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復活

空からお月様が落ちてきた(6)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/10/ 8

「ハハハ。お前はおもしろひな」
「神無こそ、もっと仕事一筋でかりかりしてると思ってたぞ」

横島と神無が真っ赤な顔で深夜――繁華街の裏通り。

「いや。私こそ忠夫がひまだ彼女がひなかったほは思いもひなかった」
「スッゲー誤解が世間で広がってるんや!」

足取りも怪しく裏通りをふらふら。未成年は口にしてはいけない液体をしこたまきこしめしたらしい。
双方結構な大声。

令子に付き合ってある程度はわかっている横島よりも、神無は初めて飲んだ酒に飲まれ気味。

「しかし誰が見ても忠夫の所はハーレムりゃろ」
「そうだったらどんだけうれしいか。そんなんなら今日みたいにいきなりメシ抜きにはならんって」

二人もたれ合って路地裏をふらふら漂っている。



一方、美神令子事務所ではワーニングが鳴り響いていた。

「先生の部屋には気配がなかったでござる!!」
「高校にもいないです!」
「酔っぱらってて現在位置がよくわからないわ!!」
「冷蔵庫の残りご飯にも手はついてません」

3人が恐慌状態。

(迦具夜。この辺が限度よ)

落ち着いているのはダイヤと天秤に掛けた令子。
それに
きつねうどんを腹一杯食べあくびをしているタマモ。

「んー美神さん私寝る」
「どーぞ。明日も早いわ」

タマモがもぞもぞと屋根裏に退避。前の七夕みたいなアホなどたばたに付き合わされてはたまらない。

それにいまいち危機感のない冥子。

「なんでおキヌちゃんまで騒いでるの〜〜〜〜? 横島くんは強いから大丈夫よ〜〜〜〜」
「冥子も帰って寝たら?」

目がとろーんっとしてしまっている。まぶたをこする姿が年不相応にかわいい。
この先起こるであろうことを予想した場合、冥子はさっさと隔離しておいた方がよい。

「そ〜〜〜うしよ〜〜〜うかな〜ZzzzzZzzzz」

答える前に机に突っ伏してしまった。
そんな冥子に苦笑して毛布を掛けてやる。

「ルシオラさん。だいたいの位置はわかるんですよね」
「とりあえずそこまで行くでござる! そのあと拙者とおキヌ殿で探せばきっと見つかるでござる」

ルシオラが2人を呑もうとしたところで令子が引き留める。

「私も車を出すわ。乗って」
「確かに帰りにはヨコシマで4人になるから飛びにくいわ」

答えも聞かずに令子はシートに飛び乗りイグニッションを回す。

ドウン ドドドドドゥッドロドロドロドロッ!

頼もしい500馬力のエンジン音が轟きだす。

「ナビは頼むわよ!」

(引き留めるのはこの辺が限度。神楽、迦具夜! ダイヤ二つ分のサービス期間はここまでよ!)


ガフォォォッ!ギュルギュルギュルッ!!

4人を乗せた赤のシェルビーコブラがエンジン音とドリフト音を響かせて夜の街へ、そう美神令子の狩り場へ飛び出す。

(後は運ね)

エモノは女憑きの横島忠夫。いかなる魔族よりも手強いかもしれない。




そんな状態はつゆ知らずもたれ合って、いやほとんど抱き合ってふらふらと漂う神無と横島。

「しかし誰が見ても忠夫の所はハーレムりゃろ」
「そんなんなら今日みたいにいきなりメシ抜きにはならんって」
「そりゃそひゅだ」
「基本的に奴隷なんだよ奴隷! 主人じゃないの」
「にゃーるほど」

