椎名作品二次創作小説投稿広場


GS冥子?

侍の忠義


投稿者名:案山子師
投稿日時:07/ 6/17

 カツッ! カツッ! カツッ! 
 乾いた音とともに背後の壁に突き刺さる音が三つ。
さらにその瞬間、鋭利な刃物が頬をかすめて飛んでいく。
 止まっていては殺られる―――だが、閉鎖された部屋の中で逃げ回ろうとしてもすぐに追い詰められることは必至だ。
 向けられた明確な殺気を全身に浴びながら横島は必死に考える――――――とりあえずここから逃げ出すために唯一の出入り口を目指すが、
 カッ! カッ!
 ドアノブに触れようとした手を狙って背後からまたもや刃物が飛来する。
 ダメだ、このままで命が危ない。悟った横島の行動は早かった。
 「勘弁してくださいぃぃいいいい!! もう二度としませんからぁあああああああ!!」
 向かってくるシャープペン、ボールペン、万年筆、およそデスク上で凶器になりえる物すべてが横島に向かって雨あられのように飛んでくる。
それでもこの閉鎖された空間の中で、達人顔負けの反射神経で交わしていく横島の生命力はゴキブリなみのしぶとさであった。
 「そのセリフは何度となく聞きましたよ。でも、やはりお分かりになっていなかったようなので今日は徹底的に修正してあげます」
 「もう十分に(ヒュンッ! )わかりましたからッ(ズガッ! )ごめんなさい俺が悪かったです(グサッ! グサッ! グサッ!)本当にもう二度としませんから〜〜ッ!」
 「そういって私に抱きつき。胸に触ったのが35回、お尻に触ったのが43回、その他もろもろセクハラ行為をあわせて二桁を越し、先日三桁目に突入しましたよねぇ?」
 どす黒いオーラを漂わせながら、鬼の形相で次々と手近なものを手裏剣のように投げつけているのは、この事務所の経理を行っているメイドの日向であった。
 現世にしがみつく、しつこい自縛霊すら一眼で追い払いそうな形相だ。
 「ごめんなさいッ! ごめんなさいッ! (グサッ! グサッ!) すみません(ドスッ!) すみませぇぇええええええんんんんん(グサッ! グサッ! グサッ!)」
 何とか急所ははずしているが、やはりそろそろ限界が来ていたようで見る見るうちに横島の体がハリネズミのようになっていく。
 頭の先から靴の先まで、シャーペン、鉛筆、三角定規、コンパスが突き刺さっている。横島でなかったらもはや死んじゃうだろうというくらいに、体中にいろんなものが突き刺さっている。
 「こっ・・・こ、これ以上は・・・・・・ギャウッ!!!!(ドスッ!!!!)」
 最後に危険な音が響いて横島の眉間を日向が手にしていたハンコが命中した。
 それまでの攻防ですでにボロ雑巾になりかけていた横島の意識は、そのままドロップアウトして地面に倒れていった。
 「日向ただいまぁ〜〜。頼まれたものかって来たよ―――てッ! 横島あんた何してんだい?」
 日用品を買いに出かけていたテレサは扉を開けると同時に目の飛び込んできたハリネズミを見てあきれたような声を上げる。そして次にコンクリートにめり込んだ文房具の数々を見てため息をついた。
 「横島あんたも懲りないねぇ、今日はいったい何をしたんだい?」
 どうやらこの光景は彼女らにとって日常的なものだったらしい。
 「たっく。毎度毎度あんたはいつも・・・早く部屋を片付けるよ」
 「本当に、毎回毎回横島君のおかげで部屋の修理が大変です」
 「そう思うならもうちょっと(部屋の中では)手加減したら」
 「横島君以外とすばしっこくて、なかなかあたらないんですよ。(私も)腕が落ちたんでしょうか」
 「まったく、横島も無駄にスキルが磨かれてるんだから・・・・・・おいッ! いつまでも寝てないでさっさと手伝いなっ!」
 床に転がってる体を軽く蹴り飛ばし、無理やり覚醒させる。
 「うう、ひどい目にあった・・・」
 頭を抱えながら起き上がる横島にあきれた顔でテレサが言う。
 「自業自得だろう。まったくあんたは一体何を考えて生きてるのか、毎回毎回ハリネズミみたいになりやがって。ほら、あんたも手伝いな」
 ちりとりと箒を投げ渡しながらヒビが入った壁を直していくテレサ、その横では日向が散乱した書類を再び束ねなおしていた。
 「まったく次からセクハラ一回ごとに給料から罰金制度にしましょうか」
 「そんなことしたら横島なんてすぐにただ働きだな」
 「そっ、それだけは勘弁してください―――」



