椎名作品二次創作小説投稿広場


蛇と林檎

ゆずれない想い出


投稿者名:まじょきち
投稿日時:07/ 7/11




世界について説明しよう。
この世界は3つに分かれている。
人間のいる人間界(人界)、神のいる神界(天界)、そして悪魔のいる魔界である。
悪魔にも命はあり、社会があり、世界がある。
その頂点を『魔王』と呼ぶ。


「なんや、えらいイメージ悪いんやけんど。」

「陛下、これも魔王のひとつの顔です。ご公務はきっちりこなして貰いませんと。」

「わーとるわーとる。ま、そう何度もあることや無いしな。」


巨大な円形の競技場。定員以上の幾万もの観衆が、客席を立ち口々に歓声を上げている。
競技場内では、軍服に身を包んだ顔色の悪い兵隊たちが一糸乱れぬ行進を繰り返す。
その歩兵に挟まれて魔力砲や兵鬼が並び、上空には数多の機動妖塞が浮遊している。
そして、競技場のモニターには、

『戦勝2000年記念大軍事パレード』

そう記されていた。



「なにが戦勝や。キーやんとこに人間界押えられて、実質ウチは兵隊出し損やったやんか。」

「不用意な発言はマスコミが嗅ぎつけます。黙ったまま笑顔で手を振っていてください。」

「・・・・つまらん奴やの。ひねって返さんか、ひねって。」

「私は陛下がお作りになられた秘書官悪魔です。必要であれば交換をして下さい。」

「あほか。新しいの作ったかてネタの判ってる掛け合いなんぞ、楽しいわけあるかい。」


頭に太く捩れた角を持つ、幾重にも背に羽を持つ、悪魔の王。
豪奢で禍々しい玉座に腰掛け、肩肘を突いて、ひらひらとつまらなそうに手を振っている。
時折あくびなぞをしながら。


「そういや今日は人界不干渉条約の期限が切れる日やないか?大丈夫なんか?」

「大公爵閣下が天界で再締結の交渉を進めております。」

「アシュの小僧かいな。・・・いっそ、こじれて戦争でもおきへんかなー。」

「天界には『文珠』と『メギドの火』がありますので、戦争になれば負けますが。」

「わーとるつーとんがな、言うてみただけや。あーつまらんのー。」


魔界は同等以上の戦力を有しながらも天界と戦争はしない。
だが、魔界側は天界側に比べて圧倒的に人間界における権益を奪われたのに、なぜか。
単純な話で、魔界側は天界側と単に戦争をしたくないのだ。

それは天界側に文珠と呼ばれる秘密兵器があり、自分達が不利だ。
魔族上層部にはラグナレク経験者もいる。「メギドの火」も充分な抑止力であった。
同等であるはずの天界と魔界の不公平なデタントは、こうして維持されているのだ。

千年待っても来ない楽しい明日を夢見て、今日も退屈な悪魔王の公務は続く。




一方、メドーサロボ28号は巨体を揺らし高速度で移動している。
全長200m、重量9800tの勇姿は量産型メドーサロボの約8倍の大きさである。
足の裏から出すチロチロとした炎が、見た目とは裏腹に巨大質量を亜音速に飛行させる。


「ミス・美神・まもなく・妙神山に・到着します」


現状は既にメドーサロボ28号の運転席でも把握していた。
量産型メドーサロボ部隊の苦戦、そして八戒と名乗る神が未だ以って無傷であること。
赤い髪のパイロットは、運転を美少女アンドロイドに任せ、性能表を眺め思案していた。


「ホーミングレーザー、ミサイル、ビーム、シールド・・・ってことは、もしかして・・・・」


何かが美神の記憶の琴線に触れたらしい。
今度は操作説明書と解説書を手元に引き寄せる。
探し当てた該当の箇所を確認し、さらとページを流し読む。


「よし、おっけー!・・・マリア、因みにコレ脱出装置はついてるのかしら?」

「脱出シートあり・落下傘式・姿勢制御バーニア二機」

「落下傘式かー、うむむ。・・・マリア、こういうのは可能?」


美神の口唇が機械人形の耳元に触れるか触れないかの所まで近寄る。
その動きは非常に小さい。


「可能・成功確率78% ・ただし・ミス美神の生存確率・1.037564%」

「充分よ。・・・あとはウチの女神様のご加護次第ね。」



既に戦場と化している妙神山では、先鋒と猪八戒の死闘が終焉を迎えようとしていた。
地面に次々と墜落していくカラフルなメドーサ型の兵器。
対して天界の神は全くの無傷である。


『(ツピー)メドーサ赤、メドーサ青、全滅!戦力18%にダウン!』

『(ツピー)こちらメドーサ黒、メドーサ銀の全滅を確認した!もう駄目だ!』

『(ツピー)あきらめるな!我々は人類最後の砦だ!』


たかが2mちょっとのムキムキな人間型が、首を左右に曲げストレッチしている。
時折降り注ぐ弾頭や光線は、全て周囲で無効化されている。
『八戒。』とプリントアウトされたシャツには焦げ跡すらない。
神の手に持つ武器、釘鈀のみが敵のオイルの血を少々こびり付かせていた。


