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蛇と林檎

失われたCPUを求めて


投稿者名:まじょきち
投稿日時:07/ 4/27








「うーむ、どうもイカン気がする。」

「ん?依頼かい?慌てる路上生活者は生活保護が少ないって言うだろ?焦らない焦らない。」


ジーンズにバンダナ、ぱっと見普通の高校生、横島忠夫。ぱっと見も何も全てそうだが。
その隣には長身の美女。優雅に寝そべってノートに何事か書いている。
なお、このノートは横島が高校一年に購入した学業用だが、いまだ余白しかなく徴発された。


「そうじゃなくて・・・なぜ!メドーサは!ジャージなんでありますか!」

「この服?通気性伸縮性耐久性抜群、汚れがつきにくい洗濯にも耐える、いい服じゃないか。」

「OLと付き合ったら私生活の色気がゼロでガッカリみたいのは嫌ー!色っぽいのにしてー!」



駄々っ子のようにジタバタする横島に、メドーサはやれやれといった感じで身を起こす。
横島よりも身長があるためか、びっちりと体のラインが浮き出て、これはこれで色っぽい。
(ちなみにジャージは横島の学校体育用)
長い髪を後ろでまとめ(いわゆるポニーテール)メガネをかける姿はストライクな人もあるだろう。
ただ、横島には少々お気に召さないらしいだけである。
因みにメドーサは日常生活にはあまり視力を使わないせいか、近視が入っているらしい。



「安心おしよ。ちゃんと依頼人と会うときには正装するからさ。ま、気楽にいこうじゃないか。」

「うー、もったいないのにもったいないのにもったいないのにー」

「はいはい、『ガイドライン』も出来たから、依頼を探そうかねえ?」


メドーサは満足げにノートを閉じた。その表紙には
『女錫叉除霊事務所契約ガイドライン』と書かれている。
びっちり200ページの大作であった。


「ガイドライン?」

「ああ、契約の種類難易度に応じて、あらかじめ報酬や条件を規定しておいて交渉するのさ。」

「へー、『お前は金持ちだから1億円じゃー!』みたいな決め方かと思った。」

「契約でそんなドンブリ勘定じゃ大損するか干されるかだよ。契約ってのはルールなんだよ。」

「うんうん。『5億よ5億!笑いが止まらないわ!ひゅーほほほ!』じゃ誰も相手しなくなるわな。」

「律するルールがあって契約で約束するから商売は成り立つんだよ。わかったかい?」

「なーるほどー、こりゃー下手な授業より役に立つなー。うんうん。」


腕を組み組みしきりに感心する横島。メドーサは生徒の成長にちょっと目を細めた。
そこでメドーサはふと、部屋の隅にある破壊された電話機に目を落とした。


「ん?ヨコシマ、電話代払ってるのかい?」

「え?ああ、まー、電話がないと不便なこと多いし。今は電話壊れちゃったけどね。」

「・・・・・・ふーん、そうか。ヨコシマ、パソコンはある?」

「う、その、2ヶ月前はあったんだけど・・・緊急事態のために・・・売った。」

「そう・・・・・・・・・・・身請けしようか!パソコンは幾らで質に流したんだい?」

「えっと、確か、2千円だとおもったけど。でも、あんな機械で何を?」

「馬鹿だね。まぁ知識がないだけだろうけどさ。情報は商売の最重要要素だからねえ。」


褒められてるのか貶されてるのか釈然としない横島を尻目に、メドーサが服を脱ぎだす。
視界の斜め上に展開している白い肌の蠕動にむしろ横島のほうが目を伏せる。


「んな!ナニやってるんだよ!イキナリ!」

「何って、ジャージじゃまずいって言っただろ?自分の言った事を忘れるような歳なのかい?」

「そーでなくて、恥じらいとか、イヤーンみたいなのが無いと燃えないというか・・・」

「はぁ?考えてから喋ってるのかい?てんで理解できないんだけどね。」


着替え途中のメドーサが、ふと、動きを止めた。
その気配を察知した横島が見たものは、ジーンズを足の途中まで突っ込んだまま
ピクリとも動かず停止している引きつった顔のメドーサの姿だった。


「・・・・・・・俺のジーンズじゃ入らないのか。」

「これは何かの間違いだよ!男の足より太いはずなんて!・・・・・むー!」


まー、もともと体型が違う上に身長は高いメドーサなのだから、考えれば無理も無い。
だが、今のメドーサには自分のイメージとちがう現実がどうしても納得いかなかった。
目に必殺の気合が走り、腕が筋肉で盛り上がる。


