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GS六道親子 天国大作戦!

勝手にジャッジメント!


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:06/10/24






両軍、沈黙とライバル心むき出しに対峙していた。
集団2つの前には男女一組が先頭で、いや、男2人のみがにらみ合っている。
先に目の前にいる男にオーバーアクションで指した右側の男が怒声を上げた。

「西条! 貴様の様な男の敵は何がなんでも一撃必殺して男裸風呂に叩き込んでやる!!」

指をさされた男、西条はフ、と前髪をかきあげて微笑した。

「横島君…悪いね、これも職場と僕の人徳ってものさ」
「コロス!! 絶対男裸風呂に埋もれさせちゃる!!」

西条の宣言に、更に血圧を上昇させる横島に後ろにいた冥子がまぁまぁ、となだめながらマコラで羽交い絞めする。

「ははは、吼えていたまえ。僕の華麗な部下達の前で」
「俺ら、新人GSをなめるな!! 悪霊退治そのままの勢いでお前だけ踏み潰してやる!!」

まだ言い争いをしている男2人を置いてGメン側の先頭にいたもう1人の女性、美神美智恵がにこやかに笑う。
微妙に口元が引きつって見えるのは気のせいだろう。

「じゃぁ、六道さん? 予定通りお願いします」
「こちらこそ〜 よろしくおねがいしま〜す〜〜」

ペコリとお辞儀をする冥子を見ながら、なんでこうなっちゃったのかな〜と遠い目で過去を思い出す美智恵だった。






GS 六道親子 天国大作戦! 14 〜 勝手にジャッジメント! 〜






美神美智恵は頭を抱えていた。
彼女の目の前にあるのは、自衛隊からの要望書だ。

フー、とため息をついて要望書を再度見る。

最近、自衛隊の練習場で悪霊達が騒いでいるので退治して欲しい、という内容だ。

そして、その横にあるのは調査系GSからの報告書だ。
そこにはその現場の状況が書かれていた。
とある場所を基点に、悪霊たちは騒いでいるのだが、悪霊達のレベルは低いが数は500強。
霊障範囲も広いという難点が書かれている。

これだけなら美智恵とて頭を悩ませない。精霊石ミサイルでも一発打てば終わりと思っていたし
それで終らせる気だったが上層部からストップがかかった。

この件は300万円で終らせるように。というお達しもついて。

正にこれが美智恵には痛い。
Gメンは寄せ集め集団なので悪霊退治といえば霊能グッズに頼るしかないのだが、それを操るスタッフは
弱いといっても過言ではない。

お札や神通棍等の霊能グッズは操る者の能力の高さによって強くもなる。

こういう場合に有効な精霊石機関銃は…1秒で予算を使いきること請け合いであり、破魔札でさえも
いつもの様に乱れ撃ちなどできようもない。

と、なるとGメンの少数先鋭を集めて対処するしかないのだ。なるべく使い減りしない霊能を持った人物に絞るのは必須だ。

ピックアップできた人数は15名…自分と西条を入れても17名。厳しい。
目の前に置いた15名分の履歴書を眺めながら更に眉間にシワが寄ってしまう。

「五条院さんも入れなきゃだめか…ハァ」

隅の方に置かれた履歴書を見て再度ため息をついてしまう。
美智恵が見た履歴書には「五条院 凛佳 六道女学院 高等部卒業 霊能・神通棍他」と書かれているだけだが
美智恵の頭の中には更なる追加履歴がメモリーされている。

「類を見ないプライドの高さでトラブルを起す問題職員………西条君に任せればいいか」

美智恵は厄介事を脳裏の西条に押し付けて、更に思考を進めるが良い案が浮かばない。

やはりメンバーが足りない。40人くらい集めて2組に分け、1組をおとりにして悪霊のすきをついてもう1組が
中心地の浄化をしてこれ以上の悪霊侵入を防ぎ、地道に退治していくのが妥当だ。

む〜、と唸るのと部屋の扉が開かれたのは同時だった。

「美智恵ちゃ〜〜ん、元気〜〜? 遊びに来ちゃった〜〜」
「師匠?!」

驚いて椅子から立ち上がる美智恵に六道幽子は手をひらひらさせて座るように促した。

「今日は〜 西武で京都銘菓販売をしてて〜 つい美味しそうだから買っちゃったの〜〜 それで〜 一緒に
食べようかな〜って思って〜 寄っちゃった〜〜」

ニコニコしながら手に持った菓子折りを開けて影から皿を取り出してお菓子を盛る幽子にため息をつく。
電話をとって緑茶2杯を注文した美智恵は、幽子が座るソファーへ移動した。幽子はお菓子をどこからか
取り出したお皿に盛り付けている。

