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山の上と下

23 山の麓、再び・後編


投稿者名:よりみち
投稿日時:07/ 1/15

23 山の麓、再び・後編

‘こいつの霊力って底なし?! 霊圧が低いからって言えばそれだけなんだけど‥‥’
暗くなり明かりが灯された御堂に入ったれいこは横たわるシロに霊力を送り続ける横島に驚く。

智恵と涼(それに寅吉)が出た後、『これも修行!』とシロの看病−傷口に霊力を一定の割合で送り込むこと−を押しつけたのだが、予想以上に役割を果たしてくれている。

少し見直そうかと考えつつ近づくとぶつぶつとつぶやく言葉が耳に入ってくる。

「助さん‥‥ ヤツメ姐さん‥‥ シロ様に”美神”さん‥‥ 智恵様‥‥ 摩利の姐御‥‥ おキヌちゃん‥‥」

次々に挙げられる女性の名前に(日頃の行いもあって)眉をひそめるが、真後ろに立っても気づかないほどの集中に何が重要な思案かと”ちらっ”と思う。

そこに「‥‥ やっぱり、智恵様! あの人が一番”凄い”よなぁ」と賞賛の言葉。

 『何が?』と聞き返そうとした矢先、

「ホント! ”美神”さんほどの歳の娘がいるのにあの大きさとハリのチチ! 柔らかそうでいて弾力のありそうなシリ! そしてすべすべで艶のあるフトモモ! どれ一つ思い浮かべるだけ‥‥」

「己の不愉快な妄想に人の親を勝手に巻き込むんじゃないっ!!」
一瞬でも期待したことの怒りを含め渾身の一発が横島の後頭部に炸裂する。

ばぎゃしゃ!! 顔から床に叩きつけられる横島。

さらに『止め!』とばかりにれいこは踵で打ちつけ顔をめり込ませる。

 しばらく痙攣を繰り返してからやっと横島は顔を上げる。すぐさま、
「かんにんや〜 仕方ないんや〜」と平蜘蛛のように土下座を繰り返す。
それから全身を申し訳なさそうに縮め、
「こ〜んなことやあ〜んなことを妄想するのが悪いのはよく判ってます! でも、霊力を出し続ける方法がこれしか思いつかなくて! だから勘弁してください、お願いします!!」

しどろもどろの言い訳かられいこは無意味に妄想に耽ったわけでないことを理解する。

 この男なりに霊力を高め出す方法を考えたのだろう。女性として容認しがたいものの効果はあったようだし、任せっきりにした負い目もあって怒りを鎮める。

 ただ、二度とそんな不届きなやり方を取らないよう、あと二・三発はシバこうした時、シロがうっすら目を開いていることに気づく。

手当をしてくれた人物がシバかれるところを見せるのも拙いかと『もう良い!』と横島に手を振る。
 何事もないかのようにシロに向かい「起こしてしまった?」

『今の騒ぎで眠るのは無理というもの』とシロは苦笑めいた視線で語る。
 その後、あらたまった表情をれいこに向ける。

言いたいことに気づいたれいこは横島に場を外すように申し渡す。

 言われるままに横島は外に。しばらくすると「入れ」と招かれる。

 中にはシロが質素な単衣を身につけた少女の姿で座っている。
 身につけている服は寅吉が女性陣の着替えにと持ち込んだもの。外に出されたのは、さすがに着替は見られたくないという事だろう。

「人の姿を取れるようになったんですね」と横島。
姿を変えられるということは回復を意味すると聞いている。

「月も出たでござるからな。もっとも未だ尻尾や髪と、十分とは言えぬ身でござるが」

‘なるほど’横島は心でうなずく。
 背中越しにちらちらと動く尻尾が見え髪も前頭部が赤毛で残りは白髪のままだ。

「それでもこれまでに回復できたのは横島殿の看病のおかげでござる」
シロは感謝を込めて深々と頭を下げる。

礼を言われることに慣れていない横島はあたふたと手を振り、
「そんな大仰なことは止めてください。『看病』っても”美神”さんに言われたように霊力を出し続けただけで何もしてないッスよ」

