椎名作品二次創作小説投稿広場

復活

空からお月様が落ちてきた（７）

横島の通う学校は今日は学祭である。
校門は派手に飾り付けられ、ブラスバンド部だろうか、にぎやかな勝つ陽気な音が振りまかれている。

教室には模擬店や研究サークル発表が並び、他の高校の学生も三々五々出入りしている。

毎年はどこでもある公立高校の普通の学祭だが今年は違った。
なんと一流ＧＳである美神令子と小笠原エミ、それにかぐや姫のモデルとなった月世界の女王様が来られるのである。
来られると言っても一応マスコミなどには事前も事後も公表はしないいわゆるお忍びである。

この高校の周りはオカルトＧメンや警察などがある物は制服で、あるものは私服で通行人として見物客として監視している。
装甲バスの中では制服姿の美智恵が盛んに通信機片手に指令を飛ばしている。
もちろん学祭に参加する学生の中にも警備はいるわけで（空からお月様が落ちてきた（１）参照）。


その学生服を着た臨時警備員の１人が集合時間になっても来ない。

「横島さんはまだですか？」

見かけ美形の高校生の齢７００年のバンパイアハーフが２ｍの大男に心配そうに尋ねる。

「今日は迦具夜姫を護送してくるケエ、少し遅れるはずなんジャ」
「本物のかぐや姫に会えるなんて今日ほど青春できることはないわねー」
「そういうことは事前に連絡が欲しいね。それに、護送というと犯罪者みたいだ。エスコートの方が適切だと思うよ」
「ピートしゃんまじめすぎジャー。ワッシらの護衛は念のためですケン」

横島のクラスはＧＳや妖怪が４人もおり、彼ら除霊委員はオカルトＧメンに臨時職員として雇われて警備の一翼を担うことになっていた。
まじめなピートはちょっと緊張しているが自分たちは　まぁ念のためというのを知っているタイガーはダレダレ。

だから、彼らも学祭に参加している。
彼らのクラスの出し物は令子とエミの監修で‘サルでもできる除霊体験’。
一番の呼び物はもちろんナマ令子とエミ。次にピートということになる。
月の女王も一緒らしいと言う噂も流れている。

除霊委員の面々とエミと令子はいざの時は護衛に早変わりする。
それが発動されたときは芸とか模擬店、いや学祭そのものが吹っ飛んでしまうということで、まああり得ないことである。
実際の仕事は迦具夜のエスコートと言って良い。


「前宣伝でエミサンや美神サンが来るというのは効いたようじゃノー」

タイガーが窓から外を見ながらほっと安心のため息。
そこここに六女の生徒とおぼしき霊力が高い女子高生が混ざっている。
この分だとわからないが普通科も大勢混じっているに違いない。
校門でのアンケートを開けてみないとわからんが終わったとたんのリンチはなさそうだ。


そうこうするうちに横島と月神族達より令子やエミの方が早く到着した。
令子やエミが到着すると、いや到着するしばらく前から体育館周辺は有名なＧＳをひと目みんとする高校生で黒山となっていた。

体育館が迦具夜の基本的な居場所であり、横島のクラスの出し物の割り当て場所でもある。
理由はもちろん警備上の理由と、令子・エミ監修の出し物に必要かつおそらくは客が最も多いからである。


「あれが美神令子か。生でみるとすげぇ」
「あれが横島の…？」
「ほとんどファッションモデルじゃねーか！」
「おいっ、小笠原エミだぜ」
「魔導師と言うより黒い女豹って感じ」
「二人ともバリバリ女王様だよな」
「きゃーお姉様よ」
「あーん私にも見せてよー」

そんな物見高さと欲望がごちゃ混ぜになった集団からの視線を二身に浴びてすこし辟易する二人。

「相変わらずねー」
「ホントに横島の高校なワケ」
「へーこれが日本の高校ですかー」
「それはちょっと違うわね。少なくとも平均的じゃないわよ」

体育館いや高校中に充満した若いパトスのほとばしる波動にあきれる。
そしてエミにひっついてきたミラーがきょろきょろとあたりを見回す。

おや、エミもきょろきょろしている。
ターゲット発見。

「きゃー、ピートぉ！！　こっちよ！！」
「エ、エミさん」

今まで級友と出し物の打ち合わせをしていた金髪の美少年の腕に大げさな笑顔でしがみつく。
いつもの大人のやり手女性から恋する乙女に変身。

「久しぶり！　最近つれないんだからぁ」

ぶりぶりと身をよじって可愛らし差をアピール。
横島が見れば憤死間違いナシだ。

横ではコイツも横島とかわんないわね、と令子が隣で冷笑。
からかってやろうとしたところにメキラに乗った冥子が瞬間移動してくる。

「もうすぐ来るわよ〜〜〜〜〜〜〜」

令子とエミに知らせるとクビラを頭に乗せて高校中を強力な霊視で片端からスキャンしてゆく。

「特に妖しい物はないわ〜〜〜〜〜〜〜」
冥子がチェックを終わらせるのと同時くらいに月神族が到着した。


体育館前の空間が歪んで道が繋がる。
突然なにもない空間にできたトンネル。

オカルトには縁のない高校生達がゴクリと唾をのんで見守る。

まず出てきたのは横島。亜空間から緋毛氈の長敷物を投げる。
その上を迦具夜を先頭に月神族が次々に降り立つ。


迦具夜を見たとたんに周りの騒音がピタと収まる。
令子やエミが来たときのような騒ぎは全く起こらない。
その神々しさと威厳にうたれたのだろう。

ああっ！サーシャ様！！とか、一千年女王様！！とか訳のわからぬことをつぶやいて周りからタコなぐりにあったやつはいるようだが。

横島が案内して体育館へ入るとまさに
――――清らかなことこの世になく家内は暗きところ無く光満ちたり―――――
薄暗かった体育館が満月の光が満たされたように清らかに明るくなる。

「……今日は月の精霊一同皆様の元で遊ばさせてもらいに来ました。よろしくお願いします」

迦具夜が優雅に周りの一同に礼の言葉を述べ所定の席に座る。

「では、みなのもの、思い思いに思い出を創って参れ」

女王の言葉に月警官や女官達が一礼した後に散る。もはやみな日本の服を手に入れ、
そろって美人だということ以外は霊能者でもなければ普通の女子高生と外見区別はつかない。

