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GS六道親子 天国大作戦!

史上最大の臨海学校!! 2


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:07/ 5/28




 青い海、白い砂浜。夏の行楽としてにぎわうべきはずの場所は今、蹂躙されていた。
 
 砂浜と海には妖怪・悪霊達が不気味に埋め尽くし、呆然と座り込んでいるかおりに、ある者は妖気を
ある者は水鉄砲を目掛けて振り下ろした。



 全てはかおりの目の前30cmであえなく弾き返されていく。



 かおりはどこか、焦点の合わない目を妖怪達に向けていた。

「…私がやってきた事はなんなのですの」
「まぁまぁ、気にしない気にしない」
  
 魔理が持ってきたスポーツドリンクを渡すと、かおりは特に何も言わずに受け取るが、あいも変わらず
目は死んだままだ。

 今かおりの目の前に展開しているのは、浜辺だけを蹂躙している妖怪・悪霊達だった。
 そう。道の方にはもう一つ結界が展開されていたのだ。

「ほら、悪霊達が少しだけ減ったんだからさ、ちょっとは貢献したさ」
「………ちょっとだけですわね」
「ほらほら、横島さんは立ち直っているんだから、かおりもこれからの除霊を考えないと!」

 更に落ち込むかおりに、後ろで元気にしている横島を指差すのでかおりも後ろを見てみる。
 元気な横島は押し倒されていた。冥子の式神達に。そして、冥子は横島の腹に座り込んでいる。

 ハートが飛んでいそうな場面だ。近くでシロ・タマモが半端な笑顔で2人を見ているのは、冥子の手に
箸でつままれた黒こげイモリがあるせいだろう。

「はい〜、ア〜ン」
「イモリは二十歳になってからぁ―――!!」

 しばらく見て、かおりは半眼で魔理を見返した。

「………わたくしにイモリを食べろとおしゃりたいのですか? 一文字さん」
「いや、アレは特殊だから」






 GS六道親子 天国大作戦! 17  〜 史上最大の臨海学校!! 2 〜






 各々準備体操が終った頃、急遽置かれた木箱に六道幽子が乗ったので生徒達はそちらへと緊張の
視線を向ける。生徒達のその視線の中に不安が隠れているのを幽子は悟ったのか、柔らかな笑顔を
向け、メガホンを手に話しだした。

「横島くんと〜 弓さんの〜 尊い霊力の無駄な犠牲で〜 結界の位置は〜 わかったわね〜」
「「うううう…」」

 柔らかな言葉で極少数の心臓をえぐるが、その他大勢はその一言で大分肩の力を抜くことができた。
 結界が道側に張られていたのは冥子のプッツン対策であるのを微塵に臭わせる事無く幽子の号令が続く。

「では〜 クラス別・班行動に〜 入りますよ〜」

 生徒達が手にした武器に力をこめるのと同時に幽子はホテルへと振り返った。

「その前に〜 そこに隠れている〜 小笠原エミさんも〜 出てきてくれると〜 嬉しいんだけど〜」

 しかし数秒、誰も出てこない。
 突っ込むには相手が悪すぎて、横島も唐巣神父もお互いに目配せをするだけだった。

「じゃぁ〜 エミさんがいないので〜 ピート君は〜 2年B組のたんと」
「あー、私に何の用なワケ?」

 あっさりホテルの柱の影から現れた黒魔術師装束のエミに幽子はにっこり笑って懐から計算機を取り出した。

「臨時で〜 お仕事頼めないかしら〜 報酬は〜 これくらい〜」
「もうチョット勉強するワケ」
「成功報酬で〜 これくらいで〜 今日と明日〜 ピート君を使い放題〜」
「まかせるワケ! 大船に乗った気分で冥子共々、そこで待ってるワケ!」
「え〜 冥子は〜 前線に出るわよ〜?」
「………ッチ」

 舌打ちしてからエミはホテルへと駆け込んでいった。装備を取りに行ったのだろう。
 エミを見送る生徒達にまじり、横島はうんうんと肯いて、つい呟いてしまった。

「いい尻や…! ギリギリラインまで露になった乳、動くたびに見え隠れする太もも…!
美神さんがアメリカに行ってから、久々のサービスカット…!」
「それより、なんであんな格好…」
「あれは〜 エミちゃんの〜 仕事着なのよ〜」
「仕事着?」

