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復活

空からお月様が落ちてきた(1)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/ 9/15

美神令子除霊事務所。

シロタマが前に狩ってきた猪でのボタン鍋の用意ができた。後は冥子が来るのを待つだけ。
準備後の後かたづけが終わっておキヌがダイニングから応接間に入ってソファに座る。

ダイニングのテーブルでは、シロが取り皿などを並べ、ルシオラが大根を抱きかかえておろしている。
おキヌは昨日のミラーとの高級料亭での会食を思い出して上機嫌。

その料理はさすがに日本最高級店と言うだけあって見た目も味わいも最高。
きっとおキヌの料理もワンランクアップしたに違いない。

上機嫌はそれだけが原因ではない。

なにせ会食中、ミラーが横島や令子だけでなくおキヌが『世界で最年少のネクロマンサーの氷室さん』とか
『アシュタロス戦で最後まで闘って、最後美神さんの体を維持してたんですよね』とか
微に入り細にいって感心してくれた。
普通の普通の人なら知らないところまで調べて誉めあげられればおキヌならずとも機嫌が良くもなろう。

これを全員にやられたもので
単純なシロはおろかタマモまでが「いい人ね」「いい人でござるな」とすっかり気を許してしまった。
滅多に誉められない冥子など感激で暴走しかかったほどだ。


一方、会食費用を全額奢らされ大出費というか、それを名目に小遣いを削られてしまった横島。
こちらは時給換算すると100円ぐらいまで逝ってしまった。自業自得とはいえかなり悲惨。
もちろん、2食掃除に洗濯目覚ましにお散歩付きだから健康被害はない。

しかし、これ以上削られるとつきあい費にも差し支える。

いきおい財布を握るおキヌやルシオラあたりには低姿勢になるわけで。
――――拙SS ルシと忠夫の平凡な日常―事務所編― 参照―――――

ここのところの言動はどちらが式神がマスターか、先輩か後輩かわからぬ有様になっている―――――――



上機嫌、鼻歌交じりでエプロンで手を拭いていたおキヌに、横島、神妙、卑屈な顔でお願いをたてまつる。

このことは横島にとって極めて重要。故におキヌの機嫌を多少損ねてもお願いしなくてはいけない。
おキヌのことゆえ、おそらくは快諾してくれるのではないか……

「お願いがあるのですが」
「何を今更改まってるんですか?」
「六道女学院でうちの学園祭の宣伝をしていただき、できることなら幾人か来ていただければ有り難いのですが」

ハハーッと頭を下げる。


少し前からタイガーと一緒に悩んでいたが、やはりこの手しか残されていなかったらしい。
タイガーも今頃は一文字に土下座しているに違いない。


ここで六女の美人女子高生を大量動員できなければ、クラスの男子に干され代返、ノートの確保に差し支える。
横島のクラスメートは彼女持ちには厳しいのだ。
昔の貧乏時代と違い、有名GSとなった横島に級友達は結構たかる、というかノート代返などは代価を請求してくる。

これ以上削られると進級に関わり、令子だけでなくグレートマザーの折檻が待つことになる。

今現在、18禁本どころか外食にも困る有様である。


しかもだ、何を勘違いされたのか横島は唯の彼女持ちではなくハーレムを形成、
少なくとも複数の彼女持ちと認定されてしまい風当たりが凄まじい。


理不尽なことに
鈍感なヤツでもルシオラ、おキヌは認定。
ちょっと鼻のきくヤツには小鳩、愛子も+され 
ちょっと事情を知ってるヤツには令子、冥子を+されおねえさま殺し、
ちょっと勘ぐるヤツにはシロタマを+されて鬼畜ロリ、
である。