「やっと体が暖まってきたな。で?仲間がまだいるんだろう、まだこねーのか?」

『(ツピー)貴様ごとき前座は我々で充分!みんな、最後の踏ん張りどころだ!』

『『『『『(ツピー)了解!』』』』』

「おーおー、頑張るねえ。ま、俺はここを守るのが任務らしいからな。恨むんじゃねえぜ?」


量産型メドーサ隊。
白、黒、金、銀、青、赤、黄、緑の8部隊で構成されており、
各隊それぞれに10機の量産型メドーサロボが配備されている。
人口幽霊がそれぞれ搭載され、複雑な攻撃やコンビネーションも可能。
劣化ウラン弾、収束レーザー、クラスター爆弾、気化爆弾、ナパームなどを装備し、
恐らく表舞台に出れば世界の脅威にもなりうる可能性を秘めていたことだろう。

だがその可能性も、先程の最後の六機が撃墜された時点で闇に潰えてしまった。
最後の一機が稼動を停止したのを確認した荒ぶる神が、平手を立てて、胸元に寄せる。


「南無阿弥陀仏、でいいんだっけかな。仏法に帰依してる身なんだが、念仏は苦手でな。」

『ついでに自分の念仏でも唱えたらどう?』


轟音と共に、猪八戒のいた場所に巨大な足が現れる。
着地時の衝撃波で地面は大きく抉れ、擂り鉢状の穴が開く。
周囲の瓦礫も衝撃波で吹き飛び、その擂り鉢には残らなかった。


『どう?踏み潰せたかしら?』

「残念だな。そんなにスローじゃ蝿も留まるぜ?」


中空に浮き上がり、得物をかまえる八戒。
メドーサロボ28号に比べれば、牛と蝿以下の比率である。
しかし、蝿以下の大きさの神は、大きな人形を何とも思わないかの口ぶりである。


『残念だけど、ハエはこっちよ。』

「なに?」


間を僅かに空け合掌したロボの両手の平から、稲妻が発せられる。
物質の特定固有振動を利用し電子レベルで引き寄せ
電撃をお見舞いする必殺技『メドーサコレダー』である。

神ゆえに、その体は霊体とエクトプラズムで構成されており、引き寄せられない。
しかし、手に持つ相棒の釘鈀ごと、猪八戒は合掌の中に納まった。
そして合掌した手は獲物を収めると、ピッタリと閉じた。

本来ならば、電撃攻撃でシメになるのだが、ただひたすら同じ状態が続いている。



『蝿は手を摺り足を摺りってね!核エンジンリミッターオフ!最大出力、暴走開始!』

「くそ、流石に図体がでかいだけあるな。山でも握ってるみてえに釘鈀がうごかねえ。」

『天の神様といえども水爆の直撃ならどうかしらね!マリア、脱出するわよ!』


核パルスエンジンを暴走させ、核融合爆発を起こさせるという攻撃。
潜水艦なども原子炉を搭載しているが、メルトダウン防止機能が搭載されている。
だが、メドーサロボの安全装置はマリアの制御下にあり、その装置は解除されている。


『・・・ガガ・・・臨界を突破・・・』

『ま、マリア?ちょっと?』

『・・・規定以上・・・融合反応・・・により・・電磁パルス滲入・・・・データ保存の為・・・緊急停止』


隣の運転席で蒸気を吹き上げ停止するアンドロイド。
その隣で、アンドロイドの肩を揺らし続ける美神。
煙を吹いた機械人形はその目に光を取り戻そうとしない。


『ちょっと!アンタが動かないとどう脱出するのよ!死んじゃうじゃない!』

「しょうがねえ、釘鈀は諦めるか。ち、太上老君怒るだろうな。じゃあな。」

『え?ちょ、ちょっと、あたし犬死?うそでしょ?やば、もうすぐ・・・いやぁぁぁぁぁ!』


猪八戒は相棒の武器を諦め、軽々と機械人形の万力のような束縛を押し広げる。
牽引磁場で固定された武器はともかく、自分ひとり分の隙間をこじ開けるのは容易だった。

八戒は空中に飛び出すやいなや、姿を消した。そして数秒後に一瞬の閃光が妙神山を包む。
女錫叉除霊事務所の美少女担当の叫び声と共に、メドーサロボ28号は消えた。





「で?アンタたち、このメドーサにそれだけの手駒で何しようって言うのさ。」

「やあやあ我こそは界境警備隊長メルクリウス!いざ尋常に勝負勝負!」


大見得を切っているのは、あどけなさの残る鎧姿の少年の神。
装飾が大袈裟に付いた細い剣をメドーサに向け、腰が引けたまま剣だけを構えている。


「いいですぞ隊長!たかが犯罪者に神兵の力を見せつけるのです!」

「はっはっは、任せたまえ諸君!神位はメドーサなどよりも遥か高位の私、造作も無い!」


巨大な門扉は白い石で出来ており、山や草花のレリーフで覆われている。
天空の門。しかも魂が昇天の際に訪れるものと違い、物々しい砲列や銃座も敷設されている。
警備隊長と数名の部下はメドーサと対峙しており、他の隊員は銃座に待機している。


