当作品の主な登場人物(2)
呉公
元始風水盤の資料を提供し建造に協力する老道士。同時に”蝕”の首領であり”企て”を進めている。
青令 呉公の片腕的人物。フィフスに強い反感を抱いている。
茂流田
元始風水盤建造の現場における責任者。呉公の示した”企て”に加わっている。
義姫
巫女姿の少女で元始風水盤建造の協力者。芦に対して強い好意を示す。
時は流れ、世は事もなし 共闘 2
「君が置かれた状況についてのおおよそは判りました」
ここまで話の成り行きに任せていたホームズが口を開いた。
「それで、我々に何を提案しようというのですか? 体がある方が都合が良いとはいえ、ここに留まり事の次第を話すのは、我々に提案したいことがあるからでしょう。君が魔族であることやフォンの記憶を浚ったという点から推測するに、それは”蝕”に手を貸す魔族−フィフスに関わることと思われますが」
「さすが名探偵、それだけ察してもらえると話が早い!」
皮肉っぽく褒めるベスパは表情を引き締めると、
「どうだ、あたしと手を組まないか? フィフスはあたしの敵でね。で、”蝕”はあんたらの敵。敵が手を組んでいるのなら、こっちだって手を組んだ方が良いと思うんだが」
「これは、これは! 実に驚くべき提案ですな」とホームズ。
「って言っている割には驚いちゃいないようだね」面白くなさそうにベスパは指摘する。
「まあ、『敵の敵は味方』という原則に照らせば順当な提案ですからね」
ホームズは『単純なことだよ』と目で語る。
「ただ、すぐに返事はできませんよ。色々と考えねばなりませんからね。何と言っても、手を組む相手が魔族ということですから」
「『魔族』だからと言われてしまえば反論の余地はないが、フィフスの目的が芦優太郎の拉致だって聞いても、手を組むのは無理かい?」
思わぬ名前に四人に驚きが走る。
もっとも年長二人はいち早く回復すると微妙なニュアンスを込めた視線でのやり取りを交わす。
それを終えたホームズは蛍と蝶々に任せるよう微笑む。
「今の話が事実として‥‥ もちろん事実なんでしょうが、なぜフィフスなる魔族がという人物の拉致を?」
「正確に言えば、フィフスがじゃなくてフィフスを造った連中が望んでいることなんだが。数年前、魔族でも有数の実力者が滅んじまってね。そいつらはその実力者を復活させようって企んでいるんだが、それには芦って人が必要なんだよ」
当然、プローブ云々を喋るわけにもいかずベスパは幾つかの嘘を交え説明する。
さりげなく蝶々を盗み見ると、わずかに小首を傾けている。不審は感じているようだが、もうしばらくは話を聞こうという感じだ。
「要は生け贄ということですか?」
「‥‥ そんなところだ」ホームズの確認に意識を戻す。
「で、あたしはそれを望まない側からそれを阻止するよう派遣されたってわけさ」
「魔族にも足の引っ張り合いはあるというわけですな」ホームズはそう感想を述べ、
「ところで、今、フィフスは”造られた”者‥‥ そんな風に聞こえましたが、それはどういうことですか?」
「ああ、フィフスっていうのは使い魔と呼ばれるタイプの魔族でね。特定の目的を果たすために造り出された”命”さ。造る際に目的への動機付けや必要な特殊能力を与えられるから既存の魔族を使うよりかえって効率的な場合が多いんだ。高位の魔族ならよく使う手だよ」
「ということは、フィフスなる魔族は芦という人物を拉致する、それだけのために生み出された存在になるわけですか?」
「そういうことな。だから任務こそ使い魔の全て。よほどじゃない限りそれをあきらめることはないよ」
『よほどじゃない』ことが生じたのを目の当たりにしたことはあるが、今は関係ない。
「つまり、話し合いとか妥協の余地はない−あなたと手を組むしかない、そう言いたいわけですな、心得ておきましょう。それで元の線に話しを戻しますが、そのフィフスが”蝕”と手を組んだのは? 話の通りだとすれば、フィフスは拉致に必要な”力”は持っているわけで”蝕”に手を貸すメリットはなさそうですが」
「そうでもないよ。特殊能力を別にするとフィフスの”力”はだいたい中級魔族級、対して芦って人の”力”は推定で上級魔族級。実力勝負だと勝ち目は薄い。”蝕”の戦力を使えれば、差を埋めることができるって寸法さ。フィフスからすれば”カード”は一枚でも多い方が良いってことだ」
「そこはお互い様だろうな。”蝕”もそれを”読んだ”上で己の目的にフィフスの”力”が有益と考え手を組むことにしたはずよ。あとはどちらが最後に笑うか、どちらも自分が最後に笑うと思っておろう」
