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横島、逝きま〜す!

除霊?ですか?(後編)


投稿者名:担当V
投稿日時:07/ 2/14

穏行。

気配を断ち、相手から自分を認識させなくする術。

ってそんな高等な穏行を使えるのは余程の達人か、高度な術者か。

基本的に霊能者が穏行と言った場合、気配と霊力を消し去ると言う意味合いに取る。

俺も訳あって、現在必死に穏行の実施中。

・・・とは言っても、俺の様なヤツは抜き足、差し足、忍び足〜♪が関の山だけど。

パタン

細心の注意を払い、部屋のドアを閉める。

・・・どうやら成功したらしい。

誰にも見咎められることなく部屋の外に出ることに成功した。

これも偏に、いつもの辛い苦行(主に覗き)の成果の賜物と言えよう。





第6話 除霊?ですか?(後編)





☆★☆★


「横島っ。横島ぁ?・・・変だな、何処言ったんだ?」

陰念が俺を探す声が聞こえる。部屋の外を見られるとやばいっ!

俺は、足音を立てない様に細心の注意を払って部屋の前からエレベーターホールに移動する。





俺は陰念が小用をしている間に部屋から忍び出た。

師匠は相も変わらず温泉に入り浸っているので気にしなくても大丈夫。

目的はただ一つ。

昼間のナミコさんとの約束を果たし、むふふで甘い夜を・・・。

(約束を!契りをっ!ああ。嬉し恥ずかし初めての・・・。大人に!大人になってまうんかっ!18歳未満立ち入り禁止な展開なんかっ!」

俺の頭の中からは除霊のことなんかすっかり消え去っていた。

別れ際に聞いていた彼女の部屋は1階の奥の部屋だった。

エレベーターから降り、歩いていく。

本当はスーツでビシッと決めて、花束でも持って行きたいところだが。

なにせ今回俺が持っている服はデニムの上下か、拉致された時に陰念が持って来てくれた胴衣だけ。

流石に胴衣でお伺いは出来ないので、必然的に昼間の服と変わらないデニムの上下となった。

・・・緊張する。

昼間に話しをした時の何倍も。

部屋の前に着いた時には、喉はカラカラでガチガチになってしまっていた。

いかん。こんな事では。


ス〜。ハ〜。


深呼吸して呼び鈴を鳴らす。

パタパタ・・

スリッパで駆け寄ってくる音が聞こえると、直ぐにドアが引かれる。

そこにはピンクの胸元の大きく開いたイブニングドレスを着て微笑んでいるナミコさんが居た。

昼間のピンクのビキニを着たナミコさんは可憐だった。

だけど、このイブニングドレス姿のナミコさんはとても綺麗で、その胸元を飾る金のネックレスが大人の雰囲気と色気を漂わせていた。

「いらっしゃい(ハート)」

「ど、どーも。」

ぬぁぁぁ!!もっと気の利いた台詞は出ないのか!

見とれてしまって、思う様に言葉が出なかった。

俺の内心を見抜いた様にナミコさんがくすりと笑い。俺を部屋に招き入れる。


ガチャン


ドアを閉めると俺に向き直り

「来て、くれたんですね。」

濡れた瞳でそう呟く様に言った。

その表情に捕らわれ、危うくルパンダイブするところだったが。

「ルームサービスを頼んだんです。お食事まだですよね?一緒に召し上がって?」

そう言って彼女がテラスに出て行ったので未遂に終わった。

危ない。危ない。自重しなくては。

「横島さん?」

呼ばれて、ハッと我に返った。いけねぇ。

「ええ。今、行きます。」

テラスには白いクロスを掛けられた上品なテーブルセットが設置されていて、その上には採れたてなのだろう。一目で新鮮と解る魚介類がお造りになっていた。

2人でイスに着き、互いのグラスにワインを注ぎ、ナミコさんを見る。・・・2人の目が合う。

『君(あなた)の瞳に乾杯!』

期せずして同じ台詞だった。



☆★☆★



「そうそう。で、そのオカマが言ったのさ。」

「それで?それで?どうなったんです?」

食事をしながら歓談する。ちょっと酒が廻って来たかな?