 ギューっと横島の尻をひねりつつもタマモの疑問にこたえる。

「エミちゃんの〜 黒魔術は〜 一流なのよ〜」
「…ってことは、あそこで黒魔術をしようとしていたって事?!」
「大丈夫よ〜 仕事じゃなければ〜 エミちゃんの〜 呪いって〜 一日中笑ってたり〜 くしゃみしたり〜 
無害なモノが〜 多いから〜」
「誰かを呪ってたの?!」
「多分〜 ピート君と〜 楽しそうに〜 おしゃべりしていた〜 生徒達にじゃ〜 ないかしら〜」

 それを聞いてしまった当の女子生徒達が青ざめ、ピートが困ったように笑う。
 エミと冥子の中では無害な呪いなのだが、一般的には十分害意のある呪いだろう。
 前では唐巣神父と幽子がやいのやいのと騒いでいると、エミが再び姿を現した。いつもの大きなブーメランを
肩に背負い、Tシャツとハーフパンツに着替えて。

「…サービスカットがぁ」
「では拙者がサービスカットを!」

 嘆く横島に、シロが自分のTシャツの裾を胸の下まで上げて結ぶ。しかし、横島がフと笑って肩を叩く。

「いいか。出るモンが出ていて、引っ込む所が引っ込んでいる場合だけが出して輝く。
出る所と引っ込む所が中途半端な場合は、要所を隠してチラリズ」
「おーっと手が滑ったぁ〜!」
「水晶観音の手がすべっちゃいましたわ〜!」
「霊波刀がすべってござる!!」
「狐火がすべっちゃった〜!」

 魔理の霊力つき拳とかおりの水晶観音の張り手、至近距離からのシロとタマモの得意技攻撃が横島に
肉薄し、その全てを小さいダメージでかわした横島を影が覆う。バッと上を見ると大きな式神が宙を舞い
どんどんこちらへと近づいている。冷や汗をかく横島に冥子の間延びした声がかかった。

「バサラちゃんが〜 すべっちゃった〜!」
「ウソつけぇぇ―――!!」

 横島のツッコミはバサラの巨体の下に消えた。






 エミは冥子達の馬鹿騒ぎには気付いていたものの、決して逃げという訳ではないワケと口の中で呟きながら
結界の近くまで来て感心して背をそらせた。

「耐久性は今まで見た中では最高級なワケ!」
「ああ、あらゆる霊的攻撃を跳ね除けるはずだよ」
「…それが今回ネックなワケ。一回結界を出てから霊波放出しなきゃいけないし」
「まったくやっかいな欠点だよ。後ろのキョンシー達はこの結界は通れないだろうね」

 一目で結界の強度と性質を見分けたエミに、唐巣神父が眼鏡を直しながら同意した。
 エミと神父の得意技は一度結界を越えてから始めないといけない。すると2人共呪文が長いのがネックに
なる。なのでエミはブーメラン、神父は神通棍を始めに使用して至近距離の悪霊達を浄化させなければ
ならない。

 既にエミの周りには第一陣が集結しはじめていた。

 神通棍など、ほぼタイムラグのない接近戦タイプの霊能力者が第一陣に集められている。
 こちらにはエミや神父、シロと横島、ピートと魔理他数十名がいる。第一陣は切り込み後には遊撃に入る予定だ。

 その後ろには遠距離射撃能力を持った者と多少のタイムラグが必要な接近戦タイプが集められ、冥子を
中心にタマモ、今回は霊力が回復していないかおりもこちらに数えられている。

 最後に、ヒーリングと防御系霊能者が数名単位で班行動をする者達が集まっていた。今回はキョンシーが
使えないので導師としての能力を使うキョンシー娘やネクロマンサーではあるが防御の技を持たないおキヌが
こちらで行動する。

「では〜 鬼道先生〜」
「ハイ! 除霊開始!」

 鬼道の号令に第一陣が砂浜へと踊り出した。






 砂浜へ最初に突っ込んだのは、瞬発力のあるシロだった。

「成敗!」

 結界に出た瞬間から右手に霊波刀を具現したシロはまたたく間に十体の悪霊を霧散させていた。
 他のメンバーも頑張っているがシロは爆発力が違う。
 しかし、それは1人悪霊達に突出してしまう結果にも繋がっていた。

