椎名作品二次創作小説投稿広場


ニューシネマパラダイス

ヒャクメがとおる


投稿者名:UG
投稿日時:06/12/14

 それは本格的な寒さが到来した12月初旬の出来事だった。
 寒風吹きすさぶ中、自転車で美神事務所にたどり着いた横島は、暖房の効いた室内の空気にホッとした表情を浮かべた。
 参上の挨拶もそこそこに冷え切った両手に息を吐きかけ擦り合わせると、ジンとした痺れと共に指先に徐々に感覚が戻ってくる。
 手袋もせずにハンドルを握っていた指先はすっかり感覚を失っていた。

 「遅かったわね。朝食はとっくに済ませちゃったわよ」

 パソコンのモニターから視線を外し、美神は寒そうに震える横島を見た。
 本日の除霊は昼からなのだが、早朝から深夜まで一日仕事になることが多い土曜日は、朝から食事を共にすることが度々だった。
 朝食を食べそびれた事に悲しそうな表情を浮かべると、横島は震えの残る声で残念そうに呟く。

 「遅かったか・・・おキヌちゃんと同じく試験期間中なもんで、夜更かしして寝過ごしちゃいました」

 「えっ!」

 こともなげに定期試験中であることを口にした横島に、美神は驚いた顔をする。
 おキヌが試験期間中なのは美神も知っていた。
 そのためここ数日、おキヌは部屋で試験勉強に勤しみ除霊には参加していない。
 しかし、同じ高校生である横島は、いつもと同じようにバイトのシフトを入れていたのだった。

 「何スか・・・驚いたような顔をして」

 「いや、アンタの学校は試験も何にも無いと思っていたから」

 「お化けの学校ッスか俺の学校は・・・」

 5割方本気の美神の台詞に苦笑を浮かべる横島。
 机妖怪やバンパイアハーフの同級生がいるだけに強く否定できないのが悲しかった。

 「じゃあ、試験勉強はちゃんとやっているの?」

 「勉強はまあ、それなりに・・・赤点はとらないようにノートも借りてますし」

 「それなりにじゃダメよ! 言ってくれれば休ませてあげたのに・・・」

 いつぞやの百合子のことを思い出したのか、美神はマウスから手を離し横島の方に向き直った。
 そんな美神の姿にどことなく母の面影を見いだし、横島は複雑な表情を浮かべる。

 「試験はあと一科目だけだし、本当に問題無いっスよ。それに・・・・・・」

 「それに何よ・・・」

 美神は上目遣いで横島の方を睨む。
 その視線には自分の好意を受け入れようとしない横島への腹立たしさと、続く台詞への興味が混在していた。
 数秒の間その視線を受け止めた横島は、視線を反らせてからわざとらしい身震いを一つし、いつもの笑顔で続く台詞を口にする。

 「・・・それに、美神さんトコがライフラインなんだから休んだ方がキツイですし」

 「そう・・・じゃあ、しっかり働いて貰いましょうか」

 美神はすっかり脱力した様子で再びマウスへと手を伸ばす。
 読み合わせもほぼ完了し、後は打ち出すのみとなった報告書のファイルを終了させてから美神は席を立った。

 「急に一休みしたくなっちゃった・・・紅茶煎れるけど、アンタも飲むならついでに煎れてあげるわよ」

 美神はありがたそうな顔をした横島に口元を緩めると、お湯を沸騰させる所から紅茶を煎れ始めた。






 「うーっ・・・やっぱ、カロリーが入ると体温が上昇するのがわかりますね」

 手に持ったティーカップの温度を楽しむように横島が紅茶を啜る。
 お茶請けに出された朝食の残り物というピザトーストは、瞬く間に彼の胃に収まっていた。
 おキヌの負担を軽くするため、ここ数日の朝食はご飯ではなくパンとなっている。

 「アンタみたいに日常でサバイバルをしていれば特にでしょうね。アンタの分も用意しておいてくれてたおキヌちゃんに感謝しなさい」

 美神は遅めの朝食にありつき、満足そうな顔をした横島におキヌへの感謝を促す。
 おキヌは現在、自室で試験勉強の真っ最中だった。
 横島が来たのに気付かないくらい勉強に集中しているのだろう。
 少し悪いと思いつつも、美神はおキヌの勉強の邪魔をしないよう、お湯が沸騰するまでの時間で焼かずにとっておいたソレをオーブントースターで調理していた。

