椎名作品二次創作小説投稿広場


復活

ただいま修行中!(上)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/ 7/10

「本当にいいんですか?」
事務所の屋上へと向かいながら、おキヌが何回目かの同じ質問。

「だーいじょうぶって。近頃、結構離れられるのよ」
おキヌの肩にちょこんと座ったちっちゃな―――それでもフランス人形サイズになった―――ルシオラが何回目かの同じ答えを返す。
「ちょっとは回復して霊基構造の依存性が少しは減ったのかも。それともヨコシマの式神使いの腕が上がったのかしら」

シロとタマモはサンポというか狩猟本能に導かれてというかで、買い物の荷物持ちがいない。
今日もハタネズミが旬だの野ウサギの方が狩りがいがあるだのと言い合いながら遠征してしまった。
時たま事務所の人間メンバーもご相伴にあずかるのはご愛敬。

まー、飯時にはしっかり帰ってくるのだが。
そして、外でもエサ漁ってるくせに食欲の秋とか称してさらに食いまくる。

二人が急速に霊的に成長しているのも効いているのだろう。
令子の電気ドーピングによる霊力補充で魂に過負荷が掛かっては解放されるを、日に何回も繰り返しているのだ。
これは霊的成長期のおキヌとて同じこと。

シロなど霊力があがると散歩速度が上がって楽しいのか、しょっちゅうねだっては師匠をボロ雑巾にして帰ってくる。
近頃は、シロタマのみならずおキヌも、もはや霊力補充で痛み出すことはないようだ。
若いということは可能性であり、またそれを実現できる。


で、普通ならば美神事務所標準装備の荷物キャリアである横島忠夫の出番であるはずなのだが、
今日はいわゆる“居残り補習”である。

補習を受けるに当たって例のごとくルシオラがサポートしようとしたのであるが、

タイガーや愛子の、
「横島サンだけカンペ付きは卑怯ですジャー」とか
「そんなの青春じゃないわ!!」とかの抗議、
それに教師の
「補習の試験ぐらいは自力でやれ」とかの意見を聞いて、

それもそうね、と
「じゃ、終わった頃に迎えにくるわ。そういえばおキヌちゃんが今日は買い物が大荷物だと言ってたわよね」

と横島を置き捨てて飛び出したのだ。

幻術使えばわからへんやないか〜〜〜、というような声が聞こえたような気がするけどきっと幻聴よね。
うん。ヨコシマはそんな情けない男じゃないわ!!



「だから数キロくらいは大丈夫って」
屋上に着くとおキヌの肩からルシオラが青い空へ。

「そういう意味じゃないんだけどなー」
といいながらも、とん、と地面を蹴ると、ふわり。おキヌの体も舞い上がる。

視界が一気に広がり、心眼を使うまでもなく商店街の活気が目に入ってくる。

気持ちのよい秋晴れの中、眼下に見えるは大通り沿いに集中した低いビル群と少し色づき始めた街路樹。
民家の屋根の上空を風に吹かれて二人でふよふよと流れてゆく。

「空飛ぶのって気持ちいい――――。幽霊の時はそんなに思わなかったけど」
白い袖と赤い袴をなびかせ、商店街口に向かう。
「やっぱり生きて体があることに感謝しなきゃ」

空を飛ぶときは霊衣でもある巫女衣装にしている。
これなら、ご近所が見慣れていてオカルトGメンに通報されたりしない。下からの覗き対策も兼ねている。
「人間で道具も使わずに飛べるのっておキヌちゃんぐらいじゃない?」

「えへへへっ。そうかも。でもルシオラさんみたいに早く飛べないし、距離も短いし」
駅前商店街のアーケードの入り口に、ふわりと袴と袖をふくらませて舞い降りる。
「それに、美神さんに霊力補充してもらわないと飛べないし」

「霊力騰がれば自分の肉体を‘持って’飛べるとはね。昔、山の神様だったんでしょ?」

空飛ぶ巫女美少女に喋るでっかいコスプレ人形というとんでもなく奇異な組み合わせだが、
この辺の人は慣れて誰も驚かない。

再びおキヌの肩に座ったルシオラが興味津々な顔で聞いてくる。
霊工学メカニックとしては人間が飛べる、ということにすごく興味がそそられるらしい。
旅行鞄は持てるわ、普通の人にもはっきり見えるわ、まともに思考できるわだったおキヌの幽体使いのうまさは神魔並のものがある。

「ただの地縛霊ですよ〜〜。300年地脈に縛られてたから才能なくてもちょっとは霊格上がったのかな?」


今日は日中、令子は税務署と喧嘩、シロタマは散歩&狩り、横島は補習で居ない。
土曜日の朝から横島のアパート→除霊事務所と家事を片づけ、
ワイドショーと女性雑誌それに横島へのグチで二人盛り上がってお買い物に出てきたのだ。