横島が現実をいくら説明して否定してもボコられるだけで皆取り合ってくれない。

『あぁん昨日は誰とヤってん? 言うてみぃ』
(ルシオラが居なくなったとたんに囲むなや!! 俺はまだチェリーじゃっ!)
『完璧に自由になる女と同棲しててよく言うよ』
(いつもボコられてるの見とるだろうが!! それに身長40cmの女とヤれるか!!)
『横島なら無問題。てか魔族って大きさは結構自在って本に載ってたぞ。夜は当然…』
(そう簡単に育ったら苦労せんわ! そのためにどれだけ……)
『それに一昨日も…えと氷室ってったっけ、来てたろ』
(料理もって来て掃除してくれたただけや! 泊まってねぇ! 小遣いをギリギリまで削られとるんや!!)
『ほ〜料理と掃除ねぇ』
(幽霊時代からだろ!!)
『花戸さんが隣で、しょっちゅう行き来してるってのも聞いたぞ?』
(貧乏同士で食料のやりとりしてるだけや!)
『俺も見たぞ.一昨日スポーティな中学生ぐらいの女の子を右腕にしがみつかせて朝帰り』
(シロかっ? ただの散歩や!)
『説得力ねえな。朝の7時からぐったりしててか?』
(そういう散歩じゃい! いっぺんやってみろ)
『夜な夜なナイスバディなお姉様と除霊だろ、その後はもちろん…』
(美神さんはそんな甘ぁない!!)
『高校までコブラでお迎えに来るときがあるのにか』
(問答無用で首根っこ捕まえられてトランクにぶち込まれるのがお迎えか?)
『俺は先週の日曜だったかな。ちょっとルシオラさんに似たフリフリスカートのお嬢様に抱きつかれてるの見た』
(冥子ちゃんは誰にでもすぐ抱きつくんやっ!!)
『‘冥子ちゃん’だとぉ?』
『横島のくせにハーレムかい!』
『年上から幼女まで総なめにしやがって!』

『『『『これだけ状況証拠がそろって、しかも横島。問答無用!!
  多重つきあいもしくは鬼畜ハーレムとみなし、お裁きを申し渡す!!』』』』

(理不尽や〜〜〜! 現実の俺は覗きさえ命がけやのに〜〜〜〜!)

ずらりと並んだクラスメート(♂のみ)が横島の目の前に巻紙を広げて横島の方に向ける。


広げられた巻紙には墨の蹟も黒々と 

―――――――――――――――――――――――――――――――

(一つ、学祭に六道女学院の女の子を20人以上招待すること)

(一つ、上の条件が守られぬ時は代返、ノートは今後一切協力しない)

―――――――――――――――――――――――――――――――


(俺に落第しろと言うの――かっ!!)


『『『『『以上、確かに申し渡した』』』』』


全員でハモって宣言しやがりました。
まー横島も他の人間がやられてたら間違いなくハモってる方だったろう。


たまたまそこに居合わせ、
『横島サンはそこまで恵まれてないんジャー』
ついうっかりつぶやいてしまったタイガー。

とばっちりで
『彼女持ちは同罪!! 貴様の彼女も六女だったな?』
と同じ判決文を下されてしまった。


以上回想シーン終わり。


2週間ほど前の出来事を思い出して背筋が寒くなった横島がおキヌの足下に平伏する。

「是非ともぜひとも皆様お誘い合わせの上来ていただければ…」


上機嫌だったおキヌは、横島の「お願い」を聞くや微妙な表情になる。
普通の公立高校の学祭などお嬢さんエリート学校の六女では興味を持たれないか? とみた横島ががば、と床に伏してさらにはいつくばる。

代返、ノートは一切なしの恐怖に自然土下座にも気合いが入ろうというものだ。

「事情をご存じのルシオラ様からも、哀れなポチのためにお口添えを〜〜〜」
振り向くやルシオラにも土下座。大昔のペット名まで口にしてはいつくばる。


「面白いことはこの横島めが保証いたします」

チンドン屋衣装に早変わりしてラッパに鉦・太鼓。

『日本一』とか『とかくおもろい』『大喜利 ざぶとん10枚』
とかの幟も忘れない。

「もちろん、来ていただけたお嬢様方に金銭的負担などは一切掛けません」

応接室のテーブルの上に手品のようにずらり。
喫茶店からお化け屋敷など模擬店の色とりどりのタダ券の束。


「うーん」

それでもおキヌは即答しない。

「・・・・六女は難しいです」
しばらく経って、申し訳なさそうな目と小声。

「うぅっ!!! 普通科でもダメ?」

ラッパから口を離し縋り付くような目でおキヌを見つめ、さらに頭を下げる。
オノレの悪行が知れ渡たり、しかも誇り高い霊能科ではなく、普通科ではだめかと藁にもすがりつくような思いで尋ねてみると意外なお答え。

「現状知ってる霊能科の方がましですね」
おキヌが続けるが言いにくそう。

「かおりさんによると、普通科では噂に尾ひれがついて、タイガーさんは近づいた女性はすべて幻覚で惑わせ、
 横島さんは文珠でいかなる女性も洗脳する。そして、うちの事務所は横島さんのハーレムなんだそうです」


(別に間違ってないじゃない)
とタマモはソファで寝っ転がったまま思ったがそれを口に出すとどうなるかはよく心得ている。
(全員がそっち方面はお子様なだけで)


「ほほおぉぅ?」

こっちは聞いたとたんに目がギン!! と光らせた令子。
今までは子供の遊びには我関せずとばかりに、洛陽郊外で発見されたばかりの『山海経』竹簡のコピーに目を通していた。

