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復活

GSエミ 極楽魔法無宿!! 1


投稿者名:ETG
投稿日時:07/ 7/28

「ハァハァ、はぁ。今日の召還の準備は19時からではなかったですかいノー?」

猛烈に悪いエミの機嫌をさらには損ねまいとすっ飛んで帰ったタイガーの肩が激しく上下する。
無駄に霊力を使ったと後に全力疾。さすがのタイガーも顔色が赤いのを通り越して白くなっている。

応接机のエミは昨日までとうってかわった上機嫌で机の向かいに座った女性と談笑している。

どうやら、大丈夫なようだ。

ほっと落ち着いたタイガーが美人に意識を向ける。

長いのであろう艶やかな髪を、後ろで跳ね上げるようにまとめた長身。
斜めにそろえた、すらとした足首はきゅっと締まり、机の上の手指は白磁のようだ。

ほへぇ〜、ちょっとトウがたってるけど、ギリシャ彫刻並のプロポーションの美人ジャー。
今日の授業のニケの像、いやアテナ像にも雰囲気が似てるノー。

男のサガで、覗くふくらみに目が吸い付けられる。

「あ、タイガー、急に呼び立てて済まなかったわ。紹介するわ。こっちが今度雇うことになった鏡由里子さん」
エミが向かいに座った妙齢の美人を紹介する。
「彼がうちの見習いGSのタイガー寅吉」

「鏡です。よろしくお願いします。一連のアシュタロスの件、特に核ジャック事件では要のお一人だったと」

紹介と共にいかにも一流GSらいしい、魅力にあふれた活動的な美人が立ち上がり、深々と頭を下げる。
モデルといっても通用しそうだ。
体を傾けると、令子ほどではないが充分に女性の魅力を際だたせている装い。

その胸元から覗く大理石のように白いふくらみとうなじ。

「免許取りたての未熟者ですがよろしくお願いいたします」
言葉と共に顔を上げ、両手できゅっとタイガーの手を握る。ガタイがでかいタイガーには自然と上目遣いになる。

「こ、こちらこそよろしくなんジャー」
年上の美人にこんな扱いを受けたことがない。へどもどしながら真っ赤な顔で慌てて上体を90度折り曲げる。

「では、同期の免許取得者ですかノー?」
こないだのGS試験の合格者にこんな美人がいれば見逃さないと思うんじゃがノー?
第一、あのどたばたを生で見てタイガーに普通に接してくれるというのはあり得ない。

「鏡さんはマカオからの帰国子女で、免許は向こうで取ったワケ」
首をかしげたタイガーにエミが補足する。

「こっちと違って向こうの免許はすっごく緩いですから。
 タイガーさんみたいな一流が免許取りたてってことはあり得ないですよ」
鏡由里子が慌てて両手を左右にぶんぶん振って苦笑する。

「あの文珠使いの横島さんや魔装術の伊達さんも免許とってすぐなんでしょ? そんな国の人と一緒になりませんよ」

言われてみれば彼女の霊圧はエミや令子はおろかタイガーや友人たちと比べても低そうだ。
といっても、‘普通の’GSとしては充分一流どころであろう。
タイガーの周りにいる奴らが規格外なだけだ。

一次試験で異常とまで言われるほどの霊波を出した現文珠使いとか、
ホーリーマジックの使い手で、聖水も十字架も太陽も平気な700歳のバンパイアハーフとか、
他の受験生を軽くあしらいながらさらに魔装術まで出したバトルマニアとか。

「実は、向こうでずっと‘ミラー’って呼ばれてたんですよ。それで鏡とか由里子って呼ばれるとすっごく違和感があって。
 で、厚かましいけどミラーって言ってくれるとありがたいわ」

すこし慣れたのか語尾が砕ける。エミとは結構話してうち解けていたのであろう。
「じゃ、これからミラーって呼ぶワケ。ミラー、タイガーとも会えたし急いだ方がいいんじゃない?」

いわれて、はっと時計を見る。

「いっけなーいい!! まだ、手続きとか、挨拶回りとか結構残ってるんですよ!! エミさん、今日のところはこれで失礼します。
 タイガーさん、急にお呼び立てしてごめんなさい」

