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GS横島 〜Beloved You Who Do Not Know Me〜

第一話 断罪


投稿者名:お茶くみ
投稿日時:07/ 1/ 2

 その男はふてぶてしく口元を歪めていた。

 男の体には鍛冶の神が鍛え上げた神鉄製の鎖が何十にも巻かれ、その周囲は力の弱きものなら一瞬で押し潰されるような厳重な結界が敷かれている。
 そして、男の脇を囲むのは神魔のつわもの、精鋭達。
 たった一人の男を捕らえるのには厳重すぎる警備だ。だが、これだけの警備をしてあっても、男は逃げ出すことが出来るだろう。
 彼は神族、魔族、人間の三界を敵に回し戦い抜いた。最強の最悪の伝説は今も生きている。
 この警備すら実のところさほど意味は無いだろう、男が自発的に動きを止めているに過ぎない。もし、男の目の前に神魔の双方の最高指導者がいなければ、男はこの場を抜け出していたはずだ。

 男はかつて人間であった。
 だが、ある事件で魔を取り込む事となる。男を愛した魔族の娘が、男を生かす為に己が魂を捧げたのだ。
 男は人でありながら、魔という矛盾を抱えた。
 それから数年は何事も無く時が過ぎる。

 だが、破滅の時が訪れる。

 男の中に存在した、魔の霊基構造が暴走を開始したのだ。
 どれだけ亡き娘が男を愛していたとしても、所詮は人と魔。霊基構造の質が違いすぎた。
 生まれながらにしての半魔であれば、成長と共に双方の力は拮抗し、溶け合ったであろう。
 あるいは、通常の人と魔の関係であれば人の魂と魔の魂が喰らい合い、勝ち残った者が負けた魂を食い殺すであろう。
 だが、魔族の娘は男を愛し、男もまた娘を思い続けていた。どちらかが消えるなど二人には考えられなかった。
 男の中で魔族の娘の魂は男を生かそうとし、男は魔族の娘の魂を守り続けた。
 表面上は変わらぬ日常が続き、それゆえに神すらも男の変化に気が付かなかった。

 愛ゆえに、悲劇は起こる。

 霊基構造の不一致から、男の存在が暴走を開始した。
 人でも魔でもない、ただ殺すだけのバケモノに男はなりかけた。
 だが、男は世界を、大切な人たちがいた世界を心から愛していた。そして、自分の為に誰かを犠牲にしたくは無かった。
 だから、男は死を選ぼうとする。
 だが、そんな男に竜神の娘は一つの誘いをかける。

───神になる試練を受けてみませんか?

 男の生まれた国では、過去に何人もの偉人が神となっている。男もその道を通らないかと問いかけたのだ。
 もし神になれれば、人の魂であれば暴走を開始する不適合も、神の魂なら抑えられるのではないか。
 無論、分の悪い賭けだ。
 だが、それ以外の道は男には残されていなかった。そして男はどうしても生き延びなければならなかった。
 そして男は、賭けに勝った。
 試練を終え、すぐに神になれたわけではない。だが、男の魂は神性を宿していた。
 人として生まれ、魔を取り込み、神となった男。

 人魔神とも呼べる存在が誕生した。

 だが、それは同時に闘争の歴史の始まりでもあった。
 神魔の一部の過激派が男の命を狙いだした。三界全てに通じる力を危険視する者、男の力を利用しようとする者、様々な思惑が絡む数百年の闘争。
 悠久なる時間の中で、男の仲間は一人、また一人と消えていった。

 そしてついに男は捉えられ、神魔の最高指導者の前に引き立てられた。
 
 男の名はヨコシマ。人魔神ヨコシマ。


「ヨコシマ、お前はやりすぎたっちゅーことやな」

 魔族の最高指導者の言葉に、ヨコシマは顔をそむける。

「貴方の業績は認めます。しかし、今度ばかりは庇い切れません」

 神族の最高指導者の声に、ヨコシマは口の端を吊り上げる。

「何か申し開きはありませんか、ヨコシマ」

 その言葉にヨコシマは……。












「堪忍してやああああああああああああああああああ!!! あの女神、ごっつーいい女だったんだぞ!!! 
 あのちちとしりとふとももがああああああああああああああああああああああああ!!! ワイをまどわせるんじゃあああああああああああ!!!」

 魂の絶叫。
 横島の血の涙を流しがなら結界にガンガンと頭を打ち付けるという奇行に、さすがに周囲の兵士も腰が引ける。
 神や悪魔、特に戦いを生業とする者にとって人間の身で幾多の上級神・魔族を退けてきた彼は、古の英雄と同等の扱いなのだが、初めて彼を見た者の中には伝説と実物のギャップにめまいを覚えているようだ。女性神族や魔族などは生ゴミを見るような目で横島を見てる。いや一部にはそれでも尊敬の眼差しを向ける連中もいるにはいるが。
 ちなみにアシュタロス事件から数百年が経過、あの当時の人界の仲間で生きているのはピートとカオス、それにマリアくらいだ。他の仲間は皆ボケることなく100近くまで生きて大往生を遂げたとか……。