神無もうんうんと納得している。
一番主人が令子で二番三番がおキヌとルシオラなのだろう。

「納得するんじゃねぇ!! 神無。酔っぱらいすぎだ。ちょっと休んでいこう」
「ひょぱらう? だひかにすこしすわりたいひしふりゃふりゃする。ひょこで?」

歩いている内にトコトン回ってしまったらしい。
横島、目をキラーンと光らせて財布を確認。OK。十分ある。
とぼしい全財産を突っ込んできた甲斐があった。

ここはいわゆるそういう建物が固まっているところ。
神無は何の疑いもなくついてきている。

「そこが休憩専用の建物だ。入るぞ」
「忠夫にまかひゅわ」

ヨーロッパ中世の城館にファンタジーエッセンスを振りかけ安っぽくしたような建物。
きらきらとイルミネーションは明るいが入り口は薄暗く見えにくい。

神無を抱えて無人の受付で部屋番号を選び、人目につかないように配慮されたエレベータに乗り込む。

「306号室、306号室、っと、ここか」

二人が入ると薄暗い明かりがつく。

狭い部屋に一杯一杯にキングサイズのベッド。不釣り合いに大きな液晶テレビと浴室。
部屋のトーンはピンクで統一されている。

神無を抱えて部屋に入り扉を閉める。
ガチャリ。背後で頑丈な錠がが下りた音がする。


これでこの扉は料金を投入するか非常ボタンを押すまでは開かない。
完全無人型の‘休憩所’である。

そっとバカでかいベッドの真ん中に寝かせてやる。
神無はされるがままに くてっ と仰向け。

「んー、服がおもひ。くうひはねはる」

部屋に入って気が抜けたのかいきなり寝転がるなりカーデガンを脱ぎ捨てる。
普段重力1/6、空気抵抗無しの所に住んでいる月神族。
地球の濃厚な空気と重力の中では物質(服)を身につけること自体が相当に鬱陶しいことのようだ。

ふよん。

まろび出てきた豊かな双乳。もはや遮るモノはうすいブラウスのみ。
横島の方は酔いなど完璧に吹っ飛んでしまった。

目はギンギンと血走って輝き、鼻は大きくふくらんで荒い息を断続的に吐き出している。
カーデガンを脱ぎ捨てて楽になったのか神無がぐったりと横島の膝に上体を預ける。結構軽い。
人間ならばもっと重いのだろうが、神無の体は月の精霊で実体はない。

いつのまにやら世界でも5指、いや素の状態ではおそらくもはやダントツ一位の霊力持ちである横島ならば片手で軽々持ち上がる程度。
どきどきしながら神無の上体を抱え上げる。と、

するん

仰向けに胸を強調した神無からさらにスカートが落ちる。

「って!! おい!」

横島が脱がせたわけではない。重く空気にまとわりつくスカートのホックを神無の手が払ったら重力に従って落ちただけだ。

横島は当然股間に目がいく。
ストッキングの越しに目に飛び込んできたのは無駄のない月光のごとく輝く太ももだけではない。

黒いなにか。 「え、したぎつけてねぇ?!」

そう、どうやら服を買ったときに下着と言う物の存在に気がつかなかったらしい。ナイロンストッキングは穿いてるがその下がない。
思わず上半身も見れば薄手のブラウスを持ち上げた豊穣の双丘の上にかわいらしいぽっちがはっきりすけている。
ブラウス越しにもわかるきれいな桜。薄暗かったので今まで気がつかなかったらしい。

ごくり。

おもわずブラウスの上に手を載せてしまう。

ふにょ。 「うーン」

ももはやかわい声しか聞こえてこない.
ドクドクと心臓が跳ね上がり、快温に調節されたはずな部屋で汗が噴出してくる。

「神無、い、いいんだよな…」
「ウ……ン」

声と共に首が僅かに縦に動いたように見えた。

(おかあさま! 忠夫は今日ここで大人の扉を開けます!!)
扉の向こうに渦巻くはめくるめく大人なシーン。


ごくり、と息を飲んでブラウスのボタンに震える手を掛ける。







「この辺ね!」

令子が適当な駐車場にコブラを突っ込んでとめ、管理人に万札を投げてがなる。

「傷つけないでね!」

言い捨てた令子の迫力だけではない。そこから飛び降りた人外3人の様子に駐車場管理人が腰を抜かす。

まずはスレンダーな人形が飛び出して触角をぶんまわし、
健康的な女子中学生が車外に出るなり地面を4つんばいで嗅ぎまわり、
おとなしく清楚に見えた女子高生は額のまん丸な眼をあけて建物を片端から見詰めているのだ。


