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復活

残酷な現実!


投稿者名:ETG
投稿日時:07/ 7/20

「もういいでしょ〜〜〜〜」
「もうちょっと!! このへんのギャザーの折り目が」
「そこまで凝らなくてもー」

ルシオラをステージならぬ応接机の上に置いていじり回しているのだ。
着せ替え‘ルシちゃん’人形で遊ぶのが、おキヌの近頃の日課だ。

今日は土曜日なので遠慮無く、もう3時間もとっかえひっかえいろんな服を‘造って’いる。

余裕のない横島はまだ、おキヌに式神服を預けっぱなし。

で、おキヌは練習とか、ルシオラさんのためとか称して、
六女から帰ってくると鞄を置くやいなや毎日‘ルシちゃん’を着せ替えているのだ。
たまに、いやけっこうおキヌ自身も着て遊んでいたりする。フリーサイズ・フリー形状の便利さだ。

「ダメですよ。せっかくなんだから最初はきちんとしとかないと」

いったん作った服はプリセットされて次からはすぐ出てくるようになる。

裁縫の心得のないおキヌにしてみれば、自分の思うとおりの服が出てくるのが面白くてしようがないのだろう。
しかも気に入らなければすぐ修正ができるのだ。

しばらくスカート折り目がうにうにと動き、固定する。

「私は丈がもすこし短い方がいいわ」
「なるほど」

ふたたびうにうに。

次につば無し帽の飾りリボンを臙脂色に。
「うーん、派手過ぎか―」
山桃色、チェリーピンクへと変わってゆく。

「もう少し薄くならないかしら? それに真ん中に萌葱色の線入れて欲しいな。
 幅ももう少し狭い方が」

ルシオラも鏡とファッション雑誌を睨めっこしながら、なんだかんだとけっこう注文つけている。

「靴下はフリル付きの白、と」

次にブラウスをいじり出す。


「きゃー!! かわいいー!!!」
とうとう思うようにいったらしく、抱きしめてほおずり。


「おきぬちゃん、ぐるじ〜〜〜〜!!!」

ちっちゃなルシオラが自分も鏡を見ようとしたとたんに抱きしめられ、
おキヌの控えめな谷間でじたばたと暴れているのを、
窓の外から横切りながら覗き込んで呆れ顔で通り過ぎてゆくのは獣っ子二匹。


「おキヌどのも好きでござるな」
「飽きずによくやるわねー」


シロタマが散歩と狩りから帰ってきてもまだやっている。
この2匹はまだまだファッションなどとゆーものには興味はなさそうだ。
シロもタマモも去年の秋と同じ格好である。
タマモは自分自身が化けれるので服などいくらでも自由になるためかもしれない。
それでも全く変えないと言うことは、やはりあんまり興味はないのだろう。

そんな二匹でも見かけは女子中生。普段着で血まみれのでっかい猪を引きずってるのは、とてつもなくシュールではある。

「ちゃんと狩猟許可証は持ってるでござるよ!!」
「誰にいってんのよ?」



「おキヌちゃん、もーいいでしょ〜〜?」

ルシオラも文句をいいつつも、応接机の上で鏡を覗き込んでは、右左と見てくるくる回っている。
だいたい、横島を高校にほっといてここにいると言うこと自体がホンネをよく表している。
その横には令子のファッション雑誌が山積み。

さすがに令子はつきあっていない。

「そろそろヨコシマを迎えに行かないと〜〜〜」
「もう一着、もう一着だけ! こんどはこのお姉さんぽいの」

とかいっていると冥子がご出勤。机の上の卓上蛍光灯下のルシオラを見るなり

「あ〜〜〜ルーちゃんかわいい〜〜〜!! 冥子にもやらせて〜〜〜〜」
これも恒例だったりする。
「今日は横島クンのぬいぐるみ持ってきたの〜〜〜〜。タダオ君よ〜〜〜〜」