 まぁ、ともかく。人間だろうと魔族だろうと神になろうと、どう変わろうと所詮横島は横島だった。


 事の起こりは数日前。
 天界のある一角、某神族の戦女神の宮殿。ちなみにその女神、お付きの兵士女官は皆女性だった。
 此処まで書けば何が起こったか、賢明なGSファンなら──いや、原作を知っている人なら誰でもわかるであろう。
 その日、男子禁制の宮殿に忍び込んだ馬鹿が一人いた。

『この先に桃源郷がー、綺麗なお姉ちゃんたちがー』
 煩悩まみれな台詞を口走りながら通風孔を匍匐前身で進むのは、言わずと知れた横島忠夫。その姿に反デタント過激派の野望を尽く潰した生ける伝説の風格は欠片も無い。ひ孫の結婚式まで見てから神に至ったはずなのに、言動その他はどう見ても十代の頃そのまま。もっとも煩悩まみれだった頃の姿だ。実は嫁さんに『出会った頃の姿でいて、ヨコシマ』なんて言われて、その気になっているだけなのだが……と、話しがそれた。
 暗い通風孔をズリズリと進んでいくうちに、目の前に四角い明かりが見え始める。
「おおおおおおおお、桃源郷の入口やー」
 計画どおりなら、この先にあるのは宮殿の大浴場であるはず!
 小声で呟くと、匍匐前身のくせにゴキブリのような速度で一気に窓にへばりつく横島。はっきりいって人外の動きだ。神様だけど。
 
 この日、この宮殿の主たる女神はある客人を迎えており、無礼講ということで自慢の温泉に客人達を招待していた。

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
 通風孔の小さな窓の先には、正しく桃源郷が広がっていた。一糸纏わぬ美少女ないし美女が、湯煙の向こうで戯れている。
『あっ、あれは女神様んけっ! いいチチしてんなぁ!!!』
 小声で叫ぶ横島。鼻息はバッファローの如く荒く、鼻の下が伸びきっている。
 お湯がにごり湯の為に胸元から下は見えないが、戦女神とは思えないほどの純白の肌に綺麗な曲線を描くうなじが何とも言えない色気をかもし出していた。
『にごり湯よー、にごるなー、にごるなー』
 無茶言うな。
『きさま! それでも男かっ! さぁ、お湯を澄んだ色に変えるんだ!』
 だから無茶言うなって。それより横島、女神様の客人を見てみろ。
『ん? うおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
 横島は鼻血を拭きながら心の中で歓喜の絶叫を上げる。
 戦女神と談笑する客人の女神もまた美しい女神であった。湯煙が邪魔で残念ながら彼女の容姿までは見えないが、湯煙の切れ間から見えるそのボリュームのある胸とくびれた腰に横島の目が釘付けとなる。
『うおおおおおおおおお、いいチチやー! 湯煙よー消えろー、消えろー、消えろー』
 だから無茶言うなって何度言わせるんだ。青筋立てながら念じるな。
『ばかやろおおおおおおお、それでも男かっ!!! 裸のねーちゃんが居るのに、湯煙なんてガキのごまかしするんじゃねぇ!!!』
 んなこと言われても、18禁な展開は避けたいのだが。
『何いってるんだ! ビバ18禁展開!! それこそ男の本望じゃあああああああ!!!』
 良いのか、本当に?
『いい、俺が許可する! さあ、湯煙を吹き飛ばせ!!!』
 んじゃ、要望通り。
 天界に一陣の優しき風が吹く。その風に、温泉を覆っていた湯煙が切れていく。その様子に、横島の317歳のパトスが燃え上がる。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
 うおうお五月蝿いぞ。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
 聞いていないか。
 まあ馬鹿はほっておいて、その風の涼しさに先ほどの女神が赤い髪を抑え目を細める。
「あら、いい風……」
 彼女もまた、美しい女神であった。赤い髪をなびかせ、赤い瞳の内に情熱の炎を燃やす。彼女もまた、美の女神にして闘神、最も新しき伝説の一人。
『って、まてええええええええええええええええ……ふごっ!!!」
 予想外の展開に横島は此処が狭い通風孔であることを忘れて立ち上がろうとし、頭を天井にぶつける。そしてその勢いで通風孔の入口、金属の柵に顔面をぶつける。

 ガコン!

「げっ!」
 毎度毎度お約束通りの展開である。外れて落ちて行く金属の柵。そして横島の体も通風孔からずり落ち地面に向かって落下していく。
「んなお約束いらねえぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 諦めろ。それがお前のキャラだ。
「って、キーやん一人で逃げる気かっ! こら、まてっ!!!」
 誰がキーやんですか。私はただの通りすがりのナレーションです。わざわざ口調を変えているんだから別神なのです。
「嘘言うなあああああああああああああああああああああああ!!!」

 ごべしょ!!! ざくっ!!!