 「もちろんですよ! おキヌちゃん無しじゃ俺も美神さんもどうなるか・・・」

 横島はそう言いながら、あちこち散らばった事務所の様子を見回す。
 どうすれば一晩でこれだけ散らかせるのか? 空き巣に入られたかのような散乱ぷりだった。

 「これは仕方なかったのよ! 昼に提出しなきゃならない報告書があるって言うのに、プリンターのインクが切れちゃって・・・買い置きがあるか探したんだけど何処にも見あたらなかったのよね」

 「・・・で、シロにお使いを頼んだと?」

 「シロだけじゃ心配だからタマモも一緒にね。だから今日の昼食は・・・」

 「「キツネうどんと、いなり寿司」」

 ハモった昼食のメニューに二人はおかしそうに笑った。
 横島はひとしきり笑ってから、ようやく納得がいったかのように呟く。

 「そういう訳でしたか・・・来たとき誰も出迎えてくれなかったんで寂しかったっスよ。勤め始めた頃は事務所に美神さんしかいないのが当たり前だったのに」

 「そうね。一度賑やかなのに慣れちゃうと・・・」

 横島の言葉に同意したものの、美神は続く言葉を飲み込んでいる。
 独りで肩肘張って生きてきた自分に、いつの間にか出来た仲間たち。
 この関係がいつまでも続くように願う気持ちを、素直に口にするのは抵抗があった。
 それが自分にとって都合のいい箱庭に過ぎないことを美神は理解している。
 その気持ちを知ってか、横島も続く美神の言葉を促そうとはしなかった。


 『マ・・・オーナー。シロさんとタマモさんがお帰りです。結界の出力を上げる要請がありましたがよろしいでしょうか?』


 人工幽霊の言葉に、二人は顔を見合わせ口元に笑いを浮かばせる。
 階段を駆け上がるシロとタマモの足音が、また賑やかな日常を運び込んできたらしい。

 「OKよ! 横島クン!!」

 「了解っス!!」

 咄嗟の事態に対応するため、二人は警戒態勢を整える。
 しかし、運び込まれたトラブルは二人の想像を遙かに超えたものであった。












 「ただいまーっ!」

 珍しく帰宅の挨拶にシロの声はしなかった。
 電器量販店の紙袋を抱えたタマモが勢いよくドアをあけ事務所に駆け込んでくる。
 続いて駆け込んできたシロの姿に、美神は手に持った神通棍を床に落としてしまっていた。

 「シロ? その背負っている人はいったい?」

 美神はシロに背負われている人物を恐る恐る指さす。
 シロの背には、ぐったりと気を失っている女の姿があった。
 美神の質問に答えるため、シロは背負っていた女をソファに横たえると、口に咥えていたスーパーの買い物袋を左手に移し替える。
 両手が塞がっているためとった行動だったが、妙に似合う買い物姿だった。

 「ゼッ、ゼッ者たちが・・・」

 「私たちが買い物をしていたら、この妖怪が仲間の妖怪に襲われていてね。可哀想だから助けてあげたの」

 人を背負った状態での、鼻呼吸だけでの全力疾走は流石に堪えたのだろう。
 エスキモー犬さながらの息の荒さを見せたシロの代わりに、電器店の荷物を抱えたタマモが状況を説明した。
 シロは呆然とする美神と横島を他所に何回か深呼吸を繰り返すと、ようやく整った息でタマモの説明を引き継ぐ。

 「タマモが幻術で妖怪たちを化かしている間に、拙者が連れて逃げてきたでござるよ・・・全く、仲間割れか知らんが酷いことを」

 シロはいたわるように女妖怪の髪をなでつける。
 攻撃されたときに傷ついたのか、女妖怪の額にある瞼のような部分はクッキリと青あざになっていた。

 「いや、二人ともソレ妖怪じゃないし・・・ていうか、シロ、お前は妙神山で会っているだろ!」

 妙神山で行われた神族・魔族との合同演習を思い出した横島は、多少の気まずさを感じながらシロにあの時のことを思い出させる。
 その時の記憶を思い出したのか、シロも複雑な表情を浮かべた。

 「何処かで見たことがあると思ったら、あの時の神族でござったか・・・」

 「嘘でしょ!? 神族ならもっと強いはず・・・」

 神族という言葉に驚いたタマモだったが、力なく首を振る美神にその件が触れてはならないことだと理解する。
 そして、横島とシロが浮かべた気まずそうな表情にも触れてはならない何かを感じていた。

