椎名作品二次創作小説投稿広場


GS六道親子 天国大作戦!

史上最大の臨海学校!! 1


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:07/ 4/18






 いつもと変わらない六道女学院の、とある一室からこの学院には珍しく、男性の声が木霊した。

「本当っスか?!」
「ええ〜 是非横島くんも〜 一緒に来てもらえるとうれしいわ〜」

 ここ最近、学生生活の放課後の半分をここで過ごしている横島の声と週半分のアフター5をここで
過ごしている六道冥子の声だった。

 にこにこしている冥子とは対照的に、横島は血走った目、力いっぱい握られた拳を抱えていた。

「六道女学院の! それも高等学部の! ついでに臨海学校に、俺もついていって良いと?!」
「ええ〜 私の助手としてね〜 あ、タマモちゃんも〜 よろしくね〜」
「わかった」

 横島の後ろでは静かに座っていたタマモが、これまた静かに了解の意を送る。
 タマモは冥子から横島に視線を移した。

「これは…若いピチピチのオナゴを観賞しながらナンパのし放題という神のお慈悲?!」

 燃えている横島とは違う場所からプレッシャーを感じてそちらを見ると、そこにいるのは冥子だった。
いつものニコニコ笑いが張り付いているがあふれるプレッシャーは般若のソレだろう。
 タマモは迷わず席を立ってなるべく横島から離れる。
 後ろにいるタマモの行動に気付く事無く、横島は背に日本海を背負った。

「イ―――――― チャ―――――― パ――――――」
「だめよ〜 横島くん〜 それは他紙の作品の商標だから〜」

 最後の言葉は冥子の式神・バサラに体ごと飲み込まれて消えた。






 GS六道親子 天国大作戦! 16  〜 史上最大の臨海学校!! 1 〜






 氷室キヌは友人達と一緒にバスを降りて今日泊まるホテルを見上げた。

「すごいですね〜 こんな立派なホテルに泊まれるなんて…!」
「さすがは六道女学院…っていうか、この学校って考えればお嬢サマ学校だからなぁ」

 おキヌと一文字魔理以外の生徒がさほど驚いていないのが良い証拠だろう。
 
「あ、横島さん」
「よ! おキヌちゃん! 久しぶり!」
「お久しぶり〜 おキヌちゃん〜」

 前方のホテルから横島と冥子、そしてタマモが出迎えに現れる。
 周りの生徒達も、冥子の登場に色めきたった。冥子のGS能力と現場能力のギャップを知らない生徒達に
とって、冥子は「偉大なる先輩GS」になるのだろう。実情を知っているおキヌと魔理は腰が引けているが。

「お母様がバスで来るって〜 聞いたけど〜 どのバスか知ってる〜?」
「確か、一番後ろのバスだったような…」

 出発前の騒ぎを思い出しながら呟くおキヌに冥子はお礼を言ってすぐさま後ろにいるバスへと向かう。
タマモも続くが横島はその場に留まる様子だ。

「そういえば、あともう1人GSが来るんだったよな。おキヌちゃん、見た?」
「はい。その方々も理事長と同じバスでしたよ」
「1人じゃないんだ?」
「はい…」

 続けて言おうとするおキヌの声に被って生徒達が黄色い歓声があがった。
 おキヌが気付いて後ろのバスを見ると、つられて横島もバスに視線を移す。

 最後尾のバスの入り口では、金髪で長めのスカートを着た女性がいた。後ろで騒いでいる誰かに向かって
何か文句を言っているらしい。
 後ろを向きながらその女性がバスのタラップを降りよううとして、そのままグラリと身体を傾ける。
 バスの入り口にいるのは冥子なので、当然冥子の方に倒れこんでくる。

「キャ?!」

 悲鳴を上げる冥子だが、それ以上の進歩はない。
 手で受け止める仕草もせぬまま、後は目を閉じるしかなかったが衝撃は襲ってこなかった。
 そろりと目を開けると、視界は横島の背中がどでかく占領していた。