「このお菓子〜 美智恵ちゃんも〜 好きだったでしょ〜〜 うふ、久しぶりだわ〜〜」
「ありがとうございます。本当に懐かしい…」

素直に口に入れると適度な甘さが舌にとろける。
緑茶を届けてもらって、しばしお菓子と緑茶を堪能していたが、表情をよんだ幽子が手を振りながら笑った。

「やぁね〜〜 お邪魔しに来たんじゃないのよ〜〜 助けに来たのよ〜〜」
「助けに?」
「自衛隊の練習場の件よ〜〜」

正にうめいていた件だ。さすがに美智恵の視線が更に鋭くなる。

「ちょっと前までは〜〜 あそこの子達は〜 いい子だったのよ〜〜? それがちょっと前から〜〜
すごい不良さんになっちゃったのよ〜〜 あんなに集まっちゃって〜〜」

まるでご近所の家の不良子供を言う調子でサラリとのたまう幽子に美智恵もしばらく考えてから首を縦にふる。
あの練習場の悪霊達は自分が研修時代にもいたモノ達だ。しかし、今まではせいぜい兵隊の足をちょっとつかむ
ぐらいのイタズラだったので退治の対象にならなかったのだが、昨今は脅迫に傷害にと立派な不良幽霊になっている。

「………もしかして、経費縮小は師匠のせいですか?」
「買いかぶりすぎよ〜〜 さすがに国家予算について口出しできないし〜〜」

件の除霊を300万円というのは幽子の仕業と見て美智恵が心中で盛大に舌打ちをする。

「GS協会の方に〜 見積り依頼が来たけど〜 お仕事の依頼が入らなかったから〜 コッチに確認に
きたんだけど〜〜」
「………」

相見積もりで安い方を選ぶというシャレた手で防衛庁は来たらしい。
先ほどの誤解をゴミ箱に捨て、誰がこの300万円などという金額を提示したのか怒鳴りたい気分になる。

「で〜、話しを戻すわね〜〜 最近ちょっとした子達もちょっと凶暴になってて〜 GSも大変なのよ〜
特に経験がない新人GSは〜 適度な強さが釣り合わなくて〜 実地の鍛錬が出来ないのよ〜 
その点今回の練習場の依頼は〜 適度な強さで〜 とっても嬉しかったのよ〜」
「………なるほど」
「だから〜 赤字ギリギリで見積もりしたんだけど〜 それよりもGメンが頑張っちゃったのよね〜」

深くうなずく。Gメン側の上層部があせってこんな金額を提示した様が手に取るようにわかる。
心の中で彼らの顔に油性マジックで落書きをしながら美智恵は幽子の話しをうながす。

「こっちは経験を積みたいのよ〜 それで提案なんだけど〜」

チラリと上目遣いをしてから、また影から書類を出して美智恵に差し出す。

「150万でこっちのGS新人達を〜 助っ人に雇ってくれないかしら〜〜」

幽子の言葉を聞きながら書類をめくる。見積もりとGS紹介欄に目を通す。
全員免許所得10年未満の「新人」と呼ばれる者達で、神通棍など、消耗度が低い物を主に扱う霊能を有する者達だ。
ちなみに、ここには雪之丞とピートの名はない。彼らはここで経験をしなくても十分とGS協会では認知されている模様だ。

