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復活

空からお月様が落ちてきた(5)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/10/ 8

迦具夜からのもう一つの依頼が男無しで女が女を生むアルテミスの縛りを解くために若い男のパトスがほとばしるところへ皆を案内して欲しい、
というものだった。

今はそれについて迦具夜と令子が個室で密談中である。

*************(注:このSSには18禁相当の表現は入っておりません)******************

「ああ、それで非公開のお忍びは横島クンの高校の学園祭なんて案を選んだのね」
「そうなのです。聞くところによると若い未婚の男女限定で入り乱れて相手を探すイベントだと聞きましたので」

「間違っちゃいない。確かに間違っちゃいないんだけどね」
真顔で言ってのけた迦具夜に令子がこめかみを押さえる。

(どこでそんな情報仕入れたのよ……)

しばらく頭を抱えていたが立ち直ったらしい。

「もしかして、そこにアンタのお供を放し飼いにして子種を貰って月まで帰ろうってこと?」
「認知せよ、なんてことは申しませんので。後腐れ無く、問題ないかと思うんですが」
「確かにアンタ達なら悪い病気も持ってないだろうけどねぇ」

きっとうつされることもないのだろう。

「早い話が集団ナンパなのね。たしかに横島クンの高校は最適なような気もするけど」

迦具夜の秀麗な顔で真顔で言われるとさすがの令子といえどもアタマが痛くなってくる。
チチシリフトモモオネーサマと煩かった横島の養殖場のような高校を思い出す。

(あいつらの子孫が月にはびこるわけ? 月のイメージ崩壊もいいとこね)
そのイメージに再び頭を抱える。

「そうなのですか? それは願ったりかなったりです」
「それについては報酬も貰ったことだし、とりあえずお膳立てもしたけど、結果については責任負えないわよ?」

PTAが聞いたら憤死しそうなことを平然とのたまう。
金貰っている以上は反対する義理はないし、横島の高校なら少なくとも男子学生どもには否やは無かろう。

「そこまでは申しません。美智恵殿にもお許しを頂きましたゆえ、それ以外の部下達の羽目はずしも大目に見ていただけるとありがたく思います」
「Gメンなんかまでナンパする気なのね……。マ、いいけどね」

令子の言葉にほっとしたらしく少し緊張が解けるのがわかる。
公言できる性質の物ではないが、おそらく月神族の最大の目的だったのであろう。
しかしまだ課題が残っているようだ。


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******(注:繰り返しますがこのSSには少年誌相当以上の表現は入っておりません!! 期待しないでください)**********
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「もう一つ、これは個人的にお願いがあるのですが」
「迦具夜の相手ならアイドルでも貴族の御曹司でも紹介するわよ?」

これは別件。つまり金になると踏んだ令子が身を乗り出す。
金くれるなら何でもやる、歌舞伎町でも渋谷でも新大久保でも案内してやると目を輝かせて。
場合によっては近畿剛一を目眩ましに掛けてでも連れてくる気である。

除霊に比べればお気楽なもんである。

「いえ、私はもう歳もあり良いのです。実は神無が横島どのに個人的に惚れてしまっているようでして。
 他の者はまあアイドルみたいな感覚なので問題ないのですが。
 ここに滞在している間、神無に横島どのをお貸し願えませんでしょうか?」

さすがの令子にとっても斜め上。逆美人局をやってくれと言われて絶句。
せいぜい個人的なナンパスポットの案内か有名人の紹介だろうと思っていた。

「ハァッ?」

「横島どのと神無をできるだけ一緒になるように組んでやって、ぜひ一夜共にさせてやって欲しいという意味です」
そこまでいって手箱を さしだして開けて見せる。

「もちろんそちらには色々な意味でご負担でしょうから無料とは言いません。これでいかがでしょう」

手箱から見えるのは色とりどりかつビー玉ほどはあろうかというダイヤモンド。
それがぎっしり詰まっている。

「これ! 50カラットはありそうなブルーダイヤ? こっちはピンクダイヤ!?
 それに私みたいな素人が見てもわかるわ! ほとんど傷のないフローレス級じゃない!」
「お気に召しましたか? いかがです」
「アンタ部下思いねぇ」