 「そうそう、帰りに六道家に寄ってきたんだけど、これを横島渡してくれってさ」
 テレサは分厚い封筒と、ヤタガラスの封印された札を投げよこした。
 「この前の騒ぎであんたの式神、姿が変わったそうじゃないか。それに対して日光ってやつが調べた資料だとよ」
 封を切り取って中に入った書類を取り出してみるが、ものすごい量の活字が詰まった紙の束にげんなりとした様子の横島。
見る前から読む気がうせていく量の多さだ。
 しばらくそれとにらめっこを続けていると、横からさっと手が伸びて書類の束を持っていかれる。
 「ちょっと貸してください」
 さっと横から書類を取り上げた日向は、本当に呼んでいるのかと思うくらいの速さで紙の束をめくっていく。
 「大体把握しました」
 書類を返して日向は言った。
 「「早いっ・・・・」」
 さすがのテレサもびっくりだった。
 

 「さて、横島君の式神ですがかなり霊力が上がったようですね。調べによると十二神将のおよそ七体分の霊力があるそうです」
 「そっ、そんなにですかッ!?」
 「正確には六体と四分の三です。しかし式神が姿を変えるなんて、そんな事例聞いたことないですが・・・・・・」
 考え込む日向をよそに横島は戻ってきた式神を召喚してみる。
 足が三本になり、目が三つ(真ん中のひとつはガラス玉のように透き通っている)になった式神が姿を現した。
 「これはもしやっ!? 俺がモテ男君へと至る道への予兆なのかッ!?」
 「ないない」
 横島の寝言のようなボケに、テレサがさらりと突っ込む。
 「とにかく慣れるまではその式神あまり多用しないほうがいいでしょう」
 「えっ! 何でですか? 強くなったんならいいんじゃ」
 日向の言葉に横島は疑問を浮かべる。
 「横島君が今まで使っていたのは十二神将の霊力のおよそ一体より少なかったんです。それをいきなり七体分の霊力を同時に扱うとなると」

 グギャァアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!
 
 「わっ! こらッ! お前何するんだッ!?」
 「制御できずに暴走します」
 いきなり震えだしたかと思ったヤタガラスが、いきなり横島に襲い掛かった。
 「痛い、痛いってッ! 止めろ、戻れ〜〜〜ッ!!」
 何とか強引に影の中に戻すが、横島の額にはしっかりと足跡がついていた。
 「もしくは無理やり使うと、霊力が足らずに枯渇して死にます」
 「そんな・・・・・・せっかく、せっかく、これからやと思ったのに」
 両膝、両手を床についてショックな横島に朗報とばかりにテレサが告げる。
 「安心しろって。月光ってやつがその話聞いたら、いつでも修行をつけてくれるって言ってたからさ」
 テレサの言葉に固まっていた横島が過剰な反応を示す。
 「月光がやとッ!? お前あいつが修行と称してどんなことするかしってんのかッ!?いきなり高層ビルの屋上からヒモ無しバンジーで叩き落されたり、水深80メートルの深海まで碇にくくりつけられて放り込まれたりほかにもetc、etc・・・数え切れんほどの危ない目に会わされたんやぞッ!!!」
 「まあ、そのおかげで強くなれたんだからいいじゃないか」
 横島の必至な訴えをさらっと笑顔で流してくれた。
(うう・・・かわいい―――こいつがロボットじゃなければ今すぐ押し倒して・・・・・・てっ、そんなことを考えてる場合じゃないッ)
 「あかんッ!? あいつと居ったらいつか俺の命がなくなってまうわッ!?」
 あまりの横島の必至さに少しだけ同情を見せる二人であった。
 「まあ、暇ができたら一度たずねてあげなさい。月光も横島君が来てからとっても楽しそうですから」
 「あいつぜってぇ俺のこといたぶって楽しんでやがるな」
 「そっ、そんなこともないと思いますが・・・・・・」
 日向の中で月光の信頼はそれほど高くなかった。
 