「はぁ〜〜、ヨコシマってもうちょっとカッコ良くならないかしら? 尾崎、とはいわないけど」
「フフフっ、何着せても似合いませんでしたもんねー」

「私なんか別にいいんだけど、あれじゃ恥ずかしくて横に連れて歩けないわ」
「美神さんはおしゃれだから、並ぶとすごくアンバランスですよね」

「私はおしゃれ、てよりハデ、だと思うんだけど」
「美神さん、ああ見えて横島さん一筋だから、横島さんだけに見せてるんじゃないですか?」

令子が聞けば火を噴いて否定しそうなことを当然の前提のように言う。
ま、その通り、本人と西条以外は否定しないだろう。

「それでも絶ぇっ対、明るい内は並んで歩かない。わかるような気がするわ」
「言っちゃ悪いですけど、あのよれよれデニムとバンダナに、美少女人形じゃ、知らなきゃ危ないオタクですもん」

びしょうじょ、と言われたルシオラがちょっとうれしそうな顔。
「知ってたら危ない性犯罪者よ!! ちょっとはマシになるかと思って着せたのぜーんぶだめで、結局いつものだもんね」
「ま、すぐ汚しちゃいますしね。私は別に気になりませんけど」

もちろんここは「私は知ってるから気にしない」という意味である。

「気にならないなら、もうちょっと積極的にデートに誘ってもいいんじゃない?
 私としちゃぁ、おキヌちゃんが良いんだけどなー?」

ルシオラがいたずらっぽい顔でにっこりと微笑み、おキヌの顔を覗き込む。


「え、えぇっ!? そ、それと、こ これとは別の、お話で、じゃないでしょー か」

いきなり振られたおキヌが真っ赤になりながら、買い物かごをふぁたふぁたと振り回す。

「もしかして・・・、ヨコシマに愛想尽かしたとか? コスプレ人形はじゃまだからどっかいってるわよ?」
「べべべ、別にじゃまじゃないですっ。服の件もそんな意味で言ったんじゃないです!!」

「邪魔じゃないんだ! おキヌちゃんなら、さっさと転生して子供でもいいかな〜〜?」
真顔で聞こえるように独り言を言うルシオラ。


「なななな、なんで、いいいいきなり子供の話になるんですっ」
「記憶が消えて別人になっちゃうけど、かわいがってね? おかあさん!」

真っ赤な顔でどもりながら、なんとか反撃しようと、
でも恥ずかしくてぽそぽそどもりながらしか声を出せないおキヌに、ルシオラが重ねて上を言う。

おキヌがリンゴ並みに真っ赤かになりながら反論しようとしていると、

「いよっ。おキヌちゃんはやっぱり巫女姿が似合うねぇ。今日の京揚げは自信があるよ?」
話の内容は判らないながら、少し遠くから二人の掛け合いを見ていた豆腐屋の親父がべたな冗談で助け船を出してくれた。

「キツネのお嬢ちゃん用に20枚ほどどう? サービスしとくよ」

これ幸いにおキヌがムリヤリお買い物モードに戻る。
「ふうっー、んー。今、タマモちゃんすっごく食べるしなー。うん! 今日は冥子さん来る日だし、がんもどき8個足してください」
お礼に少し余計目にお願いする。

行く先々で肉屋やらペットショップやらに声をかけられ、そのたびに骨付き肉やらペットフード。
おまけに今日は山村獣医に会って、二人の狩りが増えているといったら駆虫薬までもらってしまった。

「ノネズミや蛇は寄生虫の巣だからね! 貴重な犬種をみすみす危険にさらさないようにしないとね!」

二匹が聞けば、
「狼でござる!!」とか「獣じゃないんだからちゃんと火を通してるわよ」とか
カンカンになって怒りそうなことを平気で言う。

実際には‘お注射’が怖い二匹は絶対に逆らい得ないのだが。



「本格的に買いだすまでに大荷物じゃない?」

荷物をぶら下げて空中に浮いているルシオラがいつもながら、呆れている。
3人姉妹+土偶羅でもかごいっぱいくらいにしかならなかった。眷属やペットのエサの方が多かったぐらいだ。
今日はこの上に、醤油や砂糖、ティッシュ、ボディソープ等の同時切れを起こしたのでメチャな量になるのだ。

「食べたい盛りが3人もいますからねー。横島さん一人の時は楽だったけど、シロちゃんタマモちゃん。
 それに美神さんも決して少なくはないし、今は私も食べるし」

他愛ないことをしゃべりながら、お買い物を続けていると、ルシオラの言葉がふと止まる。
おキヌが? と視線を向けると、
おもちゃ屋のショーウインドウにモガちゃん人形の新作が並んでいる。

その1つ、というか新作の一群をルシオラがショウウィンドー越しに見つめている。

おキヌもそっちを見るが別に見つめるようなものは見つけられなかった。
こっそり心眼を出したり、水晶玉を出したりするが何も見つからない。

おキヌが首をかしげている間もルシオラは新作モガちゃんを眺めている。

「どうしたんですか? まさか呪いのかかった人形でも?」
「んー、なんでもないわ。かわいいなー、と思って」

あっ、そういうことか、とおキヌが一人納得する。
(ルシオラさんってまだ2歳ぐらいだったっけ?)