「迦具夜も今日くらいは羽延ばしたら？　日本は最後でしょ」
級友につつかれた横島が迦具夜と雑談をしていた令子とエミに嫌々お伺いを立てにくる。

「そろいましたし、うちのクラスの出し物を始めたいのですが…」
「たしか‘サルでもできる除霊体験’だったわね。じゃ、横島クン」
「……ヘイ」

横島の方はこれから受ける仕打ちがわかっているだけにがっくりと肩を落として首を縦に振る。
反して令子は金にもならぬだろうに妙に楽しそうな表情。

「月神族に引っかき回されて、なんだかスッゴクごちゃごちゃしたけどこっからが本番よ！！」

ぐっと拳を握りしめて令子が高らかに宣言。誰に向かってかはしらないが。
いよいよ、令子の‘美神事務所横島ハーレム疑惑ぶっ壊し計画’が開始されるのだ。

「美神令子除霊事務所が横島クンのハーレムなんて、そんな奇っ怪な噂は決して放置してはならないのよ！！」
「ううっ〜〜〜、俺も被害者なのに〜〜〜〜」

計画の中身を知る横島はやる前から地面に手をついて滂沱の涙を流している。



傍らでエミもタイガーに頷く。

「タイガー」
「わかったですケン」

こちらは極めて普通の表情。


横島が箱から取り出したのは御札の束。威力が低いが素人でも発動するように調整した破魔札。
それに５マイトぐらいしか霊力を流せない神通棍――唯の竹棒にしか見えない。
タイガーが用意し始めたのは数本しか藁がないようなちっちゃなわら人形とＡ５ほどの紙にコピーされた簡単な魔法陣である。

そしてその一方で愛子とピートがあらかじめ切って念込めまで終わった式神ケント紙に片端からを生命を吹き込んでゆく。

体育館の結構大きめの結界６つの中に放してゆく。

結界の中では疑似生命を与えられた切り紙が３頭身のからかさお化けや一つ目小僧、スライムやキラービー。
そいつらがかさかさぶんぶん這い回ったり飛び回ったりしている。


他の級友達が発表会場の扉（体育館の扉）をオープン。

扉の横には
‘サルでもできる除霊体験’
　　　　−　あなたも破魔しない？　美神　令子　監修　１回　３００円　−
　　　　−　君もこれで魔導師だ！　小笠原エミ　監修　１回　３００円　−

　　−　我がクラスが誇る現役ＧＳの懇切丁寧指導付き！　−

の張り紙。

要するに式神ケント紙を悪霊・悪妖怪に見立てて御札や呪いなどで倒していこうという企画である。
もちろん担当結界は半々、持ち込んだアイテムもお互い持ちである。

そしてアオリ文句は
「１００００点以上の得点者はなんと☆　美神、小笠原講師による直接密着コーチ♪　だよ〜ん　♪」
である。

これで男と六女霊能科への撒き餌は充分。


ルール
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
−　あなたも破魔しない？　美神令子　監修　　１回　３００円　−
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
　結界の中で御札（枚数無制限）を使って悪霊（式神ケント紙）を祓います。　制限時間は５分。

　　　　　　　　　　　　　　得点　　　　　　　減点

　　　　　　　　　　　　　破魔時　　　　　被攻撃時
　式神　レベル０.１ｋｇ　　　５点　　　　　−１０点
　式神　レベル 　１ｋｇ　　５０点　　　　−１００点
　式神　レベル １０ｋｇ　５００点　　　−１０００点
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　使用時
　神通棍　レベル　１　　　　　　　　　　　　−０点　　　　　
　破魔札　レベル　２　　　　　　　　　　　−１０点
　吸印札　レベル　３　　　　　　　　　　−１００点

　　　　　レベルの高い式神は低いレベルのアイテム１回では破魔できません。
　　　　　しっかり見極めておふだを使いましょう。被攻撃累積−３００点でゲームオーバー。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


−　君もこれで魔導師だ！　小笠原エミ　監修　１回　３００円　−
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
　結界の外から　アイテムを使って悪霊（式神ケント紙）を祓います。　制限時間は１０分。

　　　　　　　　　　　　　　得点　　　　　　　　減点

　　　　　　　　　　　　　破魔時　　　　　　被攻撃時
　式神　レベル０.１ｋｇ　　　５点
　式神　レベル 　１ｋｇ　　５０点　　　　 　−２５点
　式神　レベル １０ｋｇ　５００点　　　　 −２５０点
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　使用時
　成仏曼荼羅　レベル１　　　　　　　　　　　　−２点　　　　　
　封魔魔方陣　レベル２　　　　　　　　　　　−２５点
　破魔魔法陣　レベル３　　　　　　　　　　−２５０点
　わら人形　　　　　　　　　　　　　　　　　　−１点

　　　　　レベルの高い式神はレベルの低いアイテム１回では祓えません。
　　　　　レベルの高い式神はレベル低いアイテムでは呪いを返されます。
　　　　　呪い返しはわら人形を犠牲にして防げます。被攻撃累積−３００点でゲームオーバー。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



詰めかけた見物人相手にまじめにルールを説明してゆく愛子。
横島とタイガーはあくまで裏方。

「…ルールはこんなとこです。じゃ、見本を見せますね。ピートくんお願い」

「ＯＫ。そこのお嬢さん、協力していただけませんか？」
頷いたピートがわら人形や曼荼羅を並べて観客の方を見てニコと微笑んでクラスの女の子を１人手招き。

「は，ハイ」
指名された同級生のコが頬を染めて進み出る。

この観客説明用のサクラの争奪戦は極めて熾烈であったことを併記しておこう。
裏方で横島とタイガーが本物のわら人形を出してたりしたのはお約束である。

「ではまず魔導師ゲームから説明しますね。この魔法陣は念込めが終わってますので」

魔法陣を一枚取り出して示す。

「一念するだけで攻撃呪が飛びます。念を込めるときに目標を思い描くと…」

ハッ！というピートのかけ声と共に素人にも見える派手な軌跡を描いて呪法が飛び出す。
そして一体の化け蛙ケント紙に当たって倒す。

「そこに当たって除霊一つ終わりです」

倒れた式神が紙に戻ってひらひらと結界外に出てポンと数字をはき出す。５０点。

「じゃやってみて？」

とにっこり女殺し（横島・タイガー視点）に微笑んでさっきの女の子に封魔魔法陣を渡す。
女の子が適当なターゲットを選んで　うん！　と念じると同じように数字をはき出す。５点。