 
 
 「それよりテレサ。今日は冥子さんどうしたんだ?」
 「リーダーなら風邪で倒れてしばらく休むってさ」
 「何ッ!? それなら・・・って、お前らなんで俺をそんな目で見る」
 「見舞いに行くのはいいけどくれぐれも悪化させるなよ」
 「病人のところに行くということを忘れないでください」
 「・・・お前ら俺を何だと思ってるんだ〜〜〜ッ!?」
 横島の心の叫びがこだました。




(しかし、あの式神は私が六道家に使えてから一度も見たことがない。あの霊力を見るとただの式神ではないようだが―――六道家は何かを隠しているのか? いったい何を――――――)



 それから、冥子が回復するまで仕事は休みということで、このままここにいるのもなんなので帰りがてら冥子の見舞いに行くことにしたのだが・・・・・・、
 

 


「畜生―――なんでこんなことに」
デパートで見舞い品でも購入しようかと思ってやってきた横島は、うっすら涙を浮かべながら横島はだるい体を無理やり動かしヤタガラスを召喚した。


なぜかデパートにやってきた瞬間に電灯が消えたかと思ったら、次にやってきたのは大量の悪霊の群れであった。
無論デパートには何人もの人間がいるわけで、これを見捨てて逃げることはさすがに横島でもできなかった。
しかも、運が悪いことに先日の一件で文殊のストックもそれほど残っていなかった。
それでも何とかヤタガラスを制御することには成功したのだが、そう何度も召喚すくことはできそうになかった。
いつもなら何てことない動作の一挙一動が今はものすごく堪えた。
だが、その分威力はすさまじかった。ヤタガラスの体が回転すると同時に悪霊の群れに突っ込む、するとその通り道にいる霊は一瞬にして塵のように消え去っていった。
(冥子さんこんな奴をいつも何食わぬ顔で使っていたのか・・・・・・)
 いまさらながら冥子の奥の知れない霊力に畏怖を覚える。
周囲を見回すとデパートに残っていた人たちは全員逃げ出すことに成功したらしく、あたりには人の気配はなかった。
 「ようし、これで俺も早くこんな所から・・・・・・『後ろですッ!!』」
 あたりの悪霊はすべて駆逐できたと思ったが、まだ取りこぼしがいたらしい。突然かけられた声に反射的に動くとそこには日本刀を振り上げた落ち武者の姿をした悪霊が、今まさに自分に刃を振り下ろそうとしているところだった。
 とっさに避けようとするが、ヤタガラスを使いすぎて体がだるく、いうことを利かない。
 恐怖に一瞬目を瞑る。
 その次にくるのは苦痛であろうと予想するが、それはなかなか訪れなかった。
 「なんだッ!?」
 目を開くと、前にあるのは体を二つに切り裂かれて、霧のように掻き消えていこうとする武者の姿だった。
 悪霊をやすやすと切り裂くやつなんて、思いつくのは一人しかいなかった。
 アンチラの姿が頭の中を一瞬よぎるが、すぐにそれが間違いであることに気づく。
 目の前にあるのは鋭利な光を今も放つ一本の日本刀。
 悪霊かと一瞬考えるが、攻撃するならすでに自分はここにいないだろうと思い様子を見守る。
 どこかで見たことがあるようなその姿はちょうど、人間の腰の高さまで浮遊すると徐々に刃の輝きが失われていく。いや、よく見ると刃の周りに鞘が出現しているようだ。
 それからすぐに目も前に赤銅の鎧をまとった一人の武人の姿が現れた。
 『お久しぶりです、横島殿』
 片膝をついて頭をたれる武者の姿に横島は戸惑いを隠せない。
 「なんで、俺の名前を・・・」
 『覚えてませんか? 私はあなた返しきれない恩があります。首塚のときと、そしてもうひとつ―――』
 「もしかして、お前あのとき・・・公園にいた―――」
 『はい。くやしながらにも私はあのとき何者かに操られていました。首塚というよりどころを失い、あと少しで完全に意識を失うという直前にあなたが使ったあの力によって私はその支配から解放されました』
 「俺、何かしたっけ?」
 横島はまったく記憶にないことだが、武者はそのときのことを完全に記憶していた。
 『あなた様と戦ったから分かります。私を操っていたのは糸です。』
 「糸って・・・・・・あっ! まさか」
 『首筋に打ち込まれた糸から霊脈を犯され、だんだんと意識を奪われていました。しかし、あなたが投げた『色』という文殊が私に触れた瞬間にその支配が断ち切られたのです。おそらく『絶』という効果が発動して、私とそいつをつなぐものがきられたからです』
 「そうだったのか。でも、なんでいまさら俺を助けてくれるんだ・・・?」
 横島はなんとなく予想していたが、あえてそれを聞いてみることにした。
 『私を操っていた何者かがこの城の中にいるからです。首塚の破壊、私を操った報い、そして、助けられた恩を返すために私は再びここに現れました』
 「そんなこといっても、俺の霊力もほとんど残ってないし・・・・・・」
 なんとなくこのままでは自分もこいつと一緒にその強そうな奴と戦わなければなりそうなので口ごもるが、
 『言いづらい事なのですが・・・もう一人残っているのです、この城で奴と戦っている何者かが』
 「じゃあそいつに任せておけば」といいそうになったが、その次の武者の言葉に横島から逃げるという選択はできなくなった。
 「その者は、はっきりいって、あなたよりも霊圧が低い。多分殺されるでしょう。殺されなくても私と同じように操られるか、霊力を吸い取られるか、どれにしてもろくな未来はありません」
 「俺はそんなヒーローじゃないんだって・・・ッ!」
 横島は泣きそうになるが、
 『彼女を放っておくのですかッ!?』
 彼女という言葉に反応した。
 「彼女ってことは女性なのか?」
 『はい。横島殿と同じくらいかと・・・・・』
 「よっしゃぁ〜〜〜ッ!? 今からその娘を助けに行くぞッ!!」
 横島の霊力が少し回復した――――――。
 

 「そういやおっさん名前はなんていうんだ?」
 『拙者の名は――――』
 
 
 