 「ヒャクメ・・・アンタ一体ナニやらかしたのよ」

 美神は呆れたように、未だ意識を取り戻さないヒャクメに語りかけた。






 「う・・・」

 額に置かれたひんやりとした感覚にヒャクメは意識を取り戻した。

 「お、気がついたかヒャクメ!」

 「横島さん、美神さん・・・ここは、一体・・・?」

 「私の事務所よ・・・それにしても一体ナニが起こったのよ?」

 覚束ない視界でヒャクメは周囲を見回した。
 堪らない違和感に額に手をあてると、その部分にある感覚器官がガーゼで覆われていることにようやく気付く。
 彼女にとって最も重要な感覚器官であるその部分を塞がれ、彼女の情報認識能力はいつも以上に落ちていた。

 「クッキリと青あざになっていたから応急処置をね。絆創膏が気になるなら剥がすけど?」

 横島は手に持った氷嚢を掲げると、ヒャクメに行った処置を説明する。
 合同演習時の後ろめたさ故か、横島とシロは率先してヒャクメの介抱を行っていた。

 「ううん・・・手当ありがとう。私、変な子供に急に履き物を・・・そうだ! 荷物! 荷物はどこなのねッ!!」

 額にバッテン型の絆創膏をつけたまま、ヒャクメは慌てたように彼女の持ち物を探す。
 しかし、トレードマークになっているカバンは最初から持ち込まれてはいなかった。

 「はい! 探しているのはコレでしょ?」

 「コレなのねっ! ありがとなのねっ!!」

 タマモが差し出した電器量販店の紙袋をヒャクメは大事そうに抱きかかえた。
 横島と美神はようやくその時になって、タマモが抱えていた紙袋がインクカートリッジを入れるには大きすぎることに気がついた。

 「えーっと、シロさんは知っているけど、この妖弧さんは初対面なのね〜」

 「タマモって名前でね。人間界に慣れるまでシロと一緒にウチに居候しているの。アンタを助けてココに連れてきたのも、この二人だからお礼くらいは言ってあげて」

 「そうなのねっ! ありがとなのねっ! 今度絶対に恩返しさせてもらうのねっ!!」

 美神の言葉を受け、ヒャクメはシロとタマモの手を交互に握り何度もお礼を口にする。
 神族としては破格の腰の低さに、タマモは今まで抱いていた神族のイメージが崩壊していくのを感じていた。
 合同演習での出来事に後ろめたさを感じていたシロは、そのコトを引きずっていないヒャクメに感動すら覚えている。

 「しかし、ヒャクメを襲う妖怪とは一体・・・人から恨まれるようなキャラクターじゃ絶対ないよな」

 役立たずでも神族。
 ヒャクメの広い心に同じ感動を味わっていた横島は、彼女を襲った妖怪たちに強い憤りを覚えていた。
 そして横島は、足下に置かれた電器量販店の紙袋に視線を落とし軽く頬をひきつらせる。
 美神も気付いたのだろう。横島と視線を合わせ同じような表情を浮かべていた。

 「横島クン・・・昔、ドラクエ強盗ってニュースになったわよね」

 超人気ゲームを並んで買った学生が、その帰り道にカツアゲされる事件を美神は思い出していた。
 ヒャクメの大事そうに抱えていた紙袋の中身は、本日発売となったユニークなコントローラーで話題のゲーム機だった。

 「でも、アレは気の弱そうな中学生とかが・・・ウッ」

 恐らくヒャクメは徹夜で並んだのだろう。
 徹夜してゲームを購入し、帰り道で妖怪にカツアゲされそうになる神族。
 その存在に横島は思わず涙を浮かべていた。

 「強くなれヒャクメ! 正義が力ではない、力が正義なんだ!!」

 「ちょ、ちょっと、横島さんいきなり何なのね〜」

 訳の分からないことを言いながら、励ますように両肩をゆする横島にヒャクメは戸惑いの表情を浮かべていた。

 「妖怪にゲームをカツアゲされるようなキャラクターは返上するんだ。強ければそれでいいんだ! 力さえあればいいんだっ!!」

 「横島さん、何か勘違いしてるのねっ! 多分、あの妖怪たちは前から私を狙っていた・・・」

 ヒャクメは横島の手から逃れると、ハードな発言をさらりと口にする。

 「私、しばらく前からストーカーされてるようなのね〜」

 「は?」

 美神と横島の頭上に大きな【?】が浮かんでた。
 ヒャクメとストーカーという言葉がなかなか頭の中で結びつかない。
 もちろん「ストーカーされる」という受け身限定の用法でではあるが・・・
 完全に二人を置いてきぼりにしていることにも気付かず、ヒャクメは更に説明を続けていた。