「ふん!」

ビビビビビビビビビビビビビビ


ジーンズというのは非常にほつれ難くできている。磨耗無しに裂けることなどは通常有り得ない。
しかし物理法則に従うこの世の物体である以上、絶対は存在しない。
外側の縫い目があった部分に大きく裂け目の入ったジーンズがその例であるといえよう。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


反応に困り、とりあえず引きつった笑顔を浮かべる横島。
二の句が告げず、とりあえず白々しい笑顔を浮かべるメドーサ。
出自の違う二人なのだが、その表情は双子も斯くやと言うほど相似していた。


「・・・・これは『お直し』!こうすれば関節稼動性能が格段にアップだよ!ね!ヨコシマ!」

「あの、それだと、歩いてるうちに内側に布が寄っちゃうよね・・・・」

「そ、そこはこうして、ほら、余り布を使って・・・・・」


ズボンを脱ぎ捨て、裾の部分の余り布をハサミで切り始める。
それをさらに細くリング状にして、輪を絶ち紐状に。
手元のボールペンで裂けたジーンズの少し内側に穴を等間隔に開け、紐を通して蝶結び。
同居人の意外な器用さに感心する横島であった。


「どうだヨコシマ!これなら機能性もバッチリだよね?だよねえ?だーよーねー?」

「あ、ああ、チラッと見える太ももが、その、悪くないかも・・・・・」

「そーか、機能性とヨコシマの好みが合体した記念すべき瞬間だねえ!うん、今日もいい天気!」


支離滅裂に不必要なほど饒舌になっているメドーサ。その焦りはまったく隠しきれていない。
足が太いのがそんなに気になってるのかと、ちょっと意外な感想を抱いた。


「さて、ヨコシマ、質札はあるんだろうね?」

「え?!・・・いや、まさか、請け出すと思わなくてさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・捨てた。」

「うーん・・・・まぁ、無いものはしょうがないねえ。ま、現場判断だね。行こうヨコシマ。」


手を引いてずいずいと外に連れ出すメドーサ。
照れ隠しとはいえ、横島には笑顔のメドーサと手をつないで外を出歩く自分が少々誇らしかった。


「・・・・厄珍堂?」

「ああ、ホントは質屋じゃないらしいんだけど、ゲームと一緒にだったら買い取ってくれるってさ。」



奥では尋常じゃない小ささのサングラス中年がパソコンに向かってなにやらやっていた。
その画面には極彩色の髪色のアニメ少女が映っている。


「ああ、なんでここで堕ちないあるね!お前それでも主人公あるかー!」

「そうだー!そこでこう!がばっとチュー!そしてピリットQ!」


中年が同じ波長の存在に気がつく。
当然、そこには横島なわけだが。


「あいやー、また何か売りに来たあるか? Drag●nKnight4はいい買い物だったある。」

「ダークエルフのねーちゃんがそりゃあもう・・・って、ちがーう!金返すからパソコン返せ厄珍!」

「嫌ある!お金出して買い取ったものを返すいわれはないあるよ!それが社会のルールある!」

「幾らなら売るんだ!」

「出さないある!買い取ったものをどうしようと自由ある!それがルールあるよ!」

「く、・・・・・た、たしかに・・・・」


しょぼんと肩を落とす横島に、白い手が肩をたたく。
その持ち主を目で追った横島は、毛の全てが逆立つほどの恐怖を覚えた。


「へぇ?ルール、ねえ?」


どうやら厄珍は踏んではいけない地雷を踏んだということが横島にはわかった。
三白眼になったメドーサに久々の蛇のオーラが浮かび上がる。


「ヨコシマ、3分こいつを逃がすんじゃないよ。あと、一番でかい本屋はどこだい?」

「え?ああ、駅前ですが・・・・その・・・・ナニを・・・・・・・・・・」

「駅前だね!いいかい、逃がすんじゃないよー!」



ぽつんと残される横島と厄珍。
先に正気に戻ったのは厄珍だった。


「エエ乳あるなー!ボウズのレコあるか?」

「え?あ、うーん、どうなんだろー?一応一緒に住んでるんだけどなー。」

「はー!姉さん女房の床上手あるかー!ボウズも隅に置けないあるねー!どうある?乳は!」


横島の脳裏にメドーサにあられもない姿が去来する。
白い肌、長い髪、豊満な胸、細い腰、切れ上がった小股、etc・・・


「・・・・なにやらノリが悪いあるね。もしかして、とんでもなくXXXがXXXX・・・・がぼあ!!!」


切れ上がった小股
(ちなみに賢明な読者諸氏にいまさら説明することでもないが『小股』とは、局部がどうこうでは
ない。和装用語で足の指の付け根の事らしい。総じて立ち脚の美麗さを表すとも言われる。
こんな事でアダルト削除されるわけにもいかないので蛇足ながら説明したことを許されたい)
から繰り出される蹴りがサングラスの中心を粉砕した。