「そうそう，上手上手。じゃあ次はあの亀を狙ってみて？」

言われるままに２枚目の封魔魔法陣を置いて念を込めると
今度は亀が呪法を結界外へ跳ね返す。呪法霊波が結界外へ出るや数字と文字をはき出す。−１０００点　ゲームオーバー。

「このように格下の魔法陣で強い相手を攻撃すると呪い返しに合い、最悪一発でゲームオーバーです」

このようにして相手の強さを見極めながらアイテム使って得点ためてくださいーとかなんとか。


お次に−　あなたも破魔しない？　美神令子　監修　　１回　３００円　−の説明。
映画のように破魔札を飛ばすのは本職のＧＳしかできませんので札を押しつけてください、とか説明している。

そしてピートが実際に魔法陣に入ると、式神共がわらわらと押し寄せてくる。
それを神通竹棒で片っ端から切り飛ばし、破魔札・吸引札で潰してゆく。
ぽんぽん数字が出て集計されてゆく。

あっちこっちから　ピートくんすてきー　とか聞こえているのはお約束だ。
それを見て裏方で横島とタイガーが黒くなってゆくのもお約束である。

「ケッ！　ピートサンの使った魔法陣や吸引札に何でワッシらが念込めせにゃならんのですケンノー？」
「全くや」

タイガーはいつも通りだが横島の元気は全くない。

黙々と札を再利用するために念込めしたり、吸い込まれた式神をレストアしている。
その横では令子がふんぞり返っている。

当たり前だが滅多にできないゲームでしかも安いときてお客がドンドン入ってきている。
そして、当然のことながら出し物では六女の霊能科の生徒が高得点を出しだした。
しかし一万点というのはなかなかのハードルのようである。

「もうちょっとだったのにー！　９２５２点　かぁ」
「あんたねー。４２２５点はみっともないわよ」
「うっさいわねー。意外にむずいのよ。霊力があんまり流せないから」

などという声や、惜しい！　とか　ばっかでー、呪い返しで一発ゲームオーバーじゃん！
とか　破魔札が作動しませーん、とかいう声がにぎやかに聞こえてくる。

「おっしゃあ１１２５点」

とか言っているのはもちろん普段は除霊など関係ない奴らである。
ちなみに彼は剣道部の主将。
こういう一般人にレベルの高低の見分け方を等をピートや愛子が丁寧に教えてやっている。

そうこうするうちに六女でも有数の連中が到着しだした。

「フフフッ　２１４７８点ね。この程度どうってことないですわ」
「言いながら最後はミスの呪い返しでオーバーかよ」

やはりレベルが違う。

しかし、これがなぜ横島を落ち込ませるほどのものになるのか？
そしてなぜ高いオカルトグッズを使うゲームがここまで安くなるのか？

つまりは‘アイテムの徹底的再利用'と‘霊力および労働力の奴隷的搾取'である。

当然使用済み札や魔法陣を級友が拾い集めどんどん運び込んでくる。
それをタイガーと横島が念を込めなおして再利用するわけだ。

アイテムももちろん中古と横島・タイガーの手作りで、終わればもちろん厄珍堂に中古として売っちゃうわけ。
神通竹棒なんかはその辺のほっそい竹棒に古い神通棍のちびきった精霊石を砕いて入れてあるだけの代物。
最大で１０マイトかそこらしか流せる代物ではない。

グッズの再生は最初は女の子に囲まれたピートを睨みながらやっていたがそんな暇はなくなってきた。

「ハイこれお願い」
級友が段ボール一杯の使用済み札を　ドン！　とばかりにおいてゆく。

「ちょっとまてや！　さっきのがまだ半分以上「コイツ頼むわ」

今度は動かなくなった式紙の束。

「過剰労働や〜〜！」
「ホレ、口を動かさずに手を動かせ！」

と横島を無駄にいんぐりもんぐりこづき回してるのは令子。
その横でおキヌが顔にでっかい汗を貼り付けて見ている。

「美神除霊事務所：横島忠夫」のでっかいネームプレートをことさら目立つように付けさせ、
こき使っている姿を一日中観客（横島の級友＆六女生徒）に晒し者にすることで、美神事務所＝横島ハーレム説を粉砕しているのだ。
おキヌだけでなくシロやタマモにもでっかいネームプレートを付けさせ絶対に手伝わせない。
ぐーたらな横島にもこの手のアイテムの使用法を体で覚えさせようという師匠としての暖かーい配慮もたっぷり。

「ホラ！　さっさと込めないとストックが無くなるわよ！？」
「そういうんならチッとは手伝ってくださいよ！！」
「これはアンタのクラスの出し物で事務所は関係ないのよ？」
「強制的にこれにしたのは誰や！！」
「おかげで大入り満員じゃない？　感謝してよね。大体泣きついてきたのはアンタでしょう」
「俺（＋ルシ）が作ったアイテムも中古で売って儲けるくせに！」
「中古はかなり買ってあげたでしょ？　それにアドバイス料よ。アンタ、私にタダで監修させようっての？」

令子にまたもやいんぐりもんぐりされながら目の幅涙で作業を続ける横島。
一つ一つは多寡がしれているが種類も量もシャレにならない。
ドンドンドドンと１００、２００と持ち込まれる再利用可能型式神ケント紙やら破魔札。

霊力が切れたら即刻電気ドーピングでぶち込んで水もやらない。
２時間も続けると指先は痛くなるわ、霊力の集中力は切れてくるわ。

「ルシオラぁーたすけてくれぇ〜〜〜〜」

いつのまにやらツギの当たった作業服で女工哀史。
とうとう来るはずもない保護者を求めて泣き叫ぶが、今日は……

「ほほほほっ！　そんなものは叫んでも喚んでも出てこないのよっ！！」
「まさか！　ルシオラは神無ちゃんの護衛で後からてのは？！」
「何のことかしらね？」

横で鞭を振るうは、ミンチン先生ならぬ独占資本家。
もちろん昨日の‘浮気'やらなんやらの分も纏めて鬱憤を晴らしているのだ。

横で同じ作業をするタイガーはがたがた震えながら首をすっこめていた。
こちらはもちろん休憩もあるし水も飲めし、軽食も食える。

高位魔法陣で慎重に大物を狙うのと神通棍と札で片端から切り潰してゆくのとでは再利用しなければならない数が違うのだ。
それに片端からよけては殴ればよい‘破魔しない？’は高校生には圧倒的に人気だった。