そんな令子の様子におキヌはなんかまずいこと言ったかしら、と思わずさらに小声で続き。
「ですから横島さんとタイガーさんの通う高校だと知った時点でみんな怯えて行かないと思います」

おキヌのお言葉を聞いた横島は気がつかずにチンドン屋衣装のまま床に手をついてえぐえぐと現状を愚痴っている。

「そんなんやったら誰も苦労せいへーん!! 
 朝も早くからたたき起こされ、トライアスロンさせられ、神通棍でしばかれ、
 大荷物を背負わされて、深夜まで命を削って稼いだ小銭は自由に使うこともできへんのに〜〜〜!!」

「ほーお、小銭ねぇ?」

令子のこめかみと両手の尋常でない霊圧がバカ以外の口を封じる。
ザワ、と令子の髪の毛が意志を持つかのように揺れるが、まだ気がつかない。

「そのくせ、誰もなぁーんにもやらせてくれへん!! こんだけの美女と美少女に囲まれてんのに―――――っ!!
 美神さんは隙がないし おキヌちゃんじゃ犯罪やし、シロタマなら人間失格やし」

  (できてもやらないとは武士でござる! でも、タマモはぺどだからダメでござるよっ)
  (横島さんのバカッ!! ちょっとお金渡すと人に言えない物ばっかり買うくせに!!)
  (ハァ、また漏れてるわ…。まぁ、おかげで本当のハーレムにならないからよしかな?)
  (おもしろ。もー九尾以上の珍獣ね。でも、色気のかけらもないバカ犬とまとめるな!)

「理不尽すぎる〜〜〜! 普段は触らせてももらえんのに学校でもハーレム扱いや〜〜!!
 美神さんからタマモまで事務所全員彼女なんてそんな夢のような話どっから湧いてでてくるんや〜〜〜っ」

(私も入ってるの?)

改めて自分の名を聞いてぷつんときたタマモがキツネ火をともしかける。
さっきは‘事務所全員’に自分は除外していたらしい。

「こーなったら、文珠でほんとーに美神さんだけでも―――――――

横島が叫び文珠を出しかけるや一瞬早く光り輝く神通棍が横島の歯を飛び散らせ、壁にたたきつける。


「私‘でも’かっ!! 文珠で何をするつもりか――――っ!!」


誰も助けようとしない。壁際に落ちてさらにキツネ火
――火炎放射と言った方が正確なものだが――
で焼かれ焦げた肉塊を片手で締め上げ、往復ビンタをかます。

「なんで美神令子除霊事務所がアンタのハーレムになってんのよっ!!」

「いえ、あくまで六道女学院の普通科の話で一般論では・・・・」
おキヌのフォローに手を離すと横島が床に崩れ落ちる。

「横島クンの高校でもってことは一般論になりかかかってるじゃない!」

(間違ってないから、当然そうなると思うけど。巻き込まれる私の方が迷惑なんだけど)
などということはオクビにも出さずタマモが令子の方を見る。催促だ。


令子は攻撃で失った霊力を幽体離脱して屋内に設置した高電圧線アダプタから補充し、タマモにも分ける。

今の横島は相当の霊力を込めないと堪えない。
実はタマモも令子も、この一撃だけでスッカラカンである。
ここで半端な攻撃などすれば横島になめられてしまう。


「文珠なんか使ったら即刻 「ぷるるるる―――

令子が再び霊力を込めた右足ピンヒールの踵で横島のドタマをぐーりぐりと踏み据えていたところに電話が鳴る。

横島の頭を足蹴にしたまま受話器を取る。
「もしもし、あ、ママ?」

「オカルトGメンからの正式依頼があります。そちらへお伺いしてよろしいでしょうか? 美神所長」
公人としての声に令子の背筋がおもわず伸び、その後、除霊事務所の長の顔になる。

「よろしければ今どうぞ。お受けするかは、報酬と内容次第ですが」
この辺は母だろうが西条だろうが容赦はない。

電話を横で聞いていたおキヌがシロタマにも指示して
応接室に散らかっていたまんがや女性誌、それに今横島が広げた学園祭のタダ巻を鍋の用意のできたダイニングキッチンに特急で放り込んでゆく。
なんせ隣のビルからだ。

ダイニングのドアを閉めると同時ぐらいに、制服を着た美智恵がアタッシュケースを持った西条と現れる。

おキヌの行動をそんなことしなくてもいいわよ、と言いたげな目で見ていた令子。
しかし、開けた扉をくぐってぞーろぞろと入ってきた大名行列な美智恵御一行に軽く驚く.