急いで挨拶して飛び出してゆく。まもなく、遅刻よ、遅刻〜〜タクシー!! といかいう声が窓越しに聞こえてくる。

それを聞きながら、少し冷静になったタイガーが
「いきなり雇ってもいいんですかノー?」とつぶやく。

「ふふふふ。タイガーは会っただけだから無理ないけど、彼女ホーリーマジック、特に防御・治癒系の使い手なワケ。
 それに、マカオは魑魅魍魎が跳梁するところで、確かに免許取得は楽。
 だけど、営業免許とるまでにつぶれる奴が多いので有名。彼女、営業免許たった2ヶ月でとってるわ」

今日、アポイントを取りに来た彼女を、午前中、時間が空いていたので引き留めて能力を見ていたのだ。
彼女がいれば霊体撃滅波による近接攻撃時の防御、反呪い返し、それに負傷時のヒーリング。
タイガーの負荷と現場で描く魔法陣が相当に減りそうである。

「と、いうことは日本の営業免許をとるためですかノー?」

日本はその複雑な地脈の関係で霊障が多く、しかも枯れても経済大国。近隣の一流GSは自然と日本に集まってくる。

外国の営業免許でも、国際免許を発行してもらえば日本でも営業できる。
だが、日本の霊・妖怪を祓って、日本の営業免許を取得した方が信用がグッとアップする。
特にエミのような実績のあるところで除霊証明を出してもらえれば言うことがない。

「そう、その辺ね。百鬼抜きなんて彼女なら幽霊屋敷を数軒で終わりね。
 やっぱり一流には一流が集まってくるワ。ガキかき集めてるところとは大違いよ!」
エミがニコ目で悦に入っている。

と、言うことは、ここもこれから横島サンのとこ以上に美人がいっぱいになるのかノ?
おいしい、オイシイノー!! 時代はハーレムジャー!!!

もわわわわ〜〜〜んと
煩悩魔並の妄想でトリップしたタイガー。
サイコメトラーならずとも、ちょっとした霊能者なら妄想映像がタイガーの頭の回りに蠢くのがはっきり判るだろう。

「・・・・・・・・」

それをしばらく黙ってみていたエミがさめた茶をぐいっと飲んで冷や水を浴びせかける。

「初対面の美人に真っ赤な顔でニラくさい息を吹きかけているようではモテないワケ」






「ふう。疑われずに雇ってもらえそうね」
ミラーがタクシーの中で小さくつぶやく。

「ちょっと能力見せすぎたかしらね。あんまりセーブすると雇ってもらえないし。
 我ながら防御が得意なんて吹いたもんだわ。うっかり攻撃しないようにしないと」

タクシーから私鉄へ乗り換え、ゲッキーを囓りながら誰もいない真っ暗な相模湾へ。
残ったゲッキーを口に放り込み、袋を口の上でパタパタとはたく。

そして結構高い波間へ飛び込む。
沖合で膨大な海水をゆっくりと動かし、真空のトンネルを造り出す。

音もなく出現した回廊が安定したのを確かめ、300mもの白い翼を広げる。

海中を霊体レーダーも、世界最高密度の潜水艦探知網も、さらには東海竜王の警戒網をも巧みによけながら北米大陸へと超音速で突き進む。
その後ろでは用を終えた回廊が速やかに、静かにつぶれてゆく。

「瞬間移動も空飛ぶのもダメで北米で仕事して日帰りなんて!!
 それにわかっちゃいたけど久々の人界は霊気がすごく薄くなってるわね。

 うっかり持ってきた霊力使い切らないようにしないと。冥界チャンネルから出る霊力なんて屁の突っ張りにもならないわ。
 アシュタロスの奴もこんなとこでよく暴れたものね。

 ま、今日・明日で、ダインと一緒にアメリカの残りの霊的拠点に細工すればとりあえずは終わりね。
 妙神山〜ヒマラヤ〜アトラスージブラルタルというやっかいなのが残るけど、
 この地上駐留最強神族のハヌマンが守護してるからさすがに私とダインだけじゃ無理だし。

