椎名作品二次創作小説投稿広場


GS冥子?

孤島の吸血鬼


投稿者名:案山子師
投稿日時:07/ 4/15

 「巫女の姉ちゃんや〜〜ッ」
 唐巣神父の依頼を受け、横島と冥子はブラドー島へと渡る小型の飛行機に乗り換えるため、イタリアのローマ空港へとやってきていた。
 飛行機を降りて空港へ降りた横島達は、預けた荷物を受け取った帰りに、日本でも珍しいのに、まさかローマで見るとは思わなかった青長い髪の巫女服の少女を見つけた。
その後の横島の行動はひどく分かりやすいものだった。彼女がそこにいる明確な理由を考えるなど思いつくにも及ばない、本能のまま彼女へ飛びついていった。
 「えっ!? きゃぁ〜〜〜〜〜っ!」
 少女は、いきなり自分に飛び掛ってくる日本人の男性の姿を視認すると、驚きながらもかわいらしい叫び声を上げながら、男に対して無防備な体制を向けていた
 「ぐぼっがぁ!!」
 押し倒される、と誰もが思ったが横島の体は少女の体を突き抜けて向こう側に並べられていたゴミ箱の山へと頭から突っ込んでいった。
 ゴミ箱を盛大にひっくり返した横島は、空港に行きかう何人もの人間が捨てていった空き缶、タバコの吸殻などを頭からかぶって無様な姿をさらす。
 それを見た少女は、見かけ通りの優しさを自分に向かってきた青年に対して向けてくれた。
 「あっ、あの〜〜、大丈夫ですか?」
 頭から血を流す横島に向かって心配そうに巫女の少女が尋ねる。
 人目にも重症そうに見えた横島だが、
 「いえ、大丈夫です。お嬢さんこそお怪我は?」
 ものの三秒で復活した。
 「私は大丈夫です。なにぶん幽霊なもので」
 「幽霊?」
 少女の突拍子も無い発言に一瞬問い返してみる横島。
 「そうです。ほら」
 自分の言葉を証明するかのように横島の体をすり抜けてみる巫女の幽霊。
 「ねぇ〜。本当でしょ」
 体を通り抜け再び真正面に回りこみ笑顔でそういう幽霊少女に、
 「もったいないッ!! こんなに若いのに幽霊なんてッ!!」
 血涙を流して悔しそうな横島だったが少女は、
 「いえ、どちらかというと私は400歳ですか「おキヌはん、そろそろ時間やで」ら」
 400歳といったところで後ろから声をかけてきた男性のほうを振りって走りよる? どちらかというと飛びよる?
 「すみません。それでは私連れが待っていますから」
 笑顔でそう言い残して去っていった。
 残された横島は、
 (ローマのブームは袴なのかッ!?)
 と一人思っていた。
 「横島クン帰り〜〜〜」
 ピンクのロングコートに、コートと同じ色のベレーボーを被った冥子が、背もたれにしていた柱から離れて足早に近づいてきた。
 「荷物これでよかったですよね?」
 大きなボストンバックを二つ引っ張って来た横島。
 「ええ〜〜、ありがとうなの〜〜 でも荷物が重かったら式神たちに持ってもらう〜〜」
 「いえっ! 大丈夫ですから」
 ハハハと冷や汗を流しながら即否定する。
 さすがにこんなところで化け物を引き連れて日本の誤った知識をローマ中に振りまく気にはなれない。
 横島が乾いた笑いを浮かべていると、人ごみの中から金髪の青年がこちらに手を振りながら走りよってくる。
 その青年が先日、唐巣神父からの伝言を伝えに来たピートだと分かると、二人もそちらのほうへと手を振り替えした。
 ピートと合流した横島たちは、その案内でこれからブラドー島へと渡るための小型飛行機に案内された。
 「それでは中に入ってください皆さんも待っていますから」
 ピートに続いて飛行機の中へと入っていく。
 「わあ〜〜。冥子こういうのはじめて〜〜」
 無邪気に喜ぶ素振りを見せる冥子。
まるでピクニックの気分だ。
 「ああ〜〜っ! 令子ちゃ〜〜ん〜〜」
機内へと入ると、中には先週GS長者番付になっていた美神令子が立っていた。
 「めっ! 冥子、それに横島も」
驚いた様子の令子に、冥子が飛びついていった。
 「久しぶり〜〜、令子ちゃんったら〜〜、ぜんぜん遊びに来てくれないんだもの〜〜」
 「あ、あたしもいろいろと忙しいのよ」
 (しまったわ。冥子がくるなんて・・・・・・知ってたらこんな仕事来なかったのに)
引きつった笑みを浮かべたまま愛想笑いを浮かべる。
 令子の中で式神にコンクリートにめり込まされたことはいまだにトラウマになっていた。
 「みっ、かみっ、さ〜〜ん! 俺も会いたかったで〜〜す!!」
 「はい、私もよッ! と・・・・・・」
ゴキッ! という音と共に令子の右カウンターが横島の顔面に吸い込まれていく。まともに食らったはずなのに床に倒れこんだ横島は以外に元気だった。
 「ああ。美神さん今日は黒 『ゴキュッ!!』」
令子のハイヒールが追撃を食らわして、横島から不気味な音が響き渡った。
 「あんましなめたことしてっと本当にしばくわよ」
床に突っ伏した横島にハイヒールの踵が突き刺さっていた。
 「すびばぜん・・・・・・・」
 すでにしばいてるじゃん、ということは口が裂けてもいえない。
 「ちょっと、さっきから一体なにさわいでるワケ」
 ちょうどやってきたエミを含めて、ブラドー島へ向かうGSの精鋭部隊が揃ったのであった。



 「雪山で死にかけていたのを助けたのよ」
 横島の隣に座っているのは先ほど巫女服の少女を探しに来た着物姿の青年だった。
 「鬼道正樹です。よろしゅうお願いします」
 「それでこの子がその雪山で幽霊やってた」
 「おキヌです」
 「でもはじめに鬼道を見つけたときは本当にあせったわよ」
 美神が鬼道を指しながら言う。
 「はい。私も最初見たときにはこの人に身代わりを頼もうかと」
 笑顔でそれを口にするおキヌに周囲の空気が一瞬にして固まった。
 「おキヌちゃんそういうことはあんまり言わないほうがいいわよ」
 「あっ、すみません。美神さん」
 はずかにそうに顔を赤らめるおキヌだが、横島の頭にはやっぱりこの子も幽霊なんだなあと思っていた。
 「でも〜〜、どうして雪山で死に掛けてたの〜〜〜?」
 「いや。僕にもさっぱり分からへんのや。なんや髭顔の爺に背後から蹴飛ばされたような気がするんやが、どうもその辺から記憶が・・・・・・」
 頭を抑えながら悩む鬼道の視線に冥子の無邪気な表情が飛び込んでくる。その刹那、鬼道と冥子の視線が確かな線で結ばれる。
 「冥子・・・はん・・・・・・」
 「え〜っ! きっ、鬼道クン〜〜っ? (ぽっ!?)」
 「鬼道貴様ッ! 何冥子さんに色目使ってやがるッ!! 」
 「やめんか横島ッ!」
 襟元をひねりあげて、そのまま顔を振り子のようにぶんぶん上下に揺らし上げる横島に、令子の突込みが入った。
美神の突っ込みで横島の手の動きが停止し、今度は鬼道と横島の視線が重なる・・・・・・そして数十秒後、鬼道の精神は崩壊した。
 「ぐばぁああッ!!」
 目の前の横島に向かって胃内の汚物をぶちまけることによって。
 「ぎゃぁあああっ! お前なにをッ!」
 「すいません・・・・・・なんや冥子はんの顔を見ると、ものすごい頭痛と吐き気が・・・・・」
 そういって再び冥子の顔を直視した鬼道は、再び横島に向かって胃の中のものをすべて吐き出した。
 「ぐばぁっ!? がばぁああああああああッ!!!」
 「わっ! きったねぇなぁッ! 吐くなら向こうで吐いてこいッ!!」
 「すみまへん。冥子はんのか・・・・・・ぐばぁああああああああああ」
 「ぎゃぁあああ! だからトイレ行って来いよ!!」
 それから鬼道の六道恐怖症? は30分にわたって続けられた。
 「本当にすまん。もう大丈夫ですわ」
 ぜいぜいと方で息をしているもの。出すものを出して何とか平然を取り戻した鬼道が言う。むしろその隣の横島のほうが重症そうだ・・・・・・
 「冥子アンタまさか鬼道に何かしたの?」
 呆れ顔でそういう美神に冥子は必死に反論する。
 「ひどい〜〜。冥子初めての人にそんなことしないの〜〜!!」
 左右に振り切れるくらい首を振り回して否定する。
 実際は幼いころに彼とは一度会っているのだが、冥子がそのことを思い出すのはまだまだ先のことであった。
 (なかなかいい拾い物だと思ったんだけど、なんか厄介な気がしてきたわ)
 思いふける令子をよそに、ピートと鬼道に自分の助手にならないかとアタックしているエミの姿があった。
 