「お嬢さん、大丈夫ですか? ジュッテーム!」

 鼻息荒く、その女性を抱いている。
 女性は驚いて頭だけ動かして抱き上げた横島に振り返った。

「よ、横島さん?」
「え゛?!」

 冥子同様に横島も女性に驚きをもって見つめる。
 金髪に彩られた白い肌、青い瞳。丹精な顔はどこかの高校でいつも見ている顔だ。
 そう。同じクラスメイト、ピートという男性として。

「ピピピピ、ピィ―――トォ―――?!」
「まぁ〜、ピート君〜?」

 冥子と横島の驚きの声にバスの中からの黄色い声が覆われた。
 呆然とそちらを見ると、バスの中にいる女子生徒たちが、なにやら頬を赤らめて瞳を輝かせている。

「禁断の恋…素敵。でもちょっとお相手が………」
「劇的な再会。そして臨海学校で萌える恋。素敵ですわ」
「ピート様はあんなに喜んでいらっしゃるのですから、お相手はともかく、祝福してさしあげないと」

 慌ててピートに視線を返すと、そこにはモジモジと恥らう(正確には女装を恥ずかしがっている)
ピートが佇んでいた。横島の脳に重大な衝撃が走り、全身が鳥肌に覆われる。

「抗議だぁ―――! 断固抗議するぅ―――! 俺は本物の姉ちゃん以外は全て却下だ―――!」

 今いる全ての人間に頭を振りながら抗議をする横島は、女子生徒達は「わかっていますわ」と笑顔で
迎撃され、双方隔たりが見られる。同情しているのは運転手のみだ。

 真っ白に燃え尽きるしか道はなかった。

「違うんや。本物の姉ちゃん以外は対象外なんや」
「落ち着いて〜 横島く〜ん。冗談だから〜。ほら〜 ピートくんも〜」
「ごごごご、ごめんなさい! ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いします!!」
「「「「キャ―――!」」」」
「…ピートくん〜」

 トドメをさすピートに横島は燃え尽きて倒れた。

 どうしようもなくオロオロしていると、バスから和服の美人・六道幽子が降りてきた。倒れている
横島を自然に踏んでにっこり笑って冥子の前まで来た。

「どぉ〜 ピート君の装い〜 お母さん、頑張っちゃった〜」
「まぁ〜、お母様がコーディネイトしたの〜 上手だわ〜」
「うふふふ〜 横島君も〜 喜んでくれたみたいで〜 お母さん〜 頑張ったかいがあったわ〜」
「い、いや、横島君、いやがっていましたが…」

 幽子に続けてバスから出てきた唐巣神父が地面に転がっている横島の肩をとって端へと運んでいく。
そうしないと、以降に出てくる女子生徒達からも踏みつけられるからだ。彼女等はお嬢様なので躊躇なく
踏んで行くだろう。幽子の様に。

「あら〜 もうこんな時間〜 ほら横島くん〜 急がないとお夕食が〜」
「夕食?!」

 食事と聞くとすぐに復活する横島だったがあいにく、間が悪かった。唐巣神父が目の前にいて、なおかつ
立ち上がったために横島は頭頂部を、神父は顎を強打して2人とも地面に転がる。
 しかし、その悲劇は周りからは注目されなかった。なぜなら、おキヌの悲鳴が響いたからだ。

「キャァァ?!」
「おキヌちゃん〜?」

 冥子と幽子がおキヌの方に向くと、おキヌが真っ白に座り込んだ前に動くバッグが鎮座していた。
 もとい、動いたバッグから白い犬が現れた。
 
「…バカ犬」
「ワフ! ワフワフワフ!!」

 タマモの呟きに即座に反応する白い犬に、冥子が手を叩く。

「シロちゃんね〜」
「ワフ!」
「でも〜、どうして〜 バッグから〜 出てきたの〜?」
「ワフワフワフ!」

「…すごいですわ! 犬語も解しているなんて、さすが冥子お姉様…!」
「いや〜、そうは見えないけど…」

 ちょっと離れた所でかおりと魔理がツッコミを入れていると、シロが出てきたバッグにUターンした。
何やらバッグを漁っている。すると慌ててタマモがシロの尻尾を強く掴んだ。