 悪霊を袈裟切りにしていた時、背後でそのシロに攻撃をかける悪霊が数体いた。
 それに気付いたピートが聖句を唱えるが、間に合いそうも無い。
 青ざめたピートの視線の中で上から何かが飛来して、その悪霊数体を除霊していた。

「!!」
「シロ! 出すぎだ!」

 横島が更に上空に数枚の破魔札を投げながら怒鳴るとシロは嬉しそうにこちらへと帰ってくる。

「えへへへ、ちょっと失敗でござる」
「タマモとまた、悪霊除霊数を競ってるんだろ? 序盤からリタイヤしてどうするんだ?!」
「リ、リタイヤはしないでござる!」

 横島もシロも右手で悪霊達を除霊しながら流暢にしゃべっている。それを横にピートは横島が先ほどから
投げている札の方へと注意を向けた。

 札は上空を旋回して、エミや神父達の背後から急襲しようとする悪霊達がいるとすぐさま矢の様に飛んで
迎撃している。札の先には何かが張り付いており、それが推進力になっている様だが…

「…あれは、サイキックソーサー?」

 ピートの呟きに横島が嬉しそうにうなずく。

「おお! 気付いてもらえた?! どこにでも飛んでいく、名づけて破魔札ソーサー!」

 得意満面な横島にシロとピートが笑顔で答えた。

「安直でござる」
「改名した方がいいですよ」
「うううう」

 実は、鬼道と冥子とタマモにもダメ出しを下された名前なのだ。横島としては無い知恵を絞ってつけた
可愛い名前なのだが、ピートは元よりシロにも却下されると涙が出てくる。

 横島の破魔札の残りが10枚を切った辺りで第一陣がなんとか悪霊達を浜辺を半分押し返す事が出来た為、
第二陣が結界から前進する。

 第二陣が布陣すると、左右に散る第一陣。つられて移動した悪霊達も多少はいたが、空いた場所へと
進軍をし始める悪霊達に霊体ボウガンの矢が襲い掛かった。

 霊体ボウガンが打ちもらした悪霊達は冥子の式神・サンチラをはじめとする式神やタマモの狐火が退治
していく。



 浜辺にいた悪霊達はおおかた退治され、六道女学院側が優勢に見えるが、ここからは持久戦になりつつ
あった。札補充と身体を休めに横島・シロ・エミ・ピートが結界に入り、スポーツドリンクを飲みながら状況を
見渡し渋い顔をしている。

「タマモが苦戦してござるな」
「こりゃまいった。海の中から水鉄砲攻撃ってやりにくいよな〜」

 タマモは水につかっている舟幽霊を攻撃しているのだが、舟幽霊は狐火を海にもぐって回避するので
かなりイラついているのが伺える。霊体ボウガンも舟幽霊には苦戦していた。

「それよりも不可解なのは、悪霊達の団体行動なワケ。去年はこんな攻撃じゃなくて。一体一体が衝動の
まま攻撃してきたのに、今年はイヤに連帯行動するワケ」

 いらただしく、飲み終えたペットボトルをゴミ箱に投げ入れるエミに横島とピートが振り返る。

「多分〜 今年は〜 ボスがどこかにいて〜 指揮しているのね〜 困ったわね〜」

 幽子もエミの意見に同意らしく、更に鋭い指摘もする。

「では早速ボスと一騎討ちを!」
「ボスはきっと海の中なワケ」
「う、海の中でござるか〜。この広い深い海の中でござるか〜?」

 途端にシュンとして海を見つめるシロに他の面々も同じ想いを抱いたに違いない。
 しっぽさえも元気をなくしたシロにエミは励ます意味をこめて肩を叩いた。

「大丈夫なワケ! きっとなんとかなるワケ!」
「………どうして、俺の肩を叩くっスか?!」

 肩を叩かれた横島が冷や汗をかきながら問うと、エミはフっと笑う。

「尊い犠牲はその他大多数の幸せに繋がるワケ。さぁ! その他大多数の為にお縄につくワケ!」
「イヤ―――! お縛りはクセになるからぁ―――!!」

 なんとなく嬉しそうな顔でエミにぐるぐる巻きに縛られ始めた時、それは砂浜に現れた。





 気付いた時には凪の様に悪霊達がピタリとおさまり、男が1人、波打ち際に佇んでいた。
 逆光で細部はわからないが、綺麗な重い鎧をまとい、髪は乱れて背中にながれていた。
 男から流れてくる霊圧は重く、冷たく、そして歪んだモノだった。近くにいた女学生は皆、青ざめて後退
し始めていた。