 
 「それで、ブラドー島にはこのままこの飛行機で渡るの?」
 「いえ。ブラドー島には飛行機が着陸する場所がないので近くの島から船で向かいます」
 令子の問にピートが答える。令子はその後、なにをするでもなく窓の外をぼんやりと眺めていた。
 はるか下には、普段見ることの出来ないような青々とした海原が広がっている。
 ブラドー島まではまだしばらくかかるだろと思っていると、この背景に似つかわしくないものが眼に飛び込んでくる。
 最初は黒い影のように見えたそれはほんのわずかな間に、何千もの群れとなって飛行機を取り巻いていた。
 「ちょっとッ! これは一体!?」
 「コウモリがッ! 昼間と思って油断していたッ」
 獲物を狙う空中の狼のように、コウモリは驚くほど統率の取れた動きで飛行機を破壊していく。
 「うわぁ〜〜〜、冥子こんな大量のコウモリさんはじめてみたの〜〜〜〜」
 「のんきなこと言ってる場合じゃないでしょうがッ」
 美神の言葉が終わるか否か、左右の飛行機のエンジンにコウモリが飛び込み、自らの命と引き換えにしてエンジンを完全に破壊した。
 数十匹のコウモリの被害は、タービンの回転を停止させ、煙を噴出し、爆発を伴って炎を吹き上げる。
 爆発していくエンジンを見る横島達、目の前をパラシュートを装備したパイロットが流暢な日本語で別れを告げ、風に流されていった・・・・・・その光景に誰もが声を失った。
 「いやや〜〜ッ! こんなとこで死ぬなんて〜〜〜ッ!?」
 沈黙を破った横島は、機体の外へ一本足で烏の姿をした式神を召喚すると、その一本しかない足に飛びついた。
 「ちょっと待つワケッ!」
 「一人だけ逃げようたってそうはいかないわよッ!?」
 ヤタにぶら下がる横島の右足と左足にエミと令子が左右同時にしがみついた。
 「ちょっとやめてくださいッ!? ああ〜〜っ、こんな状況で無ければうれしい状況なのに〜〜〜! 無理ですッ、本当に無理ですって俺一人でも限界なのにッ!?」
 正直ヤタは冥子のシンダラのように人を乗せて飛んだりは出来ない。ヤタに乗って飛ぶのは、どちらかというとグライダーに乗って飛行するという表現が正しいのだ。
 そして、横島の霊力ではいくらがんばったところでも・・・・・・
 「もっ、もう無理・・・」
 その言葉を残して三人と一匹は下に広がる大海原へと落下して言った。
 「あっ! 馬鹿ッ! もっと根性入れなさいよ!」
 「あんたそれでも男なワケ」
 激しい水しぶきを上げ、次第に沈静化していく海の表面に三人の体が浮かび上がってくる。
 三人が落下するのと同時に飛行機も数十メートル先の海へと落下し、沈んで行った。
 「みんな大丈夫〜〜〜?」
 シンダラに乗って脱出したであろう冥子が、三人の目の前に近づいてくる。その後ろには顔色を悪そうにしているが、ちゃっかり乗っかっている鬼道の姿があった。
 「あっちに乗ればよかったわね・・・・・・」
 「同感なワケ・・・・・・」
 今だけは気の会う二人であった。
 その後海に浮かぶ三人は冥子が出したサンチラに引っ張られながらまだ見ぬブラドー島へと向かっていくのであった。
 途中鬼道が再び吐き気を催したり、サンチラから横島がほうり出されたりとハプニングがあったものの途中で、航海中のクルーザーを徴発することによって何とか日暮れ前にはブラドー島へとたどり着くことに成功した。



 島に着いたとき最初に感じたのは、孤島全体を覆っているまがまがしい邪悪なオーラだった。
 緑に覆われた山頂には、朽ちかけた古城。それを取り巻くのは何十ものコウモリの大群であった。
 「島中が邪悪な波動に包まれている。ねぇ、ピート。先生は一体なにを戦っているの?」
 今までは、ピートが自分から言い出してくれることを思って黙っていたが、ココまでの波動を当てられてはもはや黙っていることは出来ない。
 美神はピートを見据えながら、先ほど襲ってきたコウモリの大群を思い出していた。
 「・・・・・・ブラドー伯爵。あの古城には最も古く、最強の吸血鬼が住んでいます。先生は結界でブラドーがこの島から出ないように封じましたが、使い魔が襲ってきたということは・・・・・・」
「結界が弱まってる!? まさか唐巣先生の身に何か!」
美神が知るGSの中でも唐巣先生はトップの実力を持った人だ。そうやすやすとやられるとは思えないが、たった一人でこの波動の主に立ち向かうには無謀といえるものであろう。
「急ぎましょう。村へ案内します」
 走り出すピートの後姿を追うように四人はいっせいに駆け出していった。
 

 「先生! みんな―! 僕だっ、帰ってきたぞ!!」
 村らしき場所へとたどり着いたGSメンバーだが、そこにあったのはすでに廃墟化したゴーストタウンであった。
 土作りの家のあちこちはひび割れて内部が露出し、木製の扉は無残に砕かれている。
 だが、おかしなことにそこに住んでいた者たちとの争った口跡がほとんど残っていなかった。
 おそらくブラドーが攻めてくるのを察して、急いで避難したのだろうと思われるが、そんな希望もそれを発見してしまうまでであった。
 「クソッ!」
 地面にしゃがみこみ何かを拾い上げるピートを背後から覗き込んだ美神が、驚きの声を上げる。
 「それって、唐巣先生の眼鏡・・・・・・」
 「一足遅かったようです・・・・・・」
 手にした眼鏡を美神の手にそっと差し出し、それを受け取った美神もそれが唐巣神父の持ち物であることを再確認した。
 「まだやられたとは決まったわけではありませんが・・・どうやら僕らだけで戦うしかないようですね・・・・・・・」
 「美神はん、この村ちょっとおかしくないですか?」
 ピーとの言葉を最後に流れた沈黙を破ったのは鬼道の何気ない一言だった。
 「アンタも気づいたのね、確かにこの村教会が一つも無いわ」
 「吸血鬼に全部壊されちゃったんじゃないですか〜〜」
 「でもそれらしい跡も無いわよ〜〜〜」
 「もしかして・・・・・・・・」
 美神の言葉を最後に全員はこの場所を離れることにした。この島にいる以上何処にいても安全な場所はないかもしれないが、少しでも、少なくとも明日の朝まで無事に過ごせそうな場所を探しそこに移ることにした。
 途中美神が何かを考えているそぶりを見せたが、すぐに考えるのをやめたのか数分後には普段の美神に戻っていた。
 
