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復活

空からお月様が落ちてきた(3)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/ 9/25

正式軍装した鬼門とイーム、ヤーム、それにワルキューレやジークが最敬礼する中、
天ノ鳥舟と天ノ磐舟から月神族たちが下船する。

まずは天ノ鳥舟から下船した神無が月警官達を指揮、整列させ答礼を返す。
その中央を朧と女官達に先導された迦具夜が天ノ鏡舟から降り、緋毛氈の上を進む。


「我は当所管理人、小竜姫。当所筆頭責任者、闘戦勝仏より全権代理を与えられた者でございます」
(闘戦勝仏:猿神の仏としての正式名)


大音声と共に迦具夜に拝礼する。さすがに若年ながら武神として音に聞こえた小竜姫。
いつも見せるエプロン管理人さんやミニスカ女子大生のそれではない。

建物の中の令子おキヌにまで響く強大な霊圧が籠もっている。

「小竜姫殿。東勝神州傲来国花果山の管理人としてその盛名とくに聞き及んでおります。
 以前の我らが月の厄災の際にも多大なる骨折り、光悦至極に存じます」

その霊圧を正面から受け止めるも、特に何事もなく答礼を返す迦具夜。
むしろ横に並んでいる鬼門やイーム、ヤームの方がきつそうである。

迦具夜の答礼を聞いた小竜姫がニコ、と微笑んで静かに訂正する。

「失礼ながら、現在は人界の名に従い、東アジア日本国妙神山と呼称しております。
 以後、そのようによろしくお願い申し上げます」

その後、魔族代表としてワルキューレの答礼と人界の代表として美智恵が答礼。


修業所内に案内され、迦具夜と猿神が型どおりの儀礼的応酬をしている後ろで、

「横島さんがきてるはずだけど・・・・・どこかしら?」

口の中でつぶやきながら朧がきょろきょろしている。いや朧だけではない、
女官や月警官達もビシッと直立不動ながらそわそわしているのが見て取れる。

   (横島どのにひとめお会いしたいなー)
   (握手、せめてサイン貰えないかしら)
   (この機会にぜひりりしい殿方と!!)
   (抽選に勝って随員に入れたのにー!)
   (早く自由行動にならないかしらね?)

それを見とがめた月警官の長、神無が小声でしかりつける。
「仕事できているのだぞ! 緊張感が足らんぞ!!朧までなんというざまだ!」

「あら、神無も3時間も掛けてお化粧してたく・せ・にぃっ」
朧が袂で隠した手でちょんちょん神無を突っつく。
「そんな意地張ってると憧れの横島どのと仲良くなれないゾ?」

「だ、誰がそんなことをっ!」
真っ赤になった神無が口ごもる。


小声でのやりとりを見てとった猿神が豪快に笑い飛ばす。

「ワハハッ!! 小僧ももてるのう!!
 月神族の方々よ、神魔の取り決めで高位の者はみだりに人間の前にでれぬのじゃ。
 この邪魔なジジイが引っ込めばすぐに横島に会える故、少々お待ち願えんかのう」

さっき横島とパピリオが掃除した応接室で卓袱台を前にやっているのだから,
偉い神様と言うよりどこぞの村長さんな雰囲気ではある。

それでも原則として小竜姫などの管理人が「認定」した人間にしか会えない。
高位魔族ではエミのような高位召喚魔法を駆使できた人間に魔法陣内から「言葉」をかけられるだけ、ということになる。

実際に人間に接触できるのはワルキューレや小竜姫などの下っ端のみ、
もしくは神魔で協議した上で、ということになる。


閑話休題

猿神の言葉に迦具夜が恐縮して頭を下げる。

「これ!! 朧、神無! 闘戦勝仏様、申し訳ありません。部下の不作法をお許し下さい。
 みな、月からでたことのない田舎者ゆえ、見るもの聞くもの全てが珍しいようで・・・・
 特に横島さまは、力もあり、お若い殿方でもあるので部下達の中では大人気でございまして」

聞いた猿神はカラカラと豪快に笑い飛ばし、

「なんのなんの、迦具夜殿にはワシの無二の友人が月でセクハラしまくったのを許して頂いたと聞き及んでおりますぞ」
「?―――おおっ、天蓬どののご友人でしたか。あの時はたしかに何回もこられ部下達をくどき倒され」
「きゃつはそれが原因で、時の最高指導者の不興を買いましてのう。しばらく・・・・・」
「こられなくなってから嫦娥が泣いて泣いて・・・・」