ちっちゃいけれども莫大な知識と解析力を誇り、恋のためなら命を捨てるのもためらわない元魔族を
齢300を越える乙女は何となく自分より年上だと思っていたのだ。

「そういえば人形遊びなんてきっとしたことありませんよね? 買っちゃいましょうか?」
そのぐらいの給料は充分に令子からもらっている。

おキヌの言葉に慌てて両手を振る。
「私と同じくらいの大きさがあるじゃない!! 違うの、違うのよー」
どういう勘違いをされたかピンときたらしい。

その後、しばらくもじもじと、言い淀んだ後、ちいさな声で、
「いろんな服が着れていいなーって」


おしゃれは乙女の関心事の70%を占める。
(私も着た切り雀のゆーれいの時、横島さんにもらった服うれしかったですもんね)

今では勿体なくてめったに袖を通さないが、おキヌの宝物だ。

軽快なテニスルックや真っ白なウエディングドレス、フライパンを握ったエプロン姿など。
いろいろなコスチュームがおもちゃ屋の一角を華やかにしている。

ルシオラ、真ん中あたりに視線がいきがち。

「幻術で出しても着てる訳じゃありませんもんね」
「うん、タマにやるけど虚しくなるの」
「きっと服だけ売ってくれますよ? 着せ替え人形だし」

再び入ろうとしたおキヌを止める。
「そういう話じゃないの! 冥子さんぐらいの使い手だと式神以外でも陰にいれれるけど。
 ヨコシマが教えてもらった六道家の奥義には入ってないのよ。
 除霊の時にうっかり着てて陰には入れなくなくて、ヨコシマが怪我するなんて考えただけでもぞっとするわ。
 まさか服着たいから修行してくれって言えないわよ!
 それでなくても一日中出してくれてんのに!!」

ルシオラさん出すのってすっごく霊力負荷がかかる。それを横島さんて24時間ぶっ続けで出してるんだもん。
冥子さんも奥義を横島さんに教えた後、こっぴどく叱られたそうだし。

でも、今生じゃ結婚もできないからドレスだけでも着てみたいんだろーなぁ。

「エクトプラズムでもだめかしら? 幽霊の時に横島さんにもらったのがあるからそれを仕立て直せば」
「ありがと。たぶんいけると思うけどうっかり戦闘しちゃうと一回でだめになるし、ヨコシマのおかげですぐおっきくなるもの」
「しばらく着れればいいじゃないですか。私はもう何でも着れますし」
「それに大事なものでしょう? 気持ちだけもらっとくわ」

ルシオラが隣の隣の店のヤングカジュアルの秋冬物大バーゲンを示しながら、
「それよか、おキヌちゃんの方こそ、おしゃれしてヨコシマ挑発しないと誰かさんに捕られちゃうわよ?」
と話題を変える。
「ほら、ヨコシマは女の子に声掛けられれば敵でもついてっちゃうようなバカだから」

そしてツンと上を向いて
「わ・た・しは今生はお人形の分際だから、誰でもいいんだけどさっ。腹立つけど自業自得だしっ」

おキヌを再びからかう。
「でも、大事にしてくれそうなおキヌちゃんなら、ほんとに子供でもいいな」

それを聞いたおキヌが今度は二度目なので赤くならずに肩を落とす。
(あうぅっ。ルシオラさんに言われるとすっごく情けなくなりますー。
 美神さんにもタマモちゃんにも、もーしょんかければ? って言われてる私って何なんだろー?)

だれからみても一番出遅れてるのかなー?