あらためてブルーダイヤをつまみ出してしげしげと眺め見とれる令子に畳みかける。

「ならば御了承いただけますか? もちろん他の方々には口外いたしません」

令子が涎を垂らしそうな顔で、しかしきっぱりと首を横に振る。

「ゴメン」
「まだ足りませんでしたか」

言うなり手箱をもう一つ追加。
今度は、ダイヤに後ろ髪が絡みついて抜けそうになりつつもきっぱり首を横に振る。

「税金のかからない報酬は魅力だけど。これだけはいくら金積まれてもムリ」
「1日だけのお願いですのに」
「このことだけはダメ。あなたも見たでしょう」

食い下がった迦具夜にきっぱりすっぱり潔く断る。

(ああっ! 後ろ髪が痛いわっ!! 抜けそう!)

「報酬を貰ったら彼女らを押さえないといけなくなるわ。それはとてもムリと言うかできないわ。
 あの子たち1回は横島クンに命をかけたことのあるのよ。月の女王だろうと総理大臣だろうと止められないわ」

迦具夜は令子の言葉に残念そうに食い下がる。
「神無と横島様のお子ならよい種になると思ったのですが」

そこで肩をすくめる。
「所長命令でもとてもムリね」

(もったいない! 勿体ない〜〜〜っ!!! 横島クンを1日差し出すだけで数億は稼ぎが追加されるのに!!
 いいかっこしいの私のバカバカバカバカッ!!!!!! 横島クンに口止めしときゃばれないわよ!!)

「わかりました。無理を申し分けありませんでした」
「こればっかりはねー」

目をつむって首を振る。

(バカ令子!! たぶん20億は軽くあるわよ!!?20億よ!! みすみす濡れ手に粟を捨てるの?!
 横島クンがあんたの夫か恋人って訳じゃないでしょ? それともホントに従業員に気を遣ってるの?! ハン! アンタらしくもないわ!)

迦具夜が手箱を引っ込められない。

「あの…後ろ髪が絡みついて離れないんですけど」
「え? えええぇっ?!」

言われて目を開けると確かに何時のまにやら自慢の亜麻色の髪が後から伸びて手箱に絡みついている。

「オホホホホホホッ!! 失礼しました。静電気ですわ。きっと」

慌てて髪をたぐって手箱を迦具夜に渡す。

(あーこの箱にダイヤがぎっしりきっと100億円分くらい詰まってんのね)
手に残るずっしりとした感触が守銭奴魂を心地よく刺激してくれる。

「まだ絡んでるんですけど?」
「ハィ?」
  :
  :
  :
  :
  :
「なじぇぇぇぇっ?!」

手箱にはツタのごとく髪の毛が絡んでいる。
それもさっきの2倍はあろうかという本数が。

「すごく心残りがお有りなようですね。では横島どのと神無のスケジュールを合わせるのだけやっていただけませんか?
 美神さんだけにはプライベートも見逃して頂くと言うことで。それでこれを差し上げましょう」