共通の知人が出てきて卓袱台を挟んで渋茶をすすりながら一気に話が弾む二人。

「神無、今のはなんの話?」
「私も知らん。千年ほど前まではけっこう月と地球の行き来があったと言うことだからその頃の話では?」
「姫がこのあたりに遊びに降りる前の話かしら」
「どころか、下手すると先代のアルテミス様と交代した頃ではないかな?」
「にしても月とこちらを気軽に往復して恋を囁くとはすごい方ね」

神無と朧のひそひそ話をよそに迦具夜と猿神が話し込み、長くなりそうになったので、
部下達に妙神山内自由行動のお許しが出る。



一方そんなやりとりは聞こえない妙神山俗世部分。


おキヌはキッチンテーブルに肘をつき、令子はあぐらをかいて壁にもたれてさっきのドンペリをちびちびやっている。


人でないシロタマは別室でイーム・ヤームと混ざって小竜姫やワルキューレの手伝い(令子に命じられた)。
冥子は月神族を降ろすための輸送部隊をここへ誘導しているはずである。
美智恵と西条は別室で細かいところの最後のつめを協議してしきりに携帯やさっき受け取った通信鬼で連絡を取っている。


令子は警備やらの全体を下請けしているわけではない。
ぶっちゃけ「月神族御一行様」のやとわれ日本案内係なだけだ。
その間の警備なんかにはもちろん参加しているが。

「そろそろ出てくるかしらね」
「ううぅ、なんとかその前に帰っちゃえないでしょうか?」

おキヌが令子に愚痴る。
月神族にとって、横島は侵略者を退けた救世の超ヒーローで大もてなのだ。

それはここ数回の月との通信の雰囲気ですっごくよくわかった。

文化交流のために横島のかよう高校へ横島(とタイガー)が案内すると知らせた瞬間の通信鬼の背後のピンク色の嬌声。

その嬌声の意味を瞬時に理解した令子とおキヌは顔が引きつった。
実際に応対している神無の声も内心の喜びが隠せていなかった。

そんなのが大挙押し寄せられたくはない。

「しようがないでしょ? 先方が案の中から選んだんだし」

令子も『あんな計画上げなきゃ良かった』とおもっきり顔をしかめながらもおキヌを宥める。

「しばらくつきあって横島クンの実態を知れば勝手に離れるわよ」

こんな言葉ではおキヌは全くもって安心できないようだ。いや、令子も言ってて信じてはおるまい。

「でも、横島さんって、人外には好かれるから…‥、美神さんは平気なんですか?」
「私に関係ないわよ!! 気になるならさっさとモーションかけて確定すれば?」

おキヌもみたことのない様なふくれっ面の横顔が、あらゆる言葉より雄弁に語っている。

「わ、私がですか?」
「他に誰が居るのよ?」
「美神さんこそ、こないだのは告白じゃないんですか?」

おキヌがぷうとふくれて抗議。
六道家での‘冥子に勝てばデート’の台詞を指しているのは明らかだ。

「私がいつどこで横島クンなんかに告白したのよ!
 おキヌちゃんこそルシオラにはだいぶ言ってるみたいじゃない」

二人ともまぁだ横島に面と向かっては言えないらしい。
周りにはバレバレなんだが。


ぐちゃぐちゃ年頃のオクテの女の子している所に朧と神無が現れる。

「美神どの、先日は世話になった」
神無が顔を見るなり、軍人らしく礼儀正しく令子に拝礼する。

「ん、ありがと。でもこっちも商売だから。横島クンもね」

神無がさらに作法にかなった丁寧な礼するが、令子はもたれた壁から離れるでもなくそっ気なく返す。
おキヌははっと立ち上がって、お茶をくみに行く。

「前も言ったけど、横島クンにうかつにいい顔すると妊娠するわよ」

「に、妊娠て!! なんてこと言うんですかっ!!」
お茶を持ってきたおキヌが思わず悲鳴をもらす。

「あら、こちらの方は横島さんの彼女の方ですね!
 月からはモニターで拝見しましたよ。はじめましてー。朧です」

朧が、素っ気ない令子を尻目に、真っ赤になって言葉の詰まったおキヌにあっけらかんと挨拶する。

「え、えっ!? か、かのじょー!? あうあぅ。ひ、氷室 キヌといいますぅぅう! は、初めまして」

追い打ちに真っ赤になったおキヌが慌ててしどろもどろ。適当な返事をするとパタパタと逃げてしまう。