はぁ―――――っとため息をつきながら、秋物にしては胸元が大胆にあいたワンピースとカーディガンの組み合わせに目をやる。

(せめて美神さん並に大胆な服装ができたらなー。ゆーきもぷろぽーしょんもないからむりかなー)
令子の美乳とスタイルを思い出してため息をつく。
一緒の布団で寝ることもあるだけにそのギリシア彫刻に勝るとも劣らないラインは目に焼き付いている。

普通なら彼女が恋敵だと知った時点であきらめるだろうというラインだ。

恋敵は経済力、カリスマ、プロポーション、性格ともに強大だ。
頭の回転が速く、スポーツ、料理も万能。―――――掃除はできないが。

しかもおキヌはライバルが大好きなのだ。恩もあれば世話にもなっている。

でも・・・・
(私ってなにか美神さんに勝てるものが1つくらいあるのかしら)

ちらと人形と並んで服をさわっているルシオラを見ると自分以上の貧乳が目に入る。

(ルシオラさんでいーなら私だって・・・・)

真っ白なおキヌにそういうよこしまな心が流れ込んできたところに

(うぅぅっ、ルシオラさんの足って細くて長くてきれい……‥‥です)

なにせ並んでいるモガちゃん人形よりかわいくてすらっとしている。

背の高さはさほどかわらないが女性が見ても均整がとれ美しい。
真っ白な日本人離れした肌につややかな黒髪のショートボブがよく映えている。


小さくスレンダーでボーイッシュ。

音もなく着せ替え人形の周りを舞い、
触覚でそっと人形の服にふれる姿はまさに妖精のよう。

これに令子の胸を付ければかえっておかしくなるだろう。

(私ってダメダメ?)





などなど二人で楽しくショッピングを楽しんで買い出しも終わり事務所に帰り着くと、なんと横島がもはや帰ってきている。






「早いわね? そんなに補習順調だったの? 呼んでくれればいいのに」
ルシオラが買ってきたものを所定の場所にしまってからお茶とお菓子を出してやる。もちろんおキヌの分もだ。

「・・・・・それは嫌みか・・・・」

ソファでどよーんと落ち込んで下を向いた横島が上目遣いでかすれるようにつぶやく。
めずらしくまんがではなく教科書を開いている。

「どーせ俺はお前がいなきゃなーんにも出来ないバカで、アホでスケベが取り柄の役立たずだよ!!」

うがーっと教科書を放り投げて暴れ出す。もう慣れたルシオラがどーどーどー、と背中をたたいている。
ひとしきり暴れたら落ち着いたのか状況を説明し出す。

「俺とタイガーは補習の後、試験受ける時間が無駄だと言うことで、試験前に追い出されたんじゃ!!
 今晩、猶予をやるから明日もう一回受けろと言うことだ」

そこでおキヌの方へ向き直り、
「と、いうわけで今日は早退、つか休ませて貰うわ。明日受からんとマジで留年かも。おキヌちゃんと同期になっちまう」


いうなり、鞄に教科書をしまい立ち上がろうとする。
それだけ言いに来たらしい。結構律儀かもしれない。

「せっかくだからご飯だけでも食べてから帰りません?」
用意は人数分あるし、顔を見れるだけでも何かうれしい。

「そうしたら? 勉強はあとで刷り込んだげるわよ。そうしたら倍速でしょ」


おキヌだけでなく、ルシオラもそういったので流されてしまった。
おキヌのご飯はおいしいし、食費も浮く。

これが悪かったのかもしれない。




(なぜだ? なぜなんだー!!)

六道家の巨大な門の前で心の中、いや口に出して横島が叫んでいる。

「良かったわねー。理事長直々に教えてくれるって言ってくれてるのよ?
 おばさまの気が変わらないうちに習っちゃわないと」

なぜか令子までが仕事を延期してつきあっている。

(明日の補習が〜〜〜!! 試験が〜〜〜!!!」

「やかましい!! 男に二言はないのよっ!
 無料の奥義とクソの役にもたたん高校の卒業証書とどっちが大事だとおもってんのっ!!」

心の中が漏れだした馬鹿の後頭部を神通棍の柄でひっぱたいて黙らせる。

(高校の卒業証書なんかどうにでもしてやるわよ)

腕を組んで路上で潰れた横島をにらみつける。
柄ではたかれたはずなのだが大量出血で痙攣している。

(コイツを一人前、いや超一流にしてあのクソババァには絶対勝ってやるわ!)
もちろんあのクソババァとは百合子のことだ。

今,横島は,追い抜かれるのは腹が立つような誇らしいような
複雑極まり令子の思いの丈を込められた神通棍の威力を思い知らされてるのだ。



時間を少し元に戻して説明しよう。



今日、冥子と共に六道理事長が、なぜかお出ましになり、
なぜか、食事を一緒にすることになった。

その前に「おばさんもちゃんとお料理持ってきたのよ〜〜〜〜」とか、
「おばさんはのけ者なのね〜〜〜〜」とか、
年と身分に似合わずすねてうるうるしたりなんかしてたからかもしれない。

また、その持ってきた料理が最高級サーロインのかたまりのほどよく焼けたのと、
京都から取り寄せた超最高級のおあげその他の材料で造ったお稲荷さんだったからかもしれない。
それを嗅いだ二匹が目に星を散らせてハァハァしてたからかもしれない。

