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復活

GSエミ 極楽魔法無宿!! 2


投稿者名:ETG
投稿日時:07/ 7/30

「・・・・で、差し上げたお札がこうなっていたと」

指し示されたのは丑寅(東北方向=鬼門)に貼られた結界符。
令子が触るや灰になって崩れ落ちた。

「ヘイ。今朝見てみると美神先生に頂いた守り札が焼けてやした。悪魔にでも呪われてるんで御座いましょうか?」

タコ坊主しかもご丁寧に黒い眼帯。黒の大島紬の袖から覗くぶっとい腕に牡丹の花をちらりと見せる50がらみ。
世界最強GS、美神令子の結界を破った呪いと悪魔と言う言葉に微塵の畏れもない。

地獄組若頭筆頭。組長不在の今、いやかなり昔から実質的な組長である。

「確かに魔力を感じますわ」

令子が首をかしげる。確かに魔族の臭いがぷんぷんする。
並のスイーパーならどんなに金を積まれても引き受けないほどに、だ。

しかし所長の令子はもちろんのこと、その横にちょこんと座った巫女服姿の女子高生くらいの女の子も別に表情を変えない。

「確かにワッシは天国に逝けるような堅気衆では御座いません。
 悪魔に魅入られても何もおかしゅうないしのぎを半世紀しとりましたが」

言いながらぴっかぴかの黒檀テーブルの正面にどっかと腰を据える。
その時ちら、と見えたのは足首の極彩色の龍尾。
さすが10歳で相手の頭のタマをとったという生きた伝説。

「今ワッシが死ぬと組は割れてまいま。後は極悪会どものええ餌食ですわ。
 もうしばらく美神先生のお力で生かしといて貰いたいのですわ」

若頭筆頭が頭を下げる。
それを受けた令子が特徴的なまつげを立てて唇の端を上げる。

「地獄の沙汰も何とやらと申します。ご存じのようにこの符でも1枚8000万円。それ以上となると・・・」

「そこを何とか。有り体に言って組は火の車。このぐらいで」
5本指を立てる。5億と言うことだ。

「どうする。横島クン?」
組長の言葉を聞くなり、後ろに控えた横島に目をやる。

「難しいッスね」
事前に言われていたとおり令子に合わせて精一杯渋面を作る。
もちろん心の中はすぐにでも飛びつきたいが五億よりも令子が怖い。
それにもちろん自分が5億貰えるわけでもない。

(ご、ごおく。それでだけあれば一生左うちわ。しかし
 退廃的な生活するにゃ、美人の姉ちゃんが足らんな〜」

若頭筆頭が漏れた横島の後半の心の叫びを引き取って、いかにもよくわかるという風に頷く。

「わかりやした。さすが魔神を手玉にとった横島先生。英雄は色を好むと聞いてま。
 早速赤白黄黒と用意させて頂きます」

手を叩くと間髪入れずに黒服が入ってきて数十枚の六ツ切り写真を並べる。

ヤクザの頭が言うだけある。

チャイナドレスから天然パーマの黒人、スラブ系とおぼしき羚羊ような肌が抜けるように白い金髪美少女。
ボンデージに身を包んだアングロサクソン系の野性的なお姉様に襟足の魅力的な和装美女。
黒い大きな瞳と白い歯が魅力的なのはタイ系かインド系か。ニーソックスが似合う何も知らなそうな女子高生。