「で〜〜 こっちのトップに〜 うちの冥子と助手をつけようと思うの〜〜」
「ま、待ってください?!」

今まで良い雰囲気で来たがこれはぶち壊し案だ。
青ざめる美智恵に幽子はまぁまぁ、と手を振る。

「最近〜 暴走しなくなったのよ〜 あの娘〜〜。それに今は〜 横島君とタマモちゃんがいるから〜〜
大丈夫よ〜〜」
「どこが大丈夫なんですか?!」

どこにも好材料が見当たらない美智恵に幽子はほがらかに言い切る。

「じゃぁ〜 助っ人いらない〜〜?」
「………いえ、お願いします」
「良かったわ〜〜 さっすが美智恵ちゃん〜〜」

にっこり笑う幽子に、美智恵は心中盛大に舌打ちするしかなかった。








「りん殿からはとても美味しいご飯をいつもご馳走になっているでござる…と」

シロは書き上げた手紙から目を離して時計を見た。出かける時間だ。
急いで封筒にノリを貼り付け、ついでにりんに貰ったシールと切手を貼って慌てて部屋を飛び出す。

封筒を片手に今日も元気一杯に2階から駆け下りると1階でおキヌがカップを拭いていた。

「おキヌ殿、こんにちはでござる!!」
「こんにちは、シロちゃん…今日もお出かけ?」

おキヌがどこか寂しそうな瞳で訊くと、シロはそんな彼女にお構いなしに尻尾をブンブン振り回して
軽快にお店の扉へと向かっていく。

「今日は美智恵殿に呼ばれているので、遅くなるようだったら連絡を入れるでござる!」

にこやかに言うシロにつられておキヌも笑顔に包まれる。

「先生も美智恵殿に呼ばれていると言っていたので一緒に行く約束をしてるでござる! では行ってくるでござる!!」

ガラン、と音を立てながら開かれ、閉じられたドアをおキヌは見ているしかなかった。






一方、横島は命の危機を感じていた。

「私を食べて―――! 私を食べて―――! 私を食べて―――!」
「食べて食べて食べて―――!」

食べてと口に突っ込んでくるトマト達のせいで横島の口は埋まっており、鼻の穴もトマトが詰め込まれ危機的状況にあった。
急いで回れ右をして安全地帯、扉に向かって猛ダッシュして扉を閉める。
急いで気道を確保し、ついでに咳き込む横島に傍観していたタマモが背中をさする。その背中もトマトまみれだ。

苦笑してタオルを渡す唐巣神父に、やっと苦悶以外の表情をうかべて横島が頭を下げる。

「うう、すいません。今日もトマトしか取れませんでした…」
「ま、まぁ気にする事はないよ。ピート君だってトマトとナスまでしか取れないからね…」

唐巣神父はどこか、遠い目をしながら窓を見る。そこには家庭菜園がたわたに実っていた。
手前から、トマト、ナス、ピーマン、かぼちゃが見え、唐巣神父はその畑のかぼちゃを見る度にかぼちゃの煮つけが
食べたくなるのだが、自分を含めてかぼちゃまでたどり着けないのだ。………凶暴化した野菜たちに襲われて。

神父はピーマンの所で、ピートはナスの所で、横島に至ってはトマト弾丸で畑の中に踏み入れさせてももらえていない。

「恐るべし! 家庭菜園!!」
「誰よ、あんな凶悪な家庭菜園作ったのは?」

拳を震わせてツッコム横島の後ろからタマモの冷静な返しがきた、神父とピートは遠くを見つめる。
横島もちょっと目を泳がせている。

「と、土地が悪いのじゃないですか?」
「悪霊を鎮めたりする、余波じゃないかな? ハハハ」
「俺は何も悪いことはしていないぞ?!」

ピート、唐巣、横島の反論に半眼になるタマモ。

「つまり、アンタ達全員が悪いのね?」

タマモの結論にがっくり3人とも床にうずくまってしまった。

そこにシロが勢い良く扉を開け放ち、機嫌よく横島に衝突した。
床をしばらくすべり、壁にぶつかった横島は当然のごとく、気絶してしまう。

「先生?! なんだかいつもより赤いでござる! 大丈夫でござるか?!」

ブンブンと襟元を上下にシェイクするシロに呆れたタマモの視線が降り注いだが、シロのお陰で正気に
戻った神父とピートが転がっているトマトをざるに集め始める。

「さて、今日もこんなに大収穫ですからトマトスパゲティーですね。タマモさんとシロさんと、横島さんも
いかがですか?」

にこやかに食事に誘うピートに、タマモと横島が音を立てて立ち上がった。

「きょ、今日は隊長と約束してたよな?! うん、してたな! 悪いな、そういうことで!!」
「そ、そうだったわね。美智恵と約束してたわよね! うん、悪いわね!」
「そ、そうだったでござ…ムガ」

疑問を口にした瞬間にタマモに口を押さえられ、ついでに横島に荷物のように背負われる。

「じゃ、そういうことで!!」
「ジャマしたわね!!」

ピートに反論するスキを与えないとばかりに2人+αは表扉に向けて走り、そして扉を閉じる。
そこでやっと安全圏に入ったとばかりにシロを地面に降ろした。

「どうして、お昼をごちそうにならなかったのでござるか? せっかくの…」
「お前、アレを食べたことないな?! アレは生半可なモノじゃないぞ?!」
「そうよ! スパゲティーは伸びきっているし、トマトと塩しか入ってないのよ!! ピートがアレだから
にんにくは入ってないし、コショウは買えないから入ってないしで胃にもたれるのよ!!」