さっそくルシオラと並べて遊び始める。



こちらは裏庭で猪を解体せんとするシロタマ。

「毛はキツネ火でもやしちゃおか?」
「ちゃんと剥いだほうがいいでござる。拙者らはともかく美神どのや先生が食べにくいでござる」
「そうね。めんどーだけど」

物干し竿を軋ませながら獲物の口に鈎を引っかけて吊りあげるシロタマ。
あとでおキヌに怒られるぞ〜〜〜。

「よし! これで皮を剥ぐでござるよ」
霊波刀で、歯と唇の間に切れ目入れると、一気に丸裸にする。

「肝を下にこぼさないでよ?」

お次に霊波刀をハンドオブグローリーに換えてシロが引きずり出した内蔵をみて
タマモが目を怪しく光らせて舌なめずり。
薄く開けた口の端に鋭い犬歯が覗く。

生き肝は上古からの妖狐の大好物であり霊力源である。
近代的な油揚げもよいがたまにはこういうのも良い。
もっとも良いのは毒蛇の肝だが、ここ日本では蝮ぐらいしか居ない。
令子に霊力補充されて過負荷→解放を繰り返して急成長しているので、どうしても食欲旺盛になる。

「あれだけ何匹も蝮を食べてまだ足らないでござるか?」

剥いだ皮で内蔵を二人で受けながら,ちょっと呆れるシロ。
タマモがこんなに食べるとは思ってなかった。
シロが捕った冬眠前で丸々肥えたのをも全部食べちゃったのだ(野ウサギは全部シロが喰った)。

「しかたない、代わりに骨は全部拙者が頂いていいでござるな?」

ま、食欲の秋、といことである。

「骨やヘビはコラーゲンたっぷり(本当)でお肌にいいんでござるよ!!」
「だからさっきから誰にいってんのよ?」



などなど事務所の面々が女の子らしく、ファッションを、食べ物を、と堪能している頃、

横島とタイガーは土曜日すべてを使った補習と試験の繰り返しで痛めつけられた気力を行きつけのラーメン屋で養っていた。

「あ、あのサド教師どもめ!! 覚えてない所、わからん所を集中的に出しやがって〜〜〜」
「横島サン、過ぎたことは忘れるんジャー!! とりあえず、ワッシらも中間考査の赤点と出席不足がなくなったんじゃー!!」

タイガー、座るなりどこぞからルシオラのブロマイドを取り出して三拝九拝する。
「ルシオラさんに大感謝ジャー!!」
「てめ!! それは俺んだ!! 勝手に拝むな!! 頬摺りするな!!!!」
「細かいことはなしジャ!! 誰もとれないんケン! これはワッシの守護女神ジャー!!」
「てめえの女神はエミさんだろうが!! 浮気すんな!」

Lサイズの印画紙を仲良く取り合いをしてじゃれ合う横島とタイガー、
双方とも先週の補習は諸般の事情により二人仲良く落ちていた。
(双方、主に雇い主の横暴のため)

いったんは、事実上の留年宣告を受けていたのだが、次の土曜日での再挑戦が許されたのだ。
教師の方もこんな問題児どもをもう一年おいときたくはないのかもしれない。

そして二人して金曜夜にルシオラにサイコダイブで知識を刷り込んで貰ったのだ(拙SS:ルシと忠夫の平凡な日常―学校編―、参照)。
やっているときは血を吐く思いだったが、おかげで2度目の追試は“良好な”成績で突破した。
タイガーの方がなぜか負荷が少なく、成績も良かったのは横島の名誉のために伏せておこう。


横島はブロマイドを回収するのをあきらめると“学生さんサービスセット”を注文し、油くさいカウンターに突っ伏す。
これは餃子が付く上にニンニク・ネギ・キムチ大盛り無料、替え玉30円でお得なのだ。

「卒業するにゃ、期末、それに3学期にまたやらにゃならんのだろうなー」

双方結構なバイト料をもらっている(タイガーもGS免許とって上げてもらった)がビンボが身にしみているらしい。
自分の財布からは一食800円などという王侯貴族のような贅沢はできない体になっているのだ。
また、少なくとも横島はそんな小遣いをルシオラ+おキヌの両財務大臣
(拙SS ルシと忠夫の平凡な日常―事務所編 参照)から支給されていない。

「これから深夜まで命がけのバイトか!! 死ぬかもしれん試練や!!」
「ベタじゃノー。同感ジャガ」
とりあえず、カビくさい氷水を2杯あおったタイガーが同じ物を注文し、同意する。

「美神さんが電気で霊力ふやせるわ、冥子ちゃんがメンバーに加わるわで依頼の難易度がめちゃくちゃ上がってるんや」
横島が突っ伏したまま顔だけタイガーの方を向けて愚痴る。

六道祈祷所との分業で難易度の高いものを美神事務所で行うことになったのだ。
気を抜くことのできるCなどというレベルの除霊は激減した。
おかげで事務量は減り、命を的にビッグマネーを追え、稼ぎも増え、しかも昼まで寝てられることも多くなり令子はほくほくである。
もちろん海外などの依頼も増え、横島はますます補習に頼ることになっている。