 ま、あの時に一気ににやればいいんだけど」

つぶやく間にサンフランシスコ湾に到着。

海中から出るとミラーそっくり、髪の毛の色がちょっと違う程度、の美人が車から手を振る
「よ、ご苦労さん。早速行こうか」

「ちょっとは労ってよ。ハイ、おみやげ」
ゲッキー一箱を放る。

「さんきゅ。まずはグレートソルトレイクからよ」

発進した車のボンネットからはピストンシリンダー音とは異なるうめき声のような音が聞こえるが、
二人とも全く気にしていない。燃料が何かは聞かない方がよいだろう。

「砂漠は目立たんからとばすよ」

「って!! 空飛ばないでよ!! なんのために気を遣って海の中通ってきたとおもってんのよ!!」

「だいじょーぶ、大丈夫って低くしか飛ばないから」






その頃、小笠原オフィスの地下。陽気な地上部とは違い、呪詛の陰鬱な気が色濃く漂う。

掘り抜いただけの土石むき出しの床や壁から地の霊気が立ち昇っている。
巨大な蝋燭が髑髏を象った燭台に起立し、黄色い光をはなっている。
が、光は辺りに濃い陰影を作り出し、闇を払わずに招き寄せているかのようだ。

床には黒い雌牛、黒い雌鶏、巨大な蛙などの生け贄が血を流し、複雑怪奇な魔法陣と共に名状し難き模様を造り出している。

虎人を従えた、黒き呪術師はその長き髪を揺らし踊り狂いながらながら呪文を唱える。

「・・・・・、バグス、オー、ンガフィエ、サモン、ベールゼブブ」

傍らの虎人は冥楽をしらべ、魔薬を祭壇にくべる。その煙と共に奇っ怪な魔法陣から瘴気が立ち昇り、地下室全体に籠もる。
瘴気は魔力を帯び、魔力は形骸を綯して、声を紡ぐ。

「・・・・我を呼ぶのは誰かぁ・・・・」
魔力を帯びた霊圧がたかまってゆく中、音なき軋るような声が地下室全体から魂に響く。それと共に辺りがすう、と暗くなる。

「高き館におわす偉大なる蟲王を呼び立てまつるは、小笠原エミ」
呪術師は舞踏を止め、虎人と共に脂汗をしたたらせながら平伏し言葉を返す。

ベールゼブブ=バアル大王は蛙、蛇、蠍、鼠、蚯蚓、蝿、蜂、蛾、蜘蛛、ゴキブリなどのいわゆる“蟲”を中心とした動物怪の魔神である。
どこぞの人間につぶされたたかが“ハエ”の王とは格が違う。

「召還主は趣旨を述べよ・・・・・」
ねとり、と闇が絡まり、纏まり、形を綯し声を続ける。

「おお、我の願いを耳に入れて頂き有り難く存じあげまする。
 我、力がなき故、困難に遭い、偉大なる王の無き地で難渋しておりまする」

エミが拝跪しながら続ける。

「我をたすくる者をお遣わし願いたく「あー、もうウゼェ」

瘴気が完全に形を綯した。
160cmはなさそうな小柄な体に、目つきの悪い三白眼、昆虫じみた鎧を着た魔族が、
ぴょん、と飛んで前へ出、いらついた声を出す。
どう見ても下っ端の小悪魔である。

後ろでタイガーが四大実力者ってこんなもんなんジャー?
とあきれて、エミを見ると滝のように脂汗を流している。
見かけを信じるなと言うことであろう。

「アシュの奴が居なくなったおかげでこちとら大忙しなんだ。虚礼は廃していこうぜ」
頭に生えた2本の触覚とも角ともつかぬものをふりたててイライラとした声を上げる。
虫人のようにも龍人のようにも見える。

アシュタロスが抜けたため現在バランスが神に傾いている。
そのため、こんどの騒ぎで失われた魔族はすべて元の存在に復活しつつある(約2名除く)。
その調整が大変なのだ。

それどころか空いた穴が大きすぎてかなり以前に失われた奴まで復活しつつある状況なのだ。
もちろん神族側はタダの一人も復活していない。
死ねば転生コース、高位なら魔族行きである。

未知への畏れが失われて久しく、神も魔もなかなか新しく生まれない以上、仕方がない。
おかげでますます地上に不信心者が増えるであろう。

「つまりはオレの部下を出向させろ、ということだな?」
どっから取り出したか、ぱらぱら帳面をめくる。

「オガサワラエミ。ということはおめえのライバルのミカミレイコを出し抜きたいんだろ。となると難しいぜ?
 おめえGSだろ? 人の魂なんか出せないだろ?
 人界で、しかも召還された状態でおめえたちとタメはれる魔族となると結構高位だからな」