「「「見つけた! 」」」

「先生の匂いと神無どののにおい,それに酒精の匂いでござる!!」
「あの建物から横島さんの霊波です! 間違いありません」

少し離れたところでイルミネーションをきらめかせているメルヘンなファッションホテル。
突進しかけた4人の前にバラバラと現れたのは朧と十数人の月警官。

「皆さん。今日だけは見逃してくれないかしら。ね?」

朧がかわいらしくウインクする。

「神無も権利なんかは主張しないと思うし」


「そこを退くでござる!! さもないと」
シロが霊波刀を出してうなる。

切る、と。


シロに霊波刀を突きつけられた朧がウインクしたまま拝むまねをして続ける。

「力づくで通られたたら絶対に敵わないんだけど、このコ達と私の顔に免じて。ね! お願い」

その言葉にネクロマンサーの笛を吹きかかったおキヌがひるむ。

見れば朧の後ろで構える月警官達は不退転の決意を顔に出しているものの、細かく振るえている。
自分たちの可能性もお預けにしてきた彼女らは上官の恋の成就に我が身を差し出す決意なのは明らかだ。

日頃の神無の人徳が忍ばれる。

よく見れば先日おキヌの笛に圧倒された時と同じ顔がいくつも混ざっている。

「ぐぅっ!!」

シロもわかったらしい。
霊波刀を引っ込めないものの闘志は目に見えて鈍っている。
脅しならともかく本当に切りたくはない。



そんなシロの後ろから溜息をつきながら令子が現れる。

「迦具夜といい、アンタ達といい、神無にゃものすごく人徳があるのね」

一歩シロの前に出た令子が肩をすくめる。
「あのバカのどこにそんな価値があるのよ」

盛大な溜息をついて腰のホルダーから神通棍を引っこ抜く。
「でもね。どうやら私もバカだったみたい。ゴメン」

朧が残念そうにつぶやく。
「あと1時間待ってくれないかしら?」

朧が言った意味は令子のみがわかったが肩をすくめて首を振る。
無言で神通棍を伸ばした令子を見て月警官にザワと緊張が走る。

令子の戦闘力はみな知っている。絶対に敵わない。

「……ねえ」

いままで黙っていたルシオラがおもむろに口を開く。

「ヨコシマの情報は遮断されちゃってるからよくわからないんだけど。40分ぐらい前に移動が止まって30分くらい前に霊力が跳ね上がったのよ。
 その後上がりっぱなし。これはたぶん神無さんとヨコシマがあそこに入ってなんかしたんだと思う」

少し離れたところでイルミネーションをきらめかせている西洋お城な建物を指す。

「そッ! それは本当でござるか!」
「ええ」

ルシオラが淡々と述べた事実の意味を悟って真っ青になったシロ。
言うまでもなく横島の最大の霊力源は煩悩。それが跳ね上がったと言うことは。
おキヌも思わずルシオラを見たがその表情はどことなく喜んでいるようにも見える。

「つまりね、もうたぶん遅いわけ。で、今からみんなでゆっくり行って確認しない?」

式神の差し出がましい口出しに令子がギロと睨むが肩をすくめる。

「一分争っても結果はかわらんてか。その提案、アンタの顔に免じて乗ってあげるわ。―――朧、そっちはどうする?」
「選択の余地がないじゃない。乗らなきゃ美神さんだけでも押しとおる気でしょ」

朧としては時間を稼いでやりたいが相手は強大かつホームグラウンド。
神無が思いを遂げたなら体を張る必要もない。どうせ一夜限りなのだ。

それにここからならゆっくり歩けば20分ぐらいはかかろう。
ルシオラの提案も今回は見逃すから、せいぜいゆっくりと歩いて短い後絹の名残を増やしてやれと言うことであろう。

「ご名答。じゃ行きますか」

令子が神通棍を腰のフォルダにしまうと歩き出す。月神族とシロおキヌも従う。
2人はうなだれて足取りが重い。




ヨーロッパの城を模したファッションホテルを見上げる令子。
横にいたおキヌにイジワルっぽく聞いてみる。

「おキヌちゃん。覗く? 一番手っ取り早いけど」
ここまで近づけばコンクリートに囲まれて居ようが防音板に遮られていようが霊能覗き対策が施されてようが全部屋を透視できる。

ふるふる。

こんな場所に初めて来たおキヌが真っ青な顔で首を力なく横に振る。

そこここの建物にはド派手な電飾がこれでもかと言うくらいに点滅し、中にはハートマークやキューピッドをかたどったモノまである。
そしてその電飾の派手さの割にはあたりは静まりかえり、時たまカップルや車が隠れるようにして入ってゆく。