で、一緒に食べることになり、3人も式神使いが居るもんで、食事ついでに式神の使い方の話で盛り上がった。
んで、横島が強力な式神使いのくせに基本がなってない!
ということがばれてしまった(バレるまでもないかもしれない)。

「いくつかの奥義ができるのに、こんな基礎が出来てないとは思わなかったわ〜〜〜。強力なだけに危ないわよ〜〜〜?」
が理事長の言だ。
「世間では横島クンは六道系式神使いになってるのよ〜〜〜〜。六道家の名誉もあるし、教えてあげるわ〜〜〜」

ルシオラは「次の機会でいいじゃない?」とけなげに言ってくれたが、

「ハッハッハッ。留年とルシオラを天秤にかけられないじゃないか。
 そういえばGS試験の時もおキヌちゃんにあっさりお前をとられたしな。
 もし、明日悪意のあるヤツにお前を盗られでもしたら、俺はどうすればいいんだい?」

と目に十字星の光を湛えて、頭を下げた。
「理事長、奥義に懸かるところがあるかもしれないがお願いします」
いいかっこしてしまったのだ。

直後に
「横島さん、ステキです!!」とか
「アンタもプロ意識が出てきたわねー。これは上司として、師匠としてつきあわないとね〜」とか
「先生ー、やっぱり漢でござる!!」とか
「冥子も教えたげる〜〜〜〜」とか
たたみかけられて引くに引けなくなってしまったかもしれない。



回想的説明終了。



我に返った後、ひとしきり補修が〜〜〜、とか
留年したらお袋に殺される〜〜〜〜、とか
いやでも、ここで引き返したら男が〜〜〜〜とか

ドみっともなくわめいていたが、

「このわたしが仕事延期してつきあったげてんだから、今日中にマスターすんのよ」
「ハ、ハィ・・・・」
「そうすれば卒業も何とかなるわよ」

ギロリとにらむ令子の有言の圧力に全く逆らえない横島であった。
たしかに今日一日で終わらせることができれば、できれば,なんとかなるであろう。

なるのか?

やって見なきゃわからない横島が引きずってこられたのは、
無駄に広いお屋敷の、これまた無駄に広い中庭にある、無駄に巨大な陰陽式結界陣。

「ここは〜〜〜、代々の六道家の練習場なのよ〜〜〜〜〜。どん〜な無茶な式神の使い方しても外には漏れないの〜〜〜〜」

とは六道理事長の説明である。
よーするにプッツンしても大丈夫、ということらしい。

全くあらゆるものが無駄に庭にある。こういうものは専用の道場かどこかにあるべきものであろう。
それが、築山と池のすぐ横にでーんとあるのだ。

「まずはここで、冥子をしごいてくれないかしら〜〜〜〜〜」

案内が終わったとたんにとーぜんのようにのたまう六道理事長。

驚いた横島が抗議の声を上げる。
「話が違うやないかい!! 俺の修行でしょう!!」

抗議を受けてあいかわらずのほほ〜〜んと訂正する。
「言い間違えたわ〜〜。戦ってほしいの〜〜〜〜」
あんまり変わらんが。

「お母様〜〜〜!! 冥子、横島クンと喧嘩したくない〜〜〜〜!!」
冥子も初耳のようだ。

「あら〜〜〜、冥子も〜〜〜教えたげるって言ったでしょ〜〜〜? 式神の使い方を横島クンに見せたげなさい〜〜〜〜
 ついでに〜〜〜〜、あなたは横島クンの戦いを見せて貰いなさい〜〜〜〜」

理事長は全く邪気を感じさせない童顔を留め袖で半ば隠しながら、
おほほほほ〜〜〜〜〜、一石二鳥よね〜〜〜〜とかのたまっている。

ふと真剣な顔になり、
「横島クンの〜〜〜〜、どこに穴があるか〜〜〜、戦ってくれないとわかりにくいのよ〜〜〜〜〜」

「横島クン、おばさまの言う通りよ。霊波の使い方なんかに問題があるんだからやってみないとわからないわよ」

巨大・強力な陰陽式結界陣で自分には被害が及ばないと見たのか、令子もお気楽に賛同する。


「令子ちゃんまで〜〜〜〜!」
「みがみさ〜ん!! 人ごとやと思って―――――!!」
冥子と戦えばかなりの確率で‘プッツン’に巻き込まれ、いかな横島といえども病院送りになる。

