椎名作品二次創作小説投稿広場


例えばそれはこんな日常

竜神様と蝶々がやってきた!


投稿者名:ちゅらうみ
投稿日時:06/ 9/29

それは美神除霊事務所のいつもの朝の出来事だった。

「ゼェ、ゼェ・・・シ、シロ頼むからもう少し人間の体を気遣ったペースを考えてくれ・・・」
「なさけないでござるよ先生!これくらい拙者にしてみれば散歩の内にも入らないでござる!」
「たかが散歩でこれ以上、死にそうな目にあってたまるか!!」

シロと横島がトライアスロンの三倍はきつかろうという散歩を終えて休憩し、

「ふぁあ・・・。まったく、いつもいつも朝からうるさいわね。おかげで落ち着いて二度寝もできないじゃない、バカ犬」
「犬じゃないもん!もう一度言ってみろ!このぐーたら女狐!!」

タマモが目をこすりながら眠たげに起きてきて、

「ちょっとあんたたちいい加減にしなさい。今日は午前中から仕事が入ってるんだから、バカなことで消耗しないで」
「まぁまぁ、美神さん。」

美神がその日の仕事の予定を確認し、そこにおキヌがコーヒーを差し入れる。
美神除霊事務所のいつもの朝である。

しかし、日常とは容易く破壊されるものである。
特に彼らのように超常の存在と関わりを持つ者たちにとって日常とは儚いガラス細工のごときもの・・・いや、そもそも日常など存在しないのかもしれない。(もっとも、それこそ彼らの日常なのかもしれないが)

ともかく、それは突然やってきた。


「ヨッコチマーーーーーーーーーー!!」

事務所に憑依している人工幽霊一号の結界を易々と突破して。

ドンガラガッシャーーーーーーーーーーン!!

陳腐な効果音でもって窓ガラスを破壊して何かが事務所内につっこんできた。

「あd;かd;ふぉあhごhlん;gはーーーーーーーーーー!?!?!?!?」

ズシャーーーーーーー!!ゴンッ!となにか水分を含んだモノが激しく擦りつけられ、引きずられるような音を響かせながら横島は紅い軌跡を残して壁に激突した。

「横島君!?」
「横島さん!?」
「横島!?」
「先生ーーー!?」

それぞれが驚きの声を上げる中、横島は赤い海に沈みぴくぴくと痙攣を起こしていた。

「こら!パピリオ!!他人様のうちに窓から飛び込んでいく子がありますか!!」

すると今度はその窓から誰かが怒鳴りながら入ってきた。・・・自分が同じことをしているのに気づいてないよこのひと。
その姿を見て思わず美神は叫んでしまった。

「小竜姫!?」
「小竜姫さま!相変わらずお美しい!!さあ、二人で一緒に人と神様の禁断の愛を育みましょう!大丈夫!僕たち二人ならどんな障害も乗り越えていけるさ!!」


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


「なるほど?あの猿の口利きで外出許可が出たと・・・」
「ええ、この子がどうしても横島さんに会いに行きたいと言って聞かないものですから。人界の知り合いに会いに行くぐらいならと・・・」

場面は変わって美神と小竜姫が向かい合って腰を下ろしている。
小竜姫が現れると同時に復活した横島は小竜姫に詰めより、お約束通り肉塊に変えられて美神の後ろでヒーリングを受けていた。
あ、パピリオ、つんつんしちゃダメだってば。

「横島さん!しっかりしてください!」
「先生!しっかりするでござる!」


その間に美神が小竜姫に聞いたところによると、どうやらパピリオのことを孫娘のごとく(もしくはゲーム仲間として)かわいがっている老師が、人界に降りたいと駄々をこねる彼女のために天界に彼女の外出許可を申請して、月に一度の外出が保護者同伴で認められたとのことだった。(もっとも、パピリオに新作ゲームを購入してきてもらおうという魂胆もあったようだが)