「おまけに美神さんは練習と称していつも霊力満タンやからな。ちょっとセクハラやミスしただけでシャレんならん」
 こないだなんか、思わず出した文珠の結界、神通棍の一撃で叩き割られたんだぞ!!」

もちろん、その時はセクハラ+文珠の無駄づかい+女王様に逆らった、で折檻は3倍増しだった。

続けて、霊力が事務所で一番多く蓄えられるのはいいが、
その割にはやっぱり美神さんより攻撃力の低い俺は、結局やっぱり荷物持ちで霊力補給車代わりだの、
おキヌちゃんなんか空飛べるようになってヒャクメ並だの、
シロのサンポが人狼の里までの日帰りが普通になっただの、
タマモにしょっちゅう化かされるだの、
なぜか文珠は増えんだの、
冥子ちゃんの暴走に巻き込まれるってか盾にされるだの
ルシオラの攻撃力まで上がって覗きのたびに黒こげにされるだの
それ以前に女湯や更衣室にちかづけないというグチが延々と続く。

「な〜〜んにもヤらしてくれへんのやから、覗くくらいええやないかー!!」
ガバと跳ね起きて子供のようにじたばた、ぶんぶんと手足を振り回す。

「もーこうなったら、美神さんだけやのうて、おキヌちゃんもシロタマも覗いちゃる!!」
最後の良心を捨ててしまうのか? 横島!

「近頃、ルシオラが覗きやナンパなんかをぜーんぶ、みんなにチクるんや!!!」
ぐちぐちぐち、延々と終わらない。

「最初の頃は一緒につきあってくれてたのに〜〜〜〜」

それの方が間違ってると思うぞ。

最初の頃はこれも式神の義務かしらんと、井桁を貼り付けつつもつきあってたルシオラだった。
が、今はおおまけにまけて、‘事務所でのみ’見て見ぬフリをしている。

「その頃に撮ったお宝なんかは結局全部焼かれたしな〜〜(拙SS、電撃クイーン! 3参照)」

あの直後の美神さんとおキヌちゃんのダブル折檻は思い出したくもないなー。
おキヌちゃんに心眼半開で睨まれたら吐くしかないもんなー。

令子に霊力補充されたときのおキヌに隠し事は物理的に不可能なのだ。

よーするに内からルシオラ、外からおキヌに監視されて完全に鈴猫状態なのだ。
もちろん、暴力制裁装置:美神令子、の威力はハンパではない。

「いいことと言えば、霊力が増えたんで文珠が4つくらい同時に使えるようになったことぐらいか。
 けど、半月分を一気に使っちまうから結局使えない」

再びカウンターに突っ伏して愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴。



「それはすごいんジャー。でもそのおかげでこっちも大変なんですケン」

聞き役タイガー、盛大なため息をついて、こっちも聞いてくだせーと愚痴役にまわる。
もー高校生にして二人とも中年サラリーマンの悲哀を醸し出している。

「美神サンの霊力値を見たエミさんが怒り狂ってノー。今日もこの後、結構危険な召還術につきあわされるんジャー」
八つ当たりを喰ったタイガーは横島ほどの回復力もなく、何度も三途の川を渡りかかったのだ。

「悪魔を呼び出して、美神サンを超える攻撃力を手に入れるおつもりなんですノー」
「へっ? エミさんには500マイトとかの攻撃力のあるやつがいくつもあるじゃないか?」

出てきたラーメンを前に割り箸を割りながら横島が頓狂な声を出す。
呪術師のくせに霊体撃滅波や貫通波など一流ファイターの令子並みの近接攻撃力を誇るエミが、呪的舞踏や魔法陣などで気をため、
得意の遠隔攻撃をしたときの威力は半端ではない。

だいたいGS協会発表の公式表に出ている最大攻撃力は十二神将の冥子でも、文珠2つ使用の横島でもなくエミがダントツ。
あの死津喪比女を触手に呪いをかけるだけで倒せるのだ。

いくら植物病原菌に呪いを乗せても、病原菌が死津喪を倒すわけではない。
倒すのはあくまで呪いで菌は触媒・運び屋に過ぎない。


「それはそうなんじゃが、500マイトもの攻撃をしようとすると色々準備が大変なんジャー。
 横島サンの文珠と同じで切り札ジャケン。いつもは200とか300マイトくらいの攻撃呪法ジャ。
 それと同じ力をたかが神通棍でバシバシ連続で振るわれたらたまりませんノー。
 遠隔攻撃呪術は敵を直接殴れる神通棍と同じには扱えないですケン。しかも美神サンは電気でいつでも霊力回復できるんジャ」