それだけでもイヤなのに、今回は、
病院送り→追試不能→留年、の3連コンボ間違い無しである。

怪我さえ避けられれば、試験の方は地獄のルシオラ刷り込み(拙SS ルシと忠夫の平凡な日常―学校編―参照)で何とかなるかもしれない。


「おキヌちゃん。冥子さんてそんなに強いの?」
なんだかんだで、横島・美神を最強だと思っているタマモ。

「う゛、ある意味最強かも・・・・。美神さんも敵わないぐらい」
おキヌが適切な答えを返せずしどろもどろになっていると、

「え、そーなんでござるか? 人は見かけによらないでござるな?
 せんせー!! 是非ともお願いするでござる!!」

冥子の戦いを見たこともなく、勘違いをしたシロに横島が怒鳴る。
「シロ!! てめーっ!! 人の気も知らないで!!」

それを聞きながら、にこにこ、パタパタしっぽを振っている。横島が強敵との戦いを嫌がるのは常のことで、
それを拒否できないのも常のことだ。

「ほら、シロやタマモも期待してるわよ。がんばんなさい」

令子がニヤッと笑ってポンポンと肩を叩く。
自分はしっかりセラミック帷子を着ている。なにげにおキヌにまで着せたりしているのだ。


横でうんうんと頷いていた理事長が、ふと気づいた風に、

「でも、賞品でもないと〜〜〜〜、本気出せないわよね〜〜〜〜〜。
 よしっ、発展途上の英雄のために、おばさん大奮発しちゃう〜〜〜」

「えっ、なんかくれるんすか?」
六道が出すのだから、結構いい物に違いない。現金なものでころっと態度が変わる。

六道理事長、横島を見ながら、



「勝ったら、冥子を横島クンにあげるわ〜〜〜〜〜」



何時のまにやら手に『賞品:六道冥子』と墨書された、ひろぶた(でっかい漆塗りのお盆)に載った高級和紙。
庭の照明が集中して浮かび上がっている。

「「「ちょっと!!」」」
外野の女性陣が一斉に抗議の声を上げる。

「今まで、冥子に勝てた殿方はいなかったのよ〜〜〜〜」
そりゃそうだろう。

「大丈夫よ〜〜〜。諸費用は六道で出すから〜〜〜。横島クンは冥子をお持ち帰りしてくれればいいのよ〜〜〜〜」

外野の女性陣の抗議は聞こえてないのか、勘違いしているのか。

生絹、紫色の袱紗をぺろぺろと開き、諸費用の目録を披露する。
新居に、当座の費用(一生余裕で食えそう)、家具に、紋付き袴・・・・・・
なにげにフミさんがついているのは親心だろう。


「お母様〜〜〜、そんなの無い〜〜〜!!」
冥子も抗議の声を上げる。

「そうよ!! おばさま。場末のヤクザの決闘じゃあるまいし!」
それを聞いた令子が必死の表情でフォローする。

「娘を差し出すなん「冥子も勝ったら、ご褒美欲しい〜〜〜〜。横島クンだけずるい〜〜〜」


両手を握りしめて母親に詰め寄った冥子に、

ずでっ!!

全員が盛大にコケる  (((そっち?!)))


それを聞いた理事長、ぎろりん、と冥子を睨む。
「冥子〜〜〜。六道のホームグラウンドで、式神中心で戦うのよ〜〜〜。
 勝って当たり前でしょ〜〜〜〜。負けたら家から出て行って貰いますからね〜〜〜〜〜」

それを聞いた冥子に今度は大泣きが入る。
「そんな〜〜〜〜〜〜!!!! 冥子〜〜〜横島クンに勝てるはずない〜〜〜〜!!」

((((おんなじことでしょ!!!))))
思わずタマモまでが同調する。

「これで負けるようなら、あなたには、他人様のご飯を食べる〜〜〜、精神修行が必要です〜〜〜〜」

((((それは正しいかも))))

ここしばらくのつきあいで冥子というモノを見たシロタマまでが頷いている。
幸いなことに除霊は未経験。

「横島クン〜〜〜〜〜。冥子をお願いね〜〜〜〜。何してもさせてもいいから、ビシビシ鍛えてやって〜〜〜〜」

そこで一転し横島に懇願する。結局は他人様に頼る六道理事長。
一方で、おなかが痛い〜〜〜、今日はダメ〜〜〜、とかぬかしてやがります冥子には式神でビシビシ精神注入。

こちらは横島。
もはや頭の中には補習のホの字も、試験のシの字もない。



(勝ったら、冥子ちゃんが丸ごと俺の物に? 親公認? あ〜んなことや、こ〜んなこともすべてオッケー?)
ボムん!! 妄想バクハツ。
(かっこいいナイスガイが、強い美人に勝って、嫁さんも財産も新しい能力もゲット? 神話なんかによくある勝ち組パターン?)

ぐぉぉぉぉっ!!!