美智恵の趣味とはほど遠い黒服・背広の群れ。かなり偉そうなのが混ざっている。

「これはまた大層な顔ぶれね。日本支部長がお付き伴って現れるの?」
西条さんがくるてことは横島クンの件じゃないか。

どうぞ、と母親を密談用の電磁波・霊波・音波共に完璧に遮断する個室に通す。

おキヌがこういうこともあるからちゃんと片付けとかなきゃだめなんですよ?
と目で主張しながらコーヒーを出すと扉が閉められる。

「えらく物々しいな」←もう復活した。
「西条さんも隊長さんもにこりともしませんでしたね」

西条も美智恵も公用で来ても当然ながら自分の家代わりにくつろいでゆく。
職場の隣にある休憩所とというところだ。
だいたい西条が横島を見てイヤミの一つも言わぬと言うのがあり得ない。

用件は終わったらしい。

「価格と内容で折り合えて感謝しますわ」
「ではお願いします。朧女官長との打ち合わせの方はそちらでよろしく」

とかの声が開かけられた扉から聞こえてきた。

しばらくして眉間に縦皺を作った美智恵と西条を中に挟んだ大名行列が帰ってゆく。


「何があったんですか?」
「んー、私たちにとっちゃ大したことじゃないわ。ママと西条さんは大変ね」

これコピーして、詳しい説明は冥子が来たら食べながらするわ、と依頼書をルシオラに渡す。

「迦具夜が来んのよ。で、日本滞在中のエスコートをうちがご指名にあずかったそうよ」

首相官邸や某超大国はおろか妙神山あたりと連絡を密にして神族魔族への会談の日程調整までしなくてはならないようだ。
オカルトと政治双方を俯瞰できる人物は稀少なのだ。
しかし美智恵といえども政治は素人。
プロの政治家と腹のさぐり合いよりは魔族と殴り合いの方が遙かに精神衛生に良い。

大名行列なお付きも監視や余所への報告用人員をたっぷり含んでいたのだ.


迦具夜? てな顔をしたシロタマに横島が説明をはじめる。

「せんせー、月まで行ってたでござるか!?」
「おうっ! 月ではこうカッコよくバッタ、バッタとクソ蝿や性悪ヘビ女を「ほんとの映像を流そか?」

横島がファイティングポーズをとり,有ること無いこと垂れ流し始めた。
ジト目で見た令子が迦具夜に貰った3D映写機を机上に投げる。

かすかな作動音と共に月面での横島の戦闘立体動画が机の上に大写し。

まずは令子に腹を殴られてビッグイーターを吐く。次にメドーサ股間直撃。

かっこが良いとはお世辞にも言いかねる。

「あーっ!! 思い出は清いままにおいといてっ!!」

涙を流して隠そうとする横島の鼻先から映写機をタマモがかっさらって適当に早送り。

次に出てきたのはコギャルメドの足にしがみつくもパンチラに気をとられた隙に顎を蹴上げられてすっ飛ぶ横島。

「横島らしくていーじゃない.かっこいい横島なんて想像できないわ」
3D映写機を取り上げ逃げ回りながらからかうタマモ。

返すでござる、とかいいつつも止めはせず、目は映像を追うシロ。


「確かに魔族二人やったのはアンタだし、私よりは格好良かったけどさ」

はしゃぐ二匹と一人を横目で見ながら令子がふっと普段見せない表情で横島を見る。
今思えばあの時からカナ・・・・


「えーっ!! あの時メドーサとベルゼブルを倒してヒドラを壊してくれたのは美神さん達だったの?」

コピーをもってダイニングに入ってきたルシオラが声を上げる。
自分の生まれて初の仕事を、令子がぶっ壊したと知ってちょっと興奮気味。

「あのヒドラは私と土偶羅様が設計した傑作だったのに!! あれなら通信妨害下でもアシュ様に魔力を送れて・・・・」

そこまでわめいてふと気がつく。
「月神族が地球でどうやって動くの? 魔力の濃度が1/100位しかないのに?」
「迦具夜姫が前に来たときに使った魔力受信装置てのがあるみたいですよ。それを各人に携帯させるって」

ルシオラが放り出した依頼書を読んでいたおキヌが答える。

「そんな物があったの!! それがあればぜーったいアシュ様は成功していたのに!!」
「アンタが言っても説得力がないわよ」
令子がさすがにあきれ顔。

「っ!! 月の魔力があれば冥界チャンネル閉ざした後もアシュ様は眠らなくても済んだし、
 魔界の部下達や賛同者がこっちに来ても動けたのよ!!」

テーブルの上でルシオラがぶんぶん手を振り回して力説。
月の魔力を受け取ると同時に魔界から人界に援軍が来る予定だったのだ。
もちろんその後に冥界チャンネルの遮断である。

