椎名作品二次創作小説投稿広場


GS冥子?

西よりの使者


投稿者名:案山子師
投稿日時:06/12/16

 「雨ねぇ〜〜〜」
 手にしたトランプを差し出しながら冥子が呟く。
 「そうですねぇ〜〜」
 右端のトランプを引き抜きしまったという顔の横島。
 「さあどうだぁ〜〜」と残った二枚を突き出し・・・・・・
 「やったぁ〜〜〜〜! 私の勝ち〜〜〜!」
 「くそ〜〜ッ!! また負けた〜〜〜ッ!!」
 目の前でトランクス一丁になった横島は、涙を流しながら手に残ったジョーカーを握り締める。
 「なぜだ〜〜ッ!! どうして勝てない〜〜〜〜ッ!!」
 外では雷が鳴り響く。部屋の中ではそれをまったく気にする様子もなく再びトランプをきり始める。
 ピシッ! そんな二人より少しはなれたところで、デスクに向かって一心にペンを滑らすツインテイルの女性が一人。
 手にしたシャーペンに力が込められ『ピシッ!』と再びシャーペンの芯が折れる。
 が、そんなことにまったく関心を示さない二人。
 次第にシャーペンの芯の折れる音の間隔が短くなって、
 「お嬢様いつまでも遊んでないでくださいッ!!!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか今までもくもくと書類の整理をしていた、メイドの日向が怒声を上げる。
一瞬で体を硬直させた二人はゆっくりと日向に向かって顔を向ける。
 「でっ、でも今日のお仕事はお休みで・・・・・」
 「仕事というのは何も現場に出ることだけが仕事じゃないんですッ!! 毎回毎回、報告書は間違いだらけで、未処理の書類もこんなに山積みでッ!! 少しは自覚を持っていくださいッ!!」
 「ごめんなさいっ〜〜〜」と小さくなる冥子の横で横島は、
 「日向さん、今日はもうそのくらいで・・・・・なんでしたら日向さんも一緒にッ!!」
一緒にどうです? と言おうとする途中で、日向の標的が横島に変わる。
 「ヨコシマ君、あなたももうすぐテストでしょ・・・・・・今度ひとつでも落としたらどうなるか分かってますね? せっかく私が勉強見てあげたのに今度落としたらただじゃあすみませんよ?」
顔は笑っているが、目は確実に笑っていない。それどころか青筋立ててあらん限りの殺気を放ってくる。
 「すっ、すみません・・・・・・」
 「そんなに暇でしたらあなた達にも書類整理をやってもらいましょうか」
言葉こそ丁重だが、彼女の纏うオーラには『嫌とは言わせないッ!』とはっきり出ていた。
薄く涙を浮かべながら書類の山々を受け取る二人。
テゥルルルル――――――――ッ!!
 書類の束を渡した直後に鳴り響く電話。日向は今までの表情を百八十度変えて電話を取る。
 「はい! 六道除例事務所ですが? 」
 「横島君〜〜、これ本当にやるの〜〜〜」
 「やるしかないでしょ。やらないとどうなることやら」
 仕方がないので書類をテーブルに移して、しぶしぶ仕事を始めようかと思った矢先に。
 「お嬢様、横島君仕事です。すぐに準備してください」
 「え〜〜っ! でもこの書類が〜〜〜」
 「それはとりあえず私が処置しておきますのですぐに向かってください」
 電話を置いた日向はテーブルの上に乗った書類を取り上げると、二人を早く現場に向かわせるように促す。
 「でも今日は雨もすごいし〜〜、雷もなってるし〜〜〜」
 「先方からキャンセルがあって、どうしても今日中に除霊してもらいたいそうです。どうせ書類仕事はいい加減なんですから早く行ってください」
 「あう〜〜〜」
 そう言われてはみもふたもなく、冥子達はしぶしぶ事務所の外へと向かう。
 「現場はこのすぐ近くです。車の用意はできていますからすぐに向かってください」
 冥子に必要事項の書かれた書類を手渡した日向は、自分のディスクに山積みにされた書類に向かって再び戦いを挑み始めた。
 「あっ! そうだ、横島君」
 部屋を出掛かっていた横島に対して、急に思いついたように日向は、
 「へっ! なんですか?」
 「くれぐれも現場を壊さないようにね」
 「・・・・・・なんで、俺に言うんですか・・・・・・・」
 「分かるでしょ。あなたしかいないのよ(お嬢様のプッツンをとめられるのが)」
 「努力はします」
 微妙に日向の心中を察した横島は、血の涙を流しながらその言葉だけをひねり出したのであった。