「やらいでか〜〜〜っ!! 文珠使いの英雄横島に不可能はなぁ〜〜〜い!!
 理事長!! いや母上!! 冥子ちゃんの未来はこの横島にお任せあぁれ!!」

あるのは「ハーレム」とか「初夜」とかいう18禁文字のみ。



「ありがと〜〜。そう言ってくれると思ったわ〜〜〜〜〜」

大見得を切る横島と手を叩いて喜ぶ六道理事長。



それを見た令子、歯ぎしり。

「ぐがっ!!」
(りっじっちょ〜〜〜!! いくら何でもやり過ぎよ〜〜〜!!)

ギン!! と横島を見るが妄想全開の横島は気づかない。

見ると、シロがキッと顔を上げる。

「理事長どの!!」
(よしっ!! さすが武士の子よ!!)

シロの主張をさりげなくフォローすれば自分のごり押しとはとられないはずだ。


「この後、拙者も試合して「どあほー!!」ギャィイン!!」
令子のケリがシロの後頭部を直撃する。


返す刀で完全にトリップした横島をしばき倒して妄想から呼び戻し、冥子を手招きする。

「ったく、どいつもこいつも!! 冥子!! こっちへ来なさい」
寄ってきた冥子にフルに霊力を渡す。

「横島ごとき勝てるわよ。 私がサポートしてあげるわ!」
「やっぱり、令子ちゃんはお友達ね〜〜〜。 お母様に追い出されたくない〜〜〜」

うるうると両手を握りしめた冥子に、令子がハッパをかける。
「勝ったらご褒美に、横島クンの上司にしたげるから!」

聞いた冥子がパッと顔を輝かせて令子に抱きつく。
「令子ちゃんと同じにしてくれるのね〜〜〜!! 冥子がんばる!!」


だから令子ちゃん好き〜〜〜〜と抱きつく胸の冥子を何とか引きはがし、横島の胸ぐらをつかみ、耳元でがなる。

「勘違いするんじゃないわよ!! アンタが勝っても‘修行に’来るんだからね!!
 親友の冥子になんかしたら私が許さないからね!!」

「令子ちゃん〜〜〜〜、やっぱり〜〜〜!!!」
“親友”の二文字に、またもや抱きつく冥子を引きはがし、こんどは横島の首もとをひっつかんで吊し上げる。


つるし上げられて、爪先立ちになった横島の顔はもはや紫色。
「わ、わかってます!! わかってますから、首を絞めないで〜〜〜」


そんな横島を吊し上げたまま、じーっとしばらく睨んでいた。やっとこさ決心したのか、


「‥‥…、もしアンタが勝ったら」
と絞り出すように言ってから、ほんの一瞬つまった後、

「丸一日つきあったげるから、勝って。わかった?」
後半、かすれるような小さな声で言われ、横島が、へっ? と目を見張ったときはいつもの令子。


いつも通りではないのはシロキヌだ。
  (あ〜〜〜〜っ!! とうとう!! ど、どうしよう!! どうしよ〜〜!!) 
  (拙者を蹴ったのにっ?!)
  (私もっ!?! いやっ、こんなとこじゃ恥ずかしくて言えない!!)
  (うっ、拙者とのでぇと(散歩)じゃ、‘ご褒美’にならないでござる!!)
 
じたらばたらと無駄に頭を使っている中、横島が令子にお約束で飛びかかる。

「そ、それはもしかして愛の告白!? とうとう報われる日が!!
 美神さはぁ〜ん勝ったら、夜景のきれいな「やかましいっ!!」バキッ!!