「美神さんなんか一瞬で見つかって、抵抗もできなかったわよ!!」

「なーる。それであん時、力‘だけ’の3人小娘相手で済んだわけだ。助かったわー。
 あんたら3姉妹じゃなくて、メドーサぐらいのが出張ってきてたら幽体離脱なんかじゃ誤魔化せなかったわねー」
「ぐぎっ!!」

思い当たる節のありまくるルシオラが奥歯をかむ。
令子はその顔を眺めながら、ほほほほっ、楽しい思い出よねー、などとのたまっている。

「確か妙神山の時ぃ、小竜姫達に知らせたのも、横島クン達を檻から出したのも私なのよねー」
「ななっ!! 砲撃のはずみで開いたかケルベロスが壊したんじゃなかったの!!」
「アンタら、はずみで開くような安っぽい牢屋を使ってたんだ?」

メドーサやデミアン、もしかしたらベルゼブルでも見逃さないわよねー、とか、
見かけ変わりやすい霊的特徴だけで探せると思う辺りがマヌケよねー、とか。

「2度目に会ったときも余力あんのに目標しか探査しないから目の前で獲物逃がすし――――」
「ぐぎぎぎっ!!!!! そ、それはパピリオがっ・・・・」

ほーほっほっ!! と片手を口に当て高笑いしながら続ける性悪クソ女。

「ちょと煙幕張られたら、自分とこの武器もわからなくなって罠に向かって突っ込んでくるしね」
「―――っ!! それはベスパよっ!! 止めようとしたらもう突っ込んでたのよ!!」

「ほんっと、経験不足って怖いわねっ!! あげくに力1/50以下の敵方のスパイに助けられるなんて。
 パワーや知識の持・ち・腐・れ・よね!! そう思わない? ね、ルシオラ?」

白くなったり赤くなったりしているルシオラのほっぺたを令子が箸でうりうりと突っつく。

その経験をさせたげてんだから感謝しなさいよーとかのたまわっている。

「おまけにメフィストの転生先を探す機械は横島クンの文珠で狂わされてたんだしー」
令子がたたみかける。

「なんですってぇ? 私の‘見つけた君’を〜〜〜〜!! ヨ・コ・シ・マぁ〜〜〜!! ホント?」
ギロッとまだタマモとおっかけっこをしていた横島の方を振り向く。

「み、美神さ〜ん!! そんな旧悪を今になってばらさんといて〜〜〜っ!!」

別に悪いことでもないのに、いきなり振られあたあたとふためく。

「コイツのことだからそういうことやりながらアンタに色目使ってたんだと思うけど」
トドメ。

「私に黙って裏切り行為はしてないわよね?」

横島の襟首を グィッ と 引き寄せながらルシオラがすてきな笑顔で問いつめる。

「べ、別に一緒に夕焼け見た直後に、隊長に連絡したりはしてないぞ!!
 間違えてケルベロスの檻を破ったりもしてないし、
 いつかは必ず滅ぼしてやるとか、化け物のクソ女とか、コスプレ女とか思ったりもしてないぞ〜〜〜〜!!」

墓穴を掘るという横島の超得意技、再び炸裂。

「ふうーん、そんなこと思いながら、口説いてたんだ・・・・」
ルシオラの手に巨大な霊圧が発生する。

「ああっ!! また、いつものミスを〜〜〜っ!!」
経験の持ち腐れ(特に女性関係)な男が思わず逃げだそうとするが。

「だから美神さんと私の思い出がいれかわったりするのよっ!!」

ちゅっどーん!!

  (へたなSS並のおもしろさよねー。飽きないわ――)(ルシオラどのにもあれをやるところが先生でござるな)
  (ルシオラさんて私よりひどい目に遭ってるんですね)(まだしばらくこんな関係でも・・・・大丈夫、よね?)

「どうせ今はコスプレの上に人形よ!!」 

自分のマスターをボコボコのぐちゃぐちゃ、こげこげにしたルシオラが、
テーブルの上のルシオラ専用モガちゃん人形机に肘をついて、ため息。
ちっちゃいながらも一応取り皿なんかも並んでいる。

「アシュ様もヨコシマには苦労したらしいもんねー」

横島の処刑で減った霊力を令子に補充して貰いながら、
ルシオラが自分のことは棚にほうり上げてしみじみと述懐する。
ちなみにこの補充、もはや令子の条件反射的習慣になっていたりする。

「はーぁ、やっぱり宇宙意志なんだろうなぁ。
 魂加工して魔力源作ろうとしたら‘下っ端’女を裏切らせて盗んじゃうし、
 地獄炉で人間界に魔力源を作ろうとしたら、かんけーないのにふらふらやってきた女と壊しちゃうし、
 原始風水盤で疑似魔界を作ろうとしたら、欲に目のくらんだ女に針とられちゃうし」