とても平常心では居られなかったらしい。

令子はふきげんそーな仏頂面でみやるも、引き留めも慰めもしない。
そんな令子に気が付いてか気が付かずか、

「かっわいいー!!」

朧がはしゃぎながらおキヌを見送っている。

「でも彼女は妊娠してなさそうね? 美神さん」
ウインクしながら指摘するも令子は特にアクションを返さない。

「その辺はプライバシーだから。特に今回の仕事には関係ないわね」

‘仕事’を強調する令子に神無がうなずく。
「そうだな。そのこともあるし横島どのにも挨拶したいのだが」

「今、おいたが過ぎて小竜姫にお仕置きくらって寝込んでるのよ。まずはオカルトGメンの隊長と副官と話して貰うわ」

神無と朧を美智恵達に改めて実務者として引き合わすべく、令子がようやっと壁から体を離す。

「わかった。ところで部下達に、横島どのに挨拶させて欲しいという輩が多くてな、よろしくお願いしたいのだが」

神無の至極もっともな申し出を断りようもない。

「ッ!! ・・・・・・・OK。小竜姫に聞いてみるわ」
不機嫌そうな顔を隠そうともせず言い放つ。

「神無ったら! 相変わらずね」
朧が袂で口を覆ってコロコロと笑う。
「もっとストレートでも良いんじゃない?」

令子にウインクしつつ、ざーとらしくそっぽを向いてつぶやく。

「うちの部下達は・・・・・・、確か一度妊娠してみたいっていうのが一杯いたっけ。
 ま、これはプライベートだから関係ないわよね。
 確かうちは3ローテーションで、組んでるから2/3の時間は基本的に各自の自由なのよね」

袂で口を覆ったまま、令子に上目遣いでかーいらしく首をかしげる。
「月神族は知ってのとおり女性ばっかりなんだし、ちょっとくらいハメはずしても許してね?」

「なぁんですってぇ〜〜〜〜!!?」

どういう意味だと怒鳴り上げる令子に朧が追い打ちを掛ける。

「だってみんな後腐れ無く全員月に帰るんだし」
「とにかく、まずはカルトGメンの隊長と副官に案内するわ!!」


人喰ってんだか仁義切ってんだかわからない朧の台詞に令子が湯気を噴く。








同じ頃、俗世では弓と一文字が喫茶店でクリームソーダを前にため息をついていた。

「誰も乗りませんわね」

学園祭で横島を袋にしてこないだのGS試験の六女の恥を注ごう計画は頓挫しかかっていた。

六女のメンツを回復するのには皆賛成するのだが。

「応援するわっ」「あれを顎で使える美神お姉様のすごさがわかる」
「自分を大切にしたいの」「ゴメン、他をあたってくんない」「わ、私には無理」
「心意気は買うけどねぇ」「当たっら砕けちってしまうわ」

が六女霊能科2,3年の最強レベルの生徒たちから引き出せた言質の全てであった。

女性として、トランペットセクハラ大魔王のおぞましさを肌で知る。
それにGSタマゴとして、見かけによらない横島の化け物じみた「実績と能力」に怯えるのだ。

おキヌが横島に勝ったGS試験後、
「私は普通なら横島さんには絶対かないません」
と六道女学院でしょっちゅう言っていたのも効いているようだ。

どうやら弓も一文字も雪之丞やタイガーから聞き、
実物とも何度も会っているので横島の「すごさ」に慣れしまっていたらしい。

「一年上なだけなのに手も足も出ないなんて」
「あたしら二人だけじゃ絶対かなわないぜ?」

正々堂々と一騎打ちどころか徒党を組んでの闇討ち?すらができない力のなさに二人して落ち込んでいる。
何人かには言ってしまったので、勝負して負けるのならともかく全くやらないのではまさにメンツ丸つぶれだ。

「クッ! 私一人でも再戦させてもらいますわ! こうなったらお姉様にお願いして、正面から練習試合を・・・・」
「それこそ意味ねぇぞ。ルシオラとかいう式神の霊波砲一発で終わりだ」

一文字がついさっき日本GS協会の公式サイトからダウンロード・印刷した横島の最新の霊力値の一覧を横目で見る。

横島忠夫:霊波放出:151.7マイト、ハンドオブグローリー162.3マイト・・・・、文珠四重励起2500マイト(注:測定機 上限値)。
 専属式神[ルシオラ]:霊波放出:132.4マイト、霊波砲112.4マイト、幻術:・・・・・