「やってみな。」

「え?」

「無駄口叩かず!撃ってみな!叩いてみな!斬ってみな!戦いってのは先手必勝なんだよ!」


超高速ではなく、俊足で警備隊長の少年の元へ走り込むメドーサ。
細剣を手にした警備隊長は、圧倒的有利を信じていた自分の元に、
敵が自ら飛び込んでくるという、ふざけた行動を全く予想していなかったのだ。

半歩下がり、剣を正面に構える。
その瞬間、蛇神の金の眼が煌々と光りだす。


「戦いってのは、気持ちが下がった方の負けだって習ってないのかい!いいかげんにしな!」


下がる瞬間の隙を見逃さず、左の平手が唸りを上げて警備隊長の顔面に吸い込まれる。
右手の刺又ばかりを視ていた金ぴかの鎧の警備隊長は、左手のビンタをモロに喰らう。
その勢いは留まらず、部下を1人巻き込んで白い門に叩きつけられる。

そこで超高速。

銃座の担当は何が起きたのか判らぬまま、首筋の衝撃を感じ昏倒する。
それが銃座の数だけ続いていった。


「ひ、ひいいいいい!」

「ま、イザとなれば飛び道具でカタがつくからって、気を抜きすぎだよ!」

「さ、さがれ、てってって、天の神に逆らう、反逆しゃ・・・・・んぐぐーーーーっ」


残った2人の警備隊員の1人を、メドーサは軽々と左手で持ち上げる。
鎧を着けた兵隊が滑稽に中空の足をバタつかせる。
蛇神の笑顔は残虐であり、そして、美しかった。


「残念だけどね、アタシもそれなりに神なのさ。知ってるかい?神は不死身じゃないんだよ?」

「きょ、きょ、脅迫には乗らないぞ!殺せ、殺すがいい!大罪人め!」

「アタシは突破して向こうに行きたいだけ。けどね、死にたい奴には慈悲をやってもいいさ。」


その時、荘厳な門扉は、その姿を裏切らず重厚な音を発てて開きだす。
門の脇には、泣きそうになりながら操作盤にしがみつく、もう1人の警備隊員がいた。


「お、おま、おまえ!な、なに、勝手に開けてるんだよ!」

「仕方ないだろ!オメーが死んでも構わんが次の俺は100%殺される!死にたかねえよ!」

「いい判断だねえ。もしアンタが仲間を見殺しにしたら、ちょうどそうしようと思ったところさ。」


ぬいぐるみでも扱うかのように、警備隊員は、もう一人の同僚の元に投げられる。
完全に格が違う蛇の神は、悠々と開いた門から飛び去っていった。
我に帰った彼らが報告を思い出したのは、その数分後の話である。



一方、銀座ではパニックになっている老婦人がいた。
無数の液晶モニターに囲まれ、うろうろと部屋を往来している。
齢千歳の錬金術師は、その高い上背を維持しつつ有様を見守っている。


「コメリカ代表、まだそちらの部隊は来ないのですか!」

『オーノー!ミズ鬼塚、ニューヨークに天使が降臨してマース!秘密兵器が、秘密兵器が!』

『こちらも同じでスキー!羽の生えたのが、クレムリン宮殿食べてるビッチ!』


ニューヨークでは、しゃべる黒いスポーツカーや、ゴテゴテに装甲板を付けたロス市警ヘリ、
ジェット噴射装置のついたミサイル搭載の違法民間ヘリなどが、次々と壊されていた。
ロシア、中国、インド、各地区で、キリスト教系の天使や仏教系の神兵が暴れている。
映像自体が、途切れてしまう地域も多かった。


「神側も戦争と判断したのね・・・しかし、ここまでの戦力差だなんて・・・」

『緊急連絡!上野寛永寺に菩薩級の出現の兆候あり!』

『緊急連絡!葛飾柴又にも!』

『回行院、真源寺、とにかく数え切れません!』

「落ち着きなさい!まだ出現してないものは報告しないでよろしい!」

『緊急連絡!メドーサロボ28号消滅!妙神山一帯に神界の大部隊です!』


鬼塚婆沙羅の眼前が一気に暗くなる。
膝からその場に崩れ落ち、かろうじて両手で床を支えた。


「な、なんじゃと!マリアは、マリアはどうした!」

『早期警戒衛星からの報告では、識別信号は見つけられないとの事でした。』

「そんな馬鹿な、メドーサロボもマリアも、じゃと?電磁パルスの妨害と違うんか?」

『神側の部隊の出現と同時に・・・汚染も電磁パルスも完全に消去されています。』


マリア行方不明の報告を聞き、大錬金術師も焦りの色を隠せない。
「普通の人々」日本支部銀座大本営に、重い空気がのしかかる。
しかし、静寂に包まれたい気分の彼らには、更なる報告が舞い込む。


『首相は妙神山爆発を我々のテロリズムと判断、非常事態宣言が発令されました!』

『練馬の部隊が銀座に向かっています!避難して・・・うわ、なんだ!』


画面の中の報告員のカメラに、迷彩服2型と88式鉄帽を着た男たちが一瞬映る。
しかし、そこで映像は途切れ、画面にはノイズだけが走った。
そして、報告は残念ながら誤りであった。