苦笑した迦具夜が先ほどの50カラットブルーダイヤとピンクダイヤを手渡す。

迦具夜の手から令子の手にダイヤが乗せられたときに静電気が無くなったのだろう。
十数本残して令子の髪の毛がすっと重力に従って落ちる。

「わかったわ……やらせて貰います」

がっくり肩を落とした令子がブルーダイヤとピンクダイヤを両手で押し頂く。
令子の守銭奴魂が友情や愛や思いやりに打ち勝った瞬間であった。

「もちろん、うまくいったらひと箱進呈させていただきます」

迦具夜はにっこり笑ってなけなしの防波堤をぶっ壊しておくことも忘れない。
残った髪の毛も風に吹かれて箱から離れた。

「うぃ…………」



次の日、珍しく朝から一同がそろった美神事務所でメンバーの配置が令子から皆に言い渡される。

「……というわけで警備指揮は横島クンと神無。基本的に2人ペアで動いてちょうだい」

真っ先に言い渡された横島の方が飛び上がる。

「俺が指揮ッスか!? 美神さんじゃなくって?!」
「心配しなくても月警官の指揮だから神無がやってくれるわ。人間の方の指揮はママか西条さんだから」

令子が天井を向いてしれっとながす。

「つまり横島クンは基本的に神無の護衛。それと日本でわからないことをアドバイスしてあげて」
「「「え―っ?」」」「………」「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」
「それと神無がプライベートで遊ぶ時もエスコートってか護衛してやって」
「「「え―っ!!?」」」「………」「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

令子の指示にタマモ以外がそろって抗議の声を上げる。
ワンテンポ遅れて間延びしているのは冥子。

「うるさい! 私の命令が聞けないっての!」
「でも、なんで横島さんなんですか? 指揮ですよ?美神さんの方がいいじゃないですか」

おキヌが皆の不満を代表して具体的に述べ出す。
冥子は考えが言葉にまとまるのに時間がかかりすぎる。

「横島クンが月警官に慕われてるの見たでしょ?」
「なぜそれが!?」
「指揮者は人気がある方がいいの。いざというときは横島クンが指揮しなくちゃいけないのよ?
 私で月警官達が言うこと聞くと思う?」

仕事で私情は挟まない! とみなを一喝する。

「なぜプライベートで遊ぶのも先生が案内するのでござる?」
「それは横島クンが護衛の責任を持つ、という意味よ。向こうは遊びだけどこっちは仕事なの。
 もちろんシロ、あんたが案内してもいいけど面識がある訳じゃないからアンタも向こうもイヤでしょ?」

理論武装は完璧。一応黙ったシロとおキヌを見てグッと拳を握りしめる。

「要するに月警官の指揮官は充分に護衛しなくてはいけない。んで適任者は私と横島クンしかいないのよ。
 私はそれ以外で動き回らなくちゃならないからダメなの! 他に質問は?」

みな口をとんがらせているが特に質問を思いつけなかったらしい。

「遊撃は冥子とシロとタマモね。迦具夜が行く先々を動き回って不審者をかぎ出して」
「了解」「わかったでござる」「わかったわ〜〜〜〜〜」
「配置表とスケジュールはこれね。まぁ適当に融通してくれても問題ないわ」

このへんに不満はなかったようだ。戦闘力と探査力を兼ね備えているのはこの3人なので当然だろう。

「おキヌちゃんとルシオラは私と迦具夜の直接警備」
「えぇッ!? 私はヨコシマとじゃないの?」
「横島クンとアンタ双方を引っぺがされると戦闘力が不安なのよ。視界確保でおキヌちゃんも居てるしね。
 それにアンタならいざの時いつでも横島クンと連絡とれるでしょ?
 私はちょくちょく離れる可能性が高いから実質1人でおキヌちゃんと迦具夜を守って貰う場面もあるわ」

「仕方ないわね…」

こちらもあまり納得してなさそうだが、令子の理路整然とした物言いにしぶしぶ引き下がる。


その後、横島の文珠を各人に貸したり破魔札やアイテム類を確認したり令子が充電したり、と言った定型的な作業を終わらせた。

「では美神令子除霊事務所 出動よ! まずは月神族の日本の宿である東京都庁下の心霊施設に行くわよ」



一応似合わないスーツを着て都庁下の神無の元へ向かう横島。

「ちうわけで俺は神無とコンビを組むことになったわけだ」
「聞いているよ。ご苦労さま。まぁ掛けてくれ」

神無がイスを引きずり出そうとするがなかなか動かない。
力が足らないと言うよりバランスがうまくとれないようだ。
しばらく苦闘していると横島が首をかしげる。

「なにやってるんだ?」
「なに重くてな。なにせ重力が6倍だ」
「ああそうか。俺がやるよ」

当たり前だがあっさりイスを引きずり出す。神無の分も引いてやって二人で向かい合う。

「空気も粘るし、我々には少しつらいな」
「まあ、月は酸素ボンベや機密服が無いと俺らは死んじまうからおあいこだよ」

自分の不甲斐なさからだろう。ため息と共に椅子に座った神無に横島が慰めの声をかけ、
持参したゲッキー(ヤモリ入り棒状スナック菓子。GS御用達)の箱を神無に突き出す。