「好きなだけゆうて頂ければ今晩にはお届けしま」

横島の好みを調べ尽くしたのだろう。
タイプは色々あれど共通点は輝かんばかりのシリチチフトモモ。

AV女優あたりのあり得ない女子高生とは格が違う。
目の前に突きつけられたピンナップに思わず身を乗り出した横島。


「すげぇっ!!! 本物のねーちゃんくれるんで「オノレは何を口ばしっとるかーっ!!」ゴヴあぁぁ〜〜〜っ」


その顎に霊力の乗った光るアッパーがきれーに決まる。
歯を飛び散らせた横島が天井に刺さってる間に、
鮮血のついたナックルも知らぬげに令子がにっこりと引き取る。


「ウチの馬鹿が失礼しました。当除霊事務所は人身売買は致しておりませんので」


落ちてきて(恋愛は自由や〜〜〜)とか言いかけたモノにサイコショックをぶち込んで黙らせるコスプレ美少女人形。
次に狼に噛みつかれ、それを苦笑して眺めるおキヌ。
タマモはもはやあきれを通り越して寝そべって少女漫画を読んでいる。

ちなみにおキヌ以外は全員幻術で隠れていたりする。

令子は最初のアッパー以外は手を下していないのに見えざる神の手(シロ霊波刀とルシオラ霊波砲)
でどんどん型くずれしてゆく横島。

「さすが美神先生は横島先生の上を行きなさる」

そのイリュージョンを見て豪快に笑った若頭筆頭が黒檀テーブルの写真をしまう。
もしかしたら実質のボスは横島かもしれないと用意したが無駄になったらしい。
女で値切る古典的手段は通用しなかった。

相手が令子なら交渉方は1種類しかない。

「では6億出しましょう。それ以上は」
出せない、と続けかけた所を営業スマイルに戻った令子が遮る。

「6億ではとても足りませんが現金で出せとは言いませんわ」

にっこりと営業スマイルから女を意識した笑顔に切り替えて差し出したのは料金未払いリスト。いわゆる不良債権だ。
小金持ちや土建企業を中心としたそれは弁護士を立ててくるので正攻法ではやっかいな代物。

「30億分あります。これを25億で地獄組さんに引き取っていただく、と言うのでいかがでしょう」

規模が小さかったときは令子が呪ったりとか力ずくでとかでこつこつ差し押さえたりしていた。
それが今、規模拡大でその暇が無くなってちょっと溜まってしまったのだ。

おキヌや横島ではまずムリだし不良債権回収させるより除霊させといた方が儲かる。
令子の周りでこれがちゃっちゃとできそうなのはエミか母の美智恵しか居ない。
が、二人ともこういうことに協力してくれるとはとても思えない。