 横島が、赤銅の武者と出会うほんの少し前の出来事。

 「早く逃げて下さいっ」
 大勢の客がいっせいに出口に向かって走り出す。
 その一番後ろにいる少女が悪霊を食い止めていた。
 黒いゴシック風の服を着たショートカットの少女。十字架のペンダントを身に着け、手には分厚い聖書を広げている。
 「イージスの盾の論理をごぞんじ。相手の戦闘力を無効化すれば、最小限の戦闘力でも最強と同じ」
 悠々と悪霊を見つめる少女の周りには、何十枚もの聖書の1ページが吹雪のように舞い上がり少女の身体を守っている。
 近づこうとする悪霊たちが漂う紙切れに触れると同時に、霊力を吸い取られこの世に存在できなくなっていく。
 「女・・・なかなか強力な技を持っているようだなぁ」
 干からびたミイラに髪の毛が生えた悪霊が少女を見下ろしてしゃべりかける。
 「私はこれでも六道女学院霊能科の生徒です。私がいる限り一般の方には指ひとつ触れさせませんわ」
 最大限に広げられた非武装結界に遮られ、悪霊たちはこれより下の階へ向かい事を封じられている。
 「なるほど一見見ると厄介そうな技だな―――」
 結界に軽く触れてみると、高圧電流に触れたように指に痛みが走り、結界からはじかれる。
 「分かったでしょう? 相手の攻撃力をゼロにすれば最小限の戦力でも最強と同じ。私『夜柩 聖』があなたを極楽へ逝かせてあげます」
 そして、非武装結界の出力が最大限にまで上がった。
 結界の周りを漂っていた悪霊たちが次々に結界に巻き込まれて成仏していく。
 それを見てもミイラ女性の悪霊はにやりとした笑みを崩さなかった。
 相手は自分の結界を破ったわけではないのになぜもそう余裕なのか?
 襲い掛かってくる侍ゾンビや、悪霊たちは、聖の結果に触れると霊力を吸い取られて、その存在を失っていく。
 何体の悪霊が襲ってこようとも、この防御結界の中にいる限り手は出せないはずだが、霊力切れを待っているのだとしても自分の霊力はまだしばらくは尽きることはない。
 ではなぜ? と考えをめぐらせていると、
 「ッ!?」
 チクリ、と首筋に痛みが走る。
 その次にやってきたのはものすごい眠気と、自分の中に入ってくる不快なイメージだった。
 「ハッハッハッ〜〜〜、馬鹿なやつだ周りのやつに気を取られて私の触手に気づかないとはッ」
 薄暗い中ではじっと目を凝らさないと分からないほどの極細の糸が、聖の首筋から伸びている。
 その糸をたどっていくと、目の前に居る悪霊の長い髪の毛につながっていた。
 「イージスだか何か知らないが、一部を活性化されると、その部分以外の索敵能力が弱体化するようだな」
 薄れていく意識の中で、必死に自分を保とうと抵抗するが、まったく歯が立たない。
 結果の中に入り込まれることなど考えもしなかったし、ましてや非武装結界にこんな弱点があるとは考えもしなかった。
 「壁が強固で頑丈なほど中身はもろいものさ。別に破れないって分けじゃないんだよ。ただ進んで痛い思いをするほどのものでもなかっただけ」
 初めての実践。それは想定していたものとはひどくかけ離れたほどのものであった。
 霊力を持つ人間。
それは確かに霊力のない人よりも優れているかもしれないが、その力は対抗しうるというだけであって、相手を圧倒するようなものではないのだ。
 逃げ遅れた人々を逃がした時点で自分も脱出するべきだったと後悔するがすでに時遅し。
 防御結界という守る力を失った私には、もう彼らと正面きって戦う力も存在しないのだ。