「鬼塚婆沙羅さんですね?ご同行願います。・・・貴方はどなたですか?」

「親しい友人じゃよ。できればワシも一緒に連れて行ってほしいのじゃがな。」

「いいでしょう。ヘリが待っていますので、こちらへ。」


装備は迷彩2型よりもスリムなグレーの都市迷彩。
報告にあった練馬の部隊は陸自普科で都市迷彩は着ない。
習志野空挺団に1999年より配備された特殊部隊「誘導隊」であった。
独特の塗装をしたCH−47ヘリは、荷を積んだ後、ローターの回転を上げ鬼塚邸を後にした。




神の世界も、人間界での騒動に全く気がついていない訳ではなかった。
天界最高会議では、10席中9席の出席で不休の会議が続いていた。
欠席の一席は、天界最高会議議長にして最高指導者。
悪魔王に『キーやん』と呼ばれる一柱である。


「7席の人間拉致問題から人間の対天界感情が悪化しております。」


斉天大聖は、メドーサを追うよりも会議の開催を申請した。
人間界ではすでに戦争状態になりつつあり、神への反逆も公言されている。
その原因である大竜姫の政治責任を追及する構えだ。


「元はといえば容疑者であるメドーサを匿う人間自体に問題があります。」


大竜姫は既に人界粛清派のすべてを取り込み、大きな発言力を持っていた。
人間の原罪、そして天界への反抗。さらに天界容疑者の隠蔽を内政干渉と判断したのだ。
そして、人間擁護派の斉天大聖や中間派閥の上位神を、秩序の混乱の元凶と批難している。

ちなみに会議は円卓式であり、席順こそあれ、10席は平等の発言権を有する。
粛清派3、中間派4、擁護派2と多少不利ながら斉天大聖側が発言を続けていた。
期限切れ数分のタイムラグで仕掛けた拉致事件を、モラル的に問題だと見る神が多いのだ。


「実妹の小竜姫を使い条約期限の切れる前から動いていた証拠を提出しますが?」

「小竜姫は確かに実妹ですが、彼女は官吏としてメドーサを追っていたに過ぎません。」

「そうですか。では人界での捜査に人間の拉致も認めたと、政務次官は仰るのですかな?」

「人間の拉致は条約期限切れの後に、小竜姫の判断で行ったに過ぎません。」


斉天大聖と大竜姫の応酬は互いに平行線の様相を見せていた。
議場のテーブルに乗った飲み物は、全てが既に空となっており、
倦怠の空気が議場の大部分を制圧していた。

そこに、互いが待っていた打破の一手、
天界情報調査部の報告が同時に三つ運び込まれてきた。
最高会議各議員の手元に報告の書面が、係員の手で運ばれる。



一つは、メドーサが天界の境界線を突破し侵入してきたこと。
一つは、人界拠点の妙神山が人間の核攻撃で大損害を受けたことだった。
最後の一つは、その両方の事件に猿神が深く関与しているとの報告だった。

斉天大聖が待ち望んでいた大竜姫のメドーサへの不当な冤罪疑惑や、
人界への非合法なアプローチへの調査は、完全に記載が無い。
その部分は、不自然なほどの空欄であった。




「斉天大聖を捕縛!それと全天兵に通達、DEFCON1発令!作戦行動を開始なさい!」


大竜姫が高らかに宣言すると、会議場の入り口から兵隊が入り、猿の神を囲む。
会議は終了した。大竜姫は、哀れむような笑顔を猿の神に送り、ゆったりと席を立った。
それに釣られるかのように、議場の主だった神々も、安堵の表情を浮かべて退席していった。

やっと終わったかと、口々に呟きながら。



「・・・大竜姫よ、均衡を破るお前に何が起きるか、見届けられず残念じゃ。」

「ふふ、安心して去りなさい猿の神よ。貴方も見ることになるわ、真の平和を。」

「人間は強い、そして人間は神よりも古い。その意味を貴様も知るだろうて。」


年老いた猿の神は表舞台を去った。
関聖帝君もその姿を確認した後、議場を最後に後にした。




その頃、大竜姫の官舎。
人間が一人と神が二柱、居間にて家主の帰りを待っていた。
部屋は調度品も殆ど無く、ただ来客用の椅子と机があり、床は大理石が使われている。
人間はそのマーブル模様の石の上に雁字搦めで拘束され横たわっている。
残りの神は、椅子の上で茶を片手にくつろいでいた。


「とうとう、くるところまできちゃった感じなのねー。せ、戦争になるのねー。」

「仕方ありませんよヒャクメ。平和のための聖戦です。」

「ムグムグムグー!」


われらが主人公横島忠夫は、口にもボールギャグを嵌められ、しゃべることすらできない。
あえて代弁するなら、『仕方ないわけあるかー!』と言う所だ。


「あ、老師つかまっちゃったのねー。・・・小竜姫、ほんとにこれでいいのねー?」

「・・・ええ、お姉さまが、望むなら。」

「ま、これで天界は大竜姫の手の中なのねー。長いものには巻かれるべきなのねー。」

「・・・・・・・・・・。」


少し俯き気味に目線を落とし、白磁の茶碗に向かう妹神。
その碗の中に、頭が映る。
不敵な笑みの白蛇。


「ふん、そんな根性してるから、いつまでたってもアタシに勝てないのさ。」

「「メドーサ!」」


居間に腰掛ける神の背後に、得物の刺叉を小脇に抱えて立つ蛇の化身。
既にその立ち位置は必殺の間合いであり、気を抜いていた2柱には完全なる不意打ちだった。
小竜姫は、自分の剣を手にすることすら出来なかった。