不満げに2人に顔を向けると、鬼気迫る勢いの2人から反論を食らった。
タマモはともかく、横島さえも青ざめる胃もたれ料理なのだろう。シロは窓から見える神父に目を移した。
そこには青ざめて天を仰ぐ神父の顔が見えている。

慌てて走って消える3人を視界の片隅で認識しながら、唐巣神父は呟いた。

ああ、かぼちゃの煮つけが食べたい。と






お昼を適当に買って公園でたべるというささやかながらも財布の中身がわかる昼食をとった後、
集合場所へと足を向けた3人を出迎えたのは冥子だった。
冥子とタマモが並ぶと、服装が同じワンピースということもあって姉妹の様にも見える。ただし
最近のタマモは服装に関しては不服があるらしく、時々自分の服を見てため息をついているが。

「おはようございま〜〜す」

集合部屋の扉を開けながら、挨拶をする冥子。挨拶が朝の挨拶になるのはなぜだろうか。
タマモに続き部屋に入った横島は一瞬で部屋を見回す。
なぜか、座っているメンバーはきっちり半分に分かれており、廊下側は若い男で占められ、窓側は
若い女性で占められている。

「………じゃ、座るか」
「ダメよ〜 私達はこっち〜」
「は、離してくれ! 冥子ちゃん!! 窓が俺を呼んでいるぅぅぅ〜〜!!」

当然のごとく窓側の席に座ろうとする横島を冥子の細腕がズルズルと引きずって廊下側へと移動させる。
相変わらず、どこから沸いてくるのか疑問の怪力っぷりだ。その後ろから少々目をそらせたシロと
眉をしかめたタマモが続く。
一番廊下側に横島を座らせ、その横にシロが勢い良く席に座り、冥子が一番はしに座ったので空いている
席にタマモが座る。
横島の登場で静まり返った部屋だったが、それからはまた雑談に部屋が包まれた。

シロと横島は師弟漫才が繰り出している横でタマモは相変わらず、眉をしかめていた。
視線を感じる。探るような、嫌悪するような、無言のいやな視線を。

<…お金のためとは言え、こんな所に来るのは失敗だったかしら>

目だけで周囲を見ると、誰も彼もが自分に対して壁を作っているのが見え、更にキツイ目になる
タマモの前に冥子の手が差し出された。

「タマモちゃん〜 今日はね〜 オレンジ味のグミを買っちゃたの〜 一緒に食べる〜?」

タマモの不機嫌を物ともせずに、冥子はニコニコとグミを2個手のひらに転がす。
それを思わず見ていると、サ! と横からシロがかっさらい口に入れてしまう。

「うむ。美味しいでござる! これがグミというものでござるか」
「美味しいでしょ〜 中は梅干が入っているのよ〜〜」
「うげ!! し、しょっぱいでござるぅぅ!!」

冥子が言う前に噛んでしまったシロが涙目で冥子を見る。その瞳はしょっぱさでうるうる気味だ。

「ちょっと! それは冥子が私に差し出したモンでしょうが!」
「そうだぞシロ! お行儀が悪いぞ!!」

タマモと横島にもお説教され、シロは尻尾もしょぼしょぼになっている。

「いいのよ〜 まだあるから〜 はい、タマモちゃん〜」
「………遠慮するわ」
「そう〜〜〜?」

ちょこっと梅干が苦手なタマモは視線をずらして辞退すると、冥子はもったいない、と顔で表しながら
グミを口に入れる。それをチラリと見たタマモの目からキツさは抜けていた。
そして、その時やっと主催者の美智恵とその後ろから西条が部屋に現れた。






「で、民間GSさん達はA地点から攻撃して欲しいのです。チームリーダーは六道冥子さん。サブが
横島忠夫さんになります」

冥子の名前を出した途端に真っ青になるGS達から目を逸らす美智恵。

「オカルトGメンは迂回路をとってC地点にある石を浄化してください。こちらのチームは西条がリーダーで
サブが五条院です」
「………よろしく」
「オホホホ、私と仕事ができるなんて光栄な事ですのよ、民間GSさん達」

まだ高笑いをまだ続ける五条院を見てから恨みがましい視線を美智恵に送る西条を無視してさっさと話を進める。

「じゃぁ、各チーム毎に作戦を練って下さい。Gメンは隣の部屋がいいでしょう。シロちゃんはこっちの
Gメンチームだからね」
「ええ〜?! 拙者、先生と一緒がいいでござる!」
「お仕事なんだから」
「…わかったでござる」