 「ずっと誰かに見られている気がしてたのね〜。それに、時々「助けに来た、助けに来た」って・・・何処かで私を見初めた誰かが、私を掠おうとしているようなのね〜」

 「ヒャクメ! いくら現実が辛いからと言っても空想の世界に逃げちゃダメだ。こっちの世界に帰って来い!!」

 「横島さん失礼なのねっ! 小竜姫や老師に相談したらもっと真剣に心配してくれたのねっ!!」 

 「いや、心配していたら一人で表には・・・」

 「小竜姫は私に空手の特訓をしてくれたのねっ! 私は相当に強くなってるハズなのねっ!!」

 ヒャクメはそう言うと、空手の型らしいポーズをとる。
 しかし、どう見てもダチョウ倶楽部の物まねにしか見えなかった。

 「あ―――、ちなみにどんな特訓をしたの?」

 何か嫌な予感がしているのか美神が恐る恐る特訓内容を尋ねる。
 美神が小竜姫ならば十中八九、アレをやらせるはずだった。


 「空手の特訓といったら、ペンキ塗りやワックスがけに決まっているのねっ!」


 ブワッ!
 妙神山の清掃にこき使われるヒャクメの姿を想像し、横島は涙を止めることが出来なかった。

 「ヒャクメ、目を覚ますんだ・・・お前は騙されている・・・その証拠に、今日は危ない所だったんだろ」

 「今日はたまたまなのね・・・この荷物を守るために両手が塞がってたのね」

 あくまでも妙神山での労働を特訓といいはるヒャクメに、美神の目にも涙が浮かんでいた。
 作者も正直泣きそうである。

 「自分の体とそんなゲーム機とどっちが大切なのっ! 本当に目を覚ましなさいっ!!」


 「美神さんまで・・・違うのねっ! コレはゲームじゃないのねっ!! 老師が今日からコレを使ってヌンチャクの使い方を教えてくれるのねっ!!」


 ブワブワッ!!
 ヒャクメの言葉に美神の涙腺も決壊する。
 作者も、涙できーぼーどがみえn・・・・・・









 「もういい! もういいんだヒャクメ・・・特訓なんかする必要はない、お前は俺たちが守ってやる! そうですね美神さん!!」

 「ええ、そうよ!! 好きなだけここにいなさい」

 二人は流れる涙を隠そうともせずヒャクメに微笑みかける。
 ここで一旦注意しておきたいが、この話は妙神山ヘイトでは決してない。




 『オーナー、周囲に夥しい数の妖怪が。完全に囲まれています』

 「ストーカーは本当だったの!!」

 突如寄せられた人工幽霊の報告に一同に緊張が走った。
 事務所を取り囲む妖気は、最強レベルの結界を展開している事務所内にいてさえ首筋にチリチリとした感覚を生じさせている。
 美神と横島は一瞬でアイコンタクトを完了し、それぞれがお互いの持ち場についた。















 「シロっ! タマモっ! ヒャクメから離れちゃダメよ!!」

 「了解!」

 「で、ござる!」

 美神の指示のもと、シロとタマモがヒャクメを取り囲む。
 お互いの背にヒャクメを配置することで、二人は死角を作らずにヒャクメを防御する態勢を作り上げていた。

 「横島クン! 敵の規模と属性を!!」

 美神はそう言うと本棚から一冊の魔道書を引き抜く。
 それがスイッチになっていたのか、重厚なマホガニー製の本棚が音もなくスライドし、隠されていた武器庫をあらわにした。
 棚に整然と並べられた銃器を一瞥すると、美神は武器を選択するための情報を待ちかまえた。

 「何やっているの! 報告が遅いわよ!!」

 なかなか索敵を終了させない横島に、美神は横島が立つ窓辺に苛立った視線を向けた。
 そこに立つ横島は、まるで塩の柱になったかのように身じろぎすらしていなかった。

 「まさか敵に石化能力が!? 横島クン!!」

 美神は近くにあった自動小銃を手に持つと、スライディングの要領で横島が立ちつくしていた窓辺に飛び込んでいく。
 壁に背中を貼り付けるように陣取り、美神は横島の状況を確認する。
 固まった横島の顔を見上げ、美神の目が驚きに見開かれた。