「でもいいの?管理人の仕事は」
「あ、それは大丈夫です。妙神山にはワルキューレがいますから。私の留守の間は、彼女が私に代わって管理人の仕事をしてくれます」

なんでもあの事件以来、妙神山は三界をつなぐ中継地点として魔界からも魔族の連絡員としてワルキューレが派遣されてきたらしい。

「そんなことよりもヨコチマ!デジャブーランドっていうのに行くでちゅよ!!」
「へ?」

ようやく復活して、まだよく状況が分かっていない横島の手を待ちきれないとばかりに引くパピリオ。

「ごめんなさい、横島さん。どうやらこの子もテレビで見たデジャブーランドに夢中になってしまったようで」

『も』というのは天竜皇子のことだろう。
もっとも、前回はデジャブーランドどころの騒ぎではなくなってしまったが。

「えーとな、パピリオ。連れて行ってやりたいのは山々なんだが・・・」

ここで横島はちらっと美神のほうをうかがう。すると彼女はそっぽをむいて少々ぶっきらぼうにこういった。

「いいんじゃない?連れて行ってあげれば?」
「いーんすか?」
「別にかまわないわよ、今日の仕事はあんた抜きでも十分こなせるものばっかりだし。それにわざわざ人界に降りてきたパピリオをむげに扱うわけにも行かないでしょ!」

パピリオが横島にとって妹のような特別な存在であることを美神はよく理解していた。

「ありがとうございます!美神さん!」
「あ、拙者も拙者も!先生と一緒にデジャブーランドにいきたいでござる!!」
「それなら私も久しぶりに行きたいかも!」
「あんた達はダメ!!」

案の定、すぐにデジャブーランドに行きたがった二人に美神は即却下を言い渡した。

「「どうして(よ)(でござるか)!!」」
「あんた達までいなくなったら仕事がきつくなるでしょーが!!」

こうして横島、パピリオ、小竜姫の三人はデジャブーランドに行くことと相成った。

「・・・私も行きたかったな」
「お、おキヌちゃん?」


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


「キャーーーーーーーーーーーー!!」
「いやあーーーーーーーーーーー!?」
「のわーーーーーーーーーーー!!?」

所変わってここはデジャブーランド。
横島、パピリオ、小竜姫の三人は「日本一」が売り文句のジェットコースターに乗っていた。
・・・何が日本一なのかわからんが。

「いやー!おもちろかったでちゅねーー!!ゲームといいデジャブーランドといい、人間って何でこんなにおもちろいものを思いつくでちゅかね〜!!」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・そ、それよりパピリオ。ちょ、ちょっと休憩を・・・」
「う、うう?たかが遊園地の乗り物に何故にあそこまでする必要があるっちゅーんじゃ・・」

約一名を除いて早くもグロッキーな二人。
それというのも、ここに入ってからすでに何度もいまのジェットコースターに乗っているのだ。
保護者二名はまさに「日本一」たるゆえんを嫌と言うほど味わっていた。

「二人とも情けないでちゅねー。ちょっとはパピリオを見習ってほしいでちゅ」

やはり人間、魔族、神族に関係なくこういった場所では子供の方が元気が出るようだ。
とにかく、やはり横島と小竜姫の二人は少々お疲れ気味。
パピリオは二人に少しは気を利かせるのも淑女の振る舞いと考えた。

「しょうがないでちゅね〜!何か飲み物でも買ってくるでちゅから二人はちょっと休んでるでちゅ!」

そういって二人を残して飲み物を買いにどこかにいってしまう。

「・・・ふぅ」
「疲れました?」

思わずため息が出てしまった小竜姫を気遣う横島。

「ええ、恥ずかしながら。こんなことで疲れてしまうなんて、まだまだ精進が足りませんね」
「そんな、おおげさっすよ。こういうところで使う体力ってのは俺たちが普段使ってるもんとは別ものなんすから!」

生真面目な小竜姫の言葉に横島は子供の体力の不思議についていささかオーバーに語った。

「でも意外っすね、小竜姫さまって神通力で飛べたりするじゃないッすか。それなのにあーゆーのダメなんすか?」
「そ、それは!・・・は、初めて乗る乗り物ですから。そ、それに!自分の意志で飛ぶのとでは全然違います!////」

