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横島、逝きま〜す!

除霊?ですか?(前編)


投稿者名:担当V
投稿日時:07/ 2/10

走る!走る!一瞬でも早く。一歩でも遠く!

俺は深夜のプールサイドをホテルに向かって疾走していた。

周りの景色がぐんぐん後ろに流れていく。

かつてこんなに早く走った事ってあったけ?

「やばい。やばい!み、見てしまった〜!!」

「・・・まってくれ〜横島ぁ!」

遥か後ろから陰念の声が聞こえるが一切無視する。

俺達は、あのプールサイドの茂みに魅入られる様に入って行って・・・。

なんか『居た!』絶対なんか居た〜!


「はあ〜ん!!助けて〜!」


師匠の嘘つき〜!!!

除霊現場には連れて行かないって言ったやん。



・・・そう、今俺は陰念と2人で除霊に来ているのだった!





第4話 除霊?ですか?(前編)





☆★☆★


「横島。海に行くぞ。」

俺が本堂の師匠の部屋に行くなりそう言って拉致した師匠。

猿轡を着けられ陰念と師匠に連れてこられたのは海に面した一件のリゾートホテルだった。



ぷはぁっ!



「な、なんなんすか!いきなり拉致して車のトランクで3時間っちゅうのは!」

ホテルの一室で猿轡を外された俺は師匠に詰め寄る。

「まて、ちゃんと説明しよう。」

「うぅぅぅ。」

師匠の言葉に取り敢えず頷いて、椅子に掛ける。

「実はな。これから除霊を行うんじゃが・・・。」

神妙な顔で説明を始める師匠、って除霊!?

「除霊ッスか!」

う、俺の台詞取らんといて〜な。陰念。

「そうじゃ。ここのホテルからの依頼でな。・・・なんじゃ横島。不満そうじゃの?」

「う。だ、だって、俺、除霊には連れて行かないって言ったじゃないスか。」

俺の話にニッコリ笑った師匠は、

「あれは嘘じゃ。」


どーん!


そう言って下さいました。



師匠が説明して下さった依頼の内容を纏める。

このホテルは、以前に深夜に徘徊する人間大の魚の妖怪(そいつは所謂『半魚人』だったそうだ・・・)を他のGSに大金を払って依頼して退治して貰ったそうだ。

その後しばらくは問題もなく順調に営業を続けていたんだそうだが・・・最近になって、朝になると廊下が水浸しになっていたり、
シャワーからドロドロしたヘドロの様な物が出てきたりしたのだそうだ。

そこで、以前に依頼したGSの事務所に連絡したところ、

「こっちの事務所に依頼のあった件は解決していますわ。前のとは別物だから新しい依頼ってことになりますわね。」

と言われて馬鹿高い報酬を要求されたそうだ。

アフターケアとして対応して貰えると思っていたホテルとしてみれば、いくら腕は一流とはいえ法外な金額を出すことも出来ない。

そこで、GS協会を通してそれなりな値段で除霊を行ってくれるところを探したところ・・・白竜会が名乗りを上げた。

と言う事だった。

「なるほど。で、なんで俺まで連れて来られたのでしょうか?」

説明を受けてもなんで俺が連れて来られるのかが今一解らん。

霊能力の無い俺じゃあ足手纏いでしかないんじゃ?

陰念に目を向けると、俯いて黙って話しを聞いている。

「馬鹿者っ!良いかっ!GS協会からの事前調査報告によれば、除霊ランクはD。駆け出しのGSでも除霊出来る規模じゃ。しかも命の危険は全く無いと来ておる。・・・ならば、お主等の実戦形式の稽古にはもってこいじゃろう!それも解らんとは、・・・この馬鹿弟子がぁ!」

