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横島、逝きま〜す!

陰念さん。いらっしゃ〜い。


投稿者名:担当V
投稿日時:07/ 2/ 6

「・・・あ、あれ?ここは?」

俺は母屋にある和室で目覚めた。

確か、雪之丞に殺されたんじゃ無かったのか?

さっきまで三途の川の向こう岸で死んだばあちゃんが手を振っていたはずなんだが。

・・・どうやら生きているらしい。

そう言えばあの時の俺、霊力を使ってたんじゃないのか?

あの時の不思議な感覚を思い出す。

あの瞬間確かに俺の右手に熱い何かが集まって来たんだ。

(・・・出ろ〜出ろ〜でろ〜〜。」

ジッと右手を見たり意識を集中してみるが何の変化もない。

そうだよな。俺なんかに霊力が扱えるはず無いじゃん。・・・きっと雪之丞が手加減してくれたんだろう。

そう考えたら不意に雪之丞に対して怒りが沸いてきた。

一般市民の俺に危害を加えようとするとは・・・あいつマジでバトルジャンキーやな。

取り敢えず道場に行ってみよう。んで、あいつが居たら一言言っておこう。

喧嘩じゃ勝てんからな。取り敢えず師匠とオカマに言いつけちゃるっ!

・・・そこはかとなく後ろ向きな俺でした。




第3話 陰念さん。いらっしゃ〜い。




☆★☆★


「包帯じゃっ!勘九郎!」

「これで最後ですよぉ!ああっ!こっちの傷口が開いちゃったぁ!」

「むうっ!ならお主のサラシでもフンドシでも構わん!早く血を止めねば。」

「はい!・・・ヌギヌギ〜。」・・・「よし、こっちの傷はOKね。」

・・・道場に入ると其処は修羅場でした。

道場の中心。そこに師匠とオカマがしゃがんで人間くらいの真っ赤な物体に包帯やらフンドシを巻き付けている。

「な、なにやってんすか?」

その光景に退き気味ながらも声を掛ける。


ギロ!


(ひぃぃっ!)

「か、かんべんやぁぁ!見る気は無かったんやぁぁ!」

逃げ出そうとする俺をオカマの声が引き留める。

「話しは後よっ!包帯が足りないのよっ!探してきてちょうだい!」

「・・・へ?」

言われてよくよく見てみると真っ赤な物体は血だらけの人間であることが解った。

(やべえ。あんなに血が流れたら死んじまうぞ!)

「了解っ!直ぐに探してまいります。」

そう言って道場を飛び出す。

包帯、包帯ね。道場にはもう無いだろ?

だったら救急箱も道場にしか備え付けてないんだから探したって出てこないよな。

(・・・清潔なタオルとかなら代用出来るだろう。)

流石に師匠達も動転していたようだ。



「ふう。これで大丈夫じゃろ。」

「ええ。そうですねお師匠様。」

汗を拭きながら安心した表情の2人。その間には包帯だらけの人間。

「何があったんすか?」

俺が聞くとオカマが俺に詰め寄る。

「こっちが聞きたいわよぉ!凄い霊力を感じたと思ったらこの子が降ってきたんだから!」

と、包帯だらけの人間を指さす。

「うむ。全くじゃ。それでなくとも評判の悪いこの寺じゃ。ここで人死になんか出た日には査察を待たずして取り潰しじゃろう。」

(評判悪いのはご自分の所為でしょうに。)

2人から話を聞くと、除霊の仕事を片付け白竜寺まで帰って来たところで寺の方から凄い霊力の波動を感じたそうだ。

急いで石段を登ろうとしたところに空からこの人間が降ってきたそうだ。

取り敢えず瀕死っぽかった人間を持って寺まで上がってくると山門の前で俺が倒れていたので保護。

幸い俺には外傷とかがなかったから布団に寝かせて、道場で重傷人の応急措置をしていたそうだ。(師匠はヒーリングも使えるのだそうだ。)

で、何があったか説明を求められた俺は先程の状況を詳細に説明する。

・・・もちろん雪之丞の極悪ぶりは当社比20%増しでだ。

「そういえば雪之丞は何処に行ったんだ?」

雪之丞の姿が見えないのはおかしい。あの場で一番何ともなさそうなのは雪之丞くらいだし。

「雪之丞は見てないわぁ。・・お師匠様はぁ?」

オカマが師匠に聞くが師匠も首を振るばかり。

う〜ん。あいつの性格からして、怖くなって逃走って事はないと思うんだが。

「まあ、雪之丞は腹が減ったら帰って来るじゃろう。」

「そうですわねぇ。」

(それで良いのかっ?2人とも!一応、状況から見て殺人未遂の被疑者なんですが・・・彼。」

「ばれなきゃいいのよぅ。」

「うむ。もっともじゃ。」

頷き合う師匠達。・・・あんたら本当に良い性格してるよ。

「しかし、変ですよね。俺を殴ろうとしたのは確かなんですが・・・。何でこの人が血だらけで降って来るんでしょう?」

俺の上げた疑問に2人は顔を見合わせ、考えている。

まあ、考えても雪之丞が帰って来ないと分かんない話しだし、



どかんっ!