 
 村の近くに発見した古小屋に移動した面々は、先ほどの村から拝借してきた食料をおいしくいただいていた。本場のソーセージに、保存用の干し肉などをはじめ自家製のワインを発見した令子は上機嫌だった。
 夜は吸血鬼の領分となるが、全員まったく気にした様子もなく楽しく談笑しながら食事を続けていく。
 その情景をあえて描くと、横島は令子や、エミにちょっかいかけてしばき倒されたり。
 エミがピートや、鬼道にモーションかけていたり。
 ワインに酔った冥子が、ほろ酔い気分で式神音頭を繰り広げたり。 
 
 「僕ちょっと見回りに言ってきますッ!」
 「あっ! ピートッ!」
 エミさんの熱烈なアタックに、いろいろと限界を感じたのかピートは鬼道を残して脱出を試みる。
 「それじゃあ、僕はトイレに」
 エミの意識がピートに向いた瞬間、鬼道もピートの跡に続くように外へと走っていった・・・それを呆然と見つめるエミだったが、
 「チャ〜ンスッ!」
 二人の後を追って外へと繰り出していった。

 そんなエミを特に気にするでもなく、残ったメンバーは夕食の残りをつまみながら、のんびりとトランプをしていた・・・・・・が、それが始まって何分も過ぎない間に、乱暴に扉が開けられ、誰かが小屋の中へ飛び込んでいた。
 「大変ですエミさんと、鬼道さんがッ!!」
 全身泥だらけにしたピートが転がるように飛び込んできたのだ。ピートは、あせりのあまり呂律が回っていないようだが、なにを言いたいのかすぐに分かった。
 エミと鬼道がやってきたのだ。
 空ろに怪しく光る瞳、そして次に眼に映ったのは口の隙間から覗く二本の牙であった。
 「エミ! アンタ吸血鬼に噛まれたわねッ!!」
 あきれと、焦りが混じった声で令子は叫んだ、その後ろでは冥子と横島そして、おキヌがその様子を見守っている。
 令子は、常時装備していた神通棍を手にして、二人に立ちふさがる。
 「気をつけてッ!! 鬼道の霊力はッ!」
 「遅いで美神はん」
 令子の言葉をさえぎって鬼道の足元から黒い影がこちらに向かってくる。それを近づけないように神通棍を振り下ろすが、黒い影はやすやすとその攻撃を回避した。
 「夜叉丸ッ!!」
 令子と横島の間に現れたのは、童子の姿をした一体の式神であった。
 夜叉丸といわれた式神は令子の背中を思いっきり蹴飛ばすと、体をひねってそのまま冥子に飛び掛った。
 それをいち早く察したのは、冥子の影の中から飛び出してきたアンチラであった。
 長く鋭い耳で夜叉丸を突き放すと、威嚇のうなり声を上げた。
 「ッ、鬼道ッ! よくも私にこんなことを・・・・・・・ッ!」
 床に転がった令子は、あらん限りの殺気を込めて鬼道をにらみつけ、零れ落ちた神通棍に必死に手を伸ばすが、鬼道はそれよりも早く令子の体を抱き上げて躊躇なくその首に噛み付いた。
 「ひふぁみはんすひまへんへぇ(美神はんすみません)」
 「くっ! 鬼道、丁稚の分際で・・・あんた、もとに戻ったら覚えてなさいッ!!!」
 怒りをあらわにする令子だが、すぐに体がいうことがきかなくなっていく。
 頭で分かっていても逆らえない。そんなもどかしい怒りは、いまだ吸血鬼化していない残った三人に向けられた。
 「こうなったら冥子ッ、横島ッ! あんた達も私の下僕になりなさいッ!」
 「ピート、アンタも鬼道と同じようにしてあげるワケ」
 「令子ちゃんこわ〜〜い〜〜ッ!」
 「美神さん、エミさん、ちょっと待ってくださいッ!!」
 「すみません、僕の不注意で・・・・・・」
 近づいてくる令子たちにジリジリと一箇所に追い詰められていく、小屋の外では何人もの声が聞こえてきた。
 もしかしたらほかの吸血鬼が集まってきたのかもしれない。
 声の数からそれがかなりの人数だと知ることが出来る。
 「こうなったら冥子さん。式神で全員フッ飛ばしてくださいよ」
 多勢に無勢。横島は冥子の式神を暴走させようとしていた。こんなところで式神が暴れまわれば、冥子はともかく自分も攻撃のあおりを食うことは間違いなかったが、それ以外にこの状況を打破する方法が、思いつかなかった。
 横島の手には『暴』の文珠が握られている。だが、それを使うのはやはりためらわれる。
 ほかに何かいい方法がないかと考えていると、今まで無人と思われていた部屋の奥から小さな何かが投げ込まれた。
 それは横島たちと吸血鬼達の間で、
 「精霊石よッ!!」
 激しい発光とともにはじけた。
 「四人とも早くこっちへッ」
 ピートは、聞きなれたその声をいち早く察知すると横島と冥子の手を引いて部屋の奥へと引き入れた。それにを追いかけるようにおキヌも続く。

 開けっ放しにされていた地下室の入り口に横島と冥子を放り込むと、扉のかんぬきを閉めて、自分も地下室へと飛び込んでいった。
 「くっ! いったい誰やッ!」
 一番に視力が回復した鬼道は、夜叉丸を使って閉じられた扉をけり破る。
 「いまの声ってまさか・・・・・・」
 先ほど響いた声の主の正体、自分の耳に間違いがなければアレは・・・・・・
 体は操られていたとしても、頭の中では三人が無事にこの場所を脱出したことに令子は安堵していた。
 あの人が生きていたなら大丈夫。残された吸血鬼達は、空っぽになった部屋を見つめながらこの場を移動することにした。



 そのころ横島たちは、あの部屋に精霊石を投げ込んだ人物と、久々の再開を果たしていた。
 「先生無事だったんですね」
 喜ぶピートの前には、予想外にも元気そうな唐巣神父と、ブラドーの魔の手から逃れた村人達の存在があった。
 「心配かけたね。・・・でもまさか、令子君と、エミ君が敵に回るとわ・・・・・・・」
 「それだけじゃない。鬼道も・・・・・・あのやろう、俺ですら触れたことのない美神さんの首筋にぃいいいいッ!!!」
 予想通りのボケをしてくれるが、あいにくそれに突っ込んでくれる人物はいなかった。
 「令子ちゃ〜〜ん〜〜〜」
 「美神さん、鬼道さん・・・・・」
 「とにかく三人が、敵に回ったとすれば早く何とかしなければ」
 