「ギャン!!」
「アンタ、今変身してどうする気? すっぽんぽんの格好見せびらかして横島に鼻血の噴水あげさせるの?!」
「………ワホ〜」
「あ、ソレ私にもわかった。『せんせぇ〜』って言ったんだな?」

 周りが騒いでいる中でおキヌががっかりうなだれている。
 かおりが近づくと、おキヌの声がやっと聞こえてきた。

「私の着替え…1日分しかない」
「こ、困りましたわね…下着はともかく、ブラは…」

 小首を傾げているとシロが尻尾を振っておキヌへと吠え出した。勿論、狼語がわからないのでタマモが
翻訳をしてくれる。

「大丈夫。おキヌちゃんの荷物はこのビニールに…って?!」

 タマモが慌てて振り返ると、シロはビニール袋を咥えていた。昨今市民権を得ているゴミ袋で、色は透明だ。
勿論中身はバッチリ丸見えでもある。

「ブフォォォォ?!」
「アホ犬―――!!」

 見事、鼻血の噴水を上げた横島の横でシロがタマモの鉄拳にもだえ、師弟諸共しばらく道に転がるしかなかった。











「ひくあひくひく! ヒオ! ホレはホレおひくあ!」
「へっはおひくへほある! へんへいほおへっはおひくを!!」
「………相変わらず、すごい会話ですね」
「………よく通じるわね」

 生徒とは違う部屋に食事を用意された横島・ピート・タマモ・シロは早速夕食にありついていた。

 冥子と唐巣神父は幽子達六道女学院教師達と打ち合わせがてら違う部屋で食事をしている。
 横島達はその席にも、女子生徒達とも違う席を設けられたのだが、ピートは学生達のラブリー視線から
タマモは連れの行動に対する生暖かい視線から逃れる事ができるので文句など出るはずもなかった。

 唐巣神父辺りが気をきかせたのかもしれない。

 メインディッシュ(肉料理)がなくなり、やっと人間的な食事風景になりだすと、まともな会話が
成立しはじめる。

「なんでも、六道女学院は毎年、海開きの前にこの場所の鎮魂を行っているそうですよ?」
「なんだとぉぉ?!」
「すごいですよね」
「海開き前って事は、水着ギャルはいないって事かぁぁ?!」
「…そ、そこに着目するんですか」
「そこにしか注目しないから横島なんでしょ」

 即座に横道に反れているが。
 タマモの半眼を少し気にしながら、ピートは首をかしげた。

「でも、不思議ですよね。横島さんほど魅力に溢れた男性がモテナイというのも」
「…ほっとけ」

 ピートの中では横島は誇れる友人なのだが、男性であるピートの絶賛は横島には無用のものだ。

「貧乏臭さも少し抜けてきたから、突進するクセさえなくせば意外とモテルんじゃないかしら」
「おお! 突進さえしなければ!」
「………先生にそれができるでござるか?」

 タマモのコメントに目を輝かせて天を仰ぐ横島にシロから疑問の矢が突き刺さるが、それを無視して
妄想をしてみた。

 輝く海。白い砂浜。
 赤と白のパラソル傘の下でビキニを着た女子生徒達を左右にはべらせ、その後ろにも何人もの女子生徒
達がうっとり横島を見ている。瞬間

「ヒ?!!」
「…どうしたのでござる?」

 頭を抱えて椅子から転がり落ちた横島にシロが首をかしげる。落ちた横島の方は真っ青な顔で椅子に
座りなおしながら、キョロキョロ周りを注意深く見ている。

「…なんか、血まみれのサバイバルナイフがナルニアから飛んで来たような…!」
「やけに具体的ね…」

 タマモが感心して呟いていた時、遠いお空の彼方、ナルニアでは横島の父・大樹が顔スレスレを
通って壁に突き刺さったサバイバルナイフに恐怖しながら目の前の不機嫌な妻を宥めていた。