ほうっとため息をついたルシオラに令子が抜けてる事項を追加する。
「冥界チャンネル閉ざしても全力で動ける人界に最適化された部下を造ったら、色香で惑わせて裏切らせるしねー」

それを聞いたとたんにルシオラが令子の鼻先に飛んできて中指を突き立てる。

「はじめに裏切った美神さんに言われたくは無いわ!!」
「何時、私が!! メフィスト――――前世なら別人よ!!」

‘裏切った’などという人聞きの悪いことを2度も言われてこっちも神通棍に手をかける。

「アシュ様にクソ親父っ、てヘッドバッドかましてたじゃない!!」
「それに処分されそうになったのよ! メフィストから裏切ったわけじゃないわ!!!!!」

霊力満タンな二人が、鍋を挟んで膨大な霊圧を込めて対峙する。
鍋の上で、ごりごりごりっとかいう擬音が響いている。

人工幽霊一号がこっそりガスの元栓を止め、部屋の結界の強度を最大限までアップした。

しかし、他のメンツはルシオラ復活以来常に起こるいがみ合いを止めようともせず
平然とテーブルを囲んでこそこそと何かを言っている。

「今のって、全部、美神さんの仕業?」
「そうですね。しかも美神さんはいつも大金を手に入れてるような気がしますね」

「ルシオラどのの話だと、美神どのの方がよっぽど悪者のような感じでござるな」
「わ、悪いことはして…ないのか…‥なぁ?」

「美神さんって魔神にヘッドバットかましたの?」
「横島さんに聞いたところでは・・・・」

二人の掛け合いを聞きながらシロタマにおキヌがいちいち背景を解説している。

「へー美神さんって、神も悪魔も金儲けのタネでしかないのね」
タマモが わかっちゃいたけどさ、と改めて感心している.

「そりゃ、魔族の折り紙付きの悪党だからな」

ひょいと復活して、またもや余計な一言を言った横島が対ルシオラ用に膨大な霊力を込めた左で吹っ飛ばされる。

令子にすれば‘おまえが言うな!’ってところであろう。
コイツは対人外用にチューンナップされたジゴロのようなものだ。

「なんで俺だけが・・・・」

ギロ!  「なにか言いたいことでも?」

「イイエ、マッタク」



夜叉に睨まれた亡者のごとく横島が口を閉ざす。
ほぼ同時に心清らかな救世?厄災?の女神の来訪を告げる人口幽霊一号の無機的な声。


「六道冥子様がご出勤です」


その声と共に令子が強引に話の腰をぶちおる。
「冥子もきたし、話をもどすわよ!!」

横島がこれ幸いとばかりに、令子の前から逃げ出し、いそいそと鍋の火をつける。
令子はそれにかまわず続ける。

「これは朧に、月夜に打診しないといけないけど横島クンの高校の学園祭で―――――」
「え〜〜、朧月夜ぁ〜〜〜? 源氏物語やるの〜〜〜〜? 冥子、葵がいい〜〜〜〜」

入ってきた冥子が、あせって会話に入ろうとして大ボケをかます。
それに、ルシオラvs令子の漫才に飽きてきていた他のメンツがこれまた自分の願望を込めてのる。

「じゃ、拙者が女三宮やるでござる!! ルシオラどのは薫で。柏木はタマモに化けさせて即刻退場・・・・」
「美神さんならともかくバカ犬が親なんてとんでもないわ。バカ犬は明石で充分」
「冥子の葵は〜〜〜?」
「え、ええいいと思いますよ」

(((正妻だけど愛されずに物の怪に取り殺される葵の上なんてだれもやりたがらないと思うけど…)))
等とはみな言わず華麗にスルーしている。

「なぜ拙者は妻にはなれないのでござる?」
「なら美神さんが紫ですか?」
「美神さんはむしろは藤壺よ。で、隊長さんが桐壺更衣で西条さんを桐壺」

もぎゅもぎゅ。(今日の厚揚げはおいしいわね)

「美神さんかー。桐壺更衣と藤壺は生き写しだしそうなっちゃうかなぁ」
「西条どのを桐壺にすると息子を撃ち殺すんではござらんか? 頭中将の方がよくござらんか」

そこまで言って別のことが気になったらしい。

「まさか女狐が紫をやるのではござらんな? 紫穂ならともかく」
「ルシオラの二役でいいじゃない」
「むうルシオラどのが薫と紫ならはまりすぎ……もとい、仕方がないでござるな」
「おキヌちゃんが女三宮でどう?」
「わたしが女三宮ですか?! そうすると……」