白魚のような令子の指から受け取った若頭筆頭がざっと見て頷く。
懇意もしくは契約している公認会計士や司法書士、弁護士の名まで乗っている。

「う〜む。これは・・・・」

常識的に考えれば半分も回収できまい。
市場に出せば7〜8億が精々の債権であろう。

しかし。
破顔したタコ坊主がその凄惨なかおをにニヤリとゆがめる。

地獄組なら・・・とんとんかもう少し回収できるかもしれない。
おまけにこれをネタに強請れそうな名前がいくつか混じっている。

「美神先生、ウチの組長に推薦したいですわ」

これがwin-winの取引というものだ。
「では交渉成立と言うことでよろしいですわね?」

「異議あり!! 美人のねーちゃんも一人ぐらいは!!」

何でも言うことを聞く美人のねーチャンのつかみ取り。
人生の目標の大きな一つを目の前からとり下げられた煩悩魔神が再交渉すべく再び生き返ってわめく。

『わかったから寝ててね?ヨコシマ』

今度は令子の手よりルシオラの方が早い。
いち早く霊麻酔で半ぼけにした。

「ふにゃぁあ、はぁねむ」
『マッタク。これだけの美女美少女に囲まれててまだなんか文句あるの?』

氷のようなルシオラの表情にも
寝ぼけなまこの横島はまったく危機を関感知できていない。

『美女美少女に囲まれて』という自分とは無縁の響きに半呆けで首を捻るのみ。


「はい?」
『お仕置きよ。お仕置き』


サイコダイブで特大すけすけランジェリーのルシオラピンナップ。
48bitカラー、その画素数約2億。

続けて魔法書一冊を横島の記憶領域にぶち込む。


「ギャあッ?!」
いきなりの膨大なデータを流し込まれたショックで変な声を出して体がはねる。


『ついでにこれもつっこんであげるわ!!』

続けてぶち込まれたのはボディコン令子と巫女服おキヌの画像。
16bit・1億と多少色数、画素数が少ないのは手加減だろうか。


弓なりに痙攣し、ことり、と落ちる。
おキヌが一応心配そうな顔で揺ってみるが、今度はびくとも動かない。

まるで屍のようだ。
この煩悩魔は肉体的には頑健だが頭脳を酷使される方がよっぽど堪えるらしい。

『今度同じことやったら、冥子さんの暴走とシロちゃんの散歩動画。それに魔法書3冊よ!』


何もされていないのに勝手に苦悶の表情と共に飛び跳ね気を失った横島。
若頭筆頭がその惨状を冷や汗一升と共に凝視している。
黙ってみていたに令子がのびた横島の襟首をつかんで立ち上がる、と共ににっこりと暇の挨拶。


「では、おいとまします。何か付帯条件がありましたら『私に直接』お申し付けください」

その営業スマイルに若頭筆頭の背筋が凍る。




いまだ目を回したままの横島を引きずった令子と巫女服姿のおキヌが若頭筆頭の屋敷から遠ざかる。
と、次々にルシオラやシロタマがその周りに姿を現す。


「どう?」
「魔力も以外に小笠原どのの霊力も混じってたでござるな」

令子の問いにシロが真っ先に反応する。

「やっぱりね。どーせ邪悪な呪いでも思いついたんでしょ」
令子が肩をすくめてあきれる。

「エミ如きの力でこの美神令子をどうこうしようってのがもはや間違いなのに」

電気を喰ったときの最大霊力は近頃1000マイト近くまで行っている。
霊力ためてアイテム魔法陣使ってやっと500マイトのエミ如きが敵うはずがない。

「力のインフレについて行けない敗者のあがきってみっともないわねー」

心底哀れみの表情で同意を求めるようにおキヌを見る

「まァ、エミとのつきあいは長いわけだし」
「お友達なんだから手加減してあげてくださいね」

おキヌがちょっと口をとがらせて念を押す。
昔からの喧嘩友達にひどいことはしないだろう。

「ええ、今度こそ再起不能にギタギタにのして格の違いを見せつけてあげるわ!!」
ギッと親指で首を引き切るまねをする。

おキヌが冷や汗を垂らす一方で、
懐かしい雰囲気の魔力を思い出してルシオラが口を挟む。

「でも美神さん。アシュ様の匂いも感じたわ」
「どういうこと?」

意味が理解できなかった令子が思わず聞き返す。

「たぶん、もとアシュ様の部下が手を貸してるんじゃないかと思うんだけど」

「メドーサかダミアンでもエミが召喚してるってこと?」
メドーサが相手か…。令子の顔が曇る。

うーんとルシオラが考え込む。

「そこまでは…? あのクラスを魔導師が召喚しようと思うと生け贄とかがすごいし・・・」
「例えば? 少々ならエミは出すわよ」

エミなら採算度外視でぶちかましてきても不思議ではない。

「あくまで相場だけどある条件を満たすと自分の魂そのものが代償になるとか、
 処女30人とか童男童女50人とかよ? いやメドーサの性格なら一般人1000人ぐらいかしら」

ルシオラがアシュタロスに刷り込まれたデータベースに自分の意見を付け加える。
表の人間、それもGSが満たせるような条件ではない。

「さすがのエミでもそんな危ない橋は渡らないわね。犯罪にならずに金で何とかなる範囲ってと?」
「うーっん、美神さんベルセブルって知ってる? バアル大王じゃなくって黒いハエなんだけど」

ルシオラがしばらく考え込んだ後令子が知ってそうな魔族の例を挙げる。
聞いたとたんに令子の緊張が解ける。脱力と言っても良いぐらいだ。

「あんなハエなら一撃でつぶしてみせるわ。その程度か。本格的な魔族は垂れチチオバハンぐらいしか
 知らない常夏色ボケ女のエミはその程度でこの美神令子に挑もうってのね」