その雰囲気だけでおキヌは血の気が引いてしまっていた。
いつもなら真っ先にすっ飛んでゆくシロも情けない顔つきのまま凍り付いている。

「じゃ、朧と私で行きましょうか。全員だとちょっとはた迷惑と言うより入れないわね」

ルシオラも進み出る。
「私も行くわ。でないとたぶん鍵が開かないわよ。美神さんじゃ」
「たしかに鍵ぶっ壊してはいるわけにはいかんか」

十数人の月警官とシロにおキヌを建物の外へ置き捨てて3人が306号室の前に来る。
ルシオラが電子ロックに手を突っ込み電子を操る。


  『ヨコシマ? 開けるわよ』


横島の魂に一方的にメッセージを送って解除。



ガキン。扉が開く。




現れたのは目の幅で血の涙を流して懊悩する横島。
その膝枕ですぴょすぴょと幸せそうに神無が眠っている。

その上にはカーディガンが胸から腰の下まで掛けられている。

「ヨコシマ。よかった?」

からかうように声を掛けたルシオラに横島がわめく。

「いくら俺でも女の子の寝込みを襲えるかい!!」

薄いブラウス一枚を通してビンビンに伝わってくる神無の体の熱やら感触やらに血涙を流して耐えている。

令子はそんな横島をチラと見るがなにも言わない。
その表情は複雑きわまりないが横島を怒鳴るでもなくシバくでもなく。

ルシオラはそんな令子も横島も無視して
横島の膝で眠る神無のおでこにちょん、と触角を触れさせる。

「もうノンレム睡眠まで入ってるわよ。きっと朝まで起きないわ」

チクショーチクショーこんなことになるならさっさとヤっときゃよかったとかわめき始めた横島。

「起こしちゃ可哀想だから。後よろしくね。ヨコシマ」
「勘弁してくれ!! 蛇の生殺しもええとこやないか!」

「どうせ私と寝るのも生殺しなんだからたいしたこと無いでしょ?」
「膝に寝息がかかってる状態とつるぺたの人形と一緒になるか!!!」
「誰がつるぺたよ!」


ひとしきりぎゃーぎゃーと横島と小声でわめきあった後、ルシオラが2人を促して部屋の外に出る。



「美神さん、ルシオラさんもゴメン。いやありがとう。感謝するわ」

この状況で放置して貰えるとは思わなかった。
朧が再び拝んで あ、これと令子に手箱を渡す。

令子はちょっと驚いたもののそれを当然のようにハンドバックにしまい込んだ。
しばらく首を捻った後、ルシオラに渋面を作る。

「ルシオラ…‥アンタわかっててからかったわね」

令子の言葉に部屋の扉を振り向いて苦笑する。
(ホンットにスケベなくせに変に優しくてバカなんだから)

「ま、ね。私のヨコシマだもん。いざの時は根性ないのはよくわかってるつもりよ」

そこまで言ってジロリと令子を睨む。

「ところで美神さんその箱は何の報酬なのかしら?」
「え! ルシオラさんは知っ ングッ!!」

今までの行動で令子とルシオラはグルだと思いこんでいた朧が思わず口走る。
慌てて朧の口を押さえたが遅かった。

「そういえば、美神さんだけ落ち着いてたわね」
「追加の契約事項の報酬を今貰っただけよ」
嘘はついていない。

ダラダラと冷や汗を流す令子の目を ふーんとばかりに冷たい目で見詰める。
さっと令子のハンドバックから手箱を取り出して開けるとぎっしりとダイヤモンド。

「すごい報酬ねぇ……? 今まで一夜だけならって、大人の余裕と千年の絆の自信だと思ってたんだけど?」

どういうわけか令子は真剣に横島を慕ってくる女性の妨害はしない。
むしろ一歩引くことが多いぐらいだ。

ルシオラの時もおキヌの時も小鳩の時も。


魂に刻み込まれた相愛と契約による無意識下の‘絶対の自信’。


生前?にそれをよく知っているルシオラは今回もそれだと思っていた。

「アンタこそそうでしょ?! 私はアイツがプライベートでなにしてようと関係ないじゃない!」

令子の言い訳を無視して続ける。

「そういえば人員配置も変だったわねぇ?」
「そ、そんなことはないわよ」
「なんか急にデパートへ行こうと言い出したり、みんなに椀飯振る舞いしてくれたりとか」

白い目でジロと睨まれて畳みかけられ令子がへどもどとさらに言い訳。

「警備で緊張の連続だったから息抜きよ!」
「じゃあ、なんでヨコシマはいなかったの」
「横島クンはまだ終わってなかったから」
「終わってから行っても…よねぇ。後の会議も美神さんだけで充分だった気がするわ」
「そ、そんなことないっ! 魔族や妖怪の意見も欲しかったのよ! ママもそういってたでしょ?!」