（や、やはりエミサンの方が１００倍マシジャノー）

あたりで見ている級友からもハーレムなどという‘妄想’はきれいさっぱり消えたらしい。
ただしある特殊な趣味を持っていると誤解したヤツは結構出たそうな。
クイーンはしもべを踏んで上機嫌で高笑い。

「おーほほほほっ！　誰が主人かよーく叩き込んでやるわ！！」
「もう　いやじゃ――――！！」

いつのまにやら横島の周りには鉄条網とSS懲罰部隊のような制服おねーさん
（美神令子高笑いバージョン）がうろうろしている幻影が……

ピシーッとかいう皮鞭の幻聴も聞こえるような気がする。

「ホッホッホッ！！　コレが終わっても二段三段考えてあるからね！！」
「かんにんして〜〜〜〜〜」
「ウチの事務所がハーレムなんて妄言をばらまいた天罰よ！！」
「俺のせいじゃない〜〜〜〜〜〜〜」

横島が泣き叫び、令子が高笑いするのを級友その他はみな青い顔で見て見ぬふり。

「せんっせー」
「ああなった美神さんは誰にも止められないのよ…」
「…小学生のがきんちょと一緒じゃない。歪んだ愛情表現よね―――」

こっちも傍観するしかないシロタマキヌ。




そのころ月親族がお宿にしている東京都庁下の一部屋の廊下では、


「美神！！　メフィスト！！　だせー！！！！！！　昨日の意趣返しかー！！！」


２重３重の結界の真ん中にぽつんと放置された虫かごの中にでっかいホタルが一匹暴れ回っていた。
今日の朝、横島に見えないところで捕獲結界でひっつかまって即刻放り込まれたのだ｡

横島がイジメられてるのが伝わってきてますます暴れるが、無駄に頑丈な結界はびくともしない。
いや、ルシオラの波長に合わせてジャミングしているので力が出ないと言った方が正確か。


「あんのクソアマ！！　今度は本気で殺してやるわ！！」

東京都庁下でわめくそんなルシオラの声を聞きつけた味方がいた。
二日酔いでずきずきする頭を根性と精神力でねじ伏せて飛び出してきた神無である。

「不覚。寝すごしで遅刻とは」

ここから姫のいる高校まではどうがんばっても１時間はかかる。
いろいろ、いろいろ不都合がありまくりだ。
その枕元には朧の名前で初めての酒のせいゆえに不可抗力。ゆっくり寝てろとの書き置きがあったのだが、
それが却って自分の不甲斐なさをつのらせる。

走って外へ出ようとする道筋に結界と虫かご。
虫かごから蛍が聞き覚えのある声で喚き散らしていた。

「ルシオラ殿か？　なぜそんなところに？」
「とにかく出して！！　私の波長に特定ジャミングされて動けないのよ！！！」

神無が結界から取り出すと怒りにまかせて虫かごを粉々にしながらルシオラが飛び出す。

「神無さん！　あのサド強突張りシリコン風船胸の亡者を一緒にぶっ飛ばして、哀れな王子様のヨコシマを助けるのよ！」
「ちょちょっと！　何のことだ！？」

神無の返事も聞かずに飲み込んで高校へ超音速。
結界を突破したので横島から細かい情報（泣き言）が伝わってくる。

あっというまに横島の元へ到着。

「ルシオラ〜〜〜！！　助かったぁ〜〜〜」
式神に抱きついて（イヤ小さくて抱しめるが正しいのだが）滂沱の涙を流して感謝するマスター。

「ルシオラ、アンタなにをマスターの仕事の邪魔してんのよ！？」

令子があくどい笑みと共に首を横島に抱きしめられたちっちゃなルシオラの方へねじ曲げる。

「横島クンを搾取しても虐めてもかまわないつったのはアンタよ？　今更言ってないとは言わせないわよ。
　それに今回は少なくとも搾取なんかしてないわ。これはアイツの学校行事だかんね」

「それはそうとして私を閉じこめたのはどういうわけ？」
「ハァ？　閉じこめた？　私は神無を護衛してこいって言っただけよ。人聞きの悪い。現にアンタが吐きだしたのは神無でしょ」

ルシオラと令子の間にバチバチと火花が飛び散る。
しばらく睨み合った後ルシオラがなにを思いついたのか。

「まぁ、そういうことにしときましょう。
　霊具のレストアさえできれば本来のヨコシマの仕事の神無さんの護衛にもどる…」

ニヤと嗤って引き下がる。

「それより確かこのゲーム１万点とれば美神さんの指導を受けれるのよね」
「ちゃんとこっちで用意したアイテムを使えばね。霊波砲なんて危ないものはもちろん禁止よ」
「わかってるわ。美神さんじゃあるまいしルールは守るわ。ヨコシマ、神無さんちょっと待ってて」
「でもアンタが私に何の教えを請うつもりよ？」
「魔族も辟易するあくどさとか色々あるじゃない」

言い捨てたルシオラが受付の級友に３００円払ってゲーム用神通棍（竹製）を受け取って結界に入る。
そして着ていたセーラー服（横島の趣味）のを動きやすいようにブルマ＆体操服（これも横島の趣味）に替える。

こめかみに静脈を浮かべた令子がルシオラの取ったアイテムを揶揄。

「アンタそれだけでやる気？　５分で１万点ってわかってるの？　レベル１００（５００点）の式神なら一分あたり４体葬るのよ。
　その神通棍なら２０回は叩かなきゃ祓えないわよ。そんなヤツがいたら私が教えを請いたいわ」
「どうも丁寧なアドバイスを有り難う。でも美神さんは私を舐めすぎね」