おキヌが皇女で正妻と言われてきゃーきゃートリップしてはね回っている。
どうやら不義の子を産んで出家するという後半は知らないらしい。


誰が光源氏かは言うまい.絶世の美男子である源氏にその配役は根本的に間違っているようにも思えるが。
浮気を繰り返すくせになぜか慕われ力もあるから間違ってないのかもしれない。
わいわい言い出した中で1人だけ昔取った杵柄で皆(1人以外)の機嫌をとるような配役を出しながらこっそり
次はがんもね と、そ〜と箸を延ばしている。

「あれって、みなもととかいうのが3人のマセガキにキリキリ舞させられる話じゃなかったっスか?」
「確かに霊能を使えば超度7のエスパーの役もできそうね」
「紫や女三宮なんてキャラいたっけか? それに柏木に朧って同じキャラじゃ」

横島とルシオラ、話についてけない。
「朧」「明石」「薫」「葵」「柏木」「桐壺」とかの人物名では造物主が同じまんがしか思いつけないようだ。


「なんで横島クンと不義密通を・・・って、ちがうでしょーっ!!朧に、今度の月夜に連絡するのよっ!!」
こっちは理解できておもわず乗りかけた令子が、ばんばん机をたたいて再び話を元に戻す。

((((だれも源氏が誰とは言ってないけど……))))




翌日の横島のかよう高校、生徒会室。

「・・・・と、言うわけで、月の神様達がうちの学園祭を視察とかすることになった」
横島が、小鳩生徒会長その他の生徒会の面々+特例参加の除霊委員に令子から貰った資料を配って説明している。

ちなみにちょっと前の選挙で小鳩は生徒会長になった。
地味ーに福の神効果が出てきているようだ。

「公式なイベントとしては校長先生からも聞いている。予算も例年より貰える。
 生徒会としてはそれでどのくらい他校生が増えるのか、例年とどう違うのかが関心のあるところだが」

副会長(♂)がしかつめらしく聞いてくるが、意味するところは‘女子高生が勧誘できんだろうなゴルァ’だ。
それにおとなしく椅子に座って座談会拝聴にでもなったら目も当てられない。

「そのへんは問題ない。美神令子、小笠原エミの名は六道女学院で神に等しい。この二名がイベントにでるからには貰ったも同然だ」
横島が重々しく頷く。

「六女は女学校よ? 男女比が偏っちゃわない?」
書記(♀)が男はどうなるのよ! とばかり。

うむ、と頷いて、
「これを他校への宣伝ポスターに使うのだ」
取りい出したは、令子、エミ、迦具夜のバストアップ生写真。

「この横島忠夫が認める美人達だ。ひとめみんと男子学生が釣れること間違いない!」

次に西条、ピート、朧、神無、月警官ズの写真を取り出し、共に回す。
「そして彼らが私服で警備で紛れ込むこと、六女が大勢くるであろうことをこっそり流すのだ!!」

「おおっ!! すげえ美人!!」
「タ、タイガーでいいなら俺だって・・・・」
「西条さんってステキ!!」
「さすが、横島サンじゃノー!!」
「なよ竹のかぐや姫!! 青春よねー!!」
「ピートクンて改めて見ると!!(ポッ)」
「どうして僕の写真が混ざってるんですかー!!」

一文字からだめ出しを食らったタイガーが安堵して小躍りし、男女に関わらず写真にキャイキャイワイワイと騒いでいる。
そんな一同を尻目にピートがひとり大声で横島にくってかかる。

「あ、除霊委員は警備でバイト料もでる。愛子は妖怪でその他はGSだから法律上も問題ないそうだ」
「それとこれは別でしょー!! 横島さんの写真は無いじゃないですかーっ!」

人身御供にされると見て珍しく騒ぎ出したピートに、これも珍しく落ち着いた横島が説明する。
「警備上のおとりも兼ねてるんだ。たぶん何も起こらんが。
 写真が出回ると危険手当でバイト料が結構増えるぞ。今、神父やばいんだろ?」

「よ、よこしまさん、そこまで先生や僕のことを?」

ピートが横島の口からの信じられないものにまじまじと目を見張った後、すっと横を向いて俯く。
「横島さん、僕はあなたのことを誤解していたようです。はずかしい・・・・」

俯いて頬を染めるハーフの超美形に、居合わせた女生徒一同がシンクロして頬を染める。

「美形ぶってるヤローの顔なぞ、俺も混ぜたくないわーっ」
女生徒達の反応に、今までの自信たっぷりの言動はどこへやら。

「客寄せならピートや西条も入れた方がいいって」
血の涙を流しながら、
「おキヌちゃんやルシオラ、シロやタマモまで全員一致で強調するんやーっ!!」

「何も泣かなくてもいいじゃない?」
愛子があきれる。
「しかも、俺とタイガーはできるだけ目立たないようにしろって・・・・美神さんが」
その情景を思い出したのかえぐえぐと膝を抱えている。