 そうして現場までやってきた二人だったが、こんな暴雨の中とあって気分もなかなか上がらない。
 「なんでこんな雨の中で墓地にこなきゃならんのですかねぇ〜〜」
 まったくその通りだ。仕事でもなければ、こんな薄暗い日に墓地なんかに来たくはないだろう。
 すでにこの場所には、冥子と横島の二人しかいない。ここまで運転してくれた人は、除霊で万が一のことがあっては大変なので現場から数キロはなれた所に退避している。その危険が、悪霊によるものか、はたまた雇い主の暴走によるものかはわからないが。
 「そ〜っ、それにしても不気味ね〜〜〜、悪霊も見かけないようだし〜〜。もうそろそろ帰らない〜〜〜」
 引きつった表情で冥子が言うが、
 「俺だってそうしたいっすけど、このまま帰ったら日向さんや冥香さんに何を言われることやらわかりませんし・・・・・・」
 腕組みしながらこのままココに残るリスクと、帰ったときのリスクを比べてどちらを選ぶべきか悩む横島。
 「うう〜〜。仕方ないから早く終わるようにがんばりましょう」
 ココに残るリスクを選んだ横島は、なくなるべく早くこの仕事が終わることを願って自分の影から一本足のカラスの式神を取り出す。
 「そうねぇ〜〜〜。二人でやれば早く終わるわよねぇ〜〜〜」
 そういって冥子も自分の影からネズミの式神『クビラ』を取り出して肩に乗せる。
 二人ともレインコートを着ているが、式神たちは雨さらしになってしまう。しかし2体ともあまり気にした様子もない。もともと霊体だから雨とかは関係ないのかもしれない。
 「でも今回の依頼を取りやめた人って一体誰なんでしょうねぇ?」
 「雨って結構霊的によくないから〜〜、危険だっておもったのかもしれないわね〜〜〜」
 「! それじゃあ俺ら大丈夫なんですかッ!?」
 「大丈夫よ〜〜。みんな(式神たち)や〜〜、横島君もいるし〜〜〜」
 (冥子さん信用してくれてるんですか? ・・・・・・何も考えてないだけじゃないでしょうね)
 その笑顔をどう判断したものかと微妙な心境を抱きつつも、頭に乗っかった式神を飛ばしてあたりを探らせることにした。
 「ヤタッ! この周辺に怪しいところがないかどうか探ってくれっ!!」
 ぐぎゃっ! と叫び声をあげると横島の頭から空高く舞い上がって周囲の散策を開始する。
一つしかないその目玉をぎょろりとさせて周囲に怪しいものがないかどうか注意深く見下ろす式神の下では、クビラが怪光線を発しながらあたりを照らす。


それから二十分ほどが経過した。
 「ぜんぜん来ませんねぇ〜〜〜」
 「はぁ〜〜、冥子もうつかれた〜〜〜」
先ほどから特に進展もなく周囲を探索するが一向に、何者も現れてこない。冥子はその場にひざを抱えて座り込みながらため息をつく。

 シャッ・・・・・・

 「!?」
 「横島君どうかしたの〜〜〜?」
 「いや。何か気配を感じたような気が」
背後を振り返ってみるがそこには予想に反して何者の姿も見ることは出来ない。
気のせいかと思ったそのとき、
 「冥子さん危ないッ!!」
 「え〜っ・・・・・? いやぁあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
墓の中からいきなり現れた日本刀が冥子に向かって襲い掛かってきた。
冥子が意図したわけではないだろうが、その危機に反応して影の中からクビラが飛び出して日本刀を遠くまで弾き飛ばす。
 「ナイスっ! クビラっ!」
上空から横島の前にヤタが急降下でやってくる。式神を構えながら二人は吹き飛ばされた日本刀のほうへと目を向ける。
ぼ〜〜と、その周辺が揺らいだかと思うと、かすかにその姿が明らかになる。どうやら落ち武者のようだが、その姿をはっきりと捉えることは出来ない。本体の霊体は意識しないとまともに捕らえることは出来ないが、その手に持たれた刀だけは、はっきりと見ることが出来た。
 「冥子さん見えますか?」
 「あんまり見えないわ〜〜〜。でも〜〜、クビラちゃんが照らせばはっきり見えるはずよ〜〜〜」
そういってクビラは落ち武者の霊に向かって快光線を発射するが、
 「はやいッ!?」
落ち武者は驚くべき俊敏さで、クビラの危険性を察知し姿をくらまし再び移動する。
 「何処にいったの〜〜〜っ!?」
再び落ち武者の気配が周囲に溶け込んでしまった。霊自体たいしたことないように見えるが、自分の気配を殺しながら意図的に刀だけに力を注いでいるとしたら。並みの霊でないことは確かだ。
 「やばいでよ冥子さん。あいつの気配が完全に消えました」
 「みんなもお願い〜〜〜っ!?」
すべての式神を取り出し周囲を固めるが、何処から攻撃が来るのかまったく予想できない。
影から飛び出してきたインダラが、何かを感じたのか角を振るう。
ガシーーンッ! というような音がしてインダラの角が突如出現した刀を受け止める。そのまま弾き飛ばしてひづめで反撃しようと試みるが、落ち武者の気配が再び途絶える。
インダラの攻撃は空を舞い、風を切っただけで終わってしまう。
 「ヤバイですよ、冥子さん。なんであんなのがこんなところにいるんですかッ!?」
 「分からないけど〜〜っ!? あそこまで高等な霊力の操り方をするなんてただものじゃぁないの〜〜〜ッ!?」
パニックに陥りそうな冥子を何とかなだめながら、横島は必死に打開策を練る。
 (ヤタやクビラが見つけられないんじゃあ、簡単に見つけることは出来ない。文珠を使おうにも姿を見せた瞬間に発動させるしかない、けど何処に現れるか分からないその瞬間を捉えられるのか・・・・・・)
いっそのことこの周辺一体を文珠で吹き飛ばそうかと物騒なことを考える横島だが、
 「きゃぁ〜〜〜〜!?」
再び刀が出現するが、それを察知したマコラが刀に殴りかかってその軌道をそらす。
 (こいつさっきから冥子さんばかりを狙っているような・・・・・・)
横島は何かを思いついたのか冥子に近づく。
 「冥子さんッ! 俺に考えがあります。コイツを式神達に持たせてくださいッ! 後これを冥子さんがッ! いいですか合図したこいつらを自分から少しだけ遠ざけてください」
 「で〜〜っ、でも〜、そんなことしたら私が〜〜〜」
いま式神たちを自分から離せば冥子に身を護るすべはない。それを承知で横島はやれといっているのだ。
 「大丈夫です! 俺を信じてくださいッ!」
しっかりとした意思を持ったその瞳に冥子は、横島を信じることを決意する。
コクリと、静かにうなずくと冥子は横島からもらった文珠を自分の手の中でぎゅっと抱きしめる。
そして再び刀は出現しそれを冥子に当たる瞬間に、インダラが足で弾き飛ばす。
 「いまですッ!」
 「みんな〜〜〜っ!」
冥子の叫びに応じて式神たちが、冥子の体から2メートルほど離れたところに分かれて冥子を囲うように展開される。冥子の頭上には、シンダラとヤタが旋回を続ける。
式神を体から放した式神使いはまさに無防備、そうでなくてもあの悪霊は最初から冥子一人に狙いを絞っていた気がする。
冥子から式神たちが離れた今が、彼女を葬り去る絶好のチャンス。この状況をあの悪霊が逃すとは思えない。
そしてその思惑通りに、冥子の眼前に刀が姿を現した。
 「冥子さんッ!!」
横島が叫ぶのと同時に冥子の持っていた文珠とインダラに持たせた文珠が光を放つ。
 「お前が冥子さんを狙い続けていたから式神たちが彼女から離れればすぐに攻撃してくると思ったぜッ! 冥子さんには『糸』を式神たちには『専』の文珠を持たせてある。その中にお前という『、』が入って『縛』の文珠が発動するッ! お前は網の中に自分から飛び込んできたんだよッ! まさに飛んで火にいる夏の虫だなっ!!」
最後の仕上げといわんばかりに横島は捕らえられた悪霊に向かって『色』と書かれた文珠を投げつける。
 「これで姿を消せないだろうッ!?」
今まで見えていなかった姿が、ペンキをぶっ掛けたように真っ赤に染まる。
 「バサラちゃん〜〜、やっちゃいなさい〜〜〜ッ!!」
大口を開けたバサラは、冥子の前に現れた悪霊の霊力を飲み込んでいく。
 『ぐぅううううううううううううううう』
苦しそうな声を上げながら最後の力を振り絞って何とか逃げ出そうと試みるが、体から力が抜けてうまくいかない。霊力の90%を吸い取られて最後の止めとばかりにサンチラの雷撃が走る。
体から発せられた雷はまっすぐに悪霊の体に直撃した!?
 「やりましたねぇ、冥子さんっ!?」
 「ちょっと待って横島君〜〜〜・・・・・・あれ〜〜〜!?」
悪霊を退治したと思われたが、冥子のさした指先には野球ボールくらいの煙、見方によっては人魂にもみえるものがふらふらと漂っていた。
 「あいつ、まだ生きていたのかっ!? 本当にしぶといやつだ」
 「追いかけましょう〜〜〜」
雷撃で文珠の効果が切れた瞬間に逃げ出したのか、かなり弱体化しているようだが、そいつはまだまだ生きて(死んで)? いたようだ。
だがその動きは鈍く、ふらふらとしながらそのまま草陰の中へとゆっくりと落ちていった。
 「コイツまだ生きてやがったのかッ! いま止めを「ちょっと待って〜〜」」
落ち武者に追いついた横島が右手に霊力を集めて霊波砲を放とうとしたとき、冥子の声が制止の言葉を放つ。
 「この下にあるのって〜〜、もしかしてこの子の首塚じゃないかしら〜〜〜」
そういわれて下を見てみると、確かに砕け散った石の塊が大小散らばっていた。
 「確かに・・・・・・じゃあコイツは自分の家が壊れてさまよっていたってことですかッ」
 「だれだって自分の家がいきなりなくなったらさびしいわ〜〜〜、この家を直してあげたらこの子も暴れだしたりしないんじゃないかしら〜〜〜」
横島は先ほどの『専』の文珠を『直』に書き換えて首塚に放ってやった。
文珠は光を放ち、光が消えると同時にそこには、完全に修復された首塚が現れたのだった。
 「これで大丈夫なんですか?」
 「きっと大丈夫よ〜〜〜」
首塚が戻ると弱りきっていた落ち武者の霊は、一瞬こちらを振り向いたかと思うとゆっくりと石の中に消えていった。
最後に振り向いたその姿は、なんだかすまなそうな顔をしていたような、苦笑いをしていたような気がしたが、その真相は定かではない。


 「それじゃあ帰りましょうか」
 「いやぁ〜〜。お見事でしたよ」
 「だれ〜〜〜?」
除霊が終わっていざ帰ろうかと思っていたとき、自分達以外には誰もいないと思われていた墓場に響く第三者の声。
拍手とともに現れた姿は、黒いコートを着た金髪の少年だった。
 「お前一体ッ!? こんな墓場になんのようだ!?」
このような場所に何の目的もなく入り込む酔狂なものなどまずいないだろう。しかもココは除霊のために一般人が入り込まないようにしているはずだが、
 「これはすみません。実はあなた方に依頼を持ってきたのですが現在仕事中ということだったので、せっかくですから仕事の依頼者としては、あなた方の仕事振りを見学させていただきました」
 「でも〜〜、こんな所にひとりできちゃあ危ないわよ〜〜〜」
 「ご心配なく。僕は唐巣先生の弟子で、ピエトロというものです。自分の身くらいは護る自身はありますので。ついでに僕のことはピートと呼んでください」
 「唐巣神父の弟子? 唐巣神父って言えば確か美神さんの師匠の」
 「そうよ〜〜〜、確か〜〜、令子ちゃんのお母さんも私がお腹にいたから唐巣神父のところで修行していたって聞いたの〜〜〜」
 「でも唐巣神父ってGSじゃあトップ10に入るはずじゃあ・・・・・・そんな人が俺達に以来って相手はどんな化けモンなんだ」
冷や汗を流しながら横島が問うと、
 「場所は地中海の小島、ブラドー島といいます。僕の口からはこれ以上は、後は先生から直接」
口ごもるピートに冥子が、
 「その依頼って私たちだけなの〜〜〜?」
 「いえ。あなた達以外にも、美神さんやエミさんにも応援をお願いしました」
 「令子ちゃんや〜〜、エミちゃんもくるの〜〜〜っ!? それじゃあ私も行くわ〜〜〜ッ!」
 「うぉおおお―――――ッ!! 久々に美神さん達のナイスバディが拝めるぞッ!!!」
 「それじゃあっ!? 引き受けてもらえるんですねっ!」
令子やエミと一緒の仕事ということもあって、冥子と横島は二つ返事で仕事を引き受けるのであった。
 「それじゃあよろしくお願いします。相手はとても手ごわいです、くれぐれも注意してください」
詳しい日付などはすでに事務所に渡してあると言い残すと、ピートは準備があるためにその場を跡にした。

 「しかし、なんか妙な奴だったなあ。なんか人間と違うような・・・・・・」
かすかな違和感を胸に横島たちは墓地を跡にしたのだった。


 「あ〜〜あ〜〜〜、早く帰ってお風呂にはいりたいの〜〜〜〜」
 「それでしたら僕がお背中をッ!!」
 カプッ!!
 事務所に付いても横島は、サンチラに噛み付かれたままであった。


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