 
 それから数時間後、作戦が決まった神父は、この作戦で多大な苦労をかけるであろう二人に声をかけた。
 「夜明けと同時に攻撃を開始する。冥子君、横島君、負担をかけるが頼むよ」
 「冥子〜〜がんばるの〜〜〜ッ!!」
 いつも通り間延びした返事だったが、横島にはその声がいつも以上に緊張しているように聞こえた。
 横島は冥子に渡せる限りすべての文珠を渡すと自分も行動に移る。
 「それじゃあ冥子さん。気をつけてください」
 「横島クンもねぇ〜〜」
 冥子は数人のヴァンパイアを伴って地上へと向かう。

 「それじゃあ横島君、私達も行くとしよう。おキヌちゃんは危険だからココで待機していてくれたまえ」
 おキヌも一緒について行きたかったが、ただの幽霊である自分がついていっても邪魔になるだけだと悟ると、寂しげにそのことを了承した。
 聖書を胸に抱えて眼鏡をかけなおした神父を戦闘に三人は薄暗い地下道を進んでいった。
 


 文珠を使った爆破音が断続的に響き渡る。
 ブラドーの住む城を前にすべての式神を召喚した冥子は、持てる霊力のすべてを使い城を破壊していく。
 サンチラの雷が、アジラの炎が、マコラの拳が、ハイラの毛針が、物理攻撃を可能とするすべての火力が火を噴いた。
 そして、自分自身も横島から譲り受けた爆の文珠を投げつける。
 冥子から離れない位置にいた、横島、ピート、神父たちも手にした鍬や、棒を持って戦いに備える。
 無論この横島たちは本人ではない。彼らは地下で『模』の文珠を使って姿を変えた村人だ、そのため戦力としてあてにすることはできない。

 これは賭けであった。

 冥子(本人)がおとりとなって正面から攻撃を仕掛けて、ブラドーの戦力を出来る限りそぐ。手薄になった城を地下からの抜け道を使って、すばやく城に進入し、残ったメンバーがすばやくブラドーを打つ。
 この作戦、戦力を見ても囮部隊、奇襲部隊ともに危険度はかなり高い。しかし、これが一番成功率の高い作戦でもあるのだ。
 ブラドーの力はかなり強力である。その上主力を二人も欠いたまま戦いを挑むのはかなり危険であるが、もう援護を頼むために島を出ることは出来ないだろう。島からの脱出口はすでに押さえられていると考えていい、このまま時間がたてば島に住む人全員が敵に回る可能性もある。これ以上潜伏することは出来ない。苦渋の決断の末に神父はこの作戦に出ることにしたのだ。
 

 地下に空洞に響いてくる音を聞きながら神父は心の中で十字架をきった。
 (私達に神の加護を・・・)
 

 断続的に響き渡る爆音と衝撃。これによって、城ので待ち受けるブラドー達も動き出した。
 「まんまと正面から来るとわなぁ。まあよい。お前たち行って蹴散らしてくるのだ」
 別段深く考えるまでもなくブラドーが命じる。
 「お待ちくださいブラドー様。先生は、唐巣神父はここで無策に力押しで来るような人ではありません。おそらくアレは囮と見ます」
 「だが、使い魔の報告では奴らの姿は全員確認されているが」
 神父の下で戦いを学んでいた令子は、彼の性格を熟知している。あの人はお金に関しては疎いが、戦闘に関しての実力は戦術面を取ってもかなり頭がきれる。
 「おそらくアレは横島の文珠で化けているのだろうと思います。奴らの目的は城の占拠などではなくブラドー様の討伐。ならばおとりとなっている冥子をこちらに取り込めば」
 意味深げに告げる令子。
 「なるほど。外からの援軍はあてに出来ない、現在の戦力もぎりぎり、そこでそいつをこちら側に取り込めば戦力差は圧倒的となるわけか」
 「お分かりいただけましたか」
 「ああ、城のもの全員で迎え撃つ。もちろん私もな」
 不気味に笑うブラドーと令子の後ろにエミと、ボロボロになった鬼道が控えいる。
 鬼道に吸血された令子であったが、ブラドーに支配しなおされたためだ。
 いくら操られているといっても下僕の鬼道にいつまでも支配されるのはプライドが許さなかった。
 あわよくば支配されなおされる過程で、呪縛が緩むかと思ったが、その目論見は失敗に終わってしまった。
 だが、そんなことをいまさら言っても始まらない。もともと吸血鬼と人間との霊力差は圧倒的といえるのだ、GSとしていかに優秀といえどもその霊力差を前にしてはどうすることも出来ない。
 神通棍を手にした令子は、ブラドー達とともに城の外へと向かう。
 おそらくたった一人で囮をこなしているであろう冥子を堕とすために。
 
 
 それから数分後。横島たちは、もぬけの殻になった最上階へとたどり着いた。
 「先生! これは」
 塔から離れた場所で爆発する文珠の爆音を聞きながらピートが叫ぶ。その姿とは対照的に神父は静かに告げる。
 「どうやら囮がばれたようだ、急いで戻ろう! 冥子君が危険だッ」
 急いで隠し扉に向かう神父と、ピートだが、横島は一人窓の外を眺めている。
 「横島さんどうしたんですッ! 急がないとッ!」
 呼びかけるピートの声を無視して窓の枠に足をかける横島。
 「ピート、唐巣神父、俺先に行きます」
 「横島君なにをする気だッ!?」
 塔の窓から盛大にジャンプした横島は、空中に召喚した式神の足にぶら下り『爆』の文珠を自分の背後に向けて放り投げる。
 「二人とも離れていてくださいッ!?」
 二人が駆け寄る暇もなく、背後で爆発した文珠を推進力に、すごい加速で横島の姿が遠ざかっていく、
 「ピート君私達も急ぐとしよう」
 「先生・・・・・・僕のせいでこんなことになって、横島さんがこんな」
 「悔やんでいる暇はない。いまは急いで横島君を追うんだ」
 うなだれる弟子に激を飛ばした神父は、軽く肩をたたくと急いで階段を下っていく。
 
 

 「冥子っ! 覚悟しなさいっ!」
 令子は神通棍を振り上げて冥子に向かっていくが、間一髪のところで影の中から現れたインダラに襟首を引っ張りあげられてそれを交わす。
 「夜叉丸っ!」
 鬼道の声とともに夜叉丸がインダラに襲い掛かる。
 冥子は半場パニックになりながら横島から渡された『爆』の文珠を投げつける。
 「いやぁあ〜〜〜〜! こないでぇ〜〜〜〜」
 至近距離で爆発した文珠をまともに食らった夜叉丸はそのまま森の奥へと吹き飛ばされる。
 必死に体勢を立て直そうと試みる鬼道だが、夜叉丸が大木に体を打ちつけられるとともに、そのフィードバックを受けてその場に崩れ落ちる。
 「鬼道ッ! なにやってんのよっ! ッ、たく役に立たないわね」
 「まあ、さすがにあの爆発を間近で受けたらしかたないワケ」
 倒れた鬼道を横目で見つめながら二人は冥子とインダラに神経を集中する。
 お互いに一歩も動けぬまま沈黙が流れたが、令子たちの背後でそれを見ていたブラドーが、その沈黙を破った。
 「もうよい。さがれ」
 令子とエミを背後に下がらせると、自らが前線に赴き冥子と対峙する。
 (やばいは、さすがに冥子でもブラドーと一対一で戦ったらまず間違いなく負ける)
 (神父達・・・・・・まだこないワケ)
 肉体を操られている二人だが内心では必死にその呪縛から逃れようとしている。
 だが、ブラドーの魔力にはさすが最高クラスのGSといえども真正面から対抗する力は持っていない。
 すでに冥子と一緒に来た村人達は行動不能に陥っている。その半分は文珠のあおりを受けて倒れたものたちだが、いまこのことは無視するとしよう。
 