・・・え?年齢?

師匠も言ってたぞ。「男とは生まれた時から漢(おとこ)であり、20歳以上なのじゃ!だから本屋で買ってもいないアレな本のビニールを破くことが出来るし、コンビニでは女性の店員に表紙を向けてアレな本を買えるんじゃ!!」って。

魚介類が満載のルームサービスを食べながら、次第に話題も尽きて来た頃。

「そうだ。昨日の夜なんだけどね。」

俺は昨日の夜の出来事を話そうと思った。

別に霊の話しをして怖がらせようとか、そう言う気持ちは無かった。

ただ、一度沈黙してしまったら話しが続けられそうにない。・・・そう考えると、とっても怖かった。

「ええ。」

「・・・って訳なんだよ。」

「・・・・。」

ん?どうしたんだ?急に俯いてしまって。・・・あ。

「ごめん。怖い話しだったね。無神経だった。」

「ううん。そうじゃ、ないんです。」

首を振って否定するナミコさん。そして、

「横島さんに・・・聞いて欲しいことが有るんです。」

そう言った彼女は思い詰めた顔で身を乗り出し、ワイングラスに手を引っ掛けた。


ぱしゃんっ!・・「きゃっ!!」


ワイングラスが倒れ、零れたワインがイブニングドレスに掛かった。

「おっと!大丈夫?」

俺はナプキンを持って近付こうと「っつ!来ないでっ!!」

強い調子で言い放つナミコさんだったが、直ぐに

「だめっ!変化が解ける!!」

悲鳴に近い声を上げると、その足が『ボウンッ』と音を立てて・・・

「し、尻尾?」

そこに有ったのは、先程までのスラリとした足ではなく魚の尾びれを彷彿させる尻尾?だった。

「あ、足に水が・・・。見られてしまいましたね。」

ナミコさんが悲しい瞳で俺を見詰める。

その瞳は拒絶されるの嫌がっている様な、でもそれを受け入れている様な瞳で。

「乾かそうっ!!乾かせば戻るだろうっ!」

「えっ?」

俺の言葉に目を点にしてビックリしているナミコさん。

いや、俺も正直ビックリしてるけど。

でも、彼女は女の子だ。・・・まあ、尻尾は有るけど。

そんなの些細なことだろ?

(それに、あんな目をされたんじゃなぁ。)

この人のあの悲しい瞳を見たくない。それが今の俺の行動理由になっていた。

「・・・わたし、私が人魚でも気にしないんですか?」

上目遣いでおずおずと尋ねてくる彼女。

「君は、君だろ?・・・君の悲しい顔を見たくない。」

俺は、あるがまま、感じるままそう言った。・・・心の底からそう思った。

「よ、よこし「横島ぁぁぁぁ!!!!!!」


がしゃぁぁん!!!


