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横島、逝きま〜す!

除霊?ですか?(中編)


投稿者名:担当V
投稿日時:07/ 2/12

「ぶわっかも〜ん!!」

師匠の雷鳴のごとき怒鳴り声がホテルの部屋に響き渡った。

「ひいぃぃ!!」

「すんません!すんません!かんにんや〜!こわかったんや〜!!」

思いっきり怯えて後ずさる陰念と床に這い蹲って土下座をして誤り倒す俺。

あの場から逃げ帰った翌日。

大浴場から帰って来た(一晩中風呂に居たらしい。)師匠に昨夜のことを報告した直後の事だった。

「最弱の妖怪を前に、怯えて逃げ出すGS(見習い)が居てなんとするかっ!」

更に続く怒鳴り声。・・・師匠はお説教モードに入ってしまった様だ。

いや。済し崩し的にGSに為るための修行はしてるけど。

別にGSになりてえ訳じゃないんスけど。

俺が門下生やってんのは、オカマに・・・いや、辞めよう。オカマの事を考えるのは。

何でって?

そりゃあ簡単なことさボーイ。

『ココ』に師匠と俺と陰念が居る。

じゃあ、今、『寺』は誰が留守番しているんだい?

ヘイッ!今頃向こうはブラザーソウル真っ最中サア!〜頑張れぇ!雪之丞ぅ!





第5話 除霊?ですか?(中編)





☆★☆★


「・・・まあ、よい。初めてならば、いた仕方ないところもあろう。」

っと、トリップしている間にお説教は終了の方向に向かっていたようです。

「横島!陰念!奴が出るのは、今までの被害を鑑みるに決まって夜。昼間の内に地の利を得るのじゃ。敷地内を探索し、奴が現れそうな場所に見当を着けるのじゃ。そして今

度は此方が待ち伏せして除霊するのじゃ!」

「・・・ホテル側にはワシが説明しておこう。」

そう締め括ると、手ぬぐいを持って部屋を出る師匠。

歩き去った方向から「最近どうも腰が痛くてしょうがないの〜。彼奴らの除霊に時間が掛かれば、ワシも湯治になろうというものじゃて。」と言う声が風に乗って聞こえて来

た。

「し、師匠〜。」

まさか、わざわざ時間掛かる様にしてません?

頬が引き攣る。まさかな。

「どうする?横島?」

嫌な想像をしてしまい、振り払って居たところに陰念から声が掛かる。

「いや。どうするって・・・言われた通り敷地内を見回るしかないんじゃないか?」

どうするか?と問われてもなぁ。有効な策なんて考えられないしなぁ。

ただ、気になるのは昨日の事。

彼奴は何だったんだろう?

不気味に発光する不定形物質・・・スライム。これは、まあ良い。

だけど・・・それを持っていたヤツが居た様な気がするんだが。

師匠は「目の錯覚じゃっ!・・・多分。」って言ってたけど。

「で、でもよ。もし、また出ちまったら・・・」

不安そうな陰念の言葉で我に返る。

「その時はまかせる」

俺じゃ何にも出来ん。結局は陰念しかいないのだから。

「い、いや。まかせるって」

なおも不安&不満な表情で呟く陰念。

「ここまで来たら腹をくくれ陰念。お前しかいない。がんばれー」

投げ遣りに応援しする。もちろん、台詞は棒読みだ。

「投げ遣りだなっおい」

投げ遣りでも何でも、取り敢えずは散歩がてら見回りをするとしましょうかね〜。

残念だが俺は拉致同然に連れてこられたため、海パンも無い。

だから、いつものデニムの上下で歩き回ることになる。

ちょっと今日の天気じゃ熱いかもな〜。



☆★☆★



降り注ぐ太陽。
美しい砂浜。
海水浴の少し季節には少し早いのだが、今日は晴天。
と、言うわけでやって来ましたリゾート海岸。
そして、目の前には綺麗なお姉さん達が。
んじゃ。一発、ナンパとしゃれ込みますか!

「ねーーカノジョー!!」

ザバア!

「ボクのがあるふれんどたちに、何か用かイ?」

「いえ・・・」

女子大生風のお姉さん2人に声を掛けた瞬間に海の中からムキムキのマッチョが現れやがった。

(喧嘩じゃぜってぇ勝てねえ。)

分の悪い賭は嫌いだ。戦略的撤退だ!

(ちくしょー!!女2人も連れやがってぇ!両手に花か!見せつけてんのかいっ!)

いや。まだまだ一組目に声を掛けただけだし、これからだ。

周囲を見渡せば季節外れではあるがこの晴天に恵まれて、結構な数の人がビーチに居る。

・・・これだけ居れば数打てば当たる!