 このまま冥子に時間を稼いでもらい、応援が駆けつけてくるようにあえて戦闘を長引かせる戦いをするしかなかったのだが、ブラドーが出てしまえば横島たちが来た頃には冥子もやられてしまっていることだろう。
 「このままてこずっていれば残りの奴らがいずれ追いついてくるだろう。その前にコイツも私の配下に置くとしよう」
 状況の把握が出来ているようだ。抜かりなく行動するブラドー。先ほど、カビの生えた世界地図を見せられたときとは比べ物にならない。
 どうせならいまもボケておいてほしいところだが、人生はそんなに甘くなかった。
 向かってくる式神をかいくぐって冥子へと近づいていく。
 「ダンピエー「ちょっと待て〜〜〜ッ!?」」
 アンチラの刃をかいくぐったところで、背後より声が聞こえた。
振り返ったブラドーの身体に横島が全身で体当たりをかます。
 あまりの突然の出来事に、ブラドーも体を霧にする時間さえなく、そのままもつれ合ったまま吹き飛ばされる。
 「横島ッ!」
 「・・・貴様、いったいドコから」
 アレだけの速度でぶつかったにもかかわらず両者ともほとんど無傷なのが恐ろしい。
 すぐに起き上がって、怒りの表情でぶつかってきた横島をにらみつけるが、ゴキブリのようにすばやくはいずりながらブラドーから離れて冥子の元へ逃げていく。
 「よっ、横島君大丈夫なの〜〜?」
 体中ボロボロの姿だが、以外に平気だったのかすぐに立ち上がっるとブラドーに向かって高らかと宣言した。
 「ブラドー貴様、美神さんの次は、俺ですらまだ触ったことのない冥子さんの肌に何をしようとしていたッ!! このセクハラ中年親父が! 貴様のような女の敵はこの俺GS(助手)横島忠夫が成敗してくれるわ」
 (うわ〜〜、横島にセクハラとか言われちゃってるよコイツ)
 (横島に言われたらもう終わりなワケ)
 横島にそんなこと言われた日には終わりだといわんばかりの哀れんだ眼をブラドーに向ける。
 「誰が、セクハラ中年親父だ! 貴様らも私を哀れんだ目で見るなっ」
 「うるさいッ! 今までもそうやって女の子を無理やり―――――――ゆるせんッ」
 横島の頭の中に18禁モザイクのかかった煩悩が駆け巡る。
 横島の霊力が格段に上昇した。
 血の涙を流しながら横島は、ちょっとだけうらやましそうな眼をしてブラドーをにらみつける。
 「うらやましいぞこんちきしょうッ!!」
 「あの馬鹿。こんなときになにを言ってるワケ」
 「考えてることは大体分かるけどね」
 いきなり争いレベルが小学年まで下がった二人を見て、自分では気づいていないが令子とエミに心の中にわずかな安堵を取り戻していた。


 『冥子さんさっき渡した文珠跡いくつ残ってます』
 一通り言い合った後、小声で冥子に尋ねた。
 『ごめんなさい〜〜。さっき最後の一個つかっちゃったの〜〜』
 『・・・これを使って美神さんとエミさんを止めてください』
 横島はブラドーから見られないように冥子に『眠』とかかれた文珠を二つ渡した。
 『しばらくブラドーは俺がひきつけますから。その間にあの二人を』
 差し出された文珠を受け取ることをわずかに拒むが、『逃げるのだけは得意ですから』という横島の言葉を信じてそれを受け取った。
 『それじゃあ行きますよ・・・・・・「ヤタ突っ込めッ!!」』
 横島の合図とともに影の中からクチバシを回転軸にドリルのように回転する式神ヤタが、一直線にブラドーへと向かっていく。
 「なかなか早いな、だが・・・」
 『煙』
 余裕を見せるブラドーの意表をつくために横島はヤタに握らせておいた『煙』の文珠を発動させる。
 周囲一体が煙に覆われたことにより隙が生まれる。だが、ブラドーはすぐさま冷静さを取り戻し体を霧に変えることもなく体を軽くひねってヤタの突進を回避した。
 マントの端をわずかに引っ掛けただけでブラドーにはまったく無傷なままであった。
 「セクハラきゅうちゃんここまでおいで〜〜」
 攻撃が外れたことを悟った横島は急いでヤタを回収すると脱兎のごとくその場を跡にした。
 だが、そのときすでに横島はあるもう一つの文珠を発動していた。
 『鬼』と書かれた文珠が発動したブラドーは、逃げる横島を捕まえるために追わなければならなくなった。
 「おのれ、誰がセクハラキュウちゃんだッ!」
 ブラドーは体を霧状にすると森奥へと走っていく横島の後を追っていった。
 (唐巣のおっさん、ピート、冥子さん俺が死ぬ前に早く来てくれよッ!)
 横島とブラドーの命がけの鬼ごっこが始まった。
 だが、横島の心境をよそに神父たちは大量のコウモリの大群の攻撃を受けていたのだった。

 

 「主よ、精霊よ、私に力をッ!!」
 神父の呼びかけによって周囲の精霊達の力が光となってコウモリたちに襲い掛かる・・・・・・が、その大群を前にして、それは焼け石に水だった。
 「クソッ! このまま僕たちを足止めして先に横島さんたちを倒すつもりか」
 ピートも必死になってコウモリを攻撃するが、ちょこまか動くその標的になかなか攻撃を当てることが出来ない。
 「くっ、このままでは冥子君や横島君まで・・・・・・アーメンッ!!」
 必死に精霊に呼びかける神父だが、ココにわずかな焦りを感じていた。
 「どういうことだ、いつもより精霊の力が少ない。それに声が届きづらい」
 普段の神父の力ならこの程度のコウモリの群れでも、こんなに時間をとられることはない。なのに、今の自分達はかなりの劣勢に立たされている。
 『当たり前ですよ。ココではあなたが頼りにする精霊よりも、ブラドー様の長年の魔力のほうが島に染み付いているのですから』
 誰もいない暗闇から突如かけられた言葉は、ピートだけでなく神父にも動揺を与えた。。
 「・・・・・・まさかお前は!?」
 吸血鬼の群れは黒い泡のように一つにまとまって、いつしか人の形に姿を変えた。
 「おひさしぶりです。ピート様」
 「・・・ブラムッ!?」
 「ピート君彼は一体?」
 「父さんの使い魔の中で一番の古株です。しかも力はこの島でブラドーの次に強力です」
 「ピート様分かっているのならば引きなさい。あなたでは私に勝てませんよ」
 彼の強さを知っているピートは、悔しそうに歯を食いしばる。
 「残念だけどこの先には仲間がまっているんでねぇ。悪いが通してもらえないかなぁ」
 「・・・・・ほう。私の魔力を見ても向かってくるとは・・・あなた死にますよ」
 うつろな瞳で神父を見つめるブラム。青白く病人のような風貌とはかけ離れたプレッシャーと真正面から向かい合う神父の額にわずかな汗が滲む。
 真っ黒なマントを着て、脱色した長い髪をした男、ブロムは眠たげな瞳でこちらをにらみつけると、大地を蹴り神父に向かって真正面から突っ込んできた。
 大きく裂けた口からは鋭い牙が覗いている。
 神父は光を帯び始めた聖書をしっかりと握りしめブラムの攻撃をかわす。攻撃をかわしたことで次の動作に移る瞬間のブロムに対して神父は、力ある言葉を放った。
 「主よ、力をッ!!」
 驚愕の表所を浮かべたブラムは、近距離で受けたその大きな力をよけることも出来ずにそのまま爆発する。
 「やりましたね、先生!」
 「甘いですよ。ピート様」
 歓喜の声を上げるピートの背後には、いつの間に移動したのかブラムの姿があった。そのまま大きく裂けた口を二人に向けて、衝撃波のような魔力を放った。
 瞬間の閃光のうち、二人の体は宙に投げ出された。
 