自走砲や爆撃機は戦車や戦闘機の何倍、何十倍もの攻撃力がなければ価値がなくなってしまう。それと同じなのである。

なるほどな、とラーメンをずるずる啜りながら納得する。
美神さんは道具ザック一杯で済んでるけど、エミさんはワゴン車で移動してるもんなー。
エミさんは美神さん以上に道具と準備がいるわけか。

「で、何を召還するんだ?」

横島の問いにふるふると頭を振りながらタイガーが大げさに天を仰いで叫ぶ。
「ベールゼブブを呼び出して、その眷属と契約するおつもりなんジャー!!」

が、横島は要領を得ないマヌケ顔のままだ。

「あんなハエの、しかも眷属程度を呼び出してどうすんだ? 今の美神さんならたぶん一撃だぞ?」
「横島サンの言ってるのはベルゼブルじゃろう? ベールゼブブはバアル大王とも言ってアシュタロス並の実力者ジャ」

というかベールゼブブとは「偉大な宮殿の主のベール」と言う意味で、おもっきりベール大王となる。

タイガーが餃子を食べる手を止めて解説し出す。
「バアル大王は、ルシフェル、アシュタロスと共にいわゆる魔界の西方三大実力者の一人ジャ。
 神界ならミーカイル、ジブリール、ラファエル、ウリエルの四大熾天使で、
 双方東方にも実力者がいて、その上に最高指導者ジャー」

「え、神界はキリストとかアッラーじゃないのか?」
「横島サン、ひとのことは言えないんじゃが、もうちょっと勉強すべきジャー」

タイガーは横島がへーと聞いていることに気をよくして、得々と直接関係ない知識まで披露を始める。

「キリストというのは救世者とか預言者とかいう意味で、釈迦が仏陀といわれるのと同じじゃ。
 アッラーというのは造物主ジャ。それをゴッドと呼ぼうが、果てまたはヤハウェ、ブラフマン、盤古、イミール・・・・、
 ま、神魔を含めて、世界を真の意味で司ってる存在ジャノー」

できの悪い生徒に講義するように話すタイガー。
しばらくとうとうと喋っていたがふと自分のキャラを思い出し、

「と、エミしゃんに習ったんジャー。それに神界魔界のホントの体制は人間にはよくわかってないそうジャ」
最後に謙虚というか弱気の虎男であった。照れ隠しにキムチでライスをかっ込む。

そんなタイガーには気もつかず、頭の痛くなった横島が話を元に戻す。
「・・・・バーベル大王とやらが偉いのはわかった。それでその眷属の誰と契約するんだ?」
「それがトンでもないんジャー! バアル大王と直接交渉で選んで契約しようというおつもりなんジャ!」

アシュタロス級の奴と直接交渉しようってのはわかった。
エミさんらしいやな、と
横島がラーメンをずるずると啜りながら感心している。

アシュタロスの凄まじさは直接対峙したのでよくわかる。
ルシオラで頭に血が上っていなければ、まず小便ちびって逃げ出していた。
ベスパやパピリオ相手でも普通は声も出ないであろう。最初は怖くて諂うことしかできなかったのだ。

(そういえば美神さんも最初以外はへーきな顔でおちょくってたなー。
 ほんっと、一流どころはちゃうなー)

そこから、ふと、気がつき
「魔族なんかと契約したら免許取り消しじゃねーのか?」
というと、タイガーがさらに呆れ顔でそんなことも知らないのかいノー、とばかりに言い返す。

「横島サンがルシオラしゃん式神にしてから法律運用が変わったんだそうジャ。
 神魔のバランスが神側に傾いてることもあって、契約相手次第では大丈夫なんですノー」

なるほどなるほどと納得する。ルシオラを取り上げられたりしたらたまらない。
このへん、じつは美智恵と令子が駆け引きと裏金で奔走してくれたのだ。
横島はなーんにも気が付いていないが。

「そか、確かにワルキューレあたりと契約して免許取り消しでは納得できんわな。 おやっさん、替え玉ー!」

見当違いの納得をして最後のメンを啜り込みどんぶりをカウンターに上げる。

「あ、ワシもお願いジャケン」「まいどー」




「ところで、学祭はどうする?」
「除霊・追試以上の難問ですノー」

二人とも、美人が多いので有名な六道女学院の彼女持ちと認定されていて、
学祭を六女で宣伝し、彼女ら以外の女の子をごっそり連れてくるようにと仰せつかったのだ。
数が少なくても村八分、0人なんて言うことになれば男どもからフクロにされることは間違いない。
休みがちの授業のノートや代返なんかの調達にも差し支える。