「それは謙遜というもの!」シロは心底そう思っている感じで応える。
「拙者ら人に在らざる者にとって一定の霊圧で霊力をもらうことこそ最良の看病でござるが、霊圧を保ち続けるのは、これでなかなかに難しき事。それをずっと続けることができるのは霊力を扱う素質に恵まれている証。以前、拙者に見せた動きといい、修行を積めば相当な”腕”になれる‥‥」

「礼を言うのはかまわないけどあんましバカを煽らないでよ」
 横合いかられいこは素っ気なく遮る。
「それと礼は済んだんだから、今度はあなたが出てちょうだい。ちょっとこいつと話したいことがあるんだから」



横島はれいこと二人という形に居心地の悪さを感じる。

美しい女性と二人きりなど願ってもない状況だが、十代前半は”守備範囲”外だし、何より少女の不自然な笑顔が警戒心を刺激する。

「‥‥ えーっと、何の話ッスか?」間が保たなくなった横島が口を開く。

「その前に私に何か言いたいことがあるんじゃないの?」

促された横島は少し迷うが、
「たしか、智恵様から摩利の姐さんたち戻ったら一緒に宿場に戻るよう言われたような気がするんですが‥‥」

指摘の通りで、摩利は一刻以上前にここに来ており、今頃は宿場への道を急いでいるはず。しかしれいこは母親の指示がないかのようにこの場に留まっている。シロの回復を待ってのこととも考えられるが、それも自分に担がせれば済む話だ。

 ちなみに摩利は寅吉が案内に立ったと聞くと帰りを待つとしてここに残っている。あと、乾分たちは摩利の判断で一人を残し全員宿場へ戻っている。

予想通りの質問という顔でれいこは、
「まあ、少しやっておきたいことがあったんでね。あんたがシロの看病をしてくれたんでなんとか仕上げることができたわ」

「で、何を仕上げたんッスか?」嫌な予感を感じつつ尋ねる横島。

「ここを襲う奴らを仕留める罠よ」れいこは物騒なことをさらりと言い放つ。

 予感が現実化しそうな台詞に横島は目眩を感じる。
「”美神”さん、まさか自分だけで死津喪比女をやっつけられるって思っているんじゃないでしょうね!」

「そこまでうぬぼれちゃいないわよ! だいたい、心配しなくても昨日の今日じゃ死津喪比女なりシロの親父さんが出てくることはないって。来るとすればそれより格下の連中、そいつらなら数がいても罠と私でお釣りが来るはず」
どこまでも自信たっぷりのれいこはさりげない口調で
「そこでアンタに頼みがあるんだけど、聞いてくれる?」

「『頼み』‥‥ ひょっとして、また、”餌”になれとか‥‥」

「そうよ! よく判っているじゃない」

「い、いやじゃぁ〜〜」間髪を入れず上擦った声と泣き顔で拒絶する横島。

「峠じゃ引き受けたじゃない。それといっしょ、同じコトよ!!」

「いったいどこがいっしょなんです?! 昨夜と今回じゃまったく違うでしょうが!!」

 前はおびき寄せるのは”ただ”の幽霊で、なおかつ涼や智恵が控えていた。しかし、今回、おびき寄せるのは死津喪比女ではないにしてもその手下でいるのはれいこだけ。これで『同じ』というのなら月とスッポンだって『同じ』だ。

真っ当な反応に軽く舌を打つれいこ。

横島は畳みかけるように、
「第一、そんな智恵様の指示に反することを手伝った日には『弟子入り』の話なんて吹っ飛んじゃうじゃないですか!」

 強気な反論にれいこは少し思案を巡らす。横島の背後につき自分の体を背中に押しつける形で抱きつく。

服越しではあるがそれなりに柔らかく暖かい感触に驚きつつも顔の緩む横島。

 れいこはその体勢のまま耳元に唇を近づけ、
「それじゃこういうのは? もし、囮の件を引き受けてくれるのなら私があんたを弟子にしてあげようじゃないの」

「で‥‥ 弟子に?! ”美神”さんのですか!」横島は意外な条件に絶句する。

「そう私の弟子! たしかに直弟子じゃないけど、師匠の師匠は師匠に同じって言うじゃない。だから結局は同じだし、お母さんの側ってコトも私が独り立ちするまでは同じでしょう。それに‥‥」