難色を示したシロが不平満々に席を立った時、タマモと目があってしまった。
タマモはたまたま、GS達の視線が集まった事に不愉快を顔で表していただけだったのだがシロには
そう見えなかった。単純にガンつけられたと勘違いしてシロの目が威嚇の色をあらわにしだす。
タマモもそれに気付き、2人、火花を散らすガンつけ勝負に入っていく。

「………なによアンタ」
「勝負でござる!! 今回の悪霊退治数でドッチが上か、競うでござる!!」
「勝負っておまえ…」

呆れた横島がシロの後ろから宥めようとするが、タマモは立ち上がって腕を組み、胸をそらした。

「乗ったわ。その勝負、受けてあげる」
「容赦はしないでござる! いざ尋常に勝負でござる!!」
「どっちが上なのか、はっきりさせてあげるわ」

鼻息荒いシロと鼻で笑うタマモに、冥子はともかく横島は宥めようとした手が宙に浮いてしまっていた。

「まぁ、シロさんでしたか? 頼もしいことですわ! さぁ、あちらで作戦会議をいたしませんと」

いつの間にか現れた五条院がにこやかに笑ってシロへと手を伸ばして誘う。
が、シロの手を取る前にその手はサ! と横から来た手に握られてしまった。

「お嬢さん! シロのこと、頼みます! ナンでしたら携帯番号教えて下さい!!」

鼻息荒く、五条院の手を握った横島だったが、素早く手を振りほどかれてしまった。

「バっカじゃないの? 私の手をにぎるなんて百年早いですわ! 西条さんと私の囮役をせいぜい頑張りあそばせ!」

オーッホッホッホ! と笑いながら、呆然としたシロを抱えて颯爽と外へ出て行く。
Gメンメンバーもそそくさと室外へと出て行く。

「あ、あの、彼女はちょっと自分に自信がありすぎるだけだから、気にしないでね?
後できつく言っておくから…」

美智恵が珍しく、沈んだ声で横島に声をかける。しばらく無言だった横島だったがいきなり動き出した。
血の涙を浮かべて。ついでに頭からも噴水の様に血が飛び出している。

「よ、横島クン?!」
「西条のためなんか?! あの西条のためなんか?! 西条ォォォォ―――!!」
「ち、違うと思うわよ? ツッコむ所が」

慌てて横島を宥めようとした美智恵だったが、他のGS達の雄たけびに身をすくませる。

「オオオオ―――!! 民間GSなめるなぁぁ―――!!」
「囮だとぉぉぉ―――!! そのまま本陣蹴散らしたる――――――!!」
「上等だぁぁぁ―――!! その喧嘩、買ってやるぅぅぅ―――!!」

「いいか、テメエ等! よっく聞けぇぇ―――!!」
「オオ―――ッ!!」

即座に車座になって計画を練りだす横島と新人GS達を前に、美智恵は宥める手はなかった。









ちょっと過去に浸ってしまった美智恵の前では既に除霊が始まっていた。

美智恵はテントを張ってある本部で救急班その他と一緒に離れた場所にいるのだが除霊場所は双眼鏡で
見えている。
ついでに無線で指示を飛ばしている横島の声もキャッチしていた。

『赤バンダナ班! つっこみすぎだ! 黒班を待て!』
『赤バンダナ班了解』

霊気の渦で見難いが、民間GS達は冷静に班行動をしている。

「ティーシャツとバンダナで一見して班がわかるようにしているんですね」
「彼等は顔なじみじゃないから…考えたわね」

救護班の警備にまわされ、同じく戦況を見ていた田部の呟きに美智恵もうなずいた。
横島は後方で討ちもらしを除霊しながら指示を送っており、上空には冥子の式神達が危機に陥った者達を
フォローしているので重傷者はまだ出ていない。

「このまま行けそうですね。六道さんの暴走さえ起きなければ」
「ええ、冥子さんの暴走さえ起きなければ」

冥子の暴走が起こったら全てが終る。そう2人はうなずいた。正しい認識だろう。





「…っち、雑魚ばかり多すぎ!」

タマモは荒い息を整えて再度狐火を操り目の前の悪霊に投げつける。
悪霊の視線がタマモに向かった隙に、悪霊の前で転がっていたGSが逃げ出した。

「ちょっとアンタ! せめて一撃してから後退しなさいよ!」

タマモの文句に答える事もなく近くの悪霊と乱闘を始めるGSにため息が出てしまった。
先ほどから、タマモは危機に陥ったGS達の手助けをしていたのだがお礼どころか彼女の姿を後ろに見出すと
逃げるGS達が多いのだ。まるで自分の後ろにタマモがいたら、タマモに攻撃されると言わんばかりに。