からかうように言った横島に顔を赤くして必死に弁明する小竜姫。
初めて経験する感覚に取り乱してしまったことが、よほど恥ずかしかったらしい。

「最近、パピリオの様子どうっすか?」
「ええ、とっても元気ですよ。天竜皇子が遊びに来たときなどは手のつけようがありません。」

どうやら妙神山では老師という遊び相手がいるとはいえ、まだ幼いパピリオにとって最も気兼ねなく遊べる相手が天竜皇子であるらしく、たまに彼が遊びに来ると二人そろって騒動を起こして小竜姫やワルキューレ達の手を焼かせているらしい。

「そうすか、よかった」

それを聞いて横島は心底ほっとしたようだった。

「安心しましたか?」
「ええ、なんせパピリオはあいつの・・・」

「俺の大事な妹みたいなもんすからね!」

一瞬言葉に詰まったあと早口で言い直す横島。
その顔は笑ってはいたがどこか悲しそうな顔だった。

「横島さん・・・」

その表情をみた小竜姫の顔にもかげりが生じる。
あのときのことは彼女の心にも少なからず陰を落としていた。
神族として彼の力になれなかったこと、彼に霊能力を与えたものとして、その力を鍛えたものとして何の力にもなれなかったこと。
彼に力を与えておきながら彼のもっともつらいときに何もできなかった自分がふがいなかった。

「ごめんなさい・・・」

すっかり表情を暗くさせてしまった小竜姫を見て、横島はあせって声をあげた

「や、やだなー!小竜姫さま!そんな顔しないでくださいよ!!」
「でも、私は・・・」
「そりゃ、あいつのこと思い出すのがつらいときがあるのも本当っすけど!!」

なおも謝罪の言葉を述べようとする小竜姫の言葉を遮って横島は叫んだ。

「でも、あいつとの思い出の中には少なくても良いこともたくさんあったすから。」

そんな思い出まで悲しみで潰してしまいたくないのだと横島は言う。
屈託のない優しい微笑みで。

「横島さん・・・//」

その見るものの心を温かくする横島の笑顔に図らずも頬を染める小竜姫。

「や、あ、あれ?な、何言ってんすかね俺?!////」

ふと正気に戻った横島はそんな表情を一転させて恥ずかしそうに顔を赤くする。
こんなの俺のキャラじゃねー!と頭を抱えている横島を小竜姫はくすくすと微笑みながら見つめていた。

「ヨコチマーーー!小竜姫ーーー!飲み物かってきたでちゅよーーーー!!」


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


「くー・・・くー・・・」

傾いた日がアスファルトの無機質な地面に並んで歩いている二人の影を徐々に長くし始めた。

「ごめんなさい、横島さん。重くないですか?」
「はは、これくらいどうってことないっすよ!いっつも必要以上に重い荷物しょってますから!」

すっかり遊び疲れて寝てしまったパピリオを担いだ横島が揺らさないように気おつけながら笑う。
パピリオはデジャブーランドを出る直前まではしゃいでいたが、外に出たとたん眠たげに目をこすり始めて横島におぶさっていた。

「そうですか?・・・不思議ですね。ついさっきまであんなにはしゃいでいたのに」
「俺も経験ありますよ。外で遊んだ帰りはいっつも親父かお袋におぶされてました」

で、やたらとその背中が広くて頼もしかったんすよ。と懐かしむようにして横島は語った。

「ふふ、今の横島さんだって十分頼もしいですよ」
「そ、そうっすか?」

微笑みながら本心からそう言った小竜姫に横島は照れくさそうに笑う。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