「食えるか? こんな物しか思いつかなかったんだが」
「どれ。食べることはできるはずだが、生まれてこの方ものは食べたことがないのでな」

普段は月に満ちている魔力で充分であり、今も髪飾り経由で魔力を受信して動いている。
基本的には食べる必要は全くない

初めてのものを貰った赤子のようにしばらくひねくっていたがとうとう決心が付いたのか恐る恐る口に入れる。


ぽきり。


ぱりぱり、ごくん。

「……不思議な感覚だな。口と喉の奥に快感のような物が生まれるな」
「うまい、ということかな」

横島が神無の横顔を見ながら首をかしげる。

「そういうのが正しいのだろうな」
神無がニコリと微笑む。

(ちょっとまて!! めちゃかわいい!? 心なしか目が潤んでるような気がするぞ!?)

横島がどきどきしながら見つめている間にも神無は手に持つゲッキーの残りを口に入れる。
今度は慣れたからだろう。スムーズに口を動かす。

と、飲み込むのが早すぎたのかむせたようだ。

「大丈夫か! 飲め」

咳き込む神無の背中をさすってやりながら水をコップに一杯差し出すと。
それもじっと見つめている。

「わかった」

決心して飲み下すとむせるのが治まったようだ。

「昨日の騒ぎと言い、今日のこれといい全く世話を掛けるな」
「いや、俺の方こそ無理に物を食わせて済まん」

神無がほんのりと赤い顔でかぶりを振る。
「色々知りたいこともあるゆえどんどんよろしく頼む」

咳がおさまった神無を横島が助け起こし、もう一杯水を飲ませてやったところに朧が入ってくる。
なんとなくいい雰囲気になっている二人を見てくるりと背中を向ける。

「あら…ノックした方が良かったかしら」
「いや、もう出る時間だな」

神無が愛刀を掴んで立ち上がる。


ブースに集合した月警官達を閲兵。

「残念ながら我々はこの高重力下と空気の粘性ではさほどの戦力ではない。
 従って本日の姫と日本政府との会談の警備は人間の方々主力として月警官若干名とで行われる」

そこで区切って首を反対方向に向け続ける。

「その他の者は明後日の姫のお忍び先である横島どのの高校で警備準備状況を確認し、結界を構築する」

詳しいことはもはや伝わっているので確認だけである。

「では横島どの部下の引率をお願いする」
神無は迦具夜の方だ。

「了解ッス。でも俺、神無ちゃんにひっついてろって言われてるんス」
「私の護衛だろ。姫にひっついてる間は美神殿にひっついてるも同然だから大丈夫だ。それより部下の護衛を頼む。ここでは無力に近いからな」
「そういわれりゃしゃあない。ここのボスは神無ちゃんだからな」

横島が令子に一報入れた後、夕顔その他、月警官のほとんどを率いて消える。
直接の指揮は副官の夕顔がやってくれるので横島は連れて行くだけと言っても良い。

「神無は行かないの?」
横島が行くのを見ていた朧が少し不満そうに首を傾げる。

「姫様が公務で動いておられるのに私が居なくなるわけにもいくまい? 誰が居ようと警備の役に立たないことには変わりないがな」
「その姫様がせっかくチャンスをくれてるのに」
「まぁ弾よけぐらいにはなるさ」