「ヒャクメは騙す自信は有ったけどね。小竜姫、もしかして石化毒を抜いてないのかい?」

「天界にいれば毒の進行はありません。・・・と言いたい所ですが、意地ですね。」

「元兵部省の大竜姫なら簡単に解毒できるだろうに。業の深い姉妹だねえ。」


メドーサは頭を一振りすると、髪の毛から大喰らいの眷属を出現させる。
そのビッグイーターは、横島を拘束しているロープを次々と噛み千切っていく。
やがて完全に拘束の解けた我等が主人公は、口元のボールギャグを自力で外した。


「た、助かったー!ありがとメドーサ!・・・おっと、お前もありがとな。」


ビッグイーターの頭を撫でる横島。メドーサの眷属は頬を染めて身を摺り寄せる。
ひとしきり友好を深めたビッグイーターは、メドーサの元に帰っていった。


「さ、早くかえろーぜ!大竜姫ってアレ、乳はでかいがとんでもない根性悪だぜ。」

「そうだね・・・さ、ヨコシマ、こっちにきな。」

「おっけー。」


メドーサは得物を持つ手と逆、つまり左手で横島の右手首をしっかりと掴む。
そのまま、その横島の手の平を、自分の左の乳房に押し付けた。


「うわ!な、なにを!し、しかし、何も考えられんー!たまらーん!」

「ヨコシマ、忘れないでおくれ。・・・ホントはもっと色々してあげたかったんだけどね。」

「な、何を言ってるんだ・・・って・・・はわわわわ・・・頭が回らん!やわらけー!」

「向こうに着いたら、ワルキューレを頼るんだよ。アイツ、根はいい奴だからね。」

「・・・え?」


メドーサの眉線が少しだけ、悲しげに傾く。
その笑顔は、憂いをこめた寂しさの笑顔。
そして、横島の手に奇妙な霊力がメドーサから流れ込んでくる。


「ま、まてよ、これじゃまるで・・・・・・」

「今まで言えなかったけど、今なら言える。愛してるよヨコシマ。・・・じゃあね。」

「嘘だろ?ま、待っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


横島の姿が完全に消滅する。
そのメドーサにとってかけがいのない人間のいた場所に、一切れの布が漂う。

赤いバンダナ。

メドーサは左手でそれを掴むと、器用にそれを右手に結びつける。
軽くほくそ笑んだ後に、視線を水平に戻し、左手を上げる。


「悪いね、待ってもらってさ。大竜姫、アンタ意外といい奴なのかもね。」

「神は常に慈悲深いものです。人間をこの場で粛清するのは色々問題もありますしね。」


左手の拳が指し示した先には、竜模様の鎧を身に纏った戦神が屹立していた。
手には青龍偃月刀。実際の関雲長はこの伝説の武器を手にしていない。
だが、信仰となる段階で人々の想いがこの武器を持たせている。


「小竜姫、ヒャクメ、下がりなさい。ここはわたくしが賊を征伐します。」

「はは、逆の立場のお膳立てってわけかい。大竜姫、アンタも相当しつこいね。」

「おっしゃりなさい。天獄、つまり人界への懲役転生、あの経験が私に力を与えたのです。」

「よかったじゃないか。感謝するんだね、アタシにさ!」


互いの霊力が部屋に渦巻く。
チビメド相手に小竜姫が見せた霊力の渦とは比較になっていない。
あれが竜巻だとしたら、この二人の霊気の渦は、ハリケーン。
片や赤。片や白。

官舎は崩れ、残骸の中に二人が対峙している。

妹神は友の神と共に、吹き飛ばされない程度にしか役に立たない結界を張る。
もはや見守るだけしか、できないから。





そして、妙神山よりもはるか北方、人骨温泉郷。
スパーガーデンジンコツの一角に位置する、客引き用神社。
その中では、あいもかわらず美少女巫女兼神体のおキヌがPCに向かっている。




【友達八百万人】中小精霊の集まるスレ・5963【できるかな】
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692 :おキヌちゃん:1999/07/01(木) 18:26:11
>妙神山で核爆発だって。なんでも元GSの美神令子とかも氏んだとか。

ほ、ほんとですか?美神さんにはすごく御世話になったのに・・・
それに、核爆発って、私馬鹿だから良くわかんないけど、
原子核の分裂または融合の過程で放出されるエネルギーを
爆発力として取り出す際に発生する現象なんですか?


693 :甦る人狼:1999/07/01(木) 18:29:23
>原子核の分裂または融合の過程で放出されるエネルギーを
>爆発力として取り出す際に発生する現象なんですか?

おキヌどの、めちゃめちゃ詳しいでござるな^_^;
そういえば拙者の村の長老が、「人間界は終りじゃ、けして村から出るな」とか
意味の判らぬことを申しておるのでござるが・・・
どなたか下界でどうなってるか、教えてくださらんか?