「い、陰念!?」

上の階のガラスを突き破って飛び降りて来た闖入者こと陰念。

俺と、ナミコさんの間に割って入り・・・俺を庇う様に前に進み出る。

「その女から昨日の気配がする!そいつが昨日スライムを持ってたヤツだ!」

そして、信じられないことを言い放った・・・足は、ガクガク震えて顔は真っ青だが。

「なにを言ってるんだ!?」

信じられない。信じたくなかった。

陰念が、恐怖のため妄想してるんじゃないかと。

・・・いや。ちょっと考えれば、解ったはずなんだ。

『スライム』最弱の妖怪。

師匠曰く、余りの霊気の弱さに『見鬼くん(白竜寺は高価な除霊具のため未購入)』と言う高度霊体感知装置ですら感知しないことが多々ある。と。

それにも係わらず、GS見習いである陰念レベルの霊能者が『変な気』=『妖気』を感じたと言う事実。

即ち、あの時、そこに『スライム』以外の妖怪が居たのは確実。ということ。

つまり、陰念の言ってることは・・・。

「そうよ・・・。スライムを使って騒ぎを起こしていたのは・・・私よ。」

ナミコさんは悲しい瞳で呟く。

「な、なんで。」

「横島ぁ。離れろ!」

ビビッたからか、非常に好戦的な陰念。

スライム用に持ってきたのだろう。弐萬円と書かれたお札を持ってナミコさんに飛び掛かろうとする。


「あ、危ない!!」


「きゃぁぁぁ!!!」


身体が勝手に動いた。

陰念とナミコさんの間に割って入り、ナミコさんを包み込む様に抱き締める。

「!!」


ぼぐぅ!!


ナミコさんを抱き締めたまま、背中に鋭い痛みと、鈍いお札の爆発音を聞いた。

「な、なんで庇う!殺されるぞ!!」

陰念が声を上げる。

「綺麗なおねえちゃん庇って何が悪い!!それに、この人は俺達を襲ったりする人じゃない!もし、もしも本当にスライムを使っていたとしたら、理由くらいは聞くべきだっ!」

俺も、負けじと声を上げる。あ、やべぇ。背中痛ぇ。

ナミコさんは無事か?

彼女は俺の腕の中で恐怖のためか目を瞑って震えていた・・・。って!

自分がナミコさんを抱きかかえているのを意識してしまって直ぐに離れようと、


ふら


あ、あれ?バランスが・・・。そうか、背中の傷が。

「痛てぇぇぇぇ!!」

「く、くそっ!馬鹿野郎っ!いくら安物のお札でも、当たり所が悪ければ死んじまうんだぞっ!」

そう言いながら、懐からヒーリング用のお札を探す陰念。・・・どうやら震えているナミコさんを見て、彼女は俺達に危害を加える心配が無いことは解って貰えた様だ。

ナミコさんはバランスを崩した俺を逆に抱きかかえて支えてくれた。

「・・・ばかですよ。人魚の私なんかをかばって怪我するなんて。」

瞳に大粒の涙を湛えながら、震える声で俺の耳元に囁くナミコさん。

「へへ。男の子だからね」

心配させまいと、笑いかける。

(そうか〜。人魚なんか〜。)

