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セカンド スノウ

第二話「仕事・呪術」


投稿者名:ミクロ林檎
投稿日時:07/ 5/22

第二話「仕事・呪術」




日が落ち始め、もともとあまり天気の良くなかった空は、光を飲み込んだように薄暗い。
ビルの建ち並ぶ通りは人でごった返していた。
フェイは人の波をかきわけ通りをずんずん進んでいく。
道行く人々が俺たちをちらちら見て、フェイがにらむと目をそらす。
それを十回ほど繰り返した後、目的地である五階建てのビルについた。
今回の依頼は馴染みがある香港マフィアからのものだ。
マフィアからの仕事はずっと断り続けていた為、最近は依頼が来ることは全く無かった。
だから最初は、なぜ今更俺に依頼をするのか少し不思議に思った。
しかしちょうど香港に行くかどうか迷っていたところだったので、ちょうど良いと思いこの仕事を受けたのだ。
そう、俺はもともと、この香港には別の用事があるのだ。


「あ、こっちです」

フェイは表からビルに入ることはせず、裏口の方へと俺を誘導した。
薄汚い路地を進むと、すぐに錆び付いた金属の扉が俺たちを出迎えた。
フェイが扉を開け中に入る。
俺はフェイに続いてビルの中へと足を踏み入れた。
ふわ……。

「?」

その時、体の皮を一枚隔てたところに、薄い布を被せられたような、気持ちの悪い違和感を覚えた。
それはすぐに収まったが、気のせいにしてはどこか妙な感じだった。

「あ、ボスは五階です。階段はこっちからです」

フェイは階段の方を指さして、俺を誘導しようとしている。
どうやら俺を先にいかせようとしているようだ。
おかしい。
今まで俺はずっとフェイの後ろを歩いていた。
建物に入ってからだって、俺がフェイの後ろを歩いていれば良いのだ。
わざわざ階段の場所を指ささなくたって、ボスのいる階を教えなくたって、ただ俺はフェイについていけば良いはずなのだ。
待て、そもそも裏口に誰もいないこと自体がおかしい。
見張りが必ず二人、せめて一人はいるはずだ。
今は誰もいない。
それは建物の中に誰もいないからではないか?
ではなぜフェイはボスが五階にいるといったんだ?
これは杞憂だろうか。
それとも、フェイは俺に何か隠しているのか。

「どうしたんですか? 立ち止まっちゃって。俺は先に行きますよ」

そう言ってフェイは俺を残して階段を登り始めた。
どうやら俺の思い過ごしだったらしい。
俺はフェイについて行き階段を上り始めた。


(エレベーターでもついていてくれりゃ、助かったんだがな)

フェイにわからないよう小さくため息をついた。
さっきフェイを疑ったことは、今では罪悪感として残っていた。
この罪悪感の分だけちゃんと仕事をしてやろう、そう思った。
今三階くらいだろうか。
階段はまだ続いている。
今回の依頼は簡単に言ってみれば対Gメン用の用心棒だ。
最近香港で違法GSが集まっていて、そのせいで日本から優秀なGメンが派遣されたようなのだ。
香港(中国)マフィアは昔から呪術を応用した薬物や武器。
またゴーストースイーパーの武器を改造したものを取り扱ったりしている。
だからGメンの取り締まりが強化された今、もともと関係の無いマフィア達がその煽りをくらっているらしい。

(日本のGメンと違法な除霊者……まさかな)

これも杞憂だろうと考え、一瞬浮かんだ馬鹿らしい発想はすぐに捨てた。
いくら腐れ縁とは言え香港に来てまであいつらに会うことは無いだろう。
階段はまだ、続いていた。
いつの間にかフェイの姿がない……!
キィン…!
考えるより先に、俺は魔装術を使っていた。
体中の血が沸騰するように熱くなり、第六感が、生存本能が、危険信号を最大限まで鳴らしている。
俺は階段の踊り場の壁につっこみ、壁をぶちこわしそのまま外へと飛び出した。


飛び散るコンクリートの破片。
表通りにいる人々。
いつの間に夜になったのだろうか。
空にいくつか星が見える。
そして、さっきまで俺のいたビルが火角結界に囲まれた。
それらが全てスローモーションに見えた。
地面につくまでに、まるで数分かかったように感じた。
地面についた後すぐさま受け身をとり、全神経を足に集中させ、大きく跳躍した。
火角結界の爆風が背中に当たったような気がしたが、これは本当の杞憂だった。


ビルから飛び出してきた異形の怪物――俺のことだが――を好奇の視線で見る者。
突如爆発したビルに群がる人だかり。
辺りは騒然となった。
俺はフェイの姿を探した。
フェイはすぐに見つかった。
ガレキと化したビルの上に、フェイが、胸から上だけ横たわっていた。

「……」

俺は無言で十字を切り、手を合わせフェイに祈りを捧げた。
仕事を依頼してきたときから何か裏があるような気がしたが、まさかこんなことになるなんて。
フェイはもともと死ぬつもりだったのだろうか。

――俺は不死身です

いや、おそらくフェイは死なないと思っていたんだ。
誰かがフェイに何か吹き込んだに違いない。
それとも、フェイはひょっとすると最初から死んでいたのかもしれない。
神は一度死に、再生する、だったっけ?
キリスト教かは忘れたが、宗教関係でそんな話を聞いたことがある。
胸を撃たれて死んだってのは、案外本当のことだったのかもしれない。
フェイ、お前は神になったつもりでいたのか?
俺は殺されそうになったことより、フェイを利用したことに対して、まだ誰かもわからない敵に怒りを覚えた。
そうだ、そもそも誰が何故俺を狙っているんだ?
いや……心当たりはありすぎるくらいあるが……。
火角結界を使って暗殺なんて、マフィアの手口ではない。
待てよ……火角結界を使うんなら、俺がビルに入った瞬間に発動させていれば楽に殺せたんじゃないか?
殺すつもりではなかったのか?
遠くから警察のサイレンの音が聞こえてきた。
これ以上事を面倒にしたくはない。
考えるのは後にして、今は逃げよう。
フェイ、天国に行けるよう祈っとくぜ。




・・・・・・・・・・・・・・第三話「追跡・Gメン」 につづく


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