モリアーティーはこの場にいない双方に冷笑を向ける。
「まあ、我々が手を組むとしても発想は似たようなものだが」
「否定はしない。目的のためにパートナーを利用するっていうのは同盟の本質だからね。ただ、そうだとしても足りない部分を補い合うのは損だとは思わないが、特に私たちのように弱者連合の立場の方は」
「ふん! 魔族風情が聞いた風なことは言わないで」
蛍の嘲笑をさらりと無視するベスパ。
「で、その弱者連合成立に向けてのこちらの誠意の証として、フィフスについて判っている限りのことを、特に奴の特殊能力であるマインドコントロールについての情報を提供させてもらおう」
「ほう?! そんな重要な情報をいきなり、それも無償で明かしてくれるとは‥‥」
初めて予想外という感じのホームズ。
「こちらが言うのも変だが、そういう情報は、こちらの譲歩を引き出すために取っておくべきものと思いますが。気易く提供してあとあと困りませんか?」
「腹芸って奴は苦手でね。それに出し惜しんで、あんた達の誰かが犠牲になったら寝覚めが悪いじゃない。何たってここまで世話になった恩はあるわけだし」
たぶんにブラフだが、ベスパは余裕を見せつけるように笑みを浮かべた。その上で知る限りの情報(過去世界ということを踏まえ手直ししたものだが)を語り始める。
「つまり、フィフスのMCは彼女を媒介とする病気。その極微使い魔はそれを発症させる細菌の一種とイメージすれば良いのだな」
ベスパの話(とそれに対する質疑)が一段落したところでモリアーティーはそう纏める。
「そんなところで良いと思う」とベスパ。
自分の立場や過去世界であるための語彙の制約など、十分とは言い難い説明であったにもかかわらず的確な理解を示す”教授”(そして同様に理解している感じのホームズ)の知性はさすがだと感心する。
「これで防ぐ方法を示せればもっと良いんだろうが、”こっち”に来る前に判ったのはそこまでなんでね。でも、参考にはなっただろう」
「ああ、助かる。とりあえず正体や限界が判っただけでも大きな収穫だ」
モリアーティーは率直に感謝を示す。あれこれ考え込むホームズに代わり、
「ところでベスパ、元始風水盤という言葉に心当たりはないかね?」
「元始風水盤? ‥‥ 地脈のエネルギーを操作するあれか、名前は聞いたことがある」
持ちだされた代物が代物だけに慎重になるベスパ。
「現在、この国はそれを建造しているのだが‥‥」
モリアーティーは幾つかの点−神か魔の高位存在が関わっている可能性など−を避けつつ”蝕”がそれに関わっていることを簡潔に説明する。
「‥‥ そこで、この件にフィフスが関与している可能性は? もちろん”蝕”に手を貸す以上にという意味だが」
「さぁ 判らないとしか言いようがないな。あたしがこの任務に当たって聞かされた情報には元始風水盤の話は入っていないし」
ベスパは内心の動揺を押し殺し答える。
動揺は過去の一端が明らかになったからだ。
過去に来る直前、主がこの時代で何かを進めていたと聞いたが、どうやらそれは元始風水盤の建設のようだ。
むろん、その結論を正しいとする根拠はどこにもない。
実際、これほど強大なマジックアイテムの建造を神・魔両勢力が許容しているということは、建設自体は、”蝕”の工作も含めて、人が独自に判断し行っていると見なされているからだろう。
だが、その現場に(建設に関与する立場ではないとはいえ)主のプローブと思われる芦がしばし赴くという。
直感といえば直感だが、それこそが主が建造に関わっている動かぬ証拠。
主の霊基構造体を使った超高性能の使い魔であれば、神魔族の目を盗み干渉や工作などをこなせるに違いない。
さらに言えば、それに必要な能力から逆算した結果が、己の霊基構造体を使った使い魔の創造ということになったのだろう。
ただ、そうとして気に掛かるのは、”現在”にそれに関しての情報がないという点。
仮に百年前に主が元始風水盤を入手していたとすれば、そのことが記録に残らないはずはない。つまり、歴史的には主の計画は失敗に終わったことになる。
そして、その理由として考えられるのはプローブの失踪。果たしてそれはフィフスによる拉致か、自分による破壊か‥‥
どちらにせよ、元始風水盤の完成は近いとのこと。
その時こそこの件のクライマックスが訪れるという予感、いや確信が心を捉える。