「バーカ!!あっちいっちゃえ!!」

「けっこーです!!」

「やーだー!!」

「・・・・(無視)」

「きもい。」

「死ね。」

く、くそう。見回りを始めてから既に2時間。未だにまともに話しをしてすらいないやないかぁ!

既に男連れ以外の女の子には殆ど声を掛けてしまった。

ビーチの端から端まで移動するのは結構体力を使う。

それにこの天気。真夏とまでは行かないにしろ25℃は超えているだろう。

流れる汗を拭い取り、頬を叩いて気合いを入れ直す。

「よーし。今度はホテル方向に戻りながら声を掛けて行きますかぁ!!」

「・・・なあ。横島」

今まで俺の後ろの方を歩きながら霊視していた陰念が声を掛けて来た。

ん?なんで俯いてプルプル震えてんだよ?

「なんだ?陰念。今からが勝負なんだよ。邪魔してくれるな。」

「そうじゃなくて!なんで俺がまじめに見回りしてるってのに。何で、お前はナンパしてんだよ!!」

ああ、そのことか。・・・ま、マテ。無言で握り拳を震わせるのはヤメテ頂けないでしょうか?

なんだか陰念の怒りゲージが勝手に上がって行っているので、ここは言い訳しといた方が良いか。

「俺は霊視できねーし。」

ああっ!お、落ち着け陰念。話せば解る!

俺が1人でテンパッていると、陰念が真剣な目で俺を見詰め言う。

「横島が霊視出来ないことは良いんだ。向き不向きってのがあんだろうし。」

と、ありがたいお言葉。なに?じゃあ、ナンパしてても良いんじゃない?

・・・ってか、さっきの陰念の怒鳴り声で周りの人達が何事かとこっちを伺っているのが恥ずかしいんだが。

俺の考えを余所に陰念は俺を見詰めながら言葉を続ける。

「昨日みたいに会っちまったら、俺がこえーだろう!!・・・お願いだ!そばに居てくれ!!」

なっ!!?

こいつ!何を口走っておられますかっ!!

「ちょ、陰ね「お前が居てくれないとダメなんだよ!!お前じゃ無いとダメなんだっ!!」


ひゅー


(ああっ!周りの目が、目がーーーー!!)

周りのこっちを伺っていた人達から白い目が向けられる。子供連れの親子がパラソルを片付けて場所を移動していく。

やめて!そんなケダモノを見るような目は止めてぇぇ!!



うわあああああん!!



俺はいたたまれなくなって逃げ出した。

ああ、誰かボクに優しくしてよぉ。

「あ、ま、待ってくれぇぇ横島ぁ!何で走って行く!?俺を置いていくなぁ!」

陰念・・・。君は自分が何を口走っているのか一度よく考えてくれないか?



☆★☆★



「うう。所詮俺はこんな役回りなんやぁ。」

陰念を撒いて、ビーチの外れまで走って来た。

「女の子の一人ともお話できないんやぁ。」

やべぇ。涙が止まらない。

砂浜に座り込んで海を眺める。雲一つ無い空と、何処までも広い海を見ていると涙が止めどなく流れ出て、

「泣くもんか・・・!泣いたりするもんか!」

体育座りして膝に顔を埋めて涙を拭く。

「こんにちは。」

不意に上から女の人の声が降ってきた。

「え?」

顔を上げる。其処にいたのは、ピンクのビキニにシャツを羽織った年の頃18〜9才位。ロングヘヤーの可憐な女の子だった。

「ここ、いいかな?」

彼女はそう言うと俺の隣に座る。

「お一人ですか?」

・・・え?なに?俺!?

いきなりだったので解らなかった。いや、理解出来なかったって方が正しい。

俺に声掛けてくれてんの!?・・・この可憐なお嬢さんがっ!?

「お・・・俺ッスか!?」

思わず自分を指さし彼女に確認する。

「はい。」

彼女は俺を見てニッコリと笑った。

その笑顔が凄く可愛くて。

(し、信じられんっ!自分のことながら信じられない!)

何時もの俺だったらこの笑顔を見た瞬間に飛び掛かっていただろうことは想像に難くない。

だけど余りにも唐突な展開だったからか、この状況について行けない。・・・これは夢か?

陰念に傷付けられた俺のピュアなハートが自分を慰めるために見せている幻なのか!?


ぎゅううう〜!!


ホッペタを抓る。い、痛てぇぇぇ!ゆ、夢じゃない!

「くすくす。面白い方ね。」

手を口元に当てて、ころころ笑う彼女。

「私、ナミコといいます。」

「お、俺。横島!横島忠夫ッス!!」

(キタキタっ!!これは、最高のラッキーだぁぁ!師匠!連れて来てくれてありがと〜!)