「ワ、ワッシも一緒の扱い?」
「俺とタイガーがこの高校にいるということ知る3人(弓、一文字、氷室)には箝口令を引くらしい」
「そこまで?」
「それも全員一致だぞ・・・・・」

どこまで世間で毛虫嫌いされているかが身にしみて突きつけられ沈んだ2人を見て愛子が話題を変えようとする。
「美神さんもよくわざわざこんな高校でなんかする気になったわね? お金にはなんないでしょ?」

「わけありでな」
まさか令子がこのイベントを利用して一気に美神事務所=横島ハーレム疑惑を払拭してしまおうとしているとは言えない。

「エミさんまで呼んだんだ。六女を普通科込みで動員できんとどんな目に遭うか・・・・」
膝小僧を抱えたままどんよりつぶやく。

何となく背景を察したタイガーとピートが
「ワッシは当日休むケン!」「ぼ、僕もですっ! 別のバイトを探します!」

俯いて抱えた膝小僧の下から、湧き上がるような陰気な声が二人を包み込む。

「・・・・・それは無理だと思うぞ。除霊委員を警備に組み込むのはエミさんの発案だからな。
 昨晩、隊長からこの依頼が行ったとき、なんでかしらんけど大乗り気だったそうだ」

ニタぁーリと顔を上げ、
「お前ら、美神さんとエミさんに楯突けるのか?」
「「☆!!々∂∀A!θ▲!!」」

滝汗を流して凍り付いた二人を尻目に小鳩生徒会長に泣きつく。
「小鳩ちゃんっ!! 命掛かってるんや!! 宣伝も込みで盛大にお願いします〜〜〜〜!! 福の神様にもよろしく〜〜〜!!」

「「「こんな時までセクハラすんじゃねー!!!」」」
小鳩の豊かな胸に抱きつこうとした横島を全員ではたき落とす。


「高校始まって以来の盛大な学祭になりそうですね。みなさんがんばりましょうね!」
潰された横島に動じぬ小鳩がにっこりと笑いかけて会議をしめる。

今はこのくらいしか役に立てないけど、やっと少しは役に立てるかしら。
横島さん、すごい勢いで遠くへ行っちゃったけど、小鳩もいつかきっと・・・・・・ 




一方、六道女学院では。

おキヌは、弓と一文字に令子の伝言を伝えて宣伝を頼んだ後、
ポスターを抱えて、貼って良いか許可を取りに行った。
たぶん理事長経由でもはや連絡されているだろうが、スジというものだ。

「ようするに多勢に、特に普通科にばれなければよろしいんですよね?」
おキヌが消えるやいなや弓がつぶやく。

「? どういう意味だよ。‘おねえさま’のいいつけを聞かないのか?」
「この前のGS試験の時の屈辱、もうお忘れになられたの? さすがですわね」
聞きとがめた一文字の言葉に、今度は皮肉まで込めて聞き返す。

一瞬反射的に怒鳴ろうとするが、「横島か!!」
思い当たった一文字の整った鼻の辺りにも皺が寄る。

「そう、六女の名誉にかけてもリベンジですわ!!
 いくら超一流相手でも、あんな間抜けな負け方をしては引き下がれませんわ」

――――――――拙SS 誰が為に金はある?(3)参照――――――――

一文字の口元がギリとゆがむ。
あの屈辱映像が霊能関係者に出回ってるのを思い出したのだろう。
負けるにしてもあの負け方は無い。


「のった!! おキヌにゃ悪いが、3、4人でチームを組めば勝てるかもな?」
「魔族を何人も倒してる方に勝てはしないでしょうけど、せめて文珠でも出させることができれば納得しますわ」

弓と一文字の目がきら、と光る。

「うっかり、タイガーさんに喋らないようにして下さいね?」
「おめーこそ伊達のヤツに喋るなよ?」

しばらくふたりでうなずき合った後、具体的な行動をどうするかが気になってくる。

「念入りに普通科に宣伝しなくてはいけませんね。私もおねえさまのところがあの男のハーレムだなんて納得できませんわ」
「それよか、どうやって戦いの癖をおキヌから聞き出すか、だな」
「あら、あなたにしては? 前回戦の方と全く同じ負け方をした方とは思えないですわ」

少し考え込む一文字を鼻で嗤う。

「あんだと!」
いつものごとく睨み合う二人。

おキヌが帰ってきたのですぐ収まるだろう。





to be continued


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