興味のなさそうなベスパの反応で元始風水盤の話は深まらず、話はフィフスのことに戻る。さらに幾つかの情報が話し合われた後、
「この辺りでいったん休息としませんか? 得られた情報を検討する時間も欲しいところですし」
途中から対応をモリアーティーに任せっきりにしていたホームズが提案する。
「そうするか。昨夜からの警備で疲れた蛍や蝶々にも休息は必要だろうしな」
それをそのまま決定とするモリアーティー。『まだ、大丈夫と』という蛍と蝶々の抗議を退け、
「話は午後に再開、手を組むかどうかもそこで返事をする。ベスパ、それでいいな?」
「了解だ。返事は一つしかないと思うが、じっくりと考えてくれ」
ベスパは余裕たっぷりに同意する。
「そうだ! あたしは夜は休んだわけだしメシとねぐらの分だけ仕事をさせてもらってもいいんだがな。昼間の警備なら一人で十分だろうし、それを務められるだけの”力”があることは判っているだろう」
「まさか本気で任されるとは思っておらんだろう」
上出来のジョークを聞いたように笑うモリアーティー。
「そうそう、正体は判ったわけだが、引き続き部屋の監視させてもらう。文句はないな?」
「別に。魔族ということで警戒するのは判る。気にしなくていい」
と言いつつ小首をひねるベスパ。
「『続ける』ということはこれまでも警戒していたってワケか! 端から怪しまれていたようだが、何時から監視していたんだ?」
「『何時?』という質問に意味はないな。監視は最初から。君を怪しんで仕様を変えたいうことではない」
「?? ってことはフォンはずっと監視されていたんだ! 元”蝕”の暗殺者だから信用できないということかい?」
「元暗殺者ということは関係ない。監視は全ての部屋で行っておるからな、そこに例外は作っておらん」
当然の事と認めるモリアーティーに半ば絶句の蛍と蝶々。顔を見合わせ、目の前の老人がただ者ではないことを改めて確認する。
ベスパ、蛍、蝶々はそれぞれ私室に引き揚げ広間はモリアーティーとホームズだけとなる。
一服を済ませたモリアーティーは、パイプに紫煙をくゆらすままのホームズに、
「彼女がもたらした様々な情報、全体として君はどう見るかね?」
「大筋では本当のことでしょう。もちろん、蝶々の監視をくぐって嘘は紛れ込ませているだろうし、あえて話さなかったコトも色々あると思いますがね」
応えるホームズはパイプを口にすると香りを楽しむようにゆっくりとふかせる。
「もっとも、それは致し方ないことでしょう。『とりあえず』という部分はともかく、最後までこちらと利害が一致ことはないでしょうから。それが明らかとなった時に備えて”カード”を隠しておくのは当然のことですよ」
「たしかに、こちらとて色々な”カード”は伏せておるからな」
モリアーティーは自然な凄みを込めてうなずく。
「ところで、ベスパと手を組む組まぬは別に、”蝕”と戦う以上、フィフスとコトを構えざるをえんわけだが、こちらに勝算は? 単純に戦闘力が高いということについては策を巡らせることで対処できるとしてもMCを直接防ぐ手だてがないというのはやはり辛いぞ」
「その件で思いついたことがあります。ひょっとすると、私個人レベルだがMCを無効にできるかもしれません。ついては手を貸してもらいたいのですが、かまいませんか?」
「言ったように協力は惜しまん。しかし、すでに対策を思いつくとは、さすがだな」
「たまたま使えそうな”カード”が手元にあったというだけですよ。それに、その方法が実際に有効かどうかも保証はありませんしね」
「で、その対策は? もちろん秘密ということならかまわぬが」
「できれば隠しておきたいのですが、関連してさらに幾つか手を借りたいことがありますからね。一端は明かさせてもらいますよ」
ホームズは『対策』の概要を説明する。
聞き終えたモリアーティーは興奮を隠せないという口振りで、
「これは面白い! いや、魅惑的と言い直す方が良いか。君の友が知れば、この場に立ち会えなかったことを大いに後悔するに違いない」
「私としてはその彼がいないことが救いですよ。いくら手だてがないといっても、この”手”を記録に残したいとは思いませんからね」
「それでさしあたりは何をすればいい?」
「とりあえずは、メッセージを一つ、所定の場所に届けてもらえれば十分です。ただ、それをまったくの秘密裏に、そう蛍や蝶々に、いや、彼女たちの背後にいる芦という人物に気づかれずにやってもらいたいのですが、可能ですか?」