「マッタク。いい殿方に巡り逢うのも今回は重要なのよ」
「公務をおろそかにして姫様が怪我をなされてもよいわけではあるまい」

「あなたも認めてるけど我々はここではほとんど無力なのよ? 同じじゃない」
「それに部下を危険にさらして良いわけでもないな。横島殿なら安心だろう」

かみ合わない会話に朧が盛大に溜息をついて肩をすくめる。

自分はもうすでに自衛隊の霊能戦部隊の1人といい感じになった。
二人で遊んで昨日遅くに帰ってきたら神無はまだ自室で地図やら部下の配置表やらを見ていた。
神無その後、姫の警備体制の隙間を遅くまでチェックしていたらしい。

(こんな時に公務を優先する方が姫様のご意向に反するんだけどなー)



一方月警官のほとんどを率いて自分の通う高校に到着した横島。

仕事に対する義務感であろうか?
ここにつくまで奇跡的に横島と月警官のイチャイチャがなかったことは特筆に値する。
横島が声を掛けても全員が生返事だけで乗ってこなかった。

「チェッ。みんなまじめだなぁ。エミさんはどこだ?」

ここの設営を仕切ってるはずの知り合いを捜すが、出てきたのは

「ほう、横島クン、君には似合わず美人を率いてご到着かね?」
「西条!? てめぇ隊長にひっついて議事堂じゃねぇのか!」
「君と同じだよ。下調べと手伝い、それに警備。要するに雑用さ」
「ならエミさんがどこにいるか答えろ! 貴様と話し込む趣味はねぇ!」
「つれないねぇ。僕も令子ちゃんが居ないところで君と仲良くする気はないがね」

二人が無駄に睨み合ってる間にも、級友が知らせたのだろう。タイガーとピートが駈けてきてお開きである。
月警官とGメンの一隊がエミと合流して霊的防御設備などの構築やらなんやらに取りかかることになった。

指揮も責任ももちろんエミだが、その構造その他を月警官やGメンも知っておく必要がある。
横島は……まあオマケ。

その間にも、

 ジャスティスを引っこ抜いた西条とハンズオブグローリーを振り回した横島が霊檄術の模範演技を披露して喝采をうけたり、
 理不尽にもエミにその模範演技の処罰呪いをかまされたり、

 月警官の興味が西条やピートに流れて横島とタイガーがわら人形を数体串刺しにしたり、
 Gメンの隊員や興味本位でのぞきに来た横島の級友などと個人的に仲良くなってアフターファイブの約束を取り付ける月警官が続出したり、

 この時以来ヤケに精神に余裕が出る男子生徒が多く出て教師とPTAを過敏にさせたが別に妊娠騒ぎも起こらなかったり、
 おかげで愛子や小鳩を含む女子生徒全員にトコトン白い目で見られたり、
 西条も夜更けに月警官のみならず女官を数人も連れ歩いてる姿を令子や美智恵に目撃されて絶対零度の視線を浴びせられたり、

結局いろいろ、がちゃがちゃあったが、みな迦具夜と令子の想定範囲内なので全て無問題。
Gメン隊員にも月神族の意向は裏で流れていたのだろう。
みな仕事の合間に結構熱心に声を掛けていた。
もちろん横島も、である。


次の日も続きのお仕事を放課後にやっていると、

「いやあ! 横島、いや人類の救世主横島様。学園祭になる前にこれだけ美人が溢れるとは大感謝」

メガネの級友が校舎の霊警備装備を(バイトの除霊委員として)チェックしていた横島に満足げな声を掛ける。
横島は返事どころか顔も見てやらない。そこにさらにもう数人級友がやってくる。

「おっ! メガネくん。その分だと君も大人になったのか?」
「俺も大魔導師横島様のお裾分けにあずかちゃったのよー」
「っておまえ、絵里ちゃんとつきあってんだろ?」
「スマン黙っててくれ。お茶した後にさ、ほら、例の通に行ったら電柱の影で抱きつかれて‘お情け頂けませんか?’だもん。
 据え膳食わぬはなんとやらっていうだろ」
「いいよなー横島は。有名GSだからスゲーだろうとは思ってたが やっぱ肉林だったんだなー」
「そうよなー俺らみたいな貧弱な1高校生までこれだからな! 魔神殺しの英雄様は毎夜何回何人もとっかえひっかえ?このこのこの」