 お嬢様が多い六道女学院生徒だが、例外はいる。その例外に入る魔理は近くいた生徒から霊体ボウガンを
奪うと矢を放った。

 矢は、当たる寸前に男の持っていた刀に遮られる。

 ビィィンと弓が砂浜に突き刺さった音を気にもかけず、男は左手に持っていた物体を浜辺に転がした。
 それは、ナニかの頭部だった。多分妖怪だろう。その頭部に悲鳴をあげる生徒を睨んでから男は
大音声を響かせた。

「やぁやぁ、我は平知盛、ただ今そこの妖怪からこの付近の悪霊の頭を奪い取った者でござる!
これより我はそこの」

 ス、と刀をホテルの方へと突き出した。

「社に封じられし我が主君、安徳天皇が魂を頂きに参上つかまつった。邪魔する者は我が刀のさびとなれ!」

 ブン! と刀を水平にはらった時、行動に移れた者は少なかった。

 冥子は式神・シンダラに上空へと運ばれ、鬼道、唐巣神父、タマモ他少数が地に伏せた。
 その瞬間、風が襲い掛かり、大多数の生徒が砂浜に叩きつけられた。
 おキヌは身を伏せたが、周りに張られていた防御結界が壊されたことに気付いて青ざめる。

 慌ててエミ達も臨戦態勢で結界から出てきた。

「なに、アノ強さは? 魔族級なワケ! 横島! オタク、文珠何個ある?!」
「スンマセン! 始めの5分で使いきりました!」
「アホ―――!」

 エミの拳で砂浜に沈む横島を尻目に、シロが知盛に突貫した。
 シロの霊波刀と男の刀が打ち合って数度、シロの腹に知盛の蹴りが決まり砂浜を背中でスライディングして
数メートル先で止まる。動かない所を見ると気絶したらしい。決闘5秒の秒殺である。

「シロがまったく役にたたん―――!! どないせえっちゅーんじゃぁ?!」
「どうしよ〜?! どうしよう〜?! 令子ちゃぁ〜〜〜〜ん〜〜!」
「…アンタら………」

 混乱して青ざめ頭を抱える横島と携帯電話を取り出した冥子に、耐性ができていたタマモでさえも半眼に
なってしまう。
 冥子の電話は、すぐ繋がった模様だ。

「令子ちゃ〜〜ん、今大変なの〜〜!」

 半泣きで携帯にすがる姿はどう見ても成人女性には見えない。しかし、相手は冥子の姿が見えていないので
冷静な声で返している。

『それより冥子、今そこにピートいる?!』
「え〜、いるわよ〜〜」

 キョトンとしながらも、ピートに伝言だろうと冥子は携帯を操り、外部音声をオンにしてピートに令子の声が
聞こえるように操作した。すると、令子の怒鳴り声が飛び出した。

『こんのバカ吸血鬼一族!』
「え〜?! ちょっ『ブツ!』と令子ちゃ〜〜ん?!」

 慌てて再び電話をかけるが、相手は電源をオフにしていて繋がらない。

「令子ちゃ〜〜〜ん!」
「いきます!」

 冥子が泣き言を繰り出している間に、今度はおキヌがネクロマンサーの笛を吹き始めた。
 さすがにそれで浄霊とまではいかないにしても、知盛はその音色に不快を感じて顔をしかめた。

「やっぱ浄化系ですね?!」
「! 危ない!」

 ピートも聖句を口ずさもうとした時、知盛の右手が閃き、タマモが警告を上げる。
 知盛の右手から放たれたのは、懐刀だった。それは素早くおキヌの胸元へと襲い掛かる。
 避けることも出来ずに目をつむったおキヌに懐刀が刺さった音が響いた。