なんだかんだいっても人界は生きた人間や妖怪の世界なのだ。
霊基構造がそのまま皮をかぶったような神魔はその力を封印されているようなものだ。

神話時代より魔力の薄くなった現人界ではハーピークラスは刺客くらいにしかならない。
魔力に制限がかかるので、デミアンクラスでも理性が弱くなり攻撃衝動を抑えにくくなる。
しかも目に写るのは明らかに自分より遙かに弱い“人間”なので油断してしまいがち。

一流GSや魔導師を相手に安定した力を出そうと思うと小竜姫のようにどこぞの霊的拠点にくくられなければならない。
さもなくばジークやワルキューレ、はてまたはメドーサなど、神話でも主役級の名の知れた魔族になってしまう。

これを出向させるとなると処女の生け贄や敬虔な神父の魂の何個かは欲しい。

しばらくしかめっ面しながら帳面をぱらぱらめくっていたが、
とりあえずホントに下っ端を出してくる。

「サッキャー!!」
「こいつはどうだ? 安酒だけでいいから安上がりだぞ」

「申し訳ありませんが、人を酔いつぶすだけではチト」
エミが脂汗を滴らせながらもキッパリと拒否する。

次にウマヅラを出す。
「ブヒヒン♪。よい子にはよい夢を見せて上げるわ」
「人間や妖怪なら、まずどんな奴でも眠らせるし、かなりの神魔でもOKだが?」

「夢を見せる以外は低級霊並「やはりだめか」

くくっ!! 気張らないと窓際のクズを押しつけられるワケ!!
ますます脂汗をしたたらせる。
ううっ、やはり人間なり、妖怪のニエがないときついかも・・・・・!!


「ま、うちで引き取ったアシュの奴の部下なら格安で出せるか」
ベールゼブブが首をかしげながらつぶやく。
「おめえほどの魔導なら恩売っといてもいいな」

ぼそっとつぶやいた後、黒いハエを出す。

「こいつは? 分身をメチャ作れるし、どんな結界でもすり抜けられる。偵察や工作はお手のものだぜ?
 それに俺の霊破片を基にアシュタロスが作ったから基本的には俺の能力は全部使える」

「横島のアホウに2回も一発で全滅させられるマヌケはちと」
これも即刻拒否。
横島に負けるようでは令子にはまず役に立たない。

「だめか? 格安だと思ったんだがな」

残念そうにしてから、次にパイパーを出そうとしたのを見てエミも地が出て怒鳴り出す。

「せめて、ベリアルぐらいのを!!」
「彼奴はバチカンで封印されてるぞ・・・。あんなことしてもらったらこっちが困る」
「終わったとたんに襲いかかるような契約なら仕方ないわ! そうならない方をお願いしたいワケ!!」
魔王相手に柳眉を逆立てて怒鳴り上げる。

「大将、それならまず条件の提示だ」
ベールゼブブの方も本当にチンピラそのままの口使いで指示する。

「これなワケ。こっちが紹介料、そっちが来ていただく方への前渡し。で、後は応談」

エミが後ろのニエの山を相手の視界に入れる。牛や山羊などのかさばるモノは特殊な札に封印して一頭づつしか表に出ていない。
見かけ以上に質量共に豪勢なニエである。

何が気にいったのか、ベールゼブブがニヤリと口をゆがめる。
「ほほうこれなら行く奴がいるかもな・・・・。オイ、おまえらでこの条件で行っていいって奴?」

ニエを見て、一部の小物が色めき立つが、そこは実力主義の魔界。一人の女魔族が一睨みで黙らせる。

「いいねぇ。美神令子か。横島の奴も居るんだろう? 奴らにはだいぶ借りがあるからねぇ」

豊満な胸、腰まで届こうかという長い髪を揺らし、鋭い顔の口の片端をニィッと吊り上げる。
「私じゃ不合格かい?」


その見慣れてはいないが知った顔が出てきたのでエミも意表をつかれる。
「おたくが・・・・。この程度でいいのかい?」
「私は人界の方が長いからねぇ。復活してちょっと魔界の空気を吸ったら戻りたくなったんだよ」