周りでもざわざわと皆が小声で話し合っている。

（あれって横島忠夫の式神ルシオラじゃないの？）（横島ってあのセクハラ英雄の？）
（美神事務所の模範演技ってとこじゃない？）（こりゃすごいものが見れるかも…）

もちろんひそひそと喋っているのはほとんど六女のコだ。

「いくわよ」

いうなり数百の幻影。目標を誤認した式神ケント紙があっという間に同士討ち。
最後に残った数体をＴシャツの裾を翻しながら目にもとまらぬ早さでぶん殴って祓う。
次々に結界を移動しながら同じことを繰り返す。

「全滅するのに３分かからなかったわね。１５２０００点ね」

勝ち誇ったルシオラに令子が冷笑を投げつける。
「ふーん。すごいけどアンタ、マスターの仕事増やしてるわよ？」
「まさか。ヨコシマの仕事は減らしたつもりよ。美神さんの財布も減ったかも」

なっ！　と令子が祓われたケント紙を見るとものの見事に全て再利用不可まで痛んでいる。
損害は数百万オーダーである。
令子が歯ぎしりしながらつぶやく。

「やってくれんじゃない…」
「事故よ。事故。じゃ約束通り稽古つけてもらおうかしら」
「お望み通りやったげるわ」

数百万円分の損害以上の目付きで睨む令子とヨコシマを理不尽に痛めつけられたルシオラが衆人環視で火花を散らす。
しばらくにらみ合った二人がギロと横島の方を振り向く。

「ヨコシマちょっときて」「横島クンこっちきなさい」

凄まじい笑顔でお互いが呼び寄せる。

「ルシオラに稽古つけてやって。手ぇ抜いたら――死なすわよ？」
「美神さんこそ従業員なんかに任せずに直接ご指導願いたいわ。ヨコシマ。まさか、マスターが自分の式神相手に戦闘しないわよねぇ？」

二人に妙ににっこり――そのフォントは棘だらけだったりする――顔を近づけられる横島はたまらない。

「なんでこうなるんやー！！」

あうあうと滝汗を流しながら後じさっていた横島だったが日頃の行いが良かったのだろう。
後ろから救いの言葉が投げられる。

「お姉様方、わたくしも１万点を超えたので稽古をつけてください」
「私も超えたぜ！　お願いします」

そういって得点表を持って近寄ってきたのは弓かおりと一文字魔理である。
エミにあらかじめ今日の出し物の内容を聞いていた二人にとっては難しい条件ではなかった。

「ルシオラ、後まわしよ。なにが聞きたいのかな？」
ルシオラから弓と一文字に向き直った令子がにっこりとやさしいお姉さん顔で尋ねる。

「「是非、横島さんに勝てるようにお姉様方のアドバイスを頂きたいのですが」」

……決して横島の救いではなかったらしい。

「あなた達が横島クンに勝てるように？　私でもしんどいのよ」
「もちろん、二人がかり、文珠無しでお願いします」
「ルシオラ付き？」
「もちろんですわ。でないと屈辱が晴らせません」

弓と一文字が勢いよく頷く。

「…ＯＫ。ちょうどいいわ。ルシオラ。この二人の後で稽古つけたげるわ。…もし闘えたら、だけど」
「二人の後にじゃなくて勝てたらでもいいわよ？」
「そういう軽口は後悔するわよ」

ニタリとわらった令子が後ろを振り向く。そしてハラハラしながらこちらを見ていた古参従業員に命令しようとして振り向く。
そこまで黙って見ていたエミがやっと口を出す。

「その子達は私の方で高得点出したワケ。だから指導は私がやらせて貰うわ」
「エミ、アンタ如きの指示で横島クンとルシオラ倒せると思ってるの？」
「おたくよりはましだと思うわ」
「なんですってぇ！？」

激高した令子をわざと無視してニヤと嗤ってタイガーの方へ振り向く。

「タイガー。競技用結界を用意。ルシオラが潰した場所に陣を再構築して。ミラーは万が一の時にヒーリングお願い」

タイガーが用意しながらもチラチラ心配そうに一文字を見ている。
（文珠無しとはいえ、横島サンとルシオラサンに勝てるのかいノー？）

よっていって一文字に声を掛けようとしたところで愛子に耳を引っ張られる｡

「横島くんとピートくんが抜けたから再生が間に合わないのよ」
「こんどはワッシがあの地獄なんじジャー！？」

ずーるずると強制収容所へ引きずられていった。




「横島クン。エミの指導なんかで負けたらわかってるわね」
「なんだかおかしなことになったわね？　マァ、いいわ。ヨコシマ！」

ルシオラが振り返ると横島が怯えモードから完全にセクハラモードに切り替わっている。

「まかせとけ！　フフフッ　美神さんとエミさんの公認でセクハラできるわけだしな」

令子とガチンコ勝負と弓＋一文字では精神的負荷が全然違う。
わきわきといやらしい手つきと穢らわしい視線で視姦し始めた横島をケイベツの視線で迎撃。

「横島さん！　前のＧＳ試験での雪辱をさせていただきますわ！」
「横島！　今度はてめえのセクハラなんかには怯えないからな！」

結界横でビシッと横島を指して宣言する。
弓と一文字はすでに戦闘霊衣である。

「あっちはやる気満々ってかかなり事前準備してきてるわよ。あれは」

しかし、ルシオラの警告なんかマッタク耳に入っていないようだ。
「しかも魔理ちゃんもかおりちゃんも格闘系！！　組んづ解れつや！！」

横島が鼻の下ダレダレで雄叫び声。
「ワハハハ！　これで裁判になってもこっちの勝ちじゃ！　今回やっと日の目が回ってきたな！」

本気で生ゴミ、良くてナメクジを見る目で見られているのだが、生セクハラの前では些細なことらしい。

（っとにおキヌはこんな男のどこがいいんだか）
（ですわね。おねーさまがコレのハーレムに入ってるはずがありませんわ。うまく色香でつって奴隷にしてるだけですわ）

ま、それも間違いじゃないんだけどね。
一方でエミもさらなる指示。極めて重要な指示だ。

「ピートぉん♪　エミの横に来てくれない♪」
「あ、アノ、僕は何の役にも立たないと思いますが！！！」

少し向こうで唖然として成り行きを観ていたピートを無理矢理引きずって自分の横に座らせる。

「いやん。あの夜叉から守って欲しいだけよぉ。反則御免な女鬼からぁ」
「もしかして美神さんのことですか！？　ますます僕じゃ敵いませんよ！！」
「もうっ。つれないこと言わないでよ。ピートと一緒に居ることを楽しみにこの仕事引き受けたんだからぁ」