こんな会話を何回周りで聞かされたか。
……どうやら横島の高校にも月神族の意向は充分に流れていたようだ。


「てめーら! うるせいぞ! 仕事のじゃまだ」

内心、ぐぞー!! それは全部元々俺の女じゃ!! とか思いつつ、黒い涙を胸にいっぱいためてうつ向いて黙々と作業をこなす横島。
恥ずかしくて1人もモノにできていないなどとはとてもいえない。

みな妙神山でシロとおキヌ、それに令子の凄まじさを見てびびってしまった。
しかもあの後、それを知らなかった女官達が下山間際にアレをよりにも寄って輸送隊を率いて迎えに来た冥子の前でやってしまったのだ。

もちろん破壊神降臨。

下界へ降りるためのMV−23オスプリ ティルトローター輸送機70億円ナリと
月神族の天ノ鳥船それぞれ1隻を一瞬でジュラルミン屑と岩屑に変えてしまった。

この二つの噂が月神族の間を一瞬で駆けめぐった。
ゆえに月神族にはしっかり刻み込まれたのだ。


‘英雄横島に手を出せば命が危ない!’


従って横島にこなをかけられてもお茶やサイン以上に発展した例は皆無だった。

  「あ、横島様」
  「お茶しない?」
  「ごちそうさまでした! でもこの後公務でして…」
  「え」
       or
  「あのサインいただけません?」
  「いいけど。この後ヒマ?」
  「ありがとーございます!! わーいもらっちゃったー!!」
  「おーい」

この辺の繰り返し。


薄暗くなり誰もいなくなってかなり冷えてきた晩秋の校庭。
横島が1人座り込んでえぐえぐ泣いている。

「ヂグジョー!! モテル横島は横島でないとぬかすんかい!! えっ!!!」

一生懸命声を掛けるも誰1人乗ってくれなかった。
仕事が終わると、結構な数の月警官が一緒に仕事をしていたGメンの若い隊員達といい感じ。
引き上げるときも両者が混じり合ってキャァキャァとにぎやかにぎやか。

副隊長の夕顔までに

「アノ、横島様はこの辺のお近くにお住まいなのでしょう? もう道もわかりましたし。報告は私から上げておきます」

と、暗に邪魔だからついてきてくれるなという言葉を投げられてしまったのだ。
その夕顔も嬉々としてGメンの小隊長の1人と連れだって帰って行ってしまった。

確かにカップルが成立してしまえばあぶれてしつこくちょっかい掛けてくるヤツは邪魔以外何者でも無かろう。


「あれだけ媚びてやったのに! 妙神山でのあれはいったい何だったんだよ……」


ひゅぉ〜〜〜〜

晩秋の木枯らしといってもいい冷たい風が吹き抜ける。
体の中にも心の中にも。


その辺の状況を思い出して座り込んでいると、

ぺとん、

と頬に暖かいコーヒーの缶。


思わず顔を上に向けると、少し頬を染めた神無。私服に着替えている。
こちらで買ったものらしい薄手のブラウスとスカートそれにカーデガン。
迦具夜が宿舎に帰り、人間側の警備状況に満足し、非番になったので出てきたのだろう。
いつまでもトップが堅ければ部下が遊びにくいというのもある。


「夕顔に横島どのがこちらだと聞いたので来てみたんだが」


月での温度変化の激しさに比べれば地球のそれはないも等しい。
中秋の名月が降り立ったような神無をしばらくじっと見つめる横島。

「どこかおかしいかな? 店員にお任せしたのだが」

見つめられて缶コーヒー片手に自らの着るものをちょっと見る。
見てもわかるものではないが。

「…あ、ああ。よく似合ってると思うぞ。でも寒くないか?」
「服が重かったのでなるべく軽いのにして貰ったんだ。月の昼夜に比べれば至極快適な温度だよ」
「俺には結構寒いがな。あっそうだ、缶コーヒーサンキュー」