令子に再び哀れみの情が満ちあふれてくる。

「ここはやはり後腐れないようにきっちりどっちが上かはっきりさせてあげないとね。中途半端はエミもかわいそうよ」

電気ドーピングを実戦で初めて思いっきり使えそうね。
あのエミなら挑んで来る以上少々ではくたばるまい。

「エミ!!、首を洗って待ってなさい!! 1000マイトでしばいてあげるわ!!」





「え〜〜〜〜? エミちゃんと喧嘩するの〜〜〜〜?」

そこに寄ってきて不安そうに口をとんがらせたのは純白シルクの日傘にひらひらスカート、白手袋の冥子お嬢様。
今までお馬さんに横座りでぽこぽこ巡回しながら屋敷の外側警戒をして(隔離されて)いたのが合流してきたのだ。

「大丈夫よ。冥子。喧嘩じゃなくって仕事。お・し・ご・と・よ」

令子が内心冷や冷やしながらしれッと流す。

「そうなの〜〜〜?」
「そうよ。エミも仕事。だから大丈夫よ」

冥子といえどもそれでは納得しにくかったようだが令子は冥子の口に飴を突っ込む。

「それよか、横島クンのヒーリングお願い」

ドサ

首根っこ捕まえて片手で引きずっていた横島をそのままアンダースローで冥子の座るインダラの背にほりあげる。

自分より二回りは大きく60kgはある。
スーパーモデル体型の華奢な女性がこれを片手で軽々と、しかも馬の背に放り上げるんだからたいした物である。

もちろん筋力ではなく霊力で持ち上げている。
だからその完璧なプロポーション(横島忠夫談)は1ミリといえども崩れちゃいない。

(美神さんってますます・・・・)
(・・・人間離れしていってるでござるなぁ)
とかいうのはシロタマの感想。

一方、横島を令子から渡された冥子は嬉しそうに馬上で抱えて胸あたりの影から出したショウトラに舐めさせている。

舐めさせながらだっこしたり頬摺りしてみたり。
端から見ていると大きめのぬいぐるみを2つ抱えているようにしか見えない。

そっちに気をとられてエミとの喧嘩、の話はどっかへ飛んでいってしまったようだ。

「横島くんはどーしたの〜〜〜? 屋敷で何か出たの〜〜〜〜」
「ルシオラの折檻がちょっときつかったらしくて目を覚まさないのよ」
ざーとらしくルシオラの方を視て自分のことは棚に放り上げて肩をすくめてのたまう。