彼女・・・ナミコさんは、俺の目をジッと見詰めて

「えっと、あなたがいろんな女の人に声を掛けているのが見えたから・・・。」

「ちょうど私も、お話相手が欲しかったの。」

「ご迷惑だったかしら?」

くすりと笑い小首を傾げる。その仕草が様になっていて、仕草一つ一つにドキドキする。

その瞳。深い海を連想させる優しい暖かさの黒い瞳を吸い込まれる様に見詰めながら、

「そ、そんな!も、もちろん。はい。全然迷惑じゃないですじょ?」

・・・緊張して舌を噛んだ。



☆★☆★



あれから、暫くの間たわいもない話しで盛り上がった俺達。

俺の下らない話しをとっても面白いと言って興味津々で聞いてくれるナミコさん。

最初は緊張していた俺だったけど、今はもう普通に接することが出来る。

ただ、ナミコさんの仕草が余りにも可憐すぎて飛び掛かってしまいそうになるのを自制するのが辛かったが。

「・・・でも、どうして俺なんかに?」

それが解らない。何で俺なんかに声を掛けたんだろう?

自分で言ってて思うが、俺なんかに声を掛けてくる女の子なんて今まで居なかった。

モテたことなんて無かった。

だから、聞きたかった。ナミコさんはどうして俺に声を掛けてくれたのか。

俺の馬鹿話で笑っていたナミコさんは、ちょっと沈んだ表情で俺から目を離す。

その目線が足下に落ちて行くのを見てしまった。

(しまったぁぁ!!何か触れてはならない物に触れちゃった!?)

ナミコさんは俯いたまま沈んだ声で問うてくる。

「横島さん・・・恋人はいます?」

「いえ。これっぽちも。」

暗い雰囲気を払拭する様になるべく明るく返したんだけど、ナミコさんは砂浜に視線を落としたまま続ける。

「私、ずっと付き合ってた人が居たんですけど・・・その人浮気ばっかりするんで別れて来たんです。」

「自分の気持ちも解らなくなって・・・。この人が本当に好きなの?って。」

ナミコさんが顔を上げ、互いに見つめ合う。

(彼女は、寂しさを俺で癒やそうとしているのか。)

とか

(この雰囲気。美味しすぎる!)

そんな考えが浮かんで来たけど、そんな下心はナミコさんの瞳を見た瞬間に吹き飛んだ。

その瞳は悲しみでいっぱいで、今にも涙が零れそうで。それが捨てられた小動物を連想させて・・・。

「そうなんか・・・悲しい思いをしたんだね。」

俺は、自然とナミコさんを抱き寄せていた。

少しでも彼女の悲しみを紛らわせてあげたくて。

「横島さん・・・。にこっ」

ナミコさんは抱き寄せられたことにビックリした様子だったが、涙を拭きながら笑ってくれた。

(よかった。俺も少し役にたったかな?)

そう思ってナミコさんを見たら目が合った。・・・俺達は互いの瞳から目が離せなくなって。

そのままナミコさんが瞳を閉じる。

俺も、目を「・・・・しまあ〜!よこしま〜!!」

遠くで俺を呼ぶ声がする。

ハッ!!

自分達が何をしようとしていたのか気付いた俺達は互いにそっぽを向く!

ああ。多分、顔真っ赤だな。

「よ〜こ〜し〜ま〜!」

(あの声。い、陰念?ちくしょう!良いところで!!」

「くすくす・・・。横島さん。声に出てますよ。」

え!?や、やっちまった・・・。

(幻滅されちゃったかな。)

そう思ってナミコさんを見るが、本当に面白そうにくすくす笑っている。

よ、よかった。嫌われたかと思った。

「あの・・・今夜、ホテルの私の部屋に来ませんか?」

なにー!!?

ナミコさんは俺の下心丸見えの叫びを聞いても、嫌悪するところか更なる爆弾を投下してきた。

「もっとお話したいし・・・。ね?」

いいでしょう?と笑いかけるナミコさんに俺は夢見心地のまま頷いたのだった。

「じゃあ、今晩ね!!約束ですよ!」

彼女は、とびっきりの笑顔で手を振るとホテルの方向に走って行った。


(キター!キター!!俺にも人生の春が!)


「はあはあ。探したぜ。横島」

陰念が俺の側に駆け寄って来た。

「・・・!?誰か他に居なかったか?・・・よこし、ま?」

俺の身体が怒りに震えているのに気付いたらしい。

「きさまー!!タイミングが悪いわー!!!」

俺は、陰念にヘッドロックを掛ける!

「なっ、ギブっ!ギブ!」

ちくしょ〜!!


後編につづく


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