「メンドイ………離脱しちゃおうかしら」

あまりの扱いに肩を落としてため息をつくがシロとの競争がある手前、離脱もナシかと首を振ったタマモの耳に
馴染み深い声が届いた。

『タマモ! こっち! こっち来てくれ!!』

切羽詰った横島の声にタマモはマイクに向かってきっぱり言い切った。

「いや」
『タマモぉ〜! 冥子ちゃんが危ないんだって! 式神だって今手元にあまりいないからさ!』
「………」
『わかった! きつねうどん3杯! ついでにゆで卵もつけちゃるから来てくれ!!』

タマモが半眼で横島のいる方向へと視線を向けた。
どうやら横島は複数の悪霊に囲まれているようだがお札を使って律儀に除霊しているらしい。
横島の近くにいる当の冥子は悪霊に囲まれながら、のほほんとしてあまり動いてはいないようだ。

『これも修行よ〜 横島くん〜 お札以外使っちゃだめだからね〜〜』
『無茶苦茶言わないでぇ! タマモ―――!!』
「あ〜、わかったわかった。行くからそれまで頑張ってなさいって」
『なるべく早く来てくれぇ―――!!』

横島の叫びを聞きながら、タマモは彼等の方へと走り出した。その顔に微笑を刻ませながら。






一方、Gメン側も移動しながら民間GS組の奮闘を見ていた。

「新人のくせに、持ちこたえているじゃないの」
「五条院クンも新人だろう…さて、ここからは隠れる場所もないから特攻しかないが、準備は?」
「準備万端でござる!!」

鼻息荒いシロが気合を込めて返事をするが、その声に悪霊たちが振り向いて向かってくる。

「ッチ! 行くぞ!」

西条とシロを先頭にGメン達も武器を片手に走り出した。





Gメンも除霊に入り、除霊作業も本格的になり観戦者の方も熱が入りだした。
そう、美智恵も知らなかった観戦者たち、シロの手紙でこの除霊作業を知った人狼達だ。

「おお! 行けシロ! 右! 左! そこだぁ〜〜!」
「まだまだ霊波刀の出力が甘いのぉ〜 ヒヤヒヤするわい」
「頑張れシロ! 俺等の期待を背負ってペティグリーチャ○をいっぱい送るでござる!」
「そうだシロ! ペティグリーチャ○!!」

酒を片手に、長老以下人狼達が熱い声援を送っていたのだ。応援も酒が入ってどこか破綻している。

「しかし、これはシロには荷が重いでござろう?」

うぃっく、としゃっくりしながらゆらりと立ち上がるペンに慌てたゴンが袴をつかんだ。

「ダメでござる! これはシロの試練でござる!! 試練は1人で耐えるのが武士でござる!!」
「離すでござる! 武士はわが子を断崖絶壁のがけっぷちから下の海に蹴落とすのでござる!!」
「お主、それを子供にやったらララが怒るでござるよ?」
「なぜ?!」
「完全に児童虐待でござる!!」

何気に現代世情的なツッコみをしているとシロ他Gメン達は、やはり悪霊達に囲まれ始めていた。

「危ないでござる!! うりゃぁぁ!!」
「あ!」

お酒で真っ赤な顔をしたクッキーが手にした石を投げつけた。
しかし、当たり前だがその石は悪霊を素通りして1人のGメンの髪の毛を数本犠牲にして木に突き刺さった。

「危ないでござる!! なにをしているでござるか?!」
「………我が魔球を受けもしないとは腐った悪霊でござる」
「どこが魔球でござるか?!」

更に石を投げようとするクッキーを羽交い絞めするゴンだったが、それ以外の人狼達はクッキーに目も
くれずに立ち上がった。どこかにいった目をしながら。

「おぬし、タダ単に投げだだけでござろう? 魔球とはこういうものでござる!!」

ゴンが止める間もなく、ケンが石を投げつける。
石は紛れもなく霊力を纏わせていたが惜しい事に悪霊に届く前に木に激突してしまった。
そして、倒れる木に慌ててGメン達が逃げる。