冷たい笑顔で冷や汗をべっとり張り付かせた令子の顔を見る。

「ふーん。おキヌちゃんに頭の中、見て貰おうかしら」
「おキヌちゃんがそんなことするはずないでしょ!?」
「なんなら私がみんな…そうね…冥子さんも一緒にサイコダイブで覗かせて貰ってもいいけど」

冥子、と聞いてさすがの令子も真っ青になる。
真実が知られたら脳内で暴走されかねない。

「わかった!わかったからそれは勘弁して!!」
「……やっぱり」


魔界の最下層、氷冷地獄の湖のごとく冷え冷えとした表情のルシオラが令子にすっと音もなく近寄る。



ボグッ

ルシオラの拳が令子の頬桁を殴る。




「いきなりなにするのよ!」

吹っ飛ばされた令子が頬を押さえてわめく。

「美神さん。わたし結構腹立ててるんだわ。あなたがダイヤと引き替えにしたことに」

狭い踊り場で座り込んだ令子を真上から見下ろす。

「ヨコシマをシバこうが搾取しようがお互い納得ずく、じゃれあいだからいいんだけどね」
「な…」

反論しようとした令子を一睨みで押さえつける。


「モノ扱いしたら…切り売りなんかしたら、千年の絆だろうがヨコシマが嘆こうが‥…―――――殺すわ」

令子の胸ぐらをつかんで持ち上げ、魔族特有の冷酷な表情で言い切る。

「今回はかなり特殊なケースだし、おキヌちゃんやシロちゃんにも黙っといたげるわ…でも、」
「ク、くるし…」

ぽん、と床へ突き落として付け加える。


「次はないわよ」




それだけを言うと床にへたり込んで咳き込む令子からくるりと朧の方に向き直って笑う。
今までと全く違う屈託のない笑顔。

「ごめんなさいね。内輪話で」
「えと、今の話だとやっぱりルシオラさんて横島さんの恋人でしょう? なぜ?」

朧が?マークを顔中に貼り付けて聞いてくる。
それをちゃうちゃうと顔の前で手を振りながら否定。

「なんてのかなァ、フロクよ付録。嫌でも要らなくともヨコシマに漏れなくついてくる式神ね。子供もアリ?
 神無さんにそう言っといて」
「はいっ?」

ますます混乱した朧に付け加える。

「少なくとも周りから応援されてるような恋路をじゃまするつもりは全くないわ。
 浮気は許さないけどね」

恋路は邪魔しないけど浮気は許さない?

「申し訳ないけど、月神族は恋愛はよくわからなくて?」

ますますわからなくなった朧が裏返った声で聞き返す。

ルシオラが苦笑しながら経緯を簡単に話す。
専属式神になって魂の修復を行ってること、それが横島の一生ぐらい以上かかりそうなこと。

「どうせ今生では結婚も何もできないから。今、ヨコシマが誰と恋しようが結婚しようがあんまり興味はないわ」
「結婚って、月の精霊の私たちがこんな環境で暮らすのもムリだし、横島さんが月で暮らすのもムリですよ?」

空気程度はどうにでもなるが、月には食べ物などかけらもないのだ。
それにいいかげんと6倍のバカでっかい重力とべたべたにまとわりつく空気で消耗していた朧。

(姫もよくこんな所で何年もおられたわ)

月神族はこんな所で暮らしたら1年経たずに消耗しきってしまうであろう。

それを聞いてにっことした顔がマッドサイエンティストに見えたのは気のせいだろうか。

「大丈夫よ。神無さんとヨコシマがいいなら。私がどうにでもしたげるわ。
 今、私が興味があるのはヨコシマの幸せと、浮気癖―いろんな女にこなかけることね―を止めさせることだけ。

 ……人間を月で生きれるようにするぐらいの改造はどうってこと無いのよ」

平然とのたまわったルシオラの台詞に今までへたり込んでうつむきのまま聞いた令子の肩がぴくっと動く。

「でも、横島さんはこちらにいっぱい…」
「気にすること無いわよ。毎日顔合わせてるのに意地を張ったり周りに気使ったりで告白一つできない恋人候補の10人や20人なんて」