蛍や蝶々の上司ということで味方であるはずの芦にも秘密という話だが、モリアーティーは訝しがる様子もなく、
「そこは何とかなる。”保険”として情報部顧問としての立場とは別に軍や情報部、警察にコネはつけてあるからな」
「さすがだな。その用心深さ‥‥」
皮肉の一つもつけようかとしたホームズだが蝶々が戻ってきたことで口をつぐむ。
「ベスパちゃんのことで話があるんでちゅ」
入ってきた蝶々は意味もなくきょろきょろと辺りを見回し声を潜める。
「何か気づきましたか。さすが選ばれたエスパーだけのことはある」
ホームズの言葉に得意げに微笑む蝶々。二人に向かい合う形で腰を下ろす。
「ところで蛍君はいないようだが、君がここにいることは知っているのかね?」
「知らないでちゅよ。蛍ちゃんは部屋でバタンキュー。良い話じゃなかったでちゅが、フォンちゃんのことがはっきりとしたんで気が緩んだでちゅ」
「‥‥ そうですか」ホームズは少女の部屋の方を向く。
ここ数日、屋敷の警備を(蝶々の協力があるとはいえ)一手に引き受け、加えてフォンのことも気に掛けてきた負担は相当なものだったのだろう。
その責任感と集中力は素晴らしい資質だとは思うが、反面、自分の限界を忘れ心にあることへのめり込んでいく姿勢に危なさを感じる。
やや心配げなホームズにかまわず蝶々は、
「で、本題でちゅが、ベスパちゃん、ほとんどのことは正直に話したでちゅが、それでも幾つか嘘というか気持ちを隠していたところがあったでちゅよ」
「ほう、何も言わないのでそういうものは見つからなかったと思っていたのだが」
「心に揺れが少ないんで言い切れないこともあったんでちゅが、あそこでそんなことを言ったら蛍ちゃんが怒って話が進まなくなると思ったからでちゅ」
「適切な判断だ。それで彼女の話のどこに問題があったのかね?」
モリアーティーは褒めつつ先を促す。
「はっきりとは言えないんでちゅが、芦様が狙われている理由は嘘が混じってまちゅ。それと元始風水盤には関心はないって態度だったでちゅが、内心はかなり興奮していたでちゅよ」
「そうか‥‥ やはり、元始風水盤も関連はあるか。良くやった、蝶々。さすがに選ばれたエスパーだけのことはある」
「それともう一つ、”教授”とホームズちゃんに知っておいて欲しいことがあるんでちゅ」
ここで声を潜める蝶々。表情からこちらが本命と判る。
「前もそうだったんでちゅが、ベスパちゃんの心の”手触り”がフォンちゃんとすごく似ているんでちゅ。双子の心を”触った”こともあるんでちゅが、双子の心よりももっと似ている感じなんでちゅ。ひょっとして、ベスパちゃんは本当はフォンちゃんで催眠術なんかで自分を魔族だと思いこまされているんじゃないでちゅか? フィフスってそういうことができるはずでちゅよね」
「面白い可能性だな」とモリアーティー。「彼女の心にそれらしい”跡”とかは?」
「それらしいのは何もなかったでちゅ」残念そうに頭を横に振る蝶々。
「いいでしょう、蝶々。その謎もこの私、ホームズが解明してみせますから安心してください」
自信たっぷりの断言するホームズに蝶々の表情は一気に明るくなった。
「安請け合いし過ぎではないのか? いくら相手が子供とはいえ いや、子供であるからこそ、そういうことは禁物だと思うが」
蝶々が去ってからモリアーティーはホームズを問い質す。
「まあ何とかなるのでは」言葉通りの気楽さで応えるホームズ。
「同一の魂があること自体は有り得る話でしょう。あなた自身の”デュプロ”(=クローン)が存在したこともあったのですから。もちろん、人であればDrカオスぐらいしかなしえない”技”かもしれませんが、ベスパは魔族。魔族ならそうした”技”を持つ者はいるはずですし」
「どこかでフォンの魂が複製されそれがベスパに使われている‥‥ とすれば、ベスパもある種、造られたモノかもしれぬな」
「ええ、魔族の間ではそういう存在は珍しくないと当人も言っていましたからね」
「オリジナルとコピー、二つの魂がここでニアミス‥‥ 何か意図、必然があると思うかね?」
「あると思います。私たちがまだ知らぬ要因がそこにあるとね」
モリアーティーはホームズの顔をのぞき込み、
「さっきの『安請け合い』といい、それについて何らかの仮説はお持ちのようだが?」
さりげなく向けられた問いに考える風のホームズ、悪戯っぽく笑うと、
「あることはあるが、明かすのは止めておきましょう。さっきの私の提案以上に突拍子のないものですから。だいたい何でも明かしてしまうと”名探偵”らしくないじゃありませんか」