しばらく何も話すことなく歩いていた二人だったがその沈黙は重苦しくはなかった。
そして橋の上を通りかかった時、不意に横島が立ち止まった。

「・・・知ってますか、小竜姫さま?夕焼けがどうしてこんなにきれいなのか」
「え?」

突然の横島の言葉に小竜姫は首を傾けた。

「前にあいつに聞いた受け売りなんすけどね。昼と夜の一瞬の隙間、短い時間しか見られないから・・・」

きれい・・・。
最後は小さな呟きとなっていたが小竜姫には確かに聞こえた。

「・・・彼女は・・・きれいでしたか?」
「ええ、誰よりも・・・」

それは愚問だっただろう。それでも、そうと知りながらも小竜姫は聞かずにはいられなかった。
きっと彼の中で何度も何度も自問自答していたに違いない。
言葉に出さなくてもそれが伝わってくるほど横島の返事はよどみなく、はっきりとしていた。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

二人はそのまま日が沈みきるまで並んで夕日を眺めていた。
二人の沈黙の間には悲しみはなく、ただ夏の終わりを感じさせる空気だけが穏やかに満ちている。

「くちゅん!」
「きゃっ!?」
「おっ?」

不意に横島の背中で眠るパピリオがくしゃみをして二人はようやくあたりが薄暗くなり始めたことに気がついた。
橋に取り付けられた街灯が短く点滅してから煌々と照りはじめる。

「ふふ、急がないといけませんね?」
「そうっすね。パピリオが風邪ひく前に」

それに遅くなると美神さんに何いわれるか、と横島は身震いしてから小竜姫と並んで歩き出した。


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


「それじゃあ、皆さん。お世話になりました」

すっかりあたりが暗くなった頃ようやく事務所についた三人は事務所のメンバーと夕食を共にした。
そしてこれから横島の文珠によって妙神山に【転】【移】しようとしている。

「う〜。ヨコチマ!約束、ちゃんと守るでちゅよ!」
「ああ、わかってるよ」

食事が終わりシロやタマモと遊んでいたパピリオは、夜も遅くなってそろそろ帰ろうかという段になって、まだ帰りたくないと駄々をこねて一同を大いに悩ませたが、横島の

「近いうちに今度は俺の方から妙神山に遊びに行くから」

という言葉でようやくおとなしくなった。

「横島さん」
「はい?」

いよいよお別れというところで小竜姫が横島を呼ぶ。
いぶかしむ横島に一歩近づいた小竜姫は少し背伸びをして・・・

ちゅ!

横島の頬にキスをした。
同時に部屋の空気がピキッ!と音を立てて凍結する。

「な、ななな?!?!?!?!////////」
「ふふふ、とっても頼りがいのある優しいお兄さんにご褒美ですv」

と小竜姫は茶目っ気たっぷりに微笑んでみせた。

「しょーりゅーきさまーーーーーーー!!ぼかあ、ぼかあもおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!!!」

ドゴンッ!!

目を血走らせて本家も真っ青のル○ンダイブを決める横島だがあえなく小竜姫に撃墜される。

「な、なぜに?」
「続きは横島さんがもう少し雰囲気を読めるようになったら考えてあげます」

それじゃあ、またお会いするのを楽しみにしてますねと言い残して小竜姫とパピリオは帰ってしまった。

「そんなあああぁぁぁぁ!!そりゃないっすよ小竜姫さま!!せめて俺を男にしていってからああぁぁぁーーー!!!」
「あら、なら私がしてあげましょうか?」
「マジッすか?!」

ガバッ!と横島が振り返ったそこには美神とおキヌとシロがとてもいい笑顔でたたずんでいる。

「ええ、ただしあんたがなるのは屍だけどね!!!!」
「いーーーーーやーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

熱い夏が通り過ぎ、秋の訪れを感じさせる風が穏やかに吹く夜。
月の光が夜の静寂を寂しげにけれど、どこか暖かく照らしていた。

「しょーーーりゅーーーきさまーーーーー!!カンッバーーーーーーーーーークッ!!!!」
「まだ言うかおのれは!!!!」


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・








終幕








・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


追記〜後日妙神山〜

「ん?どうした小竜姫。やけにご機嫌だな」
「あら、ワルキューレ。ふふ、そう見える?」
「ああ。何かあったのか?」
「うふふ。ヒミツですv」


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