694 :キツネさん:1999/07/01(木) 18:33:58
>>693
しょうがないわね、馬鹿犬にも判るように説明してあげるわよ。
人界でとうとう世界の終りが来たって事。東京なんか霊的な加護受けすぎてるから
多分大物の仏教神とかに一瞬で滅ぼされるんじゃない?


695 :甦る人狼:1999/07/01(木) 18:35:54
>>694
馬鹿って言う奴が馬鹿でござる!
あと、犬ではないでござる!拙者は狼でござる!


696 :おキヌちゃん:1999/07/01(木) 18:38:04
>>693、>>694
二人とも喧嘩は駄目ですよ?ね?

で、伝統芸能は乙として、東京が全滅って大変な事じゃないですか!
東京って言えばチビメドちゃんが居たはずだけど・・・
誰か知ってる?


697 :チビメドちゃん:1999/07/01(木) 18:41:50
うはwww呼ばれて飛び出てぢゃっか○んたんwwwww
って、ぢゃから○たんって藻前どんだけオパイ(ry

さっきおっきしたよ。
今北産業plz。


698 :おキヌちゃん:1999/07/01(木) 18:44:51
えっと、えっと、東京が食べたり出したりでチビメドちゃんが心配で、
えっとえっと、大怪獣もでんぐりかえってバイバイバイで
妙神山でこれにも核が一発だけ?やるなブライトって感じで
神様が人間皆殺しだって噂で、私なんか出来たての神様だから全然知らなくて
神田明神では今年も三社祭で賑わってるって全国ニュースで言われても知るかよって感じで
いやー!全然説明になってないー!


699 :チビメドちゃん:1999/07/01(木) 18:50:19
もちつけwwwどまいwwww
とりあえず把握 ^w^


700 :元祖人工幽霊:1999/07/01(木) 19:05:02
ニュースサイトで確認した。どうやらクーデターが起きてるらしいですな。
竜神殿も天界の犯罪者として公表されているようですし、かなり状況は悪いですな。


701 :キツネさん:1999/07/01(木) 19:39:19
>>700
さらに言うとね、天界から軍隊が攻めて来るらしいのよ。
で、都内の主だった仏閣は、菩薩級が顕現するらしいわよ。
悪い事は言わないから、東京から離れたら?


702 :チビメドちゃん:1999/07/01(木) 20:12:37
>>701
残念だが大自然で育った貴様らと違いアチキはシティーボーイズwww
しかも、きた○うクラスなのだwww
菩薩?ボコボコにしてやんよwww
 ( ・w・)=つ≡つ


703 :おキヌちゃん:1999/07/01(木) 20:15:25
>>701
チビメドちゃん、女の子だから『ぼーいず』じゃないんじゃ・・・
それにきたろうクラスって、実際一番売れてないって事ですよ?

でも、チビメドちゃん、本気なんだ・・・都会っ子ぽいですもんね。
ねぇ、みんな、私たちで東京助けてみない?


______________________________________


スレ主である美少女巫女は、この後age攻勢を続けながらとある作戦を立てる。
この作戦は後世まで語り継がれており、その作戦名を『吉野家OFF』と呼んだ。
ちなみに作戦の命名はHN『甦る人狼』である。吉野家がすごく好きだからとの事らしい。







魔界では、大パレードが佳境を迎えつつあった。
魔界に住むものにとっては手の届かない高貴な存在、
いわゆる『マントルの下の存在』と言われる悪魔王陛下の詔である。


「なー、めんどいからパスでけへんかいな?」

「全く以って不可能です。魔界が崩壊しかねません。」

「なんやけったいやなー。よっしゃ、いっちょカバチたれたろか!」

「その行動が与える影響は陛下でも計算ができてるかと。それが決断であればご随意に。」

「・・・ちっ。我ながらよーでけた秘書官作ってもーたわ。」


競技場の中央に演壇が設置されている。
その上には、自分のことを「サっちゃん」と呼ぶお茶目な悪魔王が屹立していた。
だが、競技場の誰もが、そして家庭でTVを覗き込む悪魔の全てが沈黙する。
絶対的な畏怖、絶対的な尊敬、そして絶対的な恐怖。


「あー・・・・」


だが、この一言のあと、彼の言葉はしばらく中断する。
競技場の空から、人間が振ってきたのだ。
それも、あろうことか、悪魔王の頭上に。


「いつつ・・・・おまいだれや。」

「え?俺?横島・・・・む、そこなねーちゃんは誰?」

「質問を・・・おっと、やるやないか若いの。わいにツッコミさせよなんて一万年早いで!」

「一万年も生きてる人間おるかー!子供一万人作るのとわけが違うんじゃー!」

「子供一万人なら作れるんかい!・・・はっ!ワイにつっこませよった・・・只者やないな?」

「へへ、ボケ倒しのタダちゃんとは俺の事よ!」


互いに不適に笑みを浮かべながら、力強く握手を交わす二人。
好敵手と書いてトモと読む、そんな男の友情の芽生えた瞬間であった。
そして、そんな彼らに更にオチがついた。
美女が二人、文字通り落下してきたのだ。