みな、彼女持ちには容赦しない。
特に横島、両手に花束、豪華な蘭から清楚な撫子までよりどりみどりと思われて風当たりがめちゃくちゃ強いのだ。
それはもー、靴に画鋲が待ってたり、上から机がダイビングキッスをかますくらいに。

実態は、
「GS試験の映像が出回って、霊能関係者にはワッシら印象最悪ですケンノー」(誰が為に金はある?(4)参照)
タイガーも盛大にため息をつく。

「あいつら、GSの名を出せば後輩が来るぐらいにしかおもっとらん」
「全くですジャー」

タイガーはともかく横島は完全に自業自得だ。
品行方正にしていれば‘魔神殺し’で‘アシュタロス戦の英雄’の横島など黙っていてもモテモテだったろう。
タイガーにしても‘アシュタロス戦の英雄’の一人であることには間違いない。

なので、横島やタイガーが誘えば六女の霊能科の女の子10人20人は楽勝だとクラスの連中は思っているのだ。

しかしこないだのGS試験時の醜聞で二人して‘業界きってのセクハラGS’と言う名が
日本のいや世界の霊能業界に広まってしまったのだ。

こんな名では女子高生は誘えない。

「ピートをだしに何とかならんかなー」
「ホントにモテモテのお人には頼りたくないノー」

横島もケッとつばを吐くまねをする。
「あいつこそスカした顔しやがって、エミさんからアンちゃん、クラス女子はおろか下級生も総なめじゃねーか!!」
「エミしゃんなんかワッシに給料くれなくても、ピートサンはディナーに連れて行きますけんのぅ」
「うー、美神さんもこないだ西条と夜遅くまでどっかいっとったなー」

二人してカウンターに突っ伏して顔を見合わせ滂沱の涙を流す。

「「こんなにつくしてるのに報われない・・・・」」

食べて気を紛らわすラーメンももはやなく、しばらく二人してぴくりとも動かない。

「・・・・・それはともかく、どーする?」
「ノート調達できなくなると死活問題ジャー・・・・・」

油で光るカウンターに二人して突っ伏したまましばらくそのままいていたが、
タイガーがふと起きあがり、顔を輝かせて手を打つ。

「そうじゃ!! いい手を思いついたんジャ!!」
さもすごいことを思いついたかのようにつばを飛ばす。

「雪之丞サン呼んで、ピートサンと横島サンと総当たり戦をやるんジャー!!
 さすれば六女の霊能科は上から下まで全部きますケン!!」

前のGS試験の入場料は高かったので試験を受けた子以外は見ていない可能性がある。
少々セクハラ男でも観客席で見る分には問題なかろう。

聞いたとたんに横島が跳ね起きる。
「却下じゃ〜〜〜っ!!! 大却下!! 雪之丞と戦うのがどれだけ痛いか!! てめえがやれ!!」
「ワッシじゃ相手にも客寄せにもなりませんノー」

タイガーのつぶやきも無視して、ひとしきり吠えた後、
横島ががくぅと肩を落とす。

「やっぱ、おキヌちゃんに土下座するしか・・・・・・」
「普通科なら何とかなるかもジャ」
「だな・・・……‥‥」



替え玉入りラーメンが出てくる。
「ニラとキムチ、それに常連さん大サービスで少しだけどチャーシューもいれさせてもらいまっさ」

「サンッキュー!!」「ありがたいんじゃー」

二人して親父を拝む。ここの親父は自分と重なりでもするのか貧乏時代からこういう気遣いを良くしてくれる。
本当に貧乏だった頃は、チャーシューを他の客に判らないようにメンの下に足したりしてくれたものだ。


「そういえば、冥子サンはどんな?」
親父の気遣いに暗い話題を変え、こないだ横島を追い越して美神令子除霊事務所の正社員になったお嬢様のことを聞いてみる。

「聞いて驚くなかれ。月給1000円、勤務時賄い付き。それ以外は残業手当、休日勤務手当、成功報酬、危険手当なし、なぁんにもなし」
「1000円? 時給でも日給でもなく月給がぁっ!?」

