドーサよメドーサ!!

 あのクソヘビ垂れ乳ババァをどーするかよ!!」
食ってかかるエミに今度は冷静?に怒鳴り返した。

「えーと、今は垂れてないし、若い美人のよーな気がするんですけど・・・・・」
ちゃんと見えているおキヌがちょとずれた補足。

言い争いながらも、防御結界がどんどん描き上がり、必要アイテムが配置されてゆく。
一般人の逃げ込みもほぼ終わったようだ。

上空ではメドーサの髪のビッグイーターに巻き込まれた横島とルシオラを取り返そうと、
タマモと乗ったシロが空中戦を行いだした。
この隙に戦闘用意を整えてしまわねばならない。


横島やタイガー、ピートのかよう高校またたくまに急造ではあるが霊的要塞に変貌しつつあった。

「まもなく陸自と在日コメリカ空軍の対魔部隊が到着するわ」
美智恵が携帯端末を閉じながら知らせてくれる。


一呼吸後に日の丸を書いた96式霊波迷彩装輪装甲車が次々に校庭に入り、校舎に横付けし出す。

対魔装備のコンテナや増援部隊を降ろすや
入れ替わりに霊的戦闘力のない一般人と希望しない霊能力者を収納すると次々に戻ってゆく。

96式と入れ替わるように入ってきたのは
02式結界車、87式自走高射連装霊体ボウガン、93式近接地対空精霊石ミサイル発射機などなど。

あるものは轟音を響かせ、あるものは忙しくターレットを回転させながら所定位置についてゆく。

ターレットを回しながら進入しした87式と93式は破魔矢と小型ミサイルで残っていたビッグイーターを数秒で全て始末。

そしてかすかなモーター音と共に入ってきたのはT−KX試作破魔戦車。

55口径120mm精霊石砲と10の目標を自動追尾するFCSにより危険度の高いと判定された敵から撃破することができる。
全身を神鉄と再現されたオリハルコンで鎧った40トンの現代の重装騎兵。
校庭に入る少し前からアクティブ霊波迷彩・光学迷彩を起動し側にいても見えにくい状態になる。
現代の騎兵は忍びも兼ねるのだ。

その間にも7×7=49両の02式結界車が校内の各所に符陣し、10万マイトもの結界を築きあげる。

これでこの高校は霊的要塞に変貌した。


その間、美智恵の腕時計ではメドーサ出現から約8分。
安全になった校内を満足そうに見回し通信機に向かって次の命令を下す。

「フォーメーション5:空中封魔陣およびフォーメーション2:全周同時破邪」
『了解』

不敵にメドーサを睨んだ美智恵は唇の端をあげる。

「全部在来兵器改造の試作急造だけどね。アシュタロス以来の成果が見れるかもね」

そう。一度痛い目にあって対策を打たぬ人類ではない。
自力で敵を破ってきたからこそ今の人類の繁栄があるのだ。
今回の素早い対応もその成果の一つだ。

神頼みは最後の手段。
宇宙意志は自らたすくるものをたすく。

T−KX試作破魔戦車がランダムパターンで動きながら砲の仰角を上げ、ぴたりとメドーサを追尾しだす。

「シロちゃんが横島くんを目標から少しでも離したらすぐ攻撃を開始しなさい」

『『『ラジャー』』』



轟音を轟かせた遙かなる上空で関東へ超音速クルーズする4機編隊。
青森県は三沢から飛来したのは在日コメリカ空軍の秘蔵最新鋭ステルス戦闘機F/GS−23‘ナイトオウル’。
2か月前に配備されたばかりだ。

「ヘイ。レーダーにでかいの1つ小さいの1つとらえたぞ」
霊体レーダー画面上に最も大きい反応からアルファ,ブラボーと識別記号が割り振られてゆく。

「全部一撃で葬って日本人どもを驚かせてやれ」
『ホワイティ。敵はアルファだけだ.報告によると他の小さいのは敵ではない』
管制機の管制官から横やりが入る。

「ラジャー」

既存とはいえ最新鋭のステルス戦闘機F−23A‘ラプタ’に霊波迷彩を装備。
アシュタロスの時には手も足も出せずに空母を単なる電源と煙幕張りに利用されたコメリカ軍産複合体が超特急で開発した。

武装は
中距離(射程70km+)のアクティブ霊波誘導精霊石弾頭ミサイルAIM−120GS Block 3が4発。
短距離(射程7km+)のパッシブ霊波画像シーカーを備えた精霊石弾頭格闘戦ミサイルAIM−9X Block 7が4発。
格闘戦用に 一発40万ドルの30mm精霊石弾を毎秒20発・マッハ7でばらまくM61GSh機関砲。弾数は1200。

そしてさらにバンカーバスターを改造した1.5トンもの弾頭を持つロケットアシスト付き精霊石破邪陣複合弾頭誘導爆弾 AGM−117 ユニコーンを1発。

ホバリングのみならず逆進までできるベクタードスラストエンジン。
500kmの範囲の120の目標を同時に追尾するフェイズドアレイ霊体レーダー。

全ての装備をのみならず他の兵器とも統合し判断するのは、10GFLOPSにもおよぶスパコンといっても遜色ない戦術統合コンピューター。



警察組織のGメンの装備など足元にも及ばない。

軍事大国コメリカ軍のメンツをかけた令子が見れば涎を垂らしそうな贅沢な戦闘機。
50トンにもおよぶ自重相当の銀、いや金以上に高価な最新の科学とオカルトで武装した蒼空の竜騎兵。