「………?」

 しかし、痛みが襲ってこないので目を開けると、おキヌをかばって懐刀を肩にもらった式神・シンダラが
足元に横たわっていたがフと消える。
 それと同時に冥子が砂浜に倒れた。式神の衝撃を受けたのだろう。
 ピシ、と音がしたのに気付いておキヌが目をやると、ネクロマンサーの笛にヒビが入っていた。
 
「これじゃ音が出ない…!」
「おキヌちゃん! 逃げて!」

 呆然としたおキヌにタマモが狐火を知盛に襲わせながら、こちらも距離を置こうとしていたが知盛の
薙ぎ一振りでピート共々砂浜に叩きつけられる。

 おキヌはその間に全力で知盛との距離をとっていた。

「ピート!」
「アーメン!」

 青ざめて叫ぶエミの横から突進して来た神父が左手から聖気の塊を放ち、避けた知盛に右手で構えていた
神通棍を振り降ろす、これは知盛の刀で受け止められる。
 神父の神通棍の光りが増し、力勝負になっていた知盛の背後へ、横島の破魔札が襲いかかる。

「もらったァ!!」

 横島の歓声と破魔札の着弾。その煙の中から神父がはじき出されて砂浜に数回転して止まる。

「………ありゃ、まきぞえ?」
「来るワケ!」

 冷や汗をかいた横島の横で、エミが着弾の煙に向けてブーメランを投げると鈍い音がして、これまた
砂浜に突き刺さった。煙の中の知盛は健在のようだ。

 慌てて短剣を構えるエミに、口元だけ笑みを形作っている知盛が煙を切って突進する。
 横島も札を2枚投げるが全てを起爆前に知盛に切られ、その勢いのまま、エミの腹部へと刀が突き入れられる。

「エミさん!!」

 崩れ落ちるエミに横島が声をかけると、知盛がフと小首をかしげてから納得したようにうなずく。

「昨今の鎧はずいぶん小さくなったものよ。運がよかったな、小娘」
「………まぁ、あのエミさんだしな」

 倒れたエミを良く見れば、切られた腹部には血は見えず、切り口からは黒いインナーが見える。腹部だけ
防弾着でもつけていたのだろう。

「っちゅうことは、今ならエミさんに人口マッサージと人工呼吸のし放題?! いざ鎌倉―――!!」
「…良い度胸じゃ。小童」

 NGワードを吼えながらエミに突進した横島を、額に血管を浮かび上がらせながら迎撃する事になった知盛は
素早い動きで横島を両断しようと刀を振るうが、えさを前にした横島は目を血走らせながら、刀を掻い潜り
そらせ、徐々に距離をつめていき、知盛の瞳がしかめられていく。



 横島達の援護で知盛から離れることに成功したおキヌは冥子の方に走り寄っていた。

<私、役立たずだ! 笛がなければ、本当に―――>

 泣きながら、冥子の元へと走る。少なくとも、冥子が回復すればおキヌよりは役に立つ。そう信じて
砂に足をとられながらも懸命に。



 知盛の方はしきりなおし、とばかりに数歩後退した所、横島がエミに肉薄しようとしていた。

「人工呼吸と心臓マッサー」

 ジの言葉を言う前に横島がバッタリ砂浜に倒れる。
 横島の後ろには式神らしき姿があった。

「敵ながら問うが…それはイカンのでは…?」
「大丈夫やさかい。横島さんやから」

 更に後ろにいた式神使いの鬼道が転がる横島に見向きもせずにキッパリ言うのと同時に横島が
ムクリと起き上がった。

「あー死ぬかと思った」
「しょーもないことせぇへんで下さい。後でどないな目に会うと思うんです?」
「ダメとわかっておってもやるのが男じゃ―――!」

 盛大に頭から血を吐き出しながらもケロリとしている横島に、ため息をつきながら夜叉丸を操る。
 夜叉丸と一緒に教師達があやつる式も知盛に突撃した。

 夜叉丸を入れてもその数15体。夜叉丸以外の式は全てケント紙式神だが、それでも脅威に値する数
のハズだった。

 知盛は強かった。

 長い悪霊生活で常識が破壊された故の強さを発揮した。

 その手は骨を感じさせず、関節の存在を無視してヘビの如くしなり、物理法則を無視して伸び、文字通り
式をちぎっては投げ、ちぎっては投げでその身を紙ふぶきに包ませていた。