「待ちなさい冥子ッ!」
 神通棍を器用に避け続けるインダラにしがみつきながら冥子は必死に考えていた。
 早く令子たちを何とかして、横島のところへ行かないといけない。
しかし、下手に式神で攻撃するといくらヴァンパイア化しているとはいえ、令子たちも無事ですまないかもしれない、逆にどれだけのダメージを与えると戦闘不能にさせることが出来るのかもわからない、手加減した攻撃で長々とこの場にとどまることは得策ではない。
 こうなってくると先ほどむやみに文珠を使い続けたことが悔やまれる。
 いまさらながらにもっと上手い方法があったのではないかと思われてくる。
 手に握られているのは先ほど横島から渡された文珠が二つ。これをみるとがんばらなくてはという気がわきあがってくる。
 自分はどちらかといえばこの仕事に向いてないのではないか、と思ったことは両手で数えても足りないほどだ。だが、横島が来てからは少しずつこの仕事にもやりがいを感じていた。
 見習い時代に何人かのGSの下で仕事をしたことがあったが、同じ人物と仕事をすることは二度となかった。それはひとえに、仕事中に式神を暴走させる自分の責任でもあるのだが、怖いものは怖いのだから仕方がないと思う。
 最初のころは、横島もすぐに自分のもとを去ると思っていた・・・だが、彼は今でも自分のそばにいてくれる。
 その理由が意味深いものでないことは自分でも分かる。最近は彼の言動からもその理由がなんとなく分かるようになってきた。それは、悪意というには程遠く、純粋というにはばかげた理由である。しかし、自分にとって親しみを感じてくれていることは確実である。
 いままで得たことがない何気ない日常。
 普通の人間が持っていて自分が持っていなかったかけがえのない友人。
 横島と出会って変化しだした自分の世界を長く続けるために。
 いま自分がこの仕事を続ける理由。横島と長く一緒にいるため、そのために自分はこんなところで手間取るわけにはいかない。
 冥子は望むべきことをすべてを式神たちに伝えた。後は普段のようにこの子達を暴走させないようにするだけ。
 大丈夫。この子達はとっても優秀だ、何も出来ない自分と違って何でも出来る。
 卑屈とも取れる考えだが、冥子はそれだけ式神たちを信頼していた。

 左右に分かれた二人をなるべく一緒の位置に移動させる。
 わざと自分に攻撃できる距離に誘い込み、ぎりぎりまでひきつけた冥子は、インダラに命じ空へと向かって大きく跳躍する。
 わずかな月明かりが自分の姿を浮き彫りにする。
 令子もエミも二人の視線は自分に向けられていることが分かる。
 インダラは空を飛翔することが出来ない。
 ならば狙うべきは落下する着地点。自由の利かないその体制を見逃すほどあの二人は甘くない。
 だが、その分自分の足元への注意はおろそかになる。 
 「アジラちゃんお願い〜〜〜」
 令子たちが上空を見上げていることを確認すると、地上に向かって冥子は叫んだ。
 一瞬令子たちには何のことだが分からなかったが、一寸の間をおいてその意図を察した。
 「「足が動かないッ!!」」
 空高くジャンプしたインダラに気をとられた瞬間、茂みに隠していたアジラの石化能力を使って二人の足を石化させる。
 これによって二人の動きは大きく制限される。
 両足を石にされ、体制を立て直す暇を与えず二人に向かってインダラが駆け下りる。
 「マコラ〜〜ッ」
 しっかりとインダラの首にしがみつきながら、猿の式神の名前を呼ぶ。
 自分の背後に現れたマコラの両手には、『眠』の文珠が握られていた。
 「しまっ・・・・・・」
 二人の間を駆け抜けるインダラ、マコラは二人の間をすり抜けるわずかな間に両手の文珠を二人の体に押し込むようにして発動させる。
 急制動をかけてインダラの動きが止まる。
 ゆっくりと流れるような時間の中、令子、エミの体が重力にしたがって倒れていく。
 それをやさしく受け止めたのはビカラであった。
 二人をそっと地面に寝かせると冥子は深いため息を吐いた。
 「よかった〜〜〜っ。冥子もやればできるじゃない〜〜。でも早く横島クンのところに行かないと〜〜〜」
 眠った二人を近くの木に立てかけて、横島が走り去った方向へとインダラを向けようとしたとき、冥子は自分にとって信じられないものを見た。
 インダラが、突如自分を振り落としたのである。
 近くにいたビカラに受け止められ無事に地面に降り立ったが、冥子にはその光景が信じられなかった。
 「思い出したでぇ。冥子はん」
 造反したインダラは森の奥からやってきた一人の男に近づいていく。
 「同時に複数の式神を使うとそれだけ霊波に隙ができ、その瞬間式神使いは相手の式神を奪い取ることができる」
 「鬼道クン〜〜・・・」
 驚きのあまりに声が出てこない。だが、今すぐに横島の後を追いかけることが出来ないことだけはわかった。
 
 

 「ピート様これで終わりですか?」
 無骨に投げかけられた言葉にピートはなにを言うでもなく、奥歯を噛み締めて悔しそうにブロムをにらむ。
 その近くには唐巣神父が無理やり体を動かして起き上がろうとしていた。
 「人間、その辺にしときなさい。もしも戦ったのがこの島でなければもう少しは戦えたでしょうが、いまのあなたではこれ以上の戦闘は不可能でしょう」
 「ッ・・・ピート君大丈夫か?」
 ブロムから眼をそらさずにピートに問いかける。
 ピートも何とか無事だったらしく無言で立ち上がった。それを黙ってみていたブロムだが、
 「なんとも嘆かわしい。あなたは本当にブラドー様達のご子息ですか」
 いままで半開きだった瞳がしっかりと開かれてピートを見つめる。対してピートは半端者と言われて苛立ちを隠せない。
 「あなたが人間の弟子についたと聞いたときは、やはりブラドー様の息子かと思っていましたが、その認識は甘かったようですね」
 「ブロムなにが言いたいッ!」
 「弱いッ! 弱すぎるッ! あなたは一体いままでなにを学んでいたんですかッ!? ブラドー様の息子ならば私をも軽く越えて見せなさいッ! あの方(奥様)の息子ならばこんなところで立ち止まらないでくださいッ!! ブラドー様を止められなかったのは唯一の身内であるあなたの責任です。奥様が生きていらしたらあの方がこの騒ぎを止めてくれたでしょう、だが人間であるあの人はすでにこの世にいないッ! だから私はあなたに期待をしていたのです。それがこんな結果になるとは・・・・・・残念です」
 再び二人に対して音撃の魔力が襲い掛かる。
 今度は聖なる結界を張ることに成功したので直撃を避けることは出来たが、早々何発もうけることは出来ない。
 「・・・母さんが生きていたらこんなことにはならなかった」
 ピートは自分がハーフヴァンパイアであるということにコンプレックスを抱いていた。内罰敵とも取れる元来の性格は、さらにそのことに拍車をかけている。
 「あなたの中に流れている血は、誇り高い最古の吸血鬼の血ではないのですか? ブラドー様が愛した気高き人間の血のではないのですか? そのどちらの可能性も否定してあなたに流れるものはなんなのですか?」
 ピートは鈍器で頭を殴られたような気がした。自分の中に流れているのはいつも半端なものだと思っていたが、自分が選べばどちらにでもなれたといわれているようで、あるいはどちらの血も持っているのに選ぼうとさえしなかった自分を咎められたようで。
 「伝えるべきことは伝えましたよ―――様・・・・・・ふがいない自分を認めるならばあなたの大事な師とともにこの世を去りなさい」
 最初に呟いた言葉はピートたちには聞こえていなかった。
 ブラムは自分の喉に全魔力を蓄積していく。
 いままでの攻撃がお遊びと思えてくるほどの強大な力。神父も手にした聖書に必死に力を集めるが、この力とまともにぶつかり合うだけの力をこんなわずかな時間で集められるとは思っていない。
 いままでとは比べ物にならないほどの破壊を帯びた魔力が放たれる。
 大きく裂けた口から放たれた衝撃波が当たり一面をえぐった・・・・・・
 まともにこれを食らったのであればたとえバンパイアハーフであろうと無事ではすまない。
 その衝撃で閉じられた視界を見つめるブロムは、静かにそれを見守っていた。
 「・・・やはり無事でしたか」
 全身をボロボロにしているが、確かにしっかりとした足取りのピートは、唐巣神父の盾になるようにブロムの攻撃を一心に受けていた。
 「ピート君・・・・・・なぜ・・・」
 「先生にはまだまだ教えてほしいことが沢山ありますから・・・それに、僕の中に流れているものを試してみたかったんですよ」
 「・・・もしも生きていましたら、少しだけ昔話をして差し上げましょう」
 その言葉を最後にブロム先ほどの音撃波を再び放った。
 試すような言葉を残して、残った全魔力を放つブロム。そのすべての魔力に全力で答えるためにピートもまたヴァンパイアハーフとしてのすべての力を解放する。
 自分は半端なのではなく。ピエトロ=ド=ブラドーであると心に強く刻んで。
 『ダンピール・フラッシュ』父親から教わった唯一の技を解き放つ。