「人聞きの悪い事言ってるんじゃないよ!・・・ヨコシマ、待たせたね!」

「あたた、ひどいある・・・で、何あるか!乳でも揉ませてくれれば返さなくも無いあるよ?」

「・・・・・・ふふふ、厄珍とやら!お前にヨコシマのパソコンを持っている資格は無いよ!」


長身から繰り出される人差し指は、厄珍の鼻頭に突き刺さるように向けられる。
手には分厚い六法全書。どうやらお買い物をしてきたようだ。
一瞬ひるむ厄珍だが、そこは年の功、すぐさま向き直る。


「売りたい人間から買う、商売の大原則ね!それのどこがいけないあるか!」

「へー、商売ねえ。じゃあ、古物商の資格は当然持ってるんだろうねぇ?」

「と、当然ある・・・・」

「古物営業法じゃ許可証の見える位置への掲示が義務付けられてるけど?どこかねえ?」

「あ、ああ、再発行中ある・・・」

「あと譲渡の約款の記載された譲渡証明書にはもちろん本人のサインがあるんだろうねえ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「古物は警察の監督らしいじゃないか?ま、ルールを守ってれば問題ないだろうけど?」

「・・・・・幾らほしいあるか・・・・」

「はぁ?ルールどーりにやってるか聞いてるだけだけどね?ルール、守ってるんだよねえ?」


嬉しそうな、心の底からサディスティックは喜びで笑顔を作るメドーサ。
横島は、改めて地雷の存在を確認した。ルールは大事なんだなと。


「あー、ボウズ!このゲームは手放すのは惜しいある!これで新しいパソコンでも買うよろし!」

「へ?お、俺?」


厄珍は懐から薄黄色の板を二枚取り出した。帯のかかった板は、壱万円と書かれた紙の束。
に、にひゃくまんえん???????????????


「ボウズに『借りてた』パソコンな、ぜひ欲しいある!友情で『ただ』で譲ってほしいあるよ!」

「でも、200万もしないパソコンだけど・・・・だいたい・・・・・」

「200万円は御礼、パソコンは無料でもらう、そういう友情の取引あるね!問題ないあるね?」

「え?まぁ、問題は全然無いけど・・・?」

「ふー、友情に商取引は存在しないあるね。ねーちゃん、そうあるな?」


顔面蒼白になった厄珍を見下ろすメドーサ。そのサディスティックな表情が和らいだ。
少々納得がいかないように小首を傾げたあとに、口を開いた。


「これ以上はヨコシマのパソコンと関係ない話になるわけだね。ま、ルールは守りなよ?厄珍?」

「も、もちろんある!これでも呪的アイテムトップシェアの厄珍堂ある。贔屓にするよろし!」



ボケーっと眺めてた横島に厄珍が詰め寄る。
器用に低い背で横島の頭を寄せ小さな声で話しかけてきた。


『ボウズ、アレはどこの弁護士あるか!見かけによらず相当のやり手あるね!』

『いやー、元傭兵ってくらいは知ってるんだけど・・・』

『とにかく!ああいう手合いはしっかり手綱を握るよろし!特に令子ちゃんとは相性最悪あるし。』

『令子ちゃん?』

『すっごい乳の持ち主あるが、それ以上にガメつい俺ルールの凄腕GSで有名ある。』

『乳は見てみたいが、確かに相性は最悪っぽいなー。』

『令子ちゃんはうちの超お得意様あるね。ちょっかい出しても庇わないあるよ?』

『うむー、なるべく努力してみるけどさ、ねえ?』

『蛇の道はヘビ、ってのが通じそうにないアルけど、そこを頑張るよろし。』


話が終わって厄珍が横島の背中を押す。
よろけて手を突いた先は、メドーサの太股だった。


「・・・・ん?まさか、足がどうとか言いたいのかい?」

「いやいやいやいやいやいや!決して!そんな!太いとかそんなことは!」

「・・・・・・・・・・・仲がいいあるなー、うらやましいアルね・・・・」

「そうかい?それじゃ、邪魔したね!」


頭にでっかいたんこぶをこさえて目を回している横島を片手で引きながら
メドーサはいかがわしい商店をあとにした。入り口にこっそり塩を撒く厄珍。
蛇行もせず、天下の往来をまっすぐに進む奇妙な蛇だった。