いうなりプルトップを引き上げ口を付ける。
神無もほっとしたような表情でそれにならう。

「月では季節よりも昼夜の差の方が激しいからな。こういうのはよくわからなくて。嫌なら捨ててくれ」
「体が冷え切ってたからスッゲーありがたい。良く気が利くな」
「そうか。すまん。私たちのためにな」

糖分も不足していて一気に飲んでしまった横島に自らのものを渡す。

「すまん。大きい方が良かったな。私が口を付けたもので良ければ」
「サンキュッ! お言葉に甘えるわ」

暖かいものが体に染み通ってくる。飲み干してから気がついたのか。

(これって間接キスだよな…)

ものを食べる習慣そのものがない神無は全く気にしていないようだ。

「適量が全くわからなかった。お詫びと言っては何だがどこかに何か食べに行かないか。
 その分では‘腹も減っている’という状況なのだろう」

おおそりゃいい! と言いかかって一瞬後に情けなさ無い顔つきで首をひねる。

「やはり、こういう誘い方は間違っているのかな。迷惑だったか?」

横島の煮え切らない表情を見た神無がちょっと悲しそうな顔。
それを見た横島が慌てて横に手を振る。

「いや、美人と食事と言うのは願ったりだけど事務所で飯が出るからな。たぶんルシオラがもうすぐ飛んでくる」

そろそろ女性クライアントに食事を誘われることがないでもない横島だったが、
当たり前だがきっちり嗅ぎつけて迎えに来る。

情けなくもここのところ完全に鈴猫状態だ。
お茶ぐらいなら何とかなるかなと口を開きかけたところで神無が首を傾げる。

「? それはないのではないかな。さっき美神殿が横島殿以外全員を連れて西条殿と装甲バスに載ってたからな」
「マジ?!」

見逃したか? また折檻かと慌てて携帯を見ると令子からはメールも着信も入っていない。

さらにルシオラに魂をつなげるとふくれっ面のイメージで今夜はGメン・自衛隊との合同会議が入ってるとぶーたれられる。
令子に横島クンよりルシオラの意見が聞きたいと言われて拉致されたそうだ。

   『まぁ、その前に自衛隊の最新の兵器見せて貰えるからいいんだけどね』
   『俺は聞いてねぇぞ?』
   『ヨコシマが最新兵器の運用法を聞いてもわからないからじゃない?』
   『そりゃ認めるが、おキヌちゃんやシロやタマモもそうだろう?』
   『そういえばなんでかなぁ? 今まで百貨店巡りしてもうご飯こっちは食べちゃったのよ。シロちゃんもタマモちゃんも大喜びだったわよ』
   『なんじゃそら!! 俺は寒空で今まで走りまわっとったのに』
   『ゴメン! 見学始まっちゃったわ! あ―っ!! 試作戦闘機“心身”じゃない!! えっ!触っていいの?』
   『ヲイッ!! ルシオラ!!』

切れてしまいました。脳内でガンガン電話を叩いていたが繋がらない。どうやら極度の興奮状態なようだ。
向こうがそのつもりなら!! こっちも神無ちゃんとあそばな損じゃ!

「あいつらロクでもねぇ!! 神無ちゃん いこいこ!!」

ルシオラとの接続をこっちからも叩き切ってぐぃっと神無の腰を抱いて自分の方へ引き寄せる。


「!!……っ」


神無は一瞬驚くも頬をほんのりと染めてそのまま横島に体をゆだねて歩き始める。




そんな二人を少し遠くの影から見守るのは朧。

「美神さんも予想外に協力的だし、うまくいってるよーねー。早速、姫に報告しなきゃ!」



to be continued


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