そこでベールゼブブの方に向き直り、お伺いを立てる。
「ボス、引き取って頂いて、転換の基礎訓練が終わったばかりですが?」

「ちと惜しいがいいだろう。たしかにおめえは人界で動く方がいいな」

少しは渋るかと思ったが、そこは三大実力者の一人。
細かいことは気にしないようだ。


いうなり空中に契約印を紡ぎ出して書き換える。
エミの目の前でそれが燃え上がり、双方にからみついて効力を発揮する。
これで、エミに括られた状態だ。仮契約完了である。

「では俺は戻るからな。後は精々契約料弾んでもらいな」

ベールゼブブが魔法陣から、ニエ共々姿を消し去る。それと共に地下室の陰鬱な気配が嘘のように消え失せる。

「じゃ、条件を詰めようか?」
残された女魔族が、魔法陣から身を乗り出して交渉を開始。

「ではまず、冥約条項2条13項を上限いっぱい666秒にした時のペナルティは?」
「蛙と鶏をもっと増やしてくれ。それに3年ぐらいの契約にするなら無しでもいいよ」
「話が合いそうなワケ! 昔の敵は今日の友ね! それはそっちの要求を丸飲みするわ。次は・・・・」

(ええんですかいノー)
契約が済んだあともにこやかに悪巧みをする二人を首をかしげて見やる。

(やっぱりここのオフィスも横島サンのとこなみに美人で一杯になりそうな気配じゃノー)

エミの向かいに座る豊満かつ引き締まった肉体をもつ女魔族にホケーと目を向けながらなんとなく納得したタイガーであった。

(美神サン以上にきつそうじゃけん、あっち以上の化け物屋敷になるかもしれんがノー)


こちらは魔界の自分の巨大な館に戻ったベルールゼブブ。

「さすが小笠原の大将だ。ゲッキーとは若くても気が利いてるぜ。これをリリスんとこもってきゃリリム達に大もてだな」

山積みの雌鶏や酒樽、食用蛙それに特殊な札に封じられ、表に一頭だけ出ていた雌牛や雄山羊などは部下にくれてやり太っ腹な所を見せた。
が、ゲッキーだけはちゃっかり全部自分のところに取り込んだのだ。

このヤモリ入りジャンクフードは今、神界魔界では取り合いになるほど大人気なのだ。
それがコンテナ一杯も手に入れば自然と顔もにやけよう。


「ふっ、久しぶりに人界に合法的にちょっかい出せるって言うもんだ。
 あの事件の功労者にサービスすんだ、文句の出所がないぜ」


執務室でせっせとリボンを付けてはゲッキーを袋に入れていると、外から部下達の歓声が聞こえてくる。

    「おーっ! 田嶋の黒毛和牛。しかも熟成済みで食べ頃だ!!」
    「こっちは黒シャモじゃねぇか! さすが枯れても金満飽食国の贄は違うねぇ。ガキが喜ぶぜ」
    「この樽、腰乃寒梅じゃねえか? 人界でも手に入りにくいて言うぞ!」


その声に紛れるように女魔族が入ってくる。

「お、やっと終わったか? 調子はどうだ。人界は慣れてるとはいえしんどいだろ」
「いえ、すこぶる調子がいいです。アシュ様のおかげですね」

ベールゼブブがリボンを付ける手を止め、アシュタロスの元部下の女魔族の口元を見、ぼそ、とつぶやく。
アシュタロスの名を聞くとバアル大王の目にも感傷的な色が浮かぶ。

「アシュのやつ・・・・、彼奴は昔っからまじめで思い詰める質だったからなぁ」

記憶さえ失わなければオレなんかより……と続けて言いかけて口を閉じる。

まだ、口に出せる事柄ではない。ヘタすれば後300年は黙っていなければならない。
彼とて記憶を失ったアシュタロスとは違い神と魔の存在意義はよくわきまえている。
自分が下手なことをすればどのようなことが起こるのかもだ。

その辺の神や魔と違い彼は最も旧き物の1人。

「ウルドもずっと気にしてたしな」

運命の女神の1人が脳裏に浮かぶ。ある意味最高指導者をもしのぐ影響力を持つ3人。
ウルドと3女神が脳裏に浮かぶと連鎖的に出てくる競争相手かつ旧い盟友の1人とその女。

(やれやれ、ウルドもなに考えてんだか。俺に陰謀などやらすなよ。マッタク。
 後でサタンとルシフェル、少なくともサタンのヤツはをぶん殴らんと帳尻が合わんな)