ああ。そうか。だから深い海の様な瞳なんだ・・・。自分でも場違いなこと考えてるなとは思うけど・・・。

「くっ!おいっ!横島を寝かせろ!ヒーリングが出来ねぇ!」

ナミコさんは陰念の言葉に従い俺を支えたまま床に座る。・・・俺の頭を女の子座りした尻尾の上に乗せる。あ、これ膝枕じゃん。・・・尻尾だけど。

俺は、陰念のヒーリングを受けながらナミコさんに事情を聞く。

「なんで、スライムを嗾けたのか、聞いても良い?」

今にも落ちそうな涙を湛えた瞳で心配そうに俺を見ているナミコさんは、

「・・・私ね、ちょっと前に旦那に三行半叩き付けたのよ。」

そう、ぽつりぽつりと語り始めた。



「あの人は、自分のことばっかりで、綺麗な人に目が無くていつも浮気して・・・。」

「でも、子供が出来たら変わるかな?って思ってた。」

「実際は全然変わらなくて、前より浮気して・・・」

「いやになったのよ。自由な人魚の私が半魚人のあの人に束縛されている気がして!」

「あまつさえ半魚人のシキタリとかで雁字搦めで・・・」

『半魚人!?』

思わず叫びそうになるのを必死で堪える。陰念も俺と同じようだ。

「ちょっと懲らしめてやろうって思って、ずっとこのホテルに人間として泊まってたのよ。」

「最初は全然様子も見に来なかったのよ。・・・探しもしなかったのかな?」

「でも、暫く前に何度か様子見に来たみたいなの。」

「私は隠れてて・・・あの人が本気だったら見つけてくれるだろうって。」

「でも、6〜7日で来なくなったわ。」

確か一週間程で退治されたんだよな。『半魚人』

俺と、陰念は視線を落とす。やるせない気持ちで一杯になる。

独白は続く・・・。

「それからよ。」

「この近海を探しても陸を探しても旦那も子供も見つけることが出来なくて・・・」

「だから、ちょっと悪戯したのよ。見つけて欲しくってね。」

何時しかヒーリングは終わっていたようだ。

俺は後ろ髪を引かれる思いで身体を起こす。

・・・伝えるべきか、否か。

迷っている俺の瞳を見て、涙を流しながら彼女は言う。

「昨日の夜、あなたに見つけられて解ったのよ。・・・もう、あの人はココには来ないって。」

「だから。今日。あなたに全てを話して。終わりにしようって。」

「捨てたつもりが、捨てられてたんだって。あの人にとって、私なんて大した女なんかじゃなかったって。」

「きっと、子供達を連れてどこかに移住したんだわ。・・・だから、だから。わた、し。私・・・」


う、うわあああああ!!!


そこまで言って我慢できなくなったんだろう、俺の胸にしがみついて泣いている。

俺は、彼女の頭を撫でてあげることしか出来なかった。

俺の頭の中で彼女の話と、師匠に昨日聞かされた話がグルグル回る。

「半魚人を退治した。」「半魚人のあの人」

退治、退治、退治。

退治退治退治退治退治退治退治退治退治退治退治退治退治退治・・・・


もぞっ・・・ハッ!


ナミコさんが身動ぎした感覚で我に返った。

陰念と目が合う。陰念も混乱している。

どうして良いか解らないのか、成り行きを見守るようだ。

「・・・ありがとう。」

顔を上げたナミコさんが綺麗な笑みを浮かべて言う。

「・・・これぐらいお安いご用ですよ。」

(相変わらず気の利いた台詞の一つも言えないのか!俺ってやつはぁ!)

「まだ、全部ふっきれたわけじゃないけど、あなたには感謝してるわ。人間でも良い人はいるんだって解ったから・・・。」

そう言うと、変化して尻尾を足に化えて俺の側に来て顔を寄せ、


ちゅっ


頬に柔らかな感触。

「スライムは私がちゃんと連れて行くから・・・。」

「じゃあね!また、どこかで合いましょう。」

呆然とする俺達を残し、笑顔で手を振った彼女は海に向かって走り去って行った。

宙に涙の粒を振りまきながら・・・。



☆★☆★



その後、師匠には「俺と陰念2人でスライムを発見。陰念のお札で退治した。」

そう説明した。師匠もお札1枚で仕留めた俺達を褒めてくれて「弐萬円の札と回復用のお札で仕事を完遂。しかも湯治にもなったわい。」と喜んでいたが・・・。

帰りの車(霊柩車なんだよ!)のトランクにすし詰めにされながら、俺は今回のことを考えていた。

横を見ると、同じくトランクに入れられている陰念は既に夢の中に旅立っている。

脳裏には別れの時の笑顔が焼き付いている・・・無理矢理作ったって一目で解る笑顔で。大粒の涙を抱えたままの瞳で。それでも明るく「じゃあね!」って言った彼女の笑顔が。

結局・・・俺は、言えなかった。

旦那さんが既に殺されているかも知れないって。

子供達も・・・多分。

俺達の前に依頼を受けたGS。・・・業界内で『最高』との呼び名の高い人だそうだ。

なんで?

なんで話を聞いてやれなかった!

半魚人は誰にも危害を加えなかったんだろう?

人語を解し、意思の疎通が出来たんだろう?


「なぜ殺した!?」


そして、自分は莫大な報酬を受けて行っただと?

これが、これがGSの仕事かよ?

人魚だって、半魚人だって、意思の疎通が出来るのに!なぜ!!

相手が半魚人だからか?

人間じゃないからってか?




(ただの殺人じゃないか!!」




俺は・・・そんなGSは認めない。




・・・疲れていた所為か、急に眠くなる。

眠気に身を任せ、俺は意識を手放した。

意識が落ちる瞬間。

「悩むのじゃ。陰念。横島。」

そんな声が聞こえた気がした・・・。


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