「し、師匠〜〜っ!!」

と、叫んでみましたが。

そうか〜。命の危険は無いんか〜。

じゃあ、俺は足手纏いだから陰念が除霊するのを後ろから見てればええんのやね。

なにせ俺ってばお札も満足に使えんからなぁ。

まぁランクDならお札を使うまでもないかもしれんけど。


〜除霊ランク〜

GS協会を通して依頼されて来る案件にはランク付けがされる。

これは協会に依頼があった時点で協会に所属する調査専門のGSが現地を調査し、その危険度・難易度に応じて付けるランクの事を言う。

ランクはS〜Eの6段階で付けられ、協会から仕事を回して貰うGSは自分の実力に見合った仕事を選べると言う画期的な方法なのだ。

んで、『ランクD』

これは霊障の規模が極めて小さく、対象の霊的レベルが低い物に付けられるランクだ。

どれくらいかって言うと、家の軒先に佇んで居る猫の霊を払って下さいって位のレベルだ。

正直、それで云千万の報酬を求めるGSが居るって方が驚きだが。

この案件の場合、

1 除霊の対象は現時点で人に危害を加えていないこと。

2 廊下が濡れている程度の霊障でしかないこと。

以上の条件からDになっているようだ。

師匠から追加の説明があり、対象はおそらく『スライム』。

スライムってのは低級で雑多な霊が集まって出来るエクトプラズムの固まりの様な物だ。

基本的には小動物なんかを溶かして吸収するしたりする様だが・・・人間だと火傷程度の傷を負うことは有っても死に直面するってことは、まず無い。

ってことで、陰念の霊力でも3万円以内のお札ないし霊力を込めた攻撃で消滅するだろうとのこと。

「良いか2人とも。油断はするでないぞ。では、ワシはホテルの風呂でノンビリして居る。片付いたら来るように。」

そう言って手拭いを持って大浴場に行ってしまう師匠。

(はあ。しゃぁない。さっさと陰念に片付けて貰って、浜辺でおね〜ちゃんでもナンパしましょうか!」

なにせ自分じゃ絶対に来れないリゾートホテルに綺麗な砂浜。

突然拉致されて連れてこられたことを差し引いても、この状況はおいしい!おいしすぎる!!

普段顔を合わせているのが、オカマやらマザコンバトルジャンキーやらだから俺の煩悩はショート寸前!

今すぐナンパの一つでもして、おね〜ちゃんと『良いこと』をしたいところだ。

「陰念。さぁ。早く対象を見つけてくれ。そして、チャチャっと片付けてくれ。」

「・・・・。」

あれ?返事がない。

そう思って陰念を見ると、ん?俯いてぷるぷる震えてる?

「お、おい。・・・陰念?」

陰念の覗き込んで声を掛けると、


がしぃぃぃっ!


いきなり俺の両肩を掴む陰念。


「無理だぁぁぁっ!除霊なんてぇぇ!怖すぎるぅぅぅ!」


「だああああああ!顔っ!顔のアップは止めてぇ!」



・・・涙目の陰念は本気で怖かった。



☆★☆★



「だって、幽霊なんだぞ!!怖いじゃんか!」

「いや。お前、怖いって。霊能力者なんだから見たことくらい有るんだろ?」

 部屋の隅っこで体育座りの陰念に問いかける。

「ああ、見たことくらい有るさ。」

ぶつぶつと呟く様に答える陰念。

「だったらどうして?」

「俺が霊能力に目覚めて初めて見たのが『俺を撥ねてびびって自殺したダンプの運転手』なんだよ!・・・しかも列車飛び込み。」

うあぁ。そりゃトラウマだな。

「しかも、目覚めた場所が病院のICUだろ?もう、右見ても左見ても。ううっ!ぐすっ!」

俺は何も言わずジージャンのポケットからハンカチを取り出し陰念に渡す。


ち〜ん!ずびっ!


「そう言っても仕方ないじゃんか。俺だって怖いよ。」

「横島も?」

う。その顔で打ち捨てられたような子犬の瞳をしないでくれ。

「当たり前だろ。俺なんか襲われたって逃げるしか無いんだぞっ!・・・いや。実際それ以外の選択肢が有っても逃げるとは思うが。」

そうだ。だって俺は霊力もお札も使えない。

例え、スライムに遭遇したって俺は相手に何のダメージも与えることが出来ない。

霊に至っては言わずもがな。触ることすら出来ないし。

「だってよぉ。だってよぉ。俺なんかが除霊っていってもよぅ。」

ええ〜いっ!俺だって怖いわ〜。だが、だがしかし。

(除霊せんとナンパも出来んやないかぁぁ!)