 ぽわ―――っ


 横島は独特な擬音を生じさせながら、びっちりとした点描で表現されたエクトプラズムを吐き出していた。

 「まさか・・・」

 美神はおきあがると横島の隣りに立ち窓の外に視線を向ける。


 ぽわ―――っ


 3秒後
 美神の口からも同じようにしてエクトプラズムが吐き出される。
 窓の外には目鼻がついた一反もあろうかという布状の妖怪や、平たい壁のような妖怪、赤い腹掛けとミノを着込んだ妖怪など、何処かで見たことのある妖怪たちが憎悪にぎらついた目で美神事務所を見上げていたのだった。



 ――――ま、まさか


 美神は苦労してエクトプラズムを飲み込むと、同じように意識を回復した横島を横目でみる。
 今回のオチが予想できたのか、横島も緊張の面持ちで美神に視線を向けていた。


 ―――アンタ、確認しなさいよ


 目で訴える美神に、横島は小さくイヤイヤをする。
 二人とも今回のオチを確認する勇気はないようだった。
 しかし、二人は見てしまう。
 妖怪の集団から黄色と黒のちゃんちゃんこを着た少年が歩み出るのを。
 自分の想像が100%当たっていることを確信した二人の耳は、異変に気づき事務所に顔を出したおキヌの声を捉えていた。




 「この妖気、いったいどうしたんですか・・・あ、ヒャクメ様いらっしゃい」

 美神と横島におキヌを振り返る勇気はない。
 二人は背中に全神経を集中し、ことの成り行きを見守ることにしていた。

 「おキヌちゃん、お久しぶりなのね〜」

 「久しぶりすぎますよ! 私、ずっと心眼を預かりっぱなしじゃないですか」

 「そんなコトないのハズ・・・ちゃんとあの後、返して貰ったのね〜」

 予想通りの展開に美神と横島の心拍数が跳ね上がる。
 二人の緊張を知らずに、ヒャクメはのほほんとした口調でおキヌの言葉を否定していた。
 窓の外ではちゃんちゃんこの少年が、憎悪の視線を美神と横島に向けはじめる。

 「何いってんですか! 本当に一つだけ置いていったままなんですよ」

 「変なのね〜。私の両耳にはちゃんと心眼がついているのね〜」

 「え? 本当だ・・・・・・あっ!!」

 何かに気付いたおキヌの声に、美神と横島はビクリと首を竦ませる。
 窓の外では少年が何かを叫ぼうと大きく息を吸っている所だった。








 「ヒャクメ様! なんで片方の心眼に手足がついているんですか!?」


 「父さんを返せ―――――っ!!」







 ―――ああっ、やっぱり

 美神と横島は覚悟を決めると同時にヒャクメを振り返る。
 どのようにしてそうなったのかは果てしなく謎だったが、その耳元には少年の父親らしい目玉型の妖怪が、ぐったりとした様子で吊り下げられていた。

 「助け・・・キタロ・・・・・・」

 息子の声が聞こえたのか、その目玉は一言だけ発すると再び意識を失っていった。








 「アンタッ! なんてコトしてくれるのよ!!」

 「あうっ! 知らないのね〜。ワザとじゃないのね〜」

 美神はヒャクメの胸ぐらを掴むと往復ビンタをくらわせる。
 効果音はもちろんビビビビビだった。

 「美神さん、そんなことより急いで蘇生を! おキヌちゃん!、お椀とお湯を・・・急いで!!」

 一体なんのコトか分からず呆然としたシロとタマモを置き去りにし、美神と横島による必死の蘇生活動が始まる。
 二人の努力の甲斐あってか、なんとか一命は取り留めたらしかった。







 余談
 ヒャクメを先頭に美神事務所総出で行われた全力の謝罪は、どうやら受け入れられた様だった。
 父を取り返した少年は、怒りの矛先を収めると仲間と共に何処かへ立ち去っていく。
 こうしてオカルト漫画界のヒラエルキーを如実に感じさせた事件は、大きな被害を出さず無事に解決することとなった。
 その後、謝罪を受け入れられ、妖怪たちとうち解けたヒャクメの姿が夜の墓場で時折見受けられるようになる。
 目撃したGSたちの話によれば、楽しそうに運動会に参加する彼女の笑顔は、過去に見せたどんな笑顔よりも輝いていたという。





 ―――――― ひゃくめが盗る ―――――



            終      


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