低給には慣れているはずのタイガーがメンを噴く。

きったねーなこのくらいで驚くな、と横島が続ける。
「除霊道具、業務上過失損害は個人負担。無断欠勤遅刻は時間あたり10万円」

実は賄い付きは、令子が食事時まで緊張するのはかなわん!! と最後まで渋った。
冥子だけならともかく、シロタマや横島が居ては何が起こるかわからない。

しかし、最後通告‘冥子のうるうる’、「そんなに冥子とご飯食べるのがいやなのー?」で、慌てて令子が認めたのだ。
その時、冥子が「お給料は無くてもいいから〜〜」と自分からどんどん値下げしてこうなったのだ。

しかしタイガーにはそんなことはわからない。

「なんで一国一城の主がそんな条件で雇われるんジャー!!」
冥子は六道祈祷所の名目所長だったのだ。
「よく六道家が納得しましたノー?」

「六道家だから納得したんだろうなー。一般人なら飢え死に間違いなしや」
「そういう問題ですかいノ?」

ま、横島も本当の理由を知らないのでお気楽だ。
「一応副所長だからな。冥子ちゃん、俺の上司なんだぞ。
 まあ、雇われるってより修行しに来たんだろうな。美神さんハードやからなー」


「冥子サンが上司とは大変ジャノー」

タイガーも冥子の‘ぷっつん’はよく知っている。
令子やエミが三舎を避けるのだ。

本気で同情してくれる。

「上司に貢ぎ続けて報われないのはお互い様だ。がんばろうな」
「ですジャー」

お互いの肩を叩きながらうんうんと傷をなめあう。

ひとしきり二人でガッシと肩をつかんで男泣きにきれいな涙を流しあう。
それは美しい光景だった。

しかし,いつまでもそんなことはしていられない。
二人とも宮仕えの身だ。

さっさと顔を出さなければ鬼の上司に折檻を喰らう。

「そろそろ出ますかの?」
「ん。しまった!!」


うなずいて立ち上がった横島が慌て出す。
「財布!!」

「落としたのかノー?」
「いや、ルシオラや」

「結婚も卒業もしないうちから財布を握られてるとはノー」
タイガーが哀れみの顔で見る。


そこにルシオラ蛍がぶ〜〜んと飛んできて、ポン。
「ごめーん、すっかり遅くなっちゃったわ」

いつもの黒装束ではなくシックなスカートにボレロ、それにつば付き帽。



男同士の空気など全く読まずにカウンターの上でスカートの裾をつまんでくるりん。

「ヨコシマ、この服どお? 今年の秋イチオシだって」



振り向くと横島が居ない。




一緒に出てきたシロと冥子に両脇から抱きつかれて引きずられ、扉の外に消えている。

「せんせ、せんせ。拙者、今日は猪を仕留めたでござるよー!!」
「横島くーん!! 冥子寂しかった〜〜!!
 ずーっと補習で、しかも令子ちゃんが独り占めして除霊に連れてっちゃうんだもん〜〜〜〜!」

その声は店の外はおろかずーっと遠いところで聞こえている。

「あーっ!! ちょっと待ってよー!!」
ルシオラも急いでラーメン代をカウンターに置いて飛び出してゆく。

インダラで拉致られた横島はもはや全力疾走のシロと共に500mは先だ。


「ふ、フッフッフッフー!!」
後には手に藁人形で真っ黒になったタイガー。。

「チクショー!! とってもちくしょー!! 主人公補正ハンタイジャアァァァッ!!」

カンカンカカン!!!


一瞬で五徳にローソクまで取り出し、4打ほどで五寸釘を根元までぶち込む。



「???!! ぐぇぇぇぇぇっ!!」

インダラの上で横島絶命。さっすがエミの弟子である。
某煩悩魔とはスキルが違う。







「裏切り者は思い知ったんジャー!!」


難度トリプルSな除霊を一気に終わらせ、荒い息を整える。
しばらく肩を上下させていると、


ぷるぷるぷる。

その横で携帯がふるえる。

「ハイ?」

霊力不足で虚脱したタイガーがめんどくさそーに携帯をとる。
とった耳に聞き慣れた声が響く。

「タイガー。補習が終わってるなら急いで来て欲しいワケ」
「りょ、了解っ!!」

一気に気合いが入った大男。

これまたカウンターに料金を放り出し、
釣りもとらずにすっ飛んでゆく。

「まいど・・・・・・」
カウンターで揺れる野口英世二人と親父が見送っていた。


「あの藁人形片づけても大丈夫じゃろな?」


to be continued


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