「そうよな。明らかにすることで未然に犯罪を防げる場合でも、あえて小理屈を立てそれを明かさず、かえって事態を悪化させるのは”名探偵”の得意とするところじゃ」
指摘に思うところがあるのか、ホームズは両手の平を上を向け、投げ遣りな笑みを浮かべた。
「お兄いちゃんが来たでちゅ」
昼食が終わり、そろそろ関係者を再招集しようかということになった時、蝶々が嬉しそうに、モリアーティー(とホームズ)の元に駆け込んでくる。
「そうか」と応えたモリアーティーはホームズに、
「君の助手が来たようだ。ちょうどいい、彼も話に加わってもらえば、別な角度からの知見も得られる」
「ほう? そこまで信用しているとは‥‥ いよいよ会うのが楽しみですな」
期待を表明するホームズ。出迎えのためとって返した少女を背を見つつ、
「そういえば、蝶々は感情を探知できるテレパスでなかなか他者に心を開かないと聞いていましたが、その人物には好意を持っているようですね」
「ああ、物事に偏見を持たず純粋な心で人に向かい合える男でな。そのあたり、エスパーとして周囲からずっと奇異な目で見られてきた蝶々にとっては得難い理解者ということになる」
「どうやら、能力面もさることながら人となりも”本物”のようですね」
「そうさ、超感覚系エスパーから好意を得られるのは”本物”か君や儂のような”本物のペテン師”のどちらかしかないからな」
同列扱いに顔をしかめるホームズ、今更、ということで何も言わない。
しばらくすると耳慣れない騒音が聞こえ玄関の手前で停止する。
「この音は‥‥自動車?! それも内燃機関タイプですな。まだ、実用化されたものはないと思っていましたが」
「アメリカの研究者から試作車を買い付けたもので、自分で幾つか改良を加え使えるモノに仕上げておる」
「メカニックにも造詣が?」
「オカルト研究に比べれば趣味だがな。彼が本気で取り組めば内燃機関型自動車の実用なんぞ即座に可能なのに。社会の発展から考えると、オカルトに埋もれようとするのは勿体ない話じゃ」
『本当ですね。たぐいまれな知性と才能を犯罪に向けている者もいるようですし』
とは言わないホームズ。ただ、顎の手を当て、
「世の中には”自分”を無駄にしている人がいるということですな」
モリアーティーは微かに眉を動かすと、
「おや、ホームズ君には自虐趣味があったとはな。知らなかったなよ」
待つ内に蝶々に先導される形でまだ若い−二十歳そこそこに見える−男性が広間に入ってきた。
男性はシャツにズボン、スーツにネクタイと、言うところの『洋装』。
後進地域としてまだまだ貧弱な体格が一般的なこの国にあって珍しいほどの背丈とすらりとした体型により、ここまで(この国で)見た誰よりもそれが似合って見える。加えて、目鼻立ちは十分に整っており、突出はしていないが美青年と称してかまわない外見だ。
青年はモリアーティーと二言、三言言葉を交わすと、挨拶のためホームズに歩み寄る。
その物腰はあくまで控えめで穏やか。眼鏡越しの澄んだ瞳や年齢相応の線の細さこそあるものの良い意味での頑固さというか芯の強さを感じさせる引き締まった口元と併せて、天才にありがちな偏執的、あるいはエキセントリックな雰囲気は微塵もない。
‘‥‥ 聞いていた以上の”人物”かもしれないな’
それに応えるため立ち上がったホームズは『印象としては』と留保を付けつつ好意的な評価を下す。
それが表情に漏れたのか、照れ笑いで応える青年。ややぎこちない仕草で手を差し出す。
「ホームズさんですね。お目にかかれて光栄です。僕は渋鯖光一といいます」
最後の引きとしては十分ですが、登場人物がどの様に絡むのか忘れないウチの更新を期待したいと思います。
しかし、収集に向かうかと思っていたら更に登場人物が増えるとはw
それでは次回投稿お待ちしています。 (UG)
各作品とも焦げついているのもありますが、ホント、いい加減”夏”が終わって(十月初旬で高湿&30度近い最高気温)くれないと、どうにもモチベーションが‥‥ と言うところです。
>最後の引きとしては十分ですが‥‥
ホント、仰るとおり、その点、当方の最大の痛点と自覚しておりますが「仕方ないんや〜」ということで‥‥ って、開き直ってどうする!! せめて、その間に見合うだけの内容にしたいと思っておりますので、今後ともよしなに、伏してよしなにお願いします。 (よりみち)