「よ〜こ〜し〜まぁぁぁっ!」

そこへ道場の扉を開け放ち雪之丞が霊力全開で入ってくる。

「あら?雪之丞。今、あなたを「さっきは油断したがっ!今度はそうはいかんっ!」

ボルテージMAXの雪之丞はオカマを無視してこっちに向かって来る。

「ね、ねぇ?ゆきの「まさか。あんな隠し技が有ったなんてな。俺もまだまだ修行不足だぜっ!」

「ちょ、ちょっと。私のはな「さあっ!第2ラウンドの・・・、


ブチッ!!


ごがあっ!!!


「ねぇ?私の話、聞く気がないわけぇ?雪之じょ〜う?」

一瞬で雪之丞に肉薄し鳩尾に一撃を入れているオカマが、にっこり笑って言う。

白目を剥いて気絶している雪之丞を見て、

(このオカマは絶対怒らせちゃいけない!!)

本気で思った俺でした。


☆★☆★


「雪之丞の話しを要約して横島の話を総合すると、どうやらあの人間はお前達2人で傷つけたと言うことじゃな。」

雪之丞から一通りの話しを聞いた師匠が俺に言う。

・・・その背の向こうで嬉々として雪之丞を縛り上げて引きずっていくオカマは見ないようにして。

「えっ!俺もっスか?」

俺もそのことには触れたくないので師匠の話に合わせる。

「ん〜!んん〜っ!!」

雪之丞、猿轡だからってそんな目で俺を見るな。俺じゃあ助けられん。

・・・後でワセリン持って見舞いくらいは行ってやる。

「さあ。楽しみましょうねぇ。ゆ・き・の・じょう。(ハート)「ん〜っ!!!んぐんぐうう〜〜〜!」・・・・パタン。

「うむ。つまりじゃ。お前は死の恐怖に際して無意識で霊力を右手に集めたんじゃろうて。」

「つまり、それが雪之丞の霊力を乗せた拳とぶつかって爆発。偶然訪れた人間を巻き込んだ。と言うことですか。」

「そして一緒に吹き飛んだ雪之丞も木に引っ掛かって気絶しとったわけじゃ。」

ちなみに、俺にあの場で周囲を見回す余裕は全くなったが、雪之丞は第3者が居るのは解っていたらしい。

その雪之丞の発言を聞いてオカマが『お仕置き』と称して雪之丞を連れて行ったのだが・・南無ぅ。

「そこの小僧も峠は越したし死ぬことは有るまい。お主にそれなりの素質が有ることが解っただけでも僥倖じゃ。」

(そ、そんな。俺に霊能力が・・・!はっ!まさかこのままヒーロー街道まっしぐらなのかっ!そして綺麗な姉ちゃんとのロマンスが〜!」


ばしぃぃっ!


「いってぇぇぇ!」

どこからともなく『ホワイト・ファング』を取り出した師匠が俺を打つ。ああ声に出てまったぁ!折角良い想像してたのに。

「横島ぁ!奢るなっ!まだまだお主は霊能の世界の入り口に立ったばかりっ!自分でもコントロール出来んのではそれは己の力とは言えんぞぉ!」

「し、師匠〜!!」

師匠のお叱りを受けるが、確かにその通りだ。

自分でコントロール出来ないのでは使い物にならない。

現に俺はあの時の熱い感覚を再現することも出来ないわけだし。

「これからは死に直面するような稽古もせねばならんかのぉ?」

「それはマジ勘弁ッス!」

師匠の物騒な発言に即行、断りを入れる。俺は痛いのも死ぬのも嫌なんじゃあ!!