「いや、負けるな俺! サバイバルナイフなんぞに負けてたまるか! ここはハーレムの入り口!
突進さえしなければ…!」
「…拳を握り締めて言う時点でアウトって気がするけど」
「ヨコシマ・ザ・ハーレムラン…ヒ?!」

 再度、頭を抱えて沈む横島にピートも呆れ顔だ。
 この時、遠いお空の彼方のナルニアで大樹がまたもや顔スレスレに通り過ぎていった包丁に死の
予感を抱きつつも妻を宥めていた。

「今度は包丁でも降って来た? 身の程知らずな妄想は抱かずに生きなさいって」
「先生ぇ〜。その大望はちょっと…」
「なぜだぁぁ?! ハーレムランドは男のロマ、ヒ?!」

 浪漫を語る度に頭を抱える横島。その度息子へ呪詛を吐きながら必死に妻の攻撃を避ける大樹。
 何気に繋がっている親子ではある。





 食事も無事に終って、ピートが唐巣神父をむかえに階下へと消えていくのを横目に、シロが尻尾を
勢い良く振って横島へと顔を突き出す。

「さぁ! 食事が終った後は一散歩でござる!」
「まてまてまて! 食事の後は小休憩だろ?!」

 青くなりながら全力で否定する横島だったが、敵はシロだけではなかった。

 ガチャリという音と首に感じる硬いもの。
 思わず視線を下にやると鉄製の首輪を横島につけているタマモがいた。

「なななな?!」
「わかっているわよ。この後の横島の行動なんて」

 フ、と令子を思わせる仕草でニヤリと笑うタマモに上体をそらすとシロが首輪に縄をつけた。まるで
犬との散歩の格好に見える。勿論犬役は横島だ。

「どうせ、これから女湯を覗きに行くって言うんでしょ?」
「のののの、覗きなんてしないぞぉぉぉ?!」
「その動揺っぷりだけで信用ならないんだけど…」
「理事長からもお願いされてござる! いざ! 尋常に散歩でござるぅ―――!!」
「やめろぉぉ―――!?」

 ドップラー効果を撒き散らしながら離れていく横島に、タマモはしばらく手を振ってから急いで
お風呂の準備をし始めたがそれは早計だった。

 この後、散歩から無事帰還した横島はボロボロのまま蓑虫の様に縛られて唐巣神父の部屋の窓から
吊り下げられる事態に陥るのだから。六道幽子を甘く見てはいけない。














 おキヌは大浴場から出て、すぐに目に射し込んで来る朝日に目を細めた。
 まだ夏ではないが、強く自分を照らす太陽に自然と笑顔がこぼれる。

 おキヌは今は体操着ではなく、いつもの巫女服を着ていた。

 おキヌは巫女道を究めた者ではないが、除霊前にはみそぎを行う習慣をつけていた。
 滝に打たれたりはしないが、美神令子と同じく全身を冷水シャワーで身を引き締めるのだが、大浴場には
六道女学院の生徒達が同じ事をしていた。

 まだ起床時間までは余裕があるので散歩をしようと階段を下りていると頭にたんこぶをこさえた横島と
ばったり出会った。

「あれ、横島さんおはようございます。朝のお散歩ですか?」

 いつもは寝坊をする横島なのに珍しいと目を開くおキヌに横島は苦笑して手を振る。

「あー、今まで外に吊るされていたんだ。ちょっと前に縄が切れてやっと抜け出してこれたけど」
「す、すごいですね」

 どこで吊り下げられていたか知らないが、落ちてたんこぶだけと言うのもすごい。実際は落ちた
場所にネットがあったからだが、バウンドして頭から落ちた為にたんこぶができたのは横島らしい。

「あ〜、まだ朝食の時間じゃないよな〜」
「はい。あと2時間くらいは」
「はぁ〜」

 ため息をつく横島へ散歩に誘うと、素直にうなずいた。
 案外、海辺で朝食を現地調達しようと思ったのかもしれないが。





 サクサクと砂浜を踏みしめながら、おキヌはチラリと横を見る。
 横島は眩しそうにしながらもおキヌ越しに海から登る太陽を見つめていた。
 その顔にはいつもの騒がしさはない。あるのは