つんつんつんとピートの頬をつついている。もちろん片腕は抱きついて放さない。
「女はね。いい男に守って貰うと燃えるのよ」

それを見とがめたのはさっきまでルシオラと火花を飛ばしていた令子である。

「そこな年中発情常夏バカなエロエロムッサイエミ。なにを学舎（まなびや）でピンク色の煙を振りまいてるのよ。みっともないから止めたら？」
「高校の学園祭で健全な男女がまじめなお付きあいをするのは問題ないわ。おたくこそ、痴話ゲンカを学舎に持ち込まないで欲しいワケ」

今度はエミと令子の間で火花が散り始める。
しばらくピートを抱えたエミと令子が火花を散らしていた。

「やめてよ〜〜〜〜〜。せっかくみんなで楽しくやってるのに〜〜〜〜〜〜」
そこにたまりかねて涙目で寄ってきたのは心清らかなプリンセス・オブ・カタストロフィー。

「「んなこといってもこの色ボケ女が…　って！！！！」」

エミと令子が思わず怒鳴るとその汚れ無き尊顔に涙をためた女王様の影から三つではなく十二の僕がうぎょうぎょと出かかっている。

「けんかはダメ〜〜〜〜〜「「わかった！　わかった！！　仲良くするから落ち着いてッ！！」」

慌てて造り笑顔で二人して宥めにかかる。

「ホント〜〜〜〜〜〜〜〜〜？」
「「ホラッ！　こんなに仲がいいわよ！？」」

令子とエミが冥子の方へにっこり笑いかけながら両手をつないで小首を傾げる。

「「ねっ！　私たち大ぁーいの仲良し♪」」
「よかった〜〜〜〜〜」

冥子が目をこすりながら今度はルシオラの方を見た。
後ろで冥子の視線がはずれたとたんに二人がお互いの手を振り払う。
そしてほうっと思わず安堵の溜息をつく。

「ルーちゃんも〜〜〜〜仲良くしてね〜〜〜〜〜？」
「……毒気抜かれちゃったわ。あんな美神さんのかっこをみると」

令子とエミの奇妙なダンスを見て一気に盛り下がる。
エミ監修で一文字と弓がそれに横島（＋ルシオラ）が結界に入る。

「横島！　前の落とし前を付けさせて貰うぜ！！」
「ルシオラさん。２回の屈辱をこんどこそ晴らさせて貰いますわ」

こちらはテンション高いままに戦闘態勢をとった二人を前に、横島とルシオラが魂内で取引をしていた。

　　『おい、お前も目の敵にされてるぞ』
　　『浮気は許さないからね』
　　『なに抜かす。前みたいに手を触れる前に麻酔なんかかけんじゃねーぞ。これはマスター命令だからな』
　　『この女の敵が…』
　　『いーじゃねえか。向こうからきてんだ。それにここんとこ覗きをみんなチクッたろう』
　　『世間話のついでに漏れるのよ』
　　『こっちは死活問題じゃ』
　　『百歩譲って事務所内でやる分には見ないふりしてあげてるじゃない！』
　　『美神さんだけやないか！！』
　　『美神さんとおキヌちゃんで何の不満があるのよ！！！』
　　『おキヌちゃんは犯罪だろうが！！！』
　　『近頃は冥子さんも覗いてるでしょ！！！』
　　『冥子ちゃんは美神さん以上にデインジャーなんだぞ！！！！』
　　『おまけに毎回夢で節操もなく片っ端から抱いてるのは誰！！！！！！』
　　『ああっ、また勝手にプライバシー侵害しやがったな！！！！！！』
　　『甲斐性があったらさっさとホントにヤらしてくれる恋人つくったら！！！！！！！！』
　　『人の恋路を片っ端から潰してるのはお前だろう！！！！！！！！』
　　『ヨコシマのやってるのはただのセクハラに浮気でしょ！！！！！！！！』

０コンマ何秒かで以上のやりとりをした後、弓と一文字を置き捨てて戦争勃発。

「くらえ、この煩悩魔！！　女の敵！！」

霊波砲が横島をシャワーのように包み込む。

「そんな古い手が通じるかよ！」

転がってよけた横島が妙神山でも見せた妙技サイキックＷＥＢ。
幻影対策で投網のように目標地点の周辺空間を全部を包み込む。

「――――とことん舐めてくれんじゃねえか」
無視された一文字と弓がぶち切れる。
「相手がそのつもりなら、いきますわよ！！」

水晶観音を発動した弓が手にしているエモノは。薙刀、それに神通虫取り網。
柄が神通棍、網にはエミに教えてもらった強力な対ルシオラ捕獲結界。
網の口径７０ｃｍはあろうかというそれを霊波砲の根本あたりをぶんまわす。