 「くくくっ、この前良い駒を取られて困っていたんだがこれで代用できる―――」
 完全に光を失った聖の意識はまどろみの中へと沈んでいった。
 「さて、まだ私にはむかう者が残っているらしいし、こいつの性能を確かめるとしようか「別に確かめなくてもいいぜッ!!」何だとッ!?」
 盛大に扉を開け放ち、横島がたった一人でこちらに向かって来る。
 「あんたがここの親玉か? 安心しろこの俺GS(助手)横島忠生があんたを成仏させてやるからよッ!?」
 「これは驚いた。こちらから向かおうとかと思っていたがそちらから来てもらえるとは? どうやらこいつの性能を試すのによさそうな相手だな」 
 下種な笑みを浮かべた親玉は周囲に漂う悪霊をたちを自分の周りに集結させる。 
 「貴様が何を「先手必勝ッ!?」しようと、てッ!? こら、まだしゃべっている途中だぞッ!?」
 「お前のせいで俺の霊力ぼろぼろだからな、式神ケント紙が残ってくれて助かったぜ」
 すでにヤタガラスを操るだけの霊力は残っていなかったが、偶然影の中に残っていた式神ケント紙を使って小さな式神を一体作るだけの霊力は回復した。
 悪霊の言葉を遮って横島の影からヤタガラスよりも小さい式神が飛び出してきた。
 ツバメの姿を模した式神は床すれすれを飛び、悪霊の隙間を縫って虚ろな瞳の少女に向けて一直線に飛来する。
 「何ッ!? まさかこの娘をお前っ」
 少女に式神が触れた瞬間に光が発生した。よく見ると式神の嘴には、文殊がくわえられている。
 「“蝉丸”が教えてくれたぜ」
 『色』と書かれた文殊が聖の体に触れると同時にあの時とは違う、意図した効果が発動する。
 「お前がその糸のような髪の毛でその子を操っているなら、この文殊とあわせることでその効果を絶つことができる」
 数週間前に感じた支配を強制的に断ち切られる感覚、
 「あのとき私の邪魔をしたのはお前だったか――――――ッ」
 悪霊の瞳は怒りの色に染め上がる。
 そしてその挑発すらもすべて作戦通り。
 『食らえッ!!』
 悪霊の背後の窓をぶち破って一本の日本刀が、無防備な背中に突っ込んでいく。
 いち早くそれに反応した一匹の落ち武者が、悪霊の盾になるように立ちはだかる。
 そのまま不快な悲鳴と共に落ち武者の姿が、霧のように掻き消えていく。
 日本刀はそのまま床に落ちることなく質量を増していき人の姿へと変わっていく。抜き身の刀身をかざしながら蝉丸は叫んだ。
 『横島殿その娘を早くここから』
 「頼んだッ!」
 意識を失った少女を担ぎ上げると横島は見事な逃げっぷりでその場所を離れていく。
 「貴様ッ!! 待たんかッ!」
 それを追いかけようと悪霊に命じるが、蝉丸がその前に立ちふさがる。
 『我が命尽きてもここは通さんッ!!』
 あえてここで貴様すでに死んでいるだろッ! とは誰も突っ込まない。
 剣鬼と化した蝉丸は、戦いの咆哮を上げた。
 向かって来る悪霊を片っ端から刀化して切り裂いていく。
 親玉はそれを冷徹な瞳で見つめていたが、
 「―――なぜ私がお前を選んだか知っているか?」
 静かに問いかけてきた。
 蝉丸の動きが一瞬鈍るが、戦いにはまったく影響がない。
 「お前はそのあたりの霊よりも力が強い・・・・・・が、私よりも弱いからだ」
 うねるような動きで悪霊の長い髪が動き、蛇のような敏捷さで蝉丸の足に絡みつく。
 それをねらって周囲をたむろってた雑魚どもがいっせいに飛び掛かろうとする。
 『しまったッ!』
 「お前たちッ! そいつに手を出すな〜〜ッ!?」