「ここはジャン○の世界や、あらへんのに―――!」
「散れ」

 夜叉丸も遠慮なく捕まれ、両手で引っ張られた。
 夜叉丸はケント紙ではなかったので、モロにダメージが鬼道へ返り、ちぎれる前に夜叉丸が消え鬼道が
砂浜に転がり落ちた。

「ちくしょ―――! 常識返せ―――!」
「………先生も言えた義理ではござらん…」

 頭を抱えて吼える横島に、動けないがツッコミを入れるシロ。
 不敵に笑いながら近づく知盛に横島は鳥肌を立てながら周りを見渡した。

 横島以外に無傷で立っている者は極少数。攻撃能力を持っているのは横島だけだった。神父とエミが
沈められた悪霊相手に他のメンツで相手ができようハズもないだろう。

 横島は覚悟を決めた。

「ほう、覚悟を決めたか」
「ハ! GSは悪霊になびかん!」
「では遠慮なく行かせて…」
「サイキック猫だましィ!!」
 
 バン! と手のひらを叩くと同時に強烈な光りを放出され、知盛も目をつぶる。

 数秒後に目を瞬かせて周りを見るが、横島は見当たらない。 
 知盛としては、横島が通行の邪魔なだけなので迷う事無く前進を始めた。

「………先生ぇ〜」
「どうしろって言うんだ? 相手はモノホンの侍だぞ? 油断した背中から行くしかねぇだろう?」

 光りの中で倒れているシロの後ろに「秘儀・死んだフリ」をして隠れた横島にシロのジト目が突き刺さる。
 
 バリバリと数分音をさせ、結界を突破した知盛を見てから横島は倒れたGS達へと近寄った。
 ピートとタマモは痛そうに攻撃された箇所をさすっていたが行動はできる状態だった。神父とシロ、
エミは攻撃を受けた箇所の痛みがひどく動けそうになかった。
 エミ達はヒーリング班にまかせて、ピートとタマモ、横島が背をかがめてコソコソと移動し始めた。

「基本はやっぱ背中からズドンよね」
「ああ、遠距離攻撃ヒットアンドウェイだな!」
「ふ、2人共、もう少し正々堂々と…」

 明らかにコソコソする2人にピートが弱気ながらも反論すると横島・タマモに睨まれる。

「俺らはGSであって侍じゃねぇー! ならあの侍とチャンバラしてみろぉ!」
「女性に荒事まかせる気?!」
「い、いやそれを言われると!」

 2人の攻撃にタジタジになるピートに横島が目を輝かせて知盛が行った方を指差した。

「ピート! ここは一つ、霧で近づいてガブっといっちまえ!」
「ゆ、幽霊に吸血しろと?!」
「大丈夫! 神祖をガブっと倒したお前ならできる!」
「無茶言わないで下さいよ!」

 ヒートアップするピートと横島の間でタマモが2人の肩を叩いて後ろを指差している。
 ピートと横島も後ろを振り返り口を引きつらせた。

 忘れていたが、悪霊は知盛以外に大勢いたのだ。それらが浜辺に無言で再上陸を果たしていたのだ。 

 手にしゃくをもつ舟幽霊、海で亡くなったらしい悪霊、強面な半漁人など続々と三人に近づいて来る。

 タマモが狐火を両手にかざし、ピートが聖十字をきり、横島が栄光の手と札を掲げた時、上空から
破魔札が舞い降りてきた。

「のぉぉぉ?!」
「わぁぁぁ?!」
「きゃぁぁ?!」

 浜辺で倒れていた生徒達の大多数は、知盛の攻撃で結界近くに転がされていたので破魔札の余波は避け
られたが、三人は比較的近くにいたので悲鳴を上げながら爆風に転がされる。
 砂だらけになって顔をあげた3人の上空から大きなヘリが着陸を果たしたところだった。
 ヘリから降りてきた人物に横島が歯軋りをする。

「西条! お前、わかってて破魔札を乱れ撃ちしたなぁ?!」
「ハッハッハ。おや、横島君、息災だったのか。残念なことだね。しかし、これで助かっただろう?」
「何しに来やがった! この不良公務員がぁ!!」