☆★☆★


「よう。横島。」

「こんちは。先輩。」

昨日の雪之丞とのバトルから一夜明けて、白竜寺に来た俺を待っていたのは雪之丞と顔に傷跡のある男だった。

「?あんた誰?」


がくぅ


俺の問いかけにずっこける2人。う〜んなかなか良いずっこけだ。

「昨日道場に寝てた奴だ。」

(ああ。あいつ。雪之丞の暴走に巻き込まれた被害者ね。」

「なっ!暴走ってなんだよ!あれは、お前だって悪いんだろうっ!」

む?また声に出ちまったよ・・・。

「いや。だってあれはどう見たってお前のせいじゃん!見ろよっ!巻き込まれてこんなに傷だらけで」

と、男を指さして

「いや!ちげえって。これは元々だよっ!・・・多分。」

「あ、あの・・・」

「何処の世界に顔やら腕やら足やら傷だらけの男が居るっちゅうねん」

「それは居るだろ。探せば。」

「い、いやこれは・・・」

「これはユッキーによる被害。そう。そう決めた!」

「なんだよっ!ユッキーって!」

と、件の男を見るとしゃがみ込んで俯いている。・・・あ、地面に『の』の字を書き始めたよ。

「へへ。いいんだ。いいんだ。俺なんて、俺なんて。ぐすっ。」

うわっ!暗い!陰気過ぎだぞこいつ。

憤慨する雪之丞を差し置いて件の男に声を掛ける。

「あ、あ〜。なんて言うか。昨日はすまなかった。俺は横島。よろしくな。」

と、なにやら復活したようで起きあがり俺に挨拶する。

「今日付けで門下生になった陰念ッス。よろしくお願いします横島先輩。」

「お、おう。よろしく。って、あんまり顔近付けんといて・・・。怖いから。」


がが〜ん!


「いいんだ。いいんだ。俺なんて。・・・好きでこんな顔になったんじゃないやい。」

一瞬にして引き籠もりモードになる陰念君。

ああ。個性的すぎる人やね〜。もっと明るくないと人生楽しめないよ?


☆★☆★


で、雪之丞を交えて陰念(タメ年と判明のためお互い呼び捨ての方向で。)に門下生になった理由を聞いてみたところ。

「いや〜。半年ちょっと前にダンプに撥ねられて、目が覚めたらなんだか分けの分かんない力が使えるようになって。」

師匠が陰念に伝えた話だと、おそらく事故の臨死体験によって生来強かった霊力を知覚・コントロール出来るようになったのでは?って事らしい。

ちなみに顔等の傷はその時の事故によるものだそうだ。・・・ちょっとホッとしたのは秘密だ。

「ちょっと調子乗ってたらクラスの奴らから、やれ怖いだのキモイだの言われ始めて・・・しまいにゃ苛めてた奴らからも苛められるようになって・・・」


どよ〜ん。


ああ。それですっかり引き籠もりのいじめられっ子に転生したわけだ。

「自業自得だな。」

おいおい。それは禁句だよ雪之丞。

「んで。このままじゃいけないって思って。強くなって俺を苛めてた野郎共に復讐を。って・・・」

う〜ん。病んでる子やね〜。

「でも、此処に弟子入りして良かった。凄いじゃねえじゃか。雪之丞先輩のパンチの霊力なんてそこいらのGSなんかより強いんじゃね〜?」

キラキラと期待を込めた目で雪之丞を見て俺に言う陰念。・・・俺はあの時を思い出して身震いする。

「ああ。あん時は自分でもよくわかんねえうちに凄い力が出てな。」

「それを防御した横島もすげ〜よ。俺なんかいきなり爆発に巻き込まれて、死んだかと思ったよ。」

そうやな〜。あれを止めたらしいんだよね。俺。ぜんっぜん自覚が無いんだけど・・・。

「そうと決まれば横島。今からもう一度組み手を「やらんわ〜っ!!!!!」

なにが悲しゅうて死にかけなきゃならんの。

「でもよっ!俺は強くなりたいんだ!」

雪之丞・・・そこまで必死に強さを求めるなんて、いったいお前はなんのために、

「俺は誓ったんだ!俺を残して死んでしまったママに。強くなるって。ママ〜〜っ!!」

うわぁぁ。マザコンなんだこいつ。知らんかった。・・・退くな〜。

ふと陰念を見ると、奴もドン退きで引きつった笑みを浮かべている。

「弟子入りするところ間違えたかも、俺。」

うん。俺も激しく同意だ。

「はぁ。そんなに組み手がしたいんならオカマにでも頼めばいいんじゃな、い「言うなっ!言わないでくれぇぇっ!!俺はっ!俺はぁぁ!」

・・・地雷を踏んでしまったらしい。ああ。そういや昨日こいつはオカマのお仕置きを受けたんだっけ。

うあ。全身に鳥肌起ってるよ。

雪之丞昨日一体何があったんだ?

「雪之丞・・・。大丈夫か?ワセリン・・・要るか?」

「へへ。へへへへ。犬に噛まれたんだ。俺は汚れちゃいないさ。ねえ?ママ?ママ。そこに居るの?」

体育座りで影を背負ってしまった雪之丞。

「か、帰ってこ〜いっ!雪之丞〜!!」

「先輩〜っ!だ、だいじょぶっすか!」



境内に陰念と俺の声が虚しく響いたのだった・・・・・。





追伸

・・・稽古については、雪之丞、陰念が組で行う事に成った。(オカマはフリー)

結局、俺は霊力をコントロール出来るようになるまでは師匠にマンツーマンで教えを受けるのだ。

う。今日入門した新人に一瞬にして追い抜かれたよ。


へこむなぁ。


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