「またあがってますわね……」

弓もちらとみて顔をしかめる。
弓も一文字も順調に成長しているとはいえ100マイトを遙かに下回る。

並の霊能者の倍の数値がずらりと並び,トドメに神か悪魔かと言うような数値が載れば普通はびびる。
たしかに文珠抜きでも水晶観音の装甲など一撃で砕け散るだろう。

霊力=戦力ではないがそれは豊富な実戦実績が裏付けている。
霊力は高い実戦経験豊富と来ては勝ち目のあろうはずがない。

少なくとも二人と同程度のメンバーがもう一人は欲しい。


思い悩む二人が一般人でも感じるほどのどよどよとした霊波を振りまいていると、
「オタクたちなに鬱陶しい気を垂れ流してるのよ! 霊能者なら周りにも気をつけるワケ! 低級霊が寄ってきてもおかしくないわ」

一人のプロのGSがテーブルに近寄ってきて二人に注意する。
霊能で一般人に迷惑をかけないことはGSとして真っ先に叩き込まれることだ。


「ス、すみません」
「きがつきませんでした」

はっと振り向いて謝った二人の目に褐色の美人が映る。

「「あっ、小笠原先生」」

おもわずハモった二人をエミがいぶかしげに見つめる。
先生と呼ばれる覚えはない。………あった。

「は? センセイ? ってことはオタクら六道の生徒?」
「はい。弓かおりと申します」

落ち着きを取り戻したかおりがお嬢様らしく起立して頭をペコリと下げる。

それにつられて魔理もあわてて立つ。
突然有名人に叱られた真っ赤な顔を下げるが一テンポの遅れ。

「い、一文字魔理です。臨海学校ではお世話になりました!」
こっちは喫茶店に響き渡るほどの大声だ.

エミはその言葉で二人を思い出し,テーブルにのっている横島の公表データを見て,
前のGS試験や臨海学校での横島の六道女学院生徒へのセクハラっぷりが脳内でフラッシュバックする.

(なーるほど仕返し。でも方法が見つからないってワケ)

六女の霊能科はおしとやかな外見とは裏腹に、当たり前だが戦闘を教えるところである。
生徒同士の「果たし合い」が「模擬戦闘」として授業のカリキュラムに組まれているほどだ。

普通の女子高生みたいに痴漢やセクハラに泣き寝入りなどと言う感覚はない。
実力を持って思い知らせるのみだ。

並の男なら通学途上の痴漢行為だけでも六女の制服がトラウマになるくらいの「もーしません」な目に遭わされる。
いや、普通科の子でも友人に霊能科の子がいれば、義侠心に駆られたのがあっという間に霊視その他で見つけ出して落とし前をつけさせる。

このおかげで六女は普通科でも通勤電車での痴漢被害や
いやらしいつきまといが皆無という乙女にとっては夢のような学校なのだ。

横島はそんな集団に単身(男は一人という意味)で乗り込んで堂々とセクハラしていった上、
その仕上げともべきGS試験で不届きな言動をしまくった。

それで無事。

六女始まって以来なのだ。
なんとかせねばならない。

GSそのものが「なめられたら終わり」というやくざな商売。
そのGSを養成する六女霊能科がこんな馬鹿むき出しのセクハラ男一匹に手も足も出せない。
こんな屈辱はないであろう。

でも、

相手の「実績と能力」が実感としてわかってしまうつらさ。
知ってしまえばどうしてもびびってしまうのである。

白帯が黒帯はおろか世界無差別級チャンピオンにけんかを売る無謀さである。

あの美神令子にセクハラ、しかも懲りずに繰り返しているいるだけでも驚くべきことである。
しかも,認められ、たたき上げで高校在学中に実力同等の右腕になり、世界を救った。
あの馬鹿は霊能界の立志伝中の人物でもあるのだ。


今の横島相手ではエミでも勝つ自信はない。
「ま、がんばるワケ。若い内は無茶するほうがいいわ」

間違ってもあのよこしまが死ぬわけはない。
横島が女子高生に怪我させるわけもない。
戦術を練るのも含め,いい訓練になるだろう。
本当の意味で命のやりとりするまでに経験はいくら積んでも良い。
自分みたいに命を削りながらやる必要もない。

興味を失って去ろうとしたエミの耳の片隅に企みに戻った二人のつぶやきが入る。
「横島の高校でなくて六女のホームグラウンドでやってくれれば少しマシなんだがな…‥」
「学園祭で不特定多数が出入りするから狙い目なんですのよ」

ニヤリとして相談に乗ることに決めた。



「その意気に免じて,ちょっとだけど助言してあげるわ」





to be continued


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