「えー、ルーちゃんが横島くんに〜〜〜〜〜?」

「・・・浮気癖だけは今生のウチに叩き直すって決めたの」
冥子の肩にちょこん、と座ったルシオラがジト目で横島を睨みながらつぶやく。

「うわきぐさってなに〜〜〜〜?」

冥子が横島をショウトラに舐めさせながらルシオラに根掘り葉掘り。


それを横目に令子は仕事の段取りを脳内シミュレートを始める。
今回の仕事は以前の地獄組と変わらない。エミがかけた呪詛を令子が破る。それだけだ。

戦績は12勝10敗11分けのいつも通りのいつもの喧嘩。

違うところはなにもない。





数日後。

「急いで!! 急ぐのよ!」
「電話では酷いことになっているようですよ」

事務所の一行が屋敷に飛び込むやいなや景色が変わる。

「おがあざーん」「火がっ火がっ!!」「ごろご怖いの〜〜〜!!」
「ふへへへ、ここはホントは暖かい布団の中・・・」「あづあちぢぢぢ!」
「消火栓はどこだァ!」

組員が下っ端上っ端を問わず情けない悲鳴を上げている。

「ヤロウ共静まらぬかっ!! 広がらねぇ火事があるか!!
 まもなく美神先生が来てくださる!! みっともねぇ声を出すんじゃねぇ!!」

片目眼帯のタコ坊主が胴間声を張り上げている。


辺り一面火が吹き上げ出入り口や窓からは2mを越える猛火が吹き出している。
辺りは立ちこめる煙で自分の手先も見えない。

「横島クン! 結界! おキヌちゃんは心眼で、冥子はクビラでサポート! 」

令子の指示におキヌと冥子がエミに焼き切られた結界の綻びを探り出し、そこに結界符を横島が叩きつける。
もちろん指示の無かったシロタマも同時に警戒態勢に入り、万が一の敵の攻撃を警戒。

それと同時に令子が結界内に残った残留呪詛を祓い去る。

「美神令子の名において命じる! 邪悪な意志よ、退け!」

ブン!

破魔符の一撃で一瞬にして屋敷中の火の気配が消滅。
元の屋敷に戻る。

「みんな、気を引き締めて! 今のはタイガーの幻術をエミが補強したモノに過ぎないわ」

ぼと、ぽとぽとぽと。

令子の言葉が終わるやいなや今度は空から細かな肉片が無数にふってくる。

美神事務所の一行が到着したのを感知したのだろう。

「魔力のニオイでござる!」
「アシュ様の香りが!」

ルシオラとシロの分析を聞き、本格攻撃を開始したと判断。

「おキヌちゃん。冥子。霊視と心眼全力。エミの場所を探り出して!」

おキヌがふわ、と浮き屋敷上空で心眼全開。
冥子も頭にクビラを乗せてシンダラ。

「ルシオラはその場所に“どこでも爆殺くん”を発射!」

“どこでも爆殺くん”とはルシオラ開発の自動追尾型指向性火角結界である。
これでエミを捕獲してカウント内で降伏させようというわけだ。
(拙SS 誰が為に金はある?(終)参照)

自分自身は神通棍からの最大霊力放射で空から細かな肉片を纏めて焼き払ってしまう。
多少の取り残しはシロとタマモ、主にタマモの火炎放射で始末。

「横島クン。出る前に預けといた霊力で全員をもっぺん満タンにして。私も忘れないように」
「へえ〜〜い」

(うう〜。とうとう荷物もちに加えて、霊力タンクや〜〜)
横島が降りてきたおキヌ、冥子の手を握って霊力補充。
(おキヌちゃんや冥子ちゃんの手を公認で握れるのだけが役得か)

おキヌも冥子も降りて来るなり横島の手を握る。

「えへへ〜〜〜横島くん、お願い〜〜〜〜」
「いっつもスミマセン」

右手におキヌ、左手に冥子の手。握った手のひらが光り霊力が二人に流れ込んでゆく。

(や、やーらかいな〜〜! 白いな〜)
(えへへ、横島さんの手、暖かいです)
3人の顔が自然とにやける。

それを横目で見た令子がおもっきり不機嫌そうな声を出す。


「ほら、ぐずぐずしないでさっさと私にも」

令子も左手を差し出してくる。


「へイッ! ただ今!」

そこにささっと駆け寄ると女王様の手を押し頂く。
握られた横島の手をそっと握り返すも顔はツン、とそっぽを向いている。

「あ〜〜〜ん! まだ冥子終わってない〜〜〜」
振り払われた冥子がぴょこぴょこと寄ってきて空いてる手を再び握る。

「せんせー拙者にも〜〜」

くーん、と甘え声を出しながらシロも寄ってくる。

「バカ犬はほとんど使ってないでしょ。後回し仕方ないわよ」
「オオカミでござる!!」
「人の手をほしがるのは飼い犬だけよ!」


除霊現場では令子がいちいち幽体離脱して電線を探していては即応できない。
今回のような油断できない敵ではなおさらだ。
そこで事務所を出る前に一番霊力キャパの大きい横島にたっぷり流し込んで出てきているのである。