軍資金のある二人は有名な電気街に繰り出す。
全くちんぷんかんぷんな横島を尻目に、部品を次々と揃えていった。


「ふー、随分買ったなー。パソコンってもっと簡単だと思ってたよ。」

「使い捨てるなら別にどうでもいいんだけどねえ。仕事用で長く使うにはいろいろあるのさ。」

「ふーん。そうだ、服とか買ったほうがいいんじゃ?俺のお古じゃ何かと問題が・・・」

「問題?何が?しつらえたようにぴったり来るこの服装に不満でもあるのかい?まさか・・・」

「いえいえいえいえいえいえ、あの、えと、そう!美人はおしゃれしないと損でげすよ!」

「ユニフォームって思えばいいじゃないか。お揃いだとなんとなく、仲間って気がするだろ?」


横島は、同じものを着ている相手を見て、ふと思った。
ああ、これってもしかして、ペアルックというやつではなかろうかと。
横島の認識が正しいかどうかは、まぁ主観は本人次第とだけ言っておこう。

そして食べ盛り(?)な2人は、横島の推薦でとあるラーメン屋に入った。



「ふむふむ、んー、これがア○バ名物九州ジョンゴロラーメンかー。うむ。」

「麺は細麺ストレート、豚骨スープに良くマッチしていて美味しいねえ。」

「個人的にはもうちょっと癖の有るとんこつが好きなんだが、ん、味玉子いける!」

「豚の角煮も美味しいし、欲しい部品はそろったし、・・・意外な臨時収入があってよかったねえ。」

「・・・・・・意外?」


無邪気にラーメンを頬張るメドーサを横島は見た。
まったく裏っぽい感じがしない。その気配さえもない。


(もしかして、見た目がキツメで仕草がアレだけど、悪知恵とかぜんっぜん苦手な天然の・・・)

「ほら、伸びる前に食べないと。待ってる人間もいるんだしねえ?」

(天然のマジメさんなのでは!・・・・・いや、か、考えすぎか・・・・・)

「・・・・・・・ヨコシマ、角煮嫌いだったら食ってやってもいいけど?」

「え?あ、ああ、お気に召すままに。」

「悪いね悪いね、・・・・・・・・・・・・・・・・・んー、最高だね!」







名物ラーメンを堪能した二人は、やっと女錫叉除霊事務所へ帰還。
手さげ袋4個分のパーツを次々と開封し、早速作業に取り掛かった。
・・・・・・・・と言ってもメドーサが、だが。


「で、これを接続して、こうして・・・」


色は白銀。大きさは20センチ四方、サイコロのような形だ。
かなり小さめの箱に良くぞここまでと言えるくらいの部品が飲み込まれていく。
横島は、目の前で繰り広げられるパズルに魅入っていた。


「・・・天地の理、正邪の理、氷炎の理、水土金木火の五行の理・・・」


組みあがり蓋の閉められた白銀の箱にメドーサは右手の中指を置く。
メドーサの指が白銀の筐体の上を滑るたびに、その跡が光の筋になって残る。
それは最初に円を、次に星型を、そして数々の幾何学模様を作り上げていった。