きれーな右ストレートが顔面にめりこみ ぼて。

ゲシッ!!!!ピンヒール踵攻撃。

今回は間違っちゃいないのだが、オトメゴコロロをかけらも解さないドアホが悪い。

「さっさと結界に入れっ!!」
「 ・・・・ハイ」

さらに神通棍で顔面をも殴られた横島が、鼻血を拭きもせずに、とぼとぼ結界にはいる。

「はぁ〜〜、いつもいつもこれだもんな〜〜。キスでさえ妙神山でもレースクィーンでも結局チャラだもんなぁ」



ふと気が付くと後ろからおキヌとシロの声援が聞こえてくる。



「冥子どの!! “必ず”勝って下され!!」
「そうですよ!! 天才の冥子さんが負けるはず無いです!!」

必死の表情で“冥子を”応援している。

「みんなありがと〜〜、冥子、精一杯がんばる〜〜〜!」
冥子が珍しく応援人物に囲まれて涙目で感激している。みな横島の方は見向きもしない。

「とーとーおキヌちゃんやシロにまで見放されたか・・・・・・」
背中が煤けているがこれに同情する男は居るまい。

「ルシオラ使って、冥子ちゃんゲットしようってんだしなー」
そこに考えが至ってしまったらしい。

「先を考えるとやらん訳にいかんしなー」
ますます背中が煤けていく。


「ルシオラ怒ってるやろな〜〜」

ルシオラの目の前で理事長に大見得きっちまったしなー…‥‥




「どうするの?」
この光景をだまって見ていたタマモが初めて口を開く。

同じく無言、無表情で見ていたルシオラが聞き返す。
「どうって?」
「ルシオラ次第でしょ?」
「冥子さんは超一流の式神使い。ヨコシマはマスター。私は式神よ?」

言い捨てて、結界に入り、横島の肩へ、ちょん、とのる。

「あっそ」
タマモも再び沈黙する。


   『ヨコシマ、精一杯がんばろうね』
   『え?』
魂から侵入してきたやさしい、あやすような意識に横島が驚く。

   『・・・・バカ。この試合は勝ち負けよりも修行でしょ。ちゃんと私を使うのよ?』
   『スマン』

かすかにため息をつくような意識が伝わってくる。

   『らしくないわよ。私の横島はバカでスケベで、美人とヤれると見れば敵でも口説く見境無しなの。
    ちゃんと使えば、冥子さんと美神さんゲットよ。明日からビデオや写真集とはおさらばよ?』
   『!!・・・・・・』
   『ホンット、バカなんだから。ハーレム、できるかもよ?』

ルシオラが肩を離れ、霊力を騰げはじめる。

   『美人手に入れた後、粗末に扱ったら、後生で祟るからね』
   『祟らせるもんかいっ。今生でぜーったいヤってやる!! 後生までお預けくわせる気か?』
   『バカっ・・・・。期待してるわ』
ルシオラがはにかんだような気がした。

   『おおっ! 使って使って、使いまくってやる!!』
   『そのためにもちゃんと修行してね』
   『まかせとけ!! 俺の煩悩は筋金入りじゃ!』

「六道理事長!!」
横島が結界の中から大声を上げる。

「なあに〜〜〜?」
「勝ったら、式神――ルシオラでも着れる服とかアクセサリの作り方も教えて下さい」

冥子を応援していたおキヌがそれを聞いて、思わず振り返る。
ルシオラも横島の顔を見る。

理事長は一瞬喜んだ顔をし、黙って首を縦に振る。


   『なんで・・・・?』
   『たまには違う服も良いだろ。勝ったら、まずウェデイングドレス。真っ白のやつな』
   『!!』
思わずうつむいた目に何かが光る。

   『ルシオラ、着てくれるよな?』
   『うん・・・・』
   『にあうやろな〜〜〜。意外に白無垢、色打ち掛けもいいかも』
   『ヨコシマがいいならなんでも』
   『やっぱオーソドックスなプリンセスドレスだよな。ひらひらのいっぱいついたやつ』
   『うん。肩の見えてるのがいいな・・・。胸小さいから似合わないかな…』
   『すっげーかわいい。うーん!! いつか必ず抱きしめてやる!!』

二人で、イメージを頭の中でめぐらせている。

   『いつもの黒装束に赤のルシオラもいいけど、真っ白な透けるようなドレスもええな〜〜〜』

途中から、リアルな妄想が脳裏に渦巻いて、お約束で口からも出て行く。
どうやらウエディングドレスを剥いてなんかしようとしているにちがいない。

「くーっつ〜〜〜〜っ!! ルシオラがスケスケドレスなら、
 美神さんは蝶マスクのバニー、冥子ちゃんは看護婦さんや〜〜〜っ!!
 いやっ!! 皮のボンデージとメイド? ハマリすぎかっ?」


はっと気がつくとルシオラの後ろにおどろ模様がページ全体に渦巻いている。


「な・ん・でぇっ!! そ・お・な・る・のっ!!」


ルシオラが真っ赤な顔で、どっから出してきたのか1トンはありそうなH型鋼でぶん殴っている。


「こんのバカバカバカバカバカァ!!」


「よこしませんせーらしいというか」「冥子さん。暴走してでも勝って下さいね」
「ばにーってなにかしら〜〜〜〜?」「あいつらそいうことやるつもりかい!!」
「ルシオラは関係ないんじゃない?」「冥子あずけるのやめようかしら〜〜〜〜」


外野が眺めている間にも、霊波砲で穴だらけにされ、地面に叩き付けられて、横島がどんどん原型を失ってゆく。
H型鋼はもはや鉄塊になり、うち捨てられている。

肉体と魂が完全に分離したので荒い息と共に仕方なく手を止める。


「ちょっとはドキドキした私がバカだったわ!!」





―――――――横島が復活するのは次話までお待ち下さい――――――――


to be continued


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