 親玉の叫びに一斉にあたりの霊がすくみ上がる。
 それを好機とみて、蝉丸はそのまま刀化して悪霊に向かって切りかかる。
 『死ねッ』
 だが、それをいとも簡単に悪霊は払いのけた。
 髪の毛の束で刀身を横殴りにして、デパートの壁へと叩き付けられる。再び人間の姿になった蝉丸を何十もの髪の毛がまとわりついていく。
 捕らえた蝉丸を見下し、冷徹な笑みを浮かべる。
 「・・・無念−―――――」
 じりじり強くなっていく触手にもはや蝉丸は打つ手を失った。
 全ての霊力を注ぎ込んで刀化しても、相手の膨大な霊力の前には、傷ひとつつけることができなかった。
 「お前がまた戻ってきて良かったよ。もう一度私の物におなり」
 細い髪の一本が蝉丸の体へと近づいていく。
 「何べんでも私のものにしてやるよ。今度は完全にお前の意識を破壊してなぁ」
 奥歯を噛み締め自分の最後を見つめている。
 『横島殿、恩義を十分に返せぬことをお許しください―――』
 差し込まれた触手から自分の意識が溶けていくように思えてきた。
 (主・・・・私はあなたの元へは参れません・・・・・・)
 体内部から溶かされていく感覚の中、蝉丸は最後に叫び声を聞いた。
 「蝉丸ッ!! 刀化しろッ!!」
 一瞬だけ意識が完全に覚醒し、体中に残った霊力を手に持った刀へと移し変える。
 質量が変わった瞬間拘束を逃れ一本の刀が地面に向かって落下する。
 聖を運んで、急いで戻ってきた横島は、落ちていく刀に向かって一個の文殊を投げつける。
 「これで俺の霊力をお前に上乗せすればッ!?」
 横島の体内に存在する霊力はすでに尽きかけていたが、文殊に圧縮していたその力は全快時の力だ。
 普通では行うことができない霊体への霊力の付加。それを可能にするのが、横島の何倍もの霊力が圧縮された文殊。
 書かれていた文字は『点』。
 蝉丸のもうひとつの姿。刀に点を加え新たな刃となる。
 刀身に文殊が接触した瞬間、膨大な力が蝉丸の中へと流れ込んでいく。
 『ぐぁああああああああああああああああああああああああああああああ』
 体の中をものすごい速さで血液が流れていく感覚を感じた。
 肉体を失った自分が感じているのは、多分血液に代わる霊力の流れ。
 今までの自分では考えられないほどの霊力が流れ込んでくる。
 刃に朱の波うつような波紋が浮き上がる。
 「貴様ッ!? 何をしたッ!!」
 「人間はどうやっても弱いもので、一人じゃお前みたいなやつにさえ遅れを取っちまう。それはこの前イヤってほど、分からされたからなぁ」
 それは、ブラドー島で最強の吸血鬼と戦ったときの記憶。
 もしもあの時テレサが来てくれなかったら、ここに自分が生きていることもなかっただろう。
 「だから足りないものは誰かが補ってやればいいのさ」
 「馬鹿なッ!!」
 言葉を失った悪霊は、驚いた様子で動きを止めた。
 それを狙ったかのように一閃、二閃。
 今まで傷つけられなかった蝉丸の刃が悪霊の触手をやすやすと切り裂いた。
 しかも刀化することなく、実体化したままで刀を振るっていた。
 『よもやここまでとは――――――』
 悪霊が蝉丸のほうへ睨み付けると、蝉丸は触手を逃れて横島前に立ち塞がった。
 『横島殿感謝します』
 「いいてっ。それより早くあいつを何とかしてくんないか? お前に使った文殊が最後の一個なんだ」
 肩で息をしながら横島は蝉丸に頼む。
 『ならば早々に奴を切らしていただく。が、その前に横島殿にお願いがござる』
 