「ああ〜 太陽が目玉焼きに見える…あれくらいの目玉焼きなら黄身の中で溺れ食いも…」

 …うわごとは聞かないようにすれば、大人の雰囲気が漂っている(おキヌ視点)。

 横島の感覚ではシロの散歩の延長なのかもしれないが、おキヌにとっては正にこの状況は朝デートに
等しく、顔を赤らめて手をもじもじさせ始めた。

<これってデートっていうものですよね。朝の海岸なんて、まるで歌の詩のような…! どどどど
どうしよう。な、何か、会話しなきゃ…!>

「ああ、今砂浜に魚が転がってたら生で食える…!」

 途端におキヌはがっくりと肩を落とす。横島の呟きを無視するのにはちょっと努力が必要かもしれない。



 もじもじした少女と明らかに腹を空かせた少年を第三者が見たら、まず「恋人達」とは見ないだろう。
 ホテルの柱の影でこっそり覗いているかおりと魔理にもそう見えていた。

「なにやっているのです! ここはガバ! と行くのが王道ってものでしょう!」
「…ガバっていったらかおり、アンタ、止めに入るだろ?」
「当たり前です!」
「………」

 言っている事とやる事が違うかおりに魔理は冷や汗を浮かべる。
 一方、横島とおキヌは砂浜に座って朝日を見る事にしたらしい。
 しかし、やはり横島は何やら食べ物連想ゲームを始め、おキヌはもじもじと砂浜に何か書くのみで
見物客の望む方向へとは行かない。

「これは『鳴かせてみせようホトトギス』ですわ!!」

 え、とかおりの方向に振り返ると、頭にロウソク入りハチマキを巻いて、お札を握り締めたかおりが
仁王立ちしていた。

「何する気さ?」
「勿論、氷室さんの恋を応援する呪いですわ!」
「呪いが応援になるか!」

 つっこむ魔理を余所に、かおりは手馴れた様子で護摩焚きを始める。
 火が順調に燃え上がるとかおりは手にしたお札を魔理に自信満々に掲げて見せた。

「このお札は由緒正しき六道家代々伝わります恋の呪い」
「なになに」

 令子と小笠原エミが聞いたら、そこで速攻お札を奪い取り破くであろうが魔理は興味津々でかおりの
次の言葉を待つ。

「素直にさせるお札ですわ!」
「………ソレ、本当に効き目がある?」

 途端に半眼になった魔理にかおりが少々視線を遠くにさまよわせる。

「効き目は抜群でしたわ。実証済みです」
「………」

 真っ赤になっている所からして被験者は雪之丞であるらしい。魔理から見ればかおりこそ、その呪いに
かかるべきだと思うのだが。

「あのさ、今横島さんにその呪いをかけたら、海に向かって泳ぎだすんじゃないかな?」
「当然、この呪いはおキヌさんにかけるのですわよ!」

 すました顔でかおりはポケットから長い黒髪一本とカナヅチを取り出して、お札を何かの形に折り
そこに髪の毛を入れる。

「うふふふふ…呪われろ―――! 呪われろ―――! 呪われろ―――!」
「………」

 ガンガンとお札をカナヅチで叩くかおりは、さながら鬼女の様だ。
 魔理はそっと視線をかおりからおキヌへと移した。



 おキヌの中で、混乱していたミニおキヌの影から突如、女王様ルックスのミニおキヌが現れてビシィ!
と床に鞭を叩きつけた。音にビックリして硬直するミニおキヌ達。

『なに、悠長に現実逃避してるんですか! いざ鎌倉です!』

 なにが鎌倉なのか、戸惑うミニおキヌ達の中から毅然とピンクのドレスを着たおキヌが1歩前に出た。

(なにが鎌倉なのですか! 今は横島さんの隣にいるだけで心がデジャブーカーニバルです!)