 潰れたカエルのような姿勢で地面と衝突。ついでに神罰代わりに外れた柵が頭に突き刺さる。
 大浴場に、何とも言えない沈黙が走る。
 元々男子禁制の地だ。入ってはいけないという規則があるだけではない。様々な霊的、機械的なトラップや何十もの警備体制が敷かれているのだ、普通の男が入れる場所ではない。
 おかげで、この神殿に詰める女神やその眷属たちは咄嗟に今の状況が理解できないのだ。
 だが、赤い髪の美しい神は違った。
 まずその存在に驚く……前に条件反射で横島をぶちのめす。
「あべしっ」
「よ〜こ〜し〜ま〜!!! いつから覗いてたっ!!!」
 その腕からは視認出来るほどの霊力が吹き上がり、パチパチと放電まで開始している。
「ひぃ、堪忍や。 若い好奇心が、好奇心が悪いんやああああああああ!!!!」
 その美しい神の様子に、横島がガクガクと震えだす。
 ホント神になっても変わらんね、あんたら。
「覚悟は出来ているでしょうね、横島!」
 あ、こっちが呆れている間に話はついたみたいだ。
「ついてねえええええええええええええええ!!! ってか、戦略的撤退!!!」
 律儀にナレーションにツッコミを入れながら、横島は何時の間にか取り出した文殊を床に投げつける。刻まれていた文字は『煙/幕』、大浴場に霊波ジャミング付きの煙幕が広がる。
「まてええええ! 逃げるなっ! 横島!!!」
 マテと言われて待つ奴じゃない。横島は脱兎の如くその場から逃げ出す。わざわざ超加速まで使用してだ。
 能力の無駄使いだな。
「やかましいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 んで、本当に大変だったのはこの後だった。
 逃げ出した横島を、正気にかえった戦女神たちが追跡。この逃亡劇は人界荷まで及ぶ。
 その動きは無論魔界も察知。神の軍勢が動いたと勘違いした魔界軍がスクランブルをかける騒ぎとなる。
 たまたま現場に出た指揮官が横島の古い知人の女性仕官であり、必死の形相で逃げる様子を見て『ああ、何時ものアレか。お前ら、撤収だ』と言わなければハルマゲドン一直線になるところだった。
 いや、ハルマゲドンにならないだけで大騒ぎにはなった。なんせ、基本的に軍隊というところは女日照りな所が多い。この部隊は上司は美人だけど怖くて手が出せない、そんな煩悩全開なヤローどもの前に箱入り娘な女神の眷属たちが現れたのだ。
 始まったのは大ナンパ大会。無論、振られる奴のほうが多かったのだが、中には美人の女神をゲットする美形魔族(あとで身内に凹られた)とか、『わ、ワシは愛に生きるんジャー』や『ママに似ている』とかほざいて神界に走る馬鹿もちらほら。てか、お前ら何処のGSだ。
 とにかく、その日は大混乱。おかげで現在両陣営の人事部はてんてこ舞いだ。
 まぁ、うんなわけで、この騒ぎの発端となった横島は(嫁さんに死ぬ寸前、18禁すれすれのスプラッタになるまで凹られ)、この裁判所に引っ立てられることになった。


「まっ、そういうことで今回は横島。人間への転生って事に成るわけや」
 サッちゃんの言葉に、傍聴席からざわめきが起こる。当たり前だ、生まれながらの神族や魔族にとってはある意味死刑よりも重い刑だ。考えても見てほしい、生まれながらにして持つ力のほとんどを封じ込められた上に、もし転生後に神格を取り戻せなければ輪廻の彼方で消滅してしまう。戻れる機会があるだけに、死刑よりもたちが悪い。
 とはいえ、人間出身のこの男には違ったようだ。

(なに、つまりもう一度人間としてやり直れることは、新たな出会いがあるってことでは!? 守銭奴や天然や仏罰や貧乳やバカ犬や冷血狐な女房に気にせずに浮気ができるって事じゃないか!! ありがとう、神様!!!」

 叫んでる叫んでる。
 ああ、傍聴席の一部から殺気が渦巻いてるよ。ああ、止めに入ったバンパイアハーフ(下界から遊びに来た)が逃げ出してるし。
 このまま惨劇でもいいのだが、話が進まなくなる恐れがあるので先に横島の刑を最高指導者が口にする。

「ヨコシマ、勘違いしているようですが……。君は“女性”に転生することになるのですよ」

 その言葉に、横島が固まる。
 傍聴席の殺気も見事なまでに消える。動揺しているのが手に取るようにわかった。
 サッちゃんが横で『あんだけ美人の嫁さんはべらしておいて、何が不満なんやろう』などと呟いているが、これは無視。

「セクハラのしすぎで罰を受けるのですから。女性に転生してセクハラをされる身になって反省してくるのです」

 何か動揺して口走りそうに成る横島。とはいえ、こちとら神族の最高指導者、余計なことを口走る前にさっさと刑を執行する。

「というわけで、逝ってきなさい人間界」

 ぽい。

『まてえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ! 覗きを唆したのはキーやんやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 とりあえず何か叫んでいるが、聞こえないったら聞こえない。
 ま、とりあえず……。あちらでも頼みましたよ、ヨコシマ。貴方が最後の希望なのですから……。



続く


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