ぶうん、という風切り音。

「ってなにするのよ！！」

ルシオラが慌てて飛び退いたところをサイキックＷＥＢが包み込む。

「ひゃっほう！　蛍じゃなくて観音様がかかったぞ」
「しまった」

横島がサイキックＷＥＢを引き絞って弓を回収しようとしたとしたところに一文字の角材。

「ドジ！」
の叫び声と共に一文字が角材で横島のドタマを思いっきりぶん殴る。

くわぁ〜〜〜〜ん


「ぃてぇ――――っ！」
横島が思わず弓へのセクハラを中止して、ぶん殴られた頭を抱えてしゃがむ。

「おいっ！　‘ぃてぇ’で済ますのかよ」
一文字が改めて相手の頑丈さに辟易。

「ヨコシマになにすんのよ！」

ルシオラ、今度は一文字に霊波砲を連射。

ちゅどどどど〜〜〜ん

その隙にサイキックＷＥＢを薙刀でぶった切った弓が再び神通虫取り網を振り回す。
一方霊波砲を浴びた一文字は全くダメージがない様子で角材を振り回してくる。

「どういうこと？」

ルシオラが睨んでブレイク。
　　『ヨコシマ！　真剣にやらないとやられるわよ』
　　『エミさんが手をかしてんだからなー』

結界の外側では令子もルシオラの霊波砲に表面のカモフラージュがとれて出てきた模様を視て檄興していた。

「エミッ！！　あの子の特攻服の模様はなによ！　前のイージス結界のそっくりじゃない！！」
「あら、私が指導してるから当たり前なワケ」

ふふんとばかりに笑って手をひらひら振る。
「横島の出鱈目な頑丈さに対応させただけよ。ミラーの能力をほんの一部移しただけ」

「あんな複雑な結界がここで描けるか！　事前に描かなきゃ無理なはずよ！」
「舐めないで欲しいわね。あんなのは一瞬で描けるわ。ほら」

人差し指で令子の胸のあたりをくるっと回すと、魔法陣が令子の服に焼き付けられる。

「筋肉バカのおたくとちがって、こっちは頭脳派なワケ」

主張の激しい令子の胸に目立つように描かれた魔法陣にはもちろんラテン語や神聖文字がびっしり。

一瞬ではわからなかったが読んでみると描いてある呪文は
‘イケイケバカ女’とか‘もてない電車女もとい電気女’とか‘捏造シリコン胸’とかetc.etc．

それをみて怒鳴りそうになったが視界に冥子が入る。
ここで大声で喧嘩すればこんどこそぷっつんするに違いない。

「誰が筋肉バカよっ！　グガっガガッ！！！　冥子！」
喚ばれた令子の側に寄ってくる。

「令子ちゃん、なに〜〜〜〜〜〜〜？」

「念のために学校の外回りもういっぺん視てきてくれない？」
必死で平静を装いながら冥子に外側の見回りを命じる。
「ママ…隊長にもなんか変なことがないか聞いてきて。お願いッ！」

唐突な偵察＆伝令命令に首を傾げるが素直に頷く。

「？〜〜〜ん〜〜〜わかった〜〜〜〜〜〜」
とてとてとゆっくり去って見えなくなった。

見えなくなったとたんに神通棍を抜きはなつ。

「エミ！！　その馬鹿笑いする口を縫ってあげるわ！！」




一方試合場では４人の試合に盛大な応援。

「きゃー横島様がんばって〜〜〜〜〜〜！！」
「かおり！　やっちゃえやっちゃえ！！」

横島チームには月神族が黄色い声を上げ、
弓と一文字には六女のコが嬌声を上げている。
お互いがナンパした男がそれにまたついて煩いことうるさいこと。

「横島どのがんばれ！」

迦具夜や神無までがリング際で手を振っている。
みんな時ならぬ見ものに口コミで寄ってきて、周りは黒山の人だかり。

「今は４−２で横島チームだよ！！　一口１００円！　はったはったぁ！！」
眼鏡を掛けた横島の級友がテラ銭を取ったりしている。

中には
「ちっちゃなルシオラたん！！　ぶるま！！　ハァハァ」

とかいうちょっとアブナイのがちっちゃなルシオラの悩殺姿をゲットせんと
ローアングルでカメラ構えていたりもしたがそれはスルーの方向で。

「おおっ！　周り中から黄色い声の声援！　生まれて初めてじゃ！」

横島、時たま周りに手を振って真っ白な歯を光らしている。
弓と一文字は背中合わせに構え前後のルシオラと横島に備えている。

「チッ、やっぱり余裕かよ」

しばらく闘って霊力の減ってきた一文字が吐き捨てる。
最初の１回以外は全く攻撃が当たらない。

しかもだ。横島の方は黄色い声援と時たま起こる組んづ解れつのおかげで霊力が減らない。

こっちは二人ともそろそろ霊力切れだ。ヤバイ。
霊力が切れればエミに移して貰った魔法陣が役に立たなくなる。
さすれば数分いや数秒で終わってしまおう。

「エミお姉様に絶対魔法防御までしてもらって負けるのは業腹ですわね」
「ああ、こうまで霊力の保ちが違うとは思わなかったな」
「令子お姉様のお仕置きで相当疲れてるはずですのにね」

二人が最後の強襲をかけようとしたところに巫女服姿のおキヌが手を振ってるのが目に入る。

「よいしょ」
結界の紐をくぐり抜けて仮設試合場に入ってくる。

「二人とも水くさいですね。お友達じゃありませんか」

にこと笑って付け加える。

「このままだともうすぐ二人とも重セクハラされちゃいますからお手伝いしちゃいます」
よく見ると笑顔に井桁が何個も張り付いている。

　　　『ヨコシマ！　おキヌちゃんが向こうに付いたわよ！　霊波引き締めて』

横島がルシオラを奪われないように念波の出し方をより密にする。

「おキヌどの。拙者も助太刀するでござるよ。娘御に悪さをしようとする悪代官は叩っきられるものと決まっているでござる」
「じゃあ、私がルシオラさん押さえるから、横島さんをおもっきり殴ってあげて」
「了解でござる。では拙者も切り札を……」

月神族の髪飾り装着。とたんにアルテミス形態、ではなく野性的な豊満な美女。
ここ数日で多少の制御を覚えたようだ。

見物人が感嘆の声を上げると共にデジカメ・携帯がパシャパシャと向けられる。
横島の級友はそろってシロを応援。
月神族も応援をシロに切り替えるのが続出。

おキヌがネクロマンサーの笛を構える。
「いきますか。１，２，３の３でルシオラさんの自由を奪いますからね」

おキヌが喋るスキに
ブラフでおキヌに霊波砲を数回掃射するもあっさり一文字か弓の防御で停められてしまう。

　　　『ヨコシマ、気をつけてよ？』
　　　『いくらおキヌちゃんでもタイミングまで言われて盗られるほど間抜けじゃねぇ』

横島が霊波の隙を極限まで減らす。
一方、３方向から得物を手にジリジリせまるシロ、弓、一文字。
しかし横島は全く臆した気配もない。

「わはっはっははは！！　どんとこーい！　３人目まとめてあいてしてやらぁ！」

横島が両手のハンズオブグローリーを２×３＝６本のマジックハンド状態に。
２本が特に太いのはシロ用だろう。
弱った二人。実質シロ１人だ。マジで全員同時につかまえてしまう気だ。