「甘いなケン、魔球とはこうでござる」

ケンの横にいたジローが素早く石をなげるが悪霊に届く前に霊力が消えてしまい、冷や汗を流している
悪霊を素通りして木に突き刺さった。

「ふ、届かぬでござる」
「今のはちょっとした肩慣らしでござる! 次を見ているでござる!!」

ケンを睨んでから投げるジローだが、その石は悪霊達に当たる前に霊力が消えてしまい、結果木やGメン達に
当たってしまう。

「なんだ?! どこかに悪霊の仲間がいたのか?!」
「気力ですわ! 気力で皆様カバーです…ったいですわ」

慌てて周りを見渡す西条と体育会系精神論を吐きながら石をぶつけられて涙目になっている五条院を横に
シロはなんとな〜く、この犯人がわかって目を泳がせている。

「と、とにかく一時退却だ!」
「戦略的回れ右ですわよ!!」

西条と五条院とシロ以外のGメン達はわれ先にと逃げて行く。しかし悪霊と石に阻まれ、隊列は崩れ怪我人が
続出し始めた。

「長老〜! なんとかしてください!!」

1人、静かに酒を飲んでいる長老にゴンがすがりついた。
ゴンと長老以外は全て酔っ払って石を魔球と叫んで投げている。もう長老の力に頼って収集する以外
ゴンに残された道はなかった。

すがりついたが長老はピクリとも動かない。

「………長老?」

慌てて長老を見上げるとそこにはいつもと違う笑顔の長老が座っていた。
ゴンが呆然としていると、長老はスックと立ち上がり壮絶な笑みを見せる。

「一番、人狼族が長老、遠吠えいくぞえ」

慌てて耳を押さえて地面に転がるゴンの上を長老の遠吠えが通り過ぎた。
振動が収まったので目を開けると、そこには倒れた木々、一直線にえぐれている地面、浄化された
悪霊達のカスと人狼達と人間達が呆然としてた。

「二番、人狼族が長老、遠吠えいくぞえ」

ス、と息を吸う長老にゴン以下人狼達と人間達は慌てて逃げようとするが勿論間に合うはずもない。
爆発と共に宙に投げ出され、木々が押し倒され、人狼達と人間達が地面に転がっていると、また長老の声が響いてきた。

「三番、人狼族が長老、遠吠えいくぞえ」
「「「「「もうやめてくだされぇ〜〜!!」」」」」

勿論、長老は願いを聞き届けなかった。








「西条ぉぉぉ!! 決着のときが来たぞぉぉぉ!!」

怒りマークを額に込めた横島が浄化地点にたどり着いて吼えたが勿論西条はいなかった。只今長老に
ふっとばされ中だったりする。

「すごいわね〜 辿りついちゃったわ〜 浄化地点があるから浄化しちゃいましょうか〜」

こちらは横島とは違い、服に汚れもなくのほほんと笑う冥子がお札を取り出している。
ちなみに彼女はヒールでこの練習場を訪れているのだが、そのヒールでさえも余り汚れていない。