 なんでデジャブーカーニバルなのか、更に混乱するミニおキヌ達を余所に、女王様おキヌはビシリと
人差し指をドレスおキヌに突きつける。

『今、何もしなければ冥子さん、いえ理事長の思いのままに横島さんは取られますよ!』
(う!)
『いえ、理事長の魔手は逃れても1年後に高校を卒業したら美神さんに永遠の従者として召抱えられます!』
(う!!)

 脂汗を流すドレスおキヌの後ろではミニおキヌ達が救いを求めるように女王様おキヌを見つめる。

『さぁ! 思いのたけを、自由に横島さんにぶつけるのです! 皆は1人ために!』

 女王様おキヌの言葉はドレスおキヌさえも巻き込み、ミニおキヌ達が宣誓する様に手を掲げる。

((((((皆は1人のために!)))))



「横島さん!!」
「ハイ?」

 突如、大声を出したおキヌに横島が振り向いた。おキヌの瞳には決意で輝いている。

「わたしは、ドジですし運動神経もよくありませんし、考え方が古臭いとか、色々欠点があるとは
思いますが、料理と整理は大得意です!」
「…そうだなぁ」

 横島はおキヌが何を言いたいのかわからず、困った顔でとりあえずうなずいた。

「横島さんも、スケベだしめんどくさがりだしアホで女心がまったくわからない人ですが!」
「………」

 そう思われてたんだ。でも当たってるなぁとヘコム横島におキヌはちょっと間を置いた。

「………」
「………」

「………」
「………」

「………良いヒトです」

 これには大分、横島でさえもヘコんだ。
 あ〜う〜と唸り始めたおキヌに横島も考え始める。
 そこでヒントになってしまったのはおキヌが先ほど言っていた「女心がわからない」のくだりだった。

<女心がわからない。雰囲気がわからないということか。ということは>

 周りを見た横島は、さすがに朝の浜辺というスポットに連想される物に思い当たった。

<これはデートだ。デートの環境だ?! というコトは、それを気にしたおキヌちゃんは…>

 ここで横島の背中をフラッシュがたかれた。漫画的には「ガガーン」という背景音も入るだろう。

<良いヒトと言われた後のお決まりパターンは……>

「横島さん!」
「おキヌちゃん!」

 再度、気合を振り絞ったおキヌが目にしたのは、壮絶な気合を入れた横島だった。

「横島さん!」

 歓喜におキヌが瞳を輝かせて抱きつこうと手を上げるのと横島が立ち上がるのは同時だった。

「………え?」
「おキヌちゃん! 後生やぁ―――! それ以上は言わんといて―――!」

 泣きながら海へと駆け出していく横島に呆然と見送るおキヌ。
 
「どうしてそうなるのですの―――!!」
「どうしてそういう結論になるのさ―――!!」

 思わず走り出して横島にツッコむかおり・魔理の声が聞こえたワケではないのだろうが、横島が全身
びしょぬれのまま飛び出してきた。

「よこしまさ」
「早く皆を呼んできてくれ! 海の中には悪霊達がいっぱいいるぞ!」
「え?!」
「ど、どういう事ですの? まだ結界が働いているはずですわよ?!」

 呆然としてしまうおキヌ・かおりとは別に魔理はホテルに身を翻す。

「とにかく! おキヌちゃんは笛、持ってるか?!」
「いえ、ホテルに…」
「じゃぁ、ホテルに行ってくれ! かおりさんは」
「…わたくしならいつでもOKですわ」

 かおりはいつもの水晶観音の術を発動させて身構えると、横島も右手に栄光の手を発動させた。

「俺たちは援護が来るまで頑張ればいい」
「さすがに、この数相手では5分が限界ですわね」
「み、皆を呼んできますから…!」

 おキヌが走り出して数歩、思わず後ろを見ると海面に、そして波打ち際に、無数の悪霊達が浮かび
上がって来ていた。


今までの評価: コメント:

この作品へのコメントに対するレスがあればどうぞ:

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp