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再び竜の探索に


投稿者名:UG
投稿日時:07/ 1/ 1

 ※同シリーズ内「いまさら竜の探索に」の続編です。
  

 「忙しいのね〜」

 妙神山
 長く続く廊下を神族の女が一生懸命掃除している。
 右手には固く絞った雑巾、左手には空拭き用の布。
 左右の手で円を描くように床を磨きながら、その神族の女は居間として使っている部屋へと辿り着く。
 全身に100の感覚器官を持つ神族―――ヒャクメであった。

 「全く、老師と小竜姫は人にばかり修行させて・・・」

 ヒャクメは腰を伸ばしつつ、妙神山を不在にした二人への不平を口にする。
 その二人が上層部に以前巻き起こした騒動の報告をしているなど、彼女は知る由もなかった。

 「あーっ、それにこんなに散らかしたまんまで」

 居間に入ったヒャクメは、出しっぱなしのゲーム機にため息をつく。
 パピリオの顔が浮かんだが、直接の注意ははばかられた。
 以前うけたペスとしての仕打ちが、彼女の心にけっこうなトラウマを残している。
 ヒャクメはマリアナ海溝よりも深いため息を一つつくと、散乱したゲームを片付けはじめる。

 「あ!・・・」

 片付けがあらかたすんだ頃、ヒャクメは豆粒のような何かが床に落ちているのに気がつく。
 どれ程の力で圧縮すればこの様なものが出来るのか? その豆粒は一枚のノートの切れ端で作られていた。
 ヒャクメは丁寧にそれを広げはじめる。
 微かに見えたひらがなが暗号文を彼女に連想させていた。

 「これは何かあるのね〜」

 ヒャクメは破かないよう慎重にノートの切れ端を広げはじめる。
 丸めた者の悔しさと苛立ちが、その切れ端からひしひしと感じられた。
 苦労して紙を広げ終わると、彼女はそこに書き込まれたひらがなの詩を口ずさみはじめる。

 「まるかつわ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぴてぷ」





 ―――呪文が違います





 ドコからか聞こえてきた声にヒャクメは周囲を見回した。
 そして周囲に誰もいないのを確認すると、再びメモに視線を向ける。
 その目には神族情報官特有の好奇の光があった。

 「思ったとおりこれは何かの暗号なのね〜」

 彼女は文面を注意深く観察し、この暗号が写し間違えられていることを推理する。

 「まるかつ”わ”の部分・・・読み上げながら写したとしたら”は”の可能性もあるわ・・・」


 ―――呪文が違います


 「たぶんこれを写したのは老師。老眼の可能性も考えると濁音と半濁音を入れ替えて」


 ―――呪文が違います


 「”へ”と”え”を・・・」


 ―――呪文が違います


 ヒャクメは次々に呪文を読み上げトライ&エラーを重ねていく。
 そして、”め”と”ぬ”を入れ替えたとき・・・



 ブワッ!!!!



 ヒャクメが暗号を読み終わった瞬間、強力なエネルギーの塊が妙神山の結界を内側から突き破り飛び出していく。

 「!!!・・・・・・何だったのね今のは!?」

 ヒャクメは自分がなにか禍々しい存在を呼び出してしまったのではと戦慄する。
 彼女は自分が今読んだモノが「復活の呪文」と呼ばれるものであることを知らなかった。



 「あーっ! お前、何やってるんでちゅかーっ!!」

 突如背後からかけられた声に、ヒャクメはビクリと飛び上がってしまう。
 慌てて振りかえると、そこにはパピリオの姿があった。

 「あ、コ、これは違うのね〜」

 何が違うのかは果てしなく謎だったが、パピリオはヒャクメの左耳を見ないように更に詰め寄る。

 ―――突っ込んだら負け

 そんな雰囲気が妙神山には蔓延していた。

 「一月前、小竜姫がやらかした失敗を何で繰り返すんでちゅかっ! それも、サルと小竜姫がその件について報告しに言ってるときにっ!!」

 「あうう・・・知らないのね〜」

 半泣き状態でイヤイヤをするヒャクメをパピリオは容赦なく揺さぶった。

 「うーっ! 私はここから出ることは出来ないし・・・こーなったら仕方ないでちゅ。ヨコシマに連絡して捕まえてもらうでちゅ」

 「そうするのねっ! すぐに連絡するのねっ!!」

 ヒャクメが追跡したところで役に立たないという、パピリオの判断は正解といえる。
 しかし、その後がいけない。

 「ちょっと待つでちゅ!」

 何かを思い付いたパピリオがヒャクメを呼び止める。
 彼女の目には一冊のノートが留まっていた。

 ―――うまくいけば誰にも迷惑をかけず、秘密裏に問題を解決できる。

 残念ながらその考え自体が大迷惑なことに、この時の二人は気付きさえしなかった。











 ――――― 再び竜の探索に ――――















 「タダオ、タダオ、起きなさい・・・」

 横島のアパート
 聞き覚えのない女の声に、睡眠中の横島の意識が徐々に覚醒へと向かう。
 布団で微睡む横島を覗き込んだ女は、更に彼に囁き続けた。

 「タダオ、今日はお前の誕生日。冒険に行く前に王様の・・・」

 「そうそう、俺はこれからルイーダの・・・って誰が行くかっ!!」

 反射的とも言えるツッコミを見せ、横島が布団から飛び上がる。
 目の前にはファンタジー風の衣装を着込んだ見慣れぬ美女が座り込んでいた。

 「えーっとどちらさんですか?」

 横島には目の前の美女に見覚えはない。
 それに大きくあいた彼女の胸元が、彼の視線を半強制的に顔からずらさせている。
 美神と同等、いや、それ以上の豊かなふくらみが横島の視線を釘付けにしていた。
 謎の美女はその視線に別段嫌悪の表情も見せず、横島の手を握りしめ、すがるように胸に抱きかかえる。
 微かに接したその感触に、横島は全神経を集中させていた。

 「お願いです。貴男の力を貸してください! もう、貴男しか頼る人がいないんです」

 自分に助けを求める潤んだ目。
 横島はその目にどことなく小型犬を連想していた。
 保護欲をかき立てられた横島は、5割り増しの男前度でその美女に優しく微笑みかけた。

 「お嬢さん、貴女にそんな顔は似合わない。僕は貴女に笑顔を取り戻すのならどんな苦労も厭いません」

 「え、それじゃあ」

 「ええ、力を貸しましょう。ということで・・・」

 何を考えているのか、横島は掛け布団をめくると自分の隣りにスペースをつくる。
 しかし、その美女は横島の言質を得た途端、手の平を返したように台所の物陰に声をかけた。

 「ダーリン! タダオさんが手伝ってくれるって!!」

 その言葉を聞いて、初めて横島は玄関に棺が転がっていることに気がつく。
 ドコか見覚えのある棺に横島の背筋に嫌な予感がひしひしと感じられた。
 そして、その嫌な予感はダーリンと呼ばれた人物が姿を現したとき、確信へと姿をかえる。

 「お、お前はっ!!」

 「久しぶりだなタダオ。またパーティが組めてうれしいぞ!!」

 物陰から現れた人物がニヤリと笑うと何処かでおめでたい音楽が鳴り響く。
 青の戦士セイテンと横島の再会はこうして行われた。













 「いやーっ、お前のくれたヒントの御陰で仲間も見つかったしどうにかクリアできてな。ラゴスの野郎が見つからなかったときはまた塩漬けになるかと冷や冷や・・・」

 人の話を聞かないのは相変わらずなのか、呆然とする横島に一人で喋り続けるセイテン。
 それは破壊神を斃すまで一向に止まる気配がなかった。

 「そうか・・・仲間ができたんだな」

 「ああ、タダオのおかげだ。紹介するよ、コイツが二番目の王子でトンヌラ」

 セイテンがボスンと棺の表面を叩く。
 返事はないがただのしかばねでも無さそうだった。

 「えーっと、何で棺のまま・・・」

 「いや、ずっと宿屋で待って他のがいけなかったのか、すっかり引き籠もりになっちゃってな。通路を渡るために無理にフィールドに引きずり出したんだが、それ以来棺に籠もってしまって・・・ホラ、挨拶くらいちゃんとしろ!!」

 再び棺の蓋をボスンと叩くセイテン。
 ようやくその気になったのか、棺の中からか細い声が聞こえてきた。

 「・・・・・・・・・」

 「え、一体何て・・・」

 聞き取りにくいトンヌラの挨拶に棺に耳を寄せる横島。
 彼の接近を感じたのか、棺の中から絶叫にも近い叫び声がわき起こる。

 「ザラキーッ! ザラキ、ザラキ、ザラキ、ザラキ―――――ッツ!!」

 「殺す気かッ! コイツは一体何なんだ!!」

 突如放たれた死の呪文に、部屋の隅まで後ずさる横島。
 その様子を楽しそうに見つめながらセイテンが、美女に目配せする。

 「ああ、コイツは不治のクリフト病に罹っていてな・・・危ないから常にMP0の状態にしてあるんだ。だけど、うるさいのも迷惑だし・・・サマンサ、いつものを頼む」

 サマンサと呼ばれた美女は唇をピコピコピン!と動かすと呪文の詠唱を終わらせる。
 一度も開かない口から「ラリホー」と聞こえる様子はいっこ<堂を彷彿とさせた。
 レベルが上がれば呪文が遅れて聞こえることだろう。

 「で、彼女の名前がサマンサ・・・っと、よしよし、よくやったぞサマンサ!」

 自己紹介に割り込むように、トンヌラを眠らせたサマンサがセイテンにじゃれついてくる。
 セイテンは現在経営危機に瀕している某動物王国の代表のような仕草で、「ダーリン褒めて!」と迫る彼女の要求に応えた。

 「よ――しゃしゃしゃしゃっ!・・・・・・で、サマンサはずっとイヌ暮らしが長かったんでな、すっかり牝イ・・・」

 自分のツッコミの限界を超えたキャラクター造形に、横島はただぼんやりと目の前の光景を見ている。 
 かなり扇情的な光景ではあったが、正直それを上回る程の脱力感が彼を絡め取っていた。




 「で、俺は一体何を手伝えばいいんだ?」

 3分後
 横島はようやくスキンシップを終わらせたセイテンとサマンサに問いかける。
 二人とも頬を上気させ、棺からは高いびきが聞こえている。
 正直な所、横島は早く問題解決し3人にお帰り願いたかった。

 「逃げ出した先代を捕まえるのを手伝って欲しい!」

 「はい?」

 横島の脳裏に昨日会った人物が思い出される。
 常に前を向き続ける人物と、横島は昨日すれ違っていた。

 「極秘裏に解決するよう。俺たちの復活の呪文も読まれてな・・・一晩中さがしたんだがどうもうまくない。そこでタダオに手伝って貰うことを思い付いてな。お前ならこの不始末を知られても特に問題ないし」

 そういうとセイテンはそそくさと部屋を後にしようとする。
 彼にとっても問題解決は急いだ方がいいらしい。

 「先代の情報は歩きながら伝える。とにかく探索を続けなけれ・・・」

 「センセーっ! 散歩に行くでござるよっ!!」

 セイテンがドアノブを掴もうとした瞬間、ドアノブは外から勢いよく引かれ彼の手をすり抜けた。

 「!! セイテン殿?」

 開いたドアの向こうに立っていたセイテンの姿に驚いたのも一瞬、シロの目に大粒の涙が浮びだす。
 セイテンが老師の一撃で消滅したとき、一番泣いたのはシロだった。

 「良かった無事で・・・、拙者てっきり・・・」

 その場でグシグシと泣き出したシロに困ったような顔をすると、セイテンは頬を指先で掻きながらシロに再会の挨拶をする。
 自分のキャラクターとして、湿っぽいのは勘弁して欲しいと彼は常々思っていた。

 「死んでしまうとは情けない! って怒られたけどな」

 咄嗟の軽口も効果はない。
 しかし、セイテンがシロを気遣うようにその肩に触れた瞬間、彼の背後から低い唸り声が聞こえてくる。
 散歩の最中に主人が他所の犬をかまったときのような唸り声が・・・
 その唸り声は、嫉妬に狂うサマンサの口から発されていた。

 「ダーリン! 浮気は許さないっちゃーっ!!」

 「もう、完全に元ネタじゃねぇぇぇぇッ!!」

 横島のツッコミは炸裂したイオナズンにかき消される。
 因みにサマンサが放った呪文は本家の電撃よりも効いたらしかった。











 シロの散歩道
 周囲の人影を細かく見ながらの散歩は、いつもよりもゆっくり目のペースで行われていた。
 冬休み中のため、散歩のあと事務所で食事を取らせて貰うことになっていた横島だったが、不測の事態が生じたことを既に美神に報告している。
 現在、美神は妙神山への連絡を取ってくれているはずだった。

 「あのーまだ怒ってます?」

 仏頂面で歩く横島をサマンサが覗き込む。
 部屋の入り口で炸裂した攻撃呪文は、かなりの損害を横島の部屋に与えていた。

 「大丈夫だよ。タダオはそんな小さな男じゃないから」

 セイテンがしょげかえるサマンサの頭を優しく撫でてやる。
 実は先程の行為を一番怒ったのはセイテンである。
 褒めるときは褒め、叱るときは叱るあたり躾の王道と言えた。

 「タダオは口で言うほどきつくはない。なあ、シロ」

 セイテンはわざと火種だったシロへのコミュニケーションをとった。
 躾の甲斐があったのか、サマンサは軽く牙を剥いたものの大人しく様子を窺っている。

 「そうでござる! 先生はもの凄く優しいでござるよ! ね、先生!!」

 先程の経験で懲りたのか、シロはセイテンから離れ横島の左腕にすがりつく。
 アナタの飼い主をとる気は無いという、サマンサに対してのアピールだった。

 「そろそろ聞かせて貰おうか・・・先代の情報とやらを」

 シロの行動が功を奏したのか、探索を開始してからずっと無言だった横島がようやくその口を開いた。
 既に時間は9時を回ろうとしている。
 いつまでもこんな事をしている訳にもいかなかった。
 セイテンも同じ気持ちなのだろう。
 彼は話の核心に触れるため珍しく真顔となる。

 「奴の名は【タイセイ】・・・□トの盾を探し続ける内にレベルMAXになった男だ」

 「ちょっ、たしか□ト盾は・・・」

 真顔で語られたしょうもないエピソードに、横島はあんぐりと口を開く。
 しかし、目の前の男も二番目の王子が見つからず、最初の大陸でレベルMAXになっているのだから考えられない話では無かった。

 「剣と鎧があるんだ、盾があってもおかしくはないだろう。いや逆にない方がおかしい」

 「いや、だから最初のヤツには存在しないんだってば!」

 絶対の自信をもって繰り出されたセイテンの言葉に、横島は微妙なテンションでツッコミを口にする。
 セイテン相手にツッコミは無駄だと知りつつも、ついやってしまう自分が空しかった。
 しかし、盾が手に入れば今回の妄執は解決するらしい。
 横島は頭に浮かんだアイディアをセイテンに口にする。

 「でも、それならお前の持っている□トの盾をソイツに・・・」

 「売った」

 キッパリと言い切ったセイテンに横島の表情が強張る。

 「い、今、なんと?」

 「いや、だから売った」

 「だって、アレは販売不可能な・・・」

 手放すことが不可能なアイテムを売ったと言い切ったセイテンは、愕然とする横島の肩をポンと叩き晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。

 「どーしても金が必要でな。タダオ、人間やってやれないことはないんだな」

 「ちょっと待て、お前この前来たとき、金もMAXで持ってたじゃないか! それがどうして!?」

 この時になって横島は重要なことに気がつく。
 セイテンが前回訪れたときの妄執はクリアに向けての欲求だった。
 しかし、破壊神を斃した後もセイテンは存在し続けている。
 それではセイテンに新たな妄執が生じたのか?
 そんな彼の疑問を解消したのは、年末特有の鐘の音だった。


 カラン、カラン


 商店街が行っている年末の福引き所
 その鐘の音を聞いたセイテンの表情が一変する。

 「福引き・・・」

 セイテンはふらふらとそちらの方に歩き出す。

 「そうだ、買い物、買い物をしないと福引き券が・・・サマンサ金っ!」

 「ありません。それどころか明日食べるお米も・・・」

 よよよと崩れるサマンサのとなりには何故かちゃぶ台が具現化していた。
 引き籠もっている割に付き合いが良いらしく、トンヌラが棺の中から「おかーちゃんおなかすいたー」と声をかける。
 すっかりベタな不幸設定が周囲に展開していた。

 「うるさい! 腹が減ったならば薬草でも食ってろ! 父ちゃんがゴールドカードを当てるまで辛抱出来ないのかっ!!」

 トンヌラの泣き言に腹を立てたセイテンは、ちゃぶ台をひっくり返すと彼の入っている棺を足蹴にする。
 装備しているのは、すててこパンツに腹巻き、焼酎甲類の一升瓶。アクセサリには赤鉛筆。

 「ああっ、この子に当たらないでください」

 棺にすがりつき庇うサマンサ。
 そんな彼女の懐を一升瓶片手のセイテンがまさぐる。

 「金が無いなら、何か売るものでも出しやがれっ!! ・・・・・・へへっ、いいものがあったじゃねえか」

 そういって取り出したのはノレビスの守り。
 セイテンは今回も無茶をするらしい。

 「ああっ、それを持って行かれたら明日からの冒険が・・・」

 よよよと泣き崩れるサマンサを後に、セイテンは福引き所へと向かっていった。





 「せ、先生・・・今のは一体何でござるか?」

 目の前で繰り広げられたコントが理解できず、シロがすがるような目で横島を見上げる。
 あまりに突っ込みどころの多い展開に、横島は何と言っていいやらわからなかった。
 人間には二種類が存在する。
 おまけ目当てで買った食玩を食べる人間と捨てる人間だ。
 セイテンは後者で福引き券目当てで買った薬草を、捨てては買い、捨てては買いを繰り返したのだろう。
 全ての金を使い果たし、売れるものを全て売り尽くしても、妄執の原因―――ゴールドカードは当たらなかったらしい。

 「俺に聞くな・・・前にも増して突っ込みずらいネタばかりなんだから」

 横島は力なくつぶやく。
 食玩を食べる食べない以前に、読み手が元ネタを知っている知っていないの分類が気がかりだった。
 そんな横島の心配を他所に、大量のティッシュを抱えたセイテンが戻ってくる。
 どうやら福引きはみんな外れたらしかった。

 「また、やっちまった・・・俺はなんてダメなヤツなんだ・・・」

 ようやく我に返ったのか、セイテンが自己嫌悪に頭を抱える。
 ちゃぶ台が消えていない所を見るとコントは未だ継続中らしい。

 「すまない、サマンサ・・・こんな俺には愛想が尽きただろ?」

 「ううん、もとの大好きなダーリンに戻ってくれれば・・・また、3人でやり直しましょう」

 ちゃぶ台に突っ伏すセイテンをサマンサが優しく抱きかかえる。
 隣りに棺が鎮座しているあたり妙にシュールな光景だった。

 「サマンサッ!」

 「ダーリンッ!!」

 二人はひしと抱き合うと、トンヌラの棺を引きずり商店会から少し奥に入った通りに駆け込んでいく
 そして、遠くに見える城のような屋根がグラグラと揺れる様を見て、横島は景品のティッシュが早速役に立ちそうなことを理解した。





 「サザエさん家みたい・・・」

 遠くに見える泊まると体力が減る宿屋
 その城のような屋根がぐらぐら揺れる様子を見て、駆けつけたタマモがポツリと呟く。
 背後からかけられたその声に、固まっていた横島とシロは、ようやくおキヌとタマモの接近に気がついた。

 「おキヌちゃん、タマモ、来てくれたのか」

 「おキヌちゃんがどうしても来たいっていうからね・・・その付き添い。またこの前のヤツに絡まれたんだって?」

 タマモはおキヌに代わり、如何にもめんどくさそうに横島の問いに答える。
 おキヌは遠くに見える城の屋根に言葉を失っていた。
 中で行われているだろうことはシッカリ理解しているのだが、それに対してリアクションすることはできなかった。

 「ヤツじゃなくってヤツらだよ。困ったことにアクセルばかりでブレーキがない3人組だ・・・ところで美神さんは?」

 「妙神山とコンタクト中。居留守使われているらしくてキレかかってるけど」

 原因となった妙神山が居留守を使っている。
 いつぞやとは異なる展開に横島は頭を抱えたくなった。
 第一、追跡するべきタイセイは未だにその姿を現していない。
 
 「あ、動きが止まった」

 タマモの言葉に一同はお城の屋根に注目する。
 奇妙な静寂がその周辺に漂っていたが、それについて何かを口にしようという者はいなかった。



 「いやー、という訳で盾は手放してしまってな。実力で捕まえるしか無いんだなこれが」

 サマンサを左腕にべったりと抱きつかせたまま、一向に動じない様子でセイテンが戻ってくる。
 ほかほかと湯気が立っているような二人の姿に、おキヌとシロは視線を向けることが出来なかった。

 「それを説明するだけで昼間っからナニをやってるんだお前は・・・」

 多少の嫉妬を込め横島がセイテンを睨み付ける。
 ことに及ぶ前に呪文をかけられたのだろう、棺の中で鼾を立てるトンヌラが憐れだった。

 「ナニって・・・タダオ、【ぱふぱふ】はいいぞ、【ぱふぱふ】は・・・」

 むかつくほどの余裕をみせセイテンが悟りきった表情を浮かべる。
 夏休み明けの教室で味わうような雰囲気に、横島は思わず歯がみした。

 「そういえば、あのビアンカ姉さんが来ていないな」

 周囲を見回したセイテンは、合流した事務所の面々の中に美神の姿が無いことに気がついていた。

 「ビアンカ?」

 「そう、あの、鞭がよく似合う年上のお姉様。いやー、奴隷の境遇に物の怪に好かれる才能、この前来たときは気付かなかったがそうなんだろ?タダオ」

 相変わらずの思いこみの激しさ。
 セイテンは横島のことを別シリーズの主役と勘違いしているらしい。

 「ビアンカ姉さんに頼めば【ぱふぱふ】くらいやらせてくれるだろ。あの姉さんお前のことまんざらでもなさそうだったから」

 空気の読めないセイテンは、自分の発言が周囲に与えた影響に気づいていない。
 横島の鈍さによって絶妙に保たれていた人間関係を、彼は壊そうとしていた。

 「それともこっちのフローラさんと、どっちがいいのかまだ決められないのか?」

 更に重ねられる空気の読めない発言に、フローラと呼ばれたおキヌは体を硬くした。

 「私がフローラ・・・」

 張りつめた空気の中、おキヌがポツリと呟く。
 セイテンの一言によって凍り付いた空気。
 しかし、その空気は更に空気の読めない存在によって粉々に砕かれることとなった。






 
 「ローラ・・・」

 何処からか聞こえてくるヒデキ風の叫び声。
 慌てて周囲を見回した一同は、道の向こうから近づいてくる男の姿を目撃する。
 常に前を向き続ける男―――タイセイの登場だった。

 「ローラ・・・」

 呆気にとられる一同を無視し、タイセイは再びヒデキ風に叫ぶ。
 因みにブーメランは装備していない。

 「え? 私??」

 果てしなく嫌な予感におキヌが後ずさる。
 どうやらタイセイはフローラとローラを聞き間違えているらしい。

 「よし! コイツを捕まえれば問題解決だな」

 現れたタイセイにどこかホッとした表情を浮かべながら、横島は退路を断つべくその背後に回ろうとする。
 その意図がわかったのか、セイテンが慌てたように横島を呼び止めた。 

 「タダオッ! 先代の背後に回っちゃダメだっ!!」

 しかし、時既に遅し。
 背後に立とうとした横島を、タイセイは反射的に斬りつける。
 
 グッ!

 振り返りざまに放たれたレベルMAXの一撃。
 しかも、過去のセイテンのような銅の剣ではなく、相手が手にしている武器は□トの剣だった。
 致命傷にも等しい一撃。しかし、その一撃は横島の体に触れることは無かった。

 「セイテンッ! 大丈夫かっ!!」

 地面に押し倒された横島は、セイテンが身を挺して自分を救ってくれたことを理解する。
 セイテンは横島の身代わりに、タイセイの一撃を背中で受けていた。

 「大丈夫。半キャラずらしたからダメージは無い。しかし迂闊だぞ! 先代は背後に立つ者を反射的に攻撃してしまうんだからな!!」

 謎のダメージ判定に、人に背後をとらせないというどこかで見た設定。
 突っ込みたいことは山ほどあったが、その言葉を横島はグッと飲み込む。 
 何とか緊張を維持した横島の耳におキヌの悲鳴が聞こえた。

 「おキヌちゃん!!」

 慌てて起きあがった横島は、おキヌをお姫様だっこするタイセイの姿を目にする。

 「・・・・・・・・・」

 「貴様ッ! おキヌちゃんに何をするつもりだッ!!」

 「・・・・・・・・・」

 タイセイは某13のヒトのような寡黙さで横島を一瞥すると、表情を変えずに移動を開始する。

 「まずいぞタダオ! アイツお楽しみするつもりだ!!」

 「クッ! タマモッ!美神さんに連絡を!! シロッ! ついてこい!!」

 某13がおキヌをお楽しみ・・・
 セイテンの言葉が引き起こした想像に、顔を青ざめさせた横島は慌ててその後を追いかけはじめる。
 おキヌを抱きかかえたまま、高速のムーンウォークで遠ざかるタイセイを横島たちは必死で追跡した。











 一向に差が縮まる様子のない追跡は既に20分にも及んでいた。
 全力背面走行にもかかわらず、タイセイは巧みにコース取りし横島たちの追随を許そうとはしない。
 救いは圧倒的な機動力を誇るシロが、宿屋が見える度先回りし、タイセイの侵入を阻んでいること位だった。

 「クソッ、アイツは疲れるってことを知らないのか」

 「先代は一切乗り物には頼らなかったからな、それにあの鎧は一歩進む毎に体力が回復する」

 とっくに疲れのピークを迎えている横島のとなりでセイテンがこともなげに呟く。
 もちろん横島に突っ込む余裕はない。
 全力の自分と同じペースで走る棺を引きずった男など、見る気にもならなかった。
 因みにサマンサは疲れたのかトンヌラの棺の上でお座りしている。

 「タダオ、つらかったらサマンサと同じように・・・」

 「いや、たぶん、あと少しで決着が付くだろう」

 横島はこの追跡があと少しで終わることを予感していた。
 現在走っている道は美神事務所に通じる道だった。




 「!」

 何かの接近を感じたのか、逃走を続けていたタイセイが背中を隠すように壁に張り付く。
 神通棍を勇ましく装備したボディコン姿の美女が、彼の行く手を遮るように道をふさいでいた。

 「そこまでよ・・・おキヌちゃんを放しなさい」

 「美神さん!」

 タイセイに抱きかかえられていたおキヌが喜びの声をあげる。
 反対側からは横島たちが追い着こうとしていた。

 「ヒャクメから聞いたわ・・・アンタ、どうしても欲しい盾があるんだってね」

 「・・・・・・・・・」

 タイセイは美神の問いに答えず、ただじっと美神の姿を見つめている。
 そうこうしているうちに、追い着いた横島とセイテンが遠巻きにタイセイを包囲した。

 「美神さんナイス足止めです!」

 横島はタイセイの逃走を防げたことに胸をなで下ろす。
 あとはセイテンがレベルMAXの戦闘能力を発揮しタイセイを捕獲するだけだった。 

 「セイテン、出番だぞ!!」

 「悪いが無理。後は任せる」

 「へ?」

 全く悪びれた様子もなく、任務を放棄したセイテンに横島の目が点になった。
 
 「先代とはタイマンが基本なんだが、いかんせんさっきの宿屋でHPを使いすぎて・・・」

 「太陽が黄色い・・・」

 目をしばしばさせながら太陽を見上げるセイテンとサマンサを、横島は殺気混じりの目で睨み付ける。

 「この役立た・・・」

 怒りの言葉を口にしようとした横島は、ふとあることに気付いた。
 横島は自分の考えを裏付けるため、妙神山とのコンタクトに成功した美神に質問する。
  
 「美神さん! 今回復活の呪文を読んだのはヒャクメなんですか!?」
 
 「ええ、ようやく連絡がとれてね。今回呪文を読んだのはヒャクメらしいわ」

 「やっぱり・・・」

 横島は口の中で小さく呟く。
 前回のセイテンが凶悪なまでの戦闘能力を有していたのは、復活の呪文を詠唱したのが小竜姫だったからだろう。
 詠唱者の影響が現れるのならば、今回の役立たずっぷりも納得がいく。
 そして、呪いとも言えるヒャクメの影響はタイセイの方にも色濃く表れるはずだった。
 ひょっとしたら致命傷に思えた先程の一撃も、本当は大したことが無かったのかも知れない。

 「とするとアイツは・・・」

 横島は今回のオチが何となく予想できていた。  

 「美神さんすみません! 今回のコイツらは完全な役立たずです! ソイツとは一対一じゃないと戦えないらしいし、総合力が一番高い美神さんに後は任せます!!」

 「もとよりそのつもりよ! 道具にこだわるのはわかるけど、妄執に取り憑かれるほどのアホには一言いってやらなきゃ」

 各種のオカルトアイテムを自由に使いこなす美神にとって、道具へのこだわりはもちろんある。
 それだけに有りもしない盾に振り回されるタイセイに、美神は軽い苛立ちを覚えていた。

 「おキヌちゃんを解放してかかっていらっしゃい。道具の使い方を教えてあげるわ」

 「・・・・・・・・・」

 挑発ともとれる美神の笑いを受け、タイセイはおキヌを解放すると武器を装備する。
 □トの剣、□トの鎧、そして、御鏡の盾。
 彼が手に入れることのできる最強装備の攻撃力・防御力は、役立たずを補ってもなお余りある威力を発揮する
 それに対し美神が手にするのは一本の神通棍のみ。
 両者の間に徐々に緊張が張りつめていく。
 それが限界を向かえた刹那、両者は同時に攻撃をしかける。
 勝負は一瞬でついていた。

 カラン

 タイセイの持っていた御鏡の盾が地面に落ちる。
 鞭状に変化した神通棍がタイセイの間合いの外から、盾をたたき落としていた。

 「これでわかったでしょ! 道具はね・・・本当に大切にしてくれる人には応えてくれるものなの」

  美神は既に戦闘の意志を失っているタイセイに近づくと、彼の妄執を解くため更に話を続ける。

 「いま、アンタが盾を落としたのは、アンタがその盾の能力を十分引き出そうとはしなかったせい。その盾を大切にし、能力を最大に引き出そうとしてやれば・・・」

 美神はしょげたように俯くタイセイが、自分の言葉に心から耳を傾けているのだと思っていた。
 タイセイの隣りではいつの間に並んだのかセイテンと横島が同じように俯き、じっと美神の言葉に耳を傾けている。 

 「わかったようね。アンタがその御鏡の盾を大切に使い続ければ、その盾はアンタにとって□トの盾以上に・・・ん?御鏡?」

 途轍もない嫌な予感と、下半身に感じる絡みつくような悪寒に、美神は恐る恐る足下に目を向ける。
 彼女の足下にはタイセイが落とした盾が・・・
 そしてその盾は、御鏡の名に恥じず美神が装備していた伝説の最強装備・勝負下着をハッキリと映し出していた。
 ニヤケ顔でそれを見つめる、横島、セイテン、タイセイの3人の顔まで・・・
 その三人と目があった途端、美神の中で何かがはじけた。
   

 

 横島たちはナニか途轍もなく恐ろしいものを呼び出してしまった。

 
 セイテンは逃げ出した

 タイセイは逃げ出した

 横島は逃げ出した

 しかし、回り込まれてしまった

 美神の攻撃 横島は53のダメージ

 横島は「かんにんやー」の呪文をとなえた・・・しかし呪文は効かなかった

 美神は「時給下げるわよ」の呪文を唱えた・・・横島は一切の抵抗をあきらめた

        ・

        ・

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 横島は死んでしまった






 
 こうして横島にのみ多大な被害を残したまま、再び訪れたセイテンたちによる騒動は終結した。
 美神の攻撃から辛くも逃げ出した、タイセイやセイテンたちはあれから姿を現していない。
 あのオチを想像していた横島は、タイセイが□トの盾の妄執から解放され消滅したと考えている。
 そして、セイテンたちの妄執も・・・
 
 翌日
 横島は昨夜のうちに部屋の外にそっと置いておいた、レンタルビデオの会員証が無くなっていることに気づき軽く口元を緩める。
 レンタルビデオのゴールド会員カード(旧作半額)のお礼は、大量に置かれた薬草の山だった。

 「よしと、これで一件落着」

 横島は薬草の山を抱えると、お裾分けのため美神事務所を目指す。
 美神の怒りは昨日のうちに解けている。
 怒りを解いた魔法の言葉は、棺桶の中まで持っていくつもりだった。
 
 そして・・・  
 ヨゴレSS書きが別なオチを用意しているとは、この時の横島には知る由もなかった。






 エピローグ

 「うげっ! こりゃ飲めたもんじゃないっすよ!!」

 持ち込んだ薬草の利用法の一つ、薬草茶の味に横島は思いっきり顔をしかめる。
 美神事務所の面々は薬草の利用法について模索中だった。
 手っ取り早い方法は厄珍に売るというのもあるが、何となく味気ないのでそれはやるつもりはない。
 大量に煎れた薬草茶を前に一同は微妙な笑顔を浮かべていた。
 何のことはないことで楽しめる穏やかな午後の空気。
 しかし、その穏やかな空気は怒りのオーラを纏った一人の女によって打ち消される。

 「全く、冗談じゃないわよ!」

 周囲に怒りのオーラを発散しつつ、美智恵が事務所に入ってくる。
 予定外の来訪に、美神は驚きの表情を浮かべた。
 
 「あれ、ママ一体どうしちゃったの? 今日はオヤジとデートだって」

 久しぶりに帰国した公彦とのデート。
 そのため美神は今日一日ひのめの面倒を頼まれていた。

 「どうしたもこうしたもないわよ! 経済学部の教授が馬鹿なことをやってくれたせいで臨時の教授会ですってよ!!」

 普段日本にいない公彦も、立場的に参加しなくてはならないのだろう。
 金銭を貰って自由な研究を続けられるほど、世の中は甘くできていないようだった。

 「馬鹿なこと?」

 「ニュースでやってるわよ! 全く、久しぶりのデートだっていうのに」

 美智恵はテレビのリモコンをとると荒々しくスイッチを押す。
 ワイドショーのニュースコーナーが、TVなどにも良く出ている大学教授の起こした事件について報道していた。


 『えー、現場からの中継です。先程TV等で有名な経済評論家の↑wさんが迷惑防止条例違反容疑で逮捕されました。↑wさんは駅構内に大きな鏡を持ち込み・・・』

 途轍もなく嫌な予感に一同が凍り付く。
 そう言えばタイセイが落とした御鏡の盾は、あの場に放置されたままだった。

 『↑wさんはこの鏡を拾っただけだと言っており、警察では広く落とし主についても広く情報を求めるようです。これが↑wさんの持ち込んだ鏡の映像です』

 TV画面に映った鏡の映像に一同は思いきり吹き出す。
 思ったとおり持ち込まれた鏡とは御鏡の盾だった。
 今頃TV局には、それは御鏡の盾だという突っ込みの電話が入りまくっていることだろう。 

 「御鏡の盾なんか落とすヤツがいるわけないでしょう! 本当に落としたヤツがいるなら責任取れって言いたいわよ・・・だけどこの臭いはなに? 薬草みたいだけど・・・」 

 
 鼻をヒク付かせた美智恵に一同は一瞬でアイコンタクトを完了させる。
 異常に勘のするどい美智恵に御鏡の盾につながるヒントを与えてはいけない。
 一同は昨日会った出来事を闇に葬るつもりだった。
 美神たちはそれぞれに注がれた薬草茶を一気に飲み干した。

 「クッ・・・・・・ぷはっ!」

 一瞬のしかめっ面の後、美神たちは同じような笑顔を浮かべる。
 それは先程の微妙な笑顔ではなく、心の底からの微笑みだった。


――――― 再びDRAGON QUEST2 ――――


         終



 余談
 厳しい取り調べの結果、御鏡の盾は故意に持ち込まれたことが発覚する。
 そしてこの日から御鏡の盾は【↑wの盾】とよばれ、一部の勇者たちから絶大な人気を誇ることとなったそうである。


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