「『それに』‥‥?」作られた間に横島は無意識に息をのむ。

「判っちゃいると思うけど、あと五年か六年すれば私も立派に大人。私ってお母さん似でしょ。あなたの好きなチチやシリ、フトモモだって良い線いくと思うんだけどなぁ」
言葉と共にれいこは体をこすりつける。

 微妙に上下する動きに横島はれいこをふりほどくと壁にガンガン頭をぶつけわき上がった煩悩を鎮める。

肩で大きく息をする横島の背後でれいこは再度体を押しつける。
「どうなの? あなただってそう思うでしょ」

「そ‥‥そりゃ〜 もちろん! きっとお母さんに勝るとも劣らない”すげぇ”体になることは間違いないッス!!」

「でしょう。今、『はい!』って一言で弟子として、そんな私の身近にこの先ずっといられるわけ。少し我慢するだけでそれだけのモノがついてくるって悪い取引じゃないと思うんだけど‥‥ どう言うつもりはな〜い?」

「いっ! 言います! 言います! はいっ! はいっ! はぃぃぃい!」
 横島は裏返った声で何度も繰り返す。

「じゃ!」れいこは体を突き放す。
「弟子になった以上は師匠の言うことは絶対! さっ、”餌”としてする事を説明するからよく聞ききなさい」



「おう、犬神のお嬢ちゃん! もう体はいいのかい」
外に出ると手持ちぶさた気に暮れなずむ空を見ていた摩利が声をかける。

「まずまずでござる」気まずい顔で応えるシロ。
父が”神隠し”の一端を担っていたことに引け目がある。

そんなシロに摩利は屈託のない笑顔で、
「ご隠居から聞いたんだが、親父さんが災難だってな」

「そのことについては父が土地の方々に計り知れぬ苦し‥‥」

「それ以上はいいぜ。親父さんだって自分からってわけじゃねぇんだろ。まして娘のあんたが気に病むことはねぇ」
摩利は軽く手を振り謝罪を遮る。
「それと助けがいるんだったらいつでも言いな、遠慮はいらねぇからよ!」

「かたじけないでござる!」シロは心から頭を下げる。
 ご隠居たちもそうだがこのような人ばかりなら犬神族も”隠れ里”に引きこもる必要はなかったと思う。

その後、しばし雑談に興じる内にれいこが話があると呼びかけてくる。



すっかり暮れたとはいうものの満月を目前としそれなりに明るい空の下、街道を宿場に向かう三人がいた。
摩利とシロそれに残っていた乾分。れいこの提案により先に戻ることになったのだ。


先頭を黙々と歩く摩利。何事にも開けっ広げな摩利にしては珍しく不機嫌そうな顔をしている。

 というのも、形の上で十歳の少女と大して役に立ちそうにない少年を危険な場所に残してきたからだ。

 もちろん、それはその少女−れいこが望んだことであり、人外相手に”素人”であるこちらや怪我人−シロ−の危険、さらには足手まといということを考えれば、先に戻るという判断は適切だろう。
しかし『適切』と『正しい』は違うし、何より提案の背景に自分の手で手柄を立てたいという少女の功名心が透けて見えるのが気に入らない。


