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悲しみの代価

語部(弐)


投稿者名:朱音
投稿日時:07/ 1/ 6

ジリリリリリリリ…カチリ

「ヴー」

無機質な目覚まし時計の音で、美神は目を覚ました。

いつもであれば、朝日と共に目覚め。
熱いシャワーを浴びてから、今日行う予定の仕事の確認とこれから行う仕事を決めて。
……。

「めんどくさい」

無駄に普段の事を考えてしまった為に、憂鬱になってしまったようだ。

美神が目覚めた場所は、オカルトGメンの施設の一つである。
また、百鬼夜行を装備してある施設でもあるのだ。

なぜこんな面倒で憂鬱になるような施設に自分が居るのかを、改めて考えてしまう。


起因は勿論自分の前世ではあるが…そう、前世だ。
総て前世が原因ではないか。

改めて思い返す。
前世…京の都で起こった事。
そう、自分がなぜ魔族に襲われるようになってしまったのか。
その原因を調査するために現れたヒャクメが、美神の中にある能力を使って過去へと行った時の事を。

幸いにも、今日の訓練は百鬼夜行の整備がある為に午後からだ。
もしかしたら、今までの出来事の中に何か役に立つ情報があるかもしれない。
このまま、何かに流されたままというのは癪に触る。

美神は簡単に身支度を整え、寝椅子に腰掛ける。
手元にあるサイドテーブルの上にはメモとコーヒーを置き、思い出す順序を決める。

でだしは、そう。

過去の世界に着きしばらくして、非合法の妖怪退治をシロとタマモを引き連れて行い検非違使に追われたあたり。

横島忠夫に異様なほどに似ていながら、異質なほどに違う高島と対面したあたり。









「私が見抜けないとでもお思いでしたか?!」
とある一室で張りのある女性の声が木霊した。

声に圧倒され、物言わぬ人形と化した老人達の間で、嫌な空気が流れる。

「そもそも、神になりたいと言うのであれば、ご自身が霊となった時にでも土地神でもなんでもなればよろしいしでしょう。
実例は多々上がっているのですから。しかし、生きたまま?!正気ですか?
失礼、正気であればこのような戯言おっしゃるはずがありませんでしたわね」

「神に近づくのは我々の夢だ」
「夢ならばご勝手にどうぞ、お一人で寝ている時にでもご覧ください」
すっばりと綺麗に切られた。

「そもそも、生きたまま神になる?
なぜ、神と呼ばれる存在が霊資物質で出来ているのかお分かりでしょうに」

簡潔に言ってしまえば、足りないのだ。
人は肉体・精神・魂の三つで成り立ってる。
どれか一つ欠けても、人は人として成り立たない。
だが、神や魔族と呼ばれる者たちは違う。
彼等は突き詰めて言えば精神物質で出来ている。
肉体とは飾りであり、物質世界にて行動する際に必要となるものである。
よって彼らにとって重視されるのは力である。
数多の性質に分かれた力、それが彼らに分類を付け役職というものが与えられる。

人が神になる場合、多くは守り神や寺院などを収める神となる。
戦や創造の神になるには人間では決定的に力が足りないのだ。

「だから、人外のモノとの婚姻を?愚かさ極めりと言った所でしょうかね。
最早それは人に在らず。大き過ぎる力は人の器には入りきらずに、暴走するでしょうに」

「諦めよと?」
「それ以前の問題と言っているのです。
少なくとも私の目の黒いうちは許しません」



「過去に遡り我等を消すと?」
「それも良いかもしれませんね」

沈黙は長く続き。
場の空気は濁っていく。
この女は、彼らにとってとても危険だった。
故に…。

「今は、引こう。己が力に感謝するが良い。美神の女よ」
「今は、感謝いたしましょう。愚かなご老人」

今は…そう、今だけは…。


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