「偽は真に!虚は実に!無は有に!・・・我が真名『金蛇眼女錫叉』に誓約せし夢現の念積!」


幾何学模様は光を増し、メドーサの額に玉のような汗が噴出す。
目は閉じ、必死に何かを念じているようだった。


「集え四方の精霊、喰らえ八方の魂魄、啜れ万物の霊力・・・・・発現せよ彼方よりの使者!」


大きく手を広げるや否や、白銀の箱が、閃光を発する。
覗き込んでいた横島の目が一瞬焼きついた。


「・・・・・召還魔術はフィードバックが多くてイマイチ自信がないけど・・・いけたかな?」


紅く点滅していた幾何学模様が、やがて緑色になる。
緑色の魔方陣が機械の中に潜っていく。


「よしっ!初めてにしちゃ上出来だね・・・・・出でよMedows95! 」


四角い箱に電源と電話線とキーボードとマウスが繋がっており、画面は立体映像で出ていた。
空き缶で出来た出来損ないのロボットのような絵が浮かんでいる。


『Medows95を起動します。がこんがこん。』

「どうだい、自律型人工知能で、まぁ、使い魔の一種だね。主にネット関係で重宝するよ。」

『がこんがこん、COMMAND?』


空き缶が小首をかしげながら、不器用に動く。
可愛らしいと言うより、少々イラつく動作だ。


「こんな夏休みの工作みたいなのじゃ嫌じゃー!緑の髪で幼女じゃないといかんのだー!」

「ヨコシマ、オー○スなんか若い子は知らないよ!」

『がこんがこん、私もこのキャラ付けだと故障してるみたいでイヤです。』

「ほら、本人(?)もこう言ってることだし、昭和初期の未来ロボットみたいなのはちょっと・・・」

「ロボットの正しい姿だと思ったのに・・・じゃあ・・・・・・」


再びパソコンに向かうメドーサ。
マウスを器用に操作し、ガコガコと六重にも操作パネルを開く。
その時、ふっと、部屋の照明が暗くなった。
再びジャージに眼鏡の姿になっているメドーサは三次元画像の明かりを頼りに
キーボードを高速で叩いている。


「ん?停電か?」

「画像修正には2000キロワットの電力を使うからそのせいだね。作るよりも大変なんだよ。」

「2000キロワット?なんだか馴染みの無い単位なんですが・・・。」

「本来のここの部屋の電力限界が2000ワット。その千倍さ。大丈夫、ブレーカーは落ちないよ。」


横島は嫌な予感がして部屋を飛び出し、電力メーターを覗き込む。
目にも留まらぬほどの高速回転でグルグルとメーターが上がっていく。


「のわー!電気代が電気代がー!!!!!!」

「いちいちうるさいねえ。使った分だけ払う、そういう契約だろ?何もおかしくないじゃないか。」

「夏休みの工作でいいー!もうやめてー!」

「あはははははは、もう遅いよ!出でよ!Medows98!」


立体映像の空き缶が崩れ落ち、中から二頭身の少女が出てくる。
薄い紫の髪に大胆なカッティングの胸元ともんぺ姿。


「め、メドーサ?」

「ああ、色々考えてね。アタシをデフォルメしといたよ。幼女、すきなんだろ?」

「あ、いや、あれは言葉のあやと言うかその場のボケと言うか・・・」

『ちわーっ^w^ めどーす98ぞなーwwwww』

「・・・・・なんか駄目なネカマっぽいような喋り方が気になるんですが・・・・」

「最先端デバイスを詰め込めるだけ詰め込んで魔力を込めてるんだ。多少は我慢しな。」



因みにお話は1998年から幾らか経った位の設定としておこう。原作はもちろん1991年なのは
博識読者諸氏の知るとおりではあるが、丁度二次創作のブームに火がついてきた辺りであり、
パソコンネタはこの辺からじゃないとどうにもならないというのもある。


『さて、早速どっか荒らしてこよーか?うぇうぇwww』

「無駄なことするんじゃないよ!それに荒らしなんて自己満足にもならない最低の悪戯だしね。」

「マジメやなー。」


片膝を立ててその上にアゴを乗っけてくつろぐメドーサ。
その横には横島があぐらをかいて座っていた。
目の前のパソコンではチビっこいメドーサの映像がくるくると踊っていた。


『えーつまんなーい!じゃあじゃあ、どっかの口座改竄しちゃお!それでパーツ強化してさー^^』

「そんな事してどうするのさ!ルールを破って私腹肥やして?それが竜族のすることかい!」

『だってアタシ、妖精だもーんwww それにヨコシマは多分喜ぶと思うけど?^−^』


いたずらっぽく立体映像の少女が横島にウィンクする。
そして、本物のメドーサの三白眼が横島を射抜く。竜のオーラが何尾もそこには漂っていた。
横島には、ただ口を動かすしかできなかった。


「ヤ、ヤダナア、るーるハ守ラナイト、イケナイヨネ?」

『えー、だって、ヨコシマの魂はそうは言ってないよ?ヨコシマの魔力もアタシに入ってるからね。』

「うそだー!ただの一般兵でザクな俺に霊力なんて!な?そう思うだろメドーサ!」

「・・・・・・。」


メドーサがふと思案した後に、横島のあごに指を這わせた。
昨日の今日で横島にも学習能力はあった。なんとなく横島はどきどきしながら、
ちょっとおどけて唇を尖らす。
しかし、メドーサは意に介さず当然のように唇を重ねていった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