‥‥ ?! 摩利は唐突に足を止める。

 あれこれ考えてはいても数々の鉄火場を潜って得られた危険に対する予知本能というべきものは働いており、その本能が前に漂う怪しい空気を感じ取り激しく警告を発したのだ。

振り返えると人狼の少女も何かを感じ取った顔をしている。

 目配せにシロは軽く目を閉じ感覚を研ぎ澄ます。
「‥‥ 怪我のせいで判然しないでござるが、たしかに何か潜んでいる気配でござる」

「ちっ! こっちの出方が読まれたようだな」摩利は即座に状況を把握する。
「嬢ちゃん、普通には動けるんだろ。れいこちゃんの所にひとっ走り頼むぜ!」

「承知!」低い声で言葉短く答えるシロ。それが今の自分にできる精一杯だと判っている。

「で、てめえは嬢ちゃんの付き添いだ。途中、何が出るかは判んねぇから油断すんじゃねぇぜ!」

「合点!」と乾分。ふと顔に疑問符をつけ、「それで姐御は? どうするんですかい」

「あたしはここで張ってるよ。逃がすわけにはいかねぇからな」
そう答えた摩利は考える暇を与えないような急いだ調子で、
「何してんだ! 時間が惜しいじゃねぇか、早く行きな!」

その言葉に追い立てられるようにシロと乾分は道を戻り始めた。



 二人が去ったのを見届けた摩利は木の陰に身を入れる。
「さて、来るまで大人しくしてくれるかどうか‥‥ って、やっぱ出てきたか! まっ、行かなきゃ出てくるよな」

姿を見せた人影が足を速めつつこちらに来る。

 摩利は軽く息を吐くと腰からひょうたんをはずし秘伝の酒を一口あおる。
「くっーー 不味いっ!」

人がどう言おうと不味いと思ったことがない酒がやたら苦い。その味に顔をしかめつつも普段に変わらない足取りで道の真ん中に出る。

行く手を遮られる形の相手はいきなり仕掛けることもなく足を止める。

その余裕にかえって緊張が高まる摩利。しかし態度は気楽な調子で、
「えらく早いな。もう少し待ってると思っていたんだがよ」

「こう見えても鼻は利く方でな。娘が遠ざかったことはすぐに判る」

「『娘』ってことは、あんたがシロの親父さんかい?」
質問と言うより確認という感じで摩利。
‘深手を負って二・三日は大人しいと聞いていたが、見立て違いもいいとこだな’
とこの場にいない智恵たちに内心でぼやく。

それにしても、シロが待ち受けていたのが父親と気づかないで良かったと思う。出会っていれば、よほどややこしい局面になっていたはずだ。

一方、相手−犬塚はわずかに顎を動かし肯定すると、
「娘が世話になったのに免じ見逃してやる。さっさと道を空けるがよい」

「(い)やに義理堅いじゃねぇか。けどよ、ここで『はいそうですか』じゃあ、この”一文字”摩利の”漢”がすたるってもんでね」

「せっかくの命、無駄にするとはな!」無造作に踏み出した犬塚は腰の刀を抜き打つ。

飛び下がってかわす摩利、即座に木刀をかざし逆襲に転じる。

かん! かん! ‥‥ 乾いた音が数度響き双方が退く形で間合いが取られる。

犬塚はちらりと手にした刀に目を落とし、
「真剣に対しての木刀、意識はしておらぬようだがずいぶんと強い”気”を持っているな。それに”力”半分の拙者とはいえ互角に打ち合えるとは”腕”もたいしたもの。これまで拙者が戦った者の中でも十指に入る強さだ」

「褒めくれてありがとよ」素っ気なく応じる摩利。
「それより、本調子じゃねぇって言うんだったら引き返しちゃどうだい? 今なら勝負ナシってことで納めてやるからよ」

「主が我が娘を所望しておるのでな。そうもいかぬわ」

「で、娘を待ち伏せ追いかけるってワケか! ”瘤”がさせてるんだろうが、それにすんなり従うとは情けねぇじゃねぇか! 娘の方は、そんな親でも命を張って助けたいって願っているっていうのによ」

‥‥ 摩利の挑発に犬塚に動揺が生じる。

‘おや? どこかにまだ自分の心はあるのか?’と摩利。その心を励ますように、
「聞けば、人狼の中でも犬神っていえば大神の正当な末裔で、そん中でもあんたは一番なんだろ。その誇りと娘の思いを無駄にしちゃいけねぇ! ”瘤”なんざ吹っ切って見せてこそ”漢”ってモンだろ!!」