フンと鼻を鳴らして令子をチラと見る。
うつむいて座り込んだ令子の肩がぴくぴくしている。

「私も月の精霊として生まれ変わる方が幸せかなぁ。ルシオラって月の光とか言う意味もあるもん」

ルシオラはウンウンと腕を組んで頷いている。

「ところで朧さん、好きな相手を虐めることしか愛情表現できないの守銭奴なんて彼氏居ない歴22年なのも当然だと思わない?」
「あんまり経験ないからよくわからないんですけど……」

朧は真剣な顔で首を傾げている。
うつむいた令子のコメカミにピキピキと井桁が浮かび上がってきている。

「それにさ。いっつも欲の皮つっぱらかしてる守銭奴のヒステリーイケイケ女と地球で暮らすのと
 改造されて月で優しいコと暮らすのとどっちが幸せだと思う?」

令子のコメカミの井桁はもはや真っ青でちょっと突いたら血が噴き出すだろう。
ちなみに顔は真っ赤。主に怒りで。

「………黙って聞いてりゃ言いたい放題言ってくれるじゃない!」

ゆら、と立ち上がった令子の髪の毛は炎のごとく逆立ってゆらめいている。


「朧、これ返すわ。迦具夜にやっぱごめんつっといて」
しばらくギリとルシオラを睨んだ後、ぽんと手箱を朧に放る。ブルーとピンクのダイヤは返さない。

ダイヤ二つをぽんぽんと手のひらで転がしながら
「これは前払い分だからね。前払い分の仕事はするわ」


すうと息を吸い込んで思いっきり言霊を載せてがなる。


「よこしまぁ!! さっさと出てこい!!」


言霊がファッションホテル中に響き渡る。
一瞬後に横島が転がるように出てくる。


「すんまへん、スンマヘン!! 仕方なかったんや〜〜〜〜!! 神無ちゃんに飲ませ過ぎたんや〜〜!!」

へこへこと土下座する横島の頭をゲシと踏みつける。

「誰が神無を酔い潰せっつった!! 明日に差し支えるでしょうが!!」

令子が思う存分ぐりぐりしてたまりにたまったストレス発散を終わらせると声に飛んできたおキヌやシロにまで頭を下げる。

へこへこへこへこへこへこ。

「神無ちゃんに飲ませ過ぎて、休憩所ってあったから入っただけで、やましいことは何にもしてまへーん!!」
「それなら連絡ぐらい入れろ! おキヌちゃんやシロも心配してたのよ! この宿六が! さ、帰るわよ!」

横島の首根っこをひっつかんで引きずってゆく。
ふと振り返って朧が知らぬであろうことを付け加える。

「朧、あとはよろしく頼むわ。神無の呑んだのは酒つって、目を覚ましたらたぶん頭痛がして、
 今日の記憶は消えてる可能性が大だけど病気じゃないから。それとね。明日もこのバカに迎えに行かせるからよろしく」

ルシオラもフッと肩をすくめてついて行く。
去りしなにぺこりと朧に頭を下げて。

神無は何も知らぬげに幸せそうにすーすーと寝息を立てている。
「まったくこのコったら世話が焼けるんだから」

朧も肩をすくめて神無の介抱に開け放たれた部屋へ。



「結局どうだったのでござるか?」

シロが目をあわすなりルシオラに聞く。
おキヌもじっとルシオラの口元を見ている。

「半々かしら」
「男女の秘め事に半々ってあるのでござるかぁ?」

ええかげんかつ曖昧なルシオラの台詞にシロが首を傾げる。

「詳しくはヨコシマに聞いてみたら?」
「それは無いでござるよー」

引きずられてゆく横島をちらちら見つつ世にも情けない顔でルシオラどのーとなく。

「じゃ美神さんに聞いてみたら?」
「もっと聞けないでござる」

シロがチラと見ただけでも聞けるような状態でないのはよくわかる。

「じゃあきらめるのね♪ ヨコシマも無事見つかったし明日も早いからさっさと帰って寝ましょう」
「そんなー」

そんなシロ、そしておキヌを見ながら クスと笑って小さく付け加える。

「妬ける? ヨコシマはバカでスケベだけど私は信用してるわ」



to be continued


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