「いたた・・・これがワルキューレの言ってた『緊急脱出アイテム』か・・・ん?横島クン?」

「いってー、何するんスか美神さん・・・ってあれ?なんで美神さんがここに?」

「なんで?じゃないわよ!あんたを探しにメドーサが出て行ったんだから・・・って・・・」


美神が横島の背中にしりもちを突きながら、引きつった笑顔で両手を上げる。
我らが主人公は、その時やっと自分の置かれている状況が普通でないことだけが判った。

竜のレリーフが絡みついた筒状の武器が、幾重にも自分達に向けられている。
その数およそ千以上。更に殺気だった秘書の女性を筆頭に、抜刀組が控えていた。
機械人形に押しつぶされて目を回している悪魔王を庇う様に。


「なんだかピンチの連続だわ。横島クン、もしかして最終回が近いんじゃない?」

「いやー奇遇ですねー。俺も今そう思ってたところなんスよ。」





「とうとう勝負をつける時が来たみたいだね。最終回って奴かもね?」

「?何を仰ってるのですか。貴女にとってはこれからが始まりです。贖罪の時ですよ。」


メドーサが、右手に構える刺又を水平より若干斜めに構え、大きく足を広げ溜めを作っている。
ほぼ直立姿勢に近く、青龍偃月刀を両手で上段に構えている大竜姫とは対照的だ。
ただ、どちらも申し合わせたかの様に、薄い笑みを浮かべていた。


「無実の罪に他者を陥れんとする恐怖とはいえ、とどめは刺しておくべきでしたね。」

「アタシの任務は『生かして捉えろ』だったからね。・・・確かに殺しておくんだったよ。」

「罪の報いを受けなさい!メドーサ!」


先に仕掛けたのは7席。大振りな槍以上の質感を持つ青龍偃月刀が、生き物の様に動く。
だが、蛇神の刺又もまた持ち主に似て奇妙な軌道を描き、目前の槍を払う。

甲高い衝突音が何度も起こり、互いに長物を扱ってるとは思えない程の近い間合いで
攻守を入れ替えて斬撃は続いていく。

共に超高速は使っていない。まだ序盤であり、互いに相手の情報を収集している。


「あはは、楽しいねえ。アンタ、伊達に偉くなってないんだね。昔はヒョロヒョロだったのにさ!」

「こうして槍を交えて判りましたが、メドーサ、貴女は少々怠けていたのではないですか?」

「いいハンデじゃないか。それにね、アタシは人界で充分楽しんだのさ。後悔しない位にね!」


先に超高速に入ったのはメドーサであった。即座に大竜姫も突入する。
殺到する刺又の先を、青竜刀の切っ先が何度も弾く。
応酬自体は超高速であっても変わらない。


「小竜姫にも教えてやればよかったじゃないか。こんだけ使えるんならさ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「あはは、そうか、アンタ今汚い事言おうとしたね?実の妹に言うかねマッタク!」


大竜姫の肌は、見る見る赤くなっていった。
顔も、腕も、首も、脚も。

その次の斬撃から、メドーサの刺又の手ごたえが一変する。
重い。そして早い。

比較的優位に進めていた蛇神であったが、大竜姫の変身に防戦が多くなっていく。
しかし、彼女の表情はむしろどんどんと明るくなっていった。


「サスガだね!これなら天界の使い手も一目置くわけだよ!凄いじゃないか!」

「憎まれ口を叩かず、降参しなさいメドーサ!御仏ならずとも慈悲は心得ておりますよ!」

「付き合い長いアタシに嘘は通用しないよ!」


メドーサが眷属を一気に数十体、周囲に展開させる。
それらは全方位から赤い神に襲い掛かっていく。
しかし。


「この期に及んで!そんなものが通用すると御思いですか!メドーサ!」


意にも介さず、青龍偃月刀が唸りを上げる。
槍刀の軌道にあった白紫の眷属たちは裂帛の一撃に全て消失する。
その破壊のベクトルはメドーサのいた方向へ吸い込まれていった。


「するさ!」


しかし、眷属と共に切り裂くはずのメドーサは、そこには居なかった。
意に介さなかった他の眷族に隠れ、右斜め上方に居たのだ。
槍を振り切って腕の伸びた大竜姫のデッドスペース。
逃れる術は、ない。


「ぐうっ!」

「しょ、小竜姫!邪魔するんじゃないよ!」


必殺の間合い、必殺の一撃、しかし、それら全てを小竜姫はその身に受けた。
更に健気な妹は、メドーサの得物をわが身に喰い込ませたまま、その柄を握り離さない。
全員の超高速状態は解け、三人はそのままの位置で白い廃墟に着地する。