 「ちくしょうッ! まさかこんなことがッ!! もういい貴様などいらない、二人とも喰らって私の力に取り込んでやるッ!!!」
 怒り狂った悪霊は、操った雑魚霊をいっせいに二人に向かって襲わせる。
 周囲を完全に包囲されて逃げ道はない。
 仮に何百体倒されても自分が無事ならいくらでも手下は集めることができる。
 圧倒的な質量の前に横島たちの敗北は必死だと思われた。
 「ッ!!」
 その光景を見守る悪霊の瞳孔が大きく開かれ驚愕の表情が浮かぶ。
 赤く光り輝く霊気が一瞬にして横島達の周囲に群がる雑魚霊を吹き飛ばしたのだ。
 「そんな馬鹿なッ!?」
 「すげぇ・・・・・・」
 「『まさか(よもや)ここまでとは――――――』」
 刀化した蝉丸を構えた横島がまっすぐにこちらを見つめている。
 『刀化した私の霊力は、横島殿が普段使った文殊と同格。これだけの量の悪霊を人間一人守りきりながら貴様を倒すのは至難だが、一人なら十分に切り抜けられる』
 蝉丸は先ほど横島の文殊と同化するとき、相手の霊力の一部を取り込んでいた。
 刀化した状態時に自分を手に持った者に、自分の剣技をトレースする力を―――――
 「くそっ!! 貴様ら何百体やられてもあいつを殺せッ!!」
 膨れ上がった負の力が新たな悪霊を呼び込み再び横島たちに襲い掛かる。
 『統率なき雑魚は無きに等しい』
 横島の体を使い、蝉丸はかつて戦場でならした自分の剣技を披露する。
 