手をつなぐのも霊力受け渡しの損失をちょっとでも減らすためである。
もはや横島は担ぐ荷物と相まってほとんど補給係兼ルシオラ・文珠キャリアと化している。


そうこうする内にもしゅるしゅるというかすかな音を立て
冥子とおキヌが探り出した地点へ“どこでも爆殺くん”が突進してゆく。


「ふふふふふ!! おほっほっほっほっ!!! エミのヤツ私の電気強化でメンバー全員が強化されてるなんて思ってないはずよ!!」

高笑いしながら令子はエミの携帯へあと一押しでかかる状態にする。

「まさか自分の呪詛が一瞬で切り替えされて冥子もおキヌちゃんも一瞬でエミの位置を探り出すなんて思ってないわ」

ルシオラが横島の肩にとまったまま触覚を立て細かく振っている。
“どこでも爆殺くん”を誘導しているのだ。

「“どこでも爆殺くん”ターゲットを補足。1410の方向約3.2km!」




エミのチームに“どこでも爆殺くん”が発動。

「令子のヤツ。こう来たワケ」

ズウゥゥ〜ンという音共にチームの周りを囲んだ火角結界を見回してニヤと笑う。
カウント120秒。

その時エミの携帯が鳴る

『ほほほほほほ!! やっぱりこのちんけな呪いはエミね。
 その火角結界は出力4000マイトはあるわ! 小竜姫でも呼んでこないと破れないわよ。降伏しなさい』

勝ち誇った令子の声が携帯から流れ出す

「その下品きわまりない笑い声は令子しかいないわね」
『憎まれ口も今の内よ。今なら寛大な令子様の足下で土下座100回ですましたげるわ』

「相変わらずの減らず口はこれを視てからのが無難よ。どうせそっちにはおキヌちゃんも冥子もいるんでしょ? よっく視とくように言うワケ」


ぱちんと携帯を閉じてタイガーに放ると共に呪的舞踊開始。

今までと違っているのはその左手に大きな卵のようなつや消しの玉を持っているということだ。
表の模様はヘビの鱗か瓦のようだ。大きさはハンドボールぐらいだろうか。

―――――えこえこあざら〜くえこえこざめら〜く・・・・

「エミのヤツ悪あがきを・・・・霊体撃滅波如きでどうこうなるわけないじゃない。ルシオラ特製の火角結界よ?」
おキヌから詳細な報告を受けた令子が鼻で嗤う。


霊体撃滅波っ!!


ほんの十数秒で舞踊が終わると共に強烈な霊波が四方八方に発射される。

「か、火角結界がふきとばされましたあ!!!」
「側にいる虎吉くんも〜〜〜〜〜もう1人いる女の人も無傷みたい〜〜〜〜〜」

おキヌと冥子がそろって驚くべきことを報告してくる。
「なんですってぇ〜!? ママでも居るの?」

心眼を全開にしてエミを遠距離スキャンしたおキヌが即座に報告してくる。
「エミさんの手に持ってる玉から無限に霊力、いえ魔力が流れ込んでます!」



霊体撃滅波を打ち終わると同時にエミの足下の魔法陣が光りだす。

「魔力充填90%、100、120% 結界破壊波 発射!!」

再び別の魔法陣が光り出す
「魔力充填90%、100、120% 色魔・金銭魔撃滅波 発射!!」

再び別の魔法陣が光り出す
「魔力充填90%、100、120% 縛魔・縛妖網発射!!」


素人でも目視できるほどの強烈な霊波。
もはやおキヌや冥子に頼るまでもなく令子の霊能にもはっきり捉えられる。

「ま、マズ! あんなの食らったらこっちの結界なんか2、3回で逝っちゃうわ!」

ズシッ バチバチ!!

屋敷四隅の結界符が悲鳴を上げる。

ズシッ バチバチ!!