「お、お姉さま!・・・今です、とどめを!」

「・・・・・・・・・小竜姫、やっと動きましたね。待ってましたよ。」

「え?お、お姉さま、な、何を言って・・・」


そこで小竜姫の声は途切れる。
姉の赤い手首が、小竜姫の白く細い首に吸い込まれていた。
ここで初めて、大竜姫が、醜く笑顔をゆがめる。


『聞こえるかッ!メドーサッ!蛇の出来損ないのクズッ!人間に股開く売女がッ!』

「あ、アンタ、まさか妹の霊基を・・・・」

『ああッ!これは小竜姫の霊基ッ!貴様に奪われた、喉の神体を奪っているッ!』


メドーサは呆然としていた。
好敵手と思っていた相手の豹変振りに。
そして裏切られた妹の絶望の瞳から流れる絶望の液体を見て。


『憶えてるか下賎な土地神ッ!あの時はッ!今日のための布石ッ!今日、貴様は負けるッ!』

「・・・・・アンタ、そこまでして・・・・」

『そこまでも何もねえッ!小竜姫はこの為だけに生かしてたんだよッ!じき死ぬがなッ!』


青龍偃月刀が蛇神の鼻先にぴたりと向けられる。
しかし、メドーサにはその切っ先に殺意が全く無い事を感じ、避けようともしない。


「そんな事までして、アタシに勝ちたいのかい。」

『勝ちたい?バーカッ!何にも判ってねえッ!お前が勝負になると思ってるのかッ!』

「・・・・。」

『貴様らみたいな虫けらにッ!この天才の俺様がッ!負けるわけがねえッ!』


自分の口から放たれる姉の憎悪の汚言に、小竜姫は幾度も絶望する。
だが彼女はその瞳に光を失う事により、感情と思考を殺す事により、耐えられると知っていた。
だんだんと、その精神が単純なものに逃げていく。


「信じてた妹も裏切って、アンタ、何がしたいんだい。」

『貴様に天才とはどういう事かッ!教えてやるッ!』


関聖帝君だったものは青龍偃月刀を投げ捨て、妹神の口から小さく真言を唱える。
その時、メドーサの腹の中に、小さな違和感が生まれた。
実戦を踏んできた蛇神が、脳裏に最大級のアラートを感じる。


「大竜姫、させないよ!」

『・・・・・私の、お祝いの言葉よ・・・・』


握られた得物を諦め、身を沈め、その長い脚で二人を払おうとする。
しかしその先では、器用に復讐の女神が軸足を避け、そのまま払い脚を踏み抜こうとする。
メドーサは避けつつ一旦体を起こし、低い姿勢のまま二人に向かって体当たりをしようとした。


『くたばっちまえッ!!!!アーーーーーーメンッ!!!!』


呪詛。
真言を流した呪いの言葉。
そしてそれは、メドーサの体に一つの異変を起こした。


「ふ、ふふふふふ。」


体当たりをするはずのメドーサは、そう笑うと、ふと、その場で直立した。

笑顔のメドーサの口元から、赤い筋が流れる。
その次の瞬間、メドーサの腹の辺りの衣服が吹き飛ぶ。
そこには毛筆体で、大きな文字が浮かび上がっていた。

『撃』

やがて蛇神は、口元からゴボゴボという音と共に、盛大に血を吐く。
手はダラリと下げられ、膝からゆっくりと地面に折れていった。


『あはははははッ!これがあの時の百珠ッ!メギドの火の百分の一だが効果は抜群だろッ!』

「こ、これが、アンタの・・・・がぶぁ・・・・・」

『天界の最終兵器ッ!これがあったから俺様は登れたんだッ!天界の最高府へッ!』


あの時。
読者の皆様は覚えているだろうか。メドーサが大竜姫を捕縛した時の小さな珠。
数千年の時を越えて、苦し紛れに放った小さな丸い布石が成就したのだ。
撃の文字は、先程まで武神と対等に戦うほどの蛇神を打ち砕いた。

地面に頬をつけ、虚ろに大竜姫を眺めるメドーサ。
しかし、その頭を容赦なく天才の長靴が踏み躙る。


『文珠ッ!あれはいい作品だったッ!だが俺様は更に天才ッ!一つの珠に複数の文字を
入れることを考えたッ!見ろッ!効果は文珠の乗倍算となるのだッ!メギドの火に使った
万珠に至ってはその10000乗ッ!神も悪魔も木っ端微塵だったッ!爽快だっただろがッ!
何とか言えッ!薄汚い無足ッ!言えないかッ?言えないんだろッ?天才過ぎてッ!』


大竜姫は爪先で躊躇もせずに、メドーサの頭頂を蹴り上げる。
誇り高かった蛇の神は、今やその力にすら逆らえずに、ゆっくりと体を起こし
そして、そのままゆっくりと仰向けに倒れこんだ。口元を真っ赤に染め上げて。


『うはははははははッ!誉めよッ!讃えよッ!俺様は天才だッ!天才なんだよッ!』


高らかな声と共に、小規模戦闘は終焉した。
メドーサは膝を畳んだまま、仰向けになり地面に横たわっている。
そして、妹神を盾にするように屹立する大竜姫。
勝利の行方は、誰の目にも明らかだった。





************次*回*予*告******************

「アンタたちに、最後の最新情報を公開するよ。
メギドの火の発動により、全ての人間は昇華される。
いのちあるものの定め。さよならヨコシマ、さよなら美神、さよなら、みんな。
世界を賭けた、アタシ達の物語は、終わる。
次回蛇と林檎最終回、『ヨカッタネ横島』」

「ちょ、ちょっとメドーサ、そのタイトルじゃ横島クンだって展開読めちゃわよ!」

「次回、最強最後の、ファイナルフュージョン承認だよ!」

***************蛇*と*林*檎****************


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