「アンタ、あと一ヶ月で死ぬよ。うん、絶対死ぬ」
占い師のババアは、俺の目を見てはっきりとそう言った。
俺に声をかけてきた時から変な感じはしていたが、どうやらホンモノらしい。
狂った人間だ。
「どうする? 生きもがくかい? 受け入れるかい? どうする? どうする?」
「どうもしねえよ」
楽しそうに笑うババアに対して、俺の睨みが効いている様子はない。
街の雑踏の中、きれいに磨かれたショーウインドウが二人の変人を映している。
俺はコートのポケットの中に手を入れタバコを探り始めた。
そのまま踵を返し、ババアを無視して帰ろうとした。
そんな俺にババアは言った。
「もうすぐあの子の命日だねえ」
ドキ、とした。
心臓の鼓動が一気に高まる。
振り返るとババアはもういなかった。
震える手でポケットからタバコを取り出す。
タバコは一本も入っていなかった。
第一話「予言・上陸」
久しぶりに香港に来た。
裏の仕事から足を洗ってから訪れることがめっきりと少なくなった。
仕事を変えたから来なくなった訳ではない。
単純に、ここに来たくなかったからだ。
高層ビルの建ち並ぶ中環(香港島の北部)。
時計を気にするサラリーマン、デート中のカップル、大声で騒ぐ若者、ホームレス。
様々な人間がごちゃまぜになった街。
俺はこれが本当の”自然”なんだと思う。
木も草もうまい空気も無いが、こんなに心地良い空間は無い。
休日に目的も無く街をぶらつく癖がついたのは、こんな性格からだった。
でかい公園の一角で待ち合わせの男を捜した。
一年ぶりだったが、すぐに男を見つけることが出来た。
男の方もすぐに俺のことがわかったらしく、手を振りながらこちらに近づいてくる。
「雪之丞さん、久しぶりです。アシュタロス大戦で死んだって聞いてましたよ」
金髪の髪が四方八方に伸びている、いわゆるパンクヘアのその男は大股で近づいてきた。
筋肉の鎧とカラフルなタトゥーが、薄手のシャツから見え隠れする。
周りにいたサラリーマンやカップルは、男が近づくと焦ったように早足で立ち去っていった。
男が目の前まで来ると、俺は握った拳で男の胸をどんと叩いた。
「てめえこそ、心臓撃ち抜かれて死んだはずじゃなかったのかよ、フェイ」
そう言いつつ、フェイの胸元を見た。
フェイは熱心なキリスト信者で、いつも十字架のついたネックレスを身につけている。
今日も相変わらず分厚い十字架つきのネックレスを首からぶら下げていた。
しかしその十字架には交差している部分から下が無い。
まさか……。
「俺は不死身です」
そう言ってフェイは胸の前で十字を切った。
神のご加護ってやつを、ちょっとだけ信じたくなった。
・・・・・・・・・・・・・・第二話「仕事・呪術」 につづく
初期の辺の丸くない雪之丞をイメージして書いてます。
時間軸は、アシュタロス以降のどっかです。
雪之丞独特の世界を書く為、新キャラが数人出てきます。
しかし雪之丞が中心となって展開していくので、新キャラをそこまで気にせず読める…と思います。たぶん。おそらく。
投稿速度はおそめです。えーと、あとの注意事項は……一話分を少し少なめにしてあること…くらいかな。
何か質問あったらどしどしお願いします。 (ミクロ林檎)
続きに期待させていただきます。 (Gyatei)
一話分を少なめにしていく予定でしたが、このサイトではあまり良いことではなさそうですね。
なので次からもうちょい長くしたいと思います。
だから投稿の間隔も長くなるかも・・・です。 (ミクロ林檎)