 互いの魔力は一瞬拮抗するが、それはすぐに崩れていく。

 その間わずか数十秒。
 
 すべてが終わったときたっていたのはピートであった。その前には力なく倒れ消えかかった姿のブロムがあった。
 「ブロム!」
 「・・・ピート様、大丈夫あなたなら―――――――――」
 黒い泡となっていくブロムを抱き、うなだれたようなピートに唐巣神父の声がかかる。
 体中ボロボロだが、急いで横島たちを追いかけなくてはいけない。
 何せ使い魔ですらこの力なのだ、冥子もかなりの力は持っているが、ブラドーはこれよりかなり強敵だろう。
それに令子とエミは、冥子と同等の力を持っている。そして、横島の実力は知っているが、彼は正規のGSではないのだ。これからの若者の未来をココで朽ち果てされるわけにはいかない。
 「分かっていますよ、先生。急いで横島さんのところへ向かいましょう」
 いままでの何かを吹っ切ったような返事が返ってきた。




 「やばい〜っ! 文珠もあと少ししか残ってないし。このままじゃやられちまう」
 ブラドーとの追いかけっこから十分近く経つがいまだに援軍が来る気配は見受けれなかった。
 「冥子さんッ、唐巣のおっさんッ、ピートッ、誰でもいいからきてくれぇ〜〜」
 「くそっ。ちょこまかちょこまかといい加減にあきらめろ」
 「誰があきらめるか〜〜ッ! これでもくらえッ」
 残り一桁になった文珠に『爆』の力を込めてブラドーに向かって投げつける。
 「甘いわッ!」
 文珠を後ろに向けて投げつけるが、走りながらのためにうまく狙いをつけられない。
 自分の背後で盛大な爆発音がするが、命中したかどうかを確認する余裕はない。
 「そう何度も食らうと思っているのかッ!」
 はるか上空まで霧の姿になったブラドーは、爆風に乗って横島の後方頭上に体を構築していく。
 「くそうッ! 何であたらんのやッ!」
 「霊力を圧縮して特定のキーワードで発動する技。厄介な技だが・・・・・・」
 にやりと牙をむき出しにしてブラドーは不敵に笑う。
 「当たらなければ意味ないわ〜〜ッ! そして何より、貴様ごとき人間の霊力をいくら圧縮したとしても何百年も前から生きてきたこの私の膨大な魔力を前にして、そう簡単に殺れると思うなぁ〜〜〜ッ!!」
 怪しく光るブラドーの瞳は、目の前を走る横島に向かってしっかりと狙いを定め、
 「くらぇ〜〜ッ!! ダンピールフラッシュッ!!」
 ブラドーの魔力が無防備の横島に向かって放たれる。
 悲鳴を上げる暇もなく横島が立っていた場所に『爆』の文珠と引けをとらないほどの爆発が起こった。
 その爆発は周囲に存在した草木をなぎ倒して砂埃を舞い上げる。
 「きゃはっはっはっはぁああああ〜〜〜〜〜。やったかぁ」
 はるか上空にそれを見下ろしながら横島がいたであろう場所を見下ろした。
 馬鹿笑いを続けるブラドーだが、その笑は次の瞬間に断ち切られた。
 「馬ぁ〜〜鹿。それはお前のほうじゃあっ!」
 これでもくらえ。といわんばかりの横島の声が響き渡る。
 振り返ろうとするが、その途中今まで感じなかったものすごい重力を感じてそのまま地面へと落下していく。
 落下していくブラドーは、月を背景に一本足の烏の足につかまった横島の姿があった。
 そして気づいた。
自分の近くに存在する『落』と書かれた文珠の存在に。
ブラドーの魔力が爆発すると同時に、その閃光と余波に隠れながらヤタを使い上空へ舞い上がる。そのままブラドーの背後に回りこみ、油断しきっている背中に『落』とかかれた文珠をほうりつけたのであった。
「よっしゃぁ! 俺はついにやったぜ・・・・・・・えっ・・・・・・」
 やったかと思った瞬間、眼前にブラドーの姿が霧の姿から人間の姿に変わり。有無を言わせず大地に向かって殴り飛ばされた。
 とっさに霊力を全力で放出し、地面に向かって『軟』の文珠を投げつけたので致命傷は避けられたが、戦闘の主導権は完全にブラドーのほうに移ってしまった。
 「・・・いまのは結構痛かったぞ」
 今までのふざけた感じが抜けて、完全にぶち切れたブラドーが静かに横島の前に降り立ってきた。
 「ちょ・・・・・・ちょっとマジでやばくない?」
 誰にともなく呟いてみるが、その答えをくれる人は一人もいなかった。
 体中に冷たいものが流れてくる。
 冷静に考えてみると、霊力を覚えて一年もたたない自分が一人で、しかもこんな化け物を倒せるわけがないと思う。
 文珠を使えたとして、所詮自分はただの中坊。
 戦闘訓練も受けたが、ココまで規格外の相手と戦うことなど教えてもらっていない。むしろかなわないと思ったら逃げろと教えられた気がする。
 月光、日光にボロボロ修行を思い出しながら、考えたくもない結末が頭の中に描かれてくる。
 (ヤバイ・・・・・・殺される)
 周囲の霊波を探ってみるが、絶妙のタイミングで助けてくれそうな人はいそうにない。
 一歩一歩殺気を込めながら近づいてくるブラドーから逃げるように背後に後ず去る。 追い込まれた。背後にどっしりとした巨木がそれ以上進むことを許してくれない。
 「いまの貴様では私は倒せん」
 ブラドーのその言葉を皮切りに横島は最後の賭けに出た。
 「いけっ! 横島ローリングサイクロンハリケーンスペシャルッ!!」
 無駄に長い技名を叫ぶと、横島は全霊力をヤタに込めるて、月明かりに出来た影から神速の勢いでブラドーに向かって飛来させる。
 嘴を中心軸に、ヤタの体が壊れた扇風機のように猛スピードで回転していく。
 さらに嘴には『貫』とかかれた文珠が強烈な光を放っている。
 ブラドーはそれに対して今までのように体を霧状にして逃げるようなことはしなかった。自分の利き腕に自分の全魔力を集中して集めていく。
 「ダンピ−ルフラッシュッ!」
 今までにないほどの衝撃が周囲一面を襲う・・・・・・。
 巨木の後ろに回りこんだ横島は、ヤタから反響してくる痛みに意識が遠のく。
 (これで倒せんかったら・・・俺、マジで殺されるかも)
 ボキッ。と嫌な音がして自分の右手の感覚がなくなるのを感じた・・・・・・
 ボロボロになった自分の体に、『治』の文珠を使い砂煙の先を見つめる。。
 「今のはかなり痛かったぞ、小僧」
 「!?」
 絶望と呼べる声が響き、声の主の姿を発見する。
 ブラドーは右腕を失いながらもしっかりとした足取りでその場所にたたずんでいた。
 そして、さらに横島を絶望に追い込んだのは片翼をもがれて、無残に地面に転がった式神の無残な姿であった。
 ヤタとその式神の名前を呼びながら駆け寄るが、すでに影に戻る力すらも残っていないのかピクリとも動こうとしない。
 「人間にしてはやるが、貴様とは生きてきた歴史が違うのだ」
 相手もかなりのダメージを受けているはずだが、空から複数のコウモリがブラドーの体に舞い降り右手に集まっていくとその体は、徐々にもと通りに復元されていく。
 「いまのが貴様の最大霊力だろう。少しあせったが、これではっきりと力の差がわかっただろう」
 完全に修復された右手を動かして見せながら、ブラドーは再びこちらに向き直る。
 横島はいまだに来ない援軍に絶望を感じた。
 だから、このとき聞いた言葉はもしかしたら幻聴だったかもしれない。
 突発的に頭の中に響いてくる言葉、そして四つの文字。