どうせ女のルシフェルはその場になれば殴れないに決まっている。
女ってヤツは全く始末が悪い。魔族でもだ。

旧くから関西弁を使い続けるおちゃらけた、それで居て最強の魔王を思い出す。

(永かったがヤツには結局一度として勝てなかったか。女でも闘いでも)

ひたすら長かった。うんざりするぐらいにな。最後のつめを間違うな、か。
うまくいけば俺もやっとお役ご免だ。


目の前の女魔族はそんなバアル大王の心の揺れは感知しなかったようだ。
「この体はアシュ様の命と引き替えに貰ったようなもんです。アシュ様の夢のためならなんだってやります」

女魔族が自分の体を改めて、しみじみと見回す。我ながら見事な体だ。
以前とは大違いだ。

それを見ていたベールゼブブがあらためて卑猥な顔と手つきで誘う。

「確かにすこぶるつきの美人だな。行く前に一発どうでぃ。もしかすると、もう会えんかもしれんしな」



相手は二千年は劫を経た魔物とはいえ
ベールゼブブからしてみればだいぶ年下の若いねーチャン、いや嬢ちゃんに過ぎない。

しかし聞いた女魔族は真顔で向き直りニヤリと嗤って拒否する。

「いえ。この体はアシュ様の物ですから自分の一存では。新しい世界でアシュ様に言いつけますが?」
「それは勘弁してくれ。万が一成功すればアシュは造物主だ」

ベールゼブブもおどけて、ゲッキーもリボンを付け大袋に入れ終わって首をすくめる。
「しゃーない。リリム達と遊んでくるわ。死ねない以上楽しまにゃ。アシュのヤツの分までな」
「戦しか知らぬ魔界の黒龍王とまで言われたバアル大王でも遊ぶんですか?」

女魔族が軽口を叩きながらも敬礼するのを尻目にきらきら金色に光る巨大な蝿の姿―早い話がクソバエ姿―になって飛び上がる。
もちろんリリスの水晶宮へ行くのは女遊びのためだけではないだろう。

「女は別。片づけも一段落したし、ま、せいぜいサービスしてやるとするか」
笑いながらつぶやいたのは、誰に向けた言葉か。

「ええ、アシュ様の分までお願いします。あの方は確かにまじめすぎました」

女魔族が腰まで届く紫水晶の髪をたくし上げ、蛇の本性が出た縦長の瞳をきらめかせ地をだす。もはや敬語はない。

「頼むよ、同志ベールゼブブ。私も今度は本気で暴れるさ。ゴルゴンの名にかけてね」






一方、全てが終わった小笠原オフィスの地下では、まばゆい蛍光灯の下でタイガーがのんびりと後片づけをしていた。

パンパンっと呪術画がかかれた羅紗地を畳むと同じ色の雄鶏が一羽出てきた。
持って行き忘れだろう。

「エミしゃん、これ、貰っといてもイイですかノー?」

が、エミは拳を握って打ち震えており気がついていない。
返事がないのをいいことに、いそいそと最高級の黒シャモをしまい込む。

(明日は、魔理サン呼んで鳥の丸焼きパーティーじゃー♪)

「勝てる・・・・・、これであのもてないイケイケ電気女に勝てるわ!!」

なにせ、小竜姫を戦闘不能に陥れた実力者だ。
自分もその力を間近に見、そのでたらめな力は何回も他の人からも聞いている。
しかも、この契約料と危険性の少ない契約条件、言うこと無しである。

ベールゼブブと直接取引したかいはあった。
仲介手数料だけで数億単位のニエが消えたが些細なことだ。

「ふっふふふっ! ミラーとあわせりゃ、令子なんかこれでペペペのぺーよ!!
 煩悩魔とクソ女は一掃しておキヌちゃんを引っこ抜けば名実共に小笠原オフィスは業界No1!」


霊衣霊装、羽根飾りまでつけたエミが哄笑し踊り狂う。


「次からGSエミ 極楽魔法無宿!! で、リニューアルで連載復活よ!!」


それを聞いたタイガー、血よけのブルーシートを畳む手を止めて、血の涙を流しながらふるふると顔を振る。

「エ、エミしゃん、それはない・・・・それはないと思うんジャー………‥‥」


源氏物語風美少(幼)女育成という鬼畜な連載の人気が出てるようなんジャー!!
もうワッシら描いて貰えることはないんジャー!!


to be continued


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