それが4機。ミサイルの射程にメドーサをとらえるべく殺到しつつあり,
レンジ半径2000km+にもおよぶとてつもない霊体レーダーを備えた警戒管制機、
E−3 G‘オウルアイ’霊能戦仕様機がそれをバックアップしていた。

メドーサは戦闘機の存在を感知する遙か手前から4×4合計16発の50kgの精霊石弾頭を持つ超音速ミサイルを同時に浴びせられて撃破されよう。
それを万が一かわしても霊波迷彩で姿を消した戦闘機4機。それから発射された凄まじいまでの運動能力を持つ格闘戦用ミサイル16発が相手だ。

しかも今回はそれだけではない。

「古ぼけた魔物など人間様の本気の智恵にかかればイチコロよ」
「まもなく射程に入るぞ」

管制機が最新の指示を渡す。

『ジャパニーズのセルフディフェンスフォースも布陣と照準を終わらせた。
 地上のタンクやネービーのミサイルともどもに多方向から同時飽和攻撃をかける。
 AIM−120のプログラムをフェーズ7にセットせよ』

「「「「ラジャー」」」」

「上はえらく慎重だな」
「初陣だからだろうよ。それに訓練が充分終わってるとはいえねぇ」

『仕留められなかったときはフリーファイトとAGM−117 ユニコーンの使用を許可する』

さすがに一発1億ドル以上と通常の最新鋭戦闘機と変わらないお値段の誘導爆弾は射程が短いこともあり最後の手段のようだ。

「「「「ラジャー!」」」」

エアボスからの指示を受けたコメリカ選りすぐりのエース達が武者震いする。
こんな魔物相手の戦闘は初めてだ。訓練は何度もしたが。

「相手はメスのドラゴンらしいな。腕が鳴るぜ」
「ファンタジーに5億ドルの最新鋭戦闘機か」
「雌の竜は一匹でも一国を傾ける最凶最悪の魔物らしいからな」
「……それは原作が違う。憶測はいい。訓練通りにやるんだ」






その頃の妙神山。

「老師 行きます」
武装を整えた小竜姫がパピリオ、ワルキューレをともなって出撃しようとしていた。

こちらの竜も出撃準備が整いつつあった。

ジークは姉の手を握り、少しでもと魔力を渡している。
「姉上、御武運を」
「いや、戦闘そのものは小竜姫とパピリオに任せる。
 我らは日本に括られているわけでも、人界調整されているわけでもない。力を使い果たすと足手まといだからな」

本来、ワルキューレやジークは無名の小竜姫やパピリオより遙かに強力である。
北欧の伝説や詩に何度も詠われるほどなのだ。

しかし、日本に魔界の拠点がないい以上、冥界チャンネルから漏れるわずかな魔力を蓄えて動くしかない。
力を使い果たせば人界でまともに活動できなくなる。
まあ、本人が強力なので香港での小竜姫やパイパーのように眠らずにすむだけマシなのだが。

力を使い果たせば与えられた任務“神族のやりすぎを現場で監視する”が果たせない。
パピリオではそんな任務を行うには年が若すぎ、また妙神山との縁が深すぎる。

愛銃を見ながら弟に、いや、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「悔しいが存在することに意義がある。まあ、精々これで後方支援するさ。
 うまくいけばこれでメドーサの眉間か心臓でもぶち抜いて止めれるだろう」

魔族のライフルの精霊石弾ならば、天然のドラゴンメイルを纏う高位龍族にも効果があるはずだ。
それもこれはワルキューレと共に常に戦場にあった愛銃ドラグブール。

何度も神魔を問わず敵側の龍をしとめてきた。

ワルキューレ自身が力をふるえずとも愛銃の威力は変わらない。


「ヨコシマ!! ルシオラちゃんのためにも死ぬんじゃないてちゅよっ!! すぐいきまちゅからね!」
パピリオが雲の如き眷属を先行させる。
「メドーサのおばちゃんなんか、アシュ様に人界で最適化するように作ってもらったパピリオの敵ではないでちゅ!!」

自らも勢いよく飛び出してゆく。

「パピリオぉー!! ちょっと待ちなさい!! 単独で飛び出したら!!」
「小竜姫は後でくるでちゅ!」


元々飛行昆虫なこともあり、パピリオは小竜姫よりも遙かに巡航速度が速い。
自らのフィールドに眷属を包み込み、ズドンという衝撃波を跡に残して最大加速。

無駄に燃費の悪い超加速でも使わぬ限り音速も出ない二人とマッハ2クラスで巡航できるパピリオ。


小竜姫、ワルキューレ共に慌てて追いかけるもあっという間に引き離されてしまう。

「パピリオ1人ではまずメドーサには敵わんぞ!」
「こっちも急ぎますよ!」




to be continued


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