『奇』 『荒』 『和』 『幸』

 四魂。『くしみたま』、『あらみたま』、『にぎみたま』、『さちみたま』四つそろって一霊となる。
奇魂、奇跡によって幸を与える。
荒魂、あらぶる魂は災厄を呼び、争いへと駆り立てる。
和魂、恵みはすべてに平和をもたらす。
幸魂、収穫をもたらす。
 
 その声に違和感は、感じなかった。
 自分と馴染み深い霊力を感じた。
 だから直感に信じるがままその声の主に対して四つの文字をこめた文珠を発動させた。
 目の前に瀕死の状態となるヤタに向かって。

 「貴様一体なにをしているッ!」

 横島の手から離れた文珠は互いに共鳴するかのように明滅し、一つに混ざり合いながら砕かれた霊体へと吸い込まれていく。
 四魂とは、壊れた霊核を修復するのにもっとも適した、いわば文珠の新たな可能性である。
 砕かれた霊片が再生するように新たな翼が生まれ、いままで一本であった足の両端に新たな足が生えてきた。
 一つだった目玉は水晶のように透き通り、その両端に新たな瞳が開かれる。
 それは神話に伝わる神獣『ヤタガラス』の姿であった。
 その姿が構築されると共に横島は体にいままで感じたことのないほどの疲労を感じた。
 体中の霊力がその式神に吸い取られていくように感じる。
 その力は六道家の式神と互角以上といっていいかもしれないほどの霊圧を持っていた。
 「なっ! なんだそいつはッ!」
 いままで余裕を見せていたブラドーにあせりの色が浮かぶ。
 「なんだか知らんが、これはもしかしたら勝てるかも知れんぞッ」

 いままでの絶望をひっくり返すほどの頼もしい力強さを感じさせる式神に向かって、横島は歓喜の雄叫びを上げる。

 このまま横島は、ヒーロー一直線という流れが始まるかと思われたときそいつはやって来た。

 けたたましいほどの銃声、そして響き渡る女性の声。
 「敵、霊圧照合・・・ピエトロ・ド・ブラドーと一致。霊圧80パーセントの低下を確認。これより殲滅に移りマス」
 上空から光速で飛来する何かはブラドーが霧になる時間も与えずに襟首を持ち上げ一気に上空へと放り投げる。
 「シルバーブレッド・・・フルバーストッ!」
 金髪の女性の右腕と左腕が突如割れて、何百もの銀の弾丸が上空に浮かぶブラドーに降り注ぐ。
 花火のように華麗にはじける銀を浴びて、ブラドーは星になった。
 けたたましい銃撃音とブラドーの悲鳴途切れると、上空からゴミ袋のようなものが落下してきた。
 完全沈黙したブラドーを確認すると、今度はこちらを振り向き、
 「霊圧照合・・・99.89パーセントの確立で横島忠夫と一致。私はアンタを助けに来た」
 長い金色の髪がキラキラと光っていた。



 それから程なくして、横島ははぐれていたメンバーとの再会を果たした。
 まず目に付いたのは、金髪女性に引きずられたブラドーと同じように無残な姿になった鬼道の姿であった。
 「鬼道、ブラドーに操られ、ミス冥子に危害を加えようとしまシタ。よって迅速に対処しました」
 ピンクのショートカットをした女性は、金髪女性と同じよなアンテナのようなものを頭につけていた。
 「やあ、横島君・・・無事だったようだね」
 ピートの肩を駆りながら歩いてきたのは唐巣神父だった。その横には見たことない黒マントの男が立っていた。
 「なあに。ワシが来たからには吸血鬼どもにでかい顔はさせんわ。はっはっはっはっはあ〜〜〜〜〜ッ!!」
 「やかましいはっ!? この馬鹿親父がッ!?」
 男の頭に金髪娘の拳骨が入った。
 「なにをするんじゃテレサッ! 痛いじゃないかッ!」
 そんな男を無視するようにテレサと呼ばれた女性は冥子の前に膝を折る。
 「以前空港ではこの馬鹿親父がとんでもないことをしでかしたようで申し訳ない。姉さんからその情報はバックアップされている。すまなかった」
 
 その後の話によるとこの親父ことドクターカオスは、もう一人の娘、アンドロイドのマリアと共に空港で冥子さんを襲ったことがあるそうだ。警察に投獄されていたのを六道家にその力を役立てることを条件に、保釈金を払ってもらい出てきたそうだ。
 その仕事の第一弾として、マリアの妹として造られたテレサを急いで開発して飛んできたということだ
 冥子さんは最初カオスのことを覚えていなかったが、しばらくして老人の姿になった男を見てやっと思い出したようだった。
 どうやら前金代わりに、冥香さんに渡していた文珠をいくつか提供してもらいその効力で若返っていたらしい。
 
 その後ピートが、ブラドーを噛み秩序が崩壊したブラドーの魔力は消滅。操れていた美神さん達も元に戻った。
 ただ、なぜか鬼道はブラドー島に着いてからの記憶が、一切抜け落ちているようで、元に戻った美神さんに再びしばかれていた。
 

 テレサをメンバーに加えた六道除霊事務所はこれからさらに騒がしくなっていくことだろう。


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