「―――おお?」
と、間抜けな声を上げながら、つるはしを振り下ろした。
周囲を見渡せば、特撮ヒーローが毎週、きぐるみ怪人との戦いのために確保しているような広々とした荒地で、建設機械ががーがーと騒がしく働いている。
タンクトップにニッカボッカ姿の、いかにも〜な自分の格好を見下ろしながら、はて今はいつ頃だろうか? と考える。
俺の人生で、こういうキツイながらも真っ当な肉体労働ってのは、実はあんまりない。
美神さんの事務所で働いていると、拘束時間が異様に長いせいで、他のバイトと掛け持ちなんか出来やしないのだ。そのくせ実入りは少ないし…自業自得だが。
「あの〜…」
「ん? なんです?」
不意に声を掛けられ、なんでもない風を装って振り返った先には、赤い髪に竜神の装いの小竜姫さま。
「ところであなたは帰らないんですか?」
「帰る……?」
疑問顔のまま問い掛ける小竜姫さまに、なんの話かわからずに口ごもる俺。
今がいつで、自分が何をしていたのか分からない。
毎回のことだが、自分の立場を掴むまでが一番困るんだよな…
「横島さん?」
「ああ、はいはい。え〜…帰るってのはどういう意味っすか?」
「え? あの、江戸のご自宅に、という意味ですが?」
「江戸?」
「はい、江戸です―――あれ? 江戸…ですよね?」
なに言ってんだこの人。
―――ああ、待て待てわかった。
つまり今は、美神さんが妙神山で影法師の修行をクリアしたところだ。
世間ずれしまくった小竜姫さまの知識と、労働者スタイルの俺が一つ場所にいるってことはそういうことだ。たぶん。
「俺が住んでるのは江戸じゃないっすよ。東京っす」
「あ。そういえば百年ほど前の内乱で江戸の幕府は倒れたんでしたね」
「いや〜。失念していました〜」と、照れ笑いで誤魔化す小竜姫さま。かわいいな、おい。
「あと、いつ帰るのかでしたね。―――そうっすねぇ〜」
今回は、正直微妙なタイミングだ。
時期的に俺は霊能力を使えないことになってるし、美神さんの事務所に関わってから、既にだいぶ経っている。
今から何か突拍子もないことをしても、あんまり流れは変わらない。
ぶっちゃけ、つまらないタイミングだ。
仮にいま事務所を抜けてもあんまり意味ないし、面白くもない。
アシュタロスの事件直前あたりに事務所を抜けると盛り上がるんだが、いまの俺が抜けても別に誰も困らないから、寂しいのだ。
おキヌちゃんはいつだって泣いて引き止めてくれるんだけどな…
「? 横島さん?」
「ああ、あと一週間ほどで帰りますよ。そろそろ学校に行かないと、卒業できませんし」
なにをするにしても、妙神山を降りないとはじまらないからな。
あんまり長居すると問答無用で婿養子になるし。
「わかりました。それじゃ、お給金はそれまでで」
「影法師のぶんと二人分でお願いしますね?」
「はいはい」と苦笑する小竜姫さまを見て、なんとなく閃いた。
今回は、メドーサに取り入ってスパイごっこでもして遊ぼう。
本来居る筈の、この時間軸の横島は? (サトシ)
逆行物でありますか!!
まだなんともいえませんが、がんばって続けてください。 (プロミネンス)