激しい言葉に打たれ身を翻そうとする犬塚‥‥
 が、次の瞬間、全身を震わせると体つき顔つきが一気に変容、二本足で立つ狼−獣人の形態に。威圧を込め腕を左右に広げる。その手には高密度の霊力で形成された”爪”が形成されている。

‘ちっ! どうやら完全に”イッ”ちっまったか!’
変容と共に増して濁った眼から摩利は起こった異変の正体を直感する。

 それまで曲がりなりにもあった意識が何者か−たぶん死津喪比女−に取って代わられたに違いない。

 重苦しく狂気を感じさせる”気”を身に纏った犬塚は大きく跳躍すると狼さながらに飛びかかる。

その激しさと鋭さは先のそれを大きく上回る。

 続けざまに放たれる”爪”の斬撃は受ける木刀−十数度の”出入り”をくぐり抜け、先の打ち合いでも傷がつかなかった−に深い傷を穿つ。また、かすめただけで鎖帷子が断ち切られ、着込んだ分だけ浅いものの血がにじむ。

『このままでは!』と判断した摩利は”間”を取るためにでたらめに蹴りを放つ。

それを余裕でかわす犬塚。あっさりと引いたのは次の踏み込みで仕留められるとの確信があるからだ。

同じ確信−次で自分が仕留められる−を持つ摩利は、
‘ふん! 強さだけが勝負の決め手じゃねぇってことを見せてやろうじゃねぇか’

腰に木刀を当てると居合いのような構えを取る。ただ利き手が腰に添えられているため普通の構えからすれば左右が逆になっている。

その構えの意味を探るように人狼の目が僅かに細められる。

その隙を突いて踏み込む摩利。
 木刀を抜くように振る形で投げつけ、同時に腰に添えていた拳を木刀を追う形で放つ。

牽制の木刀を軽く避けた犬塚は本命である拳に”爪”を向ける。
 次の瞬間、拳の軌道が予想とわずかにズレていることに気づいた。

 かすめる拳に代わりに”爪”が捉えたのは‥‥  拳に連なる形のひょうたん。
 手を腰に添えた時に紐に指を引っかけていたものだ。

 ”爪”によりひょうたんが割けると、中身−酒は勢いのまま犬塚の顔を直撃する。
 普通の人でも辟易する痛烈な匂いは感覚の鋭敏な人狼に取っては十分すぎる凶器となる。

「ぐわっあぁぁ!!」断末魔の悲鳴にも聞こえる叫びを上げ顔を押さえる犬塚。
 全身が切り刻まれたかのように身もだえ苦しむ。
 
「どうだい、秘伝の酒は! ずいぶんと”くる”だろう!!」
唯一の勝機と摩利は渾身の力を込めて殴りかかる。
「でぇああぁーー!! うわっ?! な‥‥何だ、これは?!」

 発した裂帛の気合いは驚きの叫びに変わる。

相手の服がずたずたに裂け、そこから幾本もの鞭状のモノが放たれたからだ。人の指ほどの太さのソレ−”ツタ”−は自体に意志があるように動き摩利の四肢や胴体に巻き付き動きを封じる。

‘コイツは‥‥ いったい?!’
もがきつつも摩利は”ツタ”の出所に目を向ける。

 それは半裸状態の犬塚の胸に張り付いた”瘤”で、その大きさは聞いていた三倍はゆうに大きい。その盛り上がった部分から十を越す”ツタ”が伸びている。本来は人狼の体にまとわりついていたらしく、なおかなりの本数が体を覆っている。どうやらシロが父親と感じ取れなかったのもこれのせいだ。

「この野郎!! 離しやがれっ!!」
 摩利は力任せに”ツタ”を振り解くか引きちぎろうと手足を動かすがどうにもならない。それどころか形状からは考えられない力で体を締め付けてくる。

体が宙に差し上げられたかと思うとそのまま人の背丈ほどの高さに。そこから地面に叩きつけられる。

ぐおっ!! ”ツタ”自体で多少和らぐものの衝撃で全身が軋む。

 さらに高く差し上げられ叩きつけられた時、摩利の意識は断絶した。


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