またもや屋敷四隅の結界符が悲鳴を上げる。


おキヌとルシオラそれに冥子が走り回って結界の綻びを補修しているが破られるのは時間の問題だ。


「なんでエミがあんなに連続で攻撃できるのよ!!」

結界の補修なんて器用なことはできない(知識不足その他)横島がパニクった令子にのんびり答える。

「そーいえばこないだタイガーがすげえ魔族と格安で契約できたって言ってたっス」
「そういう重要なことはなぜすぐに言わない!!」

聞くなり令子が横島を締め上げるが聞かれてないモノをしゃべれというのは酷だろう。
令子にルシオラが説明していたときには気を失っていたのだから。

「てことはあの玉っころがその魔族か! 横島クンその魔族は誰ッ!?」
「首閉めないでぇ〜〜〜!!そこまでは教えてくれなかったス! 何でも小竜姫様を封じたことがあるとかっ!」
「まさか、ホントにメドーサってこと!!? まさかその玉って蛇の卵!?」

「かなりきつい妨害がかかっててそこまではわかりませんでした!」
結界符の束を片手にパタパタ走り回っていたおキヌが言い捨てて再び結界補修に戻る。

横島を放り捨てた令子が呆然としている。
メドーサとエミが組んで勝てるはずはない。

「そういえばメドーサってヨコシマと美神さんをめちゃくちゃ殺したがってたっけ」
ルシオラが以前の同僚を思い出して付け足す。

「そのために格安でエミの使い魔になったっての?!」
「デタントで下手な干渉できないし、アシュ様は居なくなっちゃったし、あり得るんじゃないかしら。
 魔導師と契約ならデタント派も認める合法的な人界干渉法よ。契約条件が美神さんとヨコシマの魂かも」

令子が真っ青になる。
当然だろう。竜神の装備もなくあんなものに正面からやり合いたくはない。

「アシュ様が居なくなったバランスとるためにきっとメドーサは完全復活してると思うわ」
ルシオラがしれっと付け足してにぃっこりと笑う。

「美神さんも大変ねー。メドーサって、もんのすごくひつこいから」
「え、エミのヤツ〜〜〜!! なんてものを召喚するのよ!! 人としてのモラルはないのか!!」

エミも令子にだけは言われたかああるまい。

地団駄踏む令子の横で横島も深刻な顔で聞き返す。

「ルシオラ!! それは本当か!」
「ヨコシマも知ってるでしょ?」

横島もメドーサ自身から目の敵にされているのを聞いたことがある。

「クソ!! メドーサか! めちゃくちゃ重大や」
「大丈夫。“美神さんはともかく”ヨコシマには私が付いてるから」

ルシオラがウインクして言い切る。

令子はわかっていてもルシオラの軽口に井桁を貼り付ける。
そんな令子に気づいてか気づかずか横島が真剣に念を押す。

「どうなるかわかるのか?」
「メドーサの能力ならばっちりここに入ってるわよ」

ルシオラが自分の頭を指し示す。

「なら、まずこれが一番重要なことだが」
「何でも聞いて」

横島の2度目の念おしに、ない胸を張ったちっちゃなルシオラ。
令子も思わず聞き入る。命がかかっているのだ。


「あそこにいるメドーサはチチのでかい年増か、ミニスカのコギャルかどっちやー!!!」

「「ドあほー!!!」」


ルシオラのアッパーと令子の鞭で屋敷外まで射出。


「のっぴょっぴょーん」

きらーん、と光ってあほが青空に消える。




「ひーん! 美神さんもルシオラさんも漫才やってる暇があったら結界補修手伝ってくださ〜い」
「冥子もうダメ〜〜〜〜」

冥子が渦巻き目でバテ始め、おキヌがもはや滝涙。



「拙者らはどうなるんでござろうな」
「美神さんとの個人的な恨みみたいだから関係ーないんじゃない?」

シロタマは座り込んでお気楽に周りのイキそうな結界を眺めている。
手伝おうにも手伝えないし。




to be continued


次話、申し訳ありませんが少し空きます。


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