　　　『セクハラはするなつってるでしょ！！』
　　　『捕まえるだけ、捕まえるだけだよーん』
　　　『なんでそれで霊力が騰がるのよ！！』

ルシオラの抗議もなんのその６本が独立でワキワキし始める。
ほとんどヒドラ怪人である。

　　　『それより、おキヌちゃんはルシオラが拘束してくれよ』
　　　『……了解』

「この化けものめ」
「全くですわね」

横島の煩悩で歪んだ醜い姿に一文字と弓が改めて吐き捨てる。
シロとおキヌのコメカミには井桁どころか青筋が何本も走っている。

「に，さん！！　いきます！！」


ヒュリイィ―――ィン！
静かな、極弱い念波。

　　　『こんな程度では盗れねえええぇぇぇっ？』

一瞬ルシオラが裸になり、突然わき出した触手でぐるぐる巻きになって地面に堕ちる。

「きゃぁッ？！？」
「えぇっ？」

初めて拝むシオラの全裸に気にとられた一瞬の隙。

「月にかわってお仕置きでござる！！　飛燕！！」
シロが強烈な霊波刀の太刀風を叩きつける。

「しまった！！　うぎゃぁぁぁ――――っ！！」


ドカバキグシャゴツグジャ！！！　


次の瞬間に３人に滅多切りで肉塊にされた。
潰れたマスターの横で蓑虫状態のルシオラがギブアップ。

「は、反則よぉ……　おキヌちゃんがこんな手を使うなんて」

ネクロマンサーの笛は完全にフェイントだった。
ルシの式神服は元々おキヌが持っており、ルシオラや横島のより遙かに強く支配されている。
自分の着ていた服が拘束具に早変わり。ここしばらく慣れたモノですっかり忘れていた。

「私じゃ無くって服を操られるとは……」

もちろんこの程度でルシオラを拘束できはしない。
たった換えもない一着の服を引き裂くわけにはいかなかったのだ。

――――拙ＳＳ：ただいま修行中！（下）を参照―――――

「ふふふふっ。昨日のイジワルのお返しです」
「そうでござる。純粋な乙女心を弄ぶなどとは、ルシオラどのでも許さないでござるよ」

シロが笑ってルシオラの喉元に霊波刀を突きつける。

「今後しないと誓って頂けるでござるな？」

シロの目とおキヌの目を交互に見て、クスとわらって頷く。

「……誓います」
「それとセクハラの手伝いはしないで下さいね」

おキヌのこの一言でルシオラは泣き出した。

「誤解よぉ〜〜〜！！　好きでしてないわ〜〜〜〜」
「とはおもいますけど？」

とたんにルシオラの式神服が元に戻る。

肉塊になった横島は神無や朧達に囲まれてヒーリングを受けている。
マァそれはそれで幸せだろう。



「二人ともごめんなさい。いきなり割り込んだりして」
おキヌが弓と一文字に頭を下げる。

「いや、こっちこそ助かったよ。残り霊力がギリギリだったからな」
一文字がふーっと座り込む。
「もうちょっとでマジでやばかった」

そうすればセクハラ三昧にされてしまう、と思ったところで改めておぞけが襲ってきた。
弓も水晶観音を解除してへたり込む。寄ってきた同期の神野の差し入れのジュースを飲みながら首を傾げる。

「少しは六女の恥は雪げましたかしら？」
「改めてアレに向かっていっただけで尊敬するわ。女としてもＧＳとしても」

横島のいやらしさと凄まじさを生で見られた神野がウインク。



しかし、

騒ぎはそれで終わりではなかった。




どごーん。　　　盛大な爆発音が響く。


その下には、出し物用の３φ２２０Ｖの電線を引きちぎった令子と
例の鱗模様のハンドボールを握ったエミが対峙していた。

方や神通棍、方や魔砲陣を出して。

「令子！　止めなさい！　エミさんまで！」
騒ぎを聞きつけた美智恵と西条がＧメンの一隊を従えて向こうから駆けてくる。

しかし両者止まらない。喧嘩と恋は祭りの華。


しかも六女の子が周りで歓声を上げている。


「きゃー！！　お姉様たちの模擬戦よ！！」
「私、前のチケットとれなかったのよー！！」
「あれが美神さんの電気＝霊力変換！！　すっごーいい！！」
「霊力が肉眼でも見えるぐらいまで高くなっていくわ！！」
「たぶん５００マイトなんて遙かに超えてるわよ」
「まだあがるじゃん！」


完全お祭りモードである。今の今まで横島ｖｓ弓＆一文字戦を見物していた客が雪崩を打って取り囲む。
持つ電線が３φ２２０Ｖと電圧が低いため全電力を吸い取っても足らない。
令子は多少いらつくが見ている方は令子の霊圧が見える形で騰がってゆくだけに面白い。

「ええい！！　あんのバカ娘が！！　仕方がないわ！！　西条クン、二人の周りに結界張って！」
美智恵があきらめ顔で簡易結界を３つほど西条に渡し、自分も起動させ始める。

「ま、お祭りですし、月神族の方々にも良い思い出になるのでは？」
西条も結界を張りながらも、のんびりしたもの。


一方そんな外野は目にも入れずに二人はヒートアップしてゆく。

「フン、アンタのキャパじゃ長持ちするのは精々魔砲陣１コまででしょ。一個ならどうってことないわ」
光る鞭を持った令子が冷笑。
「今は、ミラーもどっかいったようだし、とっとと片付けてあげるわ」

「おたくこそ多寡が１０００マイト程度では死ぬわよ。
　前のアレは仮契約だったから切り札が使えなかっただけ。横島もリタイアだしクィーンを守るナイトは居ないわ」

鱗模様の玉を高々と持ち上げる。

「誰が誰のナイトだって？　アンタのナイトのピートこそどっかいって居ないじゃない」

思わずカチンと来てどなった令子を無視して続ける。

「前におたくが見たがってた魔族を見せてあげるわ。見たら満足して死ぬワケ！」

天に向かって差し上げた玉に高らかに呪文を唱え始める。





「我は小笠原エミ。そなたを開放する全権を持つもの。冥王の約定　２条１３項に従いかりそめの自由を！！」




朗々とした声が紡ぎ出されるに従って玉に魔力がまとわりついてゆく。
素人目にもわかるほどだ。


それを見て興奮したのは外野だ。

「きゃー！！　魔族召喚よ！　まず見れないわぁっ」
「これだけでも来た価値があるわねっ！！」

六女の子やオカルトヲタが瞬間を逃すまいとカメラを一斉に構える。







「いでよ！！　―――――」

珠に魔力が高まる。



to be continued