 戦場に生きる限り決して長生きできなかろう。
だが、ただひとつの季節に、ひとつの戦場にその名をどこまでも響かせてみよう。
わが名は蝉丸・・・・・戦場でその名を轟かせる者。
我が生きた証は戦場にあり――――――。


『抜刀ッ! 春姫ッ!!』
まるで敵が突っ込んでくるかのように読んだ動きで敵を切り裂いていく。
『連撃ッ! 一七月ッ!!』
続いて放たれた剣圧が、残った敵をすべて切り刻む。

「馬・・鹿な・・・・・あの量を一瞬で――――――」
『我が名を轟かせるため空蝉(躯)になれ。抜刀奥義!! 蜩(ひぐらし)ッ!!』
素人とならばその動きを目視することさえ至難であろう、達人の域に達したその動きに悪霊は逃げることも、雑魚霊を盾にすることもできずに切り裂かれた。
真正面から背後まで切り裂かれ、真っ二つに切り裂かれた悪霊は、抜け殻のように動きを止め、静かに背後へと崩れ去っていく。
『死体無きゆえに弔わぬが、無事に来世へと逝けることを』

乾いた音と共に刃が鞘に収められ蝉丸の制御が離れると同時に、横島が地面に崩れ落ちた。
「だはぁッ!! なんかものすごく疲れたぁ〜〜〜」
デパート内部の光景は悲惨なものだが、とりあえず死人が出なくてほっとした。
『横島殿大丈夫でござるか?』
「なあ蝉丸―――ものすっげぇ体が痛いんだけど」
『やはりなれない者の体で、この技を使うのはちと無理がありましたか・・・・・・』
「まあ、生きているんだからいいか」
指ひとつ動かせない状態なのでそのまま大の字で寝転んでいると、
 「お兄様ッ!!」
 倒れこんだ横島に、先ほど避難させた聖が小走りに近づいてきた。
 「あの悪霊を一撃で葬り去るなんてすばらしいです、私感動しました。ヒーリングはそんなに得意でありませんが」
 かざされた手から流れ込んでくる霊力がつかれきった横島の体を癒していく。
 (こっ、これはまさか戦場で出会う新たな恋の予感ッ!? 今までモテ要素がなかった俺がヒーローへの道へ。栄光のロードは近いのかッ!?)
 「大丈夫ですッ!? お嬢さん笑顔さえあればこんな怪我など」

 ものの数秒で復活する姿を見て、横島の霊力はやはり――なんだなぁと思う一瞬であった。



 その後少女の話から彼女が六道女学院の生徒であることを知り、自分がその理事長の娘の、つまり冥子の助手であることを話すと、
 「私、冥子お姉さまのファンなんです。GS免許を取る前はいいうわさは聞かなかったんですけど、免許取得後は華々しい活躍を披露されていると」
 ものすごくうれしそうに冥子のことを話し始めた。
 ちなみに良くないうわさというのは、除霊場所を丸々跡形もなく吹き飛ばしたり、森林一体を砂漠化したり、式神を暴走させ味方を全滅させたりするということだったが・・・実はほとんど事実であった。
 やっぱりあのうわさはデマだったんですね、と笑顔で語る聖に横島は沈黙するしかなかった。
 まさか、そのうわさが全て本当だとは・・・・・・言えない。



 「そういやお前はどうするんだ?」
 『受けた恩義は忠義で返させてもらいたく思います。できればこのまま横島殿の傍に』
 こうして蝉丸は表面上、横島の式神としてしばらく厄介になることになった。





 それと病気で倒れた冥子だが、
 「でねぇ〜〜、夢の中で横島君が来てくれるような気がしたの〜〜〜」
 うれしそうに横島が買ってきた桃缶を食べている冥子が居た。
 「聖ちゃんもお見舞いありがとうね〜〜〜」
 緊張してうまくしゃべれていない聖だが、とってもうれしそうだった。


 たまたま付けたテレビでは、新たに開店したデジャブーランドのコマーシャルが流れている。

 ここが新たな戦場になるということを今はまだ誰も知らない――――――。


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