 さわやかな笑顔を振りまく赤いジャケットを着た西条の後ろからは恥ずかしそうに緑のジャケットを着た
田部と黄色のジャケットを着た五条院が降りてきた。
 ピートは呆然と飛行機から降りてきたGメン達を見つめている。
 タマモも同じ表情で見つめていた。
 横島は中途半端に笑いながら、田部に声をかける。

「あのぉ…この暑いのになんでジャケットを?」

 この海開き前の半そで時期にジャケットを着る理由を聞いてみると田部はわずかに顔をしかめる。

「………Gメンの制服なので気になさらずに」
「あ、あと、その目にかけているアイマスクは一体…」
「目元が日に焼けるのはイヤなので…」

 横島にはオタスケ○ンのアイマスクに見える、その形に日焼けが残ったら外出できない恥ずかしさを
体験できる気がするのだが、一番気になる質問をする事にした。

「じゃ、じゃぁ、その長い白マフラーはいったいなんで…?」

 田部は恥ずかしそうに下を向いた。田部に引き続いて五条院が胸を張って答える。

「正義の味方は5色カラーに白マフラーが基本ですわよ」

 オホホホホ、と高笑いしながら破魔札マシンガンを構える五条院に三人共呆然としてしまう。
 ヒーリングを受けている教師陣と神父、エミもGメン達のいでたちに口元を引きつらせていた。
 田部と五条院のミニスカートと白いウエスタンブーツも正義の味方の必須アイテムらしい。横島的に
それはOKだ。
 タマモには、彼・彼女らが目にかけている中途半端な仮面が悪の味方に見えるのだが。

「…ぼ、僕はGメンに入ったらあの格好をしなければならないんですか?」
「あきらめろ、ピート。多分ピンクはまわされないさ」

 俯くピートに横島なりのなぐさめをかけたが聞こえていない様だ。
 一方、赤のジャケットを着た西条は、歯を白く輝かせて三人に状況を説明し始める。

「悪いがピート君、赤は誰にも譲れないのだよ!」
「早く要点だけ話せ!」

 怒りのサイキックソーサを炸裂させたが西条は余裕綽々で懐から出した銃を6発も撃って相殺した。
勿論、サイキックソーサーと相殺したのは1発のみ。後5発は横島に向けられたのでサイキックソーサーを展開
して当たるのを必死に防いでいた。

 荒い息をついている横島を尻目に、西条は説明をする。

「ここ一週間、四国の海岸から太平洋沿いにかけて、悪霊達が攻勢をかけてきていてね、悪霊のボスは
鎧を着ていて「平知盛」と名乗っているわけなのだが…君達も見ただろう」
 
 こくこく肯く3人に西条は笑顔でうなずいた。

「さっきホテルの方に消えた鎧武者を延々と追っていたワケだが、勿論君達も強力してくれるよね?」
「喜んで!」
「がんばれ、西条」
「頑張ってね、ピート」

 ピートは拳を握り締めて協力を約束するが横島とタマモは笑顔で否定する。西条が数秒思案顔をして
おもむろに声を低めた。

「令子ちゃんが帰ってきた時、僕は令子ちゃんの気をそらせる事ができると思うんだけどなぁ」
 
 顔色を青ざめ、冷や汗をかいている横島を置いて、今度はタマモに向き直る。

「つい最近、美味しい日本料亭を見つけてね、そこはおいなりさんがとても美味しいそうだよ。
さすがに1人で行くのは寂しいと思っているのだが…」

 ピクンと動いて止まったタマモを見て数秒、西条はにこやかに同行を再度要請すると、2人は
素直に了承すると急いで知盛の後を追い始める。

 結界を越えると幽子が待ち構えていた。 
 にっこり笑う幽子と田部の後ろに狐と狸の幻影が見えたのは気のせいではあるまい。

「田部君に任せておけば大丈夫さ、さぁ、我々は行くぞ! 四国から延々ドサ廻りをさせてくれた主犯を
とらえに!」
「ええ、ボットントイレなんていうものを経験させてくださいました犯罪人には正義の鉄槌ですわ!」

 色々と苦労したらしい西条と五条院に横島達は生暖かい笑みを送るしかなかった。


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