「あそこ、なんか埋もれているわね」

腰に手を当てたタマモが指差す方向を見ると、そこにはなにかがあった。
恐る恐る近づいてみると、それは倒れたお地蔵さんだった。

「なんでお地蔵さんがこんな所に?」
「とりあえず起してあげないと〜〜」
「了解っス」

横島がお地蔵さんを立て直すと、それをマジマジと見ていたタマモがお地蔵さんの胸の辺りを指差す。

「宝玉の部分が壊れてる」
「あら〜 銃弾かしら〜〜 横島くん取れない〜〜?」
「やってみます」

棒状の物を持っていない横島は、栄光の手を発動して指でホジホジと打ち込まれた辺りをほじくり出すと
ポロリと弾が出てきた。

「出てきたわね〜 さ、後は浄化作業よ〜 横島くん〜」

横でお地蔵様の汚れをハンカチで取っていた冥子がにっこり笑うとお札を何枚か渡した。勿論失敗しても
大丈夫な数を揃えてある。

「も、文珠でやっていいっスか?」
「ダメよ〜〜」

横島としては、まだ周りで悪霊達を頑張って除霊しているGS達を思い、なるべく失敗しない方法を選択
したいのだが冥子は許してくれない。

「修行をなまけちゃ〜 ダメなんだから〜〜」
「………了解っス」

ちょっと涙にくれながら、除霊にいそしむ血まみれGS達に黙祷をささげてお地蔵様の周りにペンタグルを描き
隅にお札を置いていく。

「怨霊退散 七難即滅 七福即生 急々如律令 奉導誓願可 不成就也」

呪文が終ったのにプスリとも発動しないお札に横島は涙した。

「横島く〜〜ん 最後の『なり』の発音がいまいちだわ〜〜」
「………日本語なのに…日本語なのに…」

涙に暮れる横島が浄化作業を終了したのは、お札10枚を失敗して焼いた後だった。











「おほほほほ、何重傷ってるのよシロ? あんな下っ端悪霊しかいない除霊仕事で」

シップ臭さを撒き散らしてベッドに横たわるシロに入ってきたタマモが腰に手を当てて笑う。
それに反論しようとしたシロより前に後ろから現れた横島がタマモの頭を叩いた。

「そりゃちょっと可愛そうだろ。それにあの怪我は人狼の長老がやったって言うし」
「おほほほほ、逃げることもできない犬なんて憐れなものね」
「狼でござる!! それよりそっちは悪霊何体除霊できたでござるか?!」
「………28体」
「勝ったでござる! 拙者は54体でござるよ!! これは名誉の負傷でござる!!」
「わ、私は途中から横島のサポートに回ったから! それに私は無傷! あんたは傷だらけ! 私の勝ちよ!!」
「いいや、勝負は悪霊の除霊数でござる!」
「なによ」
「なんでござる」

う〜〜、とにらみ合ったシロとタマモを余所に、横島の後ろから現れた冥子は椅子に座るとウキウキと
荷物から見舞い品を取り出し始めていた。

「シロちゃ〜〜ん、今日は腕によりをかけてお見舞い品を作ってきたのよ〜〜」
「作って? フガ?! こ、この臭いは?!」
「フギャ?!」

冥子が何かを取り出した途端に鼻を押さえて涙目になるシロとタマモにハテナを飛ばして冥子が持っている
物を覗き込んだ。横島の目には魔法瓶にしか見えない。

「六道家スペシャル〜 霊力・体力回復〜 スペシャルスープよぉ〜〜 一度魔鈴さんに勧めたら〜
速攻お断りされちゃったんだけど〜 効果は日本一よぉ〜〜」
「…魔鈴さん、コレ飲んだっスか?」
「ううん〜〜 見ただけで口元押さえて〜〜 逃げられちゃったから〜 寝ていたにゃんこさんに〜
飲ませてあげたの〜〜」
「………」

寝ていたんじゃなくて気絶したんだろうなぁ〜と考えながら、横島も鼻をつまんだ。
冥子の手には、シロとタマモが鼻を押さえて涙目になるのがわかるモノがコップに注がれていた。
見た目も正に魔女の鍋の中身さながらの様相を呈しており、いまだにプクリ、プクリと気泡が泡立っている。
勿論炭酸ジュースではない。冥子がいったとおり「スープ」なのだから。

「中には〜 こうもりさんの目玉と〜 イモリの姿焼き〜 すっぽんの生き血にお猿さんの脳みそに〜」
「いいから! 言わんでいいからサッサとシロに飲ませてやって下さい!!」

鼻を押さえている都合上、冥子の声を抑える手は存在していない。
あまりにグロイ内容物に横島とタマモはサッサとシロの頭を拘束して上を向かせ、冥子はシロの口にスープを
注ぎ込む。シロの口を手で押さえるのとシロが目を見開いたのは同時だった。

「んん―――!! んんんん―――!!」
「飲め、飲むんだシロ! 明日に向かって!!」
「んんんん―――!!」
「ドローでいいわよ、今回のことは! アンタがそのスープをちゃんと飲みきったらね!」

じたばたするシロとそれを押さえる横島とタマモを見ながら冥子は笑って窓を開けた。
そこには青い、しばらくすれば夏を迎えるだろう青い空が広がっていた。





















〜 お ま け 〜

「どう〜〜 信義さん〜 素敵な戦いぶりじゃない〜〜」

六道幽子はにっこり笑いながら映像を一時停止にした。
そこに映されていたのは横島と冥子、タマモが悪霊達を連携して倒している場面だった。

「今までの中では最良じゃないかね? しかし、こんなのがうちの冥子の…」
「外見は〜 かっこよくないけど〜 冥子へのフォロー〜 霊力の高さ〜 戦略眼も〜 今までで最高よ〜」

にっこり笑う幽子とは逆に信義…冥子の父の瞳は涙であふれている。

「しかし、こう、なんていうか、無理強いは良くないと思うのだが」
「わかったわ〜〜 無理強いじゃなくて〜 横島くんから言わせる方向にけしかければ〜 いいのね〜」

キャーと盛り上がる幽子を前に、信義はテレビに映っている彼に、心中も黙祷を捧げるしかなかった。
彼は入り婿であり、そして何より幽子を愛していたのだから。

「近々臨海学校があったわ〜 それを使えば…キャー!」
「………くれぐれも程ほどにね」
「大丈夫よ〜〜 冥子のためですもの〜〜」

98%は趣味が入っているだろう、お前の場合。とは言えなかった信義だった。


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