口腔内を味わうメドーサに、怪訝な表情が浮かぶ。
メドーサの舌が咽喉の奥に、やがて横島の鼻孔から脳に到達し始める。
脳を舐められながら、しばらくジタバタしていたが、横島は未知の感覚に気を失った。


「・・・なんか、魂魄の味に違和感あるんだよね。・・・ただの人間なのに。」

『データ共有キボンヌ。つーか、すれ!』

「あ、ああ、構造解析してみな。」

『ひゃっほーう!ではでは♪』


メドーサが長い舌を立体映像に伸ばすと、めどーすがそれを掴み体に光が走る。
めどーすの目に0と1が交錯し始める。


『霊基構造解析開始。LEVEL1防壁クリア、LEVEL2防壁クリア・・・・・・・・・・・』

「まだるっこしいね。一気に最奥までいきな!」

『はーい・・・・LEVEL6防壁・・・・おおっと!トラップ!』

「電脳地雷か!」


メドーサは伸ばしていた舌を抜き、キーボードを手元に引き寄せ
手が霞むほどの入力を始める。


『緊急モード!緊急モード!こちらの防壁が第九層まで突破されました!汚染まであと三層!』

「指揮こっちにまわしな!・・・・ヨコシマの霊基構造に罠が?!何の目的で!?」

『回線制御不能!汚染源ヨコシマ関連の展開ファイルからです!回線接続制圧されます!』

「回線から狙ってきたか・・・DHCP遮断、固定IPを2秒おきにランダムで変更しな!」


髪の毛に怪物のような蛇が何匹か浮かび、それぞれが目の前のパソコンに向かう。
しかし、その蛇たちは見えない壁に阻まれ、その先にたどり着けない。


「霊力じゃ干渉できないか・・・厄介だね!Medows、状況は!」

『全防壁突破されました!汚染アプリ20!IP関連が汚染されており回線命令実行不能!』

「トラップの種類は!」

『ラグナレク(神々の黄昏)時代に使用されたブービートラップと近似。』

「汚染アプリを意味消失して防壁再構成!こちらに98種のスパイウェアトラップ展開!」

『汚染アプリの所有権が書き換えられています!汚染アプリ250!トラップ制圧されました!』

「新規ユーザーを無限生成しな!あと、ワクチンプログラム!」

『ユーザー権限奪われています!ワクチン効果ありません、未発見の亜種です!』

「亜種か!・・・回線遮断!汚染アプリ群のパーティションを丸ごと隔離して物理フォーマット!」

『パーティション命令ライブラリに汚染!カーネル部に汚染が始まります!遮断できません!』

「ちぃっ!ユーザープロファイルだけ残すんだよ!」

『ユーザープロファイル隔離完・・・・・』


コンセントが抜かれた機械は、静かにその音を止めた。

次に立ち上げると、Medowsは立体映像に文字だけを表示していた。
オペレーションシステム、ノットファウンド。
つまり、中身は全て消去されたという事を意味していた。


「ラグナレク・・・ねえ。」





ふと、メドーサの視線が後ろの横島に移る。
寝言で掲示板規約に引っかかるような不謹慎なことをつぶやく横島。
その平和な表情が張り詰めていた緊張感をほぐしていった。

白い指が、横島の頬にそっと触れる。



「おい、お前のせいでどうやらアタシは面倒なことになりそうなんだぞ?ん?」

「むにゃむにゃ・・・・・・・・ヤサイニンニク・・・・・・・・」

「はいはい、ヤサイニンニクね。ま、聞かなかったことにしておくよ。」



メドーサは布団を敷く。そして、軽々とその中に放り込むと、照明を消した。
やがて押入れの扉が開き、閉じる。


「おやすみ。」


押入れの中で見た長身の女の夢は、ラーメンをすする横島と自分。
いつまでもなくならないラーメンは、彼女の夢のなせる業か。それとも。




****************次*回*予*告*****************
「食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。金を持たぬ者は生きてゆかれぬ麺類の街。
傲慢な焼豚で武装する東京の麺。ここは飽食が産み落とした人間界のソドムの市。
横島の躰に染みついた麺汁の臭いに惹かれ、危険な奴らが集まってくる。次回蛇と林檎第三話
『アタシは所長だ』。」

「そんなボトム○風次回予告なんて若い子にはわかんないよヨコシマ!」

「横島が飲むス○バのキャラメルマキアートは、苦い。」

「苦くないじゃないか!どこをどうがんばったって激甘だよ!」

****************蛇*と*林*檎*****************


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