師匠のことだ。除霊が終わるまでは自由行動も出来ないだろう。

だが、逆に言えば陰念が頑張って除霊してくれれば明日の昼間は自由行動だろう。

海水浴の季節とはちょっと違うけど、まだまだチャンスはある。


陰念は相変わらず部屋の隅で丸まっている。

(う〜ん。どうしたもんかなぁ。なんとかやる気になって貰わんと。)

(ふ〜む。)


ぽくぽくぽく。〜〜ちーん!!


俺は壁を向いてブツブツ呟いている陰念から見えない様に、封印用のお札を一枚取り出して部屋に飾ってある絵画の裏の壁に貼り付ける。

「なあ。陰念?」

「脳味噌デロデロ〜。うわーいパックリわれ「陰念!!」・・・あ、あれ?横島?」

・・・逝ってたよ陰念。

「なあ。俺、思ったことあんだけど。このホテルさ前に一回除霊してるって言ったじゃん。」

「あ。ああ。そうだな。退治したとか師匠が言ってたよな。」

突然の俺の言葉に戸惑いながらも返事をしてくる。

「うん。でさ。これ、何だろ?」

そこで何とも無しに絵画の額縁を外す。


サー


あ、陰念真っ青だよ?

大丈夫かな?

いや。ここでたたみ掛けんと!

「あ。俺、やっぱ師匠に怒られるの怖いからさ。巡回くらいはしましたって言える様に散歩してくるわ。」

シュタッと手を挙げて部屋から出て行く。


「うあ、ああああああ〜!横島ぁ!!待って!待ってくれ!俺を、俺を1人にしないでくれ〜!」


夜のリゾートホテルに陰念の声が響き渡った。・・・って恥ずかしいんだけど。


☆★☆★


俺と陰念はホテルの屋外プールまで来ていた。
「なあ。陰念。こっちで良いのか?」

俺の肩を掴んで後ろに隠れている陰念に聞く。

「あ、ああ。ホテルの中には変な気配は感じなかった。」

ホテルの中を陰念を貼り付けたまま歩くのは正直、すっごく恥ずかしかったんで内心外に出たことにホッとしている。

それに隣でこんなにガクガク震えてるヤツが居ると逆に冷静になれる。

んで、陰念曰く

「ホテルの中には『変な気配』が無い。」

とのこと。

俺は、シャワーからスライムが出て来たって話しだったからホテルの何処かに居るんじゃないかと思ってたんだが。

と、言っても相手は妖怪の中でも最も低級で妖気も弱いスライム。

『変な気配』ってのが、どこまで信用出来るかは解らないとの陰念の話だったんだが・・・


ちょん。ちょん。


「ん?どうした?」

陰念が俺の肩を突くので振り返って、「って何だよ。真っ青だぞお前っ!」

さっきまでは幾らか落ち着きを取り戻した様で若干青いかな?って程度に戻ってた陰念の顔色が、また真っ青に。

陰念は真っ青な顔をしたままブルブルと震える指でプールの先にある海岸に続く茂みを指さす。

ま、まじ?

「あ。あああああ。あ、あそこに。な、なにかあるん?」

完全な裏声で尋ねる。

ガクン。ガクン。

壊れたロボットみたいな動きで首を縦に振る陰念。


ゴクン。


怖い物見たさなのか一歩づつその茂みに向かって歩いて行く俺達。

膝がガクガク震えてる。行きたくないのに。逃げ出したいのに。

足は勝手に進んで行き・・・。


かさ。かさ。


なるべく音を立てない様に細心の注意を払って茂みに入る。

「どっちだ?(ごにょごにょ)」

「あ、あっち。(ごにょ)」

もう、真っ白を通り越して土気色の顔で茂みの奥を指す陰念。

俺の心臓も張り裂けそうに『どくん!どくん!』言ってる。

それでも、身体は勝手に茂みを掻き分けて・・・。


そこには、


淡く。

発光する。

不気味な。

不定形の。

ドロドロを持った。

『何か』が、佇んで居た。




ぎゃああああああああああああああああっ!!!!!!!!




陰念の絶叫が轟く!

「せ、戦術的て、てててってったーーいい!!!!!!」

俺は、しがみつく陰念を振り払って一目散にホテルに向かって走り出す!

「あ、ああああ!ま、待ってくれ〜!行かないでぇぇ!横島ぁ!」

遅れること数瞬で陰念